「うーん」
 ベッドの上でカズマは枕を抱いたままごろりと転がる。
 最近のアリアが向ける妙な視線に、カズマは悩んでいた。以前のような敵意を剥き出しにしたギラギラと光る眼ではなく、妙に熱っぽい視線。そして、それが決して不快でないことも、カズマにとってはもう一つの悩みだった。
「おいっ、馬鹿カズマ」
 とつぜん耳元で聞こえる声に、カズマは思わず飛び退き、そのまま自室の壁に頭をぶつける。
「ぬぐぁ」
「まったく、何やってるのよ」
「アリアこそ、人の部屋に入るならノックぐらいしろよ」
 怒るカズマに、アリアは「なに言ってるのよ」とでも言いた気に肩をすくめる。
「そのノックを、何度しても返事が無いから入ってきたのよ」
「だからって、勝手に入るやつがあるかッ」
「良いじゃない。わたしはカズマを基にしてつくられた、言わばもう一人のあなた。自分の部屋に入るのに、いちいち断るほうがどうかしてるじゃない」
「だったら、今度はお前の部屋に勝手に入ってやるよ」
 売り言葉に買い言葉。思わず勢いで喋ったカズマの言葉に、アリアは予想外の返事を返した。
「別に良いわよ」
「そうだろ、そうだろ……て、おい」
「わたしがカズマに興味があるように、カズマがわたしに興味を持つのは当然だもの」
 そう言いながらアリアはベッドに上がり、カズマの顔に自分の顔を近づける。
「カズマが近くに居ると、とてもドキドキする。もっとカズマを知りたい」
「ア、アリア。それじゃ自分に言い寄ってるようなもんだぞ。大体、俺にナルシストの気は……」
「でも、わたし達には違うところがある……例えば」
 さらにアリアの顔が近づき、その鼻をクンクンと鳴らす。アリアの頬が赤く染まり、半ば開いた唇から漏れる熱く甘い吐息がカズマの顔を撫で、鼻をくすぐる。
「カズマの体からは、とても強い匂いがする。今まで知らない匂い。他の男と同じだけど、不快じゃない」
 鼻と鼻が触れ合うほどの距離、カズマは無意識に口に溜まっていた生唾を飲み込む。
「アリア、これ以上は……」
「カズマは私の事が知りたくないの」
 次の瞬間、カズマはアリアをベッドの上に押し倒す。
「知りたいに決まってるだろッ」
 そう言って、カズマはアリアの唇を乱暴に奪う。
「んぐぅ」
 乱暴に唇を重ね、互いの前歯をガチガチとぶつけながら、カズマはアリアの口に溜まっていた甘い唾液を、はしたない音を立てて吸い上げる。
「ふぐ……ん……ぁあ」
 わずかな隙間から息をしながら、アリアはカズマの行為に身をゆだねる。さらに唇を自分から押し付け、カズマの口腔に自らの唾液を送り込む。
「カズマぁ、が、私の吸って、もっと吸って」
 喉を鳴らし、じゅるじゅると音を立てる。それでも足りずに舌を伸ばし、その内粘膜を舌で味わう。
「…………ぷはぁッ」
 カズマは顔を上げ、大きく息をする。それでも激しい動悸は止まらず、ゼーゼーと肩を揺らしながらまるで獲物を狙う獣のような眼でアリアを見つめる。そして、それを受け止めるアリアの眼もまた同じだった。

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