最終更新:ID:ulTObWMuNw 2023年05月04日(木) 23:46:29履歴
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雲一つない晴天の昼下がり。私、東宮遺は縁側で身体を休めていた。体力には自信があるのだけど、流石にゆりねちゃんと二時間ぶっ続けの打合いは応えた。といってもまだお互い続けられる余裕はあったのだけれど…
「ままー!みてみて、きれいないし!」
「わあほんと、綺麗ね。」
戦いの中断の原因となったのが彼女、白草誠さんである。打合いの最中、外で一緒に遊んでほしいと駆け寄ってくるものだから、時間的にキリもよかったので今日はここまでにして、彼女の遊びに付き合うことにしたのだ。(ゆりねちゃんは若干不満そうだったけど)
庭を駆け回る彼女を見ながら、あの日の戦いに思いを馳せる。全てを我が物にしようとしたアシュラ、そして最強の魔法少女。それらを辛うじて倒した私たちは、全てが戦いの前に回帰する事を願った。
しかし、全ては元通りにはならなかった。本来の世界との違いは二つ、私たち魔法少女だった人達の記憶と、白草誠さんである。
二つのステッキによる、肉体と魂の分裂。そのような異常事態のためか、彼女は世界が巻き戻っても「レガシー」の人格のままだった。私達全員の記憶が残った理由は全くもって分からないが、何も出来ない状態で彷徨っていた彼女を保護できたから結果オーライというやつだ。
その後、彼女をうちで保護するために両親と一悶着あったり、過去の犯罪歴についてまたもや一悶着あったりしたが、今はこうして日常を彼女と過ごす事ができている。
「…あれ、何処に行ったんだろ」
思い出に耽っていたら、気づけば見える範囲に誠さんがいなくなっていた。とは言え庭からは出てないと思うから、少し探せば見つかるだろう。
案の定、少し歩くと庭の隅あたりにかがみ込んでいるのを見つけた。
「何してるの?…──っ!」
「あ、まま」
…かがみこんだ彼女の手元に有ったのは、バラバラに引き裂かれたカマキリだった。
「みて、カマキリばらばら!」
「…うん、そうだね。」
一瞬ぎょっとして、ただ、子供には良くある話だと思い直す。知らないからこそ、無邪気だからこそ出来る、子供特有の残酷な行為。
ありふれた話だ。ゆっくりと命の価値だとか、倫理だとか、そういう事を教えてあげれば、やらなくなるような事だ。
──本当に、そうだろうか。
思わず脳裏をよぎったのは、あの日私の手で破壊した『刀』。かつて白草誠だった、悪意の成れの果て。
『虫を踏み躙るのって楽しいだろう?それと同じことさ。何も知らない哀れな弱者を、私の言葉ひとつでぐちゃぐちゃにするのは、この上なく楽しい。』
『だからまあ、皆んなが自由に騙して騙されて、なんて世界も面白いかなと思うんだ。』
…目の前の彼女は、あの悪意とは違う。今の彼女にあの悪辣な精神は残っていない、私がこの手で砕いたのだから。
だが、虫を引き裂いて喜ぶ今の姿は。幼く回帰した彼女も、あの悪意と同じ価値観に至るんじゃないか、なんて、思われてしまって──
「ふんっ!!!!!」
「まま!?」
余計な不安に駆られた自分を殴りつける。
何を考えている、東宮遺。過去を思い返しすぎてナイーブにでもなったか。
あの悪意と彼女は、違う。あんな、人を人と思わない化け物に、この人を成らせてたまるものか。
彼女は子供だ、善にも、悪にもなりうる。それを正しく導くのが、私の役目。
もし、彼女が同じ末路を辿ろうとするならば、殴り倒してでも私が止めてみせる。
「…それはいけない事ですよ、誠さん?」
「?」
ひとまず、彼女に命の価値だとか、倫理観を教えてみよう。果たして、うまく教えられるか分からないけれど。
(全く、子育てって大変だなあ。…なんちゃって)
その日、二人だけの、小さな青空教室が開校した。小さな母と、大きな子供。その行く末は誰にも分からない。
…が、少なくとも何処ぞの刀よりは、良い結末を迎えることだろう。
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雲一つない晴天の昼下がり。私、東宮遺は縁側で身体を休めていた。体力には自信があるのだけど、流石にゆりねちゃんと二時間ぶっ続けの打合いは応えた。といってもまだお互い続けられる余裕はあったのだけれど…
「ままー!みてみて、きれいないし!」
「わあほんと、綺麗ね。」
戦いの中断の原因となったのが彼女、白草誠さんである。打合いの最中、外で一緒に遊んでほしいと駆け寄ってくるものだから、時間的にキリもよかったので今日はここまでにして、彼女の遊びに付き合うことにしたのだ。(ゆりねちゃんは若干不満そうだったけど)
庭を駆け回る彼女を見ながら、あの日の戦いに思いを馳せる。全てを我が物にしようとしたアシュラ、そして最強の魔法少女。それらを辛うじて倒した私たちは、全てが戦いの前に回帰する事を願った。
しかし、全ては元通りにはならなかった。本来の世界との違いは二つ、私たち魔法少女だった人達の記憶と、白草誠さんである。
二つのステッキによる、肉体と魂の分裂。そのような異常事態のためか、彼女は世界が巻き戻っても「レガシー」の人格のままだった。私達全員の記憶が残った理由は全くもって分からないが、何も出来ない状態で彷徨っていた彼女を保護できたから結果オーライというやつだ。
その後、彼女をうちで保護するために両親と一悶着あったり、過去の犯罪歴についてまたもや一悶着あったりしたが、今はこうして日常を彼女と過ごす事ができている。
「…あれ、何処に行ったんだろ」
思い出に耽っていたら、気づけば見える範囲に誠さんがいなくなっていた。とは言え庭からは出てないと思うから、少し探せば見つかるだろう。
案の定、少し歩くと庭の隅あたりにかがみ込んでいるのを見つけた。
「何してるの?…──っ!」
「あ、まま」
…かがみこんだ彼女の手元に有ったのは、バラバラに引き裂かれたカマキリだった。
「みて、カマキリばらばら!」
「…うん、そうだね。」
一瞬ぎょっとして、ただ、子供には良くある話だと思い直す。知らないからこそ、無邪気だからこそ出来る、子供特有の残酷な行為。
ありふれた話だ。ゆっくりと命の価値だとか、倫理だとか、そういう事を教えてあげれば、やらなくなるような事だ。
──本当に、そうだろうか。
思わず脳裏をよぎったのは、あの日私の手で破壊した『刀』。かつて白草誠だった、悪意の成れの果て。
『虫を踏み躙るのって楽しいだろう?それと同じことさ。何も知らない哀れな弱者を、私の言葉ひとつでぐちゃぐちゃにするのは、この上なく楽しい。』
『だからまあ、皆んなが自由に騙して騙されて、なんて世界も面白いかなと思うんだ。』
…目の前の彼女は、あの悪意とは違う。今の彼女にあの悪辣な精神は残っていない、私がこの手で砕いたのだから。
だが、虫を引き裂いて喜ぶ今の姿は。幼く回帰した彼女も、あの悪意と同じ価値観に至るんじゃないか、なんて、思われてしまって──
「ふんっ!!!!!」
「まま!?」
余計な不安に駆られた自分を殴りつける。
何を考えている、東宮遺。過去を思い返しすぎてナイーブにでもなったか。
あの悪意と彼女は、違う。あんな、人を人と思わない化け物に、この人を成らせてたまるものか。
彼女は子供だ、善にも、悪にもなりうる。それを正しく導くのが、私の役目。
もし、彼女が同じ末路を辿ろうとするならば、殴り倒してでも私が止めてみせる。
「…それはいけない事ですよ、誠さん?」
「?」
ひとまず、彼女に命の価値だとか、倫理観を教えてみよう。果たして、うまく教えられるか分からないけれど。
(全く、子育てって大変だなあ。…なんちゃって)
その日、二人だけの、小さな青空教室が開校した。小さな母と、大きな子供。その行く末は誰にも分からない。
…が、少なくとも何処ぞの刀よりは、良い結末を迎えることだろう。
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