最終更新: monosaku183 2011年04月20日(水) 00:12:32履歴
舞ヒメネタ。ぬる目です。
「綺麗な顔してるな」
「…………」
奈緒はなつきの言葉の意図が飲み込めず、押し黙る。
「男どもを引っ掛けてシノギにしてきたんだ。さすが造物主の寵愛にだけは恵まれている」
「何が言いたいてめえ?」
奈緒は苛立って吐き捨てた。
「殺すならとっとと殺せよ。それともあのレズ女カタワにした恨み言でも言いたいの?」
「殺す? バカ言え、お前にそんな楽な道を選ばせてたまるか……静留は、もう二度と歩く事も、自分の力では立つ事も……もう、芋虫みたく這いずりまわることしかできなくなった」
「ははは! ざまあないね、藤乃会長サマ芋虫!!」
なつきは懐から、何かラベルの付いた瓶を取り出した。
縛られ、床に転がされている奈緒の鼻先に突きつける。
「ほら」
「……?」
「脳味噌スポンジのお前でも分かるだろ、濃硫酸。こいつをお前の顔にかけたらどうなると思う?」
奈緒の冷笑が凍りついた。
「お前は殺すんじゃおさまりがつかない。お前から大事なものを全て奪ってやる。母親にはまた障害者になってもらう。その前に、まずはお前のその美少女面を台無しにしてやるよ」
「ひっ……」
急速に蒼白になりつつある奈緒の目の前で、硫酸の瓶を開ける。
奈緒は逃れようにも固く手足を拘束され、身動きすらできない。
「糞、畜生!」
「静留が受けた万倍の苦しみと絶望を、お前に与えてやるよ」
なつきはその顔に硫酸を注ぎかけた。
「さて、次はお前の母親だな……」
意識を失った「それ」に声をかけ、なつきは立ちあがり、部屋に施錠して去って行った。
(うう、あたしは……)
(あのレズ女……)
(ママを殺しやがった……ゆるさねえ)
(だから、痛めつけて……)
(ママ、そう言えば!!)
意識を取り戻した奈緒は、起き上ってすぐに顔面から突き上げる激痛に呻いた。
「ぐうう……なにこれ、あつい……火傷……?」
思わず顔で床に押し付け触れた肌からは何やらかさぶたのような感触がする。
視界には空の瓶が転がっている。
漸く思い出す。あの女は私の顔に劇薬を……。
「ちょっと、どうなってんの、私の顔、私の顔っ!? 鏡は!? ママは!? ママ、ママァ!!」
「ちょっと、どうなってんの、私の顔、私の顔っ!? 鏡は!? ママは!? ママ、ママァ!!」
奈緒は混乱して泣き叫ぶが、がらんどうの部屋には自分の顔を確認する手段は存在しなかった。
痛みと触れる感触から自分の「顔面」の状態を確認しようとするが、はっきりとは分からない。
錯乱を続けて、疲れ果て、震え、唸り、昏睡し、うなされ、それが数日続いた。
飲まず食わずで意識を失った奈緒の耳をかすかに外界からの音響が揺さぶった。
目の前には、なつきが立っていた。
「てめ……え……」
なつきは微妙な表情で奈緒の顔面を見つめ、少しほくそ笑むと、何やら投げつけた。
瞼で硫酸を防いだため、視力を失っていない奈緒にはすぐそれが何本もの切り取られた人間の指だと分かった。
この細長く繊細な指の一本一本は間違いなく、女性の……。
「てめえ……ママを、ママを……」
「親子『揃って』重度障害。ま、これから先、『その顔』で生きて思い知るんだな……」
どがあと奈緒の腹を蹴っ飛ばす。
奈緒はまた意識を失った。そして一瞥もせずに、なつきは部屋を開け放して出て行った。
「う……」
再び意識を取り戻した奈緒は、ふらつく頭を振って、反射的に手で顔を抑えていた。
なつきは、手足の戒めを解いて行ったらしい。
監禁されていたこの部屋――月杜町の廃ビルの一室の扉も、施錠せず開け放たれている。
奈緒はふらふらと歩んでいった。
(ママ……ママぁ……)
一刻も早く母の元に戻らねば。その事だけが頭に一杯で、自分の事など忘れていた。
通りに出て、通行人の群れと行き交い、それでようやく不審に気付いた。
誰も、まるで怪物でもみたように顔を顰め、或いはすぐ目を逸らし、或いは逆に露骨にしげしげ見つめ、過ぎ去っていく。
奈緒は、特に男から、こんな目で自分を見られたのは初めての事だった。
「みろよあれ……キモッ」
「なんだ、化けモンか……」
ヒソヒソ交わされる声にそれで想い起した。
好奇の……否、『猟奇』――奇を猟(あさ)る、の視線を避け、必死で鏡を探す。
街角に公衆便所を見つけて、奈緒は息切って駆け込んだ。姿見を……前にして……。
「あ……あ……」
奈緒は初め「それ」が何か分からなかった。だが、手で触れてみて、自分の動作に合わせて動くその姿が、自分だと知った。
この時、奈緒の心は死んだ。
「静留……お前の仇は取ったぞ」
畳の上、布団にくるまれ、安らかに眠る静留を見下ろす。
掛け布団につつまれ、体はこんもり稜線を描いている。人間の体としては不自然に。
奈緒と手下の男共に闇討ちにされ、静留は散々体を弄ばれ、そして四肢を……。
なつきはそっと布団の中に手をさし込み、静留の肩口に触れる。腕があるべきはずのところに。
もう傷はふさがって、縫合の痕も手触りに感じなかった。
これから、なんとか命を落とさずに済んだ静留は、十分生きていける。
自分の力だけでは生きるに困難な体の静留でも、彼女を支えてくれる人間は多くいる。
――だから、自分はもう不要だった。
「私は……お前の、いや違うな。お前への『想い』の為に罪を犯した。今回は母さんのときとは違う。私は、もうお前と一緒に生きる資格はないんだ」
さびしく笑って、呟く。
――そして、眠る静留の唇にそっと口づけをした。
「静留、さよな……いや、ありがとう」
そう、寝息を立てる彼女に言い残し、ふらりと出て行った。
E県風華町の地方紙に、二人の少女の自殺の報が記載されたのは、奇しくも、同じ日の夕刊だった。
(オシマヒ)
「綺麗な顔してるな」
「…………」
奈緒はなつきの言葉の意図が飲み込めず、押し黙る。
「男どもを引っ掛けてシノギにしてきたんだ。さすが造物主の寵愛にだけは恵まれている」
「何が言いたいてめえ?」
奈緒は苛立って吐き捨てた。
「殺すならとっとと殺せよ。それともあのレズ女カタワにした恨み言でも言いたいの?」
「殺す? バカ言え、お前にそんな楽な道を選ばせてたまるか……静留は、もう二度と歩く事も、自分の力では立つ事も……もう、芋虫みたく這いずりまわることしかできなくなった」
「ははは! ざまあないね、藤乃会長サマ芋虫!!」
なつきは懐から、何かラベルの付いた瓶を取り出した。
縛られ、床に転がされている奈緒の鼻先に突きつける。
「ほら」
「……?」
「脳味噌スポンジのお前でも分かるだろ、濃硫酸。こいつをお前の顔にかけたらどうなると思う?」
奈緒の冷笑が凍りついた。
「お前は殺すんじゃおさまりがつかない。お前から大事なものを全て奪ってやる。母親にはまた障害者になってもらう。その前に、まずはお前のその美少女面を台無しにしてやるよ」
「ひっ……」
急速に蒼白になりつつある奈緒の目の前で、硫酸の瓶を開ける。
奈緒は逃れようにも固く手足を拘束され、身動きすらできない。
「糞、畜生!」
「静留が受けた万倍の苦しみと絶望を、お前に与えてやるよ」
なつきはその顔に硫酸を注ぎかけた。
「さて、次はお前の母親だな……」
意識を失った「それ」に声をかけ、なつきは立ちあがり、部屋に施錠して去って行った。
(うう、あたしは……)
(あのレズ女……)
(ママを殺しやがった……ゆるさねえ)
(だから、痛めつけて……)
(ママ、そう言えば!!)
意識を取り戻した奈緒は、起き上ってすぐに顔面から突き上げる激痛に呻いた。
「ぐうう……なにこれ、あつい……火傷……?」
思わず顔で床に押し付け触れた肌からは何やらかさぶたのような感触がする。
視界には空の瓶が転がっている。
漸く思い出す。あの女は私の顔に劇薬を……。
「ちょっと、どうなってんの、私の顔、私の顔っ!? 鏡は!? ママは!? ママ、ママァ!!」
「ちょっと、どうなってんの、私の顔、私の顔っ!? 鏡は!? ママは!? ママ、ママァ!!」
奈緒は混乱して泣き叫ぶが、がらんどうの部屋には自分の顔を確認する手段は存在しなかった。
痛みと触れる感触から自分の「顔面」の状態を確認しようとするが、はっきりとは分からない。
錯乱を続けて、疲れ果て、震え、唸り、昏睡し、うなされ、それが数日続いた。
飲まず食わずで意識を失った奈緒の耳をかすかに外界からの音響が揺さぶった。
目の前には、なつきが立っていた。
「てめ……え……」
なつきは微妙な表情で奈緒の顔面を見つめ、少しほくそ笑むと、何やら投げつけた。
瞼で硫酸を防いだため、視力を失っていない奈緒にはすぐそれが何本もの切り取られた人間の指だと分かった。
この細長く繊細な指の一本一本は間違いなく、女性の……。
「てめえ……ママを、ママを……」
「親子『揃って』重度障害。ま、これから先、『その顔』で生きて思い知るんだな……」
どがあと奈緒の腹を蹴っ飛ばす。
奈緒はまた意識を失った。そして一瞥もせずに、なつきは部屋を開け放して出て行った。
「う……」
再び意識を取り戻した奈緒は、ふらつく頭を振って、反射的に手で顔を抑えていた。
なつきは、手足の戒めを解いて行ったらしい。
監禁されていたこの部屋――月杜町の廃ビルの一室の扉も、施錠せず開け放たれている。
奈緒はふらふらと歩んでいった。
(ママ……ママぁ……)
一刻も早く母の元に戻らねば。その事だけが頭に一杯で、自分の事など忘れていた。
通りに出て、通行人の群れと行き交い、それでようやく不審に気付いた。
誰も、まるで怪物でもみたように顔を顰め、或いはすぐ目を逸らし、或いは逆に露骨にしげしげ見つめ、過ぎ去っていく。
奈緒は、特に男から、こんな目で自分を見られたのは初めての事だった。
「みろよあれ……キモッ」
「なんだ、化けモンか……」
ヒソヒソ交わされる声にそれで想い起した。
好奇の……否、『猟奇』――奇を猟(あさ)る、の視線を避け、必死で鏡を探す。
街角に公衆便所を見つけて、奈緒は息切って駆け込んだ。姿見を……前にして……。
「あ……あ……」
奈緒は初め「それ」が何か分からなかった。だが、手で触れてみて、自分の動作に合わせて動くその姿が、自分だと知った。
この時、奈緒の心は死んだ。
「静留……お前の仇は取ったぞ」
畳の上、布団にくるまれ、安らかに眠る静留を見下ろす。
掛け布団につつまれ、体はこんもり稜線を描いている。人間の体としては不自然に。
奈緒と手下の男共に闇討ちにされ、静留は散々体を弄ばれ、そして四肢を……。
なつきはそっと布団の中に手をさし込み、静留の肩口に触れる。腕があるべきはずのところに。
もう傷はふさがって、縫合の痕も手触りに感じなかった。
これから、なんとか命を落とさずに済んだ静留は、十分生きていける。
自分の力だけでは生きるに困難な体の静留でも、彼女を支えてくれる人間は多くいる。
――だから、自分はもう不要だった。
「私は……お前の、いや違うな。お前への『想い』の為に罪を犯した。今回は母さんのときとは違う。私は、もうお前と一緒に生きる資格はないんだ」
さびしく笑って、呟く。
――そして、眠る静留の唇にそっと口づけをした。
「静留、さよな……いや、ありがとう」
そう、寝息を立てる彼女に言い残し、ふらりと出て行った。
E県風華町の地方紙に、二人の少女の自殺の報が記載されたのは、奇しくも、同じ日の夕刊だった。
(オシマヒ)
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