極めて容赦のない描写がメインになりますので、耐性のない方、および好きなキャラが残酷な目に遭うのがつらい方はご遠慮ください。

ロマールの闇市には、様々なものが売られている。金さえ出せば非合法の奴隷から、ご禁制のユニコーンの角までなんでも手に入る。
そして、そればかりかこんなものまで…

「クソっ、フランツの野郎…」
路地裏で<料理人>はかつての師匠に悪態をついた。
以前の彼は、「フロンティア精神に溢れた料理人」の名声をもっていた。しかし、師匠から破門された事により、今では悪評の方が強い。
グルメが美味の追求から珍味を好むのは珍しい話ではない。より美味を求めるフロンティア精神が、今まで食材とみなされなかった物に、文字通り食指を動かす。
かつての師匠フランツは、それを実践した人間だった。
モンスター。彼はこの敵、忌まわしきモノ、脅威、とされるモノを、美食への追求から食材として捕らえなおしたのだ。
その結果として、ジャイアントスラッグステーキ、ハンガーレッグ――陸棲寄生蛸――マリネなど、幾多の成功作を生み出してきた。その美味故に、マニアックな客層もつき、店はそこそこ繁盛もしている。
食材について秘密にしていたころに比べれば、大分減ったが。
志を同じにする先達、しかも成功者であれば、師としてその教えを請うのに何の躊躇があるだろうか。そう思い、<料理人>は彼の料理店に下働きとして入門した。
もともと料理の腕は悪く無い。料理に対する情熱で行動する人間なら、当然のことと言えよう。だからじきにその腕を認められ、フランツ片腕とまで称されるほどの地位についた。
そして、彼は新メニューの研究にも参加できるようになった。師匠は様々なモンスターを調べ、既存の食材との類似点を見つけ、それを元に次々に新料理を開発する。
大半は、既存の料理のレシピを一・二箇所書き換える――レシピより冒険譚に出てきそうな名前に――程度で済むが、まれに一から調理方法を確立しなければならないものもあったりする。
そんな時は、彼と師匠は寝を忘れて――試食をするので寝食とはいかない――調理方の確率に没頭したものだった。


やがて、おおよそ入手可能な食材を試した結果、二人の嗜好のズレが生じた。
例えばスキュラ――少女の上半身に多数の蛇を下半身に持つ魔獣――の調理に関して、師匠はその下半身を食材と考えたのに大して、彼は上半身を食材と考えた。
他にもダークエルフ――闇に潜む忌まわしき妖魔――を、師匠は食材とはみなせなかったのに対して、彼は食材と考えた。
そうこうする内に、彼の嗜好の正体に気付いた師匠は、彼を破門にした。やがて同僚達――彼の抜擢への強い妬みを持っていた――からその噂は街広まり、彼は王都から出て行くはめになったのだ。
「おいおい、またいつもの愚痴かよ」
仲間の<魔術師>が声をかける。
「しゃあねぇだろ。“趣味”がばれてひどい目にあったんだから。恨み骨髄って奴だ」
と、これは同じく仲間の<闇司祭>が、その教義上から肩を持つ
「もういいだろうがよ。こうして曲がりなりにも自分のレストラン持てたんだから。今はそっちに専念しようぜ」
<精霊使い>が路地の方を顎で指す。見ればそこを一人の平民の娘が歩いている。格好は、多少くたびれて継ぎのある質素な服だが、汚れてはいない。
貧民というわけでも、金持ちというわけでもない、必要な量の食事はとっており、それは野菜中心のヘルシーなものだと言えよう。身体を売るほど貧しくも無く、遊ぶほどの余裕もない。
何より、顔貌が良い割りに大人しげで絶好の素材と言えよう。
早速4人は配置についた。
彼女が人気の無い路地を通りかかった時、まず<精霊使い>がしかけた。行動順を送らせ、拡大したシェイド――精神的ショックを与える闇の精霊――を複数まとめて叩きつける。念の為、続いてもう一度食らわす。
気絶したの少女を、飛び出してきた残りの三人が隠れ家へと引きこむ。この間僅か20秒。目撃者は誰もいない。
最後に、<精霊使い>が入り、ドアを閉める。さて、これから“作業”だ。


<魔術師>が破かぬよう、少女を傷つけぬよう、丁寧に服を脱がす。同時にその白く熟しかけの身体を隅々まで眺める。
<精霊使い>と<闇司祭>は、湯を沸かした鍋から手拭を取りだし、搾って<魔術師>に渡す。
気の早い<料理人>は、刃物を取り出して待ち構えている。
<魔術師>は、少女の華奢で、しかし必要な部分には十分肉のついた肢体を眺めながらその身体を隅々まで綺麗に拭う。
やがて拭い終わると、三人掛かりで少女を台の上に乗せる。黒ずんだ染みのついた石造りの台だ。周囲を枠で囲まれ、僅かな傾斜をつけてある。
「今回は、ドコいきます?」
仰向けの少女の両腕を抑えてそれを眺めながら、<魔術師>が尋ねた。
「どこでも、汝の欲するままに…」
左足を掴んでいる<闇司祭>が教義の言葉を口にする。
「オレは、脚だな。このむっちりとしたのがたまらない」
これは右足を掴んでいる<精霊使い>。
「では、右足にしましょう。左の膝に、傷痕があるから」
<料理人>がかなり大振りの肉切り包丁――筋力15のソード相当――を構える。
部位狙いのペナルティーも、相手が避けないなら意味はない。よく狙ってクリティカル値を下げた強打をかました。
少女の右腿の付け根目掛けて、ブンッと唸りをあげて振り下ろされる。命中。ドンッと音がして刃が肉に食い込む。“回った”。血飛沫がパッと飛び散り、周囲を紅の斑で染める。
熟した果実のような切断面からは、ワインにも似た流れが台にこぼれ、やがて台の流し口から下のバケツへと受けとめられる。
<料理人>は、血に塗れた脚を満足げな表情で抱え、逆さに持って血抜きをする。
少女は微かにウッと呻き声を出しただけで、目を覚ます事はない。シェイドで精神力を削り尽くされれば、6時間は気絶したままなのだ。


美味しそうに飛び散った飛沫を舐めていた<闇司祭>が、少女の傷口をうっとりと眺めて、キュアウーンズを唱える。見る間に切断面の血は止まり、肉と皮が覆う。
「ちぇっ、もう塞いじゃうのかよ。つまんねぇな」
<精霊使い>が不満の声をあげる。
「そろそろあぶねぇだろ。殺したら元も子もない」
<魔術師は>は部屋の隅にある篭へと向かう。そして中身のジャガイモにポリモルフをかける。変身の魔法によって、記憶術によって憶えた少女の肉体がそこに再現される。
精神は再現できないが、肉体面は完全に再現できる。食材として見るなら、“女体盛り”とか踊り食いでもしないかぎり、これで十分だ。
<料理人>は、すでに俎板の上で嬉々として少女の脚の調理を開始している。
「あとは、後始末だ」
<闇司祭>はそう言い、リジェネレーションを唱える。皮に覆われた切断面が見る間に盛りあがり、伸び、形の良い脚をへと変わっていく。
「なあ、左足もやらねぇか?」
<精霊使い>の提案は却下された。
「生え変わったら、傷痕が消えてしまうよ。ばれる可能性は排除しないと」
<魔術師>はそう言って、
「それに、再生したところは1周間は不自由だ。両足が急に不自由になったら、怪しまれる。大きな欲望を達成するには、小さな衝動をこらえることが肝心」
<闇司祭>がそう説明する。
「ちぇっ、しかたないか」
<精霊使い>は不満げに呟くと少女についた血飛沫を拭い始めた。
やがて服をきせられ、元通りの身体になった少女にを、<精霊使い>と<闇司祭>が連れ出す。
人気のないのを確認して、元の路地に少女を寝かせる。<闇司祭>がトランスファーメンタルパワーで、少女の精神を回復させる。


「もしもし、大丈夫ですか。お嬢さん」
そう声をかけられて、少女は気がついた。倒れている彼女を、二人の男が覗き込んでいる。
「急に倒れたので、驚きましたよ」
一人がそう言って、手を差し伸べる。
確か、急に目の前が真っ暗になって、その後の記憶が無い。貧血でも起こして倒れたのだろうか?
手を掴んで起きあがろうとして、彼女は再び転んだ。
「え、あ、脚が…」
右足が痺れたように動かない。
「おや、脚でも捻挫しましたか?」
もう一人が、肩を貸して起こしてくれる。
歩くことはおろか、立つ事もやっとだ。
「しかたありませんね。家まで送ってあげましょう」
そう言って、肩を貸してくれた方が彼女を抱きかかえ、家まで送ってくれた。

ロマールの闇市には、金さえはらえば何でも手に入る。そう、人肉料理すら。

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