ある日のテレビ放送

水中を、光を受けながら泳ぐ海洋生物の映像が映し出され、柔らかい印象の女性のナレーションが始まる。
「大部分を海に覆われた惑星マグメルには、多様な海洋生物が存在します。 水面の観察用に改装された遊覧船で、青色の未知の世界へご案内します。 ローレライ観光客船、第12ヘイブン『レモンシフォン』でお待ちしています。」

スーツを着た男性が一礼した後、話し始める。男性の声は、はっきりとして明るい口調だが、どこか無機質だ。
「中央統治局より、お知らせです。第3ヘイブン『コーラル』と、第2ヘイブン『ブランシュダルモンド』を結ぶ 新規交通システムの愛称を募集しています。詳細はこの画面をお手元の携帯端末にスキャンいただくか、 お近くの支局までお尋ねください。ご応募お待ちしております。中央統治局でした。」

画面が暗転し、物静かな声と同時に「―『イフ』やめてみませんか?―」という文言が表示される。
数秒後、画面は一人称で(視線の主である)ロボットのような手を見つめる画面に移り変わり、以降、一人称視点の様々なゲームの画面が順々に映し出される。ナレーションは打って変わって力強くなり、BGMもロック調の激しいものになる。
「『イフ』に生まれたこの人生*1。一度くらいやめてみよう!最新VRアトラクション"THIRD LIFE"以下のお店で絶賛稼働中!」

NEWSと大きく表示され、画面はキャスターの男女がいるスタジオに切り替わる。両者は挨拶をした後、最初のニュースを読み上げる。
「大陸での居住地の整備を目指す『再臨作戦』が開始されてから、今日で10年目になりました。
「ヘイブン内の人口増加に伴う資源や土地の不足の解消を目的とし、統治軍が主導して取り組んでいる、ヘイブン外の大陸の開拓作戦、通称『再臨作戦』が10年目を迎えるにあたり、作戦司令部は『開拓拠点となるフロンティアの整備はおおよそ完了し、今年は初めて民間人の試験的な居住を実施するに至った。次の10年にかけて、本格的に移住を促進したい。』という声明を発表しました。」
「また、初の移住者をのせ、先週第7ヘイブン『ゴーストホワイト』を出発した船は間もなくフロンティアに到着し、数時間後にセレモニーが行われる予定です。」
「一方で、司令部や統治局は正式な統計を発表していませんが、個別の発表や確度の高い情報を集計しただけでも、この10年で150名以上が作戦中の事故により死亡しています。その原因の60%以上が、現地の原生生物によるものです。」
「現地の生物の研究者らからは、原生生物の危険性を危惧する提言が発表されるなど、移住の促進には課題も―――

画面が突如暗転した。部屋を見渡すとバッテリーがあるものを除き、他の電子機器も動作をしていない。
直後、手元の携帯端末に通知が届く。
第8統治局より:電力制限のお知らせ 発電ユニットの一部故障が発生し、供給力の低下により、一部地域で完全停電が発生しました。 最低限度の送電を確保するため、第8ヘイブン西部にて電力の制限を実施します。 詳細は以下のページをご覧ください。
今月に入って、3度目の電力制限だった。

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