「うわ〜、壮観壮観!目に毒とはまさにこのことよね〜!!」

ハガネの格納庫を一望できる場所に来た途端黄色い声をあげたのはセニア・グラニア・ビルセイア。
神聖ラングラン王国の第一王女、つまりまぎれもない王族である。
しかしそんな肩書きを微塵も感じさせないはしゃぎっぷりに周囲の整備員たちは何事かと目を向ける。
そんな好奇の視線などまるで目に入らずステップしながら目にしたこともない機体を前に狂喜乱舞するセニアを苦笑交じりに付き添うリョウト・ヒカワ。
セニアに懇願されて案内役(艦長の許可は得た)を仰せつかったのである。

「そんなにきょろきょろすると転んじゃうよ?」
「な〜に言ってんの!メカフェチとしてこれが興奮せずにいられますかってのよ!ああ、やっぱり間近で見る特機の威容は流石だわ〜」

グルンガスト改を見上げうっとりするさまはとても王族とは思えなかったが、見目麗しい外見と重なり愛らしさは十二分にあった。

「ハァ、いいなぁ地上って。こんなバリエーションに富んだメカが溢れてるんだもん」
「ラ・ギアスだって僕らからみれば超技術の固まりみたいなものだけど…」
「それはそれ、『隣の芝生は青く見える』って地上の格言にあるじゃない!」

ははは、と相槌を打ちながらリョウトはグルンガストやRシリーズの機体の特色などを請われるままに解説していった。
貪欲に求めるセニアに対し最初は遠慮がちだったリョウトもいつしか専門用語が飛び交うほどに熱中してゆく。
そうしてやってきた機体の前でセニアは立ち止まった。

「ねえ、これ貴方の機体なんでしょ?
「うん、そうだよ」
「”アーマリオン”かぁ。何度か交戦した”リオン”て機体を鹵獲してそれを改造したんでしょ。いいな〜、現地調達の突貫工事で海千山千の機体を自分の色にしていくって」
「そ、そういうもんなの?」
「そうよぉ、まさにメカマンの本領発揮、腕の見せ所じゃない!魔装機じゃ中々できないもん、ねえねえ、コクピット見せてよ」
「え?…まぁ見るだけならいいけど」
「大丈夫大丈夫!お姉さんナニもしやしないから!」

そう言ってルンルン気分で解放されたコクピットを覗きこむ。
コンソールを起動させて各パーツのデータを見せるとセニアは目を丸くした。

「うわ、ナニこれ!全く仕様が違うパーツ同士なのにすごい親和性じゃない」
「僕も意外だったんだけど、AM(アーマードモジュールとPT(パーソナルトルーパー)の相性って凄くいいんだ」
「ふんふん」
「例えば背中のブースターなんてヒュッケバイン系の予備パーツなんだけどリオンのテスラドライブとの相乗効果で機体重量の増加もほぼ軽減されたし」
「ふんふん」
「おかげで重装甲でも突貫力が相当なものになったし、固定武装の制限も」
「へぇ〜」

やはり自分が設計したメカを褒められるのは嬉しいもので、リョウトは喜々としてアーマリオンについて語っていく。
セニアも熱心に聞き、時折リョウトも舌を巻く質問をいれながらふたりは会話に熱中していく。
そしてひと段落したころ、リョウトは何やら下の階層が騒がしいことに気付いた。
何やら整備員たちが鈴なりになってこちらを見上げて一喜一憂している。
「?」と視線を辿って目ん玉が飛び出た。
あろうことかセニアが上半身を乗り出すようにコクピットに突っ込んでいるため只でさえ短いスカートの中身がまさに見えようとしていたのだ。
少し動作するたびに腰をフリフリさせるためにまさに見えそで見えない状況。
慌ててリョウトは整備員達の視界の間に身体を割り込ませてシャットダウンする。
『うあー!』『リョウトこらてめ〜』『この裏切り者!』といった呪詛の声なき声が聞こえるが、相手はうら若き乙女にして本来なら国賓級の立場の人間なのだ。

「あ、あの、セニア、そろそろ」
「ねえ、シートに座ってもいい?」
「え?あ、勿論いいよ!」

聞くが早いかさっさと乗り込み見えなくなったセニアに整備員たちの残念無念な思念が(以下省略

「ふ〜ん」

操縦桿をにぎにぎしながらチラっとリョウトを見たセニアはにこりと無垢な笑顔を向けた。

「どうかしたの?」
「アナタ、才能あるんだ」
「…いや、僕なんてまだまだ凡人もいいとこだよ。このアーマリオンだってロバートさん達に手伝ってもらって完成したんだし、ヒュッケバインやアルトアイゼンのパーツ自体が優秀だからこの性能…」
「そうじゃないわよ、馬鹿ね。どんな一流の食品だろうとそれを調理する職人がへっぽこだったら宝の持ち腐れよ。アナタだからこの機体が出来たのよ、胸を張りなさいよね」
「……そうかな」
「うん、アタシが保障する」
「ありがとう……凄く、嬉しいよ」

ふふふ、と肩を寄せ合うように微笑みあうふたりは傍から見ればなんとも仲睦まじいことであったろう。
そしてそんな光景をばっちり見てしまう影がひとつ…

「リョウト少尉」
「うわあわあわわわわっ!」

いつのまにそこにいたのか、イングが無表情に傍に立ち二人を見つめていた。
そこでハっと狭い空間で自分達の密着した格好に気付いたリョウトは慌ててコクピットから這い出す。

「い、い、何時からそこにいるの!?」
「アナタたちが限りなく密着してる頃からです」

心臓バクバクのリョウトと比べてセニアはまるで慌てず「あら、何か用かしら」と穏やかに闖入者に聞いている。

「リオ少尉が呼んでいます、リョウト少尉」
「えゅっ…ごほん…リ、リオが?な、なんだろ」

あからさまにドモる挙動不審さだが我関せずのイングは「急ぎのようでした。早くお会いになったほうがいいかと。では…」とこれも無表情に告げスタスタ去って行った。

「ご、ごめん。なんか用事が出来たみたいで」
「ううん、いいのよ。お陰さまでとっても楽しかったわ。付き合わせて悪かったわね」
「こちらこそ。それじゃ」
「あ、ねえねえ。今度お礼に私がいろいろこっちのメカについてレクチャーしてあげる♪」
「え?いいの?」
「モッチロン、とっておきの情報もあるんだから期待していいわよ〜」
「うん!それじゃあ」 


格納庫の前まで共に歩き、笑顔で手を振って別れたセニアはひとりで廊下をテクテク歩きながら
「リョウト・ヒカワかぁ〜」と何やら楽しげな笑みを浮かべるのだった。
彼女がリョウトたちに自身が設計した超魔装機、デュラクシールのデータを見せる少し前の出来ごとである。
そしてこの後の悲劇が、セニアの心境に変化を与えることになる…

続く

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