「どうするのよ?」
 震える声でゼオラは言った。青の双眸が心なしか潤んで見える。その面持ちを横目に見据えつつ、アラドは答えた。
「わかるわけないだろう、そんなこと」
 ゼオラは眉をひそめて、何、と、発した。どうやら聞き取れなかったらしい。無理も無い。二人がいるのは雪山に偶発的に発生した横穴で、外は半日前から激しい吹雪が続いている。雪混じりの風がひっきりなしに吹き込んで来るので内部は獣の吼える様な音が絶えず響いている。意識して声を大きくしないとかき消されてしまう。
「俺にだってわからない、そういったんだ」
 焚き木に枝をくべながら、アラドは改めて答えた。足元の比は風が来る度横に倒れそうなほど揺らめく。フィフス・ルナが地球に落ちた後に何が起こったのか、アラドにはわからない。フィフス・ルナの破壊に失敗し、大気圏に突入した際、αナンバーズの面々は散り散りになってしまった。ゼオラと離れ離れにならずにすんだのは不幸中の幸いだったが、他の仲間たちの消息はまったく分らない。その上二人の愛機は共にレーダーが破損しており、現在位置もつかめない。機体に詰まれていた予備の食料も底をつきつつある。状況は絶望的であるといわざるを得ない。
「わからない? わからないですって?」
 ゼオラが目をむいてこちらをにらんだ。二人は非常用の毛布にお互い肩を寄せ合うようにしてくるまっている。息がかかりそうなほど、互いの距離は近かった。
「どうするのよ、こんな事になって! 皆ばらばらになっちゃた。生きているかどうかもわからない。私たちはこうして吹雪の中で……明日の命もわからない。それなのによくそんな呑気なことがいえるわね」
「呑気? 俺だって色々かんがえているんだぞ、それを!」
 思いのほか強い声が出た。ゼオラが一寸身をすくませて、うなだれた。
「ごめん、私、いらいらしてて」
「いいんだ。おれもごめん、怒鳴ったりして」
 沈黙が下りた。風の音だけが響いている。

「アラド」
 つぶやいて、ゼオラは唇をかみ締めた。
「私達、もう駄目なのかな?」
「駄目って?」
「言わなくたってわかるでしょう?」
 セオラがすすり上げて、こちらを正視してきた。アラドは寸刻言葉を失った。ゼオラの目にははっきり涙が浮かんでいた。
「お、おい、ゼオラ……」
 何と言うべきかわからずに、アラドはそれから先を発する事が出来なかった。このじゃじゃ馬なパートナーが瞳を潤ませてこちらを見つめる姿など、今の今まで想像することさえ出来ていなかった。
「私達、ここで死んじゃうのかもしれないわ。食料だってもう少ないし、何時この吹雪がやむかもわからない。私達、ここでこのまま二人きり、朝には冷たくなっているのかも……」
「バ、バカいえ、そんなわけ無いだろう!」
 アラドは両手で背オラの肩をつかみ、笑って見せた。
「えーと、なんだ、なんとかなる。なんとかなるさ。αナンバーズの皆がきっと助けてくれる。考えても見ろよ。殺したって死なないような人ばかりじゃないか。大丈夫さ。それに、その、なんだ。泣き言を言うのはどっちかって言うと俺専門というか……、お前は怒りっぽくて小うるさいのが当たり前というか、その、だから、そんな風にしおらしくされると調子が狂うっていうか」
 なんですって、と、そんな返事をアラドは期待した。眉をつりあげて、肩を怒らせながら、声を荒げるゼオラを彼は期待した。が、思うとおりにことは運ばなかった。こちらを見つめたまま、ゼオラは顎を引くような所作を見せたかと思うと、わっと声をあげて泣きながらアラドに抱きついてきた。
「いやだよ、アラド、こんな所で死んじゃうなんて、いやだよ、怖いよ。怖いよう」
 ひとしきりアラドの肩ですすり泣いた後、その背に回した両手にひときわ力をこめて抱きつきながら、ゼオラは小さくつぶやいた。
「ねえ、アラド……抱いてほしいの」

「抱いて欲しいの」
アラドは黙した。横目で自分の首にすがりつくゼオラを盗み見る。伏し目がちの青い瞳がかすかに震え、象牙色の頬には薄い紅がさしていた。どうやら冗談ではないらしい。
(ゼオラはもともとこんな冗談を言う女ではなかったが)しかし彼女が本気なら、自分はどうするべきなのか。ゼオラを抱きたい。その思いは偽らざる真実である。だがどんな言葉をかけていかに事を進めればよいのか、見当もつかない。知識が無いわけではないが頭の中が熱くなって上手く働かない。だがそうかといって、いつまでも考えている余裕はない。
背中に回ったゼオラの手に一際力がこもった。無言の催促だ。答えないわけにはいかないのだが、胸中は相変わらず熱にやられて機能不全に陥っている。冷静に事を運ぶのはどうやら難しそうだ。
(これもある種の戦いだな)
そんなことを思いつつ、アラドはゼオラの背に手を回して、彼女を胸の奥に押し込めるように強く引きつけた。
「・・・・・・あ」
ゼオラが声ともつかない声を出す。同時に彼女の体から力が抜けた。ゼオラの顔がこちらを向いた。半開きになった唇の隙間から白い前歯がのぞいている。アラドは自らの唇でそれを塞ぎ、一瞬のためらいの後、ゼオラの口内に舌を差し入れた。どちらからともなく舌を絡めあう。やがて唇を離したアラドはもう一度ゼオラにきつい抱擁を施した。
甘い髪の香が鼻孔をくすぐった。腹筋に触れてくるゼオラのふくよかな乳房の奥で、温かな早鐘の鼓動が伝わってきた。
「んっ・・・・・・はんっ・・・・・・あ・・・・・・」
ゼオラを背中から抱く格好で、アラドは彼女の胸をもてあそんでいた。どのような経過を持って今のような体勢を取ったのか、良く覚えていない。ともかく自分は全裸で、ゼオラはショーツ一枚で、一つの毛布に包まって互いの肌の温かみを確かめ合っている。
両手でゼオラの胸を揉みほぐし、時々人差し指で硬く尖った乳首を引っかくようにもてあそびながら、アラドはゼオラの耳朶を甘く噛んだ。
「はんっ!」
ゼオラの体が小さくはねる。逃げようとする所を、そうはさせじと白い胸を掴んで自分の方へ引き寄せる。五指を複雑にうごめかして豊胸を念入りに愛撫する。
「んっ、あんっ・・・・・・はあ・・・・・・いい」
乳首をきゅっと摘み上げる。ゼオラの体がびくんとはねて縮こまる。
「はうっ・・・・・・そこっ」
「気持ちいいの?」
ゼオラは無言で頬をいっそう赤くした。アラドは桜色小さな突起を特に念入りにいじめていった。
「どうだ? 気持ちいいか?」
「・・・・・・うん、そこ、気持ち・・・・・・いいの。もっと・・・・・・んんっ! うんっ、はあ・・・・・・もっとしてえ」
いわれるままにアラドはゼオラの性感帯をより重点的に弄していく。ゼオラのなまめかしい吐息が徐々に切迫していく。
「ううっ、はうっ、あっ、あっ、あっ、あっ・・・・・・」
「ほら、どうだ、ゼオラ?」
「はうっ、んっ、はあ、うん、いい・・・・・・すごく・・・・・・あんっ!」
アラドは左手を胸から離し、白い布地に包まれたゼオラの秘所へと滑らせていった。下着越しにもかかわらず、そこに触れた指には湿り気が感じられた。
「やっ、そこは・・・・・・」
反射的にゼオラが足を閉じる。が、淫液は隠しようが無いほどたっぷりと下着に付着していた。
「脱がすぞ、ゼオラ」
「や、待って!」
聞こえない振りをしてアラドは下着を尻の下まで降ろすと、前に回り込んでゆっくりと引っ張った。
観念したの覚悟が決まったのか、目をそらしつつもゼオラはぴったり揃えた両足を上に上げてアラドの行為を手伝った。
湿ったショーツをたき火の横に放り捨て、アラドはゼオラの膝に手を添えてをおもむろに足を開かせた。あらわになった韓紅の性器は、あふれ出た淫蜜にたき火の日を照らしてつややかな光を放っている。アラドは生唾を飲んだ。
「そんなに、見ないでよ」
ゼオラが小さく非難の声を上げる。アラドは右手の人差し指で、割れ目の中央をそっと撫でた。
「んっ!」
目を硬く閉じてゼオラが悲鳴じみた声を上げる。アラドは温かなゼオラの内部に指を差しいれて、小刻みに指を動かした。
「やっ、駄目、そんなに乱暴にしないで。はあ、はっ、はあ」
言葉とは裏腹に指を動かすたびゼオラの体は震え、つややかな声が響く。
「んっ、もう、やめ、あっ、駄目、駄目ったら! あん、あ、あ、あ、はうっ・・・・・・」
「すごい濡れてるぞ」
「・・・・・・そんなはず、ない、んっ!」
アラドはゼオラの中から指を出し、その先に絡み付いた液体を彼女の前に持ってきた。
「ほら、な」
ゼオラがさっと目をそらす。
「そんなことしないで。・・・・・・バカ」
「悪かったよ」
言いつつアラドはゼオラに歩み寄り、彼女の膝に両手を添えて濡れに濡れた女陰を見下ろした。
彼の股間には既に怒張しきった男性自身がそびえている。
「入れるぞ」
アラドはゼオラを見た。彼女はうなずいた。
「うん」
肉棒の先端が、引き締まった肉を書き入れるようにして深部に進んでいく。ゼオラの面持ちが苦悶に歪む。
「・・・・・・痛」
「痛むか?」
「ちょっと、でも、いいわよ、そのまま続けて。なんだか痛いのが、またちょっと気持ちいい」
完全に挿入が終わった時、ゼオラは力無く地面に横たわっていた。その上に乗ったアラドが彼女をきつく抱きしめる。
「動くぞ」
「うん、そうして」
言葉の通り、アラドは緩慢に腰を前後させた。
「・・・・・・つっ、いた、でも、なんだか、いい」
「ゼオラ、お前の中、あったかいな」
「あっ、アラドもあったかいよ。んんっ、アラド、私、ちょっと興奮してるかも」
「そんなの俺だって同じだ」
「だって、だって私、あっ、はっ、いいっ、いいよう! さっきからすごく、気持ちよくて・・・・・・あんっ!」
腰の動きを早めると、ゼオラの嬌声が再び高まってきた。アラドは既に押さえがたい射精感を必死に抑制した。自分ばかり絶頂に達するわけには行かないと思ったのだ。
「んっ! はっ、あうっ・・・・・・アラド、いい、いいよ、私・・・・・・もう、駄目。すごくいい」
「俺も、もうでそうだ。ゼオラ」
「出して! 出していいよ。はあ、あっ、あっ、あっ、もう、もうすぐ、ん、はあ、あっ、ああっ!」
ゼオラが再び背中に手を回してきた。その力が強くてアラドの背中にはすぐに爪の後がついた。
「駄目! 私、もう駄目! ・・・・・・いっちゃう、いっちゃうよう! アラド! アラドぉぉぉ!」
瞬間、アラドの限界もやってきた。頭の中でシンバルが鳴ったような強烈な快感が来たかと思うと、ゼオラの中に熱いほとばしりを発射していた。

吹雪が止んだのは始めての逢瀬からおおよそ半日ほどだ。その間、二人は幾度と無く互いを愛し合った。数ヶ月後、自分達が再び離別する運命にあろうなどと、この時の彼らは思いもしなかったに違いない。

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