目の前には潤んだ瞳で真っ直ぐに自分を睨みつける少女。その気迫に押されたまま、未だに答えに迷っている自分。
   見詰め合うと言うには余り穏やかではない視線の交わし方――その最中で、脳裏に過ぎったのはチーフの言葉だった。

   ――<あの子は卵とおんなじなのさ。とても硬くてとても脆いんだ>――











   ……時間は遡る事約一時間。
   スコート・ラボの格納庫に己の愛機を収め、隣に並ぶもう一機――純白が眩しいパール・ネイルのパイロットと共に、整備スタッフの
  きびきびした動きを少し離れた所で眺めていた。
   次元獣バスターとして忙しく世界中を奔走する毎日が続いているクロウ・ブルーストはその日、久方振りにマルグリット・ピステールと
  再会したのだ。何処へとも無く去っていった彼女は、あれから自ら一人で次元獣を、否、それと化した民の魂を鎮めて回っていて、
  クロウが派遣された先に偶然マルグリットは居た。孤高に一人戦い続けているせいで、機体の一部は損傷し、それが原因で本来の
  力を出し切れず苦戦していたマルグリットを、援護と言う形でクロウが助太刀し、そのままブラスタと共にラボへと連れ帰った。
   次元力を使用している機体をチーフであるトライアに診せれば、今後の次元獣との戦闘に役立つデータが取れるかもしれない。
  その上でパール・ネイルの修理も出来れば両得である。騎士道を貫くマルグリットは最初の内、クロウとその仲間に迷惑は掛けられない
  と頑なだったが、利害の一致を説明すると、はにかみながらこちらの申し出を受け入れてくれた。
   トライアの指示により整備スタッフがパール・ネイルの機体チェックを行う様をのんびりと眺めていた時、ふと傍らでにやにやと笑っている
  トライアの姿に気付き、クロウは嫌そうに顔を顰めた。
  「――言いたい事があるんなら言ってくれると有り難いんだがな、チーフ」
  「おや、言って良いのかい?と言うか言わなきゃ分かんないのかい、朴念仁は。……ここにエスターが居ないのを不思議に思わない辺り、
  すっかりあの子の事を忘れているようだね」
  「げっ!?」
   にたりと人の悪い笑みを浮かべるチーフに、思わずクロウは潰されたカエルの様な声を上げた。
   エスター・エルハス。――最初はライノダモンを倒す事を嫌々クロウに押し付けていた少女だったが、ある出来事を切欠に、クロウに
  対しての態度はすっかり軟化し――たものの、今度は情が傾き過ぎて暴走気味、しかも気性の荒さはそのままで、以前にも増して
  爆弾娘と化している。以前マルグリットと居る所を、エスターに知れたらとトライアにからかわれて大慌てした事があるが、あの時よりも
  知られる可能性は高い。彼女と何ら疚しい事はなく、唯の知人の範囲なのだが、エスターのヤキモチと癇癪はそれを説明しても理解
  してくれるか如何か――。
  「……?何か問題が起きたのか?」
   きょとんとした顔でトライアとクロウを見比べるマルグリット。それに対し、何処からともなく取り出したトライアはおコンさんを被りながら、
  「モテる男には色々と事情があるのさ」と面白そうに笑っている。だがクロウは笑い事どころではなかった。
   ――確実に誤解される。しかも、パール・ネイルの整備を優先に考えていた為に、エスターに逢うと言う事をすっかり忘れていた。
  いや、逢う約束などはしていなかったのだが、所在も尋ねず訪れず、他の女性パイロットと話していると知ったら、あの少女は間違いなく
  怒る。怒涛の如く怒り狂うに違いない。
   がりがりと鴉色の髪を掻き毟り、未だに事態を理解していないマルグリットに要らぬ事を吹き込もうとしているトライアへ、顔を上げて
  詰め寄る。
  「そ、それでエスターは今何処にいるんだ?勿体ぶらずに直ぐ教えてくれ、チーフ!」
  「おやおや、今まで忘れておいでだったのに、随分な焦り様さね。まるで浮気現場を知られたくない旦那みたいだよ」
  「アンタにゃ前にもそうじゃないって説明しただろうが!楽しんでないで教えてくれ、頼む!」
  「ふふん。ま、私も其処まで人でなしじゃない。教えてあげるよ、感謝しな。エスターは――…」
  「ここだ!」
   トライアの声を遮って、甲高い少女の声が響いた。びくっと肩を震わせ、クロウが恐る恐る、声のする方を振り向いた、――時。
   ――ごんっ!
  「おぐぅっ!?」
   四角く硬く重たいものが顔面にクリーンヒットした。元軍人とは言え顔までは鍛えられない。充分に痛すぎる衝撃を与えてくれた物体が
  がつん、と硬そうな音を立てて床に落ちたそれは――「貴方の傷、優しくケアします。何時もお傍に救急キット」とコピーがついた応急箱。
  容赦ない一投で、痛みで目の前に火花が散り、額がうっすら盛り上がって瘤が出来始めている。いつぅ……と唸るクロウと、唖然とする
  マルグリット。トライアは「わたしゃ知らないよ」と言っておコンさんで顔を隠している。
  「え、エスター……あの、幾らなんでもこれはねぇ、と思うんだが……?」
   ずきずき痛む額を押さえつつ、声の方向へと視線を向ける。ぶん投げた格好のまま左腕を垂らしたエスターが、射殺さんばかりに
  クロウを睨みつけており、異議を唱える声はその迫力に押されて尻すぼみになっていった。蒼い瞳を吊り上げ、口を思い切り引き結び、
  わなわなと肩を震わせて、鬼の形相で立つエスターに誰も声を掛けられずに、暫しその後に続いた無言。
  「クロウの、…………………………馬鹿野郎――――――――ッ!!!!!!」
   たっぷりと溜めて溜めて溜めて、絶叫を上げ、エスターは踵を返して猛ダッシュでその場から去っていった。入れ違いにやってきたカルロス
  に思い切りぶつかっていたが、よろめいたのはカルロスの方で、エスターは振り向きもせず走りすぎて行く。
   咄嗟に追えないでいるクロウと、何が何だか分からない、目が点になったマルグリット、そして肩を竦めるトライアの三人の下へ歩み寄ると
  カルロスは落ちていた応急箱を拾い上げ、はい、とクロウにそれを差し出した。
  「投げつけられたのがこれで良かったねぇ。直ぐに手当てが出来るし」
  「投げつけられないのが一番なんだけどな……」
   前髪で隠れるとはいえ、盛り上がった瘤を擦り擦り、クロウがカルロスの軽口に溜息をつく。差し出された応急箱を押し戻し、時間が
  経てば治る、と少々痩せ我慢気味に呟いた。カルロスは引き戻された応急箱を開け、一人中身を漁りながら続ける。
  「まぁ、あの子の一番近くにあったもんだったからねぇ、これが。本来はあの子が使うべきところだったんだけど、使い方が違っちゃったなぁ」
  「――エスターが?……そう言えば、今さっき投げてたのは左手だった。利き手じゃなかったが、何かあったのか?」
   額を擦り続けて痛そうに顔を歪めていたが、カルロスの呟きにクロウは先程見た何時もとは違う利き手のエスターを思い出す。
  怪我を負う様な事態があったのか?そう問い掛けた先のカルロスは相変わらず応急箱の中身を、あれでもないこれでもないと漁り
  続けるままで、答えを返そうとしない。それを補うようにトライアが口を開いた。
  「今日はあの子の初陣だったのさ。次元獣バスターとしてのデビュー戦ってとこだね。初めての実戦だけにちょいと連中の反撃を大きく
  食らっちまってね、あの子の機体は別の格納庫で改修してるんだ。ここにはないからクロウが気付かなかったのも仕方ないさ。
  まぁそれで、大した怪我じゃないが負傷したところをカルロスが手当てしに行ったんだけど――…」
  「君が還って来たと聞いたら手当てもしてないのに飛び出して行っちゃった。最初は僕に応急箱を隠しとけって言ってたんだよ。
  怪我したなんて知られてクロウに心配掛けたくない、ってね。……だけどいきなりUターンしてきて、僕から応急箱を掻っ攫っていって」
  「一度気付いて態々ぶつける為に取りに戻ったなんて、あの子も律儀さね」
  「……それを律儀って言うのか?」
   普段はそりが合わないトライア、カルロスだが、そこだけは息を揃えたようにうんうんと頷いている。やや呆れたような溜息で呟いたクロウ
  だったが、自分を慕ってくれているエスターが初陣を追え、どんな気持ちで自分に逢いに出て来たかと思うと――やはり、申し訳ない
  事をしたと思うのだった。きっと褒めて欲しかったに違いない。きらきらと目を輝かせて自分の言葉を待っている、そんなエスターの姿が
  容易く想像出来て、クロウは肩を落した。
   後で謝ろう。故意ではなかったにしろ、初めて次元獣と戦った少女に労いの声一つ掛けてやらぬまま、知人とぼんやりしていた自分に、
  多少なりとも否はある気がする。
  「なかなか良い子だろ?怪我しちゃったーってクロウの同情を引く事だって出来たのに、そんな女々しい真似なんてせずにさ、ただちゃんと
  やりきったって胸を張って言おうとする意地があるんだから、あの子は」
   少しばかり落ち込んだ風に肩を落とすクロウの背を叩き、トライアは言った。
  「才能があったにしろ、それまで何の訓練も受けてこなかった子が、災害認定を食らうようなバケモノと戦うんだ。どれだけ大変な事か
  分かるだろ?クロウの役に立ちたい、共に戦いたい、パートナーになりたい、その一心でここまで来たんだから、大したもんだよ」
   エスターが去った出口を見遣り、呟くトライアに、傍らで成り行きを見ていたマグリットが頷いた。
  「……強いな、あの少女は」
   騎士として戦い続けていた故に、見知らぬ少女の、だが強い志に共感出来たのだろう、マルグリットは眩しそうに、懐かしそうに呟く。
  エスターの姿に遠き日の誰かを重ねるように。
  「ああ、強いよ。たった一人生き残って、クロウに逢うまでずっと次元獣に復讐だけを誓って生きてきたんだ。半ばヤケクソになっちまって、
  随分とひねたところもあるけどね。それでも何処か自分自身の事にさえ諦めきっていたあの子を、コイツが救ったのさ」
   ばしっとクロウの背を叩き、トライアは続ける。
  「それからあの子にとって、クロウがある種の生き甲斐になったんだ。目指すところであり、憧れであり、初恋の相手であり、ってね。
  だからクロウの事になるとああいう風にちょいと見境がなくなっちまう。どれだけ強がっても、まだ年頃の女の子だ。親や友人を喪った
  辛さ全部乗り切れてる訳じゃない。ああやって必死で意地を張ってないと、折れちまいそうになるんだろうね。
  エスターは卵とおんなじなのさ。どんなに握り締めても潰れないが、ちょっと打っただけで割れちまう。――とても硬くてとても脆いんだ」
  「……」
   クロウも無言でトライアの言葉を聞いていた。エスターの危うさは、常々自分も感じている。爆発的な感情の吐露――主に怒りに
  関してだが、それに対してクロウが怯えるのはその勢いだけでなく、その裏に見える感情の脆さを感じているからだ。柔い核を守るように、
  硬い怒りの殻で心を守るような――そんな少女。
   大切な者を奪った存在へ、恐怖も悲しみも押し殺して怒りだけをぶつけようとしていた姿を。僅か一度だけ共にした戦場で垣間見た、
  哀しい覚悟。
   無意識の内に硬く唇を噛み締めていた。
  「と言う事で、後は頼むよ?『お父さん』」
  「………………は?」
   しんみりとした空気の中で酷く間抜けなカルロスの声がして、クロウが顔を上げると、何故かカルロスはクロウの手に包帯と応急
  スプレーの缶を握らせていた。
  「そうさ、娘との対話を大事にしておくれよ。こういう時は『母親』より『父親』の方が案外話が出来るもんさ。特にあの子の場合は
  ファザコンだし」
  「……まだ生きてたのか、その設定。っていうかなんでアンタにまで言われなきゃならん!?」
   調子に乗って同調するトライアは兎も角、応急セットの一部を手渡してきたカルロスにクロウが吼える。嫌味な金持ちはヘラヘラと
  笑って、良いじゃない僕も混ぜてよ、等と言ってくる。迷うことなくクロウは一刀両断した。
  「断る」
  「酷い!?パパ、僕のことそんな嫌い!?」
  「いつ俺が金持ちの父親になった!?そもそも俺よりアンタは年上だろうが!」
  「はいはい、どーでもいい父子喧嘩はそこまでにしときな。クロウ、エスターはまだ怪我の手当てもしてないんだ。やってきてくれるだろ?」
   しなるカルロスにクロウが吼え、その間をトライアが割って入る。父子喧嘩の辺りに思い切り反論異論異議を唱えたかったが、トライア
  の言う事は尤もだった。
  「ったく、これだから女は苦手なんだ……」
   渋々と言った風情で受け取った缶と包帯を持ち直し、クロウはエスターの去っていった方向へ向かい歩き始める。その後ろから、
  躊躇うように俯いていたマルグリットが、待ってくれ、と声を掛けた。足を止め、首だけを捻って少し振り返る。両手を握り締め、俯き加減
  で祈るよう言葉を綴るマルグリットがそこにいた。
  「――私は、あの少女の気持ちが少し分かる気がする。……縋るものがなければ、堪えられないと言う気持ち。私が言うのはお門違い
  かもしれない、ましてや、次元獣は私達の――…だが、勝手を承知で私からも頼みたい。何時か、何時かあの子も気付く時が来る。
  だから、それまでは――…」
   全てを言い切る前に思い故に言葉を詰まらせるマルグリットの方から、視線を正面に戻し、クロウは何も言わず前に進んだ。ただ一度、
  軽く後ろに示すように、右手を振って。






  ****************************************************


   エスターの居住スペースはラボの中にある。その一室の扉の前で、クロウは一度咳払いをした後、ウィンドウに向かって声を掛けた。
  「エスター、俺だ。開けてくれないか?」
  『……………………』
   応答はない。……怒ってる。これは凄く怒ってる。ツゥー、と背中に冷たい汗が流れた。――気を取り直して笑顔をつくり、テイク2。
  「エスター、怪我したんだろ?処置しないと綺麗な肌に痕が残っちまうぜ?」
  『黙れスケコマシ』
   応答はあったが、酷い一言で蹴り飛ばされた。……そろそろ泣きたくなってきた。居た堪れない。
  「…………」
   ここは方法を変えるべきか。んんッ、と咳払いをし、愛想笑いを浮かべた顔を引き締めて、声のトーンを下げる。
  「これからもDMバスターとしてやっていくんなら、怪我はその都度治せ。じゃないと何時かその怪我が命取りになる。経験者の意見でも
  信用ならないって言うんなら、これ以上は言わないけどな。――俺と顔を合わせたくないってんならしょうがない。ここに置いとくから――」
   ――プシュ。
   扉の前に包帯とスプレーを置いて去ろうと屈んだ時、扉が開いた。部屋の奥のベッドの上に、タンクトップとホットパンツ姿で膝を抱え
  顔を伏せるエスターが見える。スプレーを拾い上げ、立ち上がって開いた扉の向こうへと進んで行った。

   エスターはベッドの端に小さく膝を抱え、怪我を負った右腕を左腕で覆うようにして隠していた。相変わらず伏せた顔の少しの隙間
  から見える目は、物凄い眼力でクロウを睨みつけており、睨まれ続けているクロウは、蛇に睨まれたカエルのような心地でいた。
  頬に冷や汗を垂らしつつ、エスターのベッドに腰掛ける。少し距離を置いて。……あまり近付くと噛みつかれそうだったとか、そういう
  理由、無きにしも非ず。
  「エスター、腕を見せてみろ。片手じゃ包帯は巻けないだろ?」
  「…………」
  「別に俺が嫌いでもいい。だけどな、怪我を放っておいて良い訳じゃない。手当てが済んだら直ぐ帰る」
  「…………」
   腰を捻り、振り返って手を差し出す。エスターは無言で右腕を伸ばした。――そこにあったのは、肘から手首近くまで変色した痣。
  機体の破損が激しいと聞いたが、それでこの程度で済んだのなら御の字だろう。だが、その腕の持ち主はまだ年若い少女なのだ。
  「随分派手にやっちまったな。……でも、ちゃんと手当てすれば痣も残らない。大丈夫だ」
   細い腕にスプレーを拭き掛け、手慣れた調子で包帯を巻いていく。スプレーだけでも充分だったが、女の子の腕に大きな痣が剥き出し
  になっているのは本人も気に掛けてしまうだろう。この怪我を見た時の、カルロスなりの気配りだったのかもしれない。ああ見えて意外と
  確りしてるんだよな、と少々感心しながら、腕に包帯を巻きつけて、最後は二股に割き、手首で結ぶ。
  「軽く曲げて伸ばして――出来るな。よし、これで大丈夫だ。お疲れさん。今日が初陣だったんだってな?無事還って来て来られて
  良かった。直ぐに気付いてやれなくて悪かった。その……」
   柔軟な動きが出来るかどうか確認した後、ほっと息をついて軽くエスターのプラチナブロンドを撫ぜて――そこで言葉に詰まる。何と
  弁解して良いものか。えーと、と格好悪く繋げたところで、今まで無言だったエスターが口を開いた。
  「……笑いたきゃ笑えよ。初陣なんて格好良いもんじゃない、辛うじて倒して、辛うじて還って来たってだけで!クロウやそのの仲間
  みたいに全然強くないよ、あたしは!折角チーフが預けてくれた機体だってボロボロにして……!こんな負け犬みたいなのと話したって
  何にも面白くないだろ!?アンタは!」
  「ちょ、ちょっと落ち着け、落ち着けって!」
   口を開いた途端、感情の波が溢れてきたのだろう、引っ込めた腕の拳を震わせ、牙を剥いた猫の様に威嚇して叫ぶエスターを何とか
  宥めようとするが、エスターの昂ぶる感情は落ち着いてくれないようで、その勢いは止まらない。

  「どうせあたしは育ちも知れない田舎娘だよ!?クロウや、その仲間みたいに立派な経験もなけりゃ地位も実戦もない!悪かったな!
  それでも、それでもっ……!?あたしみたいな、一緒にいたってお荷物の小娘よりクロウと互角で戦える女騎士の方がいいに決まってる
  んだ!悪かったな、くそ、ちくしょうっ!」
  「誰もんな事言ってねぇよ、俺だって軍で初めての実戦の時はそりゃ悲惨だった。ロクな戦績を残せなかったし、――…まぁ、兎に角。
  誰だって最初はそんなもんだ、無理に張り合う事もない。機体がボロボロになろうが、エスターが無事で還って来てくれた事の方が
  俺も嬉しいし、チーフだってああ見えてそう思ってる」
  「……あたしの事なんか忘れて乳繰り合ってた癖に……」
   説得するように一つ一つ話し掛けて――途中、忌々しい軍人時代を振り返りかけ、記憶から追い払う。データと機体が命、と公言
  しそうなトライアだが、先のやりとりでもエスターの事を可愛がっている事が分かる。誰もそんな風に思っちゃいない、と髪を撫でたところで、
  恨みがましい声に突っ込まれ、うっと言葉に詰まる。
  「いやだから乳繰り合ってねぇ。マルグリットとは知り合い――共に戦った事のある仲間で、そもそも俺が女嫌いだってのは、エスター
  だって知ってるだろうに。そんな知人友人以上の感情なんて持ってると思うか?」
   在り得ない、と両手を掲げてみせるが、じとーっとしたエスターの視線は変わらない。やれやれと肩を竦めて溜息をついた時、不意に
  白く小さな手がクロウの腕を掴んだ。驚いて顔を上げると、あの射抜くような強い蒼の眼差しがクロウを捉えていた。
  「じゃあ、あたしのことはどう思ってる?クロウにとって、あたしって何――?」
   まさかいきなりそんな質問が飛んでくるとは思わなかった。だが答えなければ、視線を逸らすことすら許されない気迫に、言葉を失う。
  身を乗り出し、言葉を求めるエスターに何と言ってやれば良い?――手の掛かる妹のような、少しおっかないけれど可愛いとも思える
  存在。……分かっている、彼女が求めている答えはそれではない。だが、求められた答えは真実ではない。
   蒼い色が潤み始め、強がって吊り上げているのに今にも泣き出しそうな弱さが垣間見えて――尚更答えに詰まる。強い意地と、
  儚い心。どちらも持つ少女だからこそ、その心を傷つけないように、乱暴な意地に振り回されてきたクロウだ。フェミニストを気取るつもりは
  ない。ただ、女が苦手だ。強いようでいて弱い。弱いようでいて強く振舞おうとする。その弱さが透けて見えているのに、痛ましい程
  強がろうとする。戦場に居たマルグリットもそうだった。――やはり、女は苦手だ。

  「……エスターは、俺の事をどう思ってる?」
   逆に質問を返してみた。答えをはぐらかすな!と怒鳴られるのを覚悟で問い掛けたのだが、怒鳴る前にエスターの顔は真っ赤になって、
  え……と声を漏らした後は俯いてしまった。ぎゅううっとクロウの腕を握り締めたまま、暫く押し黙っていたが、意を決したように顔を上げ、
  「あた、あたし、あたしはっ……あたしは――クロウが好きだ。あたしを助けてくれた、あたしの心を救ってくれた、大事な人だ。
  チーフにも感謝してるけど、あたしが大好きなのは、クロウなんだよ。……お、女の子、として、好き……」
   最後は真っ赤な顔をもう一度俯かせて、ぽつりと告白する。可愛らしい年頃の娘らしく、恥ずかしそうに。
   同じ年頃の男なら、多分応えてやれたのだろうこの子の思いには。だが自分は、それを素直に喜べる程若くはなく、全部を受け止めて
  やれるほど年を重ねてはいなかった。それに、何よりも――自分にはあの過去がある。自ら振り返る事すらしない、出来ない過去が。
   ……それでも。
  「エスター」
   そっと名を呼んで、白い頬に手を添える。びくっと怯えたようにエスターが身体を震わせた。おずおずと顔を上げ、視線が重なる。
  「俺は、エスターの望んでる答えを持ち合わせちゃいない。それでも――…応えてやる事は出来る。エスターが望むならな。但し、一つ
  条件がある。……何時か必ず俺よりもずっといい男を見つける事。それが条件だ」
   ――何時か、何時かあの子も気付く時が来る――。
   そう、マルグリットの言う通り、何時かこれが、恋でもなく愛でもない、唯の憧れが形を変えただけ、一過性の感情だと気付く時が来る。
  吊橋の上での効果のような、そんなものだと。だけれど、縋るこの手を振り解く勇気もまた、自分にはない。震える手を解いた時、
  その時の少女の悲壮な顔を見る事が辛い等と――我ながらつくづく駄目な大人だと胸の内で自嘲する。エスターに甘いのではなく、
  自分自身に甘いだけだ、俺は。縋れるものに縋る、その選択が正しい事ではないと分かっていながら、諭してやる事もしないで。
  「それでも、いい――…クロウが、あたしを受け入れてくれるなら、それだけでいいから……!……現れなければ?現れなきゃ、あたし、
  ずっとクロウを好きでいて良いよね?」
   必死に縋りつく、光を見出して緩むエスターの顔に安堵すれば良いのか、苦笑を漏らせば良いのか分からない。問い掛けに答えを
  返さぬまま、クロウは、微笑む形に変わったエスターの唇にそっと口付けた――。

  「み、見るんじゃねぇこの変態っ!うあああ、な、何しやがる馬鹿!色情魔!いやああああッ!」
  「――…いや。エスターさん?脱がなきゃ出来ねぇし、見なきゃ何も進まないんだが、どうする?」

   あのキスから15分経過――現状、下着一枚になったエスターが吼え、胸を隠してベッドの上で必死に抵抗している。クロウはというと、
  邪魔になるコートとベスト、ベルトとアクセサリを外した状態でエスターの肩に手を付き腰元を跨いでいる格好。脱がないのは卑怯だ!と
  言いつつ、んじゃ俺も脱ぐか?と聞くと、見せるな露出狂!と怒鳴られた。……理不尽すぎる。
   だがまぁ、何時ものエスターで少し安堵した。しかし、先に進む事に関しては同意した割に、初心な娘さんはなかなか身体を開いて
  くれない。かといって止めようとすると、あたしに魅力がないから、等と言ってくれる。――相変わらず扱いが大変なお嬢さんだ、とこっそり
  溜息を吐いた。
  「う、うううう……っ、へ、変態っぽい事したらぶん殴るからな!舌噛んでやるっ!分かってんのか、おい!?」
  「初心者にんなハードル高い真似しようと思ってねぇし、それに俺は至ってノーマルだって。……怖いんなら、目瞑ってりゃ良い。
  触って、キスして、触られるのが嫌だって思ったら直ぐに止めてくれ。そこまでにする。俺だって無理強いしたくないしな」
   涙目で真っ赤になりながら訴えられると、何故かこっちが悪い事をしているような気分になる。――まぁ、年齢差を考えれば少々
  アレだったりもしないでもない。何時でも止める、と忠告しておくと、エスターも腹を決めたのか硬い表情で頷いた。緊張、と言う文字を
  思い切り顔に貼り付けた様子は、微笑ましいと言えば微笑ましい。見付からなければずっとクロウを好きでいる、と言った時の期待と
  希望に満ちた表情も愛らしかった。だから余計酷い事はしたくないし、泣かせたくない。
   硬い表情を和らげる為に頬へ額へ、キスを繰り返し続ける。くすぐったそうな声が聞こえても制止はないので引き続き、今度は唇へ。
  触れ合うだけから軽く吸い上げるだけ、輪郭を舐めるだけ、少しずつ慣らしていき、舌先で唇の間を割って、そろりと舌を差し入れる。
  「んあ――っ?!……あふっ……っ」
   驚いて開いた唇の間をすり抜け、そっと表情を覗き見ながら深く、舌を絡めていく。震える舌を捉えて舌の裏を擽り、歯の羅列を辿り。
  強張る身体と、ほんの少しの抵抗を胸に押し当てられた両手で感じながら、きゅうっと閉じたままのエスターの表情を窺い続けた。
  そこに強がりなど見えない。意地を張る余裕もなく、唯受け入れる事で精一杯の様子はいじらしいと思えた。薄く目を細めて眺めて
  いると、瞼を震わせて恐る恐るエスターの瞳が覗いた。はた、とキスをしたまま目が合い、桜色に染まっていた頬が一層紅くなっていき、
  再びぎゅっと硬く目を瞑るエスターの様子が可愛くて、ふ、と間に零す息に笑みが混じる。
   たどたどしくとも、次第にエスターもクロウの舌に自ら絡め重ねるようになり、二人が其々の意思で操る舌が濡れた音と乱れた息を紡ぐ。
  抵抗ではなく縋りつく先としてエスターの両手がクロウのシャツを掴み、震えた。
  「んぅ、んっ……は、――…んっ、クロウっ……っ」
   息継ぎの間に切なく名を呼ばれ、どきりとする。当たり前だが、エスターのこんな声は今まで聞く事は無かった。男勝りな態度と口調
  の少女が切なそうに自分に縋りつき、喘ぐ姿は中々クるものがある。ゆっくりと舌を唇から引き抜けば、名残惜しんで開いた唇から、
  まだ足りないとでも言うように舌が伸ばされて、唇は重ねないまま舌だけを絡めていく。躊躇いつつも、そうしなければ舌を重ねられない
  事から舌の根までぴんと伸ばしてクロウの舌先を求め、これで良いのかとそぅっと瞼を開き窺うエスターの仕草――。
   そういう風に導いたのは自分とはいえ、何とも淫靡な光景だった。無論その事を指摘すればすぐさま真っ赤になって舌を噛みかねない
  勢いで口を閉じるだろうから、黙っておく。重力に引き摺られていく唾液がエスターの口腔に流れ、落ちていった分を伸ばされた舌から
  絡めて奪っていく。こくん、とエスターの喉が内側に溜まった唾液を飲み込んだ頃を見計らって、今度こそ唇を離した。
  「ん――…ぁ、いっちゃうの……?」
   寂しそうに声を上げるエスターの頬を撫ぜてから、首筋へと唇をずらした。キス一つでここまで蕩けてくれるとこちらも気持ち良い。
  白く細い首を歯を立てず食み、痕が残らないように緩く吸う。
   白く細い首を歯を立てず食み、痕が残らないように緩く吸う。中々戻ってこない自分が何をしているか――トライア辺りに気付かれて
  いそうだが、もしばれていたとしても見える位置にわざわざ痕を残すような真似はしない。それに、エスターを自分のものと見ている訳では
  ないから。白い肌は瑞々しく綺麗で、クロウも気を抜いてしまったらつい紅い印を残したくなってしまう。それはいかんと何度か自らを
  制し、首筋を下りて胸元へ――。
   そこに来て、恥ずかしそうに手をシーツの上に落していたエスターが、ぐいっとクロウの髪を引っ張った。
  「いてっ、な、何だ?……止めるか?」
   それ以上は駄目だと言うのか、クロウは一旦顔を上げてエスターをみると、何故か真っ赤な顔のエスターが怒ったような表情でクロウを
  見上げている。
  「や、めない!……やめないけどっ!小さいとかショボいとかナイチチとか貧乳とか言ったらぶっ殺すからな!」
  「ああ――そういうことか……」
   なるほど、自身の胸のサイズにコンプレックスがあるようで、それを先に釘を刺しておきたかったらしい。視線を下ろせば、まだ発展途上
  にある小振りな乳房がある。全くないと言う訳ではなく、丁度クロウの掌にすっぽりと収まるような大きさで、淡いピンクベージュの先端が
  まだ柔らかそうに震えている。
  「そういう事って何だよ!馬鹿にしてんのか!?」
  「い、いや違う、してない!――別に俺は大きいのが好きとか小さいのが好きとか、そういうのはねぇから」
   理由に納得した途端、またもや食って掛かられてしまった。身を起こして怒鳴りつけようとするエスターを宥め、掌で右の乳房を包み
  やわやわと揉んでやる。
  「あっ、や……クロウっ……ッ!」
   途端にエスターの身が戦慄き、怒る声が弱々しく恥らうような喘ぎに変わる。拒否するような仕草は無かったので、そのまま軽く指先
  に力を篭めながらクロウは囁き続けた。
  「それよりもちゃんと感じてくれてる方が俺としちゃ、嬉しいけどな。――…大丈夫か?」
  「んっ……へいきだけど、胸触られただけで、どきどきして、すごい、変だ……」
   問いかけには素直に頷き、戸惑った表情でエスターがクロウを見上げる。好意を寄せる相手とはいえ、男に初めて裸を晒し、素肌に
  触れられた少女らしい、初々しい反応だった。出来るだけ怖がらせないように、最初は緩く優しく掌で、柔らかい乳房を軽く揉みしだき、
  息をつめるようなエスターの呼吸が落ち着くまで待つ。
  「ん、ぁ、あっ……んぅ、クロウの手、おっきいね……温かくて、ん……」
   手でエスターの乳房を愛撫しながらその表情の変化を知る為に顔を眺めていると、目を閉じて温もりと快感を追っていたエスターが、
  そっと瞼を持ち上げてはにかみながら微笑んだ。羞恥と喜びがない交ぜになった表情が、クロウに向けられる幼くとも純粋な気持ちを
  如実に伝えていて、クロウは小さな痛みを胸に覚えた。
   そんな風に微笑んで貰える資格など、自分にはない。だがエスターはクロウの過去を知らない。伝えるつもりも、今はない。
  「……気持ち良いか?」
  「うん――」
   問いを重ね、素直に頷くエスターに微笑み返して、今度は指先でまだ柔らかい先端を摘んだ。人差し指と親指で軽く圧迫するように
  挟み、擦り合わせていく。
  「ひゃ、ひああっ、クロウっ――そこ……っ」
   びくん、とエスターの背がシーツから浮き上がった。羞恥がそうさせるのか、それとも元々素質があるのか、エスターはどうやら感じやすい
  身体のようだった。軽く擦っただけでふるふると身を震わせて紅い顔で喘ぐ。シーツをしっかりと握り締めて堪えている姿が何とも健気だ。
   愛撫を施して応えてくれるのならば、自然とそれにも力が入る。心地良い喘ぎを漏らしながら、決して嫌だとは言わないエスターに応える
  ように、クロウも指の腹で先を捏ね回したり、軽く引っ張ったりと変化を変えて弄っていく。柔かい感触だった乳首は、クロウの愛撫により
  ツンと硬くしこり立っていた。
  「あ、あっ、ひうっ、あたしのおっぱい、変になっちゃうよ、クロウっ……!」
  「こんな位じゃ変にはならないから安心していいぜ、それに感じてくれりゃ俺も嬉しい」
   長い睫毛を震わせて喘ぐエスターにそう告げると、未だに触れていないもう片方を口に含む。
  「ふあっ、恥ずかしいっ、ああんっ!」
   伸びてきたエスターの手がくしゃっとクロウの髪を掻き乱し、一際高く喘ぎが響いた。それを意に介さず、銜えた先に舌を擦りあわせて
  撫で、唾液をたっぷりと絡めてエスターの乳首を穢していく。嘗め回し、転がし、舌を弾く硬い弾力を楽しむ。その間も顔を持ち上げ、
  喘ぐエスターの表情を眺めていた。
   恥ずかしがりながら、クロウが施す愛撫から目が逸らせずに見詰め、舌が這う度にエスターの閉じかけた唇から喘ぎが零れていく。
  鴉色の髪を細い指が乱して、エスターの熱い吐息が頭上から降ってくる。絶え間なく聞こえる喘ぎが心地良かった。エスターは嫌がる
  どころか、舌が離れていくとそのタイミングで小さく、あ……と声を漏らし、離れていって欲しくない、と切なそうな瞳でクロウを見詰めた。
  恐らく本人は気付いていないのだろうが、身体は素直に愛撫を受け入れているようだ。期待に応えるように、唾液で濡れて光る先端を
  乳輪ごと口に含んできつく吸い上げる。
  「きゃうんっ!あ、それだめえっ!ひ、ひうっ、あああんッ!」
   細い身体がベッドの上で跳ね、悶える。駄目、と唱えられたがクロウは舐めしゃぶるそれを止めなかった。髪にしがみつくエスターの手は、
  クロウの顔を突き放すどころか抱え込み柔らかい膨らみに押さえつけている。快感に驚き怯えながら、しっかりとそれを求めている証拠だ。
  もう片手で片方の乳房と先を絶えず揉み込み、尖りを摘んで刺激を与えつつ、片方を舌で嬲り、吸ってしゃぶる。シーツの上をエスターの
  か細い足がばたばたと泳いで、暴れる脛が時折クロウの股間を掠めていき、可愛らしい喘ぎと素直な身体の反応に少なからず昂ぶり
  始めたそこを刺激され、それにはクロウも堪らず、う……と低く呻いた。
  「あふ、ひぅっ、さきっぽばっかりぃっ、ひぁ、あうッ、かんじゃ、かんじゃらめぇっ!ぁ、あっ、こりこりってするの、ゃあッ!んぁ、ふああ……」
  「ん…………ふっ……。――…エスター、大丈夫か?」
  「ふにゃぁ……」
   エスターの感度が良く、良い声で啼いてくれるせいでつい時間を忘れて念入りに愛撫を続けてしまったが、いつまでもそこばかりに構って
  いられない。先端に絡みついた唾液を吸い上げ、まだ残る雫を舌で拭った後、手と口を止めてくったりと脱力したエスターを見上げた。
   まずい、初っ端から飛ばしすぎたかもしれん。愛撫の間はきつくクロウの頭を押さえていた腕は力なくシーツに落ちている。ぽぉっとした
  エスターの瞳は潤んで何処を捉えているのか、焦点が定かでない。その蒼い瞳がゆるゆると動いてクロウを見つけると、力の篭らない腕が
  もう一度クロウを捉え、引き上げた。抵抗せず顔の位置をエスターと揃えて気遣うように覗き込む。
   近くで見たエスターの顔は泣き出しそうに歪んでいた。……やりすぎた。しまった。初めてらしい娘に対してもう少し気遣ってやれば
  良かったかと後悔する中、エスターは顔を真っ赤にし目をうるうるさせてクロウを見詰める。
  「……クロウ、どう、しよう……あたし……お腹の下がずっときゅううってして、ムズムズして、くすぐったくて、変だ……。
  と、トイレ我慢してたわけじゃないのに、下着、ぬ、濡れて、濡らしちゃってるみたいで……」
   最後の方は涙交じりの声になって告白するエスター。逆にそれを聞いて、ああ、と納得するクロウ。快感が子宮に伝わり奥から愛液
  が溢れて濡れる、と言う事も知らないだけで、それはごく自然当たり前の身体のシステムなのだとエスターの頭を撫でてやりながら
  説明する。だから粗相をした訳じゃない、安心していい、そう言うと、泣き顔に近かったエスターもほっと安堵に顔を緩めた。
  「それで……これから、どうする?続けるか、それとも――」
  「続ける!」
   流石に最初から最後までと言うのは難しそうだ。一旦ここまでにして、と言い掛けたクロウの言葉をきっぱりとエスターが遮る。ぎゅっと
  胸元を小さな手が掴み、強く決意を決めた眼差しがクロウを射抜いた。
  「だって、ここで終わったら……それまでになっちゃいそうで嫌だ!もうクロウにこうして貰う事がなくなって、全部がうやむやになって、
  誤魔化されたり――そういうの嫌だからな!」
  「…………」
   必死に訴えかけるエスターの言葉にクロウは何も返せなかった。経験のない少女がどれほどこの行為に勇気をもって臨んでいるか
  ――行為の間は見なかったあの強い、激しい感情を剥き出しにした表情を受け止め、クロウはゆっくりと頷いた。
  「分かった。それじゃあ最後まで付き合って貰うぜ、エスター」

   クロウが身を起こし、エスターの下着に手を掛けると、やはりというか、びくりとエスターの身体が震え、小さく……や……と拒むような声が
  聞こえた。女の子らしい、ピンク地に白いフリルで飾られた下着の、腰に引っ掛かる生地を両指に引っ掛けたところで一旦止める。淡い
  色のそれも、上からでもちらりと臨めるクロッチの部分だけが色濃くなっており、エスターが言っていた通り随分と濡らしていたようだった。
  「……怖いか?それとも恥ずかしいんなら、脱がさずにする事も出来なくはないが……」
  「あ、あたし……自分の身体だけど、そんなとこ、み、見た事ないもんっ、だから変、だったらどうしよう、って――…」
   両肘で上半身を少し浮かせてクロウを見上げるエスターが、その後にほんの小さな小さな声で、――クロウに幻滅されるの、嫌だ。と
  そう言った。日頃の粗野な口調の少女が、何時も見せぬ恥じらいを見せて、好きな相手に嫌われたくないと訴える様は……なかなか破壊
  力があると思った。主に、理性へ対しての。切ない喘ぎと表情を眺め、瑞々しい肌に触れて、全く感じないクロウではない。たとえ女嫌いと
  公言しても、男性機能に異常があるわけでもなければ、男色家でもない。つまり、その手の欲望は当然持ち合わせている訳で。
   優しくするべきだと分かっていて、さてそれを行える理性がいつまで持つか、少々不安になってきた。
  「分かった、なら――」
  「ふえっ!?きゃああああッ!クロウ、待てこら、やだやだやだ何すんだ変態ィイイイ――ッ!!」
   エスターの唸る声に応えてクロウは迷わず下着を引き下ろした。びくっと驚いて脚をばたつく足を制して左足を抜き去り、右足の腿に
  ピンク色の下着を置き去りにしたまま、掴んだ左足を己の肩に掛けて縦に脚を開かせる。下着をなくして開いたそこに、自分の指を
  押し当てた。悲鳴を上げ真っ赤になって首を振るエスターの制止を無視したまま、まだ開いた事のない割れ目を二本の指で開いていく。
   まだ生え揃わない恥毛を濡らして光らせる蜜を、とろとろと溢れさせる秘裂。まだ一度も触れられていないそこはまだ鮮やかなピンク色で、
  指二本の力では硬い入口を広く拡げる事も叶わない。それなのに、丸い臀部の谷にまで零れていく程蜜を溢れさせていて――何とも
  淫靡なその光景に、見下ろすクロウの喉が鳴った。
  「変かどうか、見て確かめるのが一番だろ?……綺麗だぜ、凄く」
  「ふ、ううう〜〜〜〜ッ!?……うう、ほ……んと――?……何か変だったり歪んでたりしてない?」
   何の前触れもなくそこを開かれ覗かれたエスターは、ぎゅっと硬く目を閉じて顔を背けていたが、クロウの言葉に恐る恐る瞼を開き、クロウ
  の顔を見上げて尋ねる。宥めるように人差し指を割れ目に押し当て、擦りながら、顔をエスターへと向け直し頷いた。
  「ああ、凄く綺麗だ、エスター……」
   穏やかに頷いてやりながら、ゆっくりと指を中へと押し込む。くくっ、と軽い入口の抵抗の後、熱く蕩けた中へ指が飲み込まれていく。
  「あ、あぁッ!クロ、クロウっ……ッ!んんうっ、なんか、入って、入ってるよぉっ……!」
   直ぐにエスターの身体が震え、起き上がっていた上半身がガクンとシーツに落ちた。肘が上身を支えられなくなったようだ。もう一度シーツ
  の上に戻るエスターの様子を眺め、入り込んだ指を少しずつ奥へと進めていく。第一関節から第二関節まで、そして指の根元まで、少し
  ずつ焦らないでゆっくりと。まだ慣れていないエスターの中は狭く、硬い。だが溢れるほど湧く愛液が指の進攻を助けて、滑らかに詰まる事
  なく奥を目指して進められた。
  「あ、あっ、クロウ、んぅ、んんんッ……!」
   白い手がシーツを引っ張り身体に力を篭めようとしているが、クロウが片脚を掲げている為下肢に掛かる緊張は強制的に分散させている。
  余計な力が篭ってエスターが痛みを感じないように考慮しての事だが、エスターは身体が言う通りにならない事へ躊躇っているようで、嫌々
  と駄々っ子のように何度も髪を揺らして目を潤ませ、クロウを見て縋る。
  「ここまでにしとくか?」
   付け根まで愛液で濡らす指をそっと引き抜こうとすると、震えるエスターの手がクロウの手に伸びてそれを制した。
  「ふ、ぅううっ、ちが、う――や、やれる、やれる、けどぉっ……!なか、が、ジンジンしてっ、クロウの指が、あつくてぇっ……!これ、って、
  ねぇ、感じてる、のかなっ?あたし、クロウの指でっ、感じてるっ……?んぁ、あっ、ひうんッ!」
   エスターは初めて受け入れた指の感覚に戸惑い震えながら、 その中から快感を見出し受け止めようとしている。自信なさげに眉尻を
  下ろし、尋ねるエスターへと指を軽く前後させる事で応える。中を擦り、新たな喘ぎを引き出す。

  「ああ、エスターはちゃんと俺の指で感じてくれてる。いや、その前から、胸にしてる時からずっと感じてくれてたぜ。……中がこんなに
  濡れちまう位、気持ち良いって応えてくれてる。――…そういう時はもっと、気持ち良い、って言って良いんだ」
   気付かない内に自分の声も掠れて、零した溜息に熱が篭っていた。素直に頷くエスターの様子を確認すると、収めるだけだった指を更に
  動かし、中に馴染ませていく。指を引き、突き入れる。始めは浅く、次第に深く。そうして、エスターがより強い快感を感じられるように。
  空気と共に中に押し入ればぐちゅりと濡れた音が響き、指を引き出せば絡みついた愛液がとろとろと割れ目から溢れてくる。中は指に
  心地良く絡みつき熱い蠕動が伝わって、局部から視線を離し顔を上げればそこには、瞳を潤ませ、切なげに喘ぐエスターの顔。鼓膜へ
  甘たるく響く嬌声。クロウはやばいな、と胸の内で呟いた。優しく教えてやりたいと言う気持ちが、喘がせ啼かせたいと言う欲求へと摩り
  替わっていく。男は、どこまでいっても男でしかない。喘ぐ女の前で欲望を抑える術など持ってはいないのだ。
   ――…つまり俺は、エスターを女と感じているのか?五つも離れた女の子を?
   自らの欲望が示す答えに唖然として、だがしかし目の前で切なく喘ぎ身を捩るエスターを見詰め、思い改める。エスターは、充分過ぎる
  程魅力的な女だと。――流石に、まだ言ってはやれないけれど。冗談なら幾らでも。だが本音で口にするには自分も照れてしまう。
   それに、今はそんな言葉よりももっと直接的なものが求められている筈だ。
  「あ、あぁっ、ふああっ、クロウッ、あっ、い、いいっ!クロウの指っ、あたしの中をぐちゃぐちゃしてるのっ、気持ちいいよぉっ……クロウっ!」
   教えた通りに従って、迷わず良いと喘ぐエスターに顔を近づけて囁く。指は中に含ませたまま、ざらついた感触の内側を擦り上げた。
  「ひぁっ!?ひ、あぅッ!そこ、クロウぅっ、ひぅ……っ!」
  「指一本じゃもうそろそろ、物足りなくなってきたんじゃないか?随分慣れてきたしな」
  「あ、あぁあっ、にほん、になったらぁっ、あたし、もっとかんじ、かんじちゃうよぉっ……!さっきから、きもちいいのがいっぱい、ふくらんで、
  ふわふわしてっ、ふあぁ、変、なっちゃいそうっ、い、ああ、あああんッ!」
  「ああ、分かった。それが何か、直ぐにエスターも分かるようになる……」
   苦痛ではなく、快楽の生理的な涙で頬を濡らし、答えを求めるようにエスターがクロウを見詰める。指に絡みつく膣の具合とエスターの
  言葉から直ぐに事情は察せたが、言葉で説明するよりも実際体感した方が早い。時折腰を擦り付けるように揺らすエスターの中から、
  ずるりと指を引き抜き、中指を揃えてもう一度押し戻す。やはり二本同時となると入口の抵抗がきつい。指を手首から回して捻じ入れて
  いくが、感じる抵抗があると言う事はエスター自身も痛みを感じていると言う事だ。快楽に喘いでいた声が一変して、ん、と唇を噛み
  目を瞑って堪える仕草になる。
   第一関節まで収めたところで、手を止めた。エスターからは深い溜息が漏れる。
  「……痛むか?」
  「ちょ、っとだけ――きつい、感じ……。でも、ちょっと拡がって熱い感じが、痺れてるみたいで――…」
  「気持ち良いのか?」
  「……うん……」
   恥ずかしそうにコクンと頷くエスター。痛みまで鈍い快楽と受け止めようとしているエスターの身体は、馴らせばきっとどんな愛撫にも啼き
  喘いでくれるに違いない。――自分の手で如何様に初心な少女が女になっていくのか、育ててみたいと思い始める自分を制して、
  更に指を奥へ進めていく。
  「つ、く――…んっ……クロウ……あのさ」
  「……ん?」
   硬い入口を解し、先ほどよりもより慎重に指を進めていると、息を詰めたエスターがおずおずと声を掛けてきた。手の動きは止めず、顔を
  上げてエスターを見遣る。苦痛と快楽の狭間で揺れ動く少女は、それなのに何処か気遣うようにクロウを見詰め、
  「クロウは、へいき……っ?あたしばっか、されてて、クロウは、ぜんぜん、きもちよくない、んじゃないかなって……」
   馴らすばかりの行為に集中しているクロウを気に掛けてくれているようだった。余裕があるわけでもないのに、そう気遣ってくれるエスターの
  優しさに、ふ、と笑みが漏れる。安心させるよう微笑みながら、大丈夫だと告げた。
  「直接気持ち良くなるって事はないが、いい気分だぜ。エスターの可愛い声と顔が眺められるからな。それなりに興奮してる」
   そう、重たい位に股間には血が集まり、エスターの視線の届かない位置でボトムが苦しい位に膨らんでいる。指に絡みつく熱に期待と
  興奮を感じている。
   泣かせたくないと思っていたのに、苦痛に震える姿にぞくぞくと背筋が震える。無垢な少女の身体を思う様自分の欲望で穢して、犯して
  しまいたい。躊躇いがちな様子から、もっと淫靡に悶える姿を引き出したい。羞恥を煽り、そこを責めて、思う存分滑らかな肌を貪りたい。
   そんな欲望が熱と共に頭をもたげ始めている。――だが、勿論口にはしない。雄の欲望を剥き出しにしたら、間違いなくエスターは
  怯えてしまう。張り詰める欲望と興奮して乱れる息を飲み込んで、もう一度微笑んだ。
  「エスターが気持ち良いなら、俺も気持ち良い。……だから大丈夫だ」
  「そ、っか……。なら、良かった、あぁ、んぁんッ――!……後で、クロウ、あたしのなかで、いっぱい、気持ち良くなって、ね……?」
   ほっと息を漏らし、喘ぎ混じりの中でエスターが微笑む。期待してる、とそう返した言葉はその通りの意味で、ぎこちない誘いにも喉を
  鳴らしてしまう程、クロウもまた快楽に餓えていた。こなれてきた中の具合に合わせて自然と施す愛撫も激しくなり、空気と蜜をたっぷり
  取り込んだ指が、ぐちゅぐちゅと卑猥な水の音を立てて柔らかく解れた中を掻き乱す。
  「ひあッ!クロウ、はげしっ、んぁああっ!えっちな音、いっぱいするの、やだぁっ……!」
   エスターの耳にも充分届くような中を掻き混ぜる音。恥じらい、嫌だと言う声も聞こえるが、指を銜えるそこはまるで喜んでいるかのように
  クロウの指に柔らかく噛み付いてくる。
  「……嘘は良くないぜ、エスター。――寧ろそっちの方が感じて、気持ち良くなっちまうんだろ?」
   にやりと唇の端を上げて笑い、ぐり、と手首ごと指を返し奥を抉った。素直でない口にお仕置きするように。シーツの上をエスターの身体
  が跳ねる。裏返った嬌声が耳に心地良い。
  「ひぃんッ!?ひゃうううッ!?そこ、らめなのにぃっ!クロウ……っ、ふぁ、あっ、いやあんっ、変になっちゃうよぉっ!ひぁぁあッ!らぇ、
  やらぁっ、ぐりぐり、ぐりぐりしないれぇっ、くろぉっ!」
   呂律も回らず、快楽の涙を零しながら悶えるエスターを、更に追い詰めていく。指の動きを速めて、粘つく愛液が白く濁り始めた。
  忙しなく動かす指を時折留めて、探り当てた敏感な箇所を強く擦り、小刻みの振動を与える。細い身体がのたうち、肉付きの薄い腰が
  跳ねて、それでも手は止めない。まだ上り詰めてはいない。達するまで、手は緩めない。非情なほど強い刺激を送り続けながら、喘ぎ
  震えるエスターに囁いた。
  「変になっていい。俺しか見てない。だから、見せてくれ、エスター。……イくんだ」
  「い、ぁッ、あッ、クロウっ、らめっ、い、イク……!イッちゃうぅっ、いくッ、イくうぅぅぅ――ッ!」
   ぼろぼろと涙を零すエスターの瞳がぎゅっと閉じられ、一際甲高い喘ぎが宣言となって、同時にきゅうっと指が膣壁に食いつかれた。
  少女が初めての絶頂に昇り詰めた証拠だ。媚びるような襞の動きの中、達しているその最中さえ休ませず、敏感な一点を摩擦する。
  「ひぃいんッ!?イッて、イッてるのにぃっ、また、またイク!クロウ、イクの止まらない、よぉっ!あ、ああぁぁあああッ!」 
   高く伸び上がった快楽から容易く開放してやったりしない。これまでの苦痛や羞恥に耐え抜いた分、存分に浸らせてやる。達して、その
  最中にまだ続く終わりの見えない快楽を注ぎ込んで――。エスターの閉じた筈の瞳が見開かれ、薄い背中が浮き上がって、怪我も
  忘れシーツを力いっぱいに掴み、掠れるまで伸びる嬌声。何処か獣染みたその響きは、もう少女とは言わず、女とは言わず、雌のそれ。
   腰に直接響き、疼く肉茎にぐっと息を詰めながら、クロウは長い長い絶頂をエスターの穢れない身体に刻み込んでいった。



   
   
   脱力しきったエスターの中から指をずるりと引き摺り出すと、愛液を吸い込んだ二本は他の指と比べれば明らかにふやけていた。濡れ
  やすく感じやすいエスターの具合がどんなものだったのかをありありと示すその指を己の口元に寄せ、絡みついた蜜を舐める。久しく
  味わっていなかった女の濃い味がした。
   初めて達したばかりのエスターはまだ整わない呼吸を全身で繰り返している。白い肌は熱で薄っすらと桃色に染まり、額には汗の粒が
  浮かんでいた。開いた口から零れた唾液の痕が唇の端から伝い落ちているが、涙さえ拭う力のないエスターには、それを気にする事も
  出来ないようだった。指に絡みついた愛液の味を楽しんだ舌で、身を傾けそっと涙の後を拭い、その後に唇の端から零れた唾液の道を
  辿って掬う。労ってやるように、お疲れさん、と一言添えて。
  「……………死ぬかと、思った」
   熱い息を吐きながら、ぽつりと漏らすエスターの言葉に、クロウは思わず笑ってしまう。
  「うう、笑うな……馬鹿にしてんのかよ……」
  「そうじゃない。それだけ感じてくれたらこっちも男の冥利に尽きるってもんだ。寧ろ有り難いと思ってる」
   拗ねて唸るエスターの、額に張り付く髪を掻き上げてやりながら訂正する。あれだけ喘ぎ啼いてくれたなら、どんな男だって喜ぶ。無論
  自分だって、楽しませて貰ったし、随分と煽られてしまっている。恥ずかしそうに俯くエスターへ、よしよしと子供にするように汚れていない手
  で頬を撫ぜてやった。エスターは、ん……と気持ち良さそうに頬を擦りつけ、甘えてくる。何度も頬を包み込んで、相手の気が済むまで
  撫でてやっていると、ゆっくりと頬を離したエスターがクロウを見詰め、呟いた。
  「……でも、こっからが本番、だろ?」
  「まぁ、そうと言えばそうなんだが――…」
   エスターの頬から、己の頬へ移してカリカリと指で掻き、言いよどむ。確かにここからが、その通りなのだが。実際自分もそう余裕は無い。
  絶頂の甘い喘ぎが未だに耳に残っているし、膨らんだ熱は放出する先を求めてきつく布地を押し上げている有様だ。出来るなら抱きたい
  と思う――が。少々今の自分には余裕が無さ過ぎる。故に、エスターをこのまま求めて良いものか、躊躇っていた。
   言葉を濁すクロウの様子に、エスターの表情が次第に曇っていく。陰鬱な雰囲気を漂わせるエスターに気付いて慌てて顔を向けると、
  涙目でエスターが叫んだ。
  「……あたしじゃ、っ、……勃たねぇのかよ!」
  「ぶっ」
   あんまりにも直接的な発言にクロウは噴いた。斜め上を行く発言に驚愕してのそれだったが、エスターは逆に図星だと捉えたらしい。瞳
  に涙を溜めて、ちくしょう!と怒鳴り上げている。
  「やっぱりっ!どうせ、今までも全部お世辞だったんだろッ!悪かったな、色気の欠片もねぇ小娘でっ!どうせ、どうせあたしはクロウを興奮
  させられないマグロだよっ!」
  「何処でそのマグロの意味を知ったんだって突っ込みたいが、先ずその前に落ち着け、エスター。俺はんな事言ってねぇし、思ってもねぇ」
   下半身に力が入らないようで、自由に動かせる両腕をバンバンとシーツに叩きつけているが、片腕は酷く怪我をしている。痛くない筈が
  ない。それに実際傷にも響くだろう。慌てて両腕を捉え、エスターの頭上で細い二本の手首を纏めて押し付け、乱暴な抗議を封じる。
  う゛ーっ、と涙目になって唸るエスターを宥め、溜息をつく。疑わしげな眼差しをどうやって説得するか――…百聞は一見に如かず、とも
  言うし、実際分からせてやった方が早いのかもしれない。やれやれと天井を仰いでから、エスターの腿の付け根にぐいと膨張した股間を
  押し当てた。
  「ひぁっ!?え、え……っ?」
  「充分エスターの声に興奮してた。……ほら、分かるだろ?硬くなって勃っちまってるのが」
  「えっと、えっと……あ、こ、これが……?」
   驚いて悲鳴を上げるエスターへ、暫く擦り付けるようにしてその様を確かめさせる。理不尽な怒りを納め、初めて感じた男の膨らんだ性器
  に、ぱちぱちと何度も瞬きして忙しなく下半身のそれとクロウの顔を交互に見遣るエスター。問いかけに対して、ああ、と短く答えてから
  腰を上げ、エスターの肌から下肢をずらした。何となくクロウ自身も気恥ずかしくなって、掴んだ手首を離しつつ、エスターのびっくりしたような
  顔から視線を逸らす。
  「俺が困ってんのはその逆だ。最中のエスターが可愛すぎて、抑制が効かなくなるかもしれん。そうなっちまったら、エスターを傷つけちまう。
  指ですらあんなに慣れるまで辛かったのに、この上更にモノを突っ込んだら……な」

   その何倍の太さも質量もある代物で、狭い口を抉じ開けるのだ。侵す方はそのきつさに愉悦を感じるが、抱かれる方は間違いなく苦痛
  を多く知る事となる。それでも労わってやれれば幾らか軽減してやれる方法はあるが――喘ぐ姿に嗜虐心すら芽生えそうな今は危険だ。
  だからここまでにしよう、そう説得しようと詫びのキスを施しにエスターへ顔を寄せ――…、
  「クロウの馬鹿野郎ッ!!!!」
  「ぅがっ!」
   がいん、と硬いものがクロウの額を襲った。応急箱に続く痛恨の一撃に額を押さえ声にならない悲鳴を上げて呻く。火花散る中、
  エスターに頭突きをされたのだと気付いたが、何故食らったか全く理解出来ない。ごいんごいんと銅鑼が鳴るような痛みの余韻が続き、
  見下ろしたエスターの顔も衝撃から滲んだ涙でぼやけている。先程の自棄になったものとは何処か違う、けれどやはり怒ったような顔が
  キッとクロウを睨み据えていた。
  「痛くったって構うもんか!全然何にも感じて貰えないより、ずっとずっと――!クロウがあたしにドキドキしてくれたって方が大事なんだ!
  それとも何かよ、クロウはその、勃ったまま何にもしないでほっとく方がいいのかよ!あたしは、クロウがしてくれたみたいに、いっぱい
  クロウにも気持ち良くなって欲しい――…そりゃ、出来る事なんて、何もないかもしれないけど、乱暴にしてそれでアンタが気持ち良い
  ならそれが嬉しいから。萎えちまうんなら、え、エッチな言葉だって格好だって、何だって言ってやるしやってやるよ!
  あたしがする痛い思いっては、今の頭突きと応急箱ぶつけたのでチャラだ!クロウだって言ったじゃねぇか、最後まで付き合って貰う、って!
  ……だから、だからっ、最後まで……抱いてくれなきゃ、やだ――…っ」
   真摯な叫びの最後は、震える声で――抱いて欲しいと切に求められた。頭突きを食らった痛みよりも、エスターの言葉の方が痛い。
  そうだ、エスターは何度尋ねても、一度も嫌だとは言わなかった。最初から最後まで固く決意していたのだ。寧ろ意気地がないのは自分の
  方で、宥めるどころか逆にエスターを不安にさせていた。……全く、情けないにも程がある。ぐす、としゃくり上げるエスターの頬にそっと
  口付けて、悪かった、と心から詫びる。それから最後の問い掛けを――何度も繰り返し尋ねてきたが、今度こそこれが最後だと告げて。
  「……抱いて、良いか?」
  「――うん……っ!」
   強くエスターが頷き、見詰め合った後、微笑み合って唇でキスを交わした。まるで恋人同士だ、とこの時だけ強く思った。ままごとのような、
  形だけの慰めの行為であっても。今だけは俺のエスターを女として見て、女として抱こう。
   そう改めて心に誓い、もう一度深く桃色の唇へキスを落とした。







  「――ッッ!?」
   エスターの声にならない悲鳴を、感じた。秘裂を押し込ませた穂先にも感じる強い圧迫感。かなり力を篭めて先を挿入したが、かなり
  きつい。裂けて血が滲む事はなかったが、それでも激しい痛苦がエスターの身を苛んでいた。ぎゅっと目を固く閉じてシーツを握り締め、
  全身を強張らせて唇を噛んでいる。耐えられないというように、顔を背けているエスターに、熱い吐息を零しながら問い掛ける。
  「……エスター、少しだけで良い、力を抜いてくれ」
  「む、っ……無茶、言うなぁっ!そんなもん、出来る、かぁっ……!」
   ぼろぼろと涙を零して首を振り怒鳴るエスターに、それもそうだ、と苦笑した。幾らか力を抜けば痛みは軽減出来るが、そう簡単に初めて
  男を受け入れた娘が、思いのまま力を抜くなんて出来はしないだろう。なら、強制的に力を奪うだけだ。細い腰を掴んでいた手を、鈍い
  色の恥毛の間に滑り込ませる。ぷくっと丸く充血し硬くなったクリトリスを甘皮ごと指で擦り上げた。
  「ひゃうんッ!な、なに、何したっ……クロウっ、んぅ、くぅうううッ……!」
  「ぐ…………ッ!」
   途端、エスターの声が裏返り、下肢に篭められた力ががくんと抜け、固い強張りが解けた。緩やかにいけばそれだけ苦痛は長く続く。
  一気に腰を進め、一瞬だけの苦痛でエスターの中を満たそうと、機を狙って雁首までしか収めていない肉茎の全てを、ひくつく膣に打ち
  込んだ。ずず……っと肉襞に擦れる感覚が背筋を舐め、痺れるような愉悦に噛み締めた奥歯から堪らず声が漏れた。
   脈打つ肉茎を包み込む膣は熱く、きつく締め付けるというよりは吸い付いてくるようだ。悦楽への期待に、根元まで深く繋げただけでは
  物足りなくなってしまいそうで、とはいえ無作法に腰を動かす訳にはいかない。身体に溜まった熱を吐き出すように深く深呼吸して顔を
  上げれば、泣き顔だったエスターが涙が流れた痕で引き攣る頬を、嬉しそうに緩めてクロウを見詰めている。
  「……クロウ、ぜんぶ、入ったんだよね……?」
  「ああ、頑張ったな、エスター」
   そう微笑みかけると、エスターは久し振りの明るい笑顔を見せ、そして包帯の巻いた腕を軽く持ち上げ、
  「――…この痛みも、この傷も、成長の証……だよな?」 
   そう言って、笑った。クロウも、ああ、と深く頷く。
  「その傷も、今の痛みも、全部エスターが成長した記憶の一つだ」
  エスターは少し照れ臭そうに肩を震わせて、そして。合わせた視線を不意に逸らした。視線をクロウに合わせないまま、ぼそりと呟く。
  「……えへへ、ありがとう、クロウ。……そ、それで、さ。う――動いて、いいよ……?動かなきゃ、気持ち良くないんだろ?」
   どうやらこちらの身を気遣ってくれているようだ。……実際、柔らかくきつく熱いエスターの中にあって、その奥まで存分に貪りつきたいという
  欲求は、じりじりとクロウの理性を侵食し始めている。男を知らなかった身に、強く激しく己を刻み込んで、穢し、痛苦と快楽の狭間で
  悶え戦慄くエスターの表情を眺め、蕩ける媚肉を堪能し――…湧き上がる雄の征服欲を満たしてしまいたい。だが、そんな事をすれば
  エスターを傷つけてしまう、間違いなく。欲望をセーブしつつ、行えればそれに越した事はないのだが。今の自分では少々理性が危うい。
  だからといっていつまでもこのままでは埒があかない。どうするべきか……。
   魅力的過ぎる誘いに、受け入れる事も拒否する事も出来ず躊躇って何と変えそうか言葉を捜していると、こちらをじっと見ていた
  エスターが、真っ赤な顔で何か、小さく語りかけてきた。
  「く、クロウ……っ、の、――で……し、して……っ」
   言い難そうに、何度も言葉を詰めてぼそぼそと囁いている、のだが。余りに途切れ途切れで聞き取れない。首を傾げるようにエスターを
  覗き込むと、ギッと涙目がクロウをきつく睨み、そして――
  「クロウの……おっ、……おちんちんであたしを滅茶苦茶にしてくれって言ってるんだっ!分かれ畜生クロウの馬鹿野郎――ッ!」
  「……っ!?」
   とんでもない挑発が飛び出し、目を見開いて絶句した。言い放ったエスター本人も恥ずかしさの余り泣き止んだ瞳をまた潤ませている。
  エスターはそのまま今日一番紅く染まった顔を両手でぎゅっと隠し、うう……と唸り声を漏らした。
  「だって、どう誘えば良いか分からないんだっ!……え、えっちな言葉とか、使った方が、こここ、興奮するんじゃないのかよっ!」
  「いや、まぁ、その通りだ、うん……」
   エスターの言う内容に間違いはない。だが、突拍子もなく言われたせいで興奮すると言うよりも、驚いたというか。そして、何よりもその
  いじらしさが可愛いと思った。精一杯自分を誘い、悦ばせようとしてくれている健気な様子が本当に愛らしい。なら、色っぽさよりも愛らしさ
  が滲む誘いに乗らせてもらおう。理性の歯止めはもう利かない。そうだ、女として抱くと決めたのだから、そのように。貪り食らい尽くすような
  激しさで、エスターの全てを己のものにしてやろう。
   呆然として漏らした返答の後に、繋がったままに身を乗り出しエスターの顔へ己の顔を近付ける。ぐっとより一層深くめり込んだ男根に
  白い肌が震えるが構うことなく、掌の間から覗いた、荒い呼吸を繰り返す唇にキスを。直ぐに離れると、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
  「可愛い挑発もされた事だし、ここからは遠慮はなしで食らいつかせて貰うぜ。先に言っておくが、意地悪と待ったはノーサンキューだ」
  「え……?んぅ、くうう――ッ!」
   戸惑う隙も与えない。身を起こしざまに脚を二本纏めて片腕が浚い、己の肩に掛けて逃げ場を奪う。奥まで収めた猛りを秘裂の口に
  雁首が引っ掛かるまで引き摺り出し、勢いをつけて再び奥へと叩き付けた。溢れた愛液が互いの腰の間で弾けて、ぐちゅりと実が潰れる
  ような音が響いた。エスターの背中がシーツから浮き上がり、爪が白むまで手の指先に力が篭っているのが見える。打ち付けた瞬間、
  亀頭から竿まで媚肉が絡みついて搾り上げるように肉茎を締め付け、粟立つような快楽が背筋を走る。だが、まだ足りない。
  こんなものでは満たされない。
   また、ぎりぎりまで肉茎を秘裂の外に引き出し、腰を打つようにして根元まで挿し入れる。ゆっくりと、だが深く深く、エスターの食いついて
  くる襞や艶かしく動く奥を堪能する。時折、奥で留めて膣の向こうにある子宮口を誘うようにグリグリと最奥を責めた。
  その度にエスターの身体が浮き上がり、力が篭らないのに必死でシーツを握り締め、上身を起こそうとして捻る自分の動きに中が擦れ、
  脚が逃げようとクロウの腕の中で跳ねる。そんな動きを諌めるように、愛液でぬめる肉の芽を摘み、捻ってやる。薄皮を剥き上げ、過敏な
  そこをより鋭敏にさせた状態で強く擦ると、苦痛でなく快楽に怯えた声が呂律の回らない悲鳴になってエスターから漏れた。
  「あ、あ゛っ、ひぐッんぅ、あ、あぅッ!や、そこはぁっ、らめっ、し、痺れちゃうから、やらぁっ……!」
  「これ位しないと痛みなんて紛れないだろ?嫌だって言ってるが、ここはこんなに硬くなっちまってるぜ?……ん、それにっ、ここを擦ると、
  エスターの中が締まって……っつ、すげぇ気持ち良いっ……エスターが感じてる、証拠だ」
  「ひ、ひぅッ!?クロウ、ま、まってっ、そんな、強く、な、なかをこすったらぁっ、あ、熱いっ、あたしの中、とけちゃうよぉっ……!」 
  「もう充分蕩けてるけどな?……ほら、エスターが感じて濡らしてるから……ここがグチュグチュ言って溢れてるぜ」
   クロウの肉茎を銜え込んでいる秘裂は擦れて艶かしい色に染まり、腰を揺らすとみっちりと塞がった筈の間から、白く濁り始めた愛液が
  溢れ、まだ淫水に焼き穢れていない陰唇もぷっくりと膨らんで色付いている。態と空気を連れて中を掻き混ぜる音を大きく響かせ、まだ
  初心な少女の羞恥を煽ってやる。随分意地の悪い抱き方だと、残り僅かな理性の欠片が己を呆れているが、止められない。
  「ううっ、クロウの変態っ、そんな音、立てっ、あ゛っ、あ゛ぁぁっ!やらぁっ、らめぇっ!奥、おくにっ、ひびくのっ、ひびくぅっ……!」
   エスター自身が恥らえば恥らう程エスターの膣はクロウの肉茎を締め付け、舐めるように蠕動する。羞恥を快楽と得るらしい身体なら、
  言葉で責めてやるのも躊躇わない。声も掠れ、開いた唇から唾液の糸を垂らしながら、汗で濡れたプラチナブロンドをふるふると揺らし、
  泣き濡れた瞳でクロウを捉えるエスターの姿に、昏い雄の欲望が今尚燃え上がっていく。
  「男は誰もがそれなりに変態だからな。それに……っ、駄目は聞けないって、さっき言った通りだ……エスター?」
  「ううっ、あっ、ひぅッ、あ、後で、ぜったいに、っんぁああ゛っ!……な、なんだよっ、も、いい、のか……?」
   敏感なクリトリスへの愛撫を止めても、エスターが充分に膣で愉悦を感じていると確認すると、 律動を大きく、だが激しさを増して
  エスターの奥を責めていたその動きを、ぴたりと止めた。はーっ、はーっ、と獣染みた呼吸を繰り返しながら、濡れた瞳を怪訝そうにクロウ
  へと向け、エスターがその変化に戸惑ったように問い掛ける。深く繋がったままで微動だにしない熱に焦れたように、僅かだがエスターの
  腰が揺れる。漸くエスターが悦楽をそこで知るようになったのだから、もう少し煽って、少女の中に潜む快楽を引き出そう。後で多分責め
  られるだろうな、と予感めいたものを感じつつも、薄い笑みを唇に敷いて、エスターの怪訝そうな瞳を覗き込み、クロウが問う。
  「エスターの中に、何が入ってるのか、これ、が何なのか教えてくれるか?」
  「あっ、な、なっ……何、言ってっ……あ゛ああっ、クロウ、やぁあっ、ぐりぐりしちゃやらぁっ!」
   唖然として、直ぐに意味に気付き赤く染まるエスターの、奥をグリグリと穂先で抉り答えを催促し、エスターの怒る顔が出来上がる前に
  蕩け堕としてやる。
  「えっちな言葉で興奮させてくれるんじゃなかったのか?」
  「う、ぅううっ!この意地悪っ!変態っ!ノーマルじゃなかったのかよ!…………い、言ったら、クロウは……こ、興奮するのかっ!?」
   嫌々するように首を振るエスターへ、ん?と首を傾げてみせて促す。ぐうっと唸り押し黙った後、 上目遣いにエスターが叫ぶ。素面では
  恥らって当然の言葉で煽られるのは、羞恥の責めに感じていたエスター自身だろうと――勿論それは言わないでおく。あくまでエスター
  には、クロウが望んでいるから言う、言わされるとしておいた方が良いだろう。理性と葛藤中のエスターに、クロウは短く頷いて見せた。
  「この程度ならまだノーマルの範疇だ。変態ってのに関してはさっき言ったとおりだし、エスターの言葉で言われりゃ、すげぇ興奮しちまうな」
  「ぐっ………!……ぁ、う、うう……あ、あたしのなかに、く、クロウの……ぁっ、はぁっ、んぁ……」
    エスターの震える唇が羞恥を飲み込んで言葉を紡ごうとしている。喉を鳴らし、唇を震わせて、恥じらいながらも期待に満ちた様子で。
  「く、クロウの……お、おちんちんが、あたしの、なかを、お、犯して、あ、あぁぁあッ!ひ、クロウっ、やんっ、あ、あぁあーっ!」
   たどたどしい調子で淫らな言葉を綴るエスターの中が、きゅうっとクロウの肉茎を締め、艶かしく舐め上げる。それを合図に、押し留めて
  いた欲望を開放するように、激しく深い律動で――エスターが言った言葉の通り、今日初めて男を知った少女の膣を犯した。
  ずちゅん、と深く速く穿つ度に湧き出る愛液がシーツに飛び散り、互いの聴覚を煽る。鼓膜にこびり付いた淫水の音と、絶え間なく続く
  エスターの喘ぎが、クロウの理性を焼き切っていく。
  「あ゛ぅッ!あ、ぁあッ!んぅッ、は、はげしすぎるよっ、クロウっ、クロウ!あたし、こわれゆっ!クロウのおちんちん、きもちよすぎてぇっ!
  ふああ、ッあ、あッ、あ゛ぁっ!らめっ、奥ぅっ、奥はらめぇっ!ひうううッ!」
  「エスター……ッ、う、はっ……!」
   降りてきた子宮口をこつん、と亀頭で打ち上げ、しがみつくように肉茎に絡みつく媚肉を引き剥がし抉っては擦り上げる。焦点も彷徨い
  快楽に飲み込まれ、恥じらいも躊躇いも忘れてエスターは淫らな言葉を喘ぎに乗せて嬌声を響かせる。クロウの息も荒く乱れて、エスター
  の名を呼ぶそれもまた、熱い息と共に零れ落ちた。じりじりと近付いてくる限界のその瞬間まで、侵して、蹂躙して、捻じ伏せていたい。
   せり上がってくる吐精の予感に急き立てられ、浅く、速く、腰付きが変わり、捉えていた足を振り解いて、肉付きの薄い腰に掴みかかる。
  「あ、クロウ、いく、イッちゃうっ、もぉ、だめぇっ、あたし、イッちゃうよぉっ、イく、やあっ、い、イくぅ――ッ!!」
  「ぐ、ぁ、はぁっ、ううッ、エスター……ッ!」
   ぎゅうっとエスターの手がシーツを握り締め、腰が跳ねて暴れる。それを押さえ付けながら、直前にまで向かってきた射精の瞬間に鈍く
  呻く声を上げて、エスターの名を呼ぶ。もう限界だった。狭い膣が暴れる肉茎を強く圧搾し、精を溜めて膨らんだ先が耐え切れず、
  白濁を子宮目掛けて噴き上げた。目の前が白く濁って見える、一瞬だが酷く長い射精感。びく、びくんっと中で痙攣し、一波二波と
  続く脈動総てをエスターの中へと放って、それが収まって漸く、きつく抱えていた腰から手を離す。ホワイトアウトした視界は未だに濁って
  いたが、それでもエスターの青い澄んだ瞳は見つけられて、ぜぇ、ぜぇ、と整わない呼吸を繰り返しながら身を乗り出し、手を伸ばす。
   ぼんやりと蕩けたまま意識もあやふやなように見えるエスターの頬に、そっと触れた。
  「……ぁ、あ……、クロウ――…」
   掠れた、喘ぎに擦り切れた声で名を呼ばれ、力の抜けた手が求めるように伸ばされ、言葉がそれ以上なくとも今は何を欲しているのか
  が分かるから――。クロウは被さるようにして、エスターの唇に口付けを落とした。







  「腰が滅茶苦茶だるいんだけど、どうなってんだよ!しかも散々やらしい言葉言わせて!この変態っ!色情魔っ!」
   ……案の定、落ち着いた途端に罵られた。萎えた芯を抜き、横になってエスターに肩枕をしているのだが、肩にしっかり頭を預けつつ、
  正気を取り戻した勝気な瞳が、先程から遠慮なくクロウを攻め立てている。まだ身体の自由が利かない分ぶん殴られないで済んで
  良かったと思うべきだろう。責める言葉に反論の余地はないので、クロウは大人しく言われるままになっている。というか、言おうとしたら、
  にべもなく何時もの調子で「喋って良いって言ってないぞ!」と怒られた。それからはもう、静かに聞き手――責められ手?に回っている。
  「いやもう全くエスターの仰るとおりで……」
   行為の途中から、自分も理性がぶっ飛んだ自覚はある。何処まで理性的な行動だったのか、もしかしたら胸に触れている時点でもう、
  自分自身もエスターの熱に浮かされていたのかもしれない。後半は完全に理性がイッていた。でなければ、不用意にエスターの中に放つ
  などしなかった……筈だ。自己嫌悪も含めて、がっくりと項垂れるクロウの頬を、エスターがペチペチと打つ。反応の鈍さが、逆にエスター
  の心配を煽ったらしい。逆に心配そうにクロウの顔を覗き込んでくる。
  「……おい、クロウ。そこまで落ち込むことないだろ?あ、あたしはっ……クロウが、本気で抱いてくれたみたいで、ホントは……凄く
  嬉しかったりもした、けど……クロウは、後悔してるのか?」
   澄み切った空の色が、じっとクロウを見詰める。

  ――後悔、すべきなのだろう。一時の憧れを愛情と思い違いをしたまま、自分を求めた少女を抱いてしまった事。手の掛かる妹の
  ようだと思っていた相手を、女として扱い、自らも求めて己の精で穢してしまった事。だが、クロウが思ったのは容易く事切れた理性への
  限界に対しての後悔だけで、エスターを抱いたその事実に後悔も反省もない。
  クロウは、ふ、と表情を緩めて、貸していない腕でエスターの身体を抱き寄せた。エスターの額に額を重ねて微笑む。
  「後悔してるとすりゃ、エスターの可愛さに早々に参っちまった理性の脆さに、だな。次はもう少し持たせたいもんだ」
  「にゃ!?か、可愛かった?って言うかクロウ、つ、次って――…もしかして、これからも……?」
   猫のような声を上げて色めくエスターが、ふとクロウの後ろの言葉を振り返って、大きく目を見開く。驚きの後、期待と喜びを抱いた蒼い
  瞳に、クロウはニッと笑って答えた。

  「こればっかりはエスターの気持ちが第一だからな、無理強いは出来ねぇししないが。次のエスターの仕事が無事完了したら、その時は
  二人で祝うってのはどうだ?――ベッドの上で」

















  『――なぁーにが、ベッドの上で。だよ。柄にもない格好つけてんじゃないよ、全く』






   モニタに映るトライアは、けっと鼻で笑ってそう言った。エスターには満面の笑顔と抱擁で受け入れられた言葉も、聞き手が違えばこうも
  反応が違う。ブラスタのコックピットの中で、携帯パックのストローを齧り、チーフはそう言うけどな、と反論に出た。
  「俺にエスターをけしかけたのはチーフじゃねぇか。責任取ったら取ったでその言い様は幾らなんでもないと思うんだがな」
  『あの子の機嫌を直して来いとは言ったが、何も知らない生娘を疵物にしろと言った覚えはないね』
  「……疵物って、その言い方はないだろ、幾らなんでも」
   若干後ろめたい気持ちもある分、トライアの遠慮ない言葉はぐっさりとエスターの胸に刺さる。
  『おや、じゃあどう言ったら良いのか教えて欲しいね。アンタがあの子に手を出したのは紛れもない事実なんだから』
   ふんと腕を組んで言い投げるトライアに返す言葉もなく、クロウは気まずそうに携帯食料のゲルドリンクをずずーっと啜った。 


   ――あれから直ぐ、クロウは次の仕事の為ラボを後にした。ブラスタに乗り込む際トライアに声を掛けられて、そこでエスターに行った行為
  の内容はしっかりと記録させて貰ったよ、と恐ろしい一言を告げられたのだ。トライア曰く、パイロットの生活管理も自分の仕事の内、だ
  そうで、データとして部屋での行動は記録しているらしい。プライバシー侵害じゃねぇのか!?と訴えるクロウだったが、雇用主に文句が
  あるなら組合作って裁判所まで私を引き摺って行きな、と言われ、勝てないと諦めた。
   エスターは機体改修の間、本人の訓練を再調整して行うらしい。それもアンタのせいで一日伸びちまったけど、とトライア。そしてクロウは
  データを買い取る為の新たな資金調達に、次元獣の出現ポイントへと向かっている最中だった。
  『……で、結局あの子の恋人になってやるのかい?』
  「いや、気持ちには応えられないと言ってるからな。俺の立場は恋人じゃない」
  『面倒臭いね。あれだけ情を掛けてやりながら恋人じゃないとかさ』
  「――チーフが言ってただろ?あの子は卵と同じだって。……なら、エスターが自分で殻を破るまで、温めてやろうと思ってな」
   硬い意地で弱い心を守っている少女。何時か、その心が強く育つまで、包んでやろうと思った。自分が何処まで出来るのかわからない。
  だが、守ってやりたいと思った。あの澄んだ蒼い瞳を持つ、あの子を。その過程で情に絆されてしまうのなら、それでも構わない。そうなる
  程自分が過去を振り切り、誰かを愛せるようになるのなら。――たった一日で、ここまで考えが変わるとは思ってもみなかったが、やはり
  それだけエスターの想いが強かったと言う事だろう。
   自動操縦で駆ける空、その蒼い色臨みながら呟くクロウに、トライアはひらりと手を振ってみせた。
  『親鳥代わりって訳かい?やってる事はアレだけど、まぁアンタ達がそれで満足なら好きにしな』
  「てっきりチーフには怒鳴りつけられるかと思ったんだが、意外だな。こりゃ天候が荒れそうだ」
  『不純異性交遊だろうが、近親相姦だろうが、仕事をきっちりこなしてくれりゃ文句はないよ。精々エスターの分も励みな』
  「了解。――…っと、目標が近いな。チーフ、一旦通信を切るぜ?」
   目標確認の警告音がコックピットに響き、携帯食のアルミパックの中身を急いで啜りながら、クロウがモニタを切ろうとしたその時。
  『あいよ。……ああそうだ、エスターの今回の改修費、アンタにつけとくからね』
  「ぶッッ!!」
   思い出したように呟いたトライアの言葉に、クロウはゲルドリンクを噴いた。
  「な、何で!?何で俺がッ!?」
  『何でも何も、エスターの親鳥なんだろ?子の不始末は親の不始末。精々頑張って稼いで来ておくれよ、父さんや』
  「ちょ、待て!?待ってくれチーフ!」
   止めるクロウを無視して、無情にも通信は切れた。コックピットの中で呆然とするクロウ。次は一体幾らの借金を背負わされたんだろう。
  考えただけで眩暈がする。こうなったら前向きに、地道に清算していくしかない。脱力した身体に今一度力を篭める。目標まで
  五百メートルの表示を確認すると、オートからパイロット操作に切り替えた。遠くに禍々しく煌く宝石のような輝きが確認出来る。
  「働けど働けど我が暮らし楽にならず、か。それでも、幾らか足しになるんでな。それじゃ――行くぜ」

   蒼く澄み切った空を、音速を超えて白と黒の機体が駆けた――。





   end

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