無題八
最終更新：ID:ulTObWMuNw 2023年04月17日(月) 00:06:57履歴
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「……ねぇ、ほんとにやるのこれ？」
「？あったりまえじゃーん！もう夏だからね、夏！！」
────くそっ。こんなことになるなら初めからゲームの誘いになんて乗らなかったのに。
つい先刻、暇だったからと二つ返事ではるかの『ゲームやろーっ！』なんて唐突な願いを了承してしまった自分を恨みつつ、私は目の前のパソコンに表示されている画面を見た。そこには、大量の骸骨が吊るされている背景と、大きく表示されているおどろおどろしいフォントと色をしたタイトル。そう、ゲームはゲームでも、いわゆるホラゲーというやつだ。
私は昔から幽霊とかそういう類のものがあまり得意ではなく、酷い時は夜道の草木にすら怯えていた。霊歌に『こんなの怖くないよー』、なんて言われたのは恥ずかしくて今でも覚えている。
そんな怖がりな女がホラゲーなんてできるだろうか。いや無理に決まっている。
そして隣の天然探偵はといえば、案の定目をキラキラさせながらこの状況を楽しんでいるようだった。その表情からは恐怖心など微塵も感じられない。ああ、そんな顔をしてこのゲームを出来ることが少し妬ましい……。
「よしっ、始めよっか！」
スタートボタンを押すと同時に、薄暗い洋館らしき建物内が画面に映し出される。それと同時に聞こえてくる不気味な笑い声と物音が、私の恐怖心をさらに煽る。
「うっ……」
思わず声に出てしまうほどの恐怖感を感じつつも、とりあえず最初の部屋へと向かうことにした。一緒に遊ぶことを了承してしまったのは自分なのだから、今更引き返すこともできない。
部屋の中に入ると、入る前までは薄暗くも明かりが付いていた部屋が突然真っ暗になった。
「ひっ……！」
いわゆるちょっとしたびっくり演出というものなのだろうが、この暗闇は私にとってただの演出では済まされない。心臓が大きく跳ね上がり、息苦しささえ感じるほど呼吸が荒くなる。こんなゲーム早くやめて布団に篭ってしまいたい。
だが隣の探偵はというと────眉一つ動かしていなかった。
「……あんた、怖くないの？」
「ふっふっふ……だって私には��これ��がありますから」
そうウインクして、自分の眼を指差すはるか。
……そうか、こいつには未来視があった。だからこの後何が起きるのかが分かっていて、さっきから怖いと思うどころか逆にワクワクしているというわけか。
────というかそれって。
「ひ……卑怯よそれ！！あんた一人だけ怖いところ全部把握した上でプレイするつもり！？」
「ふっふっふー！だって怖がる幽歌の顔見たかったんだもーん！！」
……まさかこの探偵、元から私にだけ怖い思いをさせてそれを見て笑うつもりだったのか。
「こ…こんのぉ…！！」
「わちょっ、首絞めようとしないで！！悪かったって！ごめんってばー！！」
そうは言いながらも笑っているこのドクズに、私の怒りがさらに大きくなっていく。私は��普通��に怖いのに、どこまで行ってもこいつは��特別��だ。今までは本音をぶつけ合ったことで少しは彼女への嫉妬や憎悪はかなり薄まっていたが、まさかこんなに私の地雷ど真ん中を突き抜けてくるとは思わなかった。流石にもう許さん。
「今日という今日はもう許さない…！歯ァ食い縛れはるかァ！！」
「ちょちょちょ、暴力は本当にやばいって！たんまたんまー！！」
と、私が今にもはるかに殴りかかろうとしたその時。
『ウガァァァァァァッ！！！！！』
「きゃああああああっ！？」
「ぴゃああああああああああああああああああ！？！？！？」
突然画面に表示された巨大な醜い人の顔と大音量の叫び声に、私もはるかも驚いてその場にひっくり返ってしまう。
どうやらこれも驚かせるためのビックリ演出らしいのだが……あまりにも心臓に悪すぎる。
少し涙目になりながらも隣のはるかを見てみると。
「うぇ……ひっぐ……こわいぃ……」
……泣いている…？まさか今のは未来視できていなかったのか？というかさては未来視がなければ私以上に怖がりなんじゃないかこいつ。
とにかく尋常じゃないぐらい震えて泣きながら、頭を押さえてうずくまっているではないか。
それを見て、さっきまでの私の怒りが少しひけていくのを感じた。
「……今日はこれぐらいにしとく？」
「ひぐ……うん……」
誘ったのはあんただったはずなんだけど、というツッコミを胸の奥にしまいつつ、私もこれ以上プレイしたくなかったのでさっさとパソコンの電源を切ってしまった。
その夜、私はいつも通り一人で自分のベッドに入ったのだが……案の定眠れない。さっき大画面で見てしまったあの顔が目に焼き付いてしまって消えそうにない。
そんな時、こんこんっ、と部屋のドアが鳴る音がした。びくっ、として布団をかぶってしまいたくなる。
がちゃ、とゆっくりドアが開く音がして、おそるおそるそちらを見る。
────そこには、今にも泣きそうになっている寝衣姿のはるかがいた。
「な……何よ、こんな時間に」
少し強がって余裕そうに言うも、声が震えていることが自分でもわかった。
「幽歌……一緒に寝よ……」
……まさか怖いのかこいつも。
「……あんた、怖くて私と一緒に寝たいだけでしょ」
「……そうだけど」
「やっぱり」
図星だったようで、はるかは恥ずかしそうに俯いた。
……正直、普段なら断っていたかもしれない。しかし、自分も怖さでまともに眠れそうになかったのも事実だ。
「……いいよ、ほら」
そう言って自分のベッドにもう一人分のスペースを作ると、はるかはぱぁっと表情を明るくしてそこに飛び込んできた。
ふわっとシャンプーの良い香りが私の鼻腔に入ってきて、少しどきっとしてしまう。
「ねぇ幽歌、くっついてもいい？」
……これも、本来だったら怒って突き返すようなお願いだ。でも、今日だけは……。
「……ん」
深く考える前に、私は小さく首を縦に振ってしまっていた。それを見たはるかは心底嬉しそうな顔をすると、そのままぎゅっと私に抱きついてきた。
「えへへ〜♪」
すりすりと頬擦りしてくる彼女の体温を感じて、なぜか安心感のようなものを覚える。
「幽歌、あったかい……」
「そりゃどうも……」
なんだか照れ臭くなってしまって、私は思わず目をそらしてしまった。
それを知ってかしらずか、はるかは満足げに微笑むとすやすやと眠りについてしまった。
「……すぅ……すぅ……」
こう見るとこいつも��普通��の少女なんだな、と無防備で幸せそうな笑顔を見て思う。
「…………」
私は少しだけ躊躇いながらも、その小さな身体を抱き締め返した。
とくん、とくん、と互いの鼓動が聞こえる。
不思議と嫌じゃなくて、むしろ心地よくて。
このままずっとこうしていたいな、なんて思っているうちに、私もゆっくりと瞼が閉じていった。
その後、夜中にはるかが起きてきて『トイレ着いてきて』と言われたのはまた別の話。
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「……ねぇ、ほんとにやるのこれ？」
「？あったりまえじゃーん！もう夏だからね、夏！！」
────くそっ。こんなことになるなら初めからゲームの誘いになんて乗らなかったのに。
つい先刻、暇だったからと二つ返事ではるかの『ゲームやろーっ！』なんて唐突な願いを了承してしまった自分を恨みつつ、私は目の前のパソコンに表示されている画面を見た。そこには、大量の骸骨が吊るされている背景と、大きく表示されているおどろおどろしいフォントと色をしたタイトル。そう、ゲームはゲームでも、いわゆるホラゲーというやつだ。
私は昔から幽霊とかそういう類のものがあまり得意ではなく、酷い時は夜道の草木にすら怯えていた。霊歌に『こんなの怖くないよー』、なんて言われたのは恥ずかしくて今でも覚えている。
そんな怖がりな女がホラゲーなんてできるだろうか。いや無理に決まっている。
そして隣の天然探偵はといえば、案の定目をキラキラさせながらこの状況を楽しんでいるようだった。その表情からは恐怖心など微塵も感じられない。ああ、そんな顔をしてこのゲームを出来ることが少し妬ましい……。
「よしっ、始めよっか！」
スタートボタンを押すと同時に、薄暗い洋館らしき建物内が画面に映し出される。それと同時に聞こえてくる不気味な笑い声と物音が、私の恐怖心をさらに煽る。
「うっ……」
思わず声に出てしまうほどの恐怖感を感じつつも、とりあえず最初の部屋へと向かうことにした。一緒に遊ぶことを了承してしまったのは自分なのだから、今更引き返すこともできない。
部屋の中に入ると、入る前までは薄暗くも明かりが付いていた部屋が突然真っ暗になった。
「ひっ……！」
いわゆるちょっとしたびっくり演出というものなのだろうが、この暗闇は私にとってただの演出では済まされない。心臓が大きく跳ね上がり、息苦しささえ感じるほど呼吸が荒くなる。こんなゲーム早くやめて布団に篭ってしまいたい。
だが隣の探偵はというと────眉一つ動かしていなかった。
「……あんた、怖くないの？」
「ふっふっふ……だって私には��これ��がありますから」
そうウインクして、自分の眼を指差すはるか。
……そうか、こいつには未来視があった。だからこの後何が起きるのかが分かっていて、さっきから怖いと思うどころか逆にワクワクしているというわけか。
────というかそれって。
「ひ……卑怯よそれ！！あんた一人だけ怖いところ全部把握した上でプレイするつもり！？」
「ふっふっふー！だって怖がる幽歌の顔見たかったんだもーん！！」
……まさかこの探偵、元から私にだけ怖い思いをさせてそれを見て笑うつもりだったのか。
「こ…こんのぉ…！！」
「わちょっ、首絞めようとしないで！！悪かったって！ごめんってばー！！」
そうは言いながらも笑っているこのドクズに、私の怒りがさらに大きくなっていく。私は��普通��に怖いのに、どこまで行ってもこいつは��特別��だ。今までは本音をぶつけ合ったことで少しは彼女への嫉妬や憎悪はかなり薄まっていたが、まさかこんなに私の地雷ど真ん中を突き抜けてくるとは思わなかった。流石にもう許さん。
「今日という今日はもう許さない…！歯ァ食い縛れはるかァ！！」
「ちょちょちょ、暴力は本当にやばいって！たんまたんまー！！」
と、私が今にもはるかに殴りかかろうとしたその時。
『ウガァァァァァァッ！！！！！』
「きゃああああああっ！？」
「ぴゃああああああああああああああああああ！？！？！？」
突然画面に表示された巨大な醜い人の顔と大音量の叫び声に、私もはるかも驚いてその場にひっくり返ってしまう。
どうやらこれも驚かせるためのビックリ演出らしいのだが……あまりにも心臓に悪すぎる。
少し涙目になりながらも隣のはるかを見てみると。
「うぇ……ひっぐ……こわいぃ……」
……泣いている…？まさか今のは未来視できていなかったのか？というかさては未来視がなければ私以上に怖がりなんじゃないかこいつ。
とにかく尋常じゃないぐらい震えて泣きながら、頭を押さえてうずくまっているではないか。
それを見て、さっきまでの私の怒りが少しひけていくのを感じた。
「……今日はこれぐらいにしとく？」
「ひぐ……うん……」
誘ったのはあんただったはずなんだけど、というツッコミを胸の奥にしまいつつ、私もこれ以上プレイしたくなかったのでさっさとパソコンの電源を切ってしまった。
その夜、私はいつも通り一人で自分のベッドに入ったのだが……案の定眠れない。さっき大画面で見てしまったあの顔が目に焼き付いてしまって消えそうにない。
そんな時、こんこんっ、と部屋のドアが鳴る音がした。びくっ、として布団をかぶってしまいたくなる。
がちゃ、とゆっくりドアが開く音がして、おそるおそるそちらを見る。
────そこには、今にも泣きそうになっている寝衣姿のはるかがいた。
「な……何よ、こんな時間に」
少し強がって余裕そうに言うも、声が震えていることが自分でもわかった。
「幽歌……一緒に寝よ……」
……まさか怖いのかこいつも。
「……あんた、怖くて私と一緒に寝たいだけでしょ」
「……そうだけど」
「やっぱり」
図星だったようで、はるかは恥ずかしそうに俯いた。
……正直、普段なら断っていたかもしれない。しかし、自分も怖さでまともに眠れそうになかったのも事実だ。
「……いいよ、ほら」
そう言って自分のベッドにもう一人分のスペースを作ると、はるかはぱぁっと表情を明るくしてそこに飛び込んできた。
ふわっとシャンプーの良い香りが私の鼻腔に入ってきて、少しどきっとしてしまう。
「ねぇ幽歌、くっついてもいい？」
……これも、本来だったら怒って突き返すようなお願いだ。でも、今日だけは……。
「……ん」
深く考える前に、私は小さく首を縦に振ってしまっていた。それを見たはるかは心底嬉しそうな顔をすると、そのままぎゅっと私に抱きついてきた。
「えへへ〜♪」
すりすりと頬擦りしてくる彼女の体温を感じて、なぜか安心感のようなものを覚える。
「幽歌、あったかい……」
「そりゃどうも……」
なんだか照れ臭くなってしまって、私は思わず目をそらしてしまった。
それを知ってかしらずか、はるかは満足げに微笑むとすやすやと眠りについてしまった。
「……すぅ……すぅ……」
こう見るとこいつも��普通��の少女なんだな、と無防備で幸せそうな笑顔を見て思う。
「…………」
私は少しだけ躊躇いながらも、その小さな身体を抱き締め返した。
とくん、とくん、と互いの鼓動が聞こえる。
不思議と嫌じゃなくて、むしろ心地よくて。
このままずっとこうしていたいな、なんて思っているうちに、私もゆっくりと瞼が閉じていった。
その後、夜中にはるかが起きてきて『トイレ着いてきて』と言われたのはまた別の話。
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