極めて容赦のない描写がメインになりますので、耐性のない方、および好きなキャラが残酷な目に遭うのがつらい方はご遠慮ください。

 これより軽いネタを4レス投下させていただきます。
今夜は七夕なわけですが、自分の住んでいるところでは雲が空を覆っていて
時たま星空が垣間見える状態なので彦星と織姫の再会は難しそうです。
 そんな発想から思いつきました。七夕伝説とかけ離れた妄想ネタですがどうぞ。

275 名前:七夕 1/4 ◆/W8AnhtEnE [sage] 投稿日:2009/07/08(水) 00:17:28 ID:Lp8ESTPj [2/5]

「織姫っ!」
川幅広く水を湛え、底が見えないほど深い河。
そのほとりで若い男が身を乗り出し、必死に対岸に呼びかけている。
「織姫っ!大丈夫なのか!」
黒い霧に包まれてしまい見通すことが出来ない向こう岸に向けて喉が張り裂けんばかりに
声をあげる男。
カキンッ! ザシュッ!
「はっ!――てやあっ!」
大河を流れる水の音にかき消されて彼の元には中々聞こえないが、対岸からは鋭き剣戟の音
そして勇ましい女の声が放たれていた。
男が不安でまんじりともしない時間を堪えていると、やがて霧が晴れ始める。

 ようやく露わになった向こう岸の様子。
その川原には異形の怪物――一般的には鬼と言われる姿形だ。――が何体も倒れ伏し
身体から流れ出る血が川の流れを濁らせている。
そして武器を手にして立っている鬼達、それに立ち向かうようにこちら側に背を向けて
刀を構えている人の姿があった。
「織姫ぇっ!」
男の声に応じて振り向く対岸の人影。
若く、溌剌とした輝きを持つ女だ。
「彦星、もう少し待っていて! もうすぐこいつらを倒せるから!」
男に笑顔を向ける女。
彼女の名は織姫。その姿を心配そうに見つめる男を彦星という。
遠い昔に大河の両岸に離れ離れにされた愛し合う二人。
七月七日の今日は、一年で唯一この河に橋が架けられて二人は再会することが出来るのだ。
だが今、それを邪魔する悪しきものが雲のような黒い霧を生み、織姫のいる岸の水際に漂わせている。
彼女がその霧から生まれる鬼を倒し尽くさない限り橋は架けられない。
彦星は、愛する彼女が自分との再会のために闘う様をただ見ていることしか出来なかった。


「たあああぁぁぁっっ!」
ザシュッ!
織姫は最後に残った鬼に飛び掛って、その胸に刀を突き立てる。
そして刀を抜くとドウッと倒れる鬼の亡骸。
これで岸に立つのは織姫ひとりとなった。
傷は負っていないものの、必死に動かした手足の疲労からくるこわばりに僅かに顔をゆがめながら
彼女はホッと息をつく。
もう恋路を邪魔する怪物はこれで倒し尽くしたのだ。よって橋が架けられ、愛する彦星と一年振りに
身体を触れ合わせること出来る。
すると彼女の目前の水際から白い光が発し、そのまま彦星が待つ対岸に伸び始める。
「彦星、逢いたかったよ……」
一年ぶりの再会にこみ上げる涙を流してそっと呟く織姫。
そして涙を拭き、対岸の恋人向かって晴れやかな笑みを見せる。

 だがその時、歓喜をもたらした白い光を覆ってしまうように再び黒い霧が湧き起こる。
「そ、そんなっ!」
疲れ果てた織姫に再度近づく魔の手。
(彦星と逢うためには……何があっても負けられないッ!)
一瞬怯えの表情を見せたが立ち直り、刀を構える。
そして彦星が待つ対岸の景色を再び黒い霧が塗りつぶした。



(長い……いつになったら霧は晴れるんだよ!)
焦燥に囚われる彦星。
先ほどの霧より倍以上の時間がたったが、今彼の恋人を視界から隠している黒い霧は
いつまでたっても晴れる気配が無い。
時間がたつと共に霧の向こうから聞こえる織姫の声も精彩を欠いていっている。
「……くそぉ!……ま、まだだ……まだ…」
気合の入った凛々しい叫びから、途切れ途切れに聞こえる掠れた叫び声に。
それは必死に自らを鼓舞する織姫の悲鳴のように彼には聞こえた。


 織姫は刃を振って鬼の腹を斬りつける。
さっきまでは臓物を撒き散らす致命傷をもたらしていた一閃だが、今は浅く鬼の肌を傷つけただけだ。
闘いの間、縦横無尽に河原を駆け、跳ね飛んで敵に襲い掛かっていた彼女の脚は酷使の末
もう立っているのが精一杯なのだ。とても勢いをつける踏み込みなど出来ない。
そんな彼女にせせら笑うように傷つけられた鬼が近づく。
その他にも織姫の周囲には数え切れない鬼が取り巻いている。
「……くそぉ!……ま、まだだ……まだ…」
刀が重い、鳥の羽のように軽く自らの一部となっていた刀が信じられないほど重い。
織姫は両腕を震わせながら刀を必死に構える。



「はぐぅぅぅッッッ!!」
今までは力弱くとも闘志が込められた叫びを放っていた織姫。
だが今彦星の耳に入ったのは傷つけられた恋人の悲鳴だった。

「アギャッ!!」
「織姫ぇぇぇッッ!」
愛する者の助けにもなれず、ただ呼びかけることしか出来ない己の境遇に絶望する彦星。
その耳から更なる悪夢がもたらされる。

「はひゃっ、ひッ!? ゴブウウゥゥゥッッッ!!」

「ガァッ!ゴボォッ!」

苦悶の度合いを増していく織姫の悲鳴。
河原に突っ伏し、彦星は無力な自分の不甲斐無さに涙を流すことしか出来なかった。



 正面から近づく鬼を睨みつけている織姫。
彼女は気づかない、もう弱り切って周りに気を配れなくなった彼女に背後から近づくもう一体の鬼に。
そしてその鬼は手にした金棒を織姫の左肩に振り下ろした。
「はぐぅぅぅッッッ!」
突如感じた左肩からの激痛に悲鳴を上げる織姫。
鎖骨を折り、力を失った腕から刀を取り落としてしまう
織姫は信じられない痛みに涙を零しながら思わず右腕で肩を押さえる。
そうして構えを解いてしまった彼女に正面の鬼が腕を振り、その横顔に拳を叩きつけた。

「アギャッ!!」
こめかみに強い衝撃を受け、脳を揺さぶられる織姫。
彼女の肢体は弾き飛ばされ河原を跳ね転げる。
ようやく動きを止めたその身体。
衣は破れ、各所から石に傷つけられた肌が垣間見える。
飛ばされて叩きつけられた右の頭からはどくどくと血が流れ、頭蓋から血を失わせている。
意識を半ば絶ってしまった彼女は近づく鬼達に何も反応できない。
「織姫ぇぇぇッッ!」
遠くから呼びかける彦星の声もこめかみを揺さぶるパンチの余韻で織姫には聞き取ることが出来ない。

ビリリリリッッ!
「はひゃっ?」
無造作に鬼の一匹が織姫の衣を剥ぎ取る。
意識が朦朧としたままの織姫、その露わになったお腹を振り上げられた鬼の足が踏みつける。
「ひッ!? ゴブウウゥゥゥッッッ!!」
凶器と化した足の裏を目にして恐怖で意識が戻り一瞬怯えた声を漏らす織姫。
その内臓が肋骨ごと内臓を踏みにじられる。
「ガァッ!ゴボォッ!」
踏み折られた肋骨、潰された内臓から流れ出た血がそのお腹を満たしていく。
その一部は食道を遡り、彼女の口から吐き出される。



 耐え切れないような長い時間が過ぎ、ようやく晴れ始める黒い霧。
涙に濡れた瞳を対岸に向ける彦星。
「あっ…あああ…そ、そんなぁ……」
再び露わになった対岸の光景。
河原には鬼達が車座になってなにやら話し込んでいる。
その向こうの大きな岩を目にして彦星は絶望の呟きを漏らした。
大きな岩を彩る白と赤のもの。
それは無惨に磔にされた織姫の姿だった。
傷ついた身体の両掌、そして両膝に太い鉄杭を打ち込まれて岩肌に縫い止められている。
衝撃的過ぎる光景に呆けたように見続ける彦星の視線に気づいたのか、織姫がゆっくりと
俯いた顔を上げる。
血に塗れ、腫れた瞼でほとんど瞳を閉じられながらも愛する彦星の姿を捉える織姫。

「……ひ…こぼ、し………た……す…け……て……」
恋人との再会を前に、無惨に敗北した織姫。
その愛する者に会うために苦難を乗り越えようと決意していた強き心はもはや砕け、手の届かぬところにいる
彦星に掠れた哀願を口にする。
「……お、おりひめ…………」
その声は聞き取れるものではなかったが、口の動き、その弱々しい素振りから彼女の願いを知った彦星。
だが、彼には越えることの出来ぬ大河を前にして何も彼女を救う手立ては何も無い。

『さあて、もう期限だな! もう月も落ち、まもなく夜明けの時間だ!』
鬼の一人がそう言い放って立ち上がる。
それに続いて立ち上がった鬼達が織姫を磔にしている岩に向かい、彼女の身体を彦星の視線から覆い隠していく。
『じゃあ、もう一年後だな。あばよ! この男と逢引するような女にはきちんと罰を与えておくからな!』
一体の鬼が振り向いて彦星にそう言い放つ。
その肩越しに周りを取り囲んだ鬼に恐怖の表情を浮かべ、震える織姫の姿が垣間見えた。

次の瞬間、対岸の風景が全てかき消える。


こうして彦星と織姫は一年に一度しかない再会の機会を逃してしまったのである。

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