このwikiはあにまん掲示板の安価スレ『安価ダイスでエグい魔法を使う魔法少女同士が戦うやつ』(https://bbs.animanch.com/board/860594/)を始めとした一連のスレについてSSなどをまとめたwikiとなります。

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雛鳥は、初めて見たものを親と思って着いていくらしい。
ある意味で、私にとっての親は、彼女なのだろうと。
漠然と、思った事があった。


私は生まれつき壊れていた。持つべき多くを、持たずに産まれてきた。
情動がなかった。社会性がなかった。意欲がなかった。自我がなかった。

──本能だけが、あった。
生きろと。ただその声に突き動かされて、私は足掻いた。

私は必死に、目に映るモノに「成ろう」とした。模倣して馴染もうとした。
母を見て、父を見て、虫を見て、おもちゃを見て。そうしなければ生き残れないと──「本能」(わたし)が叫んでいた。
だが成れなかった。当然だ。赤子は大人になれない。女は男になれない。人は虫になれない。生き物は玩具になれない。

そうして足掻いていたある日──「彼女」に出会った。
私と同じ歳、私と同じ性、私と同じ種、私と同じ生き物。
私と同日に生まれたという彼女は、私の「お手本」になった。
彼女の家庭が裕福で育ちが良かったのは、思えば幸運だった。彼女を真似て笑った。彼女を真似て話した。そうすれば、みんな私へ笑った。私と話してくれた。私を助けてくれた。

彼女とも、親密でいた。礼儀正しく、物怖じせず、皆の先頭を行くのが彼女だった。私にもずっと親身でいてくれた。
私は彼女であり続けたし、その事に苦しさは無かった。双子のようだと、何度も言われた。
十何年、そうやって生きてきた。
彼女であり続ければ、社会に馴染んで生きていけると、そう確信していた。

それが破綻したのは、何でもない休日のお昼のことだった。
「お嬢さん、魔法少女に興味は御座いませんか?」
「はい?」
何でもない、何処にでもいるようなサラリーマンのような男性だった。強いて特徴を挙げるなら、なんだか雰囲気が胡散臭いような、それだけの人。

「お嬢さんは魔法少女になれるのですよ、このステッキを買っていただければ。お値段は、何と今だけ特価一万円!お安いでしょう?」
「…」
何も話せなかったのは、少し前の「彼女」との会話を思い出していたからだ。

「──魔法少女って、良いと思いません?先日、妹が話していましたの。強い力で、誰よりも自由に、人を救う少女。私、憧れてしまいますわ。──」

彼女なら、この機会を逃さない筈だ。
彼女は、魔法少女に成りたがる筈だ。
「例え偽物だとしても」彼女は手を伸ばすだろう。
ずっと彼女を見てきた私には、確信があった。
どうしてそう思えたのかは、自分でも分からなかった。

「…一万円ですか。」
「──ええ。たったの、一万円です。」


「おめでとうございます、貴方は魔法少女となりました。もう唯の人ではありません。貴方は力と、願望を叶える権利を得たのです。他の魔法少女を倒し、存分に己の願望を叶えて下さい。」
「…え」

もう唯の人ではないと、その言葉が私を刺した。
私は人ではなくなった。
私は、これまで生きていた世界からはみ出したのだと、今までの私が「馴染めない」世界に入ったのだと、この時理解した。

──本能(わたし)が叫ぶ。

生きなければならない。
馴染まなければならない。
「彼女」を真似て人に成ったように。
生きる為に、私は「魔法少女」に成らなければならない。
…だが、どこにも魔法少女の「お手本」がない。
私は、「魔法少女」が分からない。

何処までも続く暗闇に居る思いだった。
焦燥だけが私を満たした。
ステッキを握りしめて、彷徨って、彷徨って、やがて夜が来て。
そうして、路地裏で「彼女」と出会った。

「貴方…」
声も顔も、ずっと見てきた彼女だった。
その姿は、魔法少女のようだと思った。
非現実的な衣装を纏った人が、そこにいた。
瞬間、彼女も魔法少女に成ったのだと気づいた。

──本能(わたし)が叫ぶ。

彼女は「お手本」だ。
見なければならない。模倣しなければならない。魔法少女に、彼女に成らなければならない。
彼女と話そうとして、駆け寄ろうとして…
強い衝撃が、私を襲った。

視界が霞む。耳が痛い。頭を打ったのだろうか。

「…ずっと嫌いだったのよ。貴方が」
目の前に彼女が居る。
耳鳴りがする。言葉が聞き取れない。

「家族は!!ずっと!!!私を見てくれない!!!私を愛してくれない!!!!」
「ずっと理想を押しつけて!!!私の意志なんて何も聞かずに!!!怒るな泣くなって、礼儀正しくしろって、道具みたいに、私を!!!!!」
横たわった私に、彼女は馬乗りになっている。

「私がいつも、あいつらのために!!!苦しんで、理想になって!!!!頑張ってたのに、何も評価されないのに!!!!」
「貴方は、当然のように私みたいに振る舞ってた!!!!当然のように褒められてた!!!!私はこんなに苦しんでるのに、誰も褒めてくれないのに!!!!!!!」
苦しい。息ができない。何故?

「私は貴方が嫌いなのに!!!家族が憎いのに!!!!」
「誰も嫌わない貴方が嫌い、誰も憎まない貴方が憎い!!!!」
彼女が、私の首を絞めているのが見えた。

──本能(わたし)が叫ぶ。

生きろ。生きろ。
そのために、模倣しろ。
目の前の、彼女を。

「…だから全部壊すわ。私を苦しめる、この世界を」
なんで彼女は首を絞めている?
どうして私は殺されかけている?

「貴方を、殺すわ。他の魔法少女も、笑って殺すわ。そうして、皆が本当の姿を晒せる世界を作るの。皆がずっと笑って、怒って、争って、戦って、そんな世界で本当の私を、皆が見るの!」
耳が、聞こえ始めた。
声が聞こえる。
「彼女」を理解する。

「だから死んでちょうだい。私は、自由になりたいの」
─そして私は、「お手本」を理解した。

「ガッ、!?」
全力で彼女を蹴り飛ばし、息を吸う。
数回深呼吸して、ステッキを握りしめながら立ち上がる。

「ッ…、怒った、の?貴方でも怒ることが…っ!?」
怒ってはいない。
私は笑っている。笑って殺すのだと、彼女は言っていた。だから笑う。

殺すから、笑う。

「何これ、地面が、きゃっ!?」
地面に手を着き、一面を金属へ変換する。
彼女は転んだ。変換された金属に浸かった。
そうして、彼女の死は確定した。

「カハッ、?あ、あァぅ、あ、あ」
私は地面を水銀に変えた。深く、浸かるほど触れた彼女は中毒を起こして、間もなく死ぬ。私が殺す。
死にゆく彼女を、見つめる。
彼女がえづく。
彼女が何か言いかける。
彼女が倒れる。
彼女が震える。
彼女が震える。
彼女が震える。
私が震える。
彼女が震える。


そうして彼女は動かなくなった。
私は笑う、とても綺麗なものを見たように。
彼女はきっと、そうやって笑うから。
私が見てきた彼女は、よく笑う人だったから。

これから私は、魔法少女として生きていく。そして、他の魔法少女を殺さないといけない。
ならばここにいつまでもいる訳にはいかない。すぐに魔法少女を探して、殺さなければ。
そうして私は、「魔法少女ガーゼット」は夜の街へと駆け出す。皆が自由な、永遠に終わらない、闘争の世界のために。


少女が駆け出した後、地面に横たわる死体の傍。
地面に落ちた二つの雫の跡は
誰に見られる事もなく、乾いて消えていった。

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