「では、この件については来週までに調書をお願いします。こちらで試験した時のログを送るので、参考にして下さい。はい、ではよろしく」
「シュバイツァー少尉、昨日お願いした見積もりなんですが」
「あ、それならけさ総務に提出しました」
「少尉、再来週の耐久試験についてちょっと」
「ごめんなさい、それは明日でいいですか?」
 応対の合間にも白い指が忙しくキーを叩き、振り向くたび肩にかかる綺麗な銀髪がしゃらり、しゃらりと揺れる。何通もの込み入った書類が、見とれるような速さで仕上げられていく。何度目かに受話器を置いて、息をついてコーヒーをすすった時、やわらかな時報が午後五時を告げた。と、待ちかねたように椅子を蹴って立ち上がる。
「すみません、今日はこれで失礼します」
 いつもなら、定時きっかりに席を立つような彼女ではない。それでも今日がどういう日か知っている上司は、苦笑して鷹揚に手を振った。

 一礼して部屋を出、はずむような足取りで小走りに駐車場へ向かう。角を曲がったところで急に現れた人影と衝突しかけ、慌てて身をかわした。その拍子に豊かな胸がゆさ、と揺れるのへ、相手は一瞬目を止めてから、
「ゼオラ、もう帰るの?」
すこし意外そうに眉を上げ、それからすぐに笑顔になる。
「そういえば今日だったね、アラドが戻ってくるの」
 ゼオラは決まり悪げに髪をいじり、すこし赤くなった顔で目の前の相手――ラトゥーニ少尉に微笑み返した。

 ゼオラ・シュバイツァー少尉、21歳。うなじの高さで切り揃えていた銀髪は背中にかかるほど伸び、ミニスカートはタイトスカートに変わり、勝ち気で真面目な少女は、誰もが振り返るほどの美人に成長した。今や押しも押されもせぬ、教導隊の中核メンバーの一人である。昔から豊かだったバストはその後もすくすくと育ち続け、去年とうとうラミアを抜いた。教導隊の巨乳美女ペアといえば軍内では有名で、そのために入隊希望する者もいるほどだが、ハードルは高い。かつては「キタムラ少佐ほどのベテランが女子供の世話をさせられている」などと揶揄されたこともある新生教導隊だが、今そんなことを言う者は誰もいない。
 経験を積み、キャリアが上がれば当然責任も増し、任される仕事も増えてくる。地球の反対側の深海底基地へ単身長期出張、などという必要だって出てくるのだ。
「二ヶ月も離れてたの、初めてだものね。さびしかったでしょ」
「べ、別にさびしくないわよ。……そんなには」
 もちろん、さびしいのである。ゼオラの部屋のカレンダーの、アラドの帰国予定日には大きく丸がつけてあり、出発したその日から日付が一日ずつ塗りつぶされているのをラトゥーニは知っている。建設途中の海底基地ゆえ通信環境は劣悪で、メールは送れるもののリアルタイム通信は週に二、三時間ていど。この数日はさびしさと待ち遠しさに耐えかね、特製のアラドぬいぐるみ(ガーネットに頼んで作ってもらった)を抱いてベッドの上をごろごろ転がり回った後でなければ眠れないという有様だ。
 そのアラドが帰国する日が、今日である。残業などしている場合ではないのだった。

「でも、前方不注意はよくない」
「……ごめん」
 ラトゥーニも今や娘盛りである。背丈はゼオラとほとんど変わらない。人差し指を立てて説教をたれるのへしおらしく頭を下げつつも、そわそわと落ち着かなげなゼオラの足元を見て、ラトゥーニはとうとう噴き出してしまった。
「それじゃ、いってらっしゃい。アラドによろしくね」

 エレカを飛ばして、空港に駆け込む。アラドが乗ってくる便の到着に間に合うかどうか、ぎりぎりという所だ。コンコースに走り込むと、ちょうどその便で着いたらしい旅客がぞろぞろと税関を抜けてきたところだった。息をはずませながら、アラドの姿を目で探す。トランクやボストンバッグを思い思いに抱えた旅行者達の中に、しかしアラドの姿はない。
 ロビーの隅から隅まで探し回り、Dコンでメールを読み返して時間が正しいことを確認し、それからまたロビーを見渡して目を凝らしても、やっぱりアラドはいない。
 何か不都合があって、帰国が遅れるのだろうか。でもそれなら、自分には知らせてくれるはずだ。連絡もできないくらいの、緊急事態が起きたのだろうか。もしかして、海底基地に事故が……。不安が急速にこみ上げてきて、立ちすくんでしまいそうになった時、
「よう、ゼオラ!」
 ぽん、と肩を叩かれて、振り返ると当たり前のように、アラドが微笑んでいた。
「待たせたか? 悪い悪い。実はさあ」
 ゼオラより頭一つ高い背丈、たくましい胸板と、少年の頃から変わらない柔らかなくせっ毛、そして何より変わらない笑顔。二ヶ月もの間、モニタ越しにしか見ることのできなかった笑顔。
 アラドが次の言葉を発する前に、ゼオラはその首に飛びつき、背中に腕を回して力いっぱい抱きしめ、胸一杯にアラドの匂いを吸い込んで、満足するまで離さなかった。

 なんでも飛行中に副操縦士が食あたりで倒れ、大型航空機の操縦資格を持つアラドは名乗り出て代わりを務めていたのだという。ロビーにいなかったのは、機長達と一緒に降りてきたためだった。
「あなたってほんとにトラブル体質ね……」
「なんだよー。今回のは俺が悪いわけじゃないぞ。むしろトラブルを解決したんじゃねえか」
「そういうのも含めて、トラブル体質っていうのよ」
 ハンドルを握るゼオラの顔は穏やかに微笑んでいる。細目に開けた窓から流れ込んでくる秋の夕べの冷気が心地いい。来た時と変わらない道なのに、窓外を流れる風景がなんだか素敵に思えて、アラドがいるだけでこんなにも違うものかと、ゼオラは今更ながら己の現金さに失笑した。
 赤信号で車を止め、隣を見る。教導隊に入って五年、自分もそれなりに大人になったつもりだが、アラドの成長ぶりは目を見張るほどだ。体格は一回りたくましくなり、顔立ちもぐっと男っぽくなった。模擬戦をしても、昔は十本のうち八本は楽勝だったのが、今では負け越すことも珍しくない。基地の若手パイロット達からは「気さくで頼りがいのある先輩」なんて慕われているというのだから、昔の落ちこぼれからは考えられない姿だ。
「何?」
「ううん、何でもない」
 二人の関係は、五年前とそれほど大きく変わってはいない。ただ二人とも大人に近づくにつれ、自分の本心を無意味にごまかしたり、照れくさがったりはしなくなった。その結果として、二人はごく当たり前に、一緒に暮らすようになった。
 結婚してはどうかと周りにそれとなく勧められており、本人達もむろん考えてはいるのだが、なんとなく踏み切れないでいる。家族というものを本当には知らない自分達は、それに憧れつつもどこかで恐れているのかもしれない、とゼオラは考えている。もちろん、恋人という今の関係も十二分に幸せすぎて、まだまだその幸福を味わい尽くしていない、と思えるのも大きな理由なのだが。
「それじゃ、スーパーに寄って帰りましょ。ごはんはもう準備してあるから、果物を少しね」
「やりぃ!」

 アラドと同居することになって、最初にゼオラがしたのは料理学校に受講を申し込むことだった。ゆで卵さえ満足に作れなかった彼女だが、もともと頭はいいのだ。死にものぐるいで練習したこともあり、今では料理はゼオラの特技と言えるまでになっている。
「あー、食った! やっぱり、ゼオラの作るメシが一番だな」
 テーブル狭しと並んだ皿を残らず空にして、満足げに腹をさするアラドのこの言葉を聞くたび、
(お料理の練習してよかった……)
と、何度でもゼオラは思ってしまうのだ。
「トリトン基地って面白い所だけどさ、メシがまずいのだけはまいった。海の中なのに魚もあんまりいないし」
「深海なんだから当たり前よ。お腹減ったせいで仕事できなかったなんて言わないでしょうね」
「深海魚をつかまえて食べようって提案したことはあったよ。ディープシーリオンのパターン蓄積にもなって、丁度いいと思ったんだけどな」
「ばかね」
 デザートの焼きリンゴをつつき、紅茶を味わいながら、ゆるやかに時間が過ぎていく。やがてゼオラが立ち上がって、皿を片付け始める。アラドも立って手伝ううち、ふとしたはずみでゼオラの手の甲が、アラドのズボンの前に触れた。
「あ……」
 一呼吸の間、二人は奇妙な無表情になって見つめ合う。それから、どちらからともなく手を互いの腰にまわし、吸い込まれるように唇を合わせた。
 本当はもちろん、こんな風にするつもりはなかった。きちんと洗い物をすませて、アラドの荷物も片付けて、シャワーを浴びて、全部ちゃんとしてからにするつもりだった。
 けれど、我慢ができなかった。ズボンに触れた瞬間、アラドも我慢していることがわかってしまった。空港でアラドに抱きついた時に火が点いてしまって、それからずっと疼きをこらえていた自分と同じだということがわかってしまったのだ。
 もどかしく服を脱ぎ捨てて、ベッドへ転がり込むまでの間、二人の唇が二秒以上離れていたことはなかった。
「んっ………んっ…んっ…………」
「ぷは……んむ、ちゅ…………」
 生まれたままの姿になった二人は、お互いの肌に自分の体をなすりつけるように激しく抱きあいながら、長い長いキスを交わす。こぼれた唾液が顎をつたって首筋を下り、押しつぶされた乳房の間に入り込む。むっちりした白い太ももがアラドの腰にからみつき、もどかしげにうごめいている。
 お互いの唇、舌、口内を思う存分味わってから、二人はようやく唇を離した。口元は唾液でべっとりと濡れ、ゼオラの目尻にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「アラド……アラドぉ……」
 それ以外の言葉が出てこないまま、ゼオラはアラドの頬に、顎に、首筋に、胸板に、熱っぽく唇を這わせる。よく鍛えられた腹筋を舌でなぞると、アラドの汗の味がした。へその下まで来ると顔を上げ、触れなくてもわかるほど熱をはなつアラドのものに指をからめる。
「ん……」
 アラドが小さくうめき声を上げた。赤熱しているかのような赤黒い色をした剛棒は、すでに先端に透明なしずくを浮かせてピクン、ピクンと規則正しく脈動している。指先でゆるやかに愛撫を加えながら、ゼオラはしばらくうっとりとそれを眺め、それから先端にキスをした。
「んふ……んちゅっ…………」
 久しぶりに触れるアラドのペニスは、やっぱりアラドの味だった。キャンデーをしゃぶるように亀頭に何度も唇をかぶせていると、濃厚な味と匂いでだんだん頭が痺れていく。腰にぐっと力が入り、アラドに限界が近づいてきたことを覚ったゼオラは、いそいで唇を離した。射精寸前で愛撫を止められたペニスが不満げに震える。ゼオラとしてもこのまま口の中に出してほしい気持ちもあったが、やはり二ヶ月ぶりの最初の一撃は、一番奥で受け止めたい。
「ん…………」
 言葉にしなくとも、アラドもわかってくれたらしい。肩に手をかけられて、ころん、と素直にゼオラは仰向けになる。アラドの唇が鎖骨をなぞり、無骨な手が太もものあいだにすべり込んでいく。
「ふぅっ…………!!」
 アラドの指がそこに触れただけで、ゼオラは達しそうになった。ここで自分だけ達してしまっては意味がない。唇を噛んで、ゼオラを知り尽くした指がゆっくりと濡れた肉の中を愛撫していくのをこらえていたが、すぐに耐えきれなくなってアラドの肩にしがみついた。
 我慢できないのは、アラドも同じだった。ぐしょ濡れになった手をひっこめ、ゼオラの太ももを抱えて押し広げる。一瞬視線が絡みあった後、アラドがぐっと腰を沈めた。
「ひ……………………!!」
「ぐ………………っ!!」
 アラドが入ってきた、ほとんどその瞬間にゼオラは決壊していた。
 もう数え切れないほど何度もアラドのもので貫かれて、アラドの形に彫り抜かれてしまったその場所が、空白に耐えかねて泣いていたその場所が、今アラドでいっぱいに満たされている。体の中が喜びで痙攣しているのがわかる。嬉しくて切なくて、なんだかもう滅茶苦茶に泣き出したくなるのをこらえて、アラドの背中にぎゅっと手を回して深呼吸をする。アラドも、力強くゼオラを抱きしめ返す。久しぶりに一つにつながることが
できた、その喜びがじんわりと体中に染みわたっていくのを待つ。
 それから、アラドが腰を動かし始める。ゆっくりと引き抜かれると、離したくないとでもいうように、中が勝手にペニスに絡みついていく。突き込まれ、また引き抜かれ、そのたび中の肉がこすられて、目の奥に火花が散る。角度をつけてゼオラの弱いところを重点的にこすってくると、それだけで細かい絶頂が何度でもやってきて、気が遠くなりそうになるのを、アラドの舌をむさぼることで正気を保つ。汗ばんだ肌をぴったりと押しつけあって、
二人の下半身が一つに溶け合ってしまったような法悦の中、
「ゼオラ……悪い、俺もう…………!」
「うん、私も、私もだからアラド、早く、早く、わたあ゛ひ…………くぅぅぅぅぅううぅうぅぅううッ!!!」
 一番深くまでつながって、溜めに溜めた欲望を解き放つ。最奥の壁に、煮えたぎる奔流が叩きつけられる。ゼオラの視界が一瞬、真っ白に焼き切れた。そのまま失神しなかったのは、二ヶ月ぶりの一夜がわずか三十分足らずで終わってしまってはあまりにももったないという、その一心で歯を食いしばって意識をたもったからである。たっぷり三十秒近くも続いた射精の間、際限なく流し込まれる白い熱流にほとんど何も考えられず、ゼオラはただアラドの背中に爪を立てて全身をふるわせていた。
「…ゼオラ……っ」
「アラ、ド…………」
 長い長い絶頂が終わり、ようやくアラドが声を発した。顔が真っ赤に紅潮して、目のふちには涙がたまっている。大人になってもあまり変わらない、ぷにぷにと柔らかい頬にゼオラは手をそえ、そっと抱き寄せて口づけをした。言葉を交わさなくとも、次に何をしたいのか、お互いのつながった部分で理解していた。
 まだ、足りない。たった一回の交わりなどでは全然足りない。抱き合ったままベッドの上を半回転して、上になったゼオラが体を起こす。爆発的な射精の後でも、アラドのものは少しも萎えず、ゼオラの中でたぎり立っていた。
「ん…………ん……っ」
 白いむっちりした尻が、アラドの上でうごめき出す。はじめは前後にゆっくりと、やがて左右や回転の動きが加わり、しだいに大きく、激しく、アラドを絞り上げる淫らなダンスになっていく。
「んふ、ふぅっ、ふぅっ、ふぁ、アラド、アラド、アラドの、熱くて固いアラドのぉ……」
 汗ばんだ太ももの内側をアラドの手が這うと、たまらないようなむずがゆい快感がのぼってくる。ねっとりとこね回す動きに合わせて、アラドも腰を動かし始めると、たまらなくなってゼオラは腰を浮かせ、激しく尻を上下に跳ねさせる。
「あっ! あっ、あっ、アラド、あ、上がってきて、あ、ああ、あぅっ! なっ、波が、波が、私、アラド、気持ちいい、気持ちよくて、んきゅううぅぅうぅっ!」
 アラドが手を伸ばし、ぶるん、たぷんと盛大に揺れる二つの乳房を掴んだのだ。上半身にも快楽の電撃が生まれ、子宮の奥のあたりで二つの波がぶつかってスパークを起こす。
「んっ……んんひぃっ! そっ、そこは、そこ、アラド、アラド、好き、好き、好きぃぃぃっ…!」
 声が抑えられず、自分でも何を口走っているのかよくわからない。太ももが、尻が、腹筋が勝手にアラドのリズムに同調して、信じられないようないやらしい動きをしている。大きく股を広げ、髪を振り乱して、表情だってきっと、だらしなくなってしまっているに違いない。まるで全身がアラドのペニスという杭に支えられた、ぐにゃぐにゃした形のないものになってしまったようで、何十回目かの突き上げでゼオラは前にのめり、アラドの首にすがりついた。乳房がアラドの胸板にぺたり、と潰された感触があり、それだけでもすすり泣きが漏れてしまう。
「ゼオラ、行くぞ……ッ!」
「え、く……ふぁ、うはぁ、ふゃ、あー、あー、あ゛ーーーーーっ!!!」
 ふたたび、股間で爆発が起きた。勢いも濃さもまったく衰えていない熱い粘液が、膣の中をまっすぐに駆けのぼる。壁という壁、ひだというひだをどっぷりと浸して、ゼオラの理性を溶かし流していく。
「あ゛……アラろ……はラろぉ……………♪」
 ぐったりと全身をアラドに預け、唇をついばみながら、ろれつの回らない舌でゼオラが呟く。
 体を横向きにしてゼオラを下ろし、腰を引くと、注ぎ込まれた白濁がこぷ、とあふれ出た。膣口から子宮の中まで、いっぱいに満たされたような幸せな感覚にゼオラは浸る。
「あは……わたひぃ………アラろのミルクびんに、なっちゃったぁ……♪」
 アラドが、ごくりと唾をのんだ。

 アラドとゼオラは、セックスの相性においても最高のパートナーである。そのことに二人が気付いたのは、比較的最近の話だ。普通の恋人同士のセックスというものは、毎晩毎晩五回も六回も達したり、しまいに失神寸前になったりはしないのだということを、基地の女子職員達との雑談の中でゼオラは初めて知った。自分はひどい淫乱なのかもしれないと悩んだこともあったが、そのうちあまり気にしなくなった。実際ひとたびベッドに入れば
ほとんど例外なく、アラドが触りたい場所はゼオラが触られたい場所であり、ゼオラがして上げたいことはアラドがしてほしいことであったのだ。
「アラドの……アラドのぉ……」
 甘い痺れから回復して、体が動くようになると、今度はゼオラがアラドの股間にのしかかってゆく。精液と愛液でどろどろに濡れ、湯気を立てているペニスに、たっぷりとした二つの乳房を左右から押しかぶせる。しばらく、胸の中で脈動するアラドの感触をたのしんでから、両手を乳房にそえてゆっくりと上下にゆすり始める。精液と愛液のまざったものを潤滑油にして、柔らかなビーチボールのような乳房でもみくちゃにすると、アラドが大きく息をついて
腹筋に力が入るのがわかった。
 この数年、成長期をとっくに過ぎてもゼオラの胸だけが育ち続けたのは間違いなくアラドのせいである。好きな人に揉まれると大きくなる、というのは本当らしい。肩が凝りやすいのと、合う下着がなかなかないのが悩みだが、それ以外はおおむね気に入っている。特に、夜は。
「……アラドの、おっきくて、熱い……ぃ……アラドのおちんちんが、私のおっぱいに出たり、入ったりしてるよ……おちんちんに、おっぱい食べられちゃってる……♪」
 胸はゼオラの一番感じやすい部位でもあるが、こうして自分で動いている分には、ほどよい快感を味わいつつ、主導権を握ってアラドを十分に感じさせることができる。左右の動きのタイミングをずらしてみたり、強く押さえてしごき下ろしてみたり、長い髪をからみつかせてシャリシャリした感触を愉しんだりしていると、アラドの息が次第に荒くなり、ゼオラも我慢できなくなって、胸の谷間から現れたり消えたりしている赤黒い先端に、そっと舌を当てる。顔が映り込むほどぱんぱんに張った亀頭は、舌がしびれるような熱と味を持っている。
「アラド……アラドの、おちんちん……はぷ…熱、おいし……はぷ、むちゅ、んちゅ……」
 乳房を自分で押しつぶすようにして、喉まで深く剛直を呑み込む。舌をとがらせて鈴口を軽くほじる。どうすればアラドが気持ちいいか、どこが弱いか、唇と舌が全部覚えている。とぷとぷと先走りを溢れさせる亀頭を舌の上に乗せていると、だんだん頭がぼうっとしてきて、口の中が溶けてしまいそうになって、ゼオラは飽かずいつまでもアラドのペニスをしゃぶり続ける。
「アラド、アラド、あらどぉ……このおっぱいは、アラドのよ……? アラドだけのおっぱいなんだからぁ……」
 アラドの限界が近づいてくる。舌の感触でそれを察し、上目遣いにアラドの顔をうかがいながら、ゼオラはスパートをかける。胸の前で手を組み合わせて完全にアラドを包み込み、強く吸い上げながら舌で思いきり力を入れて亀頭を舐め回す。アラドはこれに弱いのだ。案の定、
「あ……く、ゼオラ、もう、っ……!」
「………………!!!」
 びゅるる、と熱したヨーグルトのような濃い塊が、ゼオラの喉奥に弾けた。目をつぶって口の中に神経を集中し、一滴もこぼさないように唇をすぼめる。二度、三度、ポンプのようなペニスの脈動に合わせて、苦い味のする粘液がゼオラの舌の上に叩きつけられる。その勢いと息の詰まるような牡の匂いを味わいながら、びくびくと震える亀頭に舌でやさしく愛撫を加え、絶頂を長引かせるのを忘れない。
 口の中をすっかり犯し尽くし、ゼオラの味覚が完全に麻痺した頃、ようやくアラドの三度目の 絶頂は鎮火した。あまりの勢いに唇の端から一筋こぼれた白濁が顎をつたっている。
「ん…………ん。ぷふぁ……」
 なだめるように柔らかく舌をからめながら、口の中の可愛いアラドをゆっくり引き抜く。唾液と精液でべっとりと濡れた肉幹から、むありと熱い湯気が立った。うっとりとそれを見つめ、口の中をたぷたぷに浸したアラドの精を味わう。上の口からも下の口からも、何度も何度も味わってきたアラドのミルク。アラドが私で気持ちよくなったことの証。絶頂の後の虚脱状態で、大きく肩で息をしているアラドの顔にちらりと目をやってから、喉元に指をそえて、
「ん……ん……………ん………………っ……!!」
 量と濃度がありすぎて、一度では飲み下せない。何度かに分けて、ごくり、こくり、と喉を動かす。強烈な味と匂いが食道を降りていき、その感触だけでゼオラは達していた。
「ぷはぁ……あ、あ、アラドの味ぃ…………わたし、私、お腹の中までアラド味にされちゃったぁ……♪」
 背筋をぞくぞくと駆けのぼるものがある。ぶる、ぶる、と腰が勝手に震えるのが止められない。アラドに愛される悦びと、もっともっと愛してほしいという欲求で、子宮も膣もおかしくなりそうだ。自分でも気付かないうちにこぼれていた涙を、アラドがぬぐってくれた。そのまま顔を寄せて、互いの舌をついばむやさしいキスをする。
 まだアラドは三回、ゼオラは四回(大きいのは)しか達していない。二ヶ月ぶりの一夜はまだまだ長い。まだ顔にも髪にもかけられていないし、乳首も責められていないし、袋をしゃぶってあげてもいないし、お尻だって弄られていないのだ。
「アラド……もっと、ちょうだい…? 待ってたんだから、さみしかったんだから、もっと、もっと、いっぱいして、わたしの体の中も、外も、アラドの味しかしないようにして?……」
 力強くゼオラを抱き寄せる腕が、その答えだった。うつぶせに組み伏せられ、背後から熱い肉をねじ込まれて、ゼオラは甘い悲鳴を上げた。



「ふわぁ〜〜あ…………」
「ちょっと、大あくびしないでよ! 恥ずかしいじゃない」
 ゼオラは小声で叱って、隣を歩くアラドの脇腹をこづいた。
「そんなこと言ったって、お前だって眠いだろ」
「だから恥ずかしいのっ! 周りにわかっちゃうでしょ、もう」
 駐車場から基地の建物へ続く、短い舗道を、二人は並んで足早に歩く。朝の空気が肺の中を冷やし、眠気を覚ましてくれるのがありがたい。
 結局、二人共に体力を使い果たして眠りに落ちたのは明け方だった。寝不足で目がしょぼしょぼするし、下半身がふらついて歩きにくい。おまけに、顔と言わず胸と言わず全身にアラドの白濁を浴びたまま眠ってしまったものだから、シャワーを浴びてもまだ肌がカピカピしている気がする。二人そろってこんな状態で出勤したら、カイ少佐に苦笑されてしまうだろう。
「なあ、ゼオラ」
 あくびをかみ殺し、手を握ったり開いたりして懸命に眠気を追い払いながら歩いていると、アラドが前を見たまま呟いた。
「俺達、子供ができたら結婚しないか?」
「何よ、急に」
 不意を突かれて、頬が真っ赤になる。おかげで眠気がとれた。アラドは真面目なような、にやけているような何とも言えない表情をして、心なしか大股にすたすた歩いている。
 アラドもゼオラも、生殖能力は常人より低い。スクールの強化処置の影響らしく、何度目かの医療チェックの際にそう宣告された。できないわけではない、とも言われたものの、実際過去数年間、まったく避妊をせずに愛し合い続けて、いまだに妊娠していない。二人が結婚に踏み切れない、もう一つの理由でもある。
「いやー、ゆうべのは当たった気がするんだ、俺」
「また根拠もなく……だいたい、当たるのは私よ。あなたは当てる方」
 呆れたように言いながらも、アラドの予感は根拠のないものほどよく当たるということをゼオラは知っている。手をそっとお腹のあたりに当てて、声に出さずに呟く。
(どうか、アラドの赤ちゃんを授かりますように)

 二つ並んだ人影が、寄り添うように短い舗道を歩き、建物の入り口でちょっと立ち止まる。二人の顔が近づいて、すぐ離れると、二人は小走りにドアの向こうへ消えていった。

 ゼオラ・シュバイツァーの名前が、ゼオラ・バランガと変わる、三ヶ月ほど前の秋の朝のことであった。


End

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