「あらためて見ると、ヴィレッタさんのパイロットスーツって胸元もエッチですね」
 突然、ヒカワ大尉がそんなことを言い出したので、ヴィレッタ・プリスケンは眉をひそめて胸元に手をやった。
「……何を言い出すの」
 昼下がりの極東支部。時間的には昼休みだが、昼食を手早く済ませた二人は隊長室で雑務を片づけている。午前中に出動があり、午後もすぐに訓練の予定があるヴィレッタは、パイロットスーツのままでデスクについていた。決済が必要な書類を持ってきたヒカワ大尉が、ふと机ごしにヴィレッタの方を覗き込むようにして発した言葉である。
 ヴィレッタの専用パイロットスーツは、胸元が大きく菱形に開いている。つま先から首元までぴったりと全身をつつんで体のラインを浮き出させた赤と黒のスーツに、白い胸の谷間だけが見えているというのは、確かになかなかきわどいデザインであると、我ながら思わないこともない。もともとは地球への潜入時にバルマー側で用意したもので、胸が開いているのも念動力の伝達向上とか、何かそんな理由があったはずだ。露出度でいえばハイレグタイプで肩もむき出しのアヤのスーツの方がはるかに上だが、実はヴィレッタのスーツ姿も極東支部内では一部に根強い支持者がいるのだと、以前に聞かされたことがある。
 別段そんな支持を受けたところで嬉しくもないが、パイロットスーツで基地内を歩くと胸元に集中する視線を感じることはある。中には露骨にいやらしい感情のこもったものもあるが、賞賛の一種だと考えればそれほど気にはならない。
 が、それはリョウト以外の男だからである。恋人に言われた場合は、これはまた違う。
「いや、今こう、この角度から見てたらしみじみと」
「馬鹿なことを言ってないで仕事に戻りなさい」
 棘のある言葉を返して、わざと素っ気なく書類に目を落とす。大体、リョウトはほとんど毎晩ベッドの中で自分の裸を見ているのだ。パイロットスーツだって、着たまま愛撫されたり、手ずから脱がされたことだってある。いまさら胸元がエッチもないものだ。
「何なの? 今更急に……」
 その辺が気になって、すごすごと自分のデスクに戻ったリョウトにふと訊いてみる。あらたまって尋ねられたリョウトがいくらか決まり悪そうに説明したところによれば、こうであった。

 そもそも、リョウトはいわゆる胸好きではない。もちろん嫌いでもないが、どちらかといえば尻の肉付きとか、腹部のやわらかな起伏とか、うなじから肩胛骨にかけての線などに女体の魅力を見出す方である。ことにヴィレッタの場合には、ぴっちりしたスーツに覆われた、すらりとしたふともものラインや、引き締まってなおかつむっちりと脂ののった尻まわり、何よりスーツの生地を張りつめさせて隆起する股間のペニスなど、下半身に魅力的なビジュアルが集中していたため、「ヴィレッタのパイロットスーツ」といえばその魅力の本質は下半身にあると、かたく信じていたのだが。
「大尉、最近こんなものが基地職員の間に出回っているようです」
 つい先日、ライディース中尉が複雑な顔をして提出してきた映像ディスクを見て、衝撃を受けた。
 それは何かの試験運転をする際に、コクピット内に設置されたカメラの記録映像で、ヴィレッタがテストパイロットを務めた際のものだったのだが、そこに映るヴィレッタの胸が、揺れていた。
 金属のカップに包まれた、巨乳というほどではないが充分に豊かな双丘が、マシンの激しい機動に合わせて上下に、左右にふるん、たぷんと揺れ動く。白い菱形にのぞく谷間も、そのたびに微妙に形を変える。そんなことには少しも気付かず、真剣な表情で操縦しているヴィレッタとのギャップが、いっそう艶めかしさをそそる。毎晩のようにヴィレッタの乳房を揉んだり舐めたりしているリョウトにとってさえ、それは充分に衝撃的な映像であった。ましてヴィレッタに憧れている基地の男性職員達にとってみれば、お宝映像として出回るのも無理はない。とりあえず、記録映像を横流しした整備員を突き止め、こっそり倍のノルマを課しておいたが、それ以来ヴィレッタのパイロットスーツの胸は、パイロットスーツの腰と同じくらい彼にとって気になる場所になったのである。

「男って……」
 リョウトの釈明を聞き終えたヴィレッタはこめかみに指を当て、つくづくと深いため息をついた。
「その記録映像、全部処分してくれたんでしょうね?」
「それはもちろん」
 試作機のコクピット内を映した記録だから当然軍機である。ことによったら軍法会議になる、と脅したら存外簡単に回収できた。集められた映像ディスクの数から推せば、じつに基地内の男性職員の二割近くに出回っていたらしい。

「…………」
 なおも冷たい視線を浴びせ続けるヴィレッタに、リョウトは返す言葉もなく小さくなって書類に顔を埋めている。
「……言っておくけど、さっき出動して着たままだから、汗をかいてるわよ?」
「!」
 ぴょこん、とリョウトの顔が上がった。まるで主人に呼ばれた犬のようで、ヴィレッタは思わず微笑んでしまう。
「見るだけなんて、貴方らしくないじゃない」
 キィ……と、椅子を引いて机から離れ、脚をそっと組んでみせる。リョウトが無言で立ち上がった。
 いいではないか。どうせ本来、今は昼休みだ。あとで少しばかり残業すればいいだけだ。すすす、と音もなくリョウトがそばに寄ってくる。顔はなんだか恐縮したような表情をつくっているが、目が本気だ。苦笑して、そっと手招きして許可を示すと、リョウトの顔がすっと沈んで、ヴィレッタの胸の谷間に埋まった。
「はぅ……!」
 あらわな谷間の内側の肌をぺろり、と舐められると、思わず声がもれた。
 わずかに汗のういた、むっちりと丸い丘陵のふもとを、リョウトの舌がそっと這っていく。舌が通ったところだけが、汗の代わりにリョウトの唾液で濡れて、ひんやりと冷える。
「あ……あっ」
 ヴィレッタの肌を知り尽くした舌が、ゆっくりと菱形の外縁をなぞる。パイロットスーツを着ているのに、首元まできっちりと着て、どこも脱がされてなどいないのに、素肌をじかに舐め回されている。そのことが奇妙な興奮を呼び、ヴィレッタをますます高ぶらせていく。
 リョウトは片手をヴィレッタの背中に回してささえ、もう片方の手で金属製の胸当てをそっと押し広げ、谷間のさらに奥へ舌を伸ばす。谷間の底、胸椎の部分を舌先でくすぐると、
「んんんっ…!」
 たまらないようにヴィレッタは身をよじった。
「も、もう……駄目…これ以上は…ッ!」
 さらに胸椎をのぼり、鎖骨を攻めようとする舌を、ヴィレッタは慌てて両手で引き剥がした。不満そうな顔をするリョウトを無視して、胸元をかくす。
 「着たまま」というシチュエーションの威力がこれほどとは思わなかった。これ以上されたら、谷間が開発されて性感帯になってしまう。そんなことになっては、二度とこのスーツを着て歩けないではないか。
 しかし、このままでは自分もリョウトも中途半端で欲求不満である。昼休みはもう残り少ない。夜まで我慢するか、適当な用事をつくって二人で外出するか、思案していたヴィレッタの視線がリョウトの股間にとまった途端、あることを思いついた。
「ねえ……このまま、胸でしてあげましょうか?」
 しなやかな指先を、そっと自分の胸元に当てる。金属製の胸当てごと胸を――ちょうど、テストパイロット時の記録映像のように――ゆさり、と揺らしてみせると、しばらく間があって、リョウトがごくり、と唾をのむ音が聞こえた。
 リョウトの股間はすでに臨戦態勢に入り、ジッパーを壊しかねない勢いでズボンの前を盛り上げている。手をさしのべてジッパーを下ろし、トランクスの前を開くと、熱をはなつ巨大なものがヴィレッタの眼前に現れた。
 貴重な数秒間を費やして、ヴィレッタはうっとりと恋人の牡の匂いを吸い込む。それから腰に手を回して引き寄せ、熱い肉根をゆっくりと、白い谷間に挟み込んだ。
「うっ……!」
 リョウトが、たまらず呻きを上げる。ヴィレッタの量感のある双丘が、赤黒く脈打つリョウトを包み、ゆっくりと上下する。やわらかくしっとりした、熱い肌が吸いつくように敏感な皮膚をこする。ふくらんだ先端が、白いあごの先のあたりを行ったり来たりするのを、ちろりと舌を出して舐めてやると、呻き声がいっそう高くなる。
 金属製の固いプロテクターに覆われた胸ではさむのだから、普通にする時のようにはいかない。どうしても動きが固く、単調になるが、パイロットスーツをぴしりと着こなしたままのヴィレッタに生で挟まれるというシチュエーションの魅力が、実際の刺激の物足りなさを補って余りあるスパイスとなっていた。「着たまま」の威力を、今度はリョウトが味わう番である。
「あぅ……あっ……」
「んっ……ん……んッ……」
 もとよりヴィレッタは焦らしたり、なぶったりといったことが――決して嫌いではないが――リョウトほどには得意でない。その上時間もあまりない。リョウトもへたに我慢したりせず、素直に愛撫を受け止めて、男のくせに妙に色っぽい声をもらす。じきに、絶頂の兆しをヴィレッタは感じとった。
「ん……」
「うぁ……!?」
 乳房を両側から押し上げるようにして、リョウトのものをより一層ふかく包み込む。舌をいっぱいに伸ばし、ねっとりと亀頭を舐める。すでに先端からはあふれるほどの先走りがこぼれ出し、リョウト自身とヴィレッタの谷間とをヌルヌルに濡らしていた。そして、それがいけなかったのだ。
「んふ、んっ…きゃあ!?」
 絶頂にいたる寸前、リョウトの腰がふるえ、そのために剛直の角度がわずかに変わった。それに気付かず、ぎゅっと押さえつけたヴィレッタがとどめとばかりに先端から根元へとしごき下ろした結果、リョウトの先端は谷間をこえ、そのままの勢いで菱形の上端――鎖骨から喉元にかけてを覆う、赤いパイロットスーツの中へと突っ込んでしまったのである。
「あぅっ、あ……!!」
「んあっ…あ、熱ッ……!?」
 そして、そのままリョウトは暴発した。ぴっちりしたスーツと肌との隙間に無理矢理入り込んだのである。そのきつさと、独特の感触が最後の引き金となった。
 どくん、どくんと、動力パイプのようにリョウトの太い幹が脈動し、ヴィレッタのスーツの下に白い欲望をぶちまけていく。体にぴったりと貼りつくタイトなスーツの中に、熱い粘液が広がっていく異様な、しかし奇妙に蠱惑的な感触に、ヴィレッタはしばし陶然となって、リョウトのものを胸で固定したまま動きを止めていた。
 しかし、リョウトがいいだけ欲望を吐き出し終えたころになると、さすがに正気を取り戻す。すぐ眼下でまだびくん、びくんと気持ちよさそうにふるえている肉棒を見、それからその持ち主を見上げた。
「…………ヒカワ大尉」
 二人きりの時に階級で呼ぶのは、心底怒っている場合である。リョウトは青ざめて腰を引いた。パイロットスーツと、リョウトの先端との間に粘りけのある白い糸が引かれる。白い菱形の谷間は、なお白い濁液で染め上げられていた。その菱形の外、スーツの内側にも自分の出したものがべっとりと染み広がっているのだ、と考えるとたまらなく淫猥だったが、さしあたってはそれどころではなく、ウェットティッシュを取り出して大急ぎでヴィレッタの胸元を拭く。
「まったく……」
 呆れた表情を作りつつも、ヴィレッタの声音もわずかに甘い。スーツの内側にぶちまけられた時、その感触だけでかるい絶頂を迎えてしまったのだ。おまけに、こうなれば午後はリョウトの精をじかに肌にまといつかせたまま、訓練をしなくてはならない。

 ちらり、と時計を見た。昼休みは、あと二分。
「ねえ……」
 外から見える部分だけどうにか拭き終えて、やれやれと額をぬぐったリョウトへ、かるく手招きをする。
「こっちの責任も……とってくれないかしら?」
 椅子を引いて、わずかに脚をひろげた。黒いスーツの下半身、両脚の付け根に、タイトな生地を痛いほど張りつめさせて、ヴィレッタの欲望が隆起している。すでに限界まで盛り上がったそれは、リョウトの愛撫を期待して、スーツ越しにでもわかるほどぴくり、ぴくりと脈を打っていた。
 リョウトが時計を見て、それからぺろりと唇をなめた。この顔は知っている。本気になった時の顔だ。
「まかせて下さい。二分で満足させてあげます」
 ゆっくりと屈み込み、リョウトはヴィレッタのスーツの腰の部分に顔を寄せた。


 リュウセイ・ダテは上機嫌だった。久々に、本当に久しぶりに模擬戦でヴィレッタ隊長に勝ったのだ。
「体調が悪かったんじゃないですか?」
 リュウセイへの揶揄をこめて、ライが問いかけるのへ
「そうだとしても、言い訳にはならないわ。勝ちは勝ちよ、おめでとうリュウセイ。約束通り、今日は私がおごるわ」
 いつもと寸分違わぬ涼やかな顔で皆をねぎらいつつ、すみっこで書類整理をしているヒカワ大尉をヴィレッタは気付かれないように睨む。
(半分はあなた持ちですからね)
(……はい)
 スーツの中にまとわりついた白濁液と、二分間で四回もイかされた腰のせいで調子が出せなかったなどと、口が裂けても言えるものではない。
(……パイロットスーツ、新調しようかしら)
 早速気に入りのレストランに予約を入れてはしゃいでいるリュウセイ達を眺めて、ヴィレッタは小さくため息をついた。


End

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