このwikiはあにまん掲示板の安価スレ『安価ダイスでエグい魔法を使う魔法少女同士が戦うやつ』(https://bbs.animanch.com/board/860594/)を始めとした一連のスレについてSSなどをまとめたwikiとなります。

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そこに、かつて「普通の街」だった面影はもはや無かった。戦争でも起こったように崩れ、荒れ果てた街の中心には、空を、地を、黒く照らす『太陽』が浮かんでいる。



それは怪物である。それは、少女だったなれ果てである。怒り、憎悪、嫉妬に狂い、全てを滅ぼす世界の敵へと変生したソレは、街のあらゆる命を喰らい尽くし、今はただ茫洋と浮かんでいる。



突如として空に現れた黒いナニカ、それの暴威は瞬く間に国中に伝わり、人々はパニックに陥った。

政府もこの事態を認識するが、どうしようもない。数多の命を己が物にした怪物に、あらゆる火器兵器は通用しなかった。今はまだ街に留まる『太陽』が外へとその手を伸ばした時、この国は終わる。そう誰もが確信していた。

対抗しうる魔法少女達は、とうに殲滅されていた。





だが、一人だけ生き残りがいた。黒い太陽の討伐戦に参加せず、一人生き延びた魔法少女が。





無人の街へと、足を踏み入れる者たちがいる。

それは異様な集団である。それは大衆である。老若男女、様々な人間が群れを成し、荒れ果てた街へと「行進」している。人々は例外なく興奮し、熱狂している。



その先頭を歩く人影を、黒い太陽を遠巻きに監視するドローンが捉える。

なんとそれは、日本中で知らぬ者など居ない有名人であった。



マイクを握り十字架を背負った女──魔法少女イデアは、真っ直ぐに黒い太陽を見つめていた。









不意に、低く鼓動するような音が響く。途端に空間の「圧」が増し、悪寒がする。

「黒い太陽」、その内にいる誰か。それがこちらを認識したのだと直感的に理解した。



「この辺りが限界かな?」

これ以上近づくとアレは攻撃をしてくる。そう判断し軍団を止める。

空から視線を外し、正面を改めて見据える。一面は『綺麗に』荒れ崩れ、至る所で地面は割れ瓦礫や木々が道を塞いでいる。まあこれは力押しでなんとかなるだろう。



だが、いくら魔法で身体能力が上がっていると言っても、最近までダンスレッスンぐらいしか運動をしてなかった自分には荷が重い。正直不安だ。本当に成功するだろうか。

それに、成功したとしても、そこに私が求めるモノがあるか──



「まあ、ここまで来た以上はやるしか無いよね。」

ひとつ深呼吸。

これから始まるのは一世一代の大勝負というやつだが、言ってしまえばステージは毎回そういう物だ。

いつもと違う所は、この勝負は失敗すれば何も成せずに死ぬって所かな。



じゃあ、行こうか。



「──では諸君、進め!!『英雄』の行進だ!!!」



──オオオオオオオオオオオオオ!!!!!!



咆哮のように勝鬨を響かせ、軍勢と共に駆け出す。目指すのはあの太陽、その中の「誰か」!!



「──────!」



怒声のような、悲鳴の様な音と共に、黒い球体から無数の黒い「手」が分散する。空を切り、空を駆け、そしてこちらへと迫る──!



「ギャッ」

「ガッ」

「オオオアア!」



無数の手が次々と「仲間」達を地に叩きつける。捕まった人間から放たれた苦悶の声は、すぐに遠のいて聞こえなくなる。

それでいい。元より、今共に駆ける彼らは「弾除け」だ。私への狙いを分散させるための壁。なんとも可哀想だし、出来れば『綺麗な』死に際を看取ってやりたいが、それは叶わない



駆ける。駆ける。駆ける。

伸ばされた手を躱し、時に「仲間」を盾にして、瓦礫を殴り壊し、折れた電柱を飛び越え、あの「黒」に近づいていく。

黒い手が腕を掠めた。僅かに「力」の様なものを持って行かれた感覚。

だが止まらない。あの影の中に辿り着くまでは、絶対に止まるわけには行かない。

駆ける、砕く、躱す、躱す、跳んで、駆ける、駆ける!!



(よし、ここまで来れば───ッ、来るか!)



「──────!」



不意に影が波打った次の瞬間、太陽から私へと無数の手が伸ばされる。10や20はくだらない、軽く動いた程度じゃ躱し切れない。

だが!!



「その動きは、読めていた!!」

足に力を込め、斜め後ろへ全力で跳びあがる。纏まって放たれた手は地面に突き刺さり、私は風を切りながら飛んで行き──背後の高層ビルの窓ガラスを突き破って着地する。



強化された身体能力による全力の跳躍。それによってビルの上層へ、黒い太陽が浮かぶより高い階へと一足飛びに突入した。限界まで近づいて大きな攻撃を引き出し、その隙に太陽が浮かぶ高度より上を取る、その勢いのまま直接「影」の大元へ突っ込んで攻撃をぶつける。それが、私が建てたプラン!



間髪入れずに窓へと駆け出す。チャンスは、影の手をまとめて伸ばしている今しかない。勢いのまま、窓の淵を蹴って空へ飛び出す───!!



私が飛んでくる方向へ、球体の影の表面に無数の手が浮かび上がり、こちらに構えられる。そうだろう、直接飛び込んでくるならそのまま掴んでしまおうとするだろうね!!



「いいとも、真っ向勝負と行こうじゃないか!!!」



黒い太陽が目前に迫る。無数の影の手がこちらへ向けられる。これが、最後の正念場だ。



「───おおおおりゃあああああああ!!!!!!!」

「──────!!」



無数の手が浮かぶ球の表面へ、ステッキを全身全霊で振り下ろす。私の、そしてこの場に連れてこなかった何万の「仲間」達の力を、すべての魔力をこの瞬間に!!



「ぐ、ッがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

魔力の衝突で黒い魔力が無数に迸る。

正面で受け止める手の脇から、私に手が掴みかかる。魔力か、生命力のような物が奪われるのが分かる。だが負けられない。ここまで来て、何も成せずに死ぬわけにはいかない───!!





「───ッ、あああああああああッッッ!!!!!!!」







─────



形容できない音と共に、影が裂けた。黒い球体が崩れ、ついに、内側の「ヒト」が見える。そこにいたのは、至って「普通」の女の子だった。



彼女は私に目を向けて。そして、目が、会った。



(──ああ、やっぱり。)



そこには、底知れない憎悪があった。それ以上の悲しみがあった。

膨大な負の感情、全てを破壊した人間に相応しい、黒い、黒い、どこまでも深く澱んだ、悍ましい「目」。それが私に向けられていた。

そうだ。その目だ。





その目を見るために、私は命を投げ出したんだ。





影が裂けたのは一瞬で、すぐさま私へと無数の影の手が殺到した。

命が終わる感覚がする。私の身体が死んでいく。

──おや、走馬灯が見える。昔は散々「人間じゃない」とか罵倒されたものだが、そんな私でも死ぬ時はちゃんと走馬灯を見るらしい。





私は、英雄になりたかった。幼い日から私には、世界の全ては『醜く』見えて仕方なかった。

だから私は英雄を切望した。世界を変えるヒト。私の世界を、『美しい』世界へと変えてくれる私の英雄。

だけど、そんな人はいないといつの間にか気づいた。だから自分で成る事にした。ずっとずっと、幼かった「あの日の私」の英雄になるために、私は生きてきた。



だが、思わぬ時に英雄は現れた。

それは黒く、巨大で、悍ましいまでに『美しかった』。まるで太陽のような黒い球体は、あらゆる生物を枯らすように殺していき、そうして『素晴らしい』景色を作り上げた。

あの日、死にゆく人々と滅びゆく街を見て、私は感動して泣いた。もう死んでもいいとさえ思った。だが、私は思い至った。



──こんな、この世の物とは思えない『美しい』光景を作り上げるヒトが居るとすれば、その人自身は、この光景よりも『美しい』のでは?



私は見てみたくなった。全てを枯らし尽くす、その暴威の根源を。そこに込められた感情を。どうせ皆んな死ぬというのなら、私の英雄の「目」を、最期に見て、死にたいと思った。



そう思ってからの行動は早かった。全速力で街を離脱して、何日もかけてとにかく「仲間」を増やして、限界まで身体能力を上げて、彼女に挑んだ。後の顛末は、見ての通りだ。





もう目も霞んでほとんど見えない。自分が空にいるのか、地面に居るのかもわからない。ただ視界は真っ暗なので、きっと彼女は、私の英雄は、目の前にいるんだろう。



私の英雄。



私の──英雄。



ああ、ああ。本当に貴方の目は。



「…きれい…だった、なぁ…。」





「────え?」



最期に、微かにか細い声を聞いて、私の意識は闇に溶けていった。











ただ静かに風が吹く、かつて街だった場所。もっとも激しく崩れた街の内側へと、歩みを進める男が一人。スーツを着こなし、帽子を深々と被った、何処か胡散臭いその男は、瓦礫すら残っていない破壊痕のもっとも激しい街の中心部で足を止めた。



そこには「二人」の死体があった。

一つは、枯れ枝のように朽ちた死体。

もう一つは、比較的綺麗な死体。その首にはくっきりと、握り締められた跡がある。

どちらも高所から落ちたのだろう。紅く染まった、見るも無惨な姿だ。



それらを確認した男は、釈然としない様子で呟き始める。

「まさか相討ちとはね。いや、相討ちとも言えないか。片方は普通に敗北し、片方は──自殺しただけの事だ。魔法少女抗争は、勝者無しで幕引きを迎えた。」



男は期待していた。嫉妬の魔法少女が全てを枯らし尽くすのを。

だが同時に、それが撃ち倒されることも望んでいた。身の丈に合わない嫉妬と絶望で身を焦がした少女が、怪物のまま討たれるなどという悲劇は、男の大いに好む所である。



しかし、結果はご覧の有り様だ。怪物に挑んだ魔法少女は悉く敗れ、最後に残った魔法少女は最後の最後まで自己満足のために突っ走って、なにやら満足して死んだ。

そして怪物は、何でもない一言で動揺した結果正気を取り戻し、己の所業に耐えられずに自死を選んだ。

なんとも形容し難い、締まりのない終わり方である。特に片方が、この上なく満足して死んでいるのがいただけない。



「嫉妬という物は、他者を自分より上に見るからこそ生じる。故に唐突な、素直な賞賛の言葉が、魔法少女ティックに正気を取り戻させてしまったか。」



「…次はもっと、上手くいくと良いがね。」



ひとしきり顛末に思いを馳せた男は、その言葉を最期に、その場の全てに興味を失ったように身を翻し、虹色の裂け目へと消えていった。



こうして、戦いは終わった。

あの街で起こった事は何だったのか。あの黒いバケモノは何だったのか。この世には科学だけでは分からない不思議な力が存在するのか。世界中が混乱し、情報は錯綜し続けた。



しかし、ただ一つ日本中に確かな事実として知れ渡った情報があった。

怪物は、ある一人の女性によって討たれたと。勇気ある人々を引き連れ、怪物に立ち向かった救世主がいたのだと。





彼女の名は、三輪久延子。

この国を救った『英雄』である。





END No.XXX「落陽、あるいは英雄の誕生」



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