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srweroparo 2011年12月30日(金) 06:04:02履歴
Index
01 
多次元世紀二年―――
一年前、多次元世紀元年。
時空振動弾によって破壊された世界が混ざり合ったブレイク・ザ・ワールドにより、世界は一つとなった。
しかし、一つになったのは世界だけ。そこに住む人々の心はバラバラのままだった。
立場も文化も違う人々が突然同居することになった地球では、すぐに戦争が始まった。
地球人と異星人。アースノイドとスペースノイド。人間と鬼。
多くの勢力が覇権を争う中を駆け抜けた者たちがいた。
ZEUTHと名乗る彼らは、種類は違えど多くの巨大な人型ロボットを操り、さまざまな争いの場に現れた。
最初は小さな集団でしかなかった彼らは、諍いや内部分裂を経験しつつも結束を固め、やがて地球圏において決して無視できない強大な力を持つようになる。
そして異星人の撃退、デスティニープランの阻止、コーラリアンとの対話など数々の功績をあげた。
何より、世界を影から操り混乱に陥れていた元凶、ジ・エーデル・ベルナルを討ち倒してみせた。
それによって結局多元世界は元に戻りこそしなかったものの、世界を少しでも安定に導くことに貢献したのである。
そんなZEUTHに所属していた者たちも、今はそれぞれ新しい生活を送っている。
ランド・トラビスとメール・ビーターも例外ではなかった。
※
北アメリア大陸中部―――
日差しの強い乾燥した荒野を、太陽の色をした巨人が駆けていた。
巨大なレンチをかつぎ、獅子の意匠を持つその名はガンレオン。
ZEUTHで多くのＭＳやＷＭ相手に破壊の限りを尽くしたスーパーロボットにして、修理屋ビーター・サービスの移動店舗でもある。
「よーし、ガンレオンの調子はおおむね良好っと。とはいえ俺の方はこう暑いと参っちまうよなぁ」
そしてコクピットに座る大柄な男は、そのメインパイロット、ランド・トラビスであった。
赤銅色に焼けた肌に分厚い筋肉の巨体は見る者を威圧する。
一方でその顔に浮かべられた微笑は、彼自身の人の良さを伺わせていた。
もっともランドの満面の笑顔は少々その風貌にミスマッチで、初対面の人間はまずこう思うことだろう。
（暑苦しい！）
と。
ともかく、ランドは冷房の調子が悪いガンレオンのコクピットで、ところどころ破れた紙の地図を広げていた。
多次元世界となってから、エマーンの商人やＵＮの影響で多くの文化が入り混じったが、やはりまだまだ地方にはその土地の文化が根強い。
黒歴史の時代から機械文明が封印されてきたこの辺りでは、携帯端末や電子ペーパーは普及していない。
「やっぱり地形が変わってやがるな……この辺りは前来た時はスカブに覆われてたと思ったんだが」
地図と周囲の風景を見比べて、ランドは頭をひねった。
彼が今手にしている地図は、ブレイク・ザ・ワールド直後にミリシャが発行したものだった。
それを見る限り、この一帯はトラパーの発生する“約束の地”の一部として色分けされていた。
しかし計器を見てもトラパーの反応はなく、黒い土が剥き出しになった大地はむしろゾラの荒野を思わせた。
数ヶ月前、ＺＥＵＴＨは最終作戦において、時空修復を行なった。
桂木桂を中心とした彼ら特異点がトラパーに乗った人々の願いを集めることで、崩壊に向かう多次元世界を元に戻そうとしたのだ。
結果、世界を元の形に戻すことこそ叶わなかったものの、現状の世界の崩壊は食い止めることが出来た。
しかし全く変化がなかったということでもないようで、所々このように地形が変わっていたり、
ブレイク・ザ・ワールドでスカブの中に消えたはずのものが出現したり、という事態が起こっていた。
ランド達は本業の傍ら、そうした現象を調査し新連邦やプラントにいる元ＺＥＵＴＨの仲間に報告する任務を帯びている。
「といっても、決め付けんのは早いか？ コンパクドライブは取り付けたものの、見方は俺にはよくわかんねえ……おーい、メール」
コクピットとは別にあるガンレオンの居住ブロックに向けてランドが声を上げると、シャッターの向こうからヒョコっとピンクの髪がこちらをのぞいた。
「どしたのダーリン？」
「おう、この辺のトラパーの濃度を調べてくれ」
「はいよ！」
ランドの声に満面の笑顔で返事をすると、彼のフィアンセを自称する少女、メールはガンレオンのサブ・シートに飛び乗り、作業を始めた。
ちらりと背後を振り返ってその様子を見たランドは、途端に呆れ顔になる。
「ってお前、何だその格好は？」
「だって暑いんだもーん」
そう言ってぐったりとコンソールにもたれるメールは、実際普段着とそうかけ離れた格好をしているわけではなかった。
いつもは上着部分を腰に巻いているツナギを、完全に脱いでしまっていることを除いては。
ブカブカのツナギを除いてしまうと、メールは下着同然のインナーだけ。しかもその幼い見た目には危険すぎるほど露出度が高かった。
「そんな布切れで男の前を歩くんもんじゃねえぞ。世の中クワト……ゲフン、少々の年齢差は恋の障害にならない人種もいるんだからな」
「あー、ダーリンえっちな目で見てるー」
「馬鹿言え、着てるのがお前じゃピクリとも感じねえよ」
「むっ」
「そうだな、アデット先生かエニル姐さんがその格好なら……へへへ」
「まーたおっぱいのこと考えてる！」
軽口の途中で知り合いの身体を思い出し、だらしない笑顔を浮かべるランド。
夫（？）の不実に怒ったメールは、背後のサブ・シートから飛び出し掴みかかった。
「わっ、痛ててて」
「ダーリンの浮気者〜！」
操縦中のランドの背中に抱きつくような形で、メールはランドの頬や髪を引っ張る。
「は、はなへへーりゅ！……ゲホッ、ほら、こうしてても背中に当たるもんがねえだろうが」
「うぅ！？」
「それこそ今言った二人ならこう、やわらかくて弾力のある丸〜いのが二つだな……」
「そ、そんなのあたしだって！」
ランドの挑発に声を張り上げて怒るメール。
何をする気かと思っているうちに衣擦れの音が聞こえ、不思議に思う間もなくランドの背にメールの胸が乱暴に押し当てられた。
「何だ何だ？ ゴムボールでも入れてくるのかと思ったら、そのまんまじゃねえか」
「……」
意地悪い笑みで笑い飛ばすランドの目の前に、メールはゆっくりと何かを落とした。
膝に落ちてきたそれに、ランドは何の気なしに目を落とす。
拾い上げてみると、メールのインナーだった。
それも、まだ温かい。
「ぶっ！おいメール！」
「あ、あたしだって……色仕掛けくらいできるもん！」
強気ながらも少し震える声で言うと、メールはランドに思い切り抱きついた。
ランドの方は服を着ているのではっきりとは分からないが、おそらくは素っ裸で。
「お、おいおい、それこそ無闇にやるもんじゃねえぞ？ 大体お前が色仕掛けなんてガラか？」
軽くあしらって服を着させようとして、ランドの口から出たのはそんな言葉だった。
語気にほんの少し動揺が出たことに、ランド自身がまず驚いた。
少し焦ったが、メールには伝わらなかったようだ。
「い、いいもん！ ダーリンの馬鹿！」
そう叫ぶと、メールはランドの背中から離れて行った。
「おいメール、これ！」
「いい！ このままシャワー浴びてくるから！」
振り返ると、案の定全裸のメールの尻が目に飛び込んできた。
そのままこちらを向くこともなく、メールは裸のまま居住ブロックへ駆けていった。
「ったく……そういうところがガキだってんだ」
まだメールの温もりが残るインナーをなんとなく手で弄びながら、ランドはシートにもたれ掛かり、キャノピーの外に広がる空を仰いだ。
別の女の肢体を妄想するランドに怒ったからといって、裸になって身体を押し付けるなど、確かに子供のすることだ。
とはいえ、それもメールなりに思いつめての行動だったのかもしれない。
幼すぎる身体に年頃の乙女の心を持つ彼女にとって、心と身体のギャップは常に悩みどころであるだろうから。
その辺りのことに察しが付かないランドではなかった。
（そんでもって……相手の想いをガキだからってだけで軽くあしらっちまうようじゃ……きっとダメな大人なんでしょうね、親方）
そう遠くない日に正面から自分にぶつけられるであろうメールの想いを、どう受け止めるか。
ここしばらく、ザ・ヒートは柄にもなくそんなことを悩んでいた。
※
ガンレオンの機体は、全長４３．４ｍとかなり大型である。
ダイターン３のような規格外のスーパーロボットほどではないものの、その巨体はサイコガンダムやデストロイガンダムをも上回っている。
その構造には最近判明したマグナモードへの変形機構を含め未知の部分が多いが、便利に使える空きスペースもあった。
そこでシエロ・ビーターに拾われてからは、胸の空間に居住ブロックが設けられていた。
それはロボットの体内に作られたものとしては意外なほど広く、生活に必要な設備も十分整っている。
そんな居住ブロックの隅のバスルームで、メールはぬるいシャワーに打たれていた。
「ダーリンのバカ！ 女の子がここまでしてるのに無反応なんて！」
ＺＥＵＴＨでの戦いの日々から何ヶ月か過ぎたが、相変わらずメールがどれだけ積極的にぶつかってもランドは軽くあしらうばかりだった。
「そりゃ……まだ伸びてないけどさ」
塗れた桃色の髪を、ぎゅっと引っ張る。
水の重みで普段より長いように見えなくもないが、やはり肩には届かない。
『そうだな……お前の髪が肩まで伸びたら……』
『結婚しよっ！』
『ぶっ！？』
厳密には両者で認識に食い違いがあるのだが、ランドとメールの間にはそんな約束がある。
しかし、世界がこれだけ変わっても相変わらず、メールの身体には変化が無かった。
「時空修復の時に、ちょっとだけ何か変わった気がしたんだけどなぁ……」
子供そのもののぽっこりしたお腹を撫でると、手に独特の感覚が走る。
やはりメールの体内にはまだ、傷だらけの獅子のスフィアが息づいていた。
一度はこれに命を救われたものの、その対価としてスフィアはいまだにランドに痛みを与え、メールの体の成長を阻害し続けている。
「ん……」
メールはそのまま、腹にあてた手をゆっくりと下の方へ移動させる。
まっ平らと言った方が近いなだらかな身体のラインをなぞり、下腹部に触れた指はそのまま秘所へと伸びる。
産毛すら生えないそこには、やはりまったく育っていないスリットがあるだけ。
しかしメールの指は、そこをゆっくりとなぞり始める。
「ふ……ぁ……」
メールがこういうことを始めたのは、あの戦いが終わってからだった。
ガリアの荒くれ共相手にたくましく商売をしていたメールにとって、女の子の友人というとチルやラグくらいのものだった。
それがＺＥＵＴＨでは同世代の女の子の友人がたくさんでき、たまには女性だけで集まって騒ぐこともあった。
そしてそういう時は、性別に関わらず話は猥談に流れるものらしい。
ルナマリアがシンにどう迫ったとか、グランナイツに入る前のミヅキの体験談などなど、メールや琉菜は耳まで真っ赤にして聞き入っていた。
他にもＵＮでそれらしいページをこっそり検索したりもした。
世の中性に関する情報など探せば簡単に出てくるもので、むしろランドと二人で旅を続けている間、どれだけ注意深く守られていたかを実感したものだった。
もっとも、せっかくの知識もランド相手では先ほどのようにはぐらかされてしまうので、こうして自慰にしか生かせないのだが。
「はぅ……ん、ダーリン……そこ……」
やがてスリットからはシャワーの水とは違う液体がにじんできた。
息遣いも荒く、メールはもう一方の手で乳首もいじり始める。
ささやか過ぎるふくらみの乳房は掴めもしないが、乳首だけはピンと立ち上がってくる。
「んっ、あぁっ、ダーリン、ダーリン……！」
想像の中では、ランドの手が荒々しくメールの身体を撫で回す。
ヌチャヌチャと卑猥な音を立てて、ぷっくりとしたすじを指でなぞる。
そしてメールの細い腰をがっしりと掴むと、そのまま背後から一気に貫く。
「はぁ、あ、あぁぁぁぁぁっ！」
実際にはランドのペニスとは程遠いか細い指の刺激で、メールは達した。
幼い股間からは、そのまま勢いよくおしっこがが噴き出す。
「あぅ……ん……はぁぁ」
ぺたりと座り込んでしまったメールに、シャワーの水が注ぎ続ける。
「ダーリン……あたしじゃダメなの？」
少しだけ、水が冷たくなったような気がした。
※
「さて、また随分と様子の違うところに来ちまったが……ん、どうしたメール、顔が赤いぞ」
「う、ううん、何でもないよ！」
数時間後、ランド達は荒野を駆け抜け、峡谷に行き着いていた。
荒地とは違い緑もあり、かすかな硫黄の匂いから火山地帯であることがわかった。
「んー、チラムからイングレッサの間の風景が随分変わっちゃってるみたいだね、ダーリン」
「そうだな、この辺りの景色は見たことが……うん？」
辺りを見回していると、ランドはかすかに機械の駆動音が聞こえることに気付いた。
谷底の方からだった。
それほど切り立った谷でもないのでガンレオンに乗り込み、そのまま飛び降りる。
『な、何だ！』
やはり人がいたらしく、落ちてきたガンレオンに驚く男の叫び声が聞こえた。
怪しまれてはたまらないので、ランドはすぐにキャノピーを開けて姿を見せた。
「よお、すまねえな。驚かすつもりはなかったんだ」
「……誰だあんたら」
そこにいたのは、汚れた作業着に身を包んだ髭の濃い男だった。
ガンレオンから降りたランドを、不審そうに睨んでいる。
「俺はランド・トラビス。人呼んでザ・ヒート！ さすらいの修理屋だぜ！」
（あ、暑苦しい……）
「あたしはメール・ビーター！ 妻です！」
「と、今のは聞き流してくれ。こいつはあくまで俺達ビーター・サービスの社長代理兼会計担当だ」
「うー……」
しばしランド達の空気に圧倒されていた男だったが、やがて佇まいを正して小声で名乗った。
「俺はウィル……ウィル・ゲイムって山師だ」
「おう、よろしくな、ウィルの旦那」
「……この辺の人間じゃねえな、あんたら」
「はは、分かるか？ 一応ガリアをシマにしてたんだが、今はいろんな大陸を流離ってる最中さ」
「で、ここに何のようだ」
ぶっきらぼうに尋ねるウィルに対し、ランドは相変わらずのスマイルで答える。
「なに、旅の途中で変わったところに行き着いたら、機械の音が聞こえたんでな。仕事の匂いがして来てみりゃあ……」
言いながら、ランドはウィルの背後に目をやった。
「なかなか面白そうなもんに出会えたってわけだ」
そこにあったのは、見たことのない型のＭＳ。
そして何かのノズルらしきものが突き出た巨大な黒い山肌だった。
それはこの一帯が黒歴史の遺産が眠る土地、マウンテンサイクルであることを示していた。
「へえ……それじゃ旦那は先祖代々、こいつを掘ってるってわけかい」
「ああ、おかげで土地のもんからは気触りのウィル・ゲイムなんて呼ばれちゃいるがな」
「はいウィルさん、ダーリン、コーヒーどうぞ♪」
マウンテンサイクルを少年のような目で眺めるランドにウィルの方も少し共感を覚えたようで、３人その場で一服しながら話すことになった。
ランドが掻い摘んでこれまでの自分達の経緯を話すと、ウィルは不思議そうな顔をした。
「そのブレイク・ザ・ワールドってのか。俺にはどうも実感がねえんだがなぁ」
「なんで？ 去年は世界中大変だったでしょ？」
「いや、俺はずっとここで宇宙船を掘ってたつもりだったが……たしかにここ最近急にいろんな国の名前を聞くようにはなったが、
天使のバケモノだの宇宙人の軍隊だのは見たこともねえ」
「ふむ……するとあんた、この間までスカブの中に取り込まれてたクチかもしれねえな」
「あ、そっか。この辺りの土地も戦争中には消えてたみたいだもんね」
「そうなのかねぇ……ま、どうでもいいけどな。俺にはこいつを掘り出して、月に行くことしかねえんだから」
立ち上がって伸びをしながら、ウィルは言った。
ウィルの一族……ゲイム家が宇宙船の発掘を始めてから、百年以上がたつ。
その頃、このオーバニーの地に、一時的に冬眠から覚めたディアナ・ソレルが休息に訪れていた。
まだ少女だったディアナは、そこでウィルの先祖であり同じ名前の貴族の青年、ウィル・ゲイムと恋に落ちたのだ。
二人は幸せな時を過ごしたが、やがて月から来た姫の噂があたりに広まり、周辺の領主等がディアナに求婚してくるようになった。
もとよりウィル以外を愛する気のなかったディアナは、鳳凰の羽を取ってきたものとだけ結婚すると言って、彼らを退けたのだった。
しかし誠実なウィルは、自分だけが無条件でディアナの夫になることを良しとしなかった。
他の者と対等な条件でディアナに求婚するため、鳳凰の羽を探す旅に出てしまったのである。
そしてその間にディアナは月へ帰ることになってしまい、その後二人が出会うことはなかったという。
この話は、最後にウィルが鳳凰の羽の魔法で夜鷹に変身して、ディアナに会いに行ったというラストを付けてこの辺りの土地に伝わる御伽噺となっていた。
「ディアナ様にそんなことがあったなんて……」
「ああ、あんたらの話だと今も生きてるみたいだな、ディアナ・ソレル」
「おう、綺麗で立派な姫様だったぜ」
「俺としちゃ、その立派な姫様が先祖を置いてさっさと帰っちまったのが、どういう了見だったか聞いてみてえもんだがな」
ウィルの表情に、少し影が落ちる。
「現実は御伽噺じゃねえからな。初代ウィル・ゲイムは夜鷹になれるわけもなくて、血眼になって月へ行く方法を探した。
財産も使いつぶして家も没落して、そして見つけたのがこの宇宙船の遺跡ってわけだ」
ランドとメールはウィルの言う宇宙船を見上げた。
ナノスキンの屑に包まれた船体は、まだ三分の一ほどしか姿を見せていない。
何百年も前から、ツルハシとスコップでコツコツと掘り続けてやっとここまで達したのだろう。
今のウィルはモビルスーツ・イルフートを使って作業を進めているようだが、手伝ってくれる者もいなくてはやはり楽な仕事ではあるまい。
「でもディアナ様にも、何か事情があったんだと思うよ？ すっごく優しい人だったもん」
「まぁわかんねえよな。今さら何か言ってもらったからって変わる訳じゃなし……でも、こいつで月に行けたらやっぱり会ってみてえなぁ」
「ふーん……」
しばらく宇宙船を見ながら黙っていたランドは、ウィルに向き直った。
「どうだいウィルの旦那。俺達にこいつの発掘の手伝いを依頼しねえか？」
「え？」
「ダーリン？」
「先祖代々の思いのこもった宇宙船が月へいく……修理屋の魂がくすぐられるじゃねえか。幸い穴掘りを仕事にしてたダチも今この大陸にいるんでな。役に立てると思うぜ？」
「そりゃあ……助かるがよ」
「もちろんあんたが良いっていうならだけどな」
「大勢で、機械人形を使ってか……そうすりゃすぐにでも月へいける……」
「ち、ちょっとダーリン！」
突然あわてて立ち上がったメールが、考え込むウィルをよそにランドの耳を引っ張る。
（おいおい何すんだ！）
（ダーリンこそ何言ってるの！ 忘れてない？ 今ディアナ様はビシニティにいるの！ 月にいるのはキエルさんじゃない！）
（分かってるよ、だが旦那はあくまで月に行きたいんだろ？ 話はまず宇宙船を掘り出してからじゃねえか）
（でも……片道半日くらいでディアナ様に会えるんだよ？ こんな飛ぶかどうか分からない宇宙船掘り出すことなんてないじゃない）
（わかってねえなあ。これは男のロマンなんだよ。過去のしがらみを越えて、ただ愛着あるマシンと共に冒険に出たいっていう……）
（でも危ないよ！ 宇宙にはまだ円盤獣の残骸とかゼラバイアの残りカスとか何が浮いてるか分かったもんじゃないんだから！）
「おい、ランド」
アンバランスな姿勢でひそひそ話をする二人に、ウィルが声をかける。
「はっきり言って、たいした額は払えねえ。だが……俺は何としてでも、月に行きたい」
「……ＯＫ、格安で引き受けるぜ」
「ちょ、何勝手に決めてるのーーー！！」
騒ぐメールをよそに、ランドはウィルに手を差し出す。
ウィルは汚れた軍手を外し、その手をがっしりと握った。
一年前、多次元世紀元年。
時空振動弾によって破壊された世界が混ざり合ったブレイク・ザ・ワールドにより、世界は一つとなった。
しかし、一つになったのは世界だけ。そこに住む人々の心はバラバラのままだった。
立場も文化も違う人々が突然同居することになった地球では、すぐに戦争が始まった。
地球人と異星人。アースノイドとスペースノイド。人間と鬼。
多くの勢力が覇権を争う中を駆け抜けた者たちがいた。
ZEUTHと名乗る彼らは、種類は違えど多くの巨大な人型ロボットを操り、さまざまな争いの場に現れた。
最初は小さな集団でしかなかった彼らは、諍いや内部分裂を経験しつつも結束を固め、やがて地球圏において決して無視できない強大な力を持つようになる。
そして異星人の撃退、デスティニープランの阻止、コーラリアンとの対話など数々の功績をあげた。
何より、世界を影から操り混乱に陥れていた元凶、ジ・エーデル・ベルナルを討ち倒してみせた。
それによって結局多元世界は元に戻りこそしなかったものの、世界を少しでも安定に導くことに貢献したのである。
そんなZEUTHに所属していた者たちも、今はそれぞれ新しい生活を送っている。
ランド・トラビスとメール・ビーターも例外ではなかった。
※
北アメリア大陸中部―――
日差しの強い乾燥した荒野を、太陽の色をした巨人が駆けていた。
巨大なレンチをかつぎ、獅子の意匠を持つその名はガンレオン。
ZEUTHで多くのＭＳやＷＭ相手に破壊の限りを尽くしたスーパーロボットにして、修理屋ビーター・サービスの移動店舗でもある。
「よーし、ガンレオンの調子はおおむね良好っと。とはいえ俺の方はこう暑いと参っちまうよなぁ」
そしてコクピットに座る大柄な男は、そのメインパイロット、ランド・トラビスであった。
赤銅色に焼けた肌に分厚い筋肉の巨体は見る者を威圧する。
一方でその顔に浮かべられた微笑は、彼自身の人の良さを伺わせていた。
もっともランドの満面の笑顔は少々その風貌にミスマッチで、初対面の人間はまずこう思うことだろう。
（暑苦しい！）
と。
ともかく、ランドは冷房の調子が悪いガンレオンのコクピットで、ところどころ破れた紙の地図を広げていた。
多次元世界となってから、エマーンの商人やＵＮの影響で多くの文化が入り混じったが、やはりまだまだ地方にはその土地の文化が根強い。
黒歴史の時代から機械文明が封印されてきたこの辺りでは、携帯端末や電子ペーパーは普及していない。
「やっぱり地形が変わってやがるな……この辺りは前来た時はスカブに覆われてたと思ったんだが」
地図と周囲の風景を見比べて、ランドは頭をひねった。
彼が今手にしている地図は、ブレイク・ザ・ワールド直後にミリシャが発行したものだった。
それを見る限り、この一帯はトラパーの発生する“約束の地”の一部として色分けされていた。
しかし計器を見てもトラパーの反応はなく、黒い土が剥き出しになった大地はむしろゾラの荒野を思わせた。
数ヶ月前、ＺＥＵＴＨは最終作戦において、時空修復を行なった。
桂木桂を中心とした彼ら特異点がトラパーに乗った人々の願いを集めることで、崩壊に向かう多次元世界を元に戻そうとしたのだ。
結果、世界を元の形に戻すことこそ叶わなかったものの、現状の世界の崩壊は食い止めることが出来た。
しかし全く変化がなかったということでもないようで、所々このように地形が変わっていたり、
ブレイク・ザ・ワールドでスカブの中に消えたはずのものが出現したり、という事態が起こっていた。
ランド達は本業の傍ら、そうした現象を調査し新連邦やプラントにいる元ＺＥＵＴＨの仲間に報告する任務を帯びている。
「といっても、決め付けんのは早いか？ コンパクドライブは取り付けたものの、見方は俺にはよくわかんねえ……おーい、メール」
コクピットとは別にあるガンレオンの居住ブロックに向けてランドが声を上げると、シャッターの向こうからヒョコっとピンクの髪がこちらをのぞいた。
「どしたのダーリン？」
「おう、この辺のトラパーの濃度を調べてくれ」
「はいよ！」
ランドの声に満面の笑顔で返事をすると、彼のフィアンセを自称する少女、メールはガンレオンのサブ・シートに飛び乗り、作業を始めた。
ちらりと背後を振り返ってその様子を見たランドは、途端に呆れ顔になる。
「ってお前、何だその格好は？」
「だって暑いんだもーん」
そう言ってぐったりとコンソールにもたれるメールは、実際普段着とそうかけ離れた格好をしているわけではなかった。
いつもは上着部分を腰に巻いているツナギを、完全に脱いでしまっていることを除いては。
ブカブカのツナギを除いてしまうと、メールは下着同然のインナーだけ。しかもその幼い見た目には危険すぎるほど露出度が高かった。
「そんな布切れで男の前を歩くんもんじゃねえぞ。世の中クワト……ゲフン、少々の年齢差は恋の障害にならない人種もいるんだからな」
「あー、ダーリンえっちな目で見てるー」
「馬鹿言え、着てるのがお前じゃピクリとも感じねえよ」
「むっ」
「そうだな、アデット先生かエニル姐さんがその格好なら……へへへ」
「まーたおっぱいのこと考えてる！」
軽口の途中で知り合いの身体を思い出し、だらしない笑顔を浮かべるランド。
夫（？）の不実に怒ったメールは、背後のサブ・シートから飛び出し掴みかかった。
「わっ、痛ててて」
「ダーリンの浮気者〜！」
操縦中のランドの背中に抱きつくような形で、メールはランドの頬や髪を引っ張る。
「は、はなへへーりゅ！……ゲホッ、ほら、こうしてても背中に当たるもんがねえだろうが」
「うぅ！？」
「それこそ今言った二人ならこう、やわらかくて弾力のある丸〜いのが二つだな……」
「そ、そんなのあたしだって！」
ランドの挑発に声を張り上げて怒るメール。
何をする気かと思っているうちに衣擦れの音が聞こえ、不思議に思う間もなくランドの背にメールの胸が乱暴に押し当てられた。
「何だ何だ？ ゴムボールでも入れてくるのかと思ったら、そのまんまじゃねえか」
「……」
意地悪い笑みで笑い飛ばすランドの目の前に、メールはゆっくりと何かを落とした。
膝に落ちてきたそれに、ランドは何の気なしに目を落とす。
拾い上げてみると、メールのインナーだった。
それも、まだ温かい。
「ぶっ！おいメール！」
「あ、あたしだって……色仕掛けくらいできるもん！」
強気ながらも少し震える声で言うと、メールはランドに思い切り抱きついた。
ランドの方は服を着ているのではっきりとは分からないが、おそらくは素っ裸で。
「お、おいおい、それこそ無闇にやるもんじゃねえぞ？ 大体お前が色仕掛けなんてガラか？」
軽くあしらって服を着させようとして、ランドの口から出たのはそんな言葉だった。
語気にほんの少し動揺が出たことに、ランド自身がまず驚いた。
少し焦ったが、メールには伝わらなかったようだ。
「い、いいもん！ ダーリンの馬鹿！」
そう叫ぶと、メールはランドの背中から離れて行った。
「おいメール、これ！」
「いい！ このままシャワー浴びてくるから！」
振り返ると、案の定全裸のメールの尻が目に飛び込んできた。
そのままこちらを向くこともなく、メールは裸のまま居住ブロックへ駆けていった。
「ったく……そういうところがガキだってんだ」
まだメールの温もりが残るインナーをなんとなく手で弄びながら、ランドはシートにもたれ掛かり、キャノピーの外に広がる空を仰いだ。
別の女の肢体を妄想するランドに怒ったからといって、裸になって身体を押し付けるなど、確かに子供のすることだ。
とはいえ、それもメールなりに思いつめての行動だったのかもしれない。
幼すぎる身体に年頃の乙女の心を持つ彼女にとって、心と身体のギャップは常に悩みどころであるだろうから。
その辺りのことに察しが付かないランドではなかった。
（そんでもって……相手の想いをガキだからってだけで軽くあしらっちまうようじゃ……きっとダメな大人なんでしょうね、親方）
そう遠くない日に正面から自分にぶつけられるであろうメールの想いを、どう受け止めるか。
ここしばらく、ザ・ヒートは柄にもなくそんなことを悩んでいた。
※
ガンレオンの機体は、全長４３．４ｍとかなり大型である。
ダイターン３のような規格外のスーパーロボットほどではないものの、その巨体はサイコガンダムやデストロイガンダムをも上回っている。
その構造には最近判明したマグナモードへの変形機構を含め未知の部分が多いが、便利に使える空きスペースもあった。
そこでシエロ・ビーターに拾われてからは、胸の空間に居住ブロックが設けられていた。
それはロボットの体内に作られたものとしては意外なほど広く、生活に必要な設備も十分整っている。
そんな居住ブロックの隅のバスルームで、メールはぬるいシャワーに打たれていた。
「ダーリンのバカ！ 女の子がここまでしてるのに無反応なんて！」
ＺＥＵＴＨでの戦いの日々から何ヶ月か過ぎたが、相変わらずメールがどれだけ積極的にぶつかってもランドは軽くあしらうばかりだった。
「そりゃ……まだ伸びてないけどさ」
塗れた桃色の髪を、ぎゅっと引っ張る。
水の重みで普段より長いように見えなくもないが、やはり肩には届かない。
『そうだな……お前の髪が肩まで伸びたら……』
『結婚しよっ！』
『ぶっ！？』
厳密には両者で認識に食い違いがあるのだが、ランドとメールの間にはそんな約束がある。
しかし、世界がこれだけ変わっても相変わらず、メールの身体には変化が無かった。
「時空修復の時に、ちょっとだけ何か変わった気がしたんだけどなぁ……」
子供そのもののぽっこりしたお腹を撫でると、手に独特の感覚が走る。
やはりメールの体内にはまだ、傷だらけの獅子のスフィアが息づいていた。
一度はこれに命を救われたものの、その対価としてスフィアはいまだにランドに痛みを与え、メールの体の成長を阻害し続けている。
「ん……」
メールはそのまま、腹にあてた手をゆっくりと下の方へ移動させる。
まっ平らと言った方が近いなだらかな身体のラインをなぞり、下腹部に触れた指はそのまま秘所へと伸びる。
産毛すら生えないそこには、やはりまったく育っていないスリットがあるだけ。
しかしメールの指は、そこをゆっくりとなぞり始める。
「ふ……ぁ……」
メールがこういうことを始めたのは、あの戦いが終わってからだった。
ガリアの荒くれ共相手にたくましく商売をしていたメールにとって、女の子の友人というとチルやラグくらいのものだった。
それがＺＥＵＴＨでは同世代の女の子の友人がたくさんでき、たまには女性だけで集まって騒ぐこともあった。
そしてそういう時は、性別に関わらず話は猥談に流れるものらしい。
ルナマリアがシンにどう迫ったとか、グランナイツに入る前のミヅキの体験談などなど、メールや琉菜は耳まで真っ赤にして聞き入っていた。
他にもＵＮでそれらしいページをこっそり検索したりもした。
世の中性に関する情報など探せば簡単に出てくるもので、むしろランドと二人で旅を続けている間、どれだけ注意深く守られていたかを実感したものだった。
もっとも、せっかくの知識もランド相手では先ほどのようにはぐらかされてしまうので、こうして自慰にしか生かせないのだが。
「はぅ……ん、ダーリン……そこ……」
やがてスリットからはシャワーの水とは違う液体がにじんできた。
息遣いも荒く、メールはもう一方の手で乳首もいじり始める。
ささやか過ぎるふくらみの乳房は掴めもしないが、乳首だけはピンと立ち上がってくる。
「んっ、あぁっ、ダーリン、ダーリン……！」
想像の中では、ランドの手が荒々しくメールの身体を撫で回す。
ヌチャヌチャと卑猥な音を立てて、ぷっくりとしたすじを指でなぞる。
そしてメールの細い腰をがっしりと掴むと、そのまま背後から一気に貫く。
「はぁ、あ、あぁぁぁぁぁっ！」
実際にはランドのペニスとは程遠いか細い指の刺激で、メールは達した。
幼い股間からは、そのまま勢いよくおしっこがが噴き出す。
「あぅ……ん……はぁぁ」
ぺたりと座り込んでしまったメールに、シャワーの水が注ぎ続ける。
「ダーリン……あたしじゃダメなの？」
少しだけ、水が冷たくなったような気がした。
※
「さて、また随分と様子の違うところに来ちまったが……ん、どうしたメール、顔が赤いぞ」
「う、ううん、何でもないよ！」
数時間後、ランド達は荒野を駆け抜け、峡谷に行き着いていた。
荒地とは違い緑もあり、かすかな硫黄の匂いから火山地帯であることがわかった。
「んー、チラムからイングレッサの間の風景が随分変わっちゃってるみたいだね、ダーリン」
「そうだな、この辺りの景色は見たことが……うん？」
辺りを見回していると、ランドはかすかに機械の駆動音が聞こえることに気付いた。
谷底の方からだった。
それほど切り立った谷でもないのでガンレオンに乗り込み、そのまま飛び降りる。
『な、何だ！』
やはり人がいたらしく、落ちてきたガンレオンに驚く男の叫び声が聞こえた。
怪しまれてはたまらないので、ランドはすぐにキャノピーを開けて姿を見せた。
「よお、すまねえな。驚かすつもりはなかったんだ」
「……誰だあんたら」
そこにいたのは、汚れた作業着に身を包んだ髭の濃い男だった。
ガンレオンから降りたランドを、不審そうに睨んでいる。
「俺はランド・トラビス。人呼んでザ・ヒート！ さすらいの修理屋だぜ！」
（あ、暑苦しい……）
「あたしはメール・ビーター！ 妻です！」
「と、今のは聞き流してくれ。こいつはあくまで俺達ビーター・サービスの社長代理兼会計担当だ」
「うー……」
しばしランド達の空気に圧倒されていた男だったが、やがて佇まいを正して小声で名乗った。
「俺はウィル……ウィル・ゲイムって山師だ」
「おう、よろしくな、ウィルの旦那」
「……この辺の人間じゃねえな、あんたら」
「はは、分かるか？ 一応ガリアをシマにしてたんだが、今はいろんな大陸を流離ってる最中さ」
「で、ここに何のようだ」
ぶっきらぼうに尋ねるウィルに対し、ランドは相変わらずのスマイルで答える。
「なに、旅の途中で変わったところに行き着いたら、機械の音が聞こえたんでな。仕事の匂いがして来てみりゃあ……」
言いながら、ランドはウィルの背後に目をやった。
「なかなか面白そうなもんに出会えたってわけだ」
そこにあったのは、見たことのない型のＭＳ。
そして何かのノズルらしきものが突き出た巨大な黒い山肌だった。
それはこの一帯が黒歴史の遺産が眠る土地、マウンテンサイクルであることを示していた。
「へえ……それじゃ旦那は先祖代々、こいつを掘ってるってわけかい」
「ああ、おかげで土地のもんからは気触りのウィル・ゲイムなんて呼ばれちゃいるがな」
「はいウィルさん、ダーリン、コーヒーどうぞ♪」
マウンテンサイクルを少年のような目で眺めるランドにウィルの方も少し共感を覚えたようで、３人その場で一服しながら話すことになった。
ランドが掻い摘んでこれまでの自分達の経緯を話すと、ウィルは不思議そうな顔をした。
「そのブレイク・ザ・ワールドってのか。俺にはどうも実感がねえんだがなぁ」
「なんで？ 去年は世界中大変だったでしょ？」
「いや、俺はずっとここで宇宙船を掘ってたつもりだったが……たしかにここ最近急にいろんな国の名前を聞くようにはなったが、
天使のバケモノだの宇宙人の軍隊だのは見たこともねえ」
「ふむ……するとあんた、この間までスカブの中に取り込まれてたクチかもしれねえな」
「あ、そっか。この辺りの土地も戦争中には消えてたみたいだもんね」
「そうなのかねぇ……ま、どうでもいいけどな。俺にはこいつを掘り出して、月に行くことしかねえんだから」
立ち上がって伸びをしながら、ウィルは言った。
ウィルの一族……ゲイム家が宇宙船の発掘を始めてから、百年以上がたつ。
その頃、このオーバニーの地に、一時的に冬眠から覚めたディアナ・ソレルが休息に訪れていた。
まだ少女だったディアナは、そこでウィルの先祖であり同じ名前の貴族の青年、ウィル・ゲイムと恋に落ちたのだ。
二人は幸せな時を過ごしたが、やがて月から来た姫の噂があたりに広まり、周辺の領主等がディアナに求婚してくるようになった。
もとよりウィル以外を愛する気のなかったディアナは、鳳凰の羽を取ってきたものとだけ結婚すると言って、彼らを退けたのだった。
しかし誠実なウィルは、自分だけが無条件でディアナの夫になることを良しとしなかった。
他の者と対等な条件でディアナに求婚するため、鳳凰の羽を探す旅に出てしまったのである。
そしてその間にディアナは月へ帰ることになってしまい、その後二人が出会うことはなかったという。
この話は、最後にウィルが鳳凰の羽の魔法で夜鷹に変身して、ディアナに会いに行ったというラストを付けてこの辺りの土地に伝わる御伽噺となっていた。
「ディアナ様にそんなことがあったなんて……」
「ああ、あんたらの話だと今も生きてるみたいだな、ディアナ・ソレル」
「おう、綺麗で立派な姫様だったぜ」
「俺としちゃ、その立派な姫様が先祖を置いてさっさと帰っちまったのが、どういう了見だったか聞いてみてえもんだがな」
ウィルの表情に、少し影が落ちる。
「現実は御伽噺じゃねえからな。初代ウィル・ゲイムは夜鷹になれるわけもなくて、血眼になって月へ行く方法を探した。
財産も使いつぶして家も没落して、そして見つけたのがこの宇宙船の遺跡ってわけだ」
ランドとメールはウィルの言う宇宙船を見上げた。
ナノスキンの屑に包まれた船体は、まだ三分の一ほどしか姿を見せていない。
何百年も前から、ツルハシとスコップでコツコツと掘り続けてやっとここまで達したのだろう。
今のウィルはモビルスーツ・イルフートを使って作業を進めているようだが、手伝ってくれる者もいなくてはやはり楽な仕事ではあるまい。
「でもディアナ様にも、何か事情があったんだと思うよ？ すっごく優しい人だったもん」
「まぁわかんねえよな。今さら何か言ってもらったからって変わる訳じゃなし……でも、こいつで月に行けたらやっぱり会ってみてえなぁ」
「ふーん……」
しばらく宇宙船を見ながら黙っていたランドは、ウィルに向き直った。
「どうだいウィルの旦那。俺達にこいつの発掘の手伝いを依頼しねえか？」
「え？」
「ダーリン？」
「先祖代々の思いのこもった宇宙船が月へいく……修理屋の魂がくすぐられるじゃねえか。幸い穴掘りを仕事にしてたダチも今この大陸にいるんでな。役に立てると思うぜ？」
「そりゃあ……助かるがよ」
「もちろんあんたが良いっていうならだけどな」
「大勢で、機械人形を使ってか……そうすりゃすぐにでも月へいける……」
「ち、ちょっとダーリン！」
突然あわてて立ち上がったメールが、考え込むウィルをよそにランドの耳を引っ張る。
（おいおい何すんだ！）
（ダーリンこそ何言ってるの！ 忘れてない？ 今ディアナ様はビシニティにいるの！ 月にいるのはキエルさんじゃない！）
（分かってるよ、だが旦那はあくまで月に行きたいんだろ？ 話はまず宇宙船を掘り出してからじゃねえか）
（でも……片道半日くらいでディアナ様に会えるんだよ？ こんな飛ぶかどうか分からない宇宙船掘り出すことなんてないじゃない）
（わかってねえなあ。これは男のロマンなんだよ。過去のしがらみを越えて、ただ愛着あるマシンと共に冒険に出たいっていう……）
（でも危ないよ！ 宇宙にはまだ円盤獣の残骸とかゼラバイアの残りカスとか何が浮いてるか分かったもんじゃないんだから！）
「おい、ランド」
アンバランスな姿勢でひそひそ話をする二人に、ウィルが声をかける。
「はっきり言って、たいした額は払えねえ。だが……俺は何としてでも、月に行きたい」
「……ＯＫ、格安で引き受けるぜ」
「ちょ、何勝手に決めてるのーーー！！」
騒ぐメールをよそに、ランドはウィルに手を差し出す。
ウィルは汚れた軍手を外し、その手をがっしりと握った。
02
ランドがウィルの宇宙船の発掘を受け持ってから数日後。宇宙船の埋まるキングスレーの谷に、二隻の陸上戦艦が集まってきていた。
ランドシップ・アイアンギアーとバルチャー艦・フリーデンである。
「ようジロン！ ガロード！」
「ランド！ 久しぶり！」
「メールも元気そうだな！」
元々アメリアで活動していたフリーデンに、たまたま仕事でアメリアに来ていたアイアンギアーの面々。
ランドが声をかけると、いの一番に駆けつけてきた。
「これがその宇宙船かい？ アーガマともミネルバとも様子が違うけど」
「バカね、埋まっていたんだからキングビアルの親戚に決まってるでしょ！」
「いや、あれにも似てませんよお嬢さん」
ラグとエルチはさっそく宇宙船を見てはしゃいでいる。
「あー、あんたらがランドの知り合いか……？」
賑やかな増援に、ウィルは少し戸惑いつつ切り出す。
「はい！ 私がアイアンギアー艦長のエルチ・カーゴ。発掘作業でしたら私達にお任せください！」
「お、おう……頼むわ」
エルチのテンションに押されて、それだけ言うとウィルはまた作業に戻っていった。
「そういやガロード、ウィッツはどうしたんだ？ トニヤの姿も見えねえが……」
「ああ、あいつらね。実はさ……」
ランドの問いに答えようとしたガロードの言葉を、エニルが引き継ぐ。
「一時的に里帰りよ、ウィッツの故郷に。トニヤが付いていったのは、まぁそういうこと」
「あの二人結婚したの！？」
「まだよ、式を挙げるなら私達も出るんだから。とりあえずは家族に顔見せだって」
「そういうこと。だからエアマスターはいないけど、俺達だけでも十分仕事はさせてもらうぜ？」
「ほう……桂、ホランドに続いてウィッツもねえ」
「先越されちゃったね、ダーリン」
「バカ言え」
「おや、さすがザ・ヒート。ひょっとして俺より守備範囲広いんじゃない？」
「うるせえぞロアビィ！」
懐かしい仲間と談笑を交わしながら、やがて一同は作業に入っていった。
基本的な発掘作業は、ウォーカーマシンで行なうことになった。
ガロードたちはＭＳでナノスキンの屑を谷底から崖の上へ運び出し、ガンレオンは落盤が起きないよう、船体の周りの工事を行なった。
ウォーカーギャリアにザブングル、２台のトラッド１１。ガンダムＤＸにレオパルドデストロイ、ジェニスカスタムにＧファルコン。
一気に増えたマシンによって、その日のうちに船体の半分ほどが出てきてしまった。
「おお……」
愛想の良くないウィルも、今は夕日に照らされた宇宙船の様子に素直に感動しているようだった。
「どうだい旦那、やっぱり早えだろう？」
「ああ。こんな形だったんだなぁ、俺の宇宙船……」
「おーいランド、ウィルさん！ ブリッジらしいところに入れそうだぞー！」
「おう、でかしたぜジロン！ ほら行こうぜ旦那！」
「ああ！」
駆け出す二人を一休みしながら見ているのはメールとチル、ティファの３人。
「ランド、いい年して子供みたいだわさ」
「でもそれがダーリンのいいところなんだよね〜……はぅ」
うっとりと眺めるメールを、チルはまん丸な目でじっと見る。
「……ラグが言ってた。こういうのノロケって言うんだって」
「ノロケでもいいもーん、あたしとダーリンはラブラブなんだから♪」
「あたいにはわかんないや。ティファもガロードとラブラブだよね？」
「えっ……あ……はい」
突然話を振られて、ティファは真っ赤になって俯いてしまう。
「ティファ、やっぱりガロードとは……進んでるんだよね？」
「……！」
神妙な顔で聞くメールに対し、ティファの方はさらに赤くなる。
「はぁ……そうだよね、きっとサラとゲイナーもうまくやってるんだろうなぁ……うちのダーリンはいまだにあたしのこと子ども扱いだよ」
「それはメールが本当に子ど……むぐ」
言葉のナイフを無意識に投げそうになるチルの口を、ティファがそっとふさいだ。
「……ランドの想いを、メールが本当は分かってるように……メールの想いも、ランドにちゃんと伝わってる……」
「ティファ……」
「だから、メールは元気でいて……私もガロードに触れたくて仕方がなかったとき、ガロードはちゃんと私を見てくれたから……」
「……ん、そうだね」
「ぷはっ、ティファ苦しいだわさ！」
もうそろそろ日が沈む。
少し晴れやかな気持ちで、メールは夕食の準備に立ち上がった。
※
「かーっ、やっぱり労働の後は一っ風呂浴びるに限るぜ」
「久しぶりに皆で食う飯もうまかったなぁ」
火山地帯であるオーバニーには、各地に天然の温泉が存在する。
そのことをウィルから聞いて知った一同は、発掘作業のついでに小さな温泉を掘って石を並べ、即席の岩風呂を作ってしまった。
湯船のスペースを広げて、空のコンテナを脱衣所代わりに。男湯女湯の区切りも作ってある。
もっとも、ランドやブルメが覗きの計画を立てているのがバレて、エルチたちによって男女で入浴の時間をずらされてしまったが。
そういったわけで、ランド達は食後にしばらく時間を挟んでの入浴中だった。
風呂上りの女性陣のしっとり濡れた髪を涙を呑んで見つめたものの、熱い湯に浸かるとそんな邪念も吹き飛んだ。
「しかしほんの少し前だってのに、ＺＥＵＴＨの仲間に会うと懐かしく感じるもんだなぁ」
「なんだよおっさん、年寄り臭い事言ってさ」
「でもランドの言うことも分かるな。ほら、さっき聞いたあのウィルって人とディアナさんの話さ。
俺達もああやって、いつ今生の別れになったって本当はおかしくないんだもんな」
ジロンの言葉に、ランドをからかっていたキッドが口をつぐむ。
確かにその通りだった。
多次元世紀というこの不安定な時代。次元の歪みが相次ぐなか、いつ仲間たちの誰かが世界から切り離され、二度と会うことができなくなってもおかしくはないのだ。
事実あの戦いの後、何人かのメンバーとは共に勝利を分かち合うことが出来なかった。
アクエリオンで自分達ごと次元をつなぎとめたアポロとシリウス。
そして姿を消してしまったレントンとエウレカ。
誰も彼らの生存を疑いはしなかったが、やはり心配ではあった。
「そうだな……無事宇宙船を掘り出したら、やっぱり宇宙に行く前にディアナ様には連絡とっとくかなぁ……」
しみじみ考えていると、ロアビィとブルメが女湯との仕切りの前で何かしているのが目に付いた。
「どうしたんだお前ら？」
「しっ、なーんか女湯の方から音がすんだよね……」
「音？」
「ああ、こりゃ誰かもう一度入りに来たんじゃないかってさ」
「一体誰かな〜っと。エニルかパーラか……」
「コホン、どれどれ、私にも見せてみたまえ君達」
これ以上無いほど不純な笑みを浮かべながら、ランドが仕切りに近づく。
廃材で作った仕切りの向こうからは、確かに何かの水音と押し殺したような声が聞こえた。
そこでランドは気付いた。
今ここに足りない人物がいる。
そして女性陣が風呂に入った時、まだ食事の後始末に残っていた娘がいた。
「……ははぁ。二人とも、ありゃ猿か何かだな」
「ん？」
「この辺りにそんなのいるのかい？」
「いいからほら、上がるぞ！ 上がったら酒だ！ 酒！」
「わ、何だ何だ！」
ランドは突然二人の腕を掴むと、そのまま湯から出て脱衣所へと連れ込んでいく。
ポカンとしていたジロンも、とくに女湯の方に興味を示すでもなく居眠りを始めてしまった。
ランドはちらりと仕切りの方を見ると、すぐに踵を返した。
（やるじゃねえかガロード。あとで酒の肴に話聞かせろよ？）
※
ランドの読みどおり、今は女湯は二人の貸切だった。
ガロードとティファは湯船に並んで、肩が触れるか触れないかの距離で温まっていた。
「は、はは、エニルも変な気使うよなっ！ こっちには人を行かせないから二人で入ってこいなんて！」
気恥ずかしさに声が裏返っているガロード。
一方のティファも、顔を真っ赤にして口まで湯に浸け、ブクブクと泡を立てていた。
ＺＥＵＴＨを出てフリーデンで多次元世界を旅する中で、二人はすでに結ばれている。
しかしながら混浴というシチュエーションはやはりベッドの上とは一味違うようで、互いに明後日の方向を見ていた。
「そ、それにしても温泉っていいもんだよなティファ！」
「……は、はい」
小声ながらも照れ隠しに饒舌になるガロードと、恥ずかしげに答えるティファ。
エニルならずとも、見ていると何ともむず痒いものを感じて、背中をドンと押してみたくなることだろう。
そんな調子で湯につかり続けているうちに、ティファがポツリと口を開いた。
「メールが……悩んでいました」
「メールが？ あんまり変わった様子はなかったぜ？」
「ランドのことです……想いが、すれ違っている気がすると」
「すれ違う？ あの二人が？」
「メールのほしがってる気持ちをあげることを、ランドは躊躇っています……」
ランドがメールを想っている、それは間違いない。
しかし、それはいなくなった親方の代わりとしての父性愛であって、女性に対する想いとは違うのではないだろうか。
ティファはメールのそんな悩みを感じ取っていた。
「……俺は、メールが考えてるほど目のない勝負じゃないと思うけどな」
「ガロード……」
「俺とティファだってさ、障害は山ほどあったけど、ずっとお互いに好きだったから乗り越えてこられた。
逆に言えばランドとメールだって、いろいろ乗り越えて一緒にいる……それって嫌いな相手とじゃ、出来ないことだと思うぜ？」
「……うん」
ガロードの言葉は、いつもティファを安心させてくれる。
ティファはそっと、ガロードの肩に頭を寄せた。
いつの間にか二人の距離は近づいていて、ガロードの腕がティファの肩に回されていた。
「ティファ」
「ガロード……」
唇が触れ合う。何度か離れてはまた触れてを繰り返し、やがてガロードがティファを強く抱き寄せ、唇を吸った。
「ん……ちゅ……ぅ」
「んぅ……はっ、がろーど……」
「そっちの岩に上がって、ティファ」
そう言ってティファの身体から、するりとタオルを外すガロード。
そして岩の上に二人のタオルを重ねて敷いて、その上に一糸纏わぬティファを横たえる。
湯の熱さでピンク色のティファの素肌に、口付けを落としていく。
「あっ、あぁ……」
「へへ、ティファ……大丈夫か？ のぼせてないか？」
「うん……すごく熱い……けど、この熱さはガロードに触れてるから……」
ティファの言葉に笑顔を返して、ガロードはそっとティファを抱きしめた。
「あ……ん」
硬く勃起したペニスが、ティファの毛の薄い下腹部に押し付けられる。
形の良い乳房が胸に当たるのを感じつつ、ガロードはまたティファにキスをする。
「ん……ティファのおっぱい、柔らかいや」
「あんっ……」
手はティファの背に回したまま、ガロードは胸でプニプニと形を変える乳房を堪能する。
ティファもまた、ガロードの少しがっしりしてきた胸板の感触に酔っているようだった。
そうしているうちに、ガロードは腿に当たるティファの股間の変化に気付いた。
「あっ……」
「そろそろ挿れるよ、ティファ」
「……きて」
そして少し腰を浮かせると、しっとりと濡れたティファの秘所にゆっくり突き通した。
「あっ、あぁぁっ！」
「ん……！」
「はぁっ……ん……ガロードのが……」
挿入したペニスをゆっくり動かしていく。
往復するたびにティファの身体はピクンピクンと震え、ガロードを抱きしめる手にも力が入っていく。
「すごい……ティファの膣内……あったかい」
「ひぅ……ぁ、は、はずかしい……」
「好きだぜ、ティファ……！」
「わたしも……すき……だいすきぃ……！」
強く抱きしめ合い、激しく求め合い続ける二人。
繋がった所からニチャニチャと淫らな音を立てながら、相手の身体の熱を吸い尽くすように、自分の身体の熱を与え尽くすようにこすり合わせる。
「ティファ……おれ、俺……！」
「ぁっ！あ、ぁん……きて、がろーどっ！！」
「んぐ！」
「はぐっ、あ、あ、あぁぁぁぁぁっっ！！」
そしてついに、ガロードの精液がティファの膣内ではじけた。
訪れた絶頂にティファの身体が弓なりに跳ね、ガロードをギュッと強く抱きしめた。
数分後。
後始末をした後、身体を流してもう一度二人は湯に浸かっていた。
さすがに一度交わってしまうと恥ずかしさも薄れたのか、タオルも着けず、あぐらをかいたガロードの上にティファが座る形で触れ合っていた。
「ふぅ……ランド達のこともだけど……宇宙船、ちゃんと月に飛ばせるといいな」
「はい……」
ガロードの息遣いを耳元に感じながら、ティファは答えた。
正直なところ、何か引っかかるものはある。
元はといえば、数日前フリーデンの進路を決める際、ティファが何かを感じ取ってアメリアを南下することに決まった。
その結果フリーデンはランドからの通信を受けることが出来たのだ。
ここであの宇宙船の発掘に協力することが、何かを良い結果に近づけるのかもしれない。
しかし同時に、ティファには何らかの争いの起こる予感もしていた。
（でも決して悲しい結果にはならない……ガロードがいてくれる限り……私にはそう思えるから……）
初めて出会った夜と同じ明るい月の下、ティファはガロードの抱く手にそっと手を重ねた。
※
同じ頃、キングスレーの谷ではウィルが満足げに宇宙船を眺めていた。
（もうすぐだ……もうすぐ夢が叶う……！）
このためだけに、何代もかけて発掘を続けてきた。気触りの一族と罵られても、不自由な生活を強いられても。
妄執にも変わりかねないほどの強い願いが、今形になろうとしている。
見上げると、今日は満月だった。あの月にあるというムーンレィスの国。そこへ行けばディアナ・ソレルに会うことが出来る。
会ってどうするのかなどは考えていない。むしろ自分の一族をこんな境遇に落としたディアナにこだわりはないはずだった。
しかし、ランド達の話を聞いていると。そして彼らと一緒に宇宙船の発掘をしていると。
ディアナ・ソレルに『ついに俺達はやったぜ』とでも言ってやるのも悪くないと思えた。
（あいつらのおかげか……）
「アンタがウィル・ゲイムかい？」
「誰だ！？」
そんなことを考えていたからか。背後に立つ男に、全く気が付かなかった。
「へへ、ちょいとばかしアンタに伝えることがあってねぇ……」
「誰だと聞いてんだよ俺は！」
「おっと、そう怒りなさんな」
男は、黒尽くめの服にテンガロンハットをかぶっていた。
笑顔を作っているが、その目は鋭く、笑っていない。
「俺はティンプ・シャローン……ある人から、アンタに良ーい話を持ってきたんだ」
※
翌朝。全員発掘現場に集まり、作業を始めようと準備をしていた。
しかしウィルの姿がどこにも見当たらず、ランドが家の方まで探しに向うことになった。
仕方なくランドの帰りを待っている間、ジロンがこんなことを言い出した。
「そういやこの宇宙船、なんて名前だろうな」
「さあなぁ……あのウィルってのも特に名付けてないようだったがな」
「ふむ、名前はあるに越したことはないな。皆で考えてみるのも良いかもしれん」
テクスの言葉に、一同宇宙船の方を見て頭をひねる。
「フリーデン�兇辰討里呂匹Δ澄�」
「お前らのとこの艦そのまんまじゃないか！」
「そうね、ここはキャリングなんていいんじゃない？」
「そりゃあんたの親父さんの名前でしょうが」
あれこれと候補を挙げているうちに、一機の巨影が谷へ降りてきた。ウィルのキャノンイルフートだった。
「あ、来た来た」
「あれ、でもダーリンがいないよ？」
ガンレオンの姿が見えない上に、ウィルはなかなかイルフートから降りてこようとしない。
不思議に思ったメールがイルフートに近づこうとすると、ウィルの声がスピーカーから響いた。
『その宇宙船は俺のものだ……勝手に名付けられてたまるか』
「え……？」
「もちろんあんたの意見も聞くさ。けど考えるくらい良いだろう？」
ジロンが反論すると、しばしの沈黙が続いた。しかし相変わらずコクピットが開く様子はない。
「ウィル・ゲイムさん……？」
『やっぱりお前ら、そうなのか……？ 俺の宇宙船を、お前らのものにしちまうつもりで……？』
「お、おい、何言ってんだよおっさん！？」
ガロードが何か言う間もなく、イルフートの後ろから声が響いた。
『その通りさ。分かったろうウィル・ゲイム。そいつらは悪名高いブレーカーとバルチャーなのさ』
「この声！？」
声の主に、ジロンが気付いたそのとき。崖の上から、黒いウォーカーマシンが飛び出した。
「ブラッカリィ！ お前かティンプ！？」
『元気そうだなぁ兄ちゃん。だが、カタギ相手に艦をゆすり盗ろうたぁ感心しねえなぁ？』
「お前、何言って……」
『お前らが、俺が知らない戦争中に何をしたか……このティンプから聞いたぜ。機械人形を盗んだり、戦争に横槍を入れて暴れたり……次の狙いが俺の宇宙船だったってわけかよ』
「ち、違う！ ティンプの言ってることは……そりゃ全く無かったとは言わないけど違う！」
『見苦しいぜ兄ちゃん！ 俺はこのウィル・ゲイムにスポンサーを連れてきたのさ……お前らみたいな悪〜い奴らに騙されずに、ちゃんと宇宙に行けるようになぁ』
『……明日だ！ ティンプの仲間を連れてくる！ その時までにここを明け渡してもらうぞ！！』
何かを振り切るようにそう言うと、イルフートとブラッカリィは踵を返し、去って行く。
「お、おい待てって、おっさん！」
『おっと』
「うわ！？」
後を追おうとＤＸに乗り込もうとしたガロードを、ティンプの銃弾が阻んだ。
威嚇だったのか誰にも当たりはしなかったが、そのうちの一発が宇宙船の上にある岩盤を傷つけた。
「いかん！ 皆離れろ！」
テクスの指示に、皆慌てて退避する。
幸い大きな崩落が起こることはなく、怪我人も出なかった。しかし気が付けば、２機ともすっかり姿を消してしまっていたのだった。
ランドシップ・アイアンギアーとバルチャー艦・フリーデンである。
「ようジロン！ ガロード！」
「ランド！ 久しぶり！」
「メールも元気そうだな！」
元々アメリアで活動していたフリーデンに、たまたま仕事でアメリアに来ていたアイアンギアーの面々。
ランドが声をかけると、いの一番に駆けつけてきた。
「これがその宇宙船かい？ アーガマともミネルバとも様子が違うけど」
「バカね、埋まっていたんだからキングビアルの親戚に決まってるでしょ！」
「いや、あれにも似てませんよお嬢さん」
ラグとエルチはさっそく宇宙船を見てはしゃいでいる。
「あー、あんたらがランドの知り合いか……？」
賑やかな増援に、ウィルは少し戸惑いつつ切り出す。
「はい！ 私がアイアンギアー艦長のエルチ・カーゴ。発掘作業でしたら私達にお任せください！」
「お、おう……頼むわ」
エルチのテンションに押されて、それだけ言うとウィルはまた作業に戻っていった。
「そういやガロード、ウィッツはどうしたんだ？ トニヤの姿も見えねえが……」
「ああ、あいつらね。実はさ……」
ランドの問いに答えようとしたガロードの言葉を、エニルが引き継ぐ。
「一時的に里帰りよ、ウィッツの故郷に。トニヤが付いていったのは、まぁそういうこと」
「あの二人結婚したの！？」
「まだよ、式を挙げるなら私達も出るんだから。とりあえずは家族に顔見せだって」
「そういうこと。だからエアマスターはいないけど、俺達だけでも十分仕事はさせてもらうぜ？」
「ほう……桂、ホランドに続いてウィッツもねえ」
「先越されちゃったね、ダーリン」
「バカ言え」
「おや、さすがザ・ヒート。ひょっとして俺より守備範囲広いんじゃない？」
「うるせえぞロアビィ！」
懐かしい仲間と談笑を交わしながら、やがて一同は作業に入っていった。
基本的な発掘作業は、ウォーカーマシンで行なうことになった。
ガロードたちはＭＳでナノスキンの屑を谷底から崖の上へ運び出し、ガンレオンは落盤が起きないよう、船体の周りの工事を行なった。
ウォーカーギャリアにザブングル、２台のトラッド１１。ガンダムＤＸにレオパルドデストロイ、ジェニスカスタムにＧファルコン。
一気に増えたマシンによって、その日のうちに船体の半分ほどが出てきてしまった。
「おお……」
愛想の良くないウィルも、今は夕日に照らされた宇宙船の様子に素直に感動しているようだった。
「どうだい旦那、やっぱり早えだろう？」
「ああ。こんな形だったんだなぁ、俺の宇宙船……」
「おーいランド、ウィルさん！ ブリッジらしいところに入れそうだぞー！」
「おう、でかしたぜジロン！ ほら行こうぜ旦那！」
「ああ！」
駆け出す二人を一休みしながら見ているのはメールとチル、ティファの３人。
「ランド、いい年して子供みたいだわさ」
「でもそれがダーリンのいいところなんだよね〜……はぅ」
うっとりと眺めるメールを、チルはまん丸な目でじっと見る。
「……ラグが言ってた。こういうのノロケって言うんだって」
「ノロケでもいいもーん、あたしとダーリンはラブラブなんだから♪」
「あたいにはわかんないや。ティファもガロードとラブラブだよね？」
「えっ……あ……はい」
突然話を振られて、ティファは真っ赤になって俯いてしまう。
「ティファ、やっぱりガロードとは……進んでるんだよね？」
「……！」
神妙な顔で聞くメールに対し、ティファの方はさらに赤くなる。
「はぁ……そうだよね、きっとサラとゲイナーもうまくやってるんだろうなぁ……うちのダーリンはいまだにあたしのこと子ども扱いだよ」
「それはメールが本当に子ど……むぐ」
言葉のナイフを無意識に投げそうになるチルの口を、ティファがそっとふさいだ。
「……ランドの想いを、メールが本当は分かってるように……メールの想いも、ランドにちゃんと伝わってる……」
「ティファ……」
「だから、メールは元気でいて……私もガロードに触れたくて仕方がなかったとき、ガロードはちゃんと私を見てくれたから……」
「……ん、そうだね」
「ぷはっ、ティファ苦しいだわさ！」
もうそろそろ日が沈む。
少し晴れやかな気持ちで、メールは夕食の準備に立ち上がった。
※
「かーっ、やっぱり労働の後は一っ風呂浴びるに限るぜ」
「久しぶりに皆で食う飯もうまかったなぁ」
火山地帯であるオーバニーには、各地に天然の温泉が存在する。
そのことをウィルから聞いて知った一同は、発掘作業のついでに小さな温泉を掘って石を並べ、即席の岩風呂を作ってしまった。
湯船のスペースを広げて、空のコンテナを脱衣所代わりに。男湯女湯の区切りも作ってある。
もっとも、ランドやブルメが覗きの計画を立てているのがバレて、エルチたちによって男女で入浴の時間をずらされてしまったが。
そういったわけで、ランド達は食後にしばらく時間を挟んでの入浴中だった。
風呂上りの女性陣のしっとり濡れた髪を涙を呑んで見つめたものの、熱い湯に浸かるとそんな邪念も吹き飛んだ。
「しかしほんの少し前だってのに、ＺＥＵＴＨの仲間に会うと懐かしく感じるもんだなぁ」
「なんだよおっさん、年寄り臭い事言ってさ」
「でもランドの言うことも分かるな。ほら、さっき聞いたあのウィルって人とディアナさんの話さ。
俺達もああやって、いつ今生の別れになったって本当はおかしくないんだもんな」
ジロンの言葉に、ランドをからかっていたキッドが口をつぐむ。
確かにその通りだった。
多次元世紀というこの不安定な時代。次元の歪みが相次ぐなか、いつ仲間たちの誰かが世界から切り離され、二度と会うことができなくなってもおかしくはないのだ。
事実あの戦いの後、何人かのメンバーとは共に勝利を分かち合うことが出来なかった。
アクエリオンで自分達ごと次元をつなぎとめたアポロとシリウス。
そして姿を消してしまったレントンとエウレカ。
誰も彼らの生存を疑いはしなかったが、やはり心配ではあった。
「そうだな……無事宇宙船を掘り出したら、やっぱり宇宙に行く前にディアナ様には連絡とっとくかなぁ……」
しみじみ考えていると、ロアビィとブルメが女湯との仕切りの前で何かしているのが目に付いた。
「どうしたんだお前ら？」
「しっ、なーんか女湯の方から音がすんだよね……」
「音？」
「ああ、こりゃ誰かもう一度入りに来たんじゃないかってさ」
「一体誰かな〜っと。エニルかパーラか……」
「コホン、どれどれ、私にも見せてみたまえ君達」
これ以上無いほど不純な笑みを浮かべながら、ランドが仕切りに近づく。
廃材で作った仕切りの向こうからは、確かに何かの水音と押し殺したような声が聞こえた。
そこでランドは気付いた。
今ここに足りない人物がいる。
そして女性陣が風呂に入った時、まだ食事の後始末に残っていた娘がいた。
「……ははぁ。二人とも、ありゃ猿か何かだな」
「ん？」
「この辺りにそんなのいるのかい？」
「いいからほら、上がるぞ！ 上がったら酒だ！ 酒！」
「わ、何だ何だ！」
ランドは突然二人の腕を掴むと、そのまま湯から出て脱衣所へと連れ込んでいく。
ポカンとしていたジロンも、とくに女湯の方に興味を示すでもなく居眠りを始めてしまった。
ランドはちらりと仕切りの方を見ると、すぐに踵を返した。
（やるじゃねえかガロード。あとで酒の肴に話聞かせろよ？）
※
ランドの読みどおり、今は女湯は二人の貸切だった。
ガロードとティファは湯船に並んで、肩が触れるか触れないかの距離で温まっていた。
「は、はは、エニルも変な気使うよなっ！ こっちには人を行かせないから二人で入ってこいなんて！」
気恥ずかしさに声が裏返っているガロード。
一方のティファも、顔を真っ赤にして口まで湯に浸け、ブクブクと泡を立てていた。
ＺＥＵＴＨを出てフリーデンで多次元世界を旅する中で、二人はすでに結ばれている。
しかしながら混浴というシチュエーションはやはりベッドの上とは一味違うようで、互いに明後日の方向を見ていた。
「そ、それにしても温泉っていいもんだよなティファ！」
「……は、はい」
小声ながらも照れ隠しに饒舌になるガロードと、恥ずかしげに答えるティファ。
エニルならずとも、見ていると何ともむず痒いものを感じて、背中をドンと押してみたくなることだろう。
そんな調子で湯につかり続けているうちに、ティファがポツリと口を開いた。
「メールが……悩んでいました」
「メールが？ あんまり変わった様子はなかったぜ？」
「ランドのことです……想いが、すれ違っている気がすると」
「すれ違う？ あの二人が？」
「メールのほしがってる気持ちをあげることを、ランドは躊躇っています……」
ランドがメールを想っている、それは間違いない。
しかし、それはいなくなった親方の代わりとしての父性愛であって、女性に対する想いとは違うのではないだろうか。
ティファはメールのそんな悩みを感じ取っていた。
「……俺は、メールが考えてるほど目のない勝負じゃないと思うけどな」
「ガロード……」
「俺とティファだってさ、障害は山ほどあったけど、ずっとお互いに好きだったから乗り越えてこられた。
逆に言えばランドとメールだって、いろいろ乗り越えて一緒にいる……それって嫌いな相手とじゃ、出来ないことだと思うぜ？」
「……うん」
ガロードの言葉は、いつもティファを安心させてくれる。
ティファはそっと、ガロードの肩に頭を寄せた。
いつの間にか二人の距離は近づいていて、ガロードの腕がティファの肩に回されていた。
「ティファ」
「ガロード……」
唇が触れ合う。何度か離れてはまた触れてを繰り返し、やがてガロードがティファを強く抱き寄せ、唇を吸った。
「ん……ちゅ……ぅ」
「んぅ……はっ、がろーど……」
「そっちの岩に上がって、ティファ」
そう言ってティファの身体から、するりとタオルを外すガロード。
そして岩の上に二人のタオルを重ねて敷いて、その上に一糸纏わぬティファを横たえる。
湯の熱さでピンク色のティファの素肌に、口付けを落としていく。
「あっ、あぁ……」
「へへ、ティファ……大丈夫か？ のぼせてないか？」
「うん……すごく熱い……けど、この熱さはガロードに触れてるから……」
ティファの言葉に笑顔を返して、ガロードはそっとティファを抱きしめた。
「あ……ん」
硬く勃起したペニスが、ティファの毛の薄い下腹部に押し付けられる。
形の良い乳房が胸に当たるのを感じつつ、ガロードはまたティファにキスをする。
「ん……ティファのおっぱい、柔らかいや」
「あんっ……」
手はティファの背に回したまま、ガロードは胸でプニプニと形を変える乳房を堪能する。
ティファもまた、ガロードの少しがっしりしてきた胸板の感触に酔っているようだった。
そうしているうちに、ガロードは腿に当たるティファの股間の変化に気付いた。
「あっ……」
「そろそろ挿れるよ、ティファ」
「……きて」
そして少し腰を浮かせると、しっとりと濡れたティファの秘所にゆっくり突き通した。
「あっ、あぁぁっ！」
「ん……！」
「はぁっ……ん……ガロードのが……」
挿入したペニスをゆっくり動かしていく。
往復するたびにティファの身体はピクンピクンと震え、ガロードを抱きしめる手にも力が入っていく。
「すごい……ティファの膣内……あったかい」
「ひぅ……ぁ、は、はずかしい……」
「好きだぜ、ティファ……！」
「わたしも……すき……だいすきぃ……！」
強く抱きしめ合い、激しく求め合い続ける二人。
繋がった所からニチャニチャと淫らな音を立てながら、相手の身体の熱を吸い尽くすように、自分の身体の熱を与え尽くすようにこすり合わせる。
「ティファ……おれ、俺……！」
「ぁっ！あ、ぁん……きて、がろーどっ！！」
「んぐ！」
「はぐっ、あ、あ、あぁぁぁぁぁっっ！！」
そしてついに、ガロードの精液がティファの膣内ではじけた。
訪れた絶頂にティファの身体が弓なりに跳ね、ガロードをギュッと強く抱きしめた。
数分後。
後始末をした後、身体を流してもう一度二人は湯に浸かっていた。
さすがに一度交わってしまうと恥ずかしさも薄れたのか、タオルも着けず、あぐらをかいたガロードの上にティファが座る形で触れ合っていた。
「ふぅ……ランド達のこともだけど……宇宙船、ちゃんと月に飛ばせるといいな」
「はい……」
ガロードの息遣いを耳元に感じながら、ティファは答えた。
正直なところ、何か引っかかるものはある。
元はといえば、数日前フリーデンの進路を決める際、ティファが何かを感じ取ってアメリアを南下することに決まった。
その結果フリーデンはランドからの通信を受けることが出来たのだ。
ここであの宇宙船の発掘に協力することが、何かを良い結果に近づけるのかもしれない。
しかし同時に、ティファには何らかの争いの起こる予感もしていた。
（でも決して悲しい結果にはならない……ガロードがいてくれる限り……私にはそう思えるから……）
初めて出会った夜と同じ明るい月の下、ティファはガロードの抱く手にそっと手を重ねた。
※
同じ頃、キングスレーの谷ではウィルが満足げに宇宙船を眺めていた。
（もうすぐだ……もうすぐ夢が叶う……！）
このためだけに、何代もかけて発掘を続けてきた。気触りの一族と罵られても、不自由な生活を強いられても。
妄執にも変わりかねないほどの強い願いが、今形になろうとしている。
見上げると、今日は満月だった。あの月にあるというムーンレィスの国。そこへ行けばディアナ・ソレルに会うことが出来る。
会ってどうするのかなどは考えていない。むしろ自分の一族をこんな境遇に落としたディアナにこだわりはないはずだった。
しかし、ランド達の話を聞いていると。そして彼らと一緒に宇宙船の発掘をしていると。
ディアナ・ソレルに『ついに俺達はやったぜ』とでも言ってやるのも悪くないと思えた。
（あいつらのおかげか……）
「アンタがウィル・ゲイムかい？」
「誰だ！？」
そんなことを考えていたからか。背後に立つ男に、全く気が付かなかった。
「へへ、ちょいとばかしアンタに伝えることがあってねぇ……」
「誰だと聞いてんだよ俺は！」
「おっと、そう怒りなさんな」
男は、黒尽くめの服にテンガロンハットをかぶっていた。
笑顔を作っているが、その目は鋭く、笑っていない。
「俺はティンプ・シャローン……ある人から、アンタに良ーい話を持ってきたんだ」
※
翌朝。全員発掘現場に集まり、作業を始めようと準備をしていた。
しかしウィルの姿がどこにも見当たらず、ランドが家の方まで探しに向うことになった。
仕方なくランドの帰りを待っている間、ジロンがこんなことを言い出した。
「そういやこの宇宙船、なんて名前だろうな」
「さあなぁ……あのウィルってのも特に名付けてないようだったがな」
「ふむ、名前はあるに越したことはないな。皆で考えてみるのも良いかもしれん」
テクスの言葉に、一同宇宙船の方を見て頭をひねる。
「フリーデン�兇辰討里呂匹Δ澄�」
「お前らのとこの艦そのまんまじゃないか！」
「そうね、ここはキャリングなんていいんじゃない？」
「そりゃあんたの親父さんの名前でしょうが」
あれこれと候補を挙げているうちに、一機の巨影が谷へ降りてきた。ウィルのキャノンイルフートだった。
「あ、来た来た」
「あれ、でもダーリンがいないよ？」
ガンレオンの姿が見えない上に、ウィルはなかなかイルフートから降りてこようとしない。
不思議に思ったメールがイルフートに近づこうとすると、ウィルの声がスピーカーから響いた。
『その宇宙船は俺のものだ……勝手に名付けられてたまるか』
「え……？」
「もちろんあんたの意見も聞くさ。けど考えるくらい良いだろう？」
ジロンが反論すると、しばしの沈黙が続いた。しかし相変わらずコクピットが開く様子はない。
「ウィル・ゲイムさん……？」
『やっぱりお前ら、そうなのか……？ 俺の宇宙船を、お前らのものにしちまうつもりで……？』
「お、おい、何言ってんだよおっさん！？」
ガロードが何か言う間もなく、イルフートの後ろから声が響いた。
『その通りさ。分かったろうウィル・ゲイム。そいつらは悪名高いブレーカーとバルチャーなのさ』
「この声！？」
声の主に、ジロンが気付いたそのとき。崖の上から、黒いウォーカーマシンが飛び出した。
「ブラッカリィ！ お前かティンプ！？」
『元気そうだなぁ兄ちゃん。だが、カタギ相手に艦をゆすり盗ろうたぁ感心しねえなぁ？』
「お前、何言って……」
『お前らが、俺が知らない戦争中に何をしたか……このティンプから聞いたぜ。機械人形を盗んだり、戦争に横槍を入れて暴れたり……次の狙いが俺の宇宙船だったってわけかよ』
「ち、違う！ ティンプの言ってることは……そりゃ全く無かったとは言わないけど違う！」
『見苦しいぜ兄ちゃん！ 俺はこのウィル・ゲイムにスポンサーを連れてきたのさ……お前らみたいな悪〜い奴らに騙されずに、ちゃんと宇宙に行けるようになぁ』
『……明日だ！ ティンプの仲間を連れてくる！ その時までにここを明け渡してもらうぞ！！』
何かを振り切るようにそう言うと、イルフートとブラッカリィは踵を返し、去って行く。
「お、おい待てって、おっさん！」
『おっと』
「うわ！？」
後を追おうとＤＸに乗り込もうとしたガロードを、ティンプの銃弾が阻んだ。
威嚇だったのか誰にも当たりはしなかったが、そのうちの一発が宇宙船の上にある岩盤を傷つけた。
「いかん！ 皆離れろ！」
テクスの指示に、皆慌てて退避する。
幸い大きな崩落が起こることはなく、怪我人も出なかった。しかし気が付けば、２機ともすっかり姿を消してしまっていたのだった。
03
「おいおい、ウィルの旦那が行っちまったって？ しかも俺達を盗人だと思ってるって……」
「俺達にも良く分からないけど……ティンプの奴に騙されてるらしいんだ」
ランドがキングスレーの谷に戻ると、皆それぞれのマシンで荒れた発掘現場を整えているところだった。事情を聞かされ、ランドも苦い顔をする。
「一度こうと思っちまったら、そうそう騙されてる事には気付けねえか……旦那のひたむきさを逆手に取りやがったな」
「どうするのよランド？ 明日にはティンプの仲間を連れてくるって言ってたわ。どんな後ろ盾を見つけたのか知らないけど、かなりの数のブレーカーを連れてくるわよきっと」
エルチの言うことももっともだった。
ティンプの真意は測りかねるが、あの男ならこの機会に恨み重なるアイアンギアーとその仲間を皆殺しにしようとするだろう。
宇宙船を置いて逃げればランド達に被害はないが、ウィルがブレーカー達にいいように利用されるのは目に見えている。下手をすれば、宇宙船を掘り出した後で殺されるかもしれない。
「俺達でこの宇宙船を守るしかないだろうな」
「そうだけど……ウィルさんはどうするの？」
「旦那のことだ。宇宙船が心配で戦いについてくるだろうよ。荒っぽくなるが、ブレーカー共と一緒におとなしくしてもらってから説得するっきゃねえだろうな」
「時間もないしな。明日までに襲撃に備えて、この谷に防衛線を引く必要がある」
方針は決まった。テクスを中心にして、防衛の作戦を練ることになった。
「このキングスレーの谷は、マウンテンサイクルを背にしている。敵も宇宙船を傷つける気はないだろうから、地形だけを見れば守りやすいと言えるな」
「じゃあアイアンギアーをここに……反対側をフリーデンで固めて、正面にウォーカーマシンとＭＳを配置すればいい訳ね」
「さっきのティンプみたいに崖の上から奇襲されたら？」
「それなら、こっちも最初から空を飛んでいれば良い。Ｇファルコンがレオパルドやエアマスターとも合体できるようになったからな。
今回はＧファルコンデストロイが空中で構えてるだけで、ほぼ敵無しってわけだ」
「いいわねキッド、それで行きましょう」
大体の配置が決まり、各人機体のチェックを始めた時だった。
「なぁエルチ、俺の配置ラグと変えてくれないか？」
ジロンの申し出に、エルチは怪訝な顔をする。
「どういうこと？ ジロン……あなたまた相手がティンプだからって先走ろうとしてないでしょうね？」
「……」
「もしそうなら駄目よ。アイアンギアーの艦長として認めるわけにはいかないから」
「そういうんじゃないんだ。ただ、あのウィルって人、このまま放っといたら取り返しの付かないことになりそうでさ」
「ジロンが何かしたからって、あの人が助けられるわけ？」
「確証があるわけじゃないけど……俺はやるよ」
しばしの沈黙。そしてエルチが、ふっとため息をついた。
「わかったわよ。ただし、何か知らないけど成功させなさいよ？」
「サンキュー！ さっすがエルチ！」
ジロンは満面の笑顔で感謝すると、すぐにチルを呼びに走っていった。
「ま……ジロンのそういうところに、多分みんな惚れるんだろうしね」
そう小さく呟いて、エルチは明日の決戦に頭を切り替えた。
こちらの被害を少なくするのはもちろんだが、できる限り相手のウォーカーマシンを無傷で手に入れて売りさばかなければ。元が取れない。
準備をしながら宇宙船の発掘も進めているうちに、夜になった。
それぞれが自分の機体を確認する中、ランドもガンレオンの整備のためコクピットにいた。
ウィルの心意気に共感して手伝いを申し出たのに、そのウィルに敵視されて戦いになるとは。
気が乗らなかったが、和解のためには宇宙船を守りきらなくては話にならない。
ブレーカーが邪魔をするというのなら、悪いが解体してやるしかない。
「……ね、ダーリン」
「んー？」
どこか上の空と言った様子のメールが問いかける。
ランドは特に気にするでもなく、肩のチェーンソーの調子を見ながらあいずちを打つ。
「ダーリンはエッチしたことあるよね？」
「ぶほっ！？」
コンソールに顔面をめり込ませたランドは、額から吹き出した血も気にせずメールの方を振り返った。
「お、おま、お前、２８の男にその質問は無いだろ！？」
「あ、無いんだ……」
「ある！ あるがそんなこと聞くもんじゃない！」
「なんで？」
「そりゃあ……」
はっきりきっぱりと“ある”と言い切ったものの……実のところランドも、そこまで経験豊富というわけではない。
荒れていた頃に、危険な仕事の後で気が高ぶった時。
悪い仲間とそういう店に行って、商売女相手に手当たり次第ということがあったくらいだ。
常連になるほど金が有り余っていたわけでもなかったし、女性と心を通わせた末に……ということは皆無と言ってよかった。
少しでも大切に思える女に出会っても、自分がどうしようもないチンピラだという事が分かっていれば、手を出そうとは思えなかったから。
親方と出会って更生してからはそんな店に行く暇はろくに無かったし、行ったとしても何故だか抱く気にはならなかった。
「そりゃあお前、あれだ……男は男なりにデリケートなんだ、そういう事には」
「そんなデリケートとは無縁の顔で言われても……」
「顔の問題じゃねえんだよ」
「話戻すよ」
「戻さなくていいからそこのドライバー取ってくれ」
「あたしとエッチして」
何とか煙に巻こうとしたランドだったが、冷や水を浴びせられた。
沈黙が支配する空気のなか、コクンとメールがつばを呑む音が聞こえた。
「昨日、ティファとガロードがしてるの……気付いたんでしょ？」
「な、お、お前なんでそれを！？」
「覗くつもりじゃなかったけど……あたしご飯食べた後しばらく寝ちゃってて……後からお風呂入ろうとしたら、中にガロードがいるし。
出るに出れないうちにその、始まっちゃって……男湯の方でダーリンが白々しく叫んでたから、ああ、これはダーリンも気付いたなって」
「……」
「脱衣所のところで隠れてたら……ティファのこと仰向けに寝かせて、ガロードがその上に……」
「わ、わかったから説明するんじゃない！」
「それ見て、あたしもしてたの！」
「……は？」
「昨日だけじゃないよ？ そういうこと知ってからはずっと……ダーリンのこと考えてしてた」
まっすぐ自分を見据えて言うメールから、ランドは目をそらすことが出来なかった。
しかし頭が付いていかない。
出会ってからの、今よりさらに幼かったメールと親方との思い出が頭をよぎった。
「メール……」
「あたしはダーリンが好き！ ティファにもエウレカにも負けないくらい、ダーリンのことが好き！」
「そりゃ俺だって……お前のことは大事だ。そのことは分かるだろ？」
「あたしはもっと好きだもん」
いつの間にか、メールはランドのすぐ傍まで近づいてきていた。
強気な目には涙が浮かんでいる。
「ダーリンはあたしのことパパの娘だとしか思ってなくても！ あたしはダーリンが好きなの！ パパの弟子じゃなくてランド・トラビスのことが！」
大声で言い切った。息も荒く、そのまま涙を抑えきれずに泣き出すメール。
１７歳の少女と１２歳の子供の間で目まぐるしく変化する今のメールを前にして、ランドは揺らいでいた。
（そりゃあ……分かってたけどよ。こいつが本気だってことくらい）
だがここはどう考えても、丁寧に諭して断るのが大人というものだった。
きっとゲインならうまく乗り切る。
桂ならこんな状況に持ち込まれることすらないだろう。
オルソンは押し切られていたが……年齢差がまだマシだった。
とにかく、ここで根負けするのは大人じゃない。クールじゃない。
（そうだよな。メールの保護者として、俺は……）
メールの今の気持ちが本物だといっても、まだ若い。他に目を向ければ相応しい男はいくらでも捜せる。
アサキムの時だって、その目的に気付くまでは、ようやくメールもまともな相手を見つけられたと微笑ましく思ったものだった。
だから、クールな大人として対応を。
（……クールに……ザ・ヒートの俺が？ それでメールを泣かせてでもかよ？）
今メールの前にいるのはゲインではない。桂ではない。ランド・トラビスだ。ザ・ヒートだ。
熱い想いには熱い想いで返す、ザ・ヒートだ。
メールの気持ちは分かった。ではランド自身の気持ちはどこに向いているのだろう。
自分が大切に思うものは何だ。自分が愛しているものは何だ。
そう思い至った時、ランドはメールを抱きしめていた。
「あっ……」
何か言う前に、唇を奪った。
突然のキスに目を見開くメール。
息苦しくなってようやく口を離すと、涙目のままのメールが放心したような声を出す。
「だー……りん？」
「……ったく、そういやお前親方の娘だもんなぁ……そりゃいい女に決まってるってんだ」
「あたしママ似だもん……たぶん」
「そうか？ 俺を怒鳴る時の迫力はもうすぐ親方の域に行くぜ」
震えるメールを強く抱きしめ、満面の笑顔を向ける。
「お前の勝ちだぜメール。とうとう俺の方も惚れさせちまった」
「ダーリン……ダーリン！」
そのままもう一度キスをする。
メールの身体が浮くほど強く抱きしめ、背に回した大きな手でそのまま尻に触る。
「ひゃっ……ぁ」
「さっきの答えな。俺が惚れた女を抱くのは、これが初めてだ」
「へへ……じゃああたしがダーリンの初めてだね……」
「おう、そういうこった」
少し身体を離して、小さな胸に触る。
「んぅ」
「んー……やっぱりこればっかりはサイズがなぁ……」
「ば、ばかぁ！ まだ言うかぁ！」
「安心しろ、反応はお前が最高だ」
「…………っ」
昨日までは考えられなかったようなランドの言葉に、真っ赤になるメール。
そのままランドの手は下に伸びて、ツナギの中に入り込み、股間を愛撫する。
そこが既に女としての反応を見せていることに、改めて驚く。
「ひぁ……ん……ダーリン！」
「本当に塗れてんだな……ったく、知らないうちにワルいこと覚えやがって」
「ん！ ぁ、待って、来ちゃ……ぁあぁぁあ！？」
初めて自分以外の手で触れられたからか。メールの絶頂は早かった。
一瞬、ピクンとメールの身体が跳ねて、そのままくたりとランドの腕にもたれ掛かる。
ランドはそんなメールを力強く抱きかかえ、コクピットを出ようとする。
「ぁ……ダーリン？」
「今日んところは、ここまでな」
「な、何で！ あたしちゃんとできるよ！」
「バカ、明日は朝から決戦だぞ？ 初めてお前を抱くってのに、明日に備えて力をセーブして、なんて出来ねえ相談ってもんだ」
「え……？」
「明日だ。明日戦いが終わってウィルも説得して、皆で仲直りの酒を飲んだらその後だ」
「……うん！」
「覚悟しとけよ？ ガンガン行くぜ！」
ランドはメールにもう一度軽くキスをして寝室に寝かせると、コクピットへ戻っていった。
そう、全ては明日だった。
※
朝日が露に塗れた岩壁を照らす頃。アイアンギアーとフリーデン、そしてビーター・サービスはすでに配置についていた。
正面にはガンダムＤＸとガンレオンが。その少し後ろにはフル装備のザブングルと、エニルのジェニスカスタム、そしてＧファルコンと合体したガンダムレオパルドデストロイが待機している。
「ガロード！ 武器の準備はいいな？」
「おう！ さすがだぜキッド、よくこんなの作ってたな！」
前衛を勤めるＤＸは、標準の武装ではなくキッド特製の新武装を手にしていた。
伸縮式のハイパーハンマーにロケットランチャー。そしてビームジャベリンとツインビームソード。
ＺＥＵＴＨで戦っていた時に∀ガンダムやエゥーゴ、ザフトの機体から得たデータを参考に、キッドが試作したものである。
サテライトキャノンやＧファルコンが使えるときには過剰な武装だが、今回の戦いにはうってつけだった。
「例え月が出てたって、今サテライトキャノンを使うわけにはいかないからな……これならそんな心配はねぇや」
戦争中ならともかく、一応は平和に向けて歩みだしている世界にサテライトキャノンの力は強大すぎる。
みだりに使ってしまえば、新連邦で頑張っているジャミル達にも迷惑がかかるだろう。
「それよりジロンはどうしたのさ！ もう敵が来ちまうよ！」
ラグの言う通り。朝になってみると、ジロンとチル、そしてウォーカーギャリアが忽然と姿を消していた。
「うるさいわね！ あんたが二人分働けばいい話でしょ！」
「なんだとー！？」
エルチが何か知っているようなので皆心配はしなかったが、やはり前衛の不足は気になった。
「来るぞ！」
「！？」
ちょうどその時だった。正面から朝日を背負って、ウォーカーマシンの大群が姿を現した。
大地を踏みしめる轟音にエンジンの排気音、ブレーカー達の汚い怒声も聞こえてくる。
「ようし、いくぜガロード！」
「おうよランド！」
ガンレオンが駆け出し、ＤＸがスラスターを噴かす。
戦いの火蓋が切って落とされた。
「喰らいやがれえぇぇぇ！！」
ガンレオンが両手で振り回すブンマースパナに、先陣を切ってきたカプリコが吹き飛ばされた。
さらに後続にＤＸのハイパーハンマーが直撃する。
２機の猛攻を掻い潜った者も、今度はザブングルの弾丸の餌食になるだけだった。
「ロアビィ、来たみたいだ！ アタシのＧファルコン壊すんじゃないよ！」
「分かってるってパーラ！ そんじゃお仕事お仕事！」
案の定やってきた崖の上からのドランの奇襲に、フリーデンで待機中のパーラが気付いた。
そしてＧファルコンのスラスターを最大に噴かし、レオパルドが飛んだ。
『う、うわぁぁぁ！？』
見るからに陸戦型のレオパルドがまさか飛んでくるとは思わなかったのだろう。目の前に迫ったガトリングの弾を浴びて、早速３機のドランが沈んだ。
「へへっ！ 念願の初飛行だ！ こりゃ病み付きになるね！」
そのままレオパルドはツインビームシリンダーを地面の敵に向ける。ランドたちの頭上を飛び越したビームの嵐は、ウォーカーマシン達を一気になぎ倒した。
「ふう、これで一安心ってとこかな」
「あーんもう、格闘戦で倒せば売れるのにロアビィったらもったいないことを……ラグ！ せめて弾は節約しなさいよ！」
今回の作戦の要とも言えるレオパルドの活躍に、艦の中見ているシンゴやエルチ達も、完勝の空気を感じ取り気楽な発言をしている。
しかし、テクスは一人浮かない顔をしていた。
（何かが引っかかる……これだけの数のブレーカー、簡単に集められるものではないはずだ。それをまるで使い捨てのように……）
その時だった。突然ティファが立ち上がり、叫んだ。
「……！ 上です！」
「何！？」
『ぐぁぁぁ！！？』
金属の激しくぶつかり合う重い音に皆が振り返った途端、レオパルドが墜落してきた。
「ロアビィ！」
呼びかけるも返事はない。レオパルドにもＧファルコンにも被弾した形跡はなかったが、ピクリとも動かなかった。
「ドランタイプじゃないよ！ 何か落ちてきた！」
ラグの叫びの直後、ザブングルの目の前に黒い人型ロボットが落ちてきた。ドーム状の頭部に平たい手足。サイズからするとＭＳらしい。
そして、何故だかその姿は妙にブレて見えた。
「この！」
ミサイルランチャーを捨て、ザブングルが掴みかかった。しかし相手は逃げるどころか、ザブングルの頭をヘッドロックに抱え込む。そして。
『く、がぁぁぁぁあ！！？』
「ラグ！？」
突然ザブングルの手足が、ガクガクと震えだした。
敵のＭＳの放つ振動波を、まともに喰らっているのだ。おそらくコクピットは見た目以上の超振動でシェイクされている。
やがて２機の動きは止まり、ザブングルだけがその場に崩れ落ちた。電子機器がやられたか、ラグが気絶したのだろう。
「こ、こいつは……」
思わず戦慄する一同の耳に、黒いＭＳからの声が響いた。
『返せ……俺の宇宙船を……返せ！！』
「っ！ ウィルの旦那か！」
『ランド……あんたは話の分かる奴だと思ったのに、コソ泥だったとはな！』
「違う！ あんたはあのペテン野郎に騙されてんだよ！」
『こうして武器を持ち出して宇宙船を押さえておいて、何を！！』
黒いＭＳ、フラットがガンレオンの頭部を狙ってジャンプする。巨体を捻らせて避けるが、その瞬間、ガンレオンの左足が被弾した。
「くうっ！」
「ダーリン！」
『へっへっ、ペテン野郎はひでえなぁ、え？ ザ・クラッシャー』
「くそ、ティンプか！」
崖の上では、ブラッカリィが狙撃の体勢で待機していた。
さらに襲い来るフラットをスパナで払いのけようとしたものの、逆に超振動する手刀で弾かれてしまう。
「く、ランド！ こっちの雑魚は俺が何とかする！ あんたはウィルのおっさんを！」
そう叫んで、ツインビームソードを抜き放つガロード。
ワイヤーが千切れたハンマーの予備をダイクのトラッドから受け取り、敵の真っ只中に飛び込んでいく。
「おう！ しかし……こいつは」
ガロードが迎え撃つウォーカーマシンの大群は衰えを知らず、ＭＳやシルエットマシンも混じりだした。
一方のガンレオンも、ウィルのＭＳはさほど脅威ではないのだが、正確に装甲の隙間を狙ってくるティンプの狙撃は厄介だった。
エニルは倒れたレオパルドとザブングルを守っているので、こちらにはまともに戦える機体が２機しかいない。
「ちょっとばかり、手が足りねえか……？」
「くっ、アイアンギアー変形！ 一気に踏み潰しちゃいなさい！」
「駄目です！ 宇宙船の遺跡まで壊れちまいます！」
艦で待機するメンバーにも焦りが見え始めたその時だった。
『みんな〜〜！！ 大丈夫か〜〜！！』
全員の通信機に、大きな声が響いた。
「ジロン！！」
「バカ！ どこに行ってたのよ！」
『ああ、助っ人を連れてきた！！』
エルチの叱責に、ジロンが力強く答える。
見ると、ブレーカーの大群の後方遥か遠くに、砂塵を巻き上げ疾走するギャリィホバーとギャリィウィルの姿が見えた。
そしてそのさらに後ろに黄色い小型の陸上戦艦と、それに積まれているＭＳ。ウィルの機体と同型らしい。
『みなさーん！ ご無事ですか！？』
「その声……ロランか！？」
『僕だけじゃありません！ ……はい、これです、そのまま話してください』
そして黄色い戦艦のスピーカーから、大音量でキングスレーの谷に声が響いた。
『ウィル・ゲイム！ 聞こえますか！？ わたくしはディアナ・ソレルです！！』
『な……に？』
ガンレオンに足をつかまれていたフラットの動きが、一瞬止まった。
『わたくしは、あなたに謝らなくてはなりません……！』
月の女王の声が、谷に響く。
無粋な機関砲やエンジンの音にもかき消されない、凛とした声がその場の全ての者の耳に届いた。
『わたくしはあの時、ウィルを……あなたのご先祖のウィル・ゲイムを止めることが出来ませんでした。
月への帰還の期日を間近に控えていた私には、旅に出てしまったウィルの帰りを待つ時間が残されていなかったのです』
ディアナの声は、懐かしさと悔恨、そして郷愁をはらんでいた。
少女だった頃に愛する人と共に過ごしたこのオーバニーの地を、ディアナはどのような思いで踏んでいるのか。誰にも想像のしようがなかった。
『月に戻り、公務を終えればすぐに冬眠しなくてはならなかった私は、ウィルのその後を知ろうとしませんでした。
わたくしのことなど忘れ、どなたかと結婚して新しい人生を歩んでいくのだろうと……わたくしはそれを知るのが怖かったのでしょう』
『な……本当に、この声が……』
「旦那、間違いねえよ。俺達の知ってる月の姫様だ」
声の迫力に、ウィルが少しずつ冷静さを取り戻す。
『ですからわたくしのために、その後のウィルがどれほどの無理をしたのか。わたくしはジロンさんに伝えられて初めて知りました。
……１年前の地球帰還作戦の時にも、密かにウィル・ゲイムの面影を探せないかと思っていましたが……それも叶いませんでした』
ブレイク・ザ・ワールドでオーバニーそのものが消えてしまっていたのだ。
例えそうでなくても、あの混乱の中で女王の義務を果たすことを思えば、とてもそんな余裕はなかっただろう。
『ですから、あなた方子孫にまで苦労をおかけしてしまったことをお詫びしたいのです！ ランドさん達は決してあなたを唆した者達の様な悪事を働くことはありません！
争いをやめて、どうかわたくしとお会いになってくださいませんか、ウィル・ゲイム！！』
『あ、あぁ……』
気の遠くなるような長い間、月を統べてきたディアナ・ソレルの言葉。それは、直接会ったことはないというのにウィルの心に響いたようだった。
フラットは相変わらず動く気配を見せない。
「……ウィルの旦那、もう離していいかい？」
『ランド……俺は、あんた達に……』
「俺は修理屋だからな、壊れたもんは直すだけだ。今回ばかりは、月の姫様が俺達の関係を直してくれたがな」
『ランド……』
「しみったれたことは言わねえよ！ 悪いと思ったんなら、宇宙旅行の暁には俺達も乗せてくれや」
通信機の映像はつながっていなかったが、ランドはフラットに向ってヒートスマイルを送る。
そしてすっかり抵抗の意思を無くしたらしいフラットを、ガンレオンが下ろそうとした瞬間。
不意の爆音とともに、ガンレオンの右腕が爆ぜた。
「俺達にも良く分からないけど……ティンプの奴に騙されてるらしいんだ」
ランドがキングスレーの谷に戻ると、皆それぞれのマシンで荒れた発掘現場を整えているところだった。事情を聞かされ、ランドも苦い顔をする。
「一度こうと思っちまったら、そうそう騙されてる事には気付けねえか……旦那のひたむきさを逆手に取りやがったな」
「どうするのよランド？ 明日にはティンプの仲間を連れてくるって言ってたわ。どんな後ろ盾を見つけたのか知らないけど、かなりの数のブレーカーを連れてくるわよきっと」
エルチの言うことももっともだった。
ティンプの真意は測りかねるが、あの男ならこの機会に恨み重なるアイアンギアーとその仲間を皆殺しにしようとするだろう。
宇宙船を置いて逃げればランド達に被害はないが、ウィルがブレーカー達にいいように利用されるのは目に見えている。下手をすれば、宇宙船を掘り出した後で殺されるかもしれない。
「俺達でこの宇宙船を守るしかないだろうな」
「そうだけど……ウィルさんはどうするの？」
「旦那のことだ。宇宙船が心配で戦いについてくるだろうよ。荒っぽくなるが、ブレーカー共と一緒におとなしくしてもらってから説得するっきゃねえだろうな」
「時間もないしな。明日までに襲撃に備えて、この谷に防衛線を引く必要がある」
方針は決まった。テクスを中心にして、防衛の作戦を練ることになった。
「このキングスレーの谷は、マウンテンサイクルを背にしている。敵も宇宙船を傷つける気はないだろうから、地形だけを見れば守りやすいと言えるな」
「じゃあアイアンギアーをここに……反対側をフリーデンで固めて、正面にウォーカーマシンとＭＳを配置すればいい訳ね」
「さっきのティンプみたいに崖の上から奇襲されたら？」
「それなら、こっちも最初から空を飛んでいれば良い。Ｇファルコンがレオパルドやエアマスターとも合体できるようになったからな。
今回はＧファルコンデストロイが空中で構えてるだけで、ほぼ敵無しってわけだ」
「いいわねキッド、それで行きましょう」
大体の配置が決まり、各人機体のチェックを始めた時だった。
「なぁエルチ、俺の配置ラグと変えてくれないか？」
ジロンの申し出に、エルチは怪訝な顔をする。
「どういうこと？ ジロン……あなたまた相手がティンプだからって先走ろうとしてないでしょうね？」
「……」
「もしそうなら駄目よ。アイアンギアーの艦長として認めるわけにはいかないから」
「そういうんじゃないんだ。ただ、あのウィルって人、このまま放っといたら取り返しの付かないことになりそうでさ」
「ジロンが何かしたからって、あの人が助けられるわけ？」
「確証があるわけじゃないけど……俺はやるよ」
しばしの沈黙。そしてエルチが、ふっとため息をついた。
「わかったわよ。ただし、何か知らないけど成功させなさいよ？」
「サンキュー！ さっすがエルチ！」
ジロンは満面の笑顔で感謝すると、すぐにチルを呼びに走っていった。
「ま……ジロンのそういうところに、多分みんな惚れるんだろうしね」
そう小さく呟いて、エルチは明日の決戦に頭を切り替えた。
こちらの被害を少なくするのはもちろんだが、できる限り相手のウォーカーマシンを無傷で手に入れて売りさばかなければ。元が取れない。
準備をしながら宇宙船の発掘も進めているうちに、夜になった。
それぞれが自分の機体を確認する中、ランドもガンレオンの整備のためコクピットにいた。
ウィルの心意気に共感して手伝いを申し出たのに、そのウィルに敵視されて戦いになるとは。
気が乗らなかったが、和解のためには宇宙船を守りきらなくては話にならない。
ブレーカーが邪魔をするというのなら、悪いが解体してやるしかない。
「……ね、ダーリン」
「んー？」
どこか上の空と言った様子のメールが問いかける。
ランドは特に気にするでもなく、肩のチェーンソーの調子を見ながらあいずちを打つ。
「ダーリンはエッチしたことあるよね？」
「ぶほっ！？」
コンソールに顔面をめり込ませたランドは、額から吹き出した血も気にせずメールの方を振り返った。
「お、おま、お前、２８の男にその質問は無いだろ！？」
「あ、無いんだ……」
「ある！ あるがそんなこと聞くもんじゃない！」
「なんで？」
「そりゃあ……」
はっきりきっぱりと“ある”と言い切ったものの……実のところランドも、そこまで経験豊富というわけではない。
荒れていた頃に、危険な仕事の後で気が高ぶった時。
悪い仲間とそういう店に行って、商売女相手に手当たり次第ということがあったくらいだ。
常連になるほど金が有り余っていたわけでもなかったし、女性と心を通わせた末に……ということは皆無と言ってよかった。
少しでも大切に思える女に出会っても、自分がどうしようもないチンピラだという事が分かっていれば、手を出そうとは思えなかったから。
親方と出会って更生してからはそんな店に行く暇はろくに無かったし、行ったとしても何故だか抱く気にはならなかった。
「そりゃあお前、あれだ……男は男なりにデリケートなんだ、そういう事には」
「そんなデリケートとは無縁の顔で言われても……」
「顔の問題じゃねえんだよ」
「話戻すよ」
「戻さなくていいからそこのドライバー取ってくれ」
「あたしとエッチして」
何とか煙に巻こうとしたランドだったが、冷や水を浴びせられた。
沈黙が支配する空気のなか、コクンとメールがつばを呑む音が聞こえた。
「昨日、ティファとガロードがしてるの……気付いたんでしょ？」
「な、お、お前なんでそれを！？」
「覗くつもりじゃなかったけど……あたしご飯食べた後しばらく寝ちゃってて……後からお風呂入ろうとしたら、中にガロードがいるし。
出るに出れないうちにその、始まっちゃって……男湯の方でダーリンが白々しく叫んでたから、ああ、これはダーリンも気付いたなって」
「……」
「脱衣所のところで隠れてたら……ティファのこと仰向けに寝かせて、ガロードがその上に……」
「わ、わかったから説明するんじゃない！」
「それ見て、あたしもしてたの！」
「……は？」
「昨日だけじゃないよ？ そういうこと知ってからはずっと……ダーリンのこと考えてしてた」
まっすぐ自分を見据えて言うメールから、ランドは目をそらすことが出来なかった。
しかし頭が付いていかない。
出会ってからの、今よりさらに幼かったメールと親方との思い出が頭をよぎった。
「メール……」
「あたしはダーリンが好き！ ティファにもエウレカにも負けないくらい、ダーリンのことが好き！」
「そりゃ俺だって……お前のことは大事だ。そのことは分かるだろ？」
「あたしはもっと好きだもん」
いつの間にか、メールはランドのすぐ傍まで近づいてきていた。
強気な目には涙が浮かんでいる。
「ダーリンはあたしのことパパの娘だとしか思ってなくても！ あたしはダーリンが好きなの！ パパの弟子じゃなくてランド・トラビスのことが！」
大声で言い切った。息も荒く、そのまま涙を抑えきれずに泣き出すメール。
１７歳の少女と１２歳の子供の間で目まぐるしく変化する今のメールを前にして、ランドは揺らいでいた。
（そりゃあ……分かってたけどよ。こいつが本気だってことくらい）
だがここはどう考えても、丁寧に諭して断るのが大人というものだった。
きっとゲインならうまく乗り切る。
桂ならこんな状況に持ち込まれることすらないだろう。
オルソンは押し切られていたが……年齢差がまだマシだった。
とにかく、ここで根負けするのは大人じゃない。クールじゃない。
（そうだよな。メールの保護者として、俺は……）
メールの今の気持ちが本物だといっても、まだ若い。他に目を向ければ相応しい男はいくらでも捜せる。
アサキムの時だって、その目的に気付くまでは、ようやくメールもまともな相手を見つけられたと微笑ましく思ったものだった。
だから、クールな大人として対応を。
（……クールに……ザ・ヒートの俺が？ それでメールを泣かせてでもかよ？）
今メールの前にいるのはゲインではない。桂ではない。ランド・トラビスだ。ザ・ヒートだ。
熱い想いには熱い想いで返す、ザ・ヒートだ。
メールの気持ちは分かった。ではランド自身の気持ちはどこに向いているのだろう。
自分が大切に思うものは何だ。自分が愛しているものは何だ。
そう思い至った時、ランドはメールを抱きしめていた。
「あっ……」
何か言う前に、唇を奪った。
突然のキスに目を見開くメール。
息苦しくなってようやく口を離すと、涙目のままのメールが放心したような声を出す。
「だー……りん？」
「……ったく、そういやお前親方の娘だもんなぁ……そりゃいい女に決まってるってんだ」
「あたしママ似だもん……たぶん」
「そうか？ 俺を怒鳴る時の迫力はもうすぐ親方の域に行くぜ」
震えるメールを強く抱きしめ、満面の笑顔を向ける。
「お前の勝ちだぜメール。とうとう俺の方も惚れさせちまった」
「ダーリン……ダーリン！」
そのままもう一度キスをする。
メールの身体が浮くほど強く抱きしめ、背に回した大きな手でそのまま尻に触る。
「ひゃっ……ぁ」
「さっきの答えな。俺が惚れた女を抱くのは、これが初めてだ」
「へへ……じゃああたしがダーリンの初めてだね……」
「おう、そういうこった」
少し身体を離して、小さな胸に触る。
「んぅ」
「んー……やっぱりこればっかりはサイズがなぁ……」
「ば、ばかぁ！ まだ言うかぁ！」
「安心しろ、反応はお前が最高だ」
「…………っ」
昨日までは考えられなかったようなランドの言葉に、真っ赤になるメール。
そのままランドの手は下に伸びて、ツナギの中に入り込み、股間を愛撫する。
そこが既に女としての反応を見せていることに、改めて驚く。
「ひぁ……ん……ダーリン！」
「本当に塗れてんだな……ったく、知らないうちにワルいこと覚えやがって」
「ん！ ぁ、待って、来ちゃ……ぁあぁぁあ！？」
初めて自分以外の手で触れられたからか。メールの絶頂は早かった。
一瞬、ピクンとメールの身体が跳ねて、そのままくたりとランドの腕にもたれ掛かる。
ランドはそんなメールを力強く抱きかかえ、コクピットを出ようとする。
「ぁ……ダーリン？」
「今日んところは、ここまでな」
「な、何で！ あたしちゃんとできるよ！」
「バカ、明日は朝から決戦だぞ？ 初めてお前を抱くってのに、明日に備えて力をセーブして、なんて出来ねえ相談ってもんだ」
「え……？」
「明日だ。明日戦いが終わってウィルも説得して、皆で仲直りの酒を飲んだらその後だ」
「……うん！」
「覚悟しとけよ？ ガンガン行くぜ！」
ランドはメールにもう一度軽くキスをして寝室に寝かせると、コクピットへ戻っていった。
そう、全ては明日だった。
※
朝日が露に塗れた岩壁を照らす頃。アイアンギアーとフリーデン、そしてビーター・サービスはすでに配置についていた。
正面にはガンダムＤＸとガンレオンが。その少し後ろにはフル装備のザブングルと、エニルのジェニスカスタム、そしてＧファルコンと合体したガンダムレオパルドデストロイが待機している。
「ガロード！ 武器の準備はいいな？」
「おう！ さすがだぜキッド、よくこんなの作ってたな！」
前衛を勤めるＤＸは、標準の武装ではなくキッド特製の新武装を手にしていた。
伸縮式のハイパーハンマーにロケットランチャー。そしてビームジャベリンとツインビームソード。
ＺＥＵＴＨで戦っていた時に∀ガンダムやエゥーゴ、ザフトの機体から得たデータを参考に、キッドが試作したものである。
サテライトキャノンやＧファルコンが使えるときには過剰な武装だが、今回の戦いにはうってつけだった。
「例え月が出てたって、今サテライトキャノンを使うわけにはいかないからな……これならそんな心配はねぇや」
戦争中ならともかく、一応は平和に向けて歩みだしている世界にサテライトキャノンの力は強大すぎる。
みだりに使ってしまえば、新連邦で頑張っているジャミル達にも迷惑がかかるだろう。
「それよりジロンはどうしたのさ！ もう敵が来ちまうよ！」
ラグの言う通り。朝になってみると、ジロンとチル、そしてウォーカーギャリアが忽然と姿を消していた。
「うるさいわね！ あんたが二人分働けばいい話でしょ！」
「なんだとー！？」
エルチが何か知っているようなので皆心配はしなかったが、やはり前衛の不足は気になった。
「来るぞ！」
「！？」
ちょうどその時だった。正面から朝日を背負って、ウォーカーマシンの大群が姿を現した。
大地を踏みしめる轟音にエンジンの排気音、ブレーカー達の汚い怒声も聞こえてくる。
「ようし、いくぜガロード！」
「おうよランド！」
ガンレオンが駆け出し、ＤＸがスラスターを噴かす。
戦いの火蓋が切って落とされた。
「喰らいやがれえぇぇぇ！！」
ガンレオンが両手で振り回すブンマースパナに、先陣を切ってきたカプリコが吹き飛ばされた。
さらに後続にＤＸのハイパーハンマーが直撃する。
２機の猛攻を掻い潜った者も、今度はザブングルの弾丸の餌食になるだけだった。
「ロアビィ、来たみたいだ！ アタシのＧファルコン壊すんじゃないよ！」
「分かってるってパーラ！ そんじゃお仕事お仕事！」
案の定やってきた崖の上からのドランの奇襲に、フリーデンで待機中のパーラが気付いた。
そしてＧファルコンのスラスターを最大に噴かし、レオパルドが飛んだ。
『う、うわぁぁぁ！？』
見るからに陸戦型のレオパルドがまさか飛んでくるとは思わなかったのだろう。目の前に迫ったガトリングの弾を浴びて、早速３機のドランが沈んだ。
「へへっ！ 念願の初飛行だ！ こりゃ病み付きになるね！」
そのままレオパルドはツインビームシリンダーを地面の敵に向ける。ランドたちの頭上を飛び越したビームの嵐は、ウォーカーマシン達を一気になぎ倒した。
「ふう、これで一安心ってとこかな」
「あーんもう、格闘戦で倒せば売れるのにロアビィったらもったいないことを……ラグ！ せめて弾は節約しなさいよ！」
今回の作戦の要とも言えるレオパルドの活躍に、艦の中見ているシンゴやエルチ達も、完勝の空気を感じ取り気楽な発言をしている。
しかし、テクスは一人浮かない顔をしていた。
（何かが引っかかる……これだけの数のブレーカー、簡単に集められるものではないはずだ。それをまるで使い捨てのように……）
その時だった。突然ティファが立ち上がり、叫んだ。
「……！ 上です！」
「何！？」
『ぐぁぁぁ！！？』
金属の激しくぶつかり合う重い音に皆が振り返った途端、レオパルドが墜落してきた。
「ロアビィ！」
呼びかけるも返事はない。レオパルドにもＧファルコンにも被弾した形跡はなかったが、ピクリとも動かなかった。
「ドランタイプじゃないよ！ 何か落ちてきた！」
ラグの叫びの直後、ザブングルの目の前に黒い人型ロボットが落ちてきた。ドーム状の頭部に平たい手足。サイズからするとＭＳらしい。
そして、何故だかその姿は妙にブレて見えた。
「この！」
ミサイルランチャーを捨て、ザブングルが掴みかかった。しかし相手は逃げるどころか、ザブングルの頭をヘッドロックに抱え込む。そして。
『く、がぁぁぁぁあ！！？』
「ラグ！？」
突然ザブングルの手足が、ガクガクと震えだした。
敵のＭＳの放つ振動波を、まともに喰らっているのだ。おそらくコクピットは見た目以上の超振動でシェイクされている。
やがて２機の動きは止まり、ザブングルだけがその場に崩れ落ちた。電子機器がやられたか、ラグが気絶したのだろう。
「こ、こいつは……」
思わず戦慄する一同の耳に、黒いＭＳからの声が響いた。
『返せ……俺の宇宙船を……返せ！！』
「っ！ ウィルの旦那か！」
『ランド……あんたは話の分かる奴だと思ったのに、コソ泥だったとはな！』
「違う！ あんたはあのペテン野郎に騙されてんだよ！」
『こうして武器を持ち出して宇宙船を押さえておいて、何を！！』
黒いＭＳ、フラットがガンレオンの頭部を狙ってジャンプする。巨体を捻らせて避けるが、その瞬間、ガンレオンの左足が被弾した。
「くうっ！」
「ダーリン！」
『へっへっ、ペテン野郎はひでえなぁ、え？ ザ・クラッシャー』
「くそ、ティンプか！」
崖の上では、ブラッカリィが狙撃の体勢で待機していた。
さらに襲い来るフラットをスパナで払いのけようとしたものの、逆に超振動する手刀で弾かれてしまう。
「く、ランド！ こっちの雑魚は俺が何とかする！ あんたはウィルのおっさんを！」
そう叫んで、ツインビームソードを抜き放つガロード。
ワイヤーが千切れたハンマーの予備をダイクのトラッドから受け取り、敵の真っ只中に飛び込んでいく。
「おう！ しかし……こいつは」
ガロードが迎え撃つウォーカーマシンの大群は衰えを知らず、ＭＳやシルエットマシンも混じりだした。
一方のガンレオンも、ウィルのＭＳはさほど脅威ではないのだが、正確に装甲の隙間を狙ってくるティンプの狙撃は厄介だった。
エニルは倒れたレオパルドとザブングルを守っているので、こちらにはまともに戦える機体が２機しかいない。
「ちょっとばかり、手が足りねえか……？」
「くっ、アイアンギアー変形！ 一気に踏み潰しちゃいなさい！」
「駄目です！ 宇宙船の遺跡まで壊れちまいます！」
艦で待機するメンバーにも焦りが見え始めたその時だった。
『みんな〜〜！！ 大丈夫か〜〜！！』
全員の通信機に、大きな声が響いた。
「ジロン！！」
「バカ！ どこに行ってたのよ！」
『ああ、助っ人を連れてきた！！』
エルチの叱責に、ジロンが力強く答える。
見ると、ブレーカーの大群の後方遥か遠くに、砂塵を巻き上げ疾走するギャリィホバーとギャリィウィルの姿が見えた。
そしてそのさらに後ろに黄色い小型の陸上戦艦と、それに積まれているＭＳ。ウィルの機体と同型らしい。
『みなさーん！ ご無事ですか！？』
「その声……ロランか！？」
『僕だけじゃありません！ ……はい、これです、そのまま話してください』
そして黄色い戦艦のスピーカーから、大音量でキングスレーの谷に声が響いた。
『ウィル・ゲイム！ 聞こえますか！？ わたくしはディアナ・ソレルです！！』
『な……に？』
ガンレオンに足をつかまれていたフラットの動きが、一瞬止まった。
『わたくしは、あなたに謝らなくてはなりません……！』
月の女王の声が、谷に響く。
無粋な機関砲やエンジンの音にもかき消されない、凛とした声がその場の全ての者の耳に届いた。
『わたくしはあの時、ウィルを……あなたのご先祖のウィル・ゲイムを止めることが出来ませんでした。
月への帰還の期日を間近に控えていた私には、旅に出てしまったウィルの帰りを待つ時間が残されていなかったのです』
ディアナの声は、懐かしさと悔恨、そして郷愁をはらんでいた。
少女だった頃に愛する人と共に過ごしたこのオーバニーの地を、ディアナはどのような思いで踏んでいるのか。誰にも想像のしようがなかった。
『月に戻り、公務を終えればすぐに冬眠しなくてはならなかった私は、ウィルのその後を知ろうとしませんでした。
わたくしのことなど忘れ、どなたかと結婚して新しい人生を歩んでいくのだろうと……わたくしはそれを知るのが怖かったのでしょう』
『な……本当に、この声が……』
「旦那、間違いねえよ。俺達の知ってる月の姫様だ」
声の迫力に、ウィルが少しずつ冷静さを取り戻す。
『ですからわたくしのために、その後のウィルがどれほどの無理をしたのか。わたくしはジロンさんに伝えられて初めて知りました。
……１年前の地球帰還作戦の時にも、密かにウィル・ゲイムの面影を探せないかと思っていましたが……それも叶いませんでした』
ブレイク・ザ・ワールドでオーバニーそのものが消えてしまっていたのだ。
例えそうでなくても、あの混乱の中で女王の義務を果たすことを思えば、とてもそんな余裕はなかっただろう。
『ですから、あなた方子孫にまで苦労をおかけしてしまったことをお詫びしたいのです！ ランドさん達は決してあなたを唆した者達の様な悪事を働くことはありません！
争いをやめて、どうかわたくしとお会いになってくださいませんか、ウィル・ゲイム！！』
『あ、あぁ……』
気の遠くなるような長い間、月を統べてきたディアナ・ソレルの言葉。それは、直接会ったことはないというのにウィルの心に響いたようだった。
フラットは相変わらず動く気配を見せない。
「……ウィルの旦那、もう離していいかい？」
『ランド……俺は、あんた達に……』
「俺は修理屋だからな、壊れたもんは直すだけだ。今回ばかりは、月の姫様が俺達の関係を直してくれたがな」
『ランド……』
「しみったれたことは言わねえよ！ 悪いと思ったんなら、宇宙旅行の暁には俺達も乗せてくれや」
通信機の映像はつながっていなかったが、ランドはフラットに向ってヒートスマイルを送る。
そしてすっかり抵抗の意思を無くしたらしいフラットを、ガンレオンが下ろそうとした瞬間。
不意の爆音とともに、ガンレオンの右腕が爆ぜた。
04
「ぐああっ！？」
ガンレオンの右肘が煙を吹き、激しく揺れるコクピットに警告音が響く。制御系をやられたらしく、力の加減が全く効かなくなっている。
「ダーリン！ 崖の上！」
「しまった、ティンプの奴が！」
不覚だった。
ＤＸによって有象無象のウォーカーマシンは食い止められ、残った者もディアナの声に怯んでいた。
しかしティンプは自由に動ける状態だったのを失念していた。
『へっ、あとちょっとって所を……相変わらず俺を怒らせるのが得意だなぁアンタらは……』
『ティンプ！ お前！』
『吠えんじゃねえよドマンジュウ。そんな位置からこの俺を狙い撃てるかよ』
まだ谷からは離れた場所にいるジロンが叫ぶが、ティンプは気にもとめない。
『せっかく楽に宇宙船をいただいて、たんまり報酬を貰うつもりだったんだがなぁ……お前らのおかげで力ずくってことになっちまいそうだ』
「あ、あんた！ 本当にあんたの方が悪党だったのかよ！」
『ああそうだ、ウィル・ゲイムさんよ。あんたにゃ消えてもらわなきゃならねぇ……スポンサーの顔を見ちまってるんでな』
「なっ！？」
言うが早いか、ブラッカリィはガンレオンのひしゃげた右腕ごと、フラットに弾丸を叩き込んだ。
うち数発がカエルにも似た頭部を砕いたかと思うと、フラットは突然振動を始めた。
「う、うわぁぁあっ！！」
「ど、どうした旦那！」
「制御が効かない！ し、振動が止められない！！」
高速で振動するフラットが、力の入らないガンレオンの右腕をブンブンと振り回す。
『へっへっ、おもしれえ事やってんじゃねえか……おらよ、こいつで終いだ！』
そしてティンプの銃弾が、フラットを掴んでいたガンレオンの右手を今度こそ粉々に砕いた。
「ぐぁ！」
「う、うわぁぁぁぁぁ！！」
フラットは高速で振動したまま、高く放り投げられ勢いよく宙を舞う。そして、その先には。
「いけねぇ！ このままじゃ……」
「宇宙船に激突しちゃう！？」
ろくに制御が利かないのか、手足をありえない方向に曲げたフラットが、宇宙船の方へと飛ばされていく。
ガンレオンが慌てて捕まえようとするが、この期に及んで撃ち込まれるブラッカリィの銃弾がそれを阻んだ。
「くそっ！！ 間に合わ……」
『ランド！ どいてろーーー！！』
「何ぃ！？」
通信機の向こうでジロンが叫んだ。
カメラを回すと、そこには合体したウォーカーギャリアがもう１機のフラットを頭上に持ち上げ、仁王立ちしていた。
『ロラン！ いっくぞーーーー！！』
『はい！！』
『よいしょぉーーーーーーっ！！！』
叫びとともに、ジロンは大きく振りかぶる。そしてロランの乗ったフラットを思い切り投げ飛ばした。
『な、何！？』
予想外の行動に、ティンプも狙撃を忘れた。
その隙に超高速で飛んできたフラットは、あっという間にブレーカーの群れを通り過ぎ、ランド達の頭上へ達する。
『稼動中の変形だって……！ 落とさせるもんかぁーーーー！！』
ＭＡ形態のフラットはぎこちない音とともに両手を広げると、そのまま落下していくウィルのフラットをガッチリと捕らえた。
そして勢いのままに崖の上まで飛び出したところで激しく失速し、けたたましい金属音を鳴らして転がり落ちていった。
「ロラン！！」
『む、無茶しやがる……だが、それじゃあ起き上がれねえなあ！！』
ティンプが性懲りもなく２機のフラットに銃を向ける。
しかし引き金を引こうとした瞬間、突如向けられた殺気に思わず視線が谷底に釘付けになった。
そこにいたのは、肘から先の無い右腕をダラリと垂らした、一匹の猛獣。
「そうそう好きにはやらせねぇぜティンプ……！」
『く、くそ！？』
「ペインッ！！ シャウタァァァァァァァァーーーーーーーーーーーー！！！！！！！！」
ガンガンモード・ガンレオンの全力の咆哮を受け、ブラッカリィの装甲がひび割れ、砕け散った。フレームも捻曲がり、ミシミシと悲鳴を上げる。
『がぁぁぁぁぁぁぁっ！！？』
「おまけだティンプ！！ もって行けぇーーーー！！」
『何ィ！！？』
そして、さらに追撃。
投げ飛ばしたロランを追って全力疾走してきたウォーカーギャリアのバズーカが、ブラッカリィを直撃した。
『ち、畜生！！ 覚えていやがれ！！』
大爆発するブラッカリィから命からがら飛び降りたティンプは、捨て台詞を残して逃げ出していった。
※
リーダーを失い烏合の衆となったブレーカー達も撤退し、戦いは終わった。
キングスレーの谷では、ガンレオンによる機体の修理と整備が始まっていた。
と言ってもガンレオン自体が片腕を破壊されていて、ほとんどランドの手作業となっていたのだが。
「すまねえなランド。ＤＸも結構やられちまっててさ」
「いいってことよ。大体あれだけの数を後半一人で捌いたんだから、上出来ってもんじゃねえか」
「はは、武器は全部駄目にしちまったから、キッドの奴怒って手伝ってくれねえんだよ」
フラットのハイパーバイブレーションで倒れたレオパルドとザブングルは外傷自体は少なく、終わってみれば一番大掛かりな修理が必要なのはガンレオンという状態だった。
「ま、よく壊してよく直すのが健康的な修理屋の生活ってもんだからな！」
「いや、修理屋は壊しちゃ駄目だろ」
談笑しながらマシンを整備するランド達に、傷の浅いウォーカーマシンを集めて回るエルチ達。
ある意味この集団らしい光景と言えた。
ジロンが引き連れてきた黄色い陸上戦艦・ギャロップからも、シドやメシェーが出てきて作業を手伝い始める。
そして、さらにギャロップから降りてくる人物がいた。
「あー！ ディアナ様！」
「メールさん、皆様、お久しぶりです」
「お元気そうで何よりですわ！」
気品ある動作で歩み寄るディアナを、エルチやメールが笑顔で迎える。
そして。
「あ……」
「えー……その、お、お目にかかりまして光栄です、女王陛下」
ドンとランドに背中を押され、ディアナの前に立つウィル・ゲイム。
たどたどしい敬語で挨拶する様子に、ディアナが目を見開く。
「あ、あの？」
「……！ ごめんなさい。あまりにあなたがわたくしの知るウィルに似ていたもので……」
「俺が、初代に？」
「はい……こうして地球も月も平和へと歩んでいる今の時代に、ウィルの面影を残すあなたと出会えたことを嬉しく思います。
あなたがウィルのお船で月を訪ねてくだされば、きっとあの方の無念も晴らせましょう」
「あ、ああ……はい！」
ディアナの言葉に、ウィルは涙ぐんでいた。
月に行くのが第一、先祖の恋路など二の次と言ってはいても、やはり月の女王から直接先祖代々の仕事を認められるというのは感慨深いものがあったのだろう。
「良かった……良かった」
「ほら旦那！ 湿っぽいのは無しで行こうぜ！ 宇宙船だってまだ掘り出さなきゃいけねえんだからよ」
感涙し跪くウィルの背を、ランドの大きな手が叩く。
「とにかく、今日はみんな呑もうぜ！ ロランたちも温泉入ってけよ！」
皆の歓声が、風に乗った。
※
オーバニーから遠い、寂れた土地で。
小さな天窓からのみ明かりの指す部屋で、一人の男が椅子に腰掛けている。
ゾラのものらしい無骨な通信機に向って、何やら話しているようだった。
「そうか、ＺＥＵＴＨの彼らにディアナ・ソレル……そしてローラがね」
通信機も古ければ部屋も薄暗かったが、男の立ち居振る舞いにだけはどことなく気品が感じられる。
「……仕事を下りる？ 残念だな、あなたの腕は買っているんだが……まぁ、こちらに着くまでにゆっくり考えてくれたまえ」
話し相手は不機嫌そうな声で代わりのウォーカーマシンを用意しておくよう告げると、乱暴に通信を切った。
「ミリシャに捨てられたお坊ちゃんには、ブレーカーも扱いきれなかったようだねぇ」
男が通信機を置き、椅子に座ったまま沈黙していると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
いつから部屋にいたのか、目の隈が特徴的な少女が意地の悪い笑みを浮かべている。
「おまけに愛しのローラのおかげで、戦艦を手に入れるのも失敗かい？」
ニヤニヤと頬を吊り上げ笑う少女に、髭を生やした鳶色の肌の男が向き直る。
「今回あの男の宇宙船に目をつけたのは……故郷であるアメリアと、そこに根付いたローラに対するけじめのようなものさ。
ティンプにしても、あのようなならず者をいつまでも手元に置いておくほど悪趣味ではないよ」
少女に指摘された点をまるで何事でもなかったかのように、男は涼しい顔で切って捨てた。
「ただ戦力を整えるだけなら、手段は他にいくらでもある。私は一時とはいえ、メトロポリスの記述に触れたのだからね」
「イノセントのドーム跡から掠め取ったＷＭでブレーカー連中を釣ったようにかい？ 往生際が悪いねぇ」
「一度や二度でくじけるような男であれば、文明の進歩などという業は成せないだろう？ ……いずれにせよ、再起の時は近いよ」
暗い部屋の中、メリーベルの嘲る様な目とグエン・サード・ラインフォードの野心を秘めた瞳だけが爛々と輝いていた。
※
その日の夜。
ゲイム家の庭にギャロップを停め、焚き火を作って即席のパーティー会場が設けられた。
食卓に並ぶものはゾラのトカゲ肉やロランが買い込んで来たパン、ディアナ達の作ったスープに何故だかヤーパンの納豆と混沌としていた。
しかし勝利を祝う宴の席ではそれは些細なことで、ロラン達との久しぶりの再会も含めて皆盛大に楽しんでいる。
「それじゃ、あれはロランが地球に来た時に使ったMSだったのか」
「はい。ジロンに呼ばれた時、さすがにホワイトドールを掘り出す余裕は無かったので」
ウァッドよりも完成度の高いスパイン構造やヒートエッジ装甲が特徴的なフラットに、ランドは興味を示していた。
ウィルのイルフートも興味深かったが、ティンプに引き合わされたスポンサーとやらの所でフラットを与えられて、そのまま置いて来てしまったらしい。
「ディアナカウンターのMSは俺もあんまりさわってないからなぁ……なぁロラン、あれの修理も俺がやっていいか？」
「ど、どうでしょう。ディアナカウンターの規格品が無いと難しいんじゃないかな……」
「それより！ いいのロラン？ ディアナ様のこと！」
そう叫んでメールが指差した先は、ゲイム家の納屋。
どうも昔は滞在中のディアナが住んでいた部屋だったらしく、つい先ほど、ウィルに案内されて懐かしそうに入っていったところだった。
「いいも何も、ディアナ様がせっかく思い出に浸ってらっしゃるんだから」
「でもでも、ウィルさんってディアナ様の恋人だったウィル・ゲイムさんそっくりなんでしょ？」
「それは……ご本人ではないんだし」
「ロランにはそういう女心なんて分からないのよ！」
不機嫌そうな目をしたソシエが会話に割り込む。
「僕だってそういうの、尊重しようとは思えますけど……」
「言っとくけど！ あたしはディアナさんの騎士もまともにこなせないような男は願い下げなんですからね！」
「ソシエお嬢さん？」
「っ……！ いいからロランも来なさい！ 鳳凰の羽のお話の舞台なら、あたしだって見たいんだから！」
「ちょ、ちょっと！」
そのままソシエはロランの腕を抱えると、納屋の方まで引きずっていってしまった。
「お嬢さんのじゃじゃ馬っぷりは相変わらずみてえだな」
「ギャバン隊長のこともあるし、ロラン大変だろうねー……」
呟くメールの肩に、ランドがそっと手を置く。
いつもなら『生意気言いやがって』とでも言ってクシャクシャと頭を撫でるその手。
熱を帯びた大きな手に、メールはそっと小さな手を重ねた。
※
「ダーリン……入るよ？」
「おう、いい湯加減だぞ〜」
宴会の後は皆で温泉で騒いで、ほとんどのメンバーは疲れて眠ってしまったころ。
ランドの浸かる男湯に、メールが恥じらいながら顔を出した。
「えへへ……なんか却って恥ずかしいかも」
「なーに言ってんだ。昔はよく親方も一緒に入っただろうが」
「その時とは違うもん！ ……その時とは、ね」
そう言ってちゃぷんと湯に入ったメールは、しっかり身体にタオルを巻いたままだった。
昨晩あんなにはっきりと告白をして、しかも身体を触られただけで乱れてしまったのだが。やはり１７歳の女の子としては、改まってランドに裸を見せるのは恥ずかしいらしい。
何しろランドからは『明日の朝足腰が立たないほどにガンガン責める』と予告されているようなものだからなおさらだ。
「あ、ダーリン、ここ痣になってる」
ランドの腕に出来た小さな痣を、メールが心配そうに撫でる。
ガンレオンの壊れた右腕と同じ……昼間の戦闘で出来たものだろうか。
「ああ、こりゃさっきちょっと揉み合いになって足滑らせてな」
「さっきって……あー」
そういえば数時間前、皆で風呂に入っているとき、男湯の方でランド達とロランが騒いでいた。
「どうせまた覗こうとしてロランに怒られたんでしょ！」
「姫様や嬢ちゃんが絡むと怖いからなぁ、あいつ」
「もう！ こんな時までエッチなこと考えるからそんな目にあうの！！」
メールは怒った顔でそのままランドの腕にギュッとしがみ付く。
「メール……」
「覗きなんかしなくてもダーリンは……これからあたしに、いーっぱいえっちなことできるんだからね」
そう言って、メールは身体に巻いていたタオルを湯船に落とした。
あらわになった幼い裸。少し上気した白い肌が、ランドの鋼のような皮膚に映える。
そのコントラストに目がくらんだのか、ランドの意識は一瞬飛んだ。
「はわっ！？」
気付けば、メールの細い身体を抱きしめていた。
太い両腕に抱えられ、軽い身体は少し浮いている。
メールが抵抗するまもなく、そのまま唇を奪った。
「んうぅぅっ……ぷはっ」
「はぁ！ はぁ……」
息が止まるまでキスを続け、パッと離れるとしばし見詰め合う。
「ダーリン……熱い……」
「そりゃ、ザ・ヒートだからな。女を抱く時もポリシーは変わらねえよ」
熱く笑いかけると、ランドはキスで力の抜けたメールを湯船から引き上げた。そして座椅子のように下腹部に座らせ、背後から抱える。
「はわわ……おっきい……」
自分の股間のすぐ前に現れた巨大なそれに、メールは思わず目を丸くする。
「昔一緒にお風呂入ってたとき、こんなに大きかったっけ？」
「まだまだこんなもんじゃねえぞ？ ほら」
ランドはメールの手を取ると、自分のペニスに添えた。
「わ、温かい……あれ？」
「あんまり強く握るなよ。そろそろ……」
メールの手を握ったまま、ランドは上下にしごいていく。メールの細い指からくる刺激に、まだ少し柔らかかったそれはみるみる硬くそそり立った。
「こ、これがダーリンのマグナモード！」
「何でもメカに例えるのもどうかと思うんだが……ほら、今度はお前の手で続けてみてくれ」
「う、うん！」
メールは片手では掴みきれないそれを両手でキュッと握り、ゆっくり上下にこすっていく。
「ダーリン、痛くない？」
「おう、ちょうどいいぞ」
そう返すとランドは、手淫に夢中になっているメールの胸をそっと手で包み込む。
「ひゃう！」
「ぐぉ！ 待てメールそれは強すぎだ！」
驚いてつい爪を立ててしまったらしい。メールは慌てて手を緩めたが、却ってランドのものは硬く反り返ったようにも見える。
「だってダーリンがいきなりおっぱい触るんだもん！」
「俺だけしてもらうばっかりってのも変だろ？ 責任もって大きくしてやるよ」
「で、でも……」
多分、大きくはならない。傷だらけの獅子のスフィアがメールの体内にある限りは。
大体揉んで胸が大きくなるなら、とっくになっている。そんなことを言う暇も与えず、ランドはメールの乳首を軽くつまんだ。
「あんっ！」
「ほらほら、手が動いてねえぞ？」
「やん、ダーリン、そこ……ヘンだよぉ……」
メールが身を捩じらせても、ランドは手を止めない。
そればかりか、わずかに皮下脂肪が他より多めな程度のメールの胸を、グイッと集めるようにして揉み続ける。
胸の奥に不思議な感覚が走るのを誤魔化すように、メールもまたランドの先走りに濡れた手を早める。
「はぁん……ダーリン、くすぐったいよぉ……」
「へへ、慣れろ慣れろ。……む、手の方はだいぶ上手くなってきたじゃねえか」
「そっかな？」
「ああ」
ランドは照れるメールの頭にポンと手を置き、そのまま反対の手をメールの秘所にもぐりこませた。
「あっ……」
「ここは、いつもどうやっていじってるんだ？」
「あぅ……その、え、エッチなこと考えながらこすってる内にお汁が出てきて……」
「んじゃ、その辺はもう省略して良さそうだな」
恥ずかしそうに呟くメールの目の前で、ランドは指を広げる。太い指は、すでに溢れ出ていたメールの愛液に濡れていた。
「……っ！」
「ぐぉっ！ だ、だから強く握りすぎだっての！」
照れ隠しのようにペニスをいじる手の力を強くするメール。ランドの方もお返しとばかりに、秘所と乳首への愛撫を強める。
「あふっ、あ、ぁあっ！」
「んぐ！……そう、その調子だ！」
「はぁ……来ちゃう……きちゃうよぉ！」
そしてランドがメールのそこにほんの少し指先をもぐりこませた瞬間。
「ひゃうっ！？ んっ、んんんんん〜〜〜！！」
「おおぅ！？」
メールは背中を丸めてうずくまり、キュッと股を閉めた。
股の間から顔を出していた形のランドのペニスはそのまま締め付けられ、その刺激にランドも達した。
「うぷっ！？」
うずくまっていたメールの顔に、勢いよく飛び出したランドの白濁が命中する。
桃色の髪が濃い粘液で汚れるが、突然のことで避けられず全てがメールの身体にぶちまけられた。
「うぇぇぇ……」
「ふう……って大丈夫か？ メール」
「らいじょうぶらけど〜……へんなにおい」
「そういうもんなんだよ」
初めて見た精液に戸惑うメールの顔を、ランドが拭う。
顔と髪だけと思いきや、メールの薄い胸も手も精液でベトベトに濡れていた。
「んぅ……」
「どうだ？ 気持ちよかったか？ 悪かったか？」
「どうだろ……胸がジンジンしたり、おまたがキュンってなったりして」
もたれ掛かったままランドの顔を見上げて、メールが続ける。
「すっごく……熱かった」
その表情は、興奮と羞恥に赤く染まっている。ランドはそんなメールをひょいと抱えあげると、湯船の傍にタオルを敷いてそっと寝かせた。
ガンレオンの右肘が煙を吹き、激しく揺れるコクピットに警告音が響く。制御系をやられたらしく、力の加減が全く効かなくなっている。
「ダーリン！ 崖の上！」
「しまった、ティンプの奴が！」
不覚だった。
ＤＸによって有象無象のウォーカーマシンは食い止められ、残った者もディアナの声に怯んでいた。
しかしティンプは自由に動ける状態だったのを失念していた。
『へっ、あとちょっとって所を……相変わらず俺を怒らせるのが得意だなぁアンタらは……』
『ティンプ！ お前！』
『吠えんじゃねえよドマンジュウ。そんな位置からこの俺を狙い撃てるかよ』
まだ谷からは離れた場所にいるジロンが叫ぶが、ティンプは気にもとめない。
『せっかく楽に宇宙船をいただいて、たんまり報酬を貰うつもりだったんだがなぁ……お前らのおかげで力ずくってことになっちまいそうだ』
「あ、あんた！ 本当にあんたの方が悪党だったのかよ！」
『ああそうだ、ウィル・ゲイムさんよ。あんたにゃ消えてもらわなきゃならねぇ……スポンサーの顔を見ちまってるんでな』
「なっ！？」
言うが早いか、ブラッカリィはガンレオンのひしゃげた右腕ごと、フラットに弾丸を叩き込んだ。
うち数発がカエルにも似た頭部を砕いたかと思うと、フラットは突然振動を始めた。
「う、うわぁぁあっ！！」
「ど、どうした旦那！」
「制御が効かない！ し、振動が止められない！！」
高速で振動するフラットが、力の入らないガンレオンの右腕をブンブンと振り回す。
『へっへっ、おもしれえ事やってんじゃねえか……おらよ、こいつで終いだ！』
そしてティンプの銃弾が、フラットを掴んでいたガンレオンの右手を今度こそ粉々に砕いた。
「ぐぁ！」
「う、うわぁぁぁぁぁ！！」
フラットは高速で振動したまま、高く放り投げられ勢いよく宙を舞う。そして、その先には。
「いけねぇ！ このままじゃ……」
「宇宙船に激突しちゃう！？」
ろくに制御が利かないのか、手足をありえない方向に曲げたフラットが、宇宙船の方へと飛ばされていく。
ガンレオンが慌てて捕まえようとするが、この期に及んで撃ち込まれるブラッカリィの銃弾がそれを阻んだ。
「くそっ！！ 間に合わ……」
『ランド！ どいてろーーー！！』
「何ぃ！？」
通信機の向こうでジロンが叫んだ。
カメラを回すと、そこには合体したウォーカーギャリアがもう１機のフラットを頭上に持ち上げ、仁王立ちしていた。
『ロラン！ いっくぞーーーー！！』
『はい！！』
『よいしょぉーーーーーーっ！！！』
叫びとともに、ジロンは大きく振りかぶる。そしてロランの乗ったフラットを思い切り投げ飛ばした。
『な、何！？』
予想外の行動に、ティンプも狙撃を忘れた。
その隙に超高速で飛んできたフラットは、あっという間にブレーカーの群れを通り過ぎ、ランド達の頭上へ達する。
『稼動中の変形だって……！ 落とさせるもんかぁーーーー！！』
ＭＡ形態のフラットはぎこちない音とともに両手を広げると、そのまま落下していくウィルのフラットをガッチリと捕らえた。
そして勢いのままに崖の上まで飛び出したところで激しく失速し、けたたましい金属音を鳴らして転がり落ちていった。
「ロラン！！」
『む、無茶しやがる……だが、それじゃあ起き上がれねえなあ！！』
ティンプが性懲りもなく２機のフラットに銃を向ける。
しかし引き金を引こうとした瞬間、突如向けられた殺気に思わず視線が谷底に釘付けになった。
そこにいたのは、肘から先の無い右腕をダラリと垂らした、一匹の猛獣。
「そうそう好きにはやらせねぇぜティンプ……！」
『く、くそ！？』
「ペインッ！！ シャウタァァァァァァァァーーーーーーーーーーーー！！！！！！！！」
ガンガンモード・ガンレオンの全力の咆哮を受け、ブラッカリィの装甲がひび割れ、砕け散った。フレームも捻曲がり、ミシミシと悲鳴を上げる。
『がぁぁぁぁぁぁぁっ！！？』
「おまけだティンプ！！ もって行けぇーーーー！！」
『何ィ！！？』
そして、さらに追撃。
投げ飛ばしたロランを追って全力疾走してきたウォーカーギャリアのバズーカが、ブラッカリィを直撃した。
『ち、畜生！！ 覚えていやがれ！！』
大爆発するブラッカリィから命からがら飛び降りたティンプは、捨て台詞を残して逃げ出していった。
※
リーダーを失い烏合の衆となったブレーカー達も撤退し、戦いは終わった。
キングスレーの谷では、ガンレオンによる機体の修理と整備が始まっていた。
と言ってもガンレオン自体が片腕を破壊されていて、ほとんどランドの手作業となっていたのだが。
「すまねえなランド。ＤＸも結構やられちまっててさ」
「いいってことよ。大体あれだけの数を後半一人で捌いたんだから、上出来ってもんじゃねえか」
「はは、武器は全部駄目にしちまったから、キッドの奴怒って手伝ってくれねえんだよ」
フラットのハイパーバイブレーションで倒れたレオパルドとザブングルは外傷自体は少なく、終わってみれば一番大掛かりな修理が必要なのはガンレオンという状態だった。
「ま、よく壊してよく直すのが健康的な修理屋の生活ってもんだからな！」
「いや、修理屋は壊しちゃ駄目だろ」
談笑しながらマシンを整備するランド達に、傷の浅いウォーカーマシンを集めて回るエルチ達。
ある意味この集団らしい光景と言えた。
ジロンが引き連れてきた黄色い陸上戦艦・ギャロップからも、シドやメシェーが出てきて作業を手伝い始める。
そして、さらにギャロップから降りてくる人物がいた。
「あー！ ディアナ様！」
「メールさん、皆様、お久しぶりです」
「お元気そうで何よりですわ！」
気品ある動作で歩み寄るディアナを、エルチやメールが笑顔で迎える。
そして。
「あ……」
「えー……その、お、お目にかかりまして光栄です、女王陛下」
ドンとランドに背中を押され、ディアナの前に立つウィル・ゲイム。
たどたどしい敬語で挨拶する様子に、ディアナが目を見開く。
「あ、あの？」
「……！ ごめんなさい。あまりにあなたがわたくしの知るウィルに似ていたもので……」
「俺が、初代に？」
「はい……こうして地球も月も平和へと歩んでいる今の時代に、ウィルの面影を残すあなたと出会えたことを嬉しく思います。
あなたがウィルのお船で月を訪ねてくだされば、きっとあの方の無念も晴らせましょう」
「あ、ああ……はい！」
ディアナの言葉に、ウィルは涙ぐんでいた。
月に行くのが第一、先祖の恋路など二の次と言ってはいても、やはり月の女王から直接先祖代々の仕事を認められるというのは感慨深いものがあったのだろう。
「良かった……良かった」
「ほら旦那！ 湿っぽいのは無しで行こうぜ！ 宇宙船だってまだ掘り出さなきゃいけねえんだからよ」
感涙し跪くウィルの背を、ランドの大きな手が叩く。
「とにかく、今日はみんな呑もうぜ！ ロランたちも温泉入ってけよ！」
皆の歓声が、風に乗った。
※
オーバニーから遠い、寂れた土地で。
小さな天窓からのみ明かりの指す部屋で、一人の男が椅子に腰掛けている。
ゾラのものらしい無骨な通信機に向って、何やら話しているようだった。
「そうか、ＺＥＵＴＨの彼らにディアナ・ソレル……そしてローラがね」
通信機も古ければ部屋も薄暗かったが、男の立ち居振る舞いにだけはどことなく気品が感じられる。
「……仕事を下りる？ 残念だな、あなたの腕は買っているんだが……まぁ、こちらに着くまでにゆっくり考えてくれたまえ」
話し相手は不機嫌そうな声で代わりのウォーカーマシンを用意しておくよう告げると、乱暴に通信を切った。
「ミリシャに捨てられたお坊ちゃんには、ブレーカーも扱いきれなかったようだねぇ」
男が通信機を置き、椅子に座ったまま沈黙していると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
いつから部屋にいたのか、目の隈が特徴的な少女が意地の悪い笑みを浮かべている。
「おまけに愛しのローラのおかげで、戦艦を手に入れるのも失敗かい？」
ニヤニヤと頬を吊り上げ笑う少女に、髭を生やした鳶色の肌の男が向き直る。
「今回あの男の宇宙船に目をつけたのは……故郷であるアメリアと、そこに根付いたローラに対するけじめのようなものさ。
ティンプにしても、あのようなならず者をいつまでも手元に置いておくほど悪趣味ではないよ」
少女に指摘された点をまるで何事でもなかったかのように、男は涼しい顔で切って捨てた。
「ただ戦力を整えるだけなら、手段は他にいくらでもある。私は一時とはいえ、メトロポリスの記述に触れたのだからね」
「イノセントのドーム跡から掠め取ったＷＭでブレーカー連中を釣ったようにかい？ 往生際が悪いねぇ」
「一度や二度でくじけるような男であれば、文明の進歩などという業は成せないだろう？ ……いずれにせよ、再起の時は近いよ」
暗い部屋の中、メリーベルの嘲る様な目とグエン・サード・ラインフォードの野心を秘めた瞳だけが爛々と輝いていた。
※
その日の夜。
ゲイム家の庭にギャロップを停め、焚き火を作って即席のパーティー会場が設けられた。
食卓に並ぶものはゾラのトカゲ肉やロランが買い込んで来たパン、ディアナ達の作ったスープに何故だかヤーパンの納豆と混沌としていた。
しかし勝利を祝う宴の席ではそれは些細なことで、ロラン達との久しぶりの再会も含めて皆盛大に楽しんでいる。
「それじゃ、あれはロランが地球に来た時に使ったMSだったのか」
「はい。ジロンに呼ばれた時、さすがにホワイトドールを掘り出す余裕は無かったので」
ウァッドよりも完成度の高いスパイン構造やヒートエッジ装甲が特徴的なフラットに、ランドは興味を示していた。
ウィルのイルフートも興味深かったが、ティンプに引き合わされたスポンサーとやらの所でフラットを与えられて、そのまま置いて来てしまったらしい。
「ディアナカウンターのMSは俺もあんまりさわってないからなぁ……なぁロラン、あれの修理も俺がやっていいか？」
「ど、どうでしょう。ディアナカウンターの規格品が無いと難しいんじゃないかな……」
「それより！ いいのロラン？ ディアナ様のこと！」
そう叫んでメールが指差した先は、ゲイム家の納屋。
どうも昔は滞在中のディアナが住んでいた部屋だったらしく、つい先ほど、ウィルに案内されて懐かしそうに入っていったところだった。
「いいも何も、ディアナ様がせっかく思い出に浸ってらっしゃるんだから」
「でもでも、ウィルさんってディアナ様の恋人だったウィル・ゲイムさんそっくりなんでしょ？」
「それは……ご本人ではないんだし」
「ロランにはそういう女心なんて分からないのよ！」
不機嫌そうな目をしたソシエが会話に割り込む。
「僕だってそういうの、尊重しようとは思えますけど……」
「言っとくけど！ あたしはディアナさんの騎士もまともにこなせないような男は願い下げなんですからね！」
「ソシエお嬢さん？」
「っ……！ いいからロランも来なさい！ 鳳凰の羽のお話の舞台なら、あたしだって見たいんだから！」
「ちょ、ちょっと！」
そのままソシエはロランの腕を抱えると、納屋の方まで引きずっていってしまった。
「お嬢さんのじゃじゃ馬っぷりは相変わらずみてえだな」
「ギャバン隊長のこともあるし、ロラン大変だろうねー……」
呟くメールの肩に、ランドがそっと手を置く。
いつもなら『生意気言いやがって』とでも言ってクシャクシャと頭を撫でるその手。
熱を帯びた大きな手に、メールはそっと小さな手を重ねた。
※
「ダーリン……入るよ？」
「おう、いい湯加減だぞ〜」
宴会の後は皆で温泉で騒いで、ほとんどのメンバーは疲れて眠ってしまったころ。
ランドの浸かる男湯に、メールが恥じらいながら顔を出した。
「えへへ……なんか却って恥ずかしいかも」
「なーに言ってんだ。昔はよく親方も一緒に入っただろうが」
「その時とは違うもん！ ……その時とは、ね」
そう言ってちゃぷんと湯に入ったメールは、しっかり身体にタオルを巻いたままだった。
昨晩あんなにはっきりと告白をして、しかも身体を触られただけで乱れてしまったのだが。やはり１７歳の女の子としては、改まってランドに裸を見せるのは恥ずかしいらしい。
何しろランドからは『明日の朝足腰が立たないほどにガンガン責める』と予告されているようなものだからなおさらだ。
「あ、ダーリン、ここ痣になってる」
ランドの腕に出来た小さな痣を、メールが心配そうに撫でる。
ガンレオンの壊れた右腕と同じ……昼間の戦闘で出来たものだろうか。
「ああ、こりゃさっきちょっと揉み合いになって足滑らせてな」
「さっきって……あー」
そういえば数時間前、皆で風呂に入っているとき、男湯の方でランド達とロランが騒いでいた。
「どうせまた覗こうとしてロランに怒られたんでしょ！」
「姫様や嬢ちゃんが絡むと怖いからなぁ、あいつ」
「もう！ こんな時までエッチなこと考えるからそんな目にあうの！！」
メールは怒った顔でそのままランドの腕にギュッとしがみ付く。
「メール……」
「覗きなんかしなくてもダーリンは……これからあたしに、いーっぱいえっちなことできるんだからね」
そう言って、メールは身体に巻いていたタオルを湯船に落とした。
あらわになった幼い裸。少し上気した白い肌が、ランドの鋼のような皮膚に映える。
そのコントラストに目がくらんだのか、ランドの意識は一瞬飛んだ。
「はわっ！？」
気付けば、メールの細い身体を抱きしめていた。
太い両腕に抱えられ、軽い身体は少し浮いている。
メールが抵抗するまもなく、そのまま唇を奪った。
「んうぅぅっ……ぷはっ」
「はぁ！ はぁ……」
息が止まるまでキスを続け、パッと離れるとしばし見詰め合う。
「ダーリン……熱い……」
「そりゃ、ザ・ヒートだからな。女を抱く時もポリシーは変わらねえよ」
熱く笑いかけると、ランドはキスで力の抜けたメールを湯船から引き上げた。そして座椅子のように下腹部に座らせ、背後から抱える。
「はわわ……おっきい……」
自分の股間のすぐ前に現れた巨大なそれに、メールは思わず目を丸くする。
「昔一緒にお風呂入ってたとき、こんなに大きかったっけ？」
「まだまだこんなもんじゃねえぞ？ ほら」
ランドはメールの手を取ると、自分のペニスに添えた。
「わ、温かい……あれ？」
「あんまり強く握るなよ。そろそろ……」
メールの手を握ったまま、ランドは上下にしごいていく。メールの細い指からくる刺激に、まだ少し柔らかかったそれはみるみる硬くそそり立った。
「こ、これがダーリンのマグナモード！」
「何でもメカに例えるのもどうかと思うんだが……ほら、今度はお前の手で続けてみてくれ」
「う、うん！」
メールは片手では掴みきれないそれを両手でキュッと握り、ゆっくり上下にこすっていく。
「ダーリン、痛くない？」
「おう、ちょうどいいぞ」
そう返すとランドは、手淫に夢中になっているメールの胸をそっと手で包み込む。
「ひゃう！」
「ぐぉ！ 待てメールそれは強すぎだ！」
驚いてつい爪を立ててしまったらしい。メールは慌てて手を緩めたが、却ってランドのものは硬く反り返ったようにも見える。
「だってダーリンがいきなりおっぱい触るんだもん！」
「俺だけしてもらうばっかりってのも変だろ？ 責任もって大きくしてやるよ」
「で、でも……」
多分、大きくはならない。傷だらけの獅子のスフィアがメールの体内にある限りは。
大体揉んで胸が大きくなるなら、とっくになっている。そんなことを言う暇も与えず、ランドはメールの乳首を軽くつまんだ。
「あんっ！」
「ほらほら、手が動いてねえぞ？」
「やん、ダーリン、そこ……ヘンだよぉ……」
メールが身を捩じらせても、ランドは手を止めない。
そればかりか、わずかに皮下脂肪が他より多めな程度のメールの胸を、グイッと集めるようにして揉み続ける。
胸の奥に不思議な感覚が走るのを誤魔化すように、メールもまたランドの先走りに濡れた手を早める。
「はぁん……ダーリン、くすぐったいよぉ……」
「へへ、慣れろ慣れろ。……む、手の方はだいぶ上手くなってきたじゃねえか」
「そっかな？」
「ああ」
ランドは照れるメールの頭にポンと手を置き、そのまま反対の手をメールの秘所にもぐりこませた。
「あっ……」
「ここは、いつもどうやっていじってるんだ？」
「あぅ……その、え、エッチなこと考えながらこすってる内にお汁が出てきて……」
「んじゃ、その辺はもう省略して良さそうだな」
恥ずかしそうに呟くメールの目の前で、ランドは指を広げる。太い指は、すでに溢れ出ていたメールの愛液に濡れていた。
「……っ！」
「ぐぉっ！ だ、だから強く握りすぎだっての！」
照れ隠しのようにペニスをいじる手の力を強くするメール。ランドの方もお返しとばかりに、秘所と乳首への愛撫を強める。
「あふっ、あ、ぁあっ！」
「んぐ！……そう、その調子だ！」
「はぁ……来ちゃう……きちゃうよぉ！」
そしてランドがメールのそこにほんの少し指先をもぐりこませた瞬間。
「ひゃうっ！？ んっ、んんんんん〜〜〜！！」
「おおぅ！？」
メールは背中を丸めてうずくまり、キュッと股を閉めた。
股の間から顔を出していた形のランドのペニスはそのまま締め付けられ、その刺激にランドも達した。
「うぷっ！？」
うずくまっていたメールの顔に、勢いよく飛び出したランドの白濁が命中する。
桃色の髪が濃い粘液で汚れるが、突然のことで避けられず全てがメールの身体にぶちまけられた。
「うぇぇぇ……」
「ふう……って大丈夫か？ メール」
「らいじょうぶらけど〜……へんなにおい」
「そういうもんなんだよ」
初めて見た精液に戸惑うメールの顔を、ランドが拭う。
顔と髪だけと思いきや、メールの薄い胸も手も精液でベトベトに濡れていた。
「んぅ……」
「どうだ？ 気持ちよかったか？ 悪かったか？」
「どうだろ……胸がジンジンしたり、おまたがキュンってなったりして」
もたれ掛かったままランドの顔を見上げて、メールが続ける。
「すっごく……熱かった」
その表情は、興奮と羞恥に赤く染まっている。ランドはそんなメールをひょいと抱えあげると、湯船の傍にタオルを敷いてそっと寝かせた。
05
「それじゃまぁ……メール、やり方は知ってるな？」
「う、うん……」
全裸で横たわるメールに覆いかぶさると、ランドは改めてその身体の小ささを実感する。
華奢な肩、平たい胸、細い手足、毛も生えない股間。
少し不安もあるのか、胸の前に組まれた手は固く握られている。
それでも頬を赤く染め、愛する人を受け入れようとするメールは、子供ではなく年相応の小女の顔をしていた。
「…………」
「ど、どしたの？ ダーリン」
「いや、俺こんな良い嫁さん貰っていいのかなってよ」
「えへへ、惚れ直した？ ……ひゃう！？」
照れ隠しに笑うメールの股間に手を伸ばすランド。そこは先ほどかかった精液と溢れる愛液で濡れて、柔らかく解れている。
小さく震える胸に顔を寄せ、桜色の乳首をひと舐めすると強張っていた身体がピクリと跳ねる。
準備は万端、ランドは深呼吸すると、優しくメールの目を見据えた。
「っし……いくぞ、メール」
「う、うん……！」
股間にあてがわれる巨大なそれを、メールは凝視する。
濡れた亀頭がグッと押し当てられ、そのままかたく閉じた割れ目に割り込もうとする。
「くっ……」
「力抜けよ……とりあえずこれが入らねえことにはな……！」
「かぁっ……ぁ……」
誰にも触れられたことのないそこを、ランドのペニスが押し広げていく。
同時に強い痛みがメールを襲い、喉の奥から声にならないうめきが漏れる。
「あっ……くぅ！」
「堪えろよ、メール……！」
「はぁっ、あ、くああぁぁっ！？」
やがてズブズブと亀頭が進入し、そのままさらに奥へと飲み込まれていく。
そしてついに、メールの膣内に完全に入り込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「メール、どうだ？」
「あぐ……お、お腹の中、いっぱいになっちゃった……」
「おう、よく頑張ったぞ」
汗の浮かぶメールの頬を、ランドがそっと拭う。
「ん……ダーリン、動いても、いいよ……」
「慌てるこたぁねえよ。まだ痛むんだろ？」
「でも……おちんちんキュッてされたままだと、男の人って辛いんでしょ？」
「まあな。だがよ」
半ば放心したメールを抱きしめ、ランドはその口をキスで塞ぐ。
キスの間は少し痛みが和らいだ気がして、メールも一心不乱に唇を吸う。
「そういうのも男なら、惚れた女を自分以上に良くさせたいのも男なんだよ」
「ふふ……こんなおっきいの無理矢理突っ込んでから言っても説得力ないね」
「そ、そりゃお前……」
「うそ♪ ありがと、ダーリン」
困った顔をするランドに悪戯っぽく笑いかけ、メールは少し腰を動かしてみる。しかしそれはみっしりときつくはまり込んでいて、痛みに動きが止まってしまう。
「ひぐ！ く……う、うまくいかない」
「あーほら言わんこっちゃねえ。ここはまかせな」
「ん……はぅん！」
上体を起こしていたメールを寝かせ、ランドはゆっくりと腰を引く。
「痛いか？」
「う、ううん。なんだろこれ……指でさわるのと全然違……あっ」
「ほら、こうして手を回してりゃ、ちょっとはマシになるだろ？」
「う、はぁ……ん！」
「よっし……いけそうだな」
ランドの身体をきつく抱きしめると、少し痛みが和らいだ気がした。
メールの腰に手を回し、ランドは再びゆっくりとペニスを奥へと挿入する。そして少しずつスピードを早めながら往復を始めた。
「あっ、あっ……！」
「ん……分かっちゃいたがきついな」
「はうぅ……だーりんの、すご……ひぁぁっ！」
裂けるのではないかと心配になるほど太いものをくわえ込んだメールの秘所では、精液と愛液、純潔の証の混ざりあったものがジュブジュブと音を立てる。
組み敷かれ、されるがままに身体のあちこちから液を垂らすメールにランドの方も興奮してきたのか、腰の動きがだんだん早くなっていく。
「あ……つぃ……！ はっ、おっきいのが、奥まで突いてるぅ……！」
「ん、正直俺も驚いた……入るもんだ……なっ」
「くぅ……ん……！」
温泉の熱気も手伝い、二人の身体は汗とその他の分泌物で濡れている。それでも構わずに固く抱き合い、やがて絶頂の時が近づいてきた。
「ダーリン、ダーリン！ あたし……！」
「ああ、そろそろだ……！」
「あ、ああぁ……く！ あ、あぁぁぁあぁぁっ！？」
「っ！！」
そしてひときわ強く打ちつけられた瞬間。メールの背が痙攣するように大きく反り返る。
同時にランドのペニスから精液がドクドクと注がれ、メールの愛液と混ざり飛び散った。
しばしの間、二人とも互いを強く抱きしめたまま余韻に浸る。
「よっ……と。メール、大丈夫か？」
「ふぁぁ……うん」
ランドが引き抜くと、メールの性器からドロリと精液が溢れた。まだろれつの回らないメールが、指で股から精液をすくい、目の前で眺める。
「あは……だーりんと、せっくすしちゃったぁ……」
※
初めての交わりを終えて、しばらく横になって休んでいたメールの頭上から湯が降り注いだ。
「ぷはっ」
「ほら、早く洗わねえと汚れが落ちねえぞ。背中流してやるからここに座れ」
「……うん、ありがと、ダーリン♪」
少しフラフラしながら立ち上がり、ランドの膝の上にちょこんと座る。
ランドはメールの身体を簡単に湯で流すと、石鹸を泡立てたタオルでゴシゴシこすり始めた。
（……そういえば、昔もこうして洗ってもらったっけ）
まだメールが今の見た目よりも幼かった頃。父も交えて、よくランドと一緒に風呂に入っていた。
出会ったばかりの頃の荒んだランドは嫌がったが、シエロは裸の付き合いで師弟の絆を深めようと譲らなかった。
しぶしぶ一緒に入るようになったランドも、小さなメールに背中を流されていると心が和んだのか、自然と角が取れていったのを思い出す。
さすがに今の身体にまで成長する頃には、恥ずかしくて父ともランドとも別々に入るようになっていたが。
（でも今日からは、そういうのじゃなくて……）
改めてランドと結ばれたことを思うと、頬が熱くなった。石鹸の泡を流す湯もぬるく感じるほどに。
「よし終わり！ 俺も洗っとかないとな」
「あ、待ってダーリン！ ダーリンはあたしが洗う！」
「ん、そうか？」
「はい、ここに寝そべって」
「おう！…………ん？」
何やら分からないままうつ伏せに寝そべるランド。
メールはすかさず全身に石鹸の泡を塗りたくって、その背に乗る。
「うぉ！ メール！？」
「へへ〜、あたしの身体でダーリンを洗ってあげるね」
「まったく、あんだけ鳴いたってのに元気な奴だぜ」
呆れるランドをものともせず、メールは泡だらけの胸や腿をランドの広い背中に押し付けていく。
「どう？ 痒いところない？」
「痒くはねえが……ちょいと痛くなってきたな」
「ええ！ どこどこ！？」
メールが慌てて立ち上がると、ランドはくるりと仰向けになる。
見ると、股間のものが高々と勃起していた。
「いや、これが床に当たってな？」
「……もう、しょうがないなぁ」
互いにクスリと笑うと、メールは今度はランドの胸にその身体を重ねた。
「はぁ……あん」
「ん……気持ちいいぞ、メール」
「えへへ……良かった」
ランドの巨体に、メールは精一杯肌をこすり付ける。
石鹸の泡が滑り、前後に動くたびに内腿に堅いペニスが当たる。
その感触に、メールの身体も再び火照りはじめた。
「ね、ダーリン……」
「うん？」
「あのね、これ……また挿れたい？」
そう言ってメールは上体を起こすと、ペニスをそっと触って見せる。
「いや、お前も今日は初めてだからな。無理は禁物だ」
「でもダーリンの、まだガチガチ……」
確かに、あと１回で収まるのかも怪しいほどランドのペニスは堅さを維持している。
「そうだな……じゃ、こうするか」
「あっ」
ランドはメールの身体を引き寄せると、先ほどと同じように仰向けの身体の上に寝かせた。
「ほら、こうやって腿でこいつを挟んでな。あとは擦るんだ」
「あ、手の代わりにお股でするんだ……」
言われたとおりに、素股でランドのペニスを擦り始めるメール。
自然とメールの性器も擦れて、洗ったばかりの股間からまた愛液が染み出す。
「ふぁ……ぁ」
「お、いいぞ……」
「ふふ……上になるのも、気持ちいいかも……」
石鹸の泡に濡れたまま、二人は絡み合う。
泡にまみれたランドの胸板をくすぐるように、メールの可愛い乳首がぷにぷにと押し付けられる。
やがて二人の身体を包む泡は、汗と先走りと愛液の混ざった汁に押し流されてしまった。
「あぅ……あ、あぁん」
「っし……そろそろ、出すぞ！」
「うん、出してぇ……ダーリンの白いの、いっぱい……！」
「ぐっ！」
「ひあぁぁっ！？」
そして、三度目の射精。天を向いたランドの性器から飛び出したそれは、メールのお尻にポタポタと降り注ぐ。
同時にメールの胸の奥で熱い感覚が弾け、絶頂に達した。
「ん……メール」
「んう……ちゅ……」
ランドは荒い息を整えると、メールを引き寄せキスをする。
メールも力の入らない腕をランドの背に回してそれに応えた。
「へへっ、まーた汚しちまったな」
「じゃ、今度こそちゃんと背中流したげるね……♪」
星空の下、二人は時間を忘れて裸のままで抱き合い、これまでと少し変わった関係を確かめ合っていた。
※
ウィル・ゲイムの宇宙船を狙うティンプとの戦いはひとまず終わった。
といっても、まだ宇宙船の発掘という当初の仕事が残されている。
昨晩の夕食の席でウィルゲムと命名された宇宙船は、あと２日もすれば全体が姿を現すだろう。
ホレス達ムーンレィスの技師の力も借りられることになったので、内部の機械の状態によっては、１週間以内には試験飛行も出来るはずだ。
そして人知れずメールとランドの関係は変化し、さらに絆を深め合った。
そう、人知れず。そのはずだったのだが―――――
朝になり、目を覚ましたランドは大きなあくびをしながら仲間たちが待っているであろうゲイム家の庭に出た。
「よっ、おはようさ…………ん？」
扉を開けた瞬間、ギョッとする。
確かに皆がランドを待ってはいたが、様子がおかしい。
ガロードやロアビィはニヤニヤ笑いながらこちらを見ているし、ソシエやエルチはあからさまに睨みつけてくる。
ティファは顔を真っ赤にしてランドと目を合わせようとせず、テクスの視線はなにやら生暖かい。
「んー……あ、悪い悪い、寝坊しちまったか？」
「いや、そんなことはない。ただ他の皆が起きた後、少し……な」
「は？」
「まぁ昨晩は大変だったろうから、寝坊も仕方ないとは思うんだけどねぇ？」
「ぬが！？」
テクスの言葉は要領を得なかったが、続いたロアビィの一言に背筋が凍りついた。
「お前ら、な、何言って……」
「あ、起きたかランド！ 大ニュースだぞ〜！！」
「ほらメール！ 恥ずかしがってないで出てきなよ！」
冷や汗をかきながらロアビィに問いただそうとしたところに、ジロンの大声が響いた。
何やら上機嫌な様子で、チルと一緒にメールの手を引いてくる。
「って、メール！？」
目に飛び込んできたのは、昨日までと変わらないメールの姿。
ただ一点。腰まで伸びた長い髪を除いては。
「お前……か、か……」
「あ、あはは……何かスフィアが身体から抜けちゃったみたいで……一気に成長しちゃった」
「髪の毛しか変わってねぇ！？」
困ったような嬉しいような複雑な表情で笑うメールに、ランドは開いた口がふさがらない。
「朝起きたら急にこれでしょ？ それで何かきっかけか、変わったことが無かったかって聞いたらさ！」
「『昨日いっぱいしてもらったからかな……』だって！」
「ご、ごめんダーリン！ 口が滑っちゃった！」
「おいおい……マジか」
今にも噴き出しそうな笑顔でランドを見るラグとパーラ。メール自身もどこか動揺しているらしい。
本当に昨日の性行為がきっかけでスフィアが抜けたのか、数ヶ月前の時空修復の影響がたまたま今出ただけなのか。
ここにいるメンバーでは判断がつかなかったが、そんなことはどうでも良かった。
皆にとって大事なのは、ランドがとうとうメールに手を出したという事実があまりに分かりやすく示されたということである。
ジロンとチルはよく意味が分かっていないようで、純粋に昔馴染みのメールの成長を喜んでいるらしい。
「ちょっとランド！ あなたメールに何したわけ！？」
「うぐっ！？」
「そ、そういうのは結婚してからじゃなきゃ、メールが可哀想でしょ！！」
恐ろしい剣幕で怒鳴りつけてきたのはエルチとソシエ。彼女達の倫理観からすると、昨日の出来事はアウトらしい。
「えっと二人とも、あたしは別に……」
「そ、そうだ！ こういうのはプライベートな話であってだな」
「何よ大きい図体してコソコソと！ こんな小さなメール相手にいったいどんないやらしいことを……」
「あ、それは俺達も聞きたい」
怒っているのはエルチとソシエだけのようだが、他のメンバーも面白がって茶々を入れる。
「う、うるせえ！ そんなもん聞いてどうする！」
「えー？ 気になるだろ、みんな？」
「メールがランドのこと好きだってのは分かってたけど、ランドの方もメールをそういう目で見てたとは思わなかったからねー」
「うぐ！？」
「ガロード達のエッチはわりと普通だったし、今回ばかりはこっちが気になっちゃうわよね」
「って何で知ってんだよエニル！？」
「…………っ！」
エニルの何気ない言葉に、今度はガロードが慌てる。先ほどからずっと顔を赤らめていたティファは、その隣でついに気絶した。
「ま、そういうわけで。あんたの自称婚約者から“自称”が取れた顛末を聞きたいんだけどね」
ティファを支えてうろたえるガロードはひとまず置いて、ロアビィが話を戻すと再び全員の視線がランドに向けられた。
「まぁ、エマーンじゃ結婚してない方がまずい年齢らしいからな……年齢だけ見れば」
「キスで魔法が解けたってお伽噺は聞くけど、突き詰めると生々しくなるもんだねー……」
「結婚式はウィッツ達と合同で賑やかにやろうよ！」
「！ ！ ！」
皆こんなに面白いことはないといった様子で、好き放題に囃し立てる。
ファットマンにいたっては、大真面目に祝福のポージングを決め続けている。
味方を探すが、こういう話題ではロランは頼りにならないし、ディアナも微笑ましそうに見ているだけで助け舟は出してくれそうにない。
「ぐ、ぐぬぬぬぬ」
好奇の視線に冷や汗を流しながら、ふとこういう時にあいつがいれば、とランドは思う。
あのエクソダス請負人なら、話術で皆を煙に巻くのもお手の物だろうに。
しかし今ランドをこの場から助け出してくれる者は、どうやらいないらしい。
いや、実際にゲインがここに居たとして、からかう側に回る可能性も十分あるが。
（それじゃ、自分で何とかするしかねえよなあ……）
「で、結局どうなんだい？ ランド」
「あ〜、コホン、そりゃあ…………また後でなっ！」
そしてランドは、一目散に駆け出した。
「逃げた！」
「待てよランド！！」
ラグたち体力に自信のある者がすぐさま追いかけようとする。
しかしランドは何を思ったのか、皆が集まっている方へ向って走り出していた。
「な、何？」
「へ？」
困惑する仲間たちを掻き分け、一気にメールのところへ。そしてお姫様でもさらうかのように抱きかかえると、そのまま再び走り出した。
「ふぁ！？」
「おおーーっ！」
「見せ付けるねえ！ ザ・ヒート！」
「待ちなさーい！ 追うわよ、ジロン！」
そのランドの姿に歓声や黄色い声、怒声を張り上げながら、皆が続く。
困惑するメールを抱いたまま、ランドは走った。
「だ、ダーリン！？」
「行くぞメール！ エクソダスだ！」
「でもでも！ 今日からまたウィルゲムの発掘続けるんでしょ！？」
「ガンレオンの腕もまだちゃんと直してやれてねえしな！ ほとぼりが冷めるまでだ！」
と言っても、あの面子はしっかり説明されるまでは納得しないだろうが。
だが、後の事は後で考える。今は照れくささと高揚感が入り混じって、思い切り大地を駆けていたい気分だった。
そう、メールと一緒に。
「メール」
「な、何？」
「俺について来い！！」
ザ・ヒートの名に違わぬ熱い笑顔を浮かべて、ランドが叫ぶ。
これまでも、そしてこれからも大好きなその笑顔を間近で見て、メールの頬に赤みがさした。
そしてメールは満面の笑顔でランドに抱きつくと、追ってくる仲間達にもよく聞こえる声で元気に答えた。
「はいよ！ ダーリン！！」
＜了＞
「う、うん……」
全裸で横たわるメールに覆いかぶさると、ランドは改めてその身体の小ささを実感する。
華奢な肩、平たい胸、細い手足、毛も生えない股間。
少し不安もあるのか、胸の前に組まれた手は固く握られている。
それでも頬を赤く染め、愛する人を受け入れようとするメールは、子供ではなく年相応の小女の顔をしていた。
「…………」
「ど、どしたの？ ダーリン」
「いや、俺こんな良い嫁さん貰っていいのかなってよ」
「えへへ、惚れ直した？ ……ひゃう！？」
照れ隠しに笑うメールの股間に手を伸ばすランド。そこは先ほどかかった精液と溢れる愛液で濡れて、柔らかく解れている。
小さく震える胸に顔を寄せ、桜色の乳首をひと舐めすると強張っていた身体がピクリと跳ねる。
準備は万端、ランドは深呼吸すると、優しくメールの目を見据えた。
「っし……いくぞ、メール」
「う、うん……！」
股間にあてがわれる巨大なそれを、メールは凝視する。
濡れた亀頭がグッと押し当てられ、そのままかたく閉じた割れ目に割り込もうとする。
「くっ……」
「力抜けよ……とりあえずこれが入らねえことにはな……！」
「かぁっ……ぁ……」
誰にも触れられたことのないそこを、ランドのペニスが押し広げていく。
同時に強い痛みがメールを襲い、喉の奥から声にならないうめきが漏れる。
「あっ……くぅ！」
「堪えろよ、メール……！」
「はぁっ、あ、くああぁぁっ！？」
やがてズブズブと亀頭が進入し、そのままさらに奥へと飲み込まれていく。
そしてついに、メールの膣内に完全に入り込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「メール、どうだ？」
「あぐ……お、お腹の中、いっぱいになっちゃった……」
「おう、よく頑張ったぞ」
汗の浮かぶメールの頬を、ランドがそっと拭う。
「ん……ダーリン、動いても、いいよ……」
「慌てるこたぁねえよ。まだ痛むんだろ？」
「でも……おちんちんキュッてされたままだと、男の人って辛いんでしょ？」
「まあな。だがよ」
半ば放心したメールを抱きしめ、ランドはその口をキスで塞ぐ。
キスの間は少し痛みが和らいだ気がして、メールも一心不乱に唇を吸う。
「そういうのも男なら、惚れた女を自分以上に良くさせたいのも男なんだよ」
「ふふ……こんなおっきいの無理矢理突っ込んでから言っても説得力ないね」
「そ、そりゃお前……」
「うそ♪ ありがと、ダーリン」
困った顔をするランドに悪戯っぽく笑いかけ、メールは少し腰を動かしてみる。しかしそれはみっしりときつくはまり込んでいて、痛みに動きが止まってしまう。
「ひぐ！ く……う、うまくいかない」
「あーほら言わんこっちゃねえ。ここはまかせな」
「ん……はぅん！」
上体を起こしていたメールを寝かせ、ランドはゆっくりと腰を引く。
「痛いか？」
「う、ううん。なんだろこれ……指でさわるのと全然違……あっ」
「ほら、こうして手を回してりゃ、ちょっとはマシになるだろ？」
「う、はぁ……ん！」
「よっし……いけそうだな」
ランドの身体をきつく抱きしめると、少し痛みが和らいだ気がした。
メールの腰に手を回し、ランドは再びゆっくりとペニスを奥へと挿入する。そして少しずつスピードを早めながら往復を始めた。
「あっ、あっ……！」
「ん……分かっちゃいたがきついな」
「はうぅ……だーりんの、すご……ひぁぁっ！」
裂けるのではないかと心配になるほど太いものをくわえ込んだメールの秘所では、精液と愛液、純潔の証の混ざりあったものがジュブジュブと音を立てる。
組み敷かれ、されるがままに身体のあちこちから液を垂らすメールにランドの方も興奮してきたのか、腰の動きがだんだん早くなっていく。
「あ……つぃ……！ はっ、おっきいのが、奥まで突いてるぅ……！」
「ん、正直俺も驚いた……入るもんだ……なっ」
「くぅ……ん……！」
温泉の熱気も手伝い、二人の身体は汗とその他の分泌物で濡れている。それでも構わずに固く抱き合い、やがて絶頂の時が近づいてきた。
「ダーリン、ダーリン！ あたし……！」
「ああ、そろそろだ……！」
「あ、ああぁ……く！ あ、あぁぁぁあぁぁっ！？」
「っ！！」
そしてひときわ強く打ちつけられた瞬間。メールの背が痙攣するように大きく反り返る。
同時にランドのペニスから精液がドクドクと注がれ、メールの愛液と混ざり飛び散った。
しばしの間、二人とも互いを強く抱きしめたまま余韻に浸る。
「よっ……と。メール、大丈夫か？」
「ふぁぁ……うん」
ランドが引き抜くと、メールの性器からドロリと精液が溢れた。まだろれつの回らないメールが、指で股から精液をすくい、目の前で眺める。
「あは……だーりんと、せっくすしちゃったぁ……」
※
初めての交わりを終えて、しばらく横になって休んでいたメールの頭上から湯が降り注いだ。
「ぷはっ」
「ほら、早く洗わねえと汚れが落ちねえぞ。背中流してやるからここに座れ」
「……うん、ありがと、ダーリン♪」
少しフラフラしながら立ち上がり、ランドの膝の上にちょこんと座る。
ランドはメールの身体を簡単に湯で流すと、石鹸を泡立てたタオルでゴシゴシこすり始めた。
（……そういえば、昔もこうして洗ってもらったっけ）
まだメールが今の見た目よりも幼かった頃。父も交えて、よくランドと一緒に風呂に入っていた。
出会ったばかりの頃の荒んだランドは嫌がったが、シエロは裸の付き合いで師弟の絆を深めようと譲らなかった。
しぶしぶ一緒に入るようになったランドも、小さなメールに背中を流されていると心が和んだのか、自然と角が取れていったのを思い出す。
さすがに今の身体にまで成長する頃には、恥ずかしくて父ともランドとも別々に入るようになっていたが。
（でも今日からは、そういうのじゃなくて……）
改めてランドと結ばれたことを思うと、頬が熱くなった。石鹸の泡を流す湯もぬるく感じるほどに。
「よし終わり！ 俺も洗っとかないとな」
「あ、待ってダーリン！ ダーリンはあたしが洗う！」
「ん、そうか？」
「はい、ここに寝そべって」
「おう！…………ん？」
何やら分からないままうつ伏せに寝そべるランド。
メールはすかさず全身に石鹸の泡を塗りたくって、その背に乗る。
「うぉ！ メール！？」
「へへ〜、あたしの身体でダーリンを洗ってあげるね」
「まったく、あんだけ鳴いたってのに元気な奴だぜ」
呆れるランドをものともせず、メールは泡だらけの胸や腿をランドの広い背中に押し付けていく。
「どう？ 痒いところない？」
「痒くはねえが……ちょいと痛くなってきたな」
「ええ！ どこどこ！？」
メールが慌てて立ち上がると、ランドはくるりと仰向けになる。
見ると、股間のものが高々と勃起していた。
「いや、これが床に当たってな？」
「……もう、しょうがないなぁ」
互いにクスリと笑うと、メールは今度はランドの胸にその身体を重ねた。
「はぁ……あん」
「ん……気持ちいいぞ、メール」
「えへへ……良かった」
ランドの巨体に、メールは精一杯肌をこすり付ける。
石鹸の泡が滑り、前後に動くたびに内腿に堅いペニスが当たる。
その感触に、メールの身体も再び火照りはじめた。
「ね、ダーリン……」
「うん？」
「あのね、これ……また挿れたい？」
そう言ってメールは上体を起こすと、ペニスをそっと触って見せる。
「いや、お前も今日は初めてだからな。無理は禁物だ」
「でもダーリンの、まだガチガチ……」
確かに、あと１回で収まるのかも怪しいほどランドのペニスは堅さを維持している。
「そうだな……じゃ、こうするか」
「あっ」
ランドはメールの身体を引き寄せると、先ほどと同じように仰向けの身体の上に寝かせた。
「ほら、こうやって腿でこいつを挟んでな。あとは擦るんだ」
「あ、手の代わりにお股でするんだ……」
言われたとおりに、素股でランドのペニスを擦り始めるメール。
自然とメールの性器も擦れて、洗ったばかりの股間からまた愛液が染み出す。
「ふぁ……ぁ」
「お、いいぞ……」
「ふふ……上になるのも、気持ちいいかも……」
石鹸の泡に濡れたまま、二人は絡み合う。
泡にまみれたランドの胸板をくすぐるように、メールの可愛い乳首がぷにぷにと押し付けられる。
やがて二人の身体を包む泡は、汗と先走りと愛液の混ざった汁に押し流されてしまった。
「あぅ……あ、あぁん」
「っし……そろそろ、出すぞ！」
「うん、出してぇ……ダーリンの白いの、いっぱい……！」
「ぐっ！」
「ひあぁぁっ！？」
そして、三度目の射精。天を向いたランドの性器から飛び出したそれは、メールのお尻にポタポタと降り注ぐ。
同時にメールの胸の奥で熱い感覚が弾け、絶頂に達した。
「ん……メール」
「んう……ちゅ……」
ランドは荒い息を整えると、メールを引き寄せキスをする。
メールも力の入らない腕をランドの背に回してそれに応えた。
「へへっ、まーた汚しちまったな」
「じゃ、今度こそちゃんと背中流したげるね……♪」
星空の下、二人は時間を忘れて裸のままで抱き合い、これまでと少し変わった関係を確かめ合っていた。
※
ウィル・ゲイムの宇宙船を狙うティンプとの戦いはひとまず終わった。
といっても、まだ宇宙船の発掘という当初の仕事が残されている。
昨晩の夕食の席でウィルゲムと命名された宇宙船は、あと２日もすれば全体が姿を現すだろう。
ホレス達ムーンレィスの技師の力も借りられることになったので、内部の機械の状態によっては、１週間以内には試験飛行も出来るはずだ。
そして人知れずメールとランドの関係は変化し、さらに絆を深め合った。
そう、人知れず。そのはずだったのだが―――――
朝になり、目を覚ましたランドは大きなあくびをしながら仲間たちが待っているであろうゲイム家の庭に出た。
「よっ、おはようさ…………ん？」
扉を開けた瞬間、ギョッとする。
確かに皆がランドを待ってはいたが、様子がおかしい。
ガロードやロアビィはニヤニヤ笑いながらこちらを見ているし、ソシエやエルチはあからさまに睨みつけてくる。
ティファは顔を真っ赤にしてランドと目を合わせようとせず、テクスの視線はなにやら生暖かい。
「んー……あ、悪い悪い、寝坊しちまったか？」
「いや、そんなことはない。ただ他の皆が起きた後、少し……な」
「は？」
「まぁ昨晩は大変だったろうから、寝坊も仕方ないとは思うんだけどねぇ？」
「ぬが！？」
テクスの言葉は要領を得なかったが、続いたロアビィの一言に背筋が凍りついた。
「お前ら、な、何言って……」
「あ、起きたかランド！ 大ニュースだぞ〜！！」
「ほらメール！ 恥ずかしがってないで出てきなよ！」
冷や汗をかきながらロアビィに問いただそうとしたところに、ジロンの大声が響いた。
何やら上機嫌な様子で、チルと一緒にメールの手を引いてくる。
「って、メール！？」
目に飛び込んできたのは、昨日までと変わらないメールの姿。
ただ一点。腰まで伸びた長い髪を除いては。
「お前……か、か……」
「あ、あはは……何かスフィアが身体から抜けちゃったみたいで……一気に成長しちゃった」
「髪の毛しか変わってねぇ！？」
困ったような嬉しいような複雑な表情で笑うメールに、ランドは開いた口がふさがらない。
「朝起きたら急にこれでしょ？ それで何かきっかけか、変わったことが無かったかって聞いたらさ！」
「『昨日いっぱいしてもらったからかな……』だって！」
「ご、ごめんダーリン！ 口が滑っちゃった！」
「おいおい……マジか」
今にも噴き出しそうな笑顔でランドを見るラグとパーラ。メール自身もどこか動揺しているらしい。
本当に昨日の性行為がきっかけでスフィアが抜けたのか、数ヶ月前の時空修復の影響がたまたま今出ただけなのか。
ここにいるメンバーでは判断がつかなかったが、そんなことはどうでも良かった。
皆にとって大事なのは、ランドがとうとうメールに手を出したという事実があまりに分かりやすく示されたということである。
ジロンとチルはよく意味が分かっていないようで、純粋に昔馴染みのメールの成長を喜んでいるらしい。
「ちょっとランド！ あなたメールに何したわけ！？」
「うぐっ！？」
「そ、そういうのは結婚してからじゃなきゃ、メールが可哀想でしょ！！」
恐ろしい剣幕で怒鳴りつけてきたのはエルチとソシエ。彼女達の倫理観からすると、昨日の出来事はアウトらしい。
「えっと二人とも、あたしは別に……」
「そ、そうだ！ こういうのはプライベートな話であってだな」
「何よ大きい図体してコソコソと！ こんな小さなメール相手にいったいどんないやらしいことを……」
「あ、それは俺達も聞きたい」
怒っているのはエルチとソシエだけのようだが、他のメンバーも面白がって茶々を入れる。
「う、うるせえ！ そんなもん聞いてどうする！」
「えー？ 気になるだろ、みんな？」
「メールがランドのこと好きだってのは分かってたけど、ランドの方もメールをそういう目で見てたとは思わなかったからねー」
「うぐ！？」
「ガロード達のエッチはわりと普通だったし、今回ばかりはこっちが気になっちゃうわよね」
「って何で知ってんだよエニル！？」
「…………っ！」
エニルの何気ない言葉に、今度はガロードが慌てる。先ほどからずっと顔を赤らめていたティファは、その隣でついに気絶した。
「ま、そういうわけで。あんたの自称婚約者から“自称”が取れた顛末を聞きたいんだけどね」
ティファを支えてうろたえるガロードはひとまず置いて、ロアビィが話を戻すと再び全員の視線がランドに向けられた。
「まぁ、エマーンじゃ結婚してない方がまずい年齢らしいからな……年齢だけ見れば」
「キスで魔法が解けたってお伽噺は聞くけど、突き詰めると生々しくなるもんだねー……」
「結婚式はウィッツ達と合同で賑やかにやろうよ！」
「！ ！ ！」
皆こんなに面白いことはないといった様子で、好き放題に囃し立てる。
ファットマンにいたっては、大真面目に祝福のポージングを決め続けている。
味方を探すが、こういう話題ではロランは頼りにならないし、ディアナも微笑ましそうに見ているだけで助け舟は出してくれそうにない。
「ぐ、ぐぬぬぬぬ」
好奇の視線に冷や汗を流しながら、ふとこういう時にあいつがいれば、とランドは思う。
あのエクソダス請負人なら、話術で皆を煙に巻くのもお手の物だろうに。
しかし今ランドをこの場から助け出してくれる者は、どうやらいないらしい。
いや、実際にゲインがここに居たとして、からかう側に回る可能性も十分あるが。
（それじゃ、自分で何とかするしかねえよなあ……）
「で、結局どうなんだい？ ランド」
「あ〜、コホン、そりゃあ…………また後でなっ！」
そしてランドは、一目散に駆け出した。
「逃げた！」
「待てよランド！！」
ラグたち体力に自信のある者がすぐさま追いかけようとする。
しかしランドは何を思ったのか、皆が集まっている方へ向って走り出していた。
「な、何？」
「へ？」
困惑する仲間たちを掻き分け、一気にメールのところへ。そしてお姫様でもさらうかのように抱きかかえると、そのまま再び走り出した。
「ふぁ！？」
「おおーーっ！」
「見せ付けるねえ！ ザ・ヒート！」
「待ちなさーい！ 追うわよ、ジロン！」
そのランドの姿に歓声や黄色い声、怒声を張り上げながら、皆が続く。
困惑するメールを抱いたまま、ランドは走った。
「だ、ダーリン！？」
「行くぞメール！ エクソダスだ！」
「でもでも！ 今日からまたウィルゲムの発掘続けるんでしょ！？」
「ガンレオンの腕もまだちゃんと直してやれてねえしな！ ほとぼりが冷めるまでだ！」
と言っても、あの面子はしっかり説明されるまでは納得しないだろうが。
だが、後の事は後で考える。今は照れくささと高揚感が入り混じって、思い切り大地を駆けていたい気分だった。
そう、メールと一緒に。
「メール」
「な、何？」
「俺について来い！！」
ザ・ヒートの名に違わぬ熱い笑顔を浮かべて、ランドが叫ぶ。
これまでも、そしてこれからも大好きなその笑顔を間近で見て、メールの頬に赤みがさした。
そしてメールは満面の笑顔でランドに抱きつくと、追ってくる仲間達にもよく聞こえる声で元気に答えた。
「はいよ！ ダーリン！！」
＜了＞
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