極めて容赦のない描写がメインになりますので、耐性のない方、および好きなキャラが残酷な目に遭うのがつらい方はご遠慮ください。

166 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2009/06/10(水) 16:17:39 ID:gfWHZOUy [1/8]
こんにちは。
ここ最近悪を懲らしめていた者です。
他の方のSSが途中なところ申し訳ありませんが、9レスほどのSS投下させてください。
今回は、悪を懲らしめるのでなく、少女が生け贄になるお話です。
では『おみあげ』投下します。


『おみあげ』



 今日は72年に1度の御巳上祭(おみあげさい)。
 特別な条件で選ばれた巫女が、神様に直接お目通りして村の繁栄をお願いする日。
 その巫女になるには特別な条件とは――巳年巳月の第一巳の日に生まれた双子の女である事。
 そして、その条件を満たしたのが、この私、巳月(みつき)と巳日(みのひ)なのです。
 名前が安直だと思うかもしれないけど、村でこの名前が使えるのは巫女の資格のある者だけ。
 つまりこの名前は結構由緒ある名前なのです。
 生まれた時から運命付けられ、今日この日が来るまで色々な準備をしてきて、ついにその全てが実を結ぶのかと思うと胸がドキドキして来る。
 そんな私たちの晴れの大舞台。
 その過酷な一日は日付の代わった合図の太鼓の「ドォン、ドォン」という大きな音と共に始まった。
 私が白装束に着替えていると、
「姉さん早くぅ」
 既に着替え終わった巳日が私を急かしてくる。
 そんな巳日は寝起きがめっぽう強い。かく言う私は……。
「そんなに慌てなくても滝は逃げないわよ……あーあ」
 私があくびをしながらもそもそ着替えを続けていると、『ボクッ』と頭に何かが当って私は引きっ放しの布団の上にうつ伏せに倒れた。
 どうやら焦れた巳日が後ろから枕を投げたみたい。
「姉さん、そんなんで大事なお祭り大丈夫なの?」
 人を張り倒しておいてよく言うと思いませんか?
「あ、な、た、は……、どうしてそんなに乱暴なのっ!」
「あはははは。姉さん、そんな投げ方じゃいつまでたっても当んないよ――じゃ、先に行ってるからねー」
 本当に馬の尻尾のようにつやつやで長いポニーテールを揺らしながら、巳日が廊下の向こうに逃げて行く姿を見送ると、私は一つ大きな溜息をついた。
 もうすぐ12歳の誕生日が来るはずだった私たちは今日のお祭りで神様にこの身を捧げる。
 神様に会うと言う事はそういう事。
 そうしたらもう、こうして枕投げなんかも二度と出来なくなるなぁ。
 覚悟は出来ているので今更逃げたいとも思わないが物悲しい気持ちになるのは隠せない。
 そんな事を考えているとふとある話を思い出した。
 それは私たちが生まれた時の事。
 当時、お父さんとお母さんはこのお祭りに私たちが巫女として参加するのに猛反対したそうです。
 結局は村人全員の説得により私たちがお祭りに参加することは決まったのだけど、お父さんとお母さんはやっぱりそんな村のしきたりが納得できなくて村を出て行ってしまった。
 今は何処にいるかも判らないお父さんとお母さんは元気にしているのだろうか?
 村を出て行くくらいにこのお祭りに反対していたのだから、今日村に来る事なんて無いだろうけど、もし来てくれたらうれしいと思う。
 私たちにはお父さん、お母さんの記憶は無いけれど、それでも最後くらい顔を見たい。
「姉さーん! ホント何やってんの!? 置いてちゃうわよー!」
「はいはい! 今行くからちょっと待ってよ!」
 私はそう返事をすると布団を畳んで足早に部屋を出て行く。
 廊下に出てまっすぐ走ってゆくと、広い土間の所で巳日が足踏みしていた。
「姉さん! 寒いんだから早くしてよねっ!」
「ごめんごめん」
 私はそう謝りながら、巳日の両手を自分の手で包み込んだ。
「あったかい……」
 この子は私に比べると少し寒がりだ。
 とは言え1月のこの地方の雪は深い。つまりそれだけ寒いと言う事。
 白装束の下は裸の私たちはこれから禊(みそぎ)の為の滝行(たきぎょう)を行うのだけど――。
「滝の水が全部お湯だったいいのに」
 いつの間にか頬擦りまで始めた巳日に私は、
「ま、凍ってない事だけは祈りたいわね。お祭りの前にショック死じゃ私たちも村の人たちも不幸だもの」
「夢が無いなあぁ姉さんは」
 巳日がチラリとこちらに視線を送る。
 その後どちらとも無く笑い出して、2人で一頻り笑った後、私と巳日は手を繋いで雪の降る外へと駆け出していった。




〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 結論から言うと、滝行『は』寒くなかった。
 『は』を強調したのは、滝の水はむしろ温かく感じたのだけれど、それ以外が寒かった!!
 暫くして雪はすぐに止んだのだけど、とにかく寒い寒い。
 白装束1枚の私たちには肌を切り刻まれるかのような感覚さえした。
 お陰で滝から中々出られず、元いたお社に返った頃には随分と時間が立っていた。
 それにしても滝の水が温かく感じるだなんて不思議な事もあるものだ。
 毎年あそこは滝も池もカチカチに凍るので、冬はスケート場に早代わりするくらいなのに。
 これも神様のお力なのだろうか?
 ま、それは置いとくとして。
 戻った私と巳日は、用意してあったお風呂に入ってかじかんだ体を温めると、少し休憩した後、次の段取り、食事を取る事に。
 しかし、食事の内容は赤飯と白湯とおとそと言う不思議な組み合わせ。
「最後の食事なんだからお肉とか食べたかったよね」
 巳日がこっそり耳打ちしたが、私も実はそう思った。
 ここ1ヶ月ほど肉魚は一切口にしてい無い。
 巳日じゃないけど、最後なんだからステーキとは言わないまでも、すき焼きかしゃぶしゃぶが食べたかった。
 そうして最後の食事が終ると、また少しの休憩の後、今度は神様にお目通りする為に身支度を整える作業に入る事に。
 私と巳日は裸になると、お互いの体をお塩を溶かしたぬるま湯に浸したワラでゴシゴシ擦りあいます。
「姉さん! ちょっと加減してよ」
「何言ってんのよ巳日。お清めなんだからちゃんとしなきゃダメでしょ」
 文句を言う巳日の体をワラでゴシゴシ擦ると、真っ白な肌が赤くなってゆく。
 白い肌は私も同じなんだけど、いつ見ても巳日の方が肌が綺麗な気が――。
「きゃ!?」
「ふっふっふっ。攻守交たぁーい」
「巳日止めてっ!? そこは自分で出来――」
 ま、そんなこんなでお互いの体が清められた所で、今度はちょっとやな事をしなくちゃいけない。
「うーん……」
「姉さん、いつまで眺めてるつもり?」
 出来ればこれが無くなるまで見つめていたいっ……。
 私が今見つめている茶色いドロッとした物は『にかわ』。
 動物の皮や骨等を原料とした天然自然の接着剤。
 で、これをどうするのかと言うと――。
「ひぁ!?」
「姉さん変な声出さなッ!? し、沁みる、ぅぅ……」
 オシッコの穴とお尻の穴に塗りつけるのだ。
 何でも神様の祭壇の上で粗相をしないようにと言う事らしいのだけれど……。
 とにかく、そうして苦労して準備を終えた私たちはやっとここで巫女装束に袖を通す。
「綺麗だよ、姉さん」
「巳日に言われてもときめかないわぁ……」
「姉さんにときめかれても困るなぁ私ぃ」
 お互いに身だしなみを整えあいながらそんな馬鹿な事を言い合ったりして。
 私は後で使う道具として、縄数本と特製軟膏の入った容器を懐に納めた。
 そして仕度が終った私と巳日は、沢山の鈴がついた道具を帯に挟むと仕度部屋から別の部屋に移動した。
 そこは広くて一番奥には立派な神棚が用意されている。
 私と巳日はその広い部屋の両側に離れるように立つと帯に挿していた鈴を手に持った。
 両手を左右に大きく広げると、鈴を鳴らしながら神様に捧げる舞いを舞う。
 シャン、シャン、と涼しげな音と共にくるくると舞う。
 磨かれた板の間を滑るように移動し、時折お互いの位置を入れ替えながら、くるり、くるり、と舞うと袖が蝶の羽根のようにひらひらと羽ばたく。
 そうして舞いながら思うのはお祭りの事。
 無事に終りますように神様よろしくお願いします、と私はそう心の中で願いながら舞い続けた。




〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 神様に捧げる舞いが終った私たちは外に出るとすぐに祭壇のある山に入った。
 この山は木々が非常に密集していて自然の傘のように地面を覆っている。
 その為、地面まで届く雪は少なく、届いてもすぐに溶けてしまうので山に入ってしまえば雪に邪魔されるような事は無い。
 その代わり――。
「暗いわね」
「山に入ってすぐこれだもんね。無事祭壇まで着けるかしら?」
 木漏れ日も差さない暗い森の中を、古めかしい行灯を片手に私たちは手を繋いで歩く。
 足を一歩踏み出すたびに帯に挿してある鈴が涼しげな音色を立てた。
「そう言えば、みんな来てくれてたね」
「みんなって言ってもうちの村50人も居ないじゃん。しかもおじいちゃんとおばあちゃんばっかり」
「だからさ。昨日から雪降ってたから大丈夫かなあなんて」
「来るでしょ。それだけが楽しみな人たちだから」
 巳日の言うようにうちの村には老人しかいない。
 若い人たちはお父さんやお母さんのようにみんな村を出てしまっていた。
 だから村には友達と呼べるような同年代の子供もいなかった。
 ただ、代わり、と言っては何だけど、村のみんなは私たちにとっても優しかった。
 お父さんとお母さんがいなくなって身寄りの無くなった私たちは村のみんなに育てられた。
 ま、そんな事は置いといて、取り止めの無い話で気を紛らわせながら山を登っていた私たち。
 もうどれくらい登ってきたのだろうか?
 普段から足腰には自身があるので特に苦にもならないが、寒いのだけはどうにもならない。
 特に寒いのが苦手な巳日が、さっきからずっとぴったりくっついて離れない。
 寒いのはかわいそうだから放っておいてある。
 繋いだ手の先からでも十分にお互いを感じて安心出来てると思っていたけど、こうしてくっつくと、こっちの方がずっと安心する。
 ただちょっと歩きにくいのが難点だけど……。
 そんな感じで歩いていると巳日が急に立ち止まった。
「重いじゃない、急に――」
「姉さん、あれ……」
 私の言葉を遮るように巳日が前方を指差した。
「明かり……」
 私の呟きが合図となり、私も巳日もそこに向かって猛然と歩き出す。
 そして気が付けば私たちは――。
「姉さん……」
「たどり着いたわ。ここがきっと御巳上台(おみあげだい)よ」
 大きな木々の間に、ここだけがぽっかりと広場になっていた。
 そこに立つ大きな黒い石造りの建物。
 四角いそれには何処にも入口は何処にも無い。
 あるのは建物の上へと続く一直線の階段だけ。
 全てが聞いていたものと一致する。
 これが御巳上台と呼ばれる村を守る神様の祭壇だ。
 私と巳日はお互いに見つめあうと無言でうなづきあった。
 それから、今まで履いて来た長靴と足袋を脱ぐと裸足になる。
 素足で触れる地面が暖かい事に驚く。
 他にも、山の中なのに何故ここだけ明るいのだろうとか、この大きな建物は誰が作ったのだろうとか色々疑問に思ったけど、それらは全部考えないことにした。
 そして、私と巳日は手を取り合うと階段をゆっくりと上り始めた。




〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 長い階段を上り終えると、そこは一面まっ平だった。
 建物と同じ黒一色の石の床が広がっている。
「はぁ、はぁ。やっと着いた」
「すごい上ったのね」
 私と巳日はそれぞれに感想を述べる。
 それからすぐに辺りを見回した私たちの目にあるものが飛び込んで来ると、私と巳日は休むのもそこそこにして、すぐにそれに向かって歩き出した。
 それは、この四角く黒い床のほぼ中心と思われる場所にあった。
 一つは天に向かってまっすぐと起立した棒状のもの。
 もうひとつは、先ほどの棒状のものが床と平行な位置で2本、お互い向かい合うような格好で四角い台座から突き出ていた。
 棒状のものはみな青みがかった黒く滑らかな表面に複雑な溝と無数の穴が空いていて、先端に行くほど細く尖っている。
 唯一形状が違うのが向かい合った方の一方。
 それだけ先端にくぼみが付いていて、丁度向かい合ったもう片方の先端がすっぽりと納まりそうな感じがした。
 これも聞いたとおりの形をしている――これが御神体だ。
 私たちを神様の下に導いてくれるもの。
 私たちを殺すもの。
 どちらとも無く生唾を飲み込もうとして、喉が使えて2人同時に咳き込んでしまった。
 気がついたら喉がカラカラだ。
 しかし、生憎ここには井戸も無ければ水筒も無い。
 私と巳日は必死に唾液を搾って喉を潤す。
 そして、
「巳日、もういい?」
 私がそう言うと巳日は、
「姉さんこそ」
 と悪戯っぽく笑い返して来た。
 これから自分がどうなるか知っているのに、まだこんな顔が出来る巳日ってすごいと思った。
 巳日は強いね。
 本当に私の妹にしておくのは勿体無い。
 神様に会ったらそのところも是非お願いしてみよう。
 巳日が相応しい場所に立てますようにって。
「姉さん。私何かおかしいこと言った?」
「ふふふ。何でもないの。ごめんね」
 すると巳日は何かを察して少し悲しい顔をした。
 私とそっくりなんてとんでもない。
 私より気配りが出来て、ずっとかわいい、心優しい巳日……。
 私はそんな思いを振り払うように、御神体に目を向けると、
「じゃ、そろそろ始めましょうか」
 そう言いながら腰に挿していた鈴を御神体の一つ、2本が向かい合った方に置いた。
「姉さん! そっちは私だって言ったじゃない!」
 私の行動に巳日が非難の声をあげる。
 私はそれを聞き流すと、懐に仕舞ってあった道具を取り出して鈴の隣に並べた。
「姉さん聞いてる! そっちのが辛いんだから! 失敗できないんだからねっ!」
 相変わらずうるさい妹だ。
 私がそんな事を思いながら帯を解いて胸をはだけようとした所で、後ろから思いっきりタックルされた。
「ぐふっ!?」
 倒れることは何とか踏みとどまったけど、流石にむかっ腹が立った私は身をよじって腰にすがり付いている巳日を見下ろし――。
「巳日、何泣いてんのよ」
 この泣き虫は自分の思い通りにならないとこうして泣く。
「だって……、姉さんが……、姉さんが……」
 言葉になって無い。
 こんな時双子って便利だと思う。
 私は体を捻って自分の前に巳日が来るようにしてから、その頭をぎゅっと胸に抱いた。


「お姉ちゃんはあんたよりずっと強いんだから。今日も大丈夫、明日も大丈夫、ずっとずっと大丈夫だから」
 そう言って、巳日が泣き止むまで抱きしめるのが私の役目。
 これで最後かと思うとちょっぴり寂しい気がするのは、何だか結婚する娘を送り出すみたいだ。
 私ってずうずうしいなあと思って、何となく笑いがこぼれてしまった。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


「さっきはごめんね」
 巳日が巫女の衣装を綺麗に畳みながらそう言って来た。
「んーん、全然平気ぃ」
 私は本当に何でも無いようにそう言う。
 だって本当にこんな事、全然何でもないから。
 巳日が巫女の衣装を畳み終えて立ち上がると、私と巳日は向かい合って無言で頷きあう。
 今2人は何も身に付けていない。
 そしてこのまま神様の許に向かう儀式に入るのだ。
「まずは巳日から」
「はい」
 私の呼びかけに巳日は目を伏せて厳かに返事を返す。
 それを合図に、私は持ってきた道具から軟膏の入った容器から少し軟膏を手に取ると、まずは御神体のひとつ、天を向いて起立する方に満遍なく塗りつけた。
 塗っている間に手が少し火照って来るのが判る。
 御神体に塗り終わったら、次は巳日の大事な部分にも塗りつける。
「何か赤ちゃんになったみたい」
 巳日は真っ赤になってそんな事を言う。
 そんな巳日の一番秘密の部分、今から御神体を受け入れる部分に指を触れると、巳日が「あっ」と小さく声を漏らした。
 沁みたのだろうか?
 でも良く塗っておかないと後で苦しい思いをするのは巳日だ。
「我慢してね」
「う……んっ」
 巳日の返事を聞いた私は、たっぷりと軟膏を手に取ると巳日に塗りつけた。
「ぁ……、ぅん。っ……、くふっ……」
 苦しそうな声を上げる巳日がかわいそうだが、私は心を鬼にして熱心に塗りつけた。
 気が付いた時には、私の手も巳日の下半身も軟膏でべたべたになっていた。
「ん……ぁ、ね、姉さん塗りすぎ……」
「ご、ごめんね。つい……」
 荒い息で文句を言う巳日に、私はばつが悪そうに謝った。
 とにかく巳日の準備がこれで整った。
 私と巳日は御神体の前に立つと、胸の前で手を組んで小さく神様への祈りの言葉を捧げる。
 軟膏のせいで艶を増した御神体の高さは、巳日のへその位置より少し下にある。
 巳日は深呼吸を2度繰り返した後、
「我、神の御前に、恐み恐みも白す」
 そう言うと私の肩に両手をかけた。
 そして手の力を使って体を浮かすと一気に御神体をその身に沈めた。
『グチッ』
 私の耳にそんな音が確かに聞こえた。
「く……か……」
 苦しそうな声と共に、巳日指が私の肩に食い込む。
 巳日は、暫く下を向いて震えたいたが、呼吸を整えると私の目をじっと見つめると、
「姉さん……お介添えを……」
 『お介添え』――それは本来、結婚式のお手伝いをする事を指す。
 つまり、ここで言うお介添えとは儀式の手伝いをすると言う事を指すのだけど。


「巳日……」
 私は正直戸惑っていた。
 それは、お介添えをすると言う事は、私が妹の命を奪うと言う事になるからだ。
「お願い……。姉さんお願い……。苦しくて……も、動けない……」
 きっと御神体がお腹を押し上げているのでしょう。
 私はそっと巳日を抱きしめた。
 そして震える巳日の背中を2度、3度と優しく撫であげた。
「じゃ、いくわよ」
 巳日が頷くのを確認した私は、巳日の肩に手を置くとぐっと下に向かって体重をかけた。
「くっ! ぐぅぅぅうううううううううぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……」
 目の前の巳日の食いしばった歯の間から、彼女らしからぬ悲鳴が上がる。
 今、御神体はゆっくりと巳日の赤ちゃんの部屋を貫いて、その先に行こうとしている筈だ。
 私は巳日の悲鳴を無視して更に力を加えた。
 すると、
「ギャン!!」
 犬のような悲鳴を上げた巳日の腰が一気に落ちた。
「痛いぃ……、お腹痛いよぉ……、お姉ちゃぁん、お腹痛いよぉ……」
 私の胸に顔を埋めて小さな声でそう呟く巳日を見ているとかわいそうな気持ちで一杯になる。
 私は儀式を終らせて楽にしてあげる為に、巳日の体をゆっくりと揺すった。
「ぎっ! あぎっ!? おながっ! かぎっ! まがうぉ!」
 耳に届く悲鳴と水音を無視して動作を続ける。
 こうする事で心臓や大事な血管なんかを傷つけないように御神体を体に通せるらしい。
 私は暴れる巳日を押さえながら、ゆっくりと腰を落として行く。
「うぼぇ!!」
 何かの手ごたえと共に巳日が奇妙な叫び声をあげた。
 私はあわてて巳日の胸の辺りを手で探る。
「心臓は平気ね……。おうかくまく? ここも無事抜けたみたい……」
 巳日の体を揺すりながら胸の中心を探ると、微かに御神体が入っている固い感触がする。
 と言う事は多分、胃を避けて食道に当ったのだろう。
 何も吐いていないところからも多分そうだと思う。
 私は、上を向いて焦点の合わない目を大きく見開いた巳日の耳元に唇を近づけて、
「巳日、鼻で息をするのよ」
 そう囁くと、再び巳日の肩に体重をかけた。
「あがががががががががががががががががががが……」
 獣のような叫びを上げる巳日は、驚くほどの力で抵抗する。
 私は、立ち上がろうとするに全体重をかけて一気に押し返した。
「うぐぇ!! ぼびぁぁぁ!!」
 巳日の口から音としか言えない凄まじい叫びが上がると共に口と鼻から血が漏れた。
「ね……びぁ……ぐる……じ……」
 巳日がそうあえぐ間も鼻と口からは、ぷちゅ、ぷちゅっと血が溢れる。
 私は巳日が窒息してしまわないように、巳日の鼻に口を付けるとそこからの血を吸い出した。
 口の中に巳日の血の味が広がる。
 自分の血の味とは違う気がする――これが巳日の命の味?
 そして私は、巳日の生きている証を感じているうちに、自分でも知らない間に泣いていた。
 私は、頬を伝う涙を手で拭うと、
「巳日、もう少しで終わりだから、我慢して」
 すると巳日は微かに頷いたように見えた。
 私はそう自分に言い聞かせると、巳日の肩にまた体重をかける。
 すると、巳日の喉元が下から徐々に膨らんでゆく。
「ごぽごぽごぽごぽごぽごぽごぽごぽごぽごぽ……」
 もう人の声でも何でも無い音と共に巳日の口からどんどんと血が零れる。
 その血の中に何かきらりと見えた瞬間、
「ごぽっ!!」
 一際血が溢れて、巳日の口から御神体の頭が姿を現した。



 私は、慌ててもう一度巳日の胸に、今度は耳を当てる。
「動いてる……」
 先程より小さいながら、しっかりと心臓は脈を打っている。
 成功した! 無事、巳日はお役目を果たしたんだ。
 それが判った瞬間、私は御神体に串刺しにされぐったりとした巳日を抱きしめて泣いた。
 まだ暖かい巳日。
 微かに呼吸する巳日。
 それら巳日がまだ生きている証を感じようとすがり付いた。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね……」
 最後くらい優しくしてあげれば良かった。
 最後まで苦しめてしまった。
 そういう気持ちが謝罪の言葉となってうわ言の様に繰り返される。
 そんな時だった。
 それまで力無く下がっていた巳日の腕が、自分の胸で泣きじゃくる私の頭をそっと抱きしめたのだ。
「巳の……ひ……」
 それが巳日の最後の力だった。
 気が付いた時には、巳日の呼吸も心臓の鼓動も止まっていた。
「頑張ったね巳日」
 私はまだ暖かい巳日をもう一度ぎゅっと抱きしめると、その頭を撫でた。
 それから私は巳日の体に付いた汚れを綺麗にてあげる事にした。
 体を拭ってあげられるようなものは持ち合わせていなかった私は、その時何を思ったのかまだ暖かい巳日の体に舌を這わせて汚れを舐め取り始めた。
 生前と変わらないぬくもりと弾力があるが、何の反応も無い巳日。
 試しに私と同じくらいの胸に軽く歯を立ててみた。
 今まで感じた事の無い歯ごたえに私は何故か興奮した。
 無抵抗な巳日。
 私のかわいい妹の巳日。
 世界にたった一人の私の半身。
 そして気が付いた時には巳日の胸から少し血が滲んでいた。
「ご、ごめんね」
 私は一体何をしていたんだろう?
 自分の中に知らない自分を見たようで少し怖かったし、巳日に見られなくて本当に良かったと思った。
「あ、いや、神様と一緒に見てるかも……」
 つうと、冷や汗が出た。
 これは向こうに行ったらすぐに謝らないといけない。
 そんな事を考えながら、私は、巳日の手を印の形に握らせてから清めた縄でギュッと結んだ。
 それを丁度巳日の胸の辺りで首から縄をかけて固定する。
「よし。迷わず先に行っててね」
 そう言って私は巳日の綺麗な髪をそっと指ですいた。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 巳日が無事儀式を終えた。
 次は私の番だ。
 私は、もうひとつの御神体――2本の御神体が向かい合った物の間に立つと、四つん這いの姿勢を取る。
 胸にはバツの形に縄をかけた。
 これは最後に縄の間に手を通して印を結ぶ為だ。
 そして御神体にも、私の大事な所にもたっぷりと軟膏も塗った。
 あれって変な気分になるんだと、塗っていて良く判った。
 今、私の大事な部分は御神体を受け入れる体制がばっちりだ。
 私は手足を突っ張って御神体の高さにあわせると、床にあるこぶし大の突起を捻りながら床に押し込んだ。
 すると『ゴゴン』と言う低くぶつかり合うような音を合図に、御神体がこちらに向かってきた。
 巳日が大騒ぎしたのがこれ――こっちの御神体は自動的に私を前後から串刺しにするのだ。
 一度受け入れる角度を失敗すれば後は無い。
 私はゆっくりと近づいてくる御神体の内、後ろから来る御神体を先に受け入れた。


 ぬるっとした感触と共に私の大事な部分に御神体が入り込んでくる。
「んあっ」
 その瞬間変な声が出て思わず赤面してしまう。
 今全身にビリッとした感じが走っ――。
「いっ、痛っ! 痛たた、たた」
 余韻に浸っている暇は無かった。
 あっと言う間に御神体は私の処女を奪って更に奥へと進んでゆく。
「あっ、痛っ。急が痛たっ!」
 私は身を引き裂かれるような痛みに身をよじりながらも、大きく口を開けると、今度は前から迫る御神体を受け入れた。
「あが……」
 舌先に軟膏の不思議な味が広がる。
 こっちには塗らなくても良かっ――。
「ああ……あぐっ!?」
 お腹の奥から物凄い圧迫感が押し寄せてくる!?
 私の体が無意識に前に逃げてしまう。
 しかし前からも御神体が。
 そして、
「エッ! オエッ! オエッ!」
 失敗したと思ったときには既に遅く、私は酷い嘔吐感にえづきが止まらなくなった。
「ゲッ! ヴゴェ! オエッ!」
 幸い胃の中は空っぽだったので窒息するのは免れたけど、苦しい事には変わらない。
 しかも、吐気ばかりに構っていられない事態が。
「ぐぉ!? がっ!! ぐぎおげがお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛……」
 御神体が私の赤ちゃんの部屋に入ってきた!?
 全身が勝手に痙攣して、堪えられない痛みに手足が勝手に床をかきむしる。
 すると直に爪は剥がれて指先が真っ赤に染まったけど、今の私にそれを感じるような余裕は無かった。
 伸びきった赤ちゃんの部屋が体の中でみしみしと音を立てる。
 私は痛みに耐えかねて御神体に歯を立てて堪える。
「がががががががががががががががががががが……」
 体中から聞いた事の無いような不気味な音が聞こえてくる。
 そして、もう何が何だか判らなくなりかけたその時、
『ビチッ、プチ、プチプチプチ……』
「お゛があ゛!!」
 お腹の中が引っ張られるような異様な感触に体が勝手に跳ねるが、串刺し状態の私は何処にも逃げられない。
 あまりに暴れるせいで、口の端と大事な部分が傷ついて床の上にポタポタとたれが、そんな事私は知らないしどうにもならない。
 痛いとか辛いとかそんな次元はとっくの昔に超えてしまっていて生きてるのか死んでるのかも判らない。
「も゛ー!! も゛ー!!」
 手足を縮めて体を震わせるけど、何にも変わらない。
 もう終って! 早くどうにかなって終って欲しい。
 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……。
 何だって私がこんな目に合うの?
 何が悪いの? 何がいけなかったの?
 老い先短いおじいさんやおばあさんより先に何で私が死ななくちゃいけないの?
 嫌だ嫌だ嫌だぁ――――――――――――――――――――――――!!
 うちに帰る。私は私の家に帰……。
 巳日だ!!
 巳日をつれて家に帰らなくちゃ。
 そうだ巳日と一緒に帰ろう!!
「あ゛お゛あ゛ぁ……」
 私は口いっぱいに御神体を頬張っているのも忘れて巳日の名を呼んだ。
 首は既に動かないので霞む目を精一杯動かして辺りを見回す。


 見つけた!!
「あ゛お゛ぉ……」
 床の上に座る全裸の巳日。
 上を向いて何をしてるんだろう?
「あ゛あ゛……、お゛あ゛ぁ……」
 私は巳日に向かって精一杯手を伸ばした。
 そうしたらいつもみたいにまた手を握り返してくれるんじゃないか。
 そう言うふうに思った。
 しかし、現実では刻一刻と状況は進んでいた。
「ぶっ、お゛ごぉ!?」
 突然体の中を揉みしだかれるような感触に、目の前がチカチカと暗くなったり明るくなったり――あれ? 私は一体何をして……。
「!?」
 し、心臓。私の心臓はどうなってるの!?
 慌てて自分の胸をまさぐると心臓はまだ動いていた。
 当たり前だ。止まっていたらこんな事だって考えている暇は無い。
 更に胸からお腹に手を当てると、どうやら危ない所は過ぎているみたい。
 偶然とは言え助かった――そう思った瞬間、体の力がすっと抜けた。
 目の前も一気に暗くなる。
 いけない!? 儀式が終るまでは気を確かにしておかないと。
 それに印を結ばないと神様が私を導いてくれなくなってしまう。
 そう思った私は、慌てて胸の前の縄に手を通すと手を合わせて印を結ぶ。
 これで大丈夫だ、後は最後の瞬間を待つばかり。
 そう安堵した瞬間、
『ミチッ、ゴツッ』
「おお゛ッ!? お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……」
 私のどこかを押しつぶして御神体がくっつく固い音に、もう痛みも感じない筈なのに私は絶叫した。
 その叫びが弱くなると共に、私の頭の中にもすうっと暗い靄がかかりだした。
 少し暴れすぎてこれが意識を保つ限界らしい。
 でも、印を結んだ手には微かに私の呼吸と、心臓の動きが伝わってくる。
 つまり――儀式は成功した。
 そう思うと急に心が晴れ晴れとしてきた。
 ふふ。最後はひとり取り乱して格好悪かったな。
 きっと神様の所に言った巳日にも笑われてしまう。
『姉さん』
 あれ巳日? どうしてこんな所に?
『何言ってるの姉さん。神様の所に行くわよ』
 なによせっかちねぇ。
 私はついさっき儀式が終ったばかりなのよ。もう少し休ませてくれたって……。
『何でこんな時までのんびりなのよ!? もう、折角待ってたのに。先に行っちゃうわよ』
 あん、まってよ巳日。
『そ、れ、か、ら。言ってとくけど、私のオッパイかじったの忘れないからね』
 はははは……。それは、どうも……、ごめん……。
『もうっ、しっかりしてよね! ほら、神様もおとうさんもおかあさんも待ってるわよ』
 あ、待ってよ巳日! 待ってっ……た……らぁ……。
 私は、先を走る巳日の後を追って光の中を駆け出した。



END



以上です。
読んでくれた方ありがとうございます。
姉妹はちゃんと何処かに召されましたよ。
でわ。

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