俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。 サマナーズ・バトルロワイアルのまとめWikiです

 少年には、名前が無かった。
 持つべき名前を失った、名無しの戦士だった。

 少年もかつては、ごく一般的な人間として生きていた。
 愛犬の世話をし、友人と他愛もない会話を行い、母親の手料理を平らげる。
 そんな普通の生活を営み、そしてそんな生活をこよなく愛した男だった。

 だが、その平穏はある日を境に激変する。
 「悪魔召喚プログラム」と呼ばれるパンドラの箱が、少年の全てを変えてしまった。

 母親は悪魔に喰い殺された。
 故郷はICBMで廃墟と化した。
 幼馴染はゾンビとなっていた。
 道を違えた友人達は憎み合っていた。

 何もかもが、変わってしまった。
 目の前に広がるのは、悪魔が闊歩する地獄の様な世界だけ。
 少年が愛した平穏は、一片の欠片も残さず消滅していた。

 だが、地獄を目の当たりにしてもなお。
 戦いの果てに平穏が掴める筈だと、少年は信じ続けていた。
 神や悪魔の支配を受けない、人間が生み出す平穏な世界を夢見ていた。

 故に、少年は戦い続けた。
 人間の平穏は人間の手で掴むべきだ、と。
 その信条の元、人外達を容赦なく殺し尽くした。

 混沌を正義とする悪魔を殺した。
 スルトの四肢を捥いだ。
 アスタロトの頭を吹き飛ばした。
 アリオクの臓物を抉った。

 秩序を絶対とする天使を殺した。
 ウリエルの首を刎ねた
 ラファエルの心臓を穿った。
 ガブリエルの胴を断った。

 理想を追い求めて、ただひたすらに。
 斬って、撃って、殴って、殺し続けた。

 されど、運命の歯車は少年を嘲笑う。
 人々は彼の意に反し、神々の統治を望んだのだ。
 少年が思うほど人は強くなく、故に彼等は超常の指導者を望む。
 天より来たる神々を迎え入れ、出現するのはミレニアム。
 人類は天使への隷属を誓い、虚偽の繁栄を貪り始めたのだった。

 少年の戦いは、全て無駄に終わった。
 走り続けた先にあったのは、理想とは程遠いディストピア。
 流した血も、絶った絆も、奪った命も、何もかもが無意味だった。

 それでも、少年は剣を捨てなかった。
 戦場がコロシアムに、相手が人間に変わっても、彼は戦い続ける。
 さながら修羅の如く闘争を続け、挑みかかる人間をひたすらに殺していく。

 もう、少年には何も残っていなかった。
 故郷も、肉親も、親友も、恋人も、仲魔も、名前さえも。
 一つ残らず失った彼には、戦う理由など何処にもありはしない。
 しかし、全てを失った彼には、戦う以外の選択肢が残っていなかった。

 そんな少年を目にした人間達は、彼に一つの称号を託した。
 天使と悪魔を同時に相手取り、今も戦いを止めない悪鬼の様な男。
 それでも、彼が天使と敵対する悪魔を滅ぼした事に変わりは無い。
 世界革変の切っ掛けとなった少年には、まさに"英雄"の名が相応しい。

 "英雄(ザ・ヒーロー)"。
 それが、敗北者たる少年に与えられた称号だった。



□ ■ □


「僕は今までずっと戦ってきた」

 真夜中の公園のベンチに、ザ・ヒーローは腰かける。
 そして、誰に言われるまでも無く、自身が呼んだ悪魔向けてに語りだした。

 ザ・ヒーローが引き当てたのは、甲冑を身に纏った一人の戦士。
 赤く刺々しいその外観は、さながら竜を思わせる。
 兜で顔をすっぽり覆っているせいで、表情はまるで読み取れない。

「戦って、戦って、戦って……何の理由も無いのに、戦ってきたんだ。
 狭間偉出雄、だっけ。"優勝者には願いを叶えていい"なんて言ってたけど……僕には願いさえ分からないんだ」

 笑っちゃうだろと付け加え、ヒーローは自嘲する。
 戦い始めた理由なら、たしかにあった筈なのだ。
 だが、何時の間にか理由を何処かに置いてきてしまった。

 この殺し合いが願いの為の戦いならば、自分の抱える願いとは果たして何なのか。
 碌な理由もないまま闘争に身を委ねるのは、許されざる行為の様に思えてならなかった。

「……君にも何か、願いがあったのかな」

 悪魔として召喚しているが、戦士も元は一人の人間だ。
 他の人間達と同様に、彼もまた願いを抱いていた筈である。
 だから、そう考えたからこそ、ヒーローは一つの決断を下す。

「教えてくれないか、君が何者だったのかを」

 自分には願いが分からない。無いと言ってもいい。
 だが、目の前の寡黙な戦士には、何かしらの望みがあるに違いない。
 もしかしたら、彼の言葉が自分の願いを思い出すヒントになるかもしれない。

 戦士の剥き出しの威圧感が身を潜めていく。
 それは即ち、彼が会話に応じる気になったという事だ。

 顔を覆う兜の奥から、男の声が流れ出る。
 彼が語るのは、己の根源(ルーツ)であった。


□ ■ □


 戦士には、名前が無かった。
 持つべき真名を持たない、名無しの英雄だった。

 かろうじて、「ハンター」という肩書きなら持っている。
 依頼された場所に向かい、そこで屯する怪物を討伐する者達。
 戦士は、そんな狩猟者の一人として戦い続けてきた。

 その中でも、戦士は飛び抜けて優秀だった。
 手にした大剣は龍の翼を引き裂き、獣の角を切断する。
 無数の屍の山を築いた彼の戦いは、多くの同業者に広まっていった。

 曰く、まさしく狩りをする為に生まれた男。
 曰く、数十年に一人現れるかどうかの天才。
 曰く、龍との闘争を至上の喜びとする悪魔。

 良くも悪くも、戦士の逸話は周知のものとなっていく。
 だが、そんな事には目も暮れずに、彼は狩猟を続けていた。
 まるで戦わなければ死ぬと言わんばかりに、戦いに明け暮れていた。

 イャンクックの脚を断った。
 リオレウスの右眼を抉った。
 フルフルの翼を切り裂いた。
 ティガレックスの胴を両断した。

 やがて、戦士は強大な力を持つ古龍さえ打倒する。
 誰一人として倒せなかったその敵に、たった独りで勝利してしまった。
 それは紛れも無く偉業であり、その瞬間、彼は英雄の肩書きを得たのであった。

 英雄である彼の物語は形を変え、偉業として祀り上げられる。
 「あるハンターの伝説」として、戦士の逸話は歴史に刻まれた。

 歴史に刻まれたのは、逸話"だけ"だった。
 誰一人として、戦士の名前を歴史に刻めなかったからだ。

 ひどく寡黙なそのハンターの素性を、誰も知ろうとしなかったから。
 人々の記憶にあるのは、「名無しのハンター」の逸話だけとなる。
 英雄の名前を知る者は、世界にはもう一人として残されてはいなかった。

 そして戦士もまた、自分の名前を忘れてしまった。
 歴史からさえ名前が抹殺された今、彼が持つのは武器と技術のみ。

 もし、自分の願いを叶えられるとしたのなら。
 名無しのハンターが求めるのは、自分の名前だ。
 生まれて最初に授かった、自らの真名を取り戻したい。
 たったそれだけが、彼の願いだった。


□ ■ □


「そうだ」

 名も無い戦士の話を聞き終えた少年は、思い出したかの様に呟いた。
 いや、事実思い出したのだ――自分にもたしかに願いがあった事を。
 無意識の内に抱き、しかし闘争の最中に放り投げてしまった願いが。

「僕にも名前があったんだ。ヒーローなんて肩書きじゃない、母さんがくれた名前が」

 人間が生まれてから、最初に受け取る愛の形。
 それこそが"名前"であり、その人がその人たる証だ。
 奇しくも、彼等は二人とも自分の名を忘れていた。

「名前……僕は名前が欲しかったんだ」

 ヒーローにはもう、何も残ってない。
 かつて手にしたものを取り戻す事も、ましてや思い出す事さえ出来ない。
 だが、せめて最初に受け取った自分の"名前"だけは。
 時間が奪い取ってしまったその一つだけは、自分の手で奪い返したかった。

「ありがとう。これで、また戦える」

 黙したままの戦士に、言葉が届いたかは分からない。
 しかし、それでもヒーローは感謝を示さずにはいられなかった。
 彼がいなければ、自分は蹲ったままだったかもしれないのだから。

 これから、自分は幾つもの修羅場を通り抜けるのだろう。
 自分と同じ願いを持つ者と戦い、勝利し、そして殺していく。
 召喚された悪魔と共に、全ての願いに死を齎すのだ。
 止まる気はない。止まれたのなら、当の昔に止まれている。

 やる事は結局、元いた場所となんら変わりないのだ。
 賞品が願いの成就となっただけで、他にはほとんど同じに過ぎない。

 ただ、今のヒーローには隣に相棒がついている。
 それが数少ない違いの一つで、最も大きな違いだった。
 彼がこうして誰かと共に戦う事など、本当に久しぶりなのだから。

 名無しの戦士が――自分の仲間が隣にいる。
 ただそれだけで、何故だか酷く懐かしさを覚えてしまって。
 頬に一筋の涙が伝うのを、ヒーローは止められなかった。



【?????/1日目/朝】
【????(魔人"ザ・ヒーロー")@真・女神転生シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:COMP(かつて使用していた物と同一)
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考・状況]
基本:自分の名前を取り戻す。
[備考]
※なし。
[COMP]
1:無銘(ハンター)@モンスターハンターシリーズ
[種族]:英雄
[状態]:健康
[備考]
※リオレウス装備。

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