月影も届かぬ地の底。
とらわれの身となったソフィアは、石牢の中で横になっていた。
あたりに人はいない。
見張りは彼女が牢に入ってから3日目にどこかへ行った。
別の役目にまわされたのであろう。
あたりに響くは風の音と自分の寝息。
時折、天井から水滴が落ちる音が響く。
ソフィアは、なかなか寝付けなかった。
横になってどれくらいたった頃だろうか、風の音に別の音が混じった。
(誰か、来る)
ゆっくりと身体を起こし、鉄格子のほうを見つめる。
来訪者は、邪馬大王国の戦士、ミケーネの客将。ククルだった。

「まだ起きていたのか」
 かの女はそう言い、牢の鍵を開け、ベッドで身体を起こしているソフィアの横に腰を下ろした。
 あたりが暗いためか、どことなくいつもの勝気な様子が薄れて見える。
「…行くのですね。彼との決着をつけるために……」
 ぽつりと、ソフィアが言った。
「…私は、ゼンガー・ゾンボルトを倒し、再びここへ戻って来る」
 静かだが、しっかりとした口調で、ククルは答えた。
「その時こそ、人類の未来や希望が潰えることになるのだ」
「あなたはもう悟っているのではないですか?…自分の運命を……」
 びくりと、ソフィアの顔を見るククル。
「何を根拠にそんな事を…」
「…あなたの目を見れば分かります。それに、かつても私もそうでしたから…」
 ククルは何か言おうとしたが、開きかけた口を閉じ、下唇を噛みしめた。
 しばしの沈黙の後、口を開いたのはククルだった。
「私は負けん。お前達と同じように、私にも守らねばならぬものがある」
 彼女が遠い目をしているのを、ソフィアは見た。
「命を賭してでも、果たさねばならぬ使命がある。…後は勝負あるのみ…」
 ソフィアの返事はない。
「ふ……、お前にこんな話をするとはな。…どうかしているようだ」
 そう言って、ククルはソフィアに背を向けた。
「…私はあなたとこのような出会いをしたくなかった…」
 牢を出ようとした彼女に、ソフィアの声がかかった。
 ククルの動きが止まる。
「同じ時代に生まれ、出会っていれば…私達は良い友人同士になっていたかも知れません……」
「フフ…似たもの同士だから、か……」
笑ったククルの髪が、どこからか吹き込んだ風に揺れた。
暫し無言でお互いを見る。

「ソフィア、禊ぎをせぬか?」
唐突に、ククルが言った。「長らく身を清めていなかったであろう?」
運動する事もなく、汗が出ることもなかったので気にしていなかったが、言われてみれば、囚われの身となってから一度も身体を洗っていない。
「良いのですか?」
「構わぬ。そなたが逃げきれるほど、ここの警備は甘くはない」
軽く笑って、ククルは牢を出た。
少しためらった後で、ソフィアも後に続いたのだった。

二人は、洞窟の長い廊下を歩いた。壁にかけられた明かりに、細い影が踊る。
暫く歩いて行くと、視界の左に小さい、木でできたドアが現れた。
戸の前に立っているのは、警護の兵であろうか。
ククルが近づくと戸の前から退き、恭しく頭を下げた。
「夜も深い、もう下がってよいぞ」
「しかし……」
ククルの後ろにいるソフィアを見て、兵はいぶかしげな顔をしたが、急に納得したような顔になった。
「では、失礼します」
「ご苦労であった」
「ありがたきお言葉。では、失礼します」
再び一礼し、兵は去った。
「私の副官だ。邪魔大王国の者だが、よく尽くしてくれる」
ククルは袖から鍵束を出し、戸に差した。
「私などに仕えても、何にもならんだろうに」
耳障りな軋みとともに、戸が開(あ)いた。

その部屋は廊下とは違い、岩壁は四角に切り整えられている。
床は板葺きで、奥と右側の壁に引き戸が2つ。
部屋の右には背の低い箪笥(たんす)が置かれ、その前には布団が引かれている。
真ん中では囲炉裏がちろちろと小さき炎を上げている。
左の壁には祭壇らしき物があり、マガルガに似た像が奉られていた。
香の淡い甘い匂いが、疲れたからだに心地よい。
恐らくここは、ククルの私室なのだろう。
一国の王女の部屋と言うには、あまりにも質素だった。
「湯殿はその奥だ。服はここで脱いでゆけ。」
そう言って手桶を渡す。
「ククルは、入らないのですか?」
「もう済ませた」
そういって、ソフィアに背を向けて座った。

何なのだ、このもどかしさは。
両手を膝の上で握り締めて、ククルは自問した。
原因は分かっている。しかし、認めたくは無かった。
背中からは、衣擦れの音。
心の臓の音が高鳴るのがはっきりと分かった。
(おのれ、この私が人間如きと…)
下唇を噛んで、頭(かぶり)を振り、頭に浮かんだ光景を追い出そうとする。
「ククル…」
声を掛けられ、びくりと身体を動かしてククルは後悔した。
「な、なんだ?」振り向かずに返事をする。
狼狽を悟られまいとしたが、上ずった声になってしまった。
「タオルや、石鹸は無いのでしょうか」
「あ、ああ、そうだな…」
戸棚から糠袋と手拭いを取り出し、振り向いた。
目に入るソフィアの肉置きの良い乳房、ほっそりとした裸身。
顔が赤くなるのを感じて、少しうつむきながらソフィアに渡した。
「ククル、どうしたのですか?」
「どうもしておらぬ」
「そんなことはないでしょう、どこか具合でも悪いのですか?」
そういって、ククルの顔を覗き込んだ。
重なる視線。ククルは、顔をそむけようとしたが、出来なかった。
胸は早鐘のように踊り、締め付けられたように痛い。
湧き上がる感情を、抑えきることが出来なかった。

「では、身体を流してきますね」
そう言って、ソフィアは部屋を出て行った。
後に残されたククルは、憑き物が落ちたかのように床に座り込む。
側仕えの者から教えてもらい、ある程度のことは知っているが、よもやこのような形で活かす事になろうとは。
期待と不安が入り混じったような変な感覚。
ふと、指を唇に当ててみる。ソフィアの唇の生々しい感触が、まだ残っている。
胸の動悸が、おさまらない。
私はゼンガー・ゾンボルトの女を寝取るのか。
沸き起こる背徳感。ククルは、背筋がゾクリとするのを感じた。

「待たせましたね」
そう言って、ソフィアは出てきた。
ほどいた髪がわずかに胸の先端を隠すのみで、裸身。
豊かな胸の肉付きと、それを強調するかのようなくびれ。
濡れた髪が妙に艶やかに見え、ククルは思わず目線を外した。
「はじめましょうか」
そういって、ククルの前でしゃがみ、唇を重ねた。
先程ほど激しくない、ゆるめのディープキス。
申し訳程度におずおずと舌を絡めながら、ククルは帯を解かれたのに気づいた。
上着が腰までおろされ、次いで下帯まで解かれる。
舌を動かしながら、ソフィアはククルのかんざしを抜き、頭飾りを外し、
まとめて離れたところに置いた。行為の最中に壊すのを心配したのだろう。
目の前の潤んだ瞳を目を細めて見ながら、ソフィアはククルの髪の結いを解き、背中に手を回す。
そのままゆっくりと押し倒し、そっと唇を離した。

ソフィアは今、横になったククルをまたいで座っている状態だった。
蝋燭の陰影に、二人の陰影が揺らめく。
ククルの頬にかかっている髪をかきわけてやって、襦袢の胸を割った。
現れたるは二つのふくらみ。イルイはおろかアイビスにさえ及ばぬ大きさであったが。
「小さいのですね」
言われて、ククルの頬に紅が差す。ソフィアはそんなククルを見ながら、
「でも……きれいですよ」
桜の花弁のような色の乳首を指先でそっとなでる。
「うっ」
ククルがぴくりと身体をこわばらせる。
「敏感、なのですね」
両手で二つのふくらみを覆い、優しくゆっくりと揉む。
強い刺激は無いが、身体に熱っぽいものが溜まっていく。
手を少しずらして先端を軽くつままれた。
指先でほぐすように揉まれ、未知の感覚がククルを襲う。
「ああっ」
耐え切れず、声が出た。はしたない声に羞恥で耳まで赤くなる。
「恥じることはないのですよ、ククル。気持ちの良い事を気持ち良いと思うのは、自然なことなのですから」
優しく声をかけて、ソフィアはククルの左胸に唇をつけた。
もう片方の乳房を右手で触ったまま、軽く歯で加えたり、強く吸ったりしてやる。
「んっ、くっ、あっ」
舌が動くたびに体がはね、嬌声が口から漏れる。
ククルは、下半身がしたいにむずむずしてくるのを感じた。

「気持ち良いですか?」
そっと口を離して、ソフィアは聞いてみた。
「み、見れば分かるであろう! ……今にも天に上りそうな心地だ」
肩を上下させ、すっかり紅潮した顔でククルは答えた。
瞳は潤み、なめらかな肌には玉の汗が浮かぶ。
半脱ぎにした着物の裾は乱れている。
「よかった。本当のところ、気持ちよくして上げられる自信が無かったのです」
そういって、ククルの着物を完全に脱がした。
しなやかな脚の付け根、薄く淡いしげみをしばらく指に絡めた後でそっとかきわけ、秘められた部分へ手を添える。
「ひっ……」
「大丈夫ですよ。怖くありませんから……さ、脚を開いて下さい」
そういって、頬をなでてやる。
「ソフィア、あ、あの……そのだな」
上目遣いに、恥ずかしそうな小さな声。
「初めてだから…やさしくしてくれ」
そういって、そっと脚を開いた。

頬に軽くキスをして、ソフィアは人差し指を動かした。
「んあっ」
入り口の周りをゆっくりとなぞる。
熱きしずくが湧き出(い)で、今まで何者の進入を拒んできた、岩戸を潤す。
「ん、くぅ……」
気持ちはよいが、どこか物足りぬ。痒い所に手が届かぬようなじれったい感覚。
そんなククルの気持ちを読み取ったのか、ソフィアは人差し指で触れるのをやめて小さな突起をつまんだ。
ククルの体中を衝撃が駆け回る。
「あああっー!」
悲鳴に近い喘ぎ声を出しながら悶えるククルを見ながら、ソフィアは指先をつまみを動かすかのように動かす。
「んあっ、ああっ、あっ、ああっ」
突起を擦られる度に快感が大きくなっていく。
(そろそろ、良い頃ですね)
愛撫の手を止め、ククルの目を見る。
「挿れます、よ」
ククルが小さく頷くのを見て、ソフィアは人差し指をゆっくりと侵入させた。
「ひあっ……」
「痛くありませんか」
「うむ……」
話は言いから、早くしてくれといいたげな表情。
「動かしますよ」
ゆっくりと指を出し入れする。
「くっ、あっ、ひゃっ、やぁ……」
指が動くたびに、ククルの身体は反り返り、激しく頭を振って喘いだ。
ソフィアは指を少し曲げたり、強めに突いてみたりと変化をつけてくる。
そのたびに、ククルは新たな快感の波に飲まれるのだった。

いつの間にか、身体をソフィアの手に合わせて上下させていることに気づく。
(たまらぬ、我慢しようにもしきれぬ……ソフィアも、ゼンガーにこのようにしてもらったのだろうか……)
飽和状態の頭でふと思ったが、高まる快感がそんな思考をかき消す。
「んああっ!これ以上されたら壊れるっ」
髪は乱れ、息は荒く、瞳にはうっすらと涙が浮いているククル。
ソフィアは(大丈夫ですよ)とほほえみ、指の速度を上げた。
「ひあぁーっ!やんっ、やめっ、ひっ、くぁ、んぁっ、もうっ、だめっ、んっ、あぁっ」
指が、強く締め付けられる。
「ああっ――!」
ククルの身体が、二つ折りになりそうなくらい反り返った。
秘所から、透明なものが堰を切ったように溢れ出し、
ククルは自分の意識が遠のくのを感じた。

目がさめたとき、ククルは布団の中で寝ていた。
身体が布に触れている感触がある。
きっと、気絶している時にソフィアが着せてくれたのだ。
寝たまま横を向くと、服を来たソフィアが座っていた。
一緒に蒲団の中にいてくれたらよかったのに。
夢から覚めたような空しさが、胸を覆った。
「どれくらい、気を失っていた?」
「十分ほど、でしょうか」
「そうか……」
けだるさに満ちた体を起こす。
「そこにある鏡を、取ってくれぬか」
「これですか」
「そうだ」
渡してもらった鏡を覗き込む。中にうつるは、黄泉の巫女。
以前よりも頬の肉が落ち、目つきが厳しくなっているが、それでも鏡の中の顔はほほ笑んでいた。
「ソフィア・ネート、これを、預ける。わが国に伝わる神鏡だ」
「これは……大切な物なのでしょう、それを……」
「だから、お前に預けるのだ」
ククルは、真っ直ぐソフィアを見た。
心の中に、不思議な静けさが満ちていく。
(さだめを受け入れるか……それもよかろう。)
「勘違いするな。私は、それを取りに必ず……
                           (終)




おまけ

ソフィアとククルがチョメチョメしてたころ、大空魔竜のある部屋では…
「んあっ、ゼンガ−、前のゼンガ−のも、お尻のドリルも両方気持ちいいよお……」
「くうっ、イルイ、もう限界だ……」
「ああっ、お願い、なかでだしてぇ……」
20話後、怒りのメイガスと黄泉がえったククルの手によって地獄を見ることを、ゼンガ−はまだ知らない。

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