このwikiはあにまん掲示板の安価スレ『安価ダイスでエグい魔法を使う魔法少女同士が戦うやつ』(https://bbs.animanch.com/board/860594/)を始めとした一連のスレについてSSなどをまとめたwikiとなります。

トップページに戻る
魔法少女一覧に戻る


Seesaa Wiki関連リンク


…「2年前行方不明になった憧れの親戚のお兄さんが幼女になってて今同じベッドで寝てる」。おそらく昨今の小説でも見かけないシチュエーションだと思う。大抵の事には動じない大学のカマトモ(オカマ友達の略)だってこんな状況を説明されたら困惑するだろう。

何故こんな事になっているかと言えば、事はちょっと複雑だ。明日は魔法少女イデアと私達との決戦の日なのだ。彼女は魔法の性質上、放置されるほどに強く、凶悪になっていく。だからこそ私達の戦力が十分になった今、全力で彼女を落とす方向で決定した。ここまではよかったのだけど…

「せっかくだからお泊まり会がしたい!!」
そうジーニアス…はるかちゃんが主張したのだ。トヨネちゃんや霊歌ちゃんは乗り気になっちゃったし、渋っていた幽歌ちゃんとおじさん……いや、レイさんも、はるかちゃんが明日の行動スケジュールを踏まえて理路整然とお泊まり会の利点をプレゼンしたことで認めざるを得なくなった。天然だけど頭は良いのがよく分かる一幕だったわ。

そうして木戸さん達のお家で急遽お泊まり会が始まり、木戸さん達は自分達の、トヨネちゃんとはるかちゃんは末の妹さんのベッドで寝て(危険なので妹さんは親戚に預けているらしい)、そしてアタシ達…桐原花恋とレイさんは、ご両親のベッドをお借りしているのが今の状況だ。

…改めてここまでを振り返ったので、いい加減現実に目を向けよう。目の前には小さな背中がある。かつて憧れた人の、大きな背中とは似ても似つかない、可憐で美しい背中だ。
獅子羽礼は、言うなればアタシの憧れの人だった。私なんかでは到底及ばない頭脳を持ち、多くの命を救った偉大な人だ。幼き日に見た彼の背中を、私はずっと追いかけて来たのだ。

彼、いや、彼女と話す機会は今しかないのだろう。それは分かっている。魔法少女レイは、願望を叶えることに妥協しない。この協力関係も、イデアと戦う間だけの一時的なものに過ぎない。だからこそ今、話すしかないのだけれど、それはそれとしてやっぱり、なかなか勇気が出せない。

「眠れないのか」
「っ!…起きていらしたんですね」
「君が寝たのを確認してから寝ようと思っていた」
「そうですか…」



沈黙が、痛い。ええい、うじうじして、アタシらしくもない、もう聞いてしまえ。

「あの、おじさん」
「何だ」
「…あ、怒らないんですか?」
「?何を」
「いえ、嫌いなのではないかと思いまして。この、呼び方は」
「今の俺はおじさんではないが、そう呼んでいいとかつて君に言った。ならば、わざわざ咎める必要はない」
「そう、ですか。…覚えているんですね」
それは三年前、最後におじさんに会った時だ。久しぶりに会った彼は「お兄さん」と呼ぶアタシに、「もうアラサーって歳だしおじさんって呼んでくれ」なんて、困ったように笑って言ったのだ。



いや、違う違う。ここで会話を終わらせたら駄目だ。聞きたかったことを…
「おじさん」
「何だ」
「貴方は、本当に獅子羽礼なのですか?」
「…」
「失礼な質問なのは分かっています。でも、どうしても聞いておきたかった。貴方は、本当に私が昔見た、おじさんなのかを」

かつての彼と、今の彼女は何もかも違う。だからどうしても、これだけは本人に確かめておきたかったのだ。

わずかに、沈黙。

「俺は、獅子羽礼だとも言える」
「…そうでないとも言えると?」
「そうだ。正直誰にも話すつもりは無かったが、…君になら話してもいいだろう」

一拍置いて、彼女は語り始めた。

「二年前、魔法少女になった時、獅子羽礼は魔法を得た。通常魔法は任意で発動するものが多いようだが、彼の場合は少し違った。」
「常時発動型、とでも言うべきか。魔法少女に変身している間、発動し続ける魔法だ。内容は身体強化、これは魔法少女としての肉体スペックをさらに引き上げる物だ。そしてもう一つ」
「精神を強化する物だ、これがなんとも曲者でな。こいつは魔法少女体でなくても発動し続ける魔法らしい」
「この魔法によって獅子羽礼は…端的に言えば、感情を失った。文字通りな」

背筋が冷たくなる感覚がした。感情を、失った?

「言うなればこの魔法は、鋼の肉体と鋼の心を与える物だ。それまでの獅子羽礼のあらゆる感情は失われ、抱いていた願望への渇望を止める物は無くなった。そうして今の俺が、魔法少女レイがいる」
「…だから、その、美少女に?」
「そうだ。ストッパーとなる感情が失われたからこそ、己の手で理想の肉体を作り上げる事を実行に移せた。」

「故に、確かに俺は獅子羽礼だ。だが、君の知る獅子羽礼は二年前に死に、ここに居るのは二年前に産まれた『レイ』だとも言える。そう言う事だ」

そういう、事だったんだ。頭の中でピースが嵌まる音がした。あの優しかったおじさんが、なんとも突拍子もない私利私欲に走った理由としては納得がいく説明だった。
ただ、それでも。

「それでも私は、貴方は獅子羽礼だと思います。」

そうだ、彼は死んでなんかいない。トヨネちゃんに抱きつかれた時のちょっと困ったような表情は昔のままだし、以前のアタシとの会話だって覚えてる。

それに、ちょっと希望的な推測だけど、おそらく彼は感情を失ってない。魔法の本当の効果は、目的達成のために感情を完全に無視できるとか、多分そんな感じだと思う。本人にとっては、それが感情を無くしてしまったように感じられるんだろう。アタシはそう信じる事にした。

「そうか」
「だから、私は貴方を止めてみせます。かつての貴方に憧れた、1人の人間として」

彼は、もう自分では止まれなくなってしまった。願望に立ちはだかる人を退け、殺して、何があっても止まらない。だったら、アタシが止めるべきだろう。少なくとも、私が知るおじさんはそれを望んでいるはずだ。

「俺は強いぞ?」
「知ってます。でも、私だって強いんですから」
「ではその時は、容赦なくお前を排除しよう」
ぶっきらぼうに彼が応える。でも言葉と裏腹に、彼は少しだけ嬉しそうに見えた。

「…話が長くなったな、そろそろ寝るといい」
「はい、おやすみなさい。おじさん」
「おやすみ、ドクタープリンセス」

そうして、ちょっと変わった決意を固めて、アタシは眠りについた。



…朝起きたら、おもいっきり彼を抱き枕にしてて、ちょっと気まずくなったのは内緒だ。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu

メニューサンプル1

メニューサンプル2

開くメニュー

閉じるメニュー

  • アイテム
  • アイテム
  • アイテム
【メニュー編集】

どなたでも編集できます