真夏の日差しに灼かれた砂が、ビニールシートの下からじりじりと熱を放っている。ヴィレッタ・プリスケンは小さく身をよじって、汗でべったりと肌へ貼りついたシートを引き剥がし、ふたたび気だるい灼熱のまどろみの中へ沈もうとした。
 ここへは海域作戦訓練に来ているのであって無論遊びに来たのではないが、せっかく盛夏の沖縄に来ていながら自由時間を有効に利用していけないわけもない。リュウセイ少尉はこの数日で見違えるほど黒くなり、すっかり地元の子供達に溶けこんで磯の小島で遊んでいる。ライディース中尉は義手を晒すのが嫌なのだろう、サーファーの使うボディスーツに身を包み、連日水着の娘達に取り囲まれている。そのうち本当にサーフィンをやらされる羽目になりそうだ。逆に男達の目を釘付けにしているのはアヤ大尉で、刺激的というか目の毒になりそうな露出のきわどいマイクロビキニで今日も悩ましげに浜を闊歩していた。
「少佐」
 ヴィレッタ自身は軽く泳いだあと、砂浜に寝そべってのんびり読書か甲羅干しをするのがここしばらくの日課である。暑いのは苦手だが、いつでも目の前の海に入れる、と思いつつ、強い陽射しに背中をあぶるのはなかなか気持ちがいい。
「ヴィレッタ少佐」
 そろそろ頭が熱くなってきたから、少し泳いでこようか。のどもかわいたし、そうだ、そういえば誰かが飲み物を――

「ヴィレッタさん」
 ぴと、とヴィレッタの背中に氷の塊が押し当てられた。
「ひゃぁっ!?」
 跳ね上がって振り返ると、清涼飲料のボトルを両手に持った副官のリョウト・ヒカワ大尉が、困ったような笑みを浮かべて傍らに立っていた。氷の塊と思ったのはそのボトルらしい。
「ひ、ヒカワ大尉!」
「何度も呼んだんですが……そんなに驚かれるとは思いませんでした、すみません」
「え、ええ……」
 飲み物を買ってくるよう彼に頼んだこと自体すっかり忘れていた。身を起こして、よく冷えたボトルを受けとり、頬に押し当てると心地いい。少し、陽に当たりすぎたろうか。
「少佐はあまり肌が強くないんですから、焼きすぎると毒ですよ」
 心配げにヒカワ大尉が言う。磁器のように白いヴィレッタの肌は、確かに日焼けに弱い。去年の夏はそれを知らずに海へ行ってひどい目にあった。全身真っ赤に火ぶくれして熱をもった肌をふう、ふうとやさしく吹いて冷ましてくれたヒカワ大尉の息の感触を今でも覚えている。
 しかし今年は学習して、ちゃんと備えをしてある。パラソルを調達しに行こうとするヒカワ大尉を引き止めて、
「バッグの中にオイルがあるの。塗ってもらえるかしら?」
 とびきり妖艶に、ヴィレッタは微笑んでみせた。

 アヤ・コバヤシ大尉は肌を出すのが好きである。ジャケットというよりビスチェに近いSRXチームの女性用制服の下に、肩や胸元を隠すインナーウェアを何も着けないのは彼女だけだ。今年の水着も彼女のそうした趣味を遺憾なく発揮したものだったが、単純に目の保養になるという以上に、今リョウトはその姿に感謝していた。
 彼女が男達の視線を一身に集めてくれるおかげで、ヴィレッタ・プリスケンの肢体を衆目に晒すことなく独占できるのだから。
 競泳用水着に近い流麗なデザインのワンピースは肌の露出こそそれほどでもないが、ヴィレッタの魅力を十二分に引き出している。大きく開いた背中や、鋭く切れ上がったハイレッグから伸びるすらりと長い脚の白さと引き締まった肉付きは、リョウトのひいき目を抜きにしても目眩のするような濃密な色香を醸し出していた。もしアヤ大尉がいなければ、代わりに注目を浴びていたのがこの人であったろうことは疑う余地がない。
 そのヴィレッタの肢体が今、足元で無防備にねそべっている。
 リョウトは傍らの瓶をとり、オイルを手のひらに流し出す。透明なカラメル色の油を両手にたっぷりとまぶし、まずは背中へと手をやった。
「ん……」
 肌にふれたオイルの冷たさに、ヴィレッタが小さく声を上げる。なだらかに起伏する背中の曲面にそってゆっくり手を滑らせていくと、それに合わせてかすかな息がもれた。
 一通り塗りのばしたら、今度は軽く揉むようにして、オイルを肌になじませる。汗ばんだ肌にオイルがすり込まれてゆき、てらてらと油の輝きをはなつ。おだやかな呼吸に合わせてその輝きがうねる、それがあんまりなまめかしくて、リョウトはしだいに熱中してゆく。

 ヒカワ大尉の手は温かい。意外に骨ばっていて、でも繊細に動く。以前マッサージをしてもらった時に筋がいいと誉めたら、それから本を読んで勉強しているらしい。そういう真面目なところがある。慣れた指の動きに身を任せていると、心地よさに息がもれる。
「ん、ふ………あ…」
 その自分のため息がどれほど艶っぽいか、ヴィレッタは気付かない。手を動かすにつれてそんなものを断続的に聞かされるリョウトの心拍数が上がっていくことにも、もちろん気付かない。
 リョウトの指が背中のくぼみをなぞる。ぬるり、と手のひらが脇腹をなでる。首筋から肩にかけて、あたたかい手が揉みほぐす。
 ていねいで優しいマッサージ、それも恋人の手によるそれがもたらす快感は、おだやかな愛撫による性的快感とそれほど違わない。ヴィレッタ自身が気付かなくとも、彼女の肉体は敏感にその刺激を受け止め、そして反応を開始した。
「あ…………」
 むずり、と。
 股間に、圧迫感が生まれた。水着の生地が引っぱられ、ビニールシートにこすれる。本人も知らぬうちに心の奥に溜まりつつあった気分を象徴するように、女には本来存在しない器官が、血液を集めて膨張しはじめる。
「ひ、ヒカワ………大尉」
 小声で訴えても、聞こえた様子はない。ひとたび気付いてしまえば膨張はいよいよ加速し、肌がひきつれて軽い痛みを覚えたヴィレッタが尻をわずかに浮かせた。その動きで、初めてリョウトの手が止まった。
「ヴィレッタさん?」
 のぞき込む顔に浮かんだ疑問に、すこしだけ頬を染めてうなずく。リョウトの手が、すっと背中から離れた。すこし寂しく思いつつも、安堵の息をつく。あとはこのまま、落ち着くのを待てばいい。
 しかし、ヴィレッタはまたしても気付いていなかった。さっきからの悩ましい吐息、汗ばんだ肌、そして尻を上げた反応そのものが、リョウトの心中のある歯止めを外してしまったことに。

 油にまみれた手が、むっちりと水着からはみ出た尻の肉をわしづかみにした。
「うっ…!?」
 思わず上がったうめきを圧し殺すように、リョウトは前にもまして力強く指を動かし、引き締まって柔らかい尻たぶを揉み込んでゆく。尻から太ももへ、膝の裏からふくらはぎをくすぐってまた太ももへ、しぼり出すように白い肌をねじって指を埋めていく。
「ひ、ヒカワ、大尉、ちょっ……あ……! ひ、ひか、……っ!」
 思わず脚を閉じるが、すでに油と汗でぬめった太ももの肌は、閉じていても指の侵入を防げない。太ももから内股へ、尻の内側へ、最も秘密のヴィレッタのその場所へ、侵入する寸前で水着のふちをかすめてまた尻へ。
 ヴィレッタの体つきはスリムだが、痩せぎすというわけでは決してない。筋肉と脂肪がつくべきところにはちゃんとついており、そのつくべきところの最たるものが豊かな尻である。タイトなパイロットスーツを張りつめさせた優雅な曲線に、背後からこっそり見とれたことのある極東基地職員の数は決して少なくはない。
 その尻は、触ってみると案外にやわらかく、ぷるぷるとプディングのようにふるえて、いくらでも指が沈む。男の尻と女の尻は別の物質でできているのではないかと、リョウトは思うことがある。
「ひ、……ひ……う、リョ……ぉ…!!」

 油まみれの手で巨大なプディングのような尻をほとんどくまなく蹂躙しつつ、しかしリョウトは決してその先へは進まない。尻たぶの上の方ではリョウトの指は遠慮なく水着の下へ入り込み、本来必要のない場所にまでオイルを塗り込めていくが、その手が下へ、股間へ近づくにつれ侵入深度は浅くなり、最後の部分では水着のふちをそっとかすめるだけで決してその中へは侵入しない。決定的な部分には決して触れることなく、ただそのまわりの肉だけを、揉み、絞り、ふるわせ、むさぼってゆく。時折、耐えきれないように尻が浮き上がるとむりやりねじ伏せて、ビニールシートに股間をこすりつけさせるようにひねりを加えて押し込む。ぶるるっ、とそのたびに尻肉が震えるのが、手のひらに心地いい。
 リョウトの手が尻から太ももにかけてを大方味わい尽くし、ふくらはぎから足指の股あたりへ攻め込もうかと考えたあたりで、とうとうヴィレッタが音を上げた。
「……………っ!!!」
 リョウトの手をはねのけるようにして、強引に起き上がる。起き上がりざまに素早くそばのタオルをとり、
「向こうの磯で……お、泳いでくるわ」
それだけ小声で言うと、目も合わせず小走りに駆け去っていった。男が風呂に入る時のように、タオルで腰の前を隠しているのを、何人かの海水浴客が気付いて不思議そうに見送った。

 防衛軍沖縄基地とこのビーチとは、岬を一つへだてて隣接している。その岬近辺は準機密区域として、関係者以外立入禁止となっており、人気のない磯が静かに波をかぶっていた。
 リョウトが、怪しまれない程度の時間をあけてその磯をこっそりと訪れると、ヴィレッタはもう顔中を真っ赤に火照らせて彼を待っていた。
「遅くなってすみません」
「リョウト……」
 リョウトの姿を見てようやく安心したように、タオルをそっと脇の岩へかける。その下には、水着の股間をありありと押し上げて、サツマイモのようにうねる醜怪な隆起があった。へそに近いその先端では水着が変色し、じっとりと濡れている。
 その部分を除き、水着にはほとんど濡れたあとがない。泳ぐなどとは思いもよらず、ただ股間のうずきをこらえるだけで精一杯だったのだろう。そんなになりながらも一人で処理をせず、自分を待っていてくれたことに、リョウトはたまらなくなって潮だまりに飛び込み、ヴィレッタの肢体を抱きしめた。
「ヴィレッタさん……っ」
「リョウト……んむぁ、ぷ、ンむ…」
 二人きりになれば階級は関係ない。熱く名前を呼ぶ唇をふさぐ。腰に手を回し引き寄せると、水着の隆起がリョウトの腹にこすれて甘いうめきが上がった。
「ん………ん…」
「んー、んーー」
 抱きしめたまま尻に手をやると、そこはもういい、というように抗議の声が上がる。苦笑して体を離し、水着の股間からへそまでをそっと撫で上げた。
「ふぅ……っ」
 満足げな吐息を確かめて、手近な岩へヴィレッタをよりかからせる。ようやくリョウトに触れてもらえたせいか、ついさっきよりさらに一回り大きくなったように見えるそれは濡れた水着をいっぱいに張りつめさせて、しめった熱気をまとっていた。手で撫でさすってやると、そのたび切ない声が上がる。

「もうこんなになってるんですね」
「はぁ……あン……」
「僕のオイル塗り、そんなに気持ちよかったですか?」
「んッ……」
 元々サポーターの中に収まっていたものが、水着の中で無理矢理に伸び上がったのである。まっすぐ勃起することなどできず、水着の裏地と肌とでひきつれて、蛇行したようになってへそまで走っている。それを元に戻してやらず、あえてそのまま愛撫する。はぐ、とトウモロコシをかじるように横ぐわえにすると、腰が跳ね上がった。
「おぅっ……!」
 はむはむはむ、と甘噛みしながら頭を上下させると、ひと噛みごとに腰の力が抜けたり、また緊張して跳ねたりするのが面白いようにわかる。空いた両手で太ももをねぶりながら、リョウトは水着ごしのフランクフルトを一心に食べ進む。むれた水着の独特の匂いが鼻をくすぐり、海水とそれ以外の混じった塩味がする。
「ぉ、……っ! ふぅ、う……おぅ、おお、そこ、そこは、そこはっ……っ!!」
 最後にまるく膨らんだ亀頭を念入りにかじって、たっぷり甘い悲鳴を上げさせると、とうとうヴィレッタの膝がくずれた。潮だまりの中に落ち込みそうになるのをあわてて支え、ついでに体勢を変える。膝の定まらないヴィレッタを抱き起こし、自分が岩場にもたれて背後から抱き支える。むき出しの背中に、ぎざぎざした磯の岩は結構痛い。
「最初からこうしてればよかったですね……肌に傷、ついてませんか」
 白い肩や背中に残る赤い跡を舐めると、海水と汗の塩味に加えて、じゃりじゃりした砂の感触が口の中に残った。おまけに、さっき塗った日焼け止めが少々油っぽい。
「ばかね……」
 リョウトが何を味わったのか察したのだろう、ヴィレッタがわずかに見返って笑った。ここで余裕を取り戻されたりしてはかなわないので、その振り返った唇をふさぎつつ、股間へ手を這わせる。

「んう……っ」
 両手で包み込むように、熱い塊を撫で上げ、撫で下ろす。なまめかしく腰がうねる。芋を洗うようにきつく、赤児を洗うようにやさしく、緩急をつけて撫でさすってやると、
「ふぅっ、ふぅぅん……んん、っくあ、あふ、あぉう、んんんっ……」
切なげな、それでいて満足そうな、悩ましい鼻にかかったあえぎが漏れる。リョウト自身も実感として知っていることだが、この場所を口や手で包みこまれると、まるで自分のすべてを包まれたかのような被支配感と安堵感を覚えるのである。
 その感覚をいっそう強めるべく、リョウトはヴィレッタの胸をかき抱き、背中をこごめ気味にして、全身でヴィレッタの体を包むようにする。片手で弾力のある乳房の感触を楽しみ、水着の上からでもはっきりと隆起している乳首をつまんで転がせば、かすれた甘い声が上がる。
 もう片方の手はヴィレッタの分身をやさしく、だが力強くさすり上げる。ちょうど吐き気を覚えた人の背中をさすってやるように、下から上へ、こみあげるものを促して、手のひらを、指先を、爪を使ってしごき上げる。
「んお、おぅっ……! うっ、うっ、くふ、うっ、リョウト、リョウト、おおおっ……!」
 ヴィレッタの腰が小刻みに震え出す。限界が近いことを悟ったリョウトがさらに愛撫を加速させると、ヴィレッタの喘ぎもそれにあわせて高まっていき、最後にリョウトが、柔らかい亀頭を手のひらでぐりぐりぐりっ、とねじり潰すと、
「お……! おうっ、おううっ、おおおおっ!! おっ、ほっ、おっ、ほおおおおっ!!」
突然マンボを踊るように、ヴィレッタの腰が突き出された。膝がくずれるのを、背後から抱きとめる。股間にあてた手は離さない。
「すごい、ヴィレッタさん……水着の上からでも、出てるのがわかりますよ? びくん、びくんって……」
 二度、三度と痙攣する股間を、リョウトの手のひらはしっかりと押さえ、爆発するヴィレッタ自身を感じつつ、なおも撫でさすって絶頂を延長させる。四度、五度……ようやく痙攣がおさまり、リョウトが手を離すと、水着のその一帯は、じっとりと黒っぽく変色して湯気をたてていた。

 ゲルのような濃厚な白濁は、水着の縫い目をほとんど通らない。爆発の勢いが一番強かった先端部にだけ、白い粘塊が小さなカリフラワーのように盛り上がっているが、残りの大部分の濁液は水着の内部に留まっている。リョウトの手がふたたび水着ごしにヴィレッタ自身をつかむと、ぐちゅっ、と音がした。
「ひ、う……っ!」
 大量の白濁と、射精したばかりの敏感な亀頭とが、水着と腹との間で真空パックのように挟まれている。そこを握られたのだからたまらない。力の抜けた腰が、弱々しく飛び上がる。
「やっ、やぁ……! まだ、まだ、…ほぉぅ……っ!」
 悲鳴にかまわずリョウトの手は加速していく。水着の中にできた精液プールでおぼれるヴィレッタが早くも二度目の限界を迎えようとした時、

「隊長ー? ヴィレッタ隊長ー!」


 立入禁止区域の中へわずかに踏み込んだ、波の静かな磯の陰で、アヤ・コバヤシは目的の人物を見つけた。
「こんな所にいたんですか、隊長。このあたり、もう立入禁止区域ですよ」
「す……少し、面白そうな所だったから、つい、ね。ここへ来てから、磯の生態に興味があって」
 狭い潮だまりをはさんで向こう側にいるヴィレッタは岩に腕をかけ、上半身だけこちらへのぞかせている。水中眼鏡を首にひっかけ、顔が火照っているのは、本当に夢中になって磯を見て回っていたのだろうとアヤは好意的に解釈した。コロニー育ちの人間には、地球の自然は珍しいのだ。
「…それで、何かあったの?」
「ライが……いえ、ライディース中尉が、サーフィンをやってみせることになって。基地までボードを取りにいくので、エレカを使わせていただきたいんですけど」
「ああ……構わないわ。女の子たちにせがまれたのね?」
「そうなんです」くすくす、と、アヤは笑った。ヴィレッタも笑ったが、その笑顔がぎごちない。

「どうかしました、隊長?」
「…別に? なぜ?」
「あ、いえ……」
 気のせいだったろうか。アヤの態度を不審がるでもなく、ヴィレッタは濡れた前髪をかき上げ、
「……キーは私のバッグの中の、青いポーチに入っているわ。持っていっていいわよ」
「ありがとうございます。あ、それと、ヒカワ大尉を知りませんか?」
「えっ……」

 顔が引きつるのを、寸前で押しとどめた。ごまかせただろうか。無理かもしれない。
「さあ、知らない、けど………な、何故?」
「ふふ」ヴィレッタの気も知らずに、アヤが含み笑いをする。「女の子達がね、探してるんですよ。ヒカワ大尉、結構人気なんですよ? かわいい顔の軍人さんって」
 そのかわいい顔が今、どこにあるかを知ったら彼女はどう思うだろうか。
「あ、でも恋人がいるって、ちゃんと釘を差しておきましたから」
 ヴィレッタとリョウトが恋人同士であることは別に隠していないから、SRXチームのメンバーは皆知っている。しかし服務中は上司と副官としてのみ接し、周囲にもよけいな気を遣わないよう言ってある。公私混同はしていない。……ただ特殊なプレイの時と、ヴィレッタがどうしても我慢できなくなってしまった時と、そして、もちろん、今のような自由時間を除いては。
「そ、そう、ありが……ぅっ」
「隊長?」
 アヤが訝しげに眉をひそめる。いけない、ごまかさなくては。アヤから見えないように、必死で手を動かして追い払おうとしても、リョウトは少しも意に介してくれない。肉のあいだにうずめた鼻先をいっそう深く動かし、ヒクヒクと脈打つヴィレッタの肉幹の根元をゆっくりとこすり上げる。
 見られてしまう。アヤがほんの数歩、こちらへ近づいただけで、すべてを見られてしまう。そう思っただけで、足元がふらつくほどの快感が脳天を突き通す。
「な、何でもない、わ……」
「声が少し、変ですよ。大丈夫ですか?」

 アヤがわずかに身を乗り出しかける。潮だまりを越えてこちらに来るつもりかもしれない。それだけは何としても止めなくては。岩に隠れた下半身を、ぐちょぐちょに濡れた水着をずらされて、汗と精液と愛液と先走りとリョウトの唾液でどろどろになって、リョウトの指と舌でもっとすごいことになろうとしている股間を見られることだけは絶対に防がなくては――
「…っ、気をつけて。そこの水たまりには、刺すクラゲがいるわよ」
 アヤの足がとまった。
「ほ、本当ですか?」
「ええ……お、おぅっ、大回り、しないと、こちら側へは…来られない、わ」
 気力をふりしぼって、平然とした表情をつくる。常日頃よそおっている冷徹な雰囲気の十分の一でも醸し出すことができたろうか。
 リョウトの口と舌は止まらない。ぐちゅ、ぐちゅという濡れた粘液の音、とめどなくしたたる愛液と先走りがリョウトの顔をぐっしょりと濡らし、顎からこぼれて水たまりに落ちる、その水滴の音までが克明に聞こえる。実際には潮騒にかき消されるわずかな物音でしかないが、ヴィレッタの耳には破鐘のように響いて、アヤにも聞こえないはずがないと思える。きっと聞こえる、そう考えるとまた、どぷん、と愛液がほとんど塊になって、リョウトの顔に降り注いだ。
「そういえば、ひ、ヒカワ大尉、には、さっき、飲み物を買いに行ってもらったけど。と、おくまで行ったのかもしれないわね。エレカをっ、使うなら、とッ…途中で探して、拾ってきてくれないかしら?」
「あ、わかりました」
 アヤのゴム草履がキュッ、と音を立てて向きを変える。もう少しだ。あとほんの十数秒、何でもないふりを続ければいい。
 Tバックの尻が岩の向こうに消えようとしている。あとほんの数秒、ごまかせればいい、それだけでいいのに、もう、もう股間のことしか考えられない、気が遠くなる――
「あ、そうだ」
 ふいにアヤが振り返ったのと、後ろの穴の奥深くまで舌が突き込まれたのは、ほとんど同時だった。

「お゛…………っ!!!」
「隊長、オイルを塗ったままで海に入ると、油が混じって環境によくないんですよ」
 叫び声をこらえられたのは、僥倖としか言いようがない。リョウトの指が素早く、ペニスの根元をつぶれるほど力一杯押さえなかったなら、そのまま思いきり射精して、だらしない顔をアヤに晒していたに違いない。激発を止められたペニスが、水着の中でブルン、ブルンと痙攣を繰り返している。
「あ゛…わ、……かッッ……た…わ……っ」
 ようやくのことで声をしぼり出し、追い払うように顔をそむけて見せると、気がかりそうな顔をしつつも、ようやくアヤの姿が岩のむこうへ消えた。ゴム草履が岩を踏む音が聞こえなくなるまでさらに数秒、じっと耐える。
 その数秒が過ぎると、ヴィレッタは全身をふるわせてくずれ落ちた、
「あ゛……あ、あ゛…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ…………!!」
 戒めを解かれた男根から、勢いを失った濁液がどろり、どぷり、……と泉のように流れ出してくる。水着の中に新たな熱が広がるのを感じながら、もうそれ以外のことは何も考えられなくなったヴィレッタを、リョウトの胸板が支えた。
「意地悪してすみません。でも、気持ちよかったでしょう?」
「ば…………かッ……!」
 頬の一つもつねってやりたいが、その力さえない。リョウトのするがままに岩へ身をもたせかけ、水着を脱がされる。
 ぐちゃ……という、ひどく淫猥な音とともに、ヴィレッタの肌から布地がはがされていく。あふれ出した精液は股間から腹、ほとんど胸にまで達して広がり、白い肌を一面覆った粘液が陽光を跳ね返してぎらぎらといやらしい光を放った。
 当然、水着の裏側にもそれだけ濁液がひろがっている。白い濃淡にねっとりと濡れた布の塊から、ヴィレッタは恥ずかしさに耐えきれず目をそらした。リョウトは気にした風もなく、それを軽くすすいでそこらの水たまりに浸けておく。あのまま乾いてしまったら、精液の臭いを落とすのが並大抵ではいかない。ついで自分も海パンを脱ぎ捨てると、リョウトはヴィレッタを抱き寄せ、深いキスの後その体を裏返した。

「ああ……リョウト…リョウト……っ!」
 準備はとっくに、充分すぎるほどにできている。背後からいきなり突き込まれても、文句など言うはずがない。力の入らない腕を岩について体を支え、支えきれない分はリョウトの腕にあずけて、歓喜の声を上げて待ちこがれた肉根を迎え入れる。獣の体勢で肉を割り開かれる悦びに全身がふるえる。ゆたかな胸を掴まれ、二度、三度と突き上げられると、いまだ少しも力を失わないペニスがリズムに合わせて大きく揺れる。
「りょうと、リョウ、おお、おぅっ、…………?」
 数回抽送したところでリョウトは動きを止め、ヴィレッタの体を引き寄せて、そのまま上体を起こした。幼児におしっこをさせるような、ひざの裏を抱え上げた両手とペニスでヴィレッタの全体重を支える格好である。局部が全開になった体勢を恥ずかしがりながらも、ヴィレッタに抵抗する力はない。ゆさ、ゆさ、と小刻みに動かして快感を絶やさないようにしつつ、リョウトはヴィレッタを乗せたまま、潮だまりの中に足を踏み入れてゆく。
「…………?」
 抱えたまま動くには、水中の方が楽だということだろうか。もう少し、あの体勢で突いてほしかったのだが……リョウトの行動の真意をつかめずにいるうちに、案外深いその潮だまりの中へ、二人とも腰まで沈んでしまった。ヴィレッタのペニスや腹にこびりついた白濁がわずかにはがれ、綿くずのようになって水中をただよう。
「んっ…………」
 その姿勢のまま、リョウトがふたたび動き始める。最初はゆっくり、しだいに激しく。甘く突き上げる刺激に、ささいな疑問などいつか溶けていき、もうろうと水の中で腰を振るヴィレッタの耳元で、そっとリョウトがささやいた。
「さっき、ここに毒クラゲがいるって言ったでしょ。クラゲはいないけど、別のものがいるんですよ」
「え………」
 その言葉が、終わるか終わらないかのうちに。
 得体の知れないものが、ヴィレッタの先端にからみついた。

「ひ………!?」
 まとわりつくような、吸い付くような。未知の感覚にヴィレッタの括約筋がきゅっとすぼまり、きつく締められたリョウトがうめき声を上げる。何だかわからないその感触はどんどん進んで来、ヴィレッタの根元までほぼ覆われたところで、リョウトが大きく腰を突き上げ、ヴィレッタの股間ごとそのものが水上に姿を現した。
「……!?」
 ヴィレッタが息を呑む。赤褐色に、ぐにゃぐにゃとうごめく不定形のそれは、いわゆる磯ダコと呼ばれる小型のタコであった。
 日本人のリョウトには馴染みのある生き物だが、ヴィレッタにはそうでない。欧米人が「デビルフィッシュ」と呼ぶ、異形の生物である。思わず身をよじった、その耳元へすかさずリョウトがささやく。
「タンパク質を食べにきたんですよ。ヴィレッタさんのが、おいしいから」
 タンパク質とは何をさすのか、考えるまでもない。二列の吸盤に覆われた八本の触肢が、敏感な場所を動き回っている。肉棒が痺れる。悪魔の名で呼ばれる不気味な軟体動物が、自分の一番敏感な場所にからみついている、その異様な背徳感がいつのまにか快楽に変わり、にゅるん、と裏筋を触肢が這い抜けると、うわずった声がのどから飛び出す。
 触手責め。妄想の中にしか存在しないと思っていた行為を、今実際に自分がされている。
「お……は、こんな、こんな……っ!」
「気持ちいいですか?」突き上げる腰を休めずに、リョウトがいじわるく言う。
「や、いやっ、きもっ、いヒっ、い゛ヒいぃぃっ……! こ、こんな、こんな、タコに、こんなのっ……!!」
 リョウトの腰使いにあわせて、ヴィレッタのペニスが水面を泳ぐ。動きが激しくなるのに呼応するように、タコの締め付けもきつくなり、根元をこえて秘裂のあたりまで絡みついてくる。
「お、おぅっ、おおおおっ、あ、あな、穴に、やわ、柔らかいのが、……ッ! リョウト、リョウトの、こんな、ほおお、おおおおおっ!!」
「でもね、タコの口って、鋭いくちばしなんですよ。貝の殻とか、かみ砕いちゃうそうですよ」
 言われたことを理解するのに、一瞬の間があった。
 理解して、気付いた。亀頭を、なにか硬いものがひっかいている。

「いッ…………」
 戦慄が。
 背骨を駆けのぼって脳にとどく間のどこかで、焼けつくような快楽にすり換えられた。
「ほ、お゛、…お゛お゛お゛お゛お゛っ!? お゛お゛、おおおおおっ、おっ、おっ、おおおうッ!?」
 腰が爆発する。からみついたタコを吹き飛ばさんばかりの勢いで肉が痙攣し、白いゲルが叩き出される。ちぎれるほどに締め上げられて、リョウトも限界を迎える。
「く……ヴィレッタさんっ……!」
「あ゛っ、熱ッ……!……!? た、食べてるッ! こ、こりこりって、カリカリって、か、硬くてとがったのが、わた、私のチンポかじって、ザーメン食べてるっ!!」
 あふれ出すたんぱく質を逃すまいと、タコは吸盤をフルに使ってヴィレッタの幹にしがみつく。その締め上げがなおさらポンプの脈動を加速させ、肉幹をべっとり覆った分厚いたんぱく質の層を、鋭いくちばしが動いて食べ尽くしていく。
 一方で子宮にはリョウトの精液がどんどんと注ぎ込まれ、ヴィレッタはなすすべもなく、ただリョウトの腕の中で括約筋をふるわせる。その、ふるえる後ろの穴に、リョウトがいきなり指を突っ込んだ。
「ほお゛…っ!?」
「チンポごと食べられないように、がんばって精液をとぎれさせないようにしないと、ね?」
 二本の指で肛門を押し広げるように、容赦なくえぐり回しつつ、さらに激しく腰をねじり動かす。一度の絶頂がまだ終わらないうちに、次の頂点が襲いかかってくる。
「あ、あおおおおっ!? そ、そんなっ! また、あ、お゛お゛お゛っお゛……!! ふっ、う……!? あ、また、また、お、ああああっ!? さっきのがまだっ、コリコリが、にゅるにゅるで、待って、待っほおおうっ!! おぅ、おう、もう、もう、……お、おおおお、そんな、またああぁああっ!? 駄目、そんな、続けてお、お゛お゛お゛っおおおおおうぅっ!!…………」



 結局、タコが満腹してヴィレッタから離れ、小さな潮だまりが白くにごってくるまで、それは続いた。
 もはや一人で歩くこともできないヴィレッタを抱っこして別の潮だまりへ移動し、後戯をかねて全身の精液を洗い流してやる。水着も洗って、着せ直そうとした時、ヴィレッタがぽつりとつぶやいた。
「……痛い」
「えっ!?」
 リョウトが顔色を失う。タコのくちばしで本当にどこか傷ついたのか。それとも、激しくしすぎたろうか。
「ご、ごめんなさい! その、どこがどう痛いですか!? 傷は……」
「……肌が」
 白い肌のところどころに、うす紅色のまだらができている。
 そうだ、そもそもヴィレッタの肌が弱いということから始まって、今の状況に到ったのではなかったか。この炎天下に、全裸で二時間以上も激しい運動をしていたのである。日焼け止めなど全部流れてしまっている。
「……すみませんッ!!」
 岩に頭をぶつけんばかりに恐縮するリョウトを見て、ヴィレッタは小さく笑った。やさしく手招きして、頬にかるく口づけをする。
「次にする時は、よくオイルを塗ってもらわなくちゃね。……今度は、全身に」
 甘く、熱いささやき。
 オイルでてらてらと濡れ光るヴィレッタの肢体を、自分の手で思うさま揉みこむ情景が瞬時に脳裏に出現し、リョウトが真っ赤になる。その思考をすべて読みとったように、ヴィレッタは微笑んでリョウトの胸板に裸の胸をあずけ、やさしく深いキスを交わした。
 それにしても、水着の中まで日焼けしていることを、どうやってごまかしたらいいだろう、と考えながら。


End

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