窓の外を眺めていた。映るのはただ黒い闇と機械の残骸、この星の文明レベルの低さを現すような闘争の痕が何とも言いようのない不快感を覚えさせる。

(あのバッカ野郎……さがれ、って言ったのに意固地になりやがって……)

真っ暗な部屋で月で別れた仲間の戦死の報告を受けとり、胸にのしかかってくる暗い鬱蒼とした闇を振り切るかのごとく、
吐き捨てるように一睨みするとシャッターを下ろして眠りにつこうとし、テーブルの上の地球の酒…ウィスキーとかいうのを瓶から直接呷る。
熱い感覚が喉元を過ぎていき、体が少し熱くなる感覚を捨てるように息を吐いてシーツに横になる。
(こんな未熟な猿どもの星でも酒はうまいもんだな)と、流れていく熱いアルコールに喉を焼かれながら、口元を伝う滴を拭い一人ごちる男……
彼は、地球側からのコードネーム「インスペクター」の一人、影のリーダー・メキボスである。

(ばっかやろうが……こっちの兵力ごっそりもってかれやがって……あんな所で死にやがって……
 どうする……?この状況でここを、あいつを守りきれるか?)

 地球側のあの部隊、ロンドベルにより、もはやこちら側の戦力はこのアクシズの防衛に徹するしかできないほどに消耗していた、
そこにヴィガジの率いた月面の戦闘での敗北による更なる減退。
(ちぃ……ガルガウをやるほどの部隊か…だが、俺たちの三機とディカステスの完成が間に合えば……)
備え付けのベッドに寝転がり、これからの作戦行動を図る。
その思考が行き詰まる度にメキボスはウィスキーを呷る、そのためか、いつしかそのアルコール分に酔い、彼は眠りへと堕ちていた……



その眠りの中、夢を見ていた、メキボスは遠い昔の日の夢を。
異文明監査局への配属が決まり、その研修と訓練のため家を出た日の夢を。
『お兄ちゃん!やだよぉ、いっちゃやだよぉ!』

『ふぅ……、泣くなよ、ウェンドロ。そんな二度と会えなくなるって訳じゃ無いんだから』
『ひっく……ひっ、でもぉ、でもぉ……』
『ほら、ウェンドロ。お兄ちゃんもうすぐ出発なんだから笑って、ね?』
『そうだぞ、メキボスは異文明監査局に選ばれたすごい奴なんだ、だからお前も祝ってあげなさい』
 自分のコートの裾を小さな手で掴んで、金色のクセのある髪をゆすって泣く、泣き虫な弟の頭を撫でる。
父母の言葉にも耳を貸さずに、むしろひっついてくる年の離れた弟に苦笑しながらしゃがみこみ、目の高さを合わせる。
『泣くなよ……俺はさ、笑ってる顔が好きだぜ。しばらくみれないんだし、見せてくれよ、な?』
『ひっく、ひっく……うっぐ、……う゛ん』
涙でぐしゃぐしゃだけどニッコリと微笑む弟の笑顔に俺も笑い返す。


そうだ、俺はこいつの、ウェンドロのこの笑顔が大好きだったんだ……

もそ…もそもそ




「く…ぐ?…うう…」
キシ……
「くす、兄さん、起きて…」
「ん…お?ウェンドロ…どうした?」
自分の体の上に重みを感じて目を覚ます、目を開けるとそこには、闇の中でも光を失わない金色の輝きがあった。
 自分の腹の上に座り、胸に手を置いてこちらに笑顔を向けている弟…ウェンドロに問いかける。
だが何も言わずに彼女は頬を朱に染めてメキボスを見下ろしていた。
「にいさぁん…んふ…」
「ん…」
 胸においていた手をメキボスの頬に添えるとそのままウェンドロはメキボスの唇を吸う。
小さな舌を絡めてくるウェンドロにメキボスもまた唇を絡み返す、熱い息を吐きながら互いを交換し合う。
「んく…ん…んちゅ…」
「ウェンドロ…またお前、俺の酒飲んだだろ…」
「えへへ…大丈夫、ボクもう大人だよ」
「……どうした?ウェンドロ」
「えへへ……」
俺の胸に顔を埋めながら笑顔で俺を見上げる。

ナニカガチガウ

「ね、兄さん。しよ」
「んあ?……ああ」
こんな風にウェンドロがメキボスを求めてくるのは別に今日が初めてではなかった、そのため何の異論も挟まずに弟の頼みを聞く。

「ん……ふ……んぅん……」
「ちゅ……う…く」
 小さな舌がメキボスの中に入ってくる、それを絡めとり、そして差し入れ返しては唾液を交換していく。
「んくぅ……ぷは、兄さぁん……」
「ふう……なんかあったのか?」
ウェンドロの小さな胸の膨らみを優しくなでながら問いかける。
「これはちょっと勝てないかなぁって、さ」
笑顔のままだが眉根は困ったように八の字になっている、メキボスはそんなウェンドロの頭を撫でながら無言で見つめる。
「大丈夫……さ、俺たちが何とかする」

(そうだ。それが……あの時おまえを守ってやれなかった俺がしなくちゃならない事なんだ)

監査局の教習施設のある軌道衛星でメキボスが訓練の日々を送っていた時、本星に残っているウェンドロたちに悲劇が起こった。
彼らの星の住民の意識においては、基本的に「道具を威力として他者に害をなす」という発想は出てこない。
だが、突然変異的なものはどのような世界でも発現する、その「他者に害をなす」ことができる者も現れる。
そして、その万に一つの可能性が兄の帰りを待つ一つの幸せな家庭を壊し、砕いた。
ある男がウェンドロたちの暮らす家に強盗目的に押し入り、父母はウェンドロを守ろうとするも殺害され……
残るウェンドロは、その男により幼い体に凌辱を尽くされたのだった。

 これまでウェンドロをメキボスの弟として書いてきたが、事実としてはその言葉は正しくない、ウェンドロは弟でもあり妹でもあった。
彼らの星系においてはごくまれに、本当にごく稀に両性具有者が生まれ出る。
この子たちは幼少期の環境、教育によってアニマ、アニムス、つまり男性的、女性的な思考パターンかが決まる。
そして、その思考パターンに応じて身体も成長のベクトルが変わる。
 彼ら、彼女らは身体的にも知能的にも高い能力を誇っており、様々な業績を残していた。
ウェンドロが異文明監査の長として現在のポジションにいることも、それがもとにあるためだった。
事件時のウェンドロは男の子のように振る舞い、そのままその方向に向かうはずであった。
だが、女性としての生殖器に性的刺激を受けその身体のベクトルは女性のほうへと進み始め、男性的な思考と女性的になりつつある体の矛盾を抱えていた。
その矛盾が体への性的な刺激を求めるたびにウェンドロはメキボス、そしてヴィガジに抱かれていた。

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