逃げられれば、どれだけ良かっただろうか。
都会独特の空気の重さ、立ち並ぶビル、隙間から差し込む太陽の光。
何度か来たことはある東京によく似た景色の街の一角に、一人の少女が座り込んでいる。
頭を抱え、小刻みに震え、目には涙を浮かべて蹲る。
しがない高校生である彼女、真鍋和にはそうすることしか出来なかった。
思い出せるのは、自分の家で眠りに就いた事。
鍵は閉めているし、特に違和感を感じることもなかった。
けれど、目が覚めてみればご覧の有り様。
学校の体育館のような場所で目を覚まして、服は何故か制服に着替えさせられていて。
一体ここがどこなのか、と理解する前に、同い年くらいの一人の男の子が現れて。
そして、にわかには信じがたい言葉が告げられた。
「――――君たちに、最後の一人になるまで殺し合いをして貰うためだ」
何を言っているんだろう、正直そう思った。
けれど、その意味はすぐに理解した、いや、させられる事になった。
アニメみたいな紫の炎が、一人の男の子を焼き払って。
それからけたたましい警告音の後に、一人の女の子の首が吹き飛んだ。
たったそれだけ、ほんの数分も無い間に、人間が二人死んだ。
「う、げえええっ……」
飛び散る赤、鉄と人の肉が焼ける匂い。
思い出してしまったそれらから来る、不快感。
拒否反応を起こす体は、胃液を逆流させ、喉へと到達させていく。
それを止められる訳もなく、地に蹲ったまま、和はそれを吐き出していく。
際限なく吐出される、透明な胃液。
それがようやく落ち着いた時、嫌にクリアな意識が、現実を認識させようと迫る。
「い、嫌……」
無心で手を伸ばしたのは、側に置かれていた袋。
助けを求めるように、中身を手当たりしだいに探っていく。
「ひっ……」
真っ先に現れたのは、黒く光る、冷たい、固形物。
映画でしか見たことのないそれを、和はよく知っている。
それは、銃。人の命を奪う、武器。
殺し合いを生き抜くための、力。
「う、うわ、わわ」
まるで汚いものを触ってしまったかのように、和はそれを投げ飛ばす。
何も見なかった、そう言い聞かせているかのように、袋を漁り続ける。
そして、和は袋からあるものを取り出す。
それはなんてことはない、普通のヘッドホンだった。
けれど、今の彼女には普通であることが何よりも有りがたかった。
ここには無い、これまで過ごしてきた、自分の日常。
それに近い物を、手に出来たのだから。
しかし、一つの大きな誤算があった。
和が縋るように身につけたヘッドホン。
それは、只のヘッドホンではなかった。
目を開けて、しっかりと見ていれば、気づけたかもしれない。
そのヘッドホンが、僅かな光を放っていたことに。
「べろべろばぁーーーーーーっ!!」
突如として、大声が響く。
心臓を吐き出してしまいそうなほど驚きながら、慌てて後ろを振り返る。
そこには、空のような色の髪をした、オッドアイの少女が立っていた。
ぷつん。
それをきっかけに、何かが切れる音が聞こえて、ふっと視界が白んでいった。
「やった! 大成功!!」
そんな彼女の事もつゆ知らず、呼び出された悪魔――――多々良小傘は、喜びに満ち溢れていた。
誰かを驚かせること、長らく成功していなかったそれに、久々に成功することが出来たからだ。
そして、久々の感覚を隅から隅まで味わうように、頬を抑えながら"食"べつくした。
「……………………ありゃ?」
自分が引き起こした事がきっかけの気まずさに気がつくのは、少し後の話である。
【?????/1日目/朝】
【真鍋和@けいおん!】
[状態]:気絶
[装備]:COMP(ヘッドホン型)
[道具]:基本支給品、拳銃(種類、残弾不明)
[思考・状況]
基本:?????
[COMP]
1:多々良小傘@東方Project
[種族]:怪異
[状態]:健康
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