「きゃっ!」
「被弾した!?」
「心配いらねぇ!これぐらい、ただのかすり傷だ!」
「馬鹿!被弾したのもろにあたしの部屋のとこじゃない!」
「あ……」

「すいません、もう勘弁してください……」
「…って、カズマちゃんは言ってるけど?」
「まぁ、そろそろ許してあげようかな」
 呟きながらアカネはカズマの背後にまわると、屈みこんで足の裏を指先でチョンと押す。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁっ!?」
 艦内中に響き渡るような、断末魔を上げて、その場にへたり込むカズマ。
 戦闘終了後、時折、古傷を抉りながらの説教は1時間近くにも及んだ。
 その間、ずっと正座を強制されていたのだ。その痺れに痺れきった足に刺激が加えられのだから、たまったものではない。
「にしても、我が部屋ながら酷い惨状だね、こりゃ」
 廊下に倒れこんで、ひくひくと痙攣しているカズマを尻目に、アカネは自室を覗き込む。
 被弾の振動のためか、健康器具やウッポくん人形など、室内のありとあらゆるものが床に散乱していた。
 貴重品関連は、戦闘前に艦内の安全な場所へ移しておいたので、損害について頭を抱えることは無かったが、これの後片付けを考えるとさすがに気が滅入ってくる。
「元からそんなに綺麗な部屋じゃありませんでしたけどね」
「うるさい、馬鹿ホリス!」
 背後からかかってきた飄々とした声に叫び返しながら、アカネは自室の扉を閉めた。
「ねぇ、さっきの悲鳴は……って、お兄ちゃん!?」
 廊下の曲がり角から現れたのは、パジャマ姿のミヒロ。
 眠そうにコシコシと手の甲でまぶたを擦っていたが、廊下に倒れこんでいるカズマの姿を目にすると、慌てて駆け寄ってくる。
「うぅ……ミヒロ、俺の足は……もう、駄目だ……」
「しっかりして!こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ!」
 微妙にずれた会話を交わしながら、ゆさゆさとカズマの身体を揺するミヒロ。
 麗しき兄妹愛に見えなくも無いが、カズマが駄目すぎて、いろいろと台無しな感じ。
「…今日はもう遅いから、片付けは明日にしましょう。
 仮眠室の準備をしておくから、今日はそこで寝なさい」
「うん。ありがと、お姉ちゃん」
「では、今後の方針も決まったようですし、そろそろ解散しましょうか。
 私も、まだやり残した仕事があるので」
「そうですね。ホリスさん、いつもすみません」
「それは言わない約束ですよ、シホミさん」

――コン、コン
 扉を叩く音に、ホリスは向き合っていたディスプレイから、視線を部屋の入り口へと移す。
 たとえ家族でなくとも、長い間生活を共にしてきたおかげで、ノックの音だけでも誰が訪ねてきたのかぐらいわかる。
 それが、最も聞き覚えのある彼女のものなら、もはや間違えることは無い。
「どうぞ、鍵はかけていませんよ」
 外の人物に呼びかけると、ホリスは再びディスプレイへ視線を戻した。

「…お邪魔しまーす」
 扉の開閉音とともに、室内へと入ってきたのはアカネだった。
 いつもの威勢の良さはなりをひそめ、やや控えめな声と共に室内を見渡す。
 ホリスの姿はすぐに見つかったが、自分に背を向けているその姿勢に、いささかむすっとした表情になる。
 立ったままというのも居心地が悪いので、とりあえず、部屋の隅のベッドに腰を掛けた。
「さて、今回はどういったご用件でしょうか」
 ホリスから声がかかるが、彼の視線は相変わらずディスプレイに向いている。
 そのことがどうしようもなく腹立たしく、そして少しだけ悲しい。
「ん…、お姉ちゃんには悪いと思うけど、仮眠室じゃ寝られなくって」
「そうですか、ではとっておきの子守唄でも歌いましょうか?」
「…………」
 いつもと変わらぬ軽口。だが、視線が交わってないだけで、こうも他人行儀なものになるとは知らなかった。
 もともと、アカネは我慢が強い方ではない。沸点を超えるには十分だった。
「ちょっと、ホリス! 話をしてるんだから、ちゃんとあたしを見なさいよ!
 仕事とあたし、どっちが大事なの!?」
 言ってから、あまりにもお約束すぎる自分の言葉に頭を抱えたくなるが、一度吐き出した言葉が戻るはずも無い。
 視線を向けたその先で、ホリスの身体が椅子ごと、くるりと反転した。
「もちろん、アカネさんに決まってます」
「………っ」
 にっこりと微笑んだその顔とその言葉に、アカネの顔が見る見る赤く染まっていく。
「アカネさんが訪ねてきたタイミングが悪かったんですよ。
 ちょうど、あと少しで仕事を終えるところだったので、先に終わらせてしまった方が
 ゆっくりと話ができるかと思いまして」
 言葉と同時にディスプレイの明かりが消えた。
「そ、それならそうと、最初に言ってくれれば……」
「だって、言ったらアカネさんの可愛い怒った顔が見られないじゃないですか」
「なっ……」
 さらりと言ってのけたホリスの言葉に声を詰まらせるアカネ。
 続く言葉は意識せずとも、すぐに喉へと上ってきた。
「この……っ、馬鹿ホリス!」
 罵倒の言葉にも堪える様子はなく、むしろ嬉しそうに笑みを深めるホリス。
「では、先ほど言ったとおり、とっておきの子守唄を披露しましょう。
 何を隠そう、私の美声には定評があるんですよ」
 トンと胸を叩くのと同時に、ホリスの身体にもう一つの衝撃が加えられる。
「……子守唄以外をお望みですか?」
「…………」
 優しい問いかけの声に、抱きついたホリスの胸の中で、アカネはコクリとうなずきを返した。
「やっ、降ろして!」
「何をおっしゃるんですか。待たせた分は丁寧に扱わないと」
「は、恥ずかしいよぉ……」
 アカネはホリスに抱きかかえられていた。背中と膝裏を手で支えられる、いわゆるお姫様抱っこの体勢で。
 誰に見られているわけでもないが、アカネは思わず赤面してしまう。
 だが、抵抗するでもなく、完全に身を任せてしまっている時点で、言葉はもはや意味を成さない。
 ベッドまでの、ほんの数歩の短い距離だったが、その間に主導権はホリスに完全に握られてしまった。
 もっとも、ホリスを相手にアカネが主導権を握れたためしがないのだが。
 やや固めのベッドの上にアカネの身体が優しく横たえられる。
「………んっ」
 打ち合わせをしたわけでもないのに、瞳を閉じた瞬間、唇が重なり合った。
 覆いかぶさるように下りてくるホリスの身体にそっと腕を回す。
 それに応じるように、アカネの身体も抱きしめられた。力強く、心地よい拘束感が身を包む。
「ホリス……んんぅっ、ちゅっ……」
 早すぎることも、遅すぎることも無く、絶妙のタイミングで舌が口内へと侵入してくる。
 それを自らの舌で絡めとり、音を立てながら幾度も交わらせる。
 時折、漏れる吐息が熱い。キスだけでこんなに昂れるものだと、アカネも最初の頃は驚いたものだ。
 唇が離れ、混ざり合った唾液が唇の端からとろりと垂れていくと、ふるふるとアカネは身体を震わせた。
「少し、休みましょうか?」
 アカネとは正反対に、いつもと変わらぬ調子で尋ねるホリスの言葉に、首を横に振って申し出を断る。
 半ば意地でもあったが、それ以上に抑えが効かないほど、目の前の人物を全身が欲していた。
 苦笑を浮かべたホリスの指が、胸元へと伸ばされる。
 薄手の服はスルスルと器用に脱がされていき、あっという間に上半身を覆うものは胸を隠す下着一つだけとなる。
「アカネさんはブラ越しに揉まれるのが好きなんですよね」
「わざわざ言わないでよ、馬鹿……」
 そっぽを向いて、もごもごと口の中で文句を言う。
 下手に面と向かって嫌と言えば、本当に止めてしまうのが彼の悪い癖だ。
 彼なりに気遣ってくれているんだろうか。……いや、単なる意地悪だろう。
「んんぅ、はぁ……あっ、んふぅ……」
 ぐにぐにとホリスの手の動きに合わせて、柔軟に形を変えるブラとその中身。
 声が漏れるのを止めることができない。体中が内側から火照り、肌がほんのりと桜色に染まる。
「もう少し、強くいきますよ」
「うん、してぇ……ひゃっ、くうぅ……」
 自分のものとは思えないくらい甘ったるい声。
 内側で起ち上がった乳首が、ブラの裏面と擦れるたびに走る電撃のような快感。
 コンプレックスの反発からか、そこを激しく愛撫されると、靄がかかったように思考が快感で塗りつぶされる。
「ふあ……っ、きもち、いいよ……っ!」
 身体の内側から張り裂けそうな衝動が生まれ、たまらず身体を揺り動かす。
 そうでもしなければ、本当に弾け飛んでしまいそうだったから。
「……ぁ」
 それを引き止めたのは、頬に落とされた唇の感触だった。
 涙で滲んだ視界の向こうには、こちらを見つめるホリスの顔。
 情事の最中だというのに、こんなにも自分が乱れているというのに、本当に憎たらしいほど、その表情は普段となんら変わりが無い。
「馬鹿、ホリス……っ」
 悔し紛れに不意打ちのキス。
 それすら読まれていることも内心わかっていた。
 自分のことを全てわかっているかのような態度が憎たらしくてたまらない。
 でも、――だからこそ、安心して身を任せている自分がいる。
「……んっ」
 前髪を梳かれる心地よい感触に、アカネはそっと瞳を閉じた。
「ほら、アカネさん。もっとお尻を上げてください」
「む、無理! 絶対無理! って言うか、なんでこんな格好で…っ!」
「いや、変化をつけないとマンネリに陥りますし、たまには違った体位で」
「体位とか言うな、馬鹿ホリスっ!」
 数分前のしおらしさは面影も無く、すっかり元の調子に戻って叫ぶアカネ。
 アカネの額は枕に押し付けられていた。うつ伏せの状態から膝を立てた、いわゆる後背位の態勢。
「それじゃあ、下着脱がしますね」
「ちょっ、こら! やめ……きゃっ!?」
 制止の声もむなしく、あっさりと脱がされる最後の砦。
 外気がさらけ出されたお尻を撫で上げていき、思わず声をあげてしまう。
「ふむ、こちらのボリュームだけ見れば、シホミさんにも負けず劣らずといったところでしょうか」
「じ、じろじろ見ながら、失礼な品評するな!」
 必死に声を張り上げるものの、一方で羞恥に泣いてしまいたくなるアカネ。
 なにしろ、隠すものも無い秘部を、全てホリスの目の前にさらけ出しているのだ。
 突き刺さる視線がこんなにきついものだと、実感を伴ってアカネは初めて理解した。
「す、するんなら早くしなさいよ!」
「いえいえ、トレイラー心得、急いてはことを仕損じる、好物は念入りによく味わえ、です」
「な、何よそれ……ひゃうっ!?」
 さわり、とアカネのお尻が撫でられる。
 軽い愛撫だが、ホリスの行動を見ることが出来ないアカネにとっては完全に不意打ちだった。
 一度で終わるはずも無く、お尻の全面をホリスの手が何度も撫でていく。
「はぁ、んんっ……そんな、お尻ばっかり……うぅ、んんぅ……」
「弾力性もあって手触りも抜群。少しぐらい胸に分けてあげた方がいいんじゃないですか?」
「ばっ、馬鹿ホリスっ!」 
 それからしばらくの間、お尻への執拗な愛撫が続いた。
 気持ちいいには違いないのだが、微弱な快感の連続にどうもやきもきしてしまう。
「んぅ……、ねぇ、ホリス……」
「はい、なんでしょうか?」
「…………っ」
 嬉々としたホリスの声に一瞬言葉を詰まらせるが、身体の欲求が口を動かす。
「お尻だけじゃ、なくて……っ、は…っ、もっと、下も……」
「下も? ちゃんと言わないと、間違った解釈をして酷いことをしてしまうかもしれませんよ?」
「…………うぅぅっ」
 何もかも投げ捨てて、このすかした男をぶん殴ってやりたい衝動に駆られるが、身体中を蝕む疼きがそれを許さない。
「……っ、あ、アソコの方も弄って……っ!」
「ふむ、できればもう少し突っ込んだ言い方をしてくれた方が好みなんですが、良しとしましょう」
 言葉と同時にお尻を撫でていた手が、さらに下へと伸ばされる。
「ふぁっ……」
 くちゅり、と粘液が絡む音を立てて、秘部に指が触れた。
 指の動きは止まることなく、愛液で濡れそぼった秘裂をかき混ぜる。
「んんぁ、ふぅ……、んっ、ああぁ、くうぅぅぅ………っ」
 嬌声が漏れ出るのを止めることができない。
 焦らしに焦らされた分、スポンジのように身体が快感を吸い込んでいく。
 膝ががくがくと震え、口からだらしなく垂れた唾液が枕へと染みこむ。
 こんなにも乱れきった姿を晒しているのに、心のどこかで安心しきっている自分がいる
 これまでに何度も見せたからとかそういう理由じゃなくて、彼にならどんな自分を見せても好かれるだろという、絶対的な自信。
 根拠など何一つ無いが、それでも揺るがぬ事実となるのが、人を愛する者の特権なのだとも思う。
「アカネさん、そろそろいきますよ?」
「うんっ、きて…っ!」
 秘裂に押し当てられた陰茎が、中へとゆっくり入り込んでくる。
 進むたびに膣壁が擦られるが、愛液が潤滑油代わりとなり、途中で止まるようなことは無く、スムーズに奥まで届く。
「はっ、あぁ……っ」
 大きく息を吐き出す。自分の身体の中に他人が入っているという圧迫感は、何度経験しても慣れそうにない。
 だが、一つになれたという満足感が、苦痛を感覚の外へと追いやっていた。
「大丈夫ですか?」
「うん……、だから、動いて……」
 アカネの要求に返ってくる言葉はなく、行動のみが示される。
 決して早くは無いものの、止まることも無く腰が前後し、陰茎が何度も膣内で往復運動を繰り返す。
 そのたびに身体が大きく揺れ、シーツと乳首が擦れ合い、新たな快感が生まれる。
 卑猥な音を立てながら秘部からあふれ出す体液は、あたりに濃厚な性臭を漂わせている。
 自分では動きようの無い体位だからこそ、与えられる快感全てが愛おしくてたまらなかった。
「ホリス、ホリス……っ、やっ、くうぅぅ、んんんあぁぁぁあぁぁ……っ!」 
 爆発するような勢いで迸った、熱い精液の存在を感じ取りながら、限界に達したアカネは、崩れ落ちるようにその場に倒れこんだ。


「えへへ……」
 にやけ笑いが止まらない。
 ごつごつした腕枕は寝心地がいいとはお世辞にも言えないが、形式美は大事にすべきである。
 それに、散々弄くられて疲労した身体には、やはり人肌が一番心地よく感じるものだ。
「あの、腕が痺れてきたので、そろそろ眠ってもらえないでしょうか?」
「いいじゃない、少しぐらいひたっても」
「仕事疲れがたまっているので、私もいい加減寝たいんですがね」
「我慢しなさい。力強さを見せる数少ないチャンスじゃない」
 言葉と同時に裸のままの体をすり寄せる。
「やれやれ……かないませんね」

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