俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。 サマナーズ・バトルロワイアルのまとめWikiです

 少女は震えていた。
 突然の意識消失からの急な覚醒。突然の人の死。一方的に告げられた殺し合いの布告。
 会場となる場所に投げ出され、たった1人で放置され、突然の事態の連続に呆然としていた頭が、次第に状況を整理し、飲み込み、理解して……
 あまりの理不尽さに、そしていろいろな恐怖に、少女は涙を堪え、声を押し殺し、小さく蹲って震えた。
 少女はヒーローに憧れていた。常日頃からその憧れを公言して、それに見劣りしない人間足らんと、日々の努力を怠らず、何より正義を重んじる心を大切にしていた。
 どのような理不尽や邪悪と対峙することになろうとも、決して屈せず、立ち向かおうと心に誓っていた。
 だが、しかし、まるで全然、それを行うには程遠かった。
 大勢の人間を浚い、一つ所の部屋に押し込め、見せしめに――まるで虫けらを潰すように――易々と人を殺しておいて、同じように死にたくなければ殺し合え、などと強要する。
 まるでお手本のような、これが特撮やアニメなら清々しいぐらいの巨悪だ。
 なのに、立ち向かえない。怖くて、怖くて、おそろしくて、立ち上がることはおろか、ヒーローの登場を切望することすらできない。
 恐怖で頭も、心も埋め尽くされ、どうすることもできない。あまりに震えが大きいものだから、支給された携帯電話型のCOMPが地面に落ちてしまった。
 その拍子に、悪魔召喚プログラムが作動し、少女が気付かぬ内に封じられていた悪魔が姿を現す。
 人の顔貌とは似ても似つかぬ、東洋の武人を思わせる鎧を纏った異形の悪魔が召喚され、恐怖に震える少女を見遣る。
 悪魔は少女を見るや、戸惑うこともせず手を伸ばし、抱きしめた。
「っ――!?」
 突然のことに、少女はびくりと体を震わせるが、悲鳴は上げない。いや、声が上手く出せず、異常な呼吸音が口から出るのみ。
 他方、悪魔は何も言わず、恐怖に怯え惑い、震えるばかりの少女を抱きしめた。
 顔が当たっている鎧は元より、頭や背に当てられている指先すらも固い。しかし、そこからは確かな温もりが感じられた。
 その悪魔の――否、侠の持つ優しさが、伝わってくるようで。
 抱き留められた懐は、深く、広く、ただただ大きい。
 まるで海に身を委ねたゆとうような――不思議な安心感があり、荒れていた心が自然と凪いでいく。



「ありがとう。お蔭で、ちょっと元気出たよ」
 5分ほどして、落ち着きを取り戻した少女は悪魔へと声を掛ける。
 これを聞いた悪魔はすぐに腕を解き、少女が自らの足で立ち、僅かに後ろへと離れるのを見守ってから、優しい声で返事をした。
「無理からぬことだ。こんな、異常な殺し合いなどに巻き込まれたとあっては……」
 少女を抱きしめていた悪魔は、手足に胴体に頭を有し、基本的な体のパーツこそ人間と同じだが、その外見は異形そのものだった。
 全体的に鋭角的で、なんと目さえも尖って角ばっている。顎の先には赤い突起があって、人間の口に当たる部分には「へ」の字のような穴?が縦に2つ並んでいる。
 明らかに人間ではないが、その一方で、どことなく少年漫画に出て来るロボットのような雰囲気があり、それらにも慣れ親しんでいる少女は、幸いにして悪魔の外見に悪印象を持たなかった。
「えーっと……あんたは悪魔、なんだよな?」
「アクマというのは、あくまで大雑把な総称だ。俺は姓を劉、名を備、字を玄徳という」
「りゅう、び、げんとく? ……えっ、あの三国志の!?」
 悪魔の自己紹介を聞いて、少女は思わず聞き返した。勉強の得意でない少女でも知っている、中国の歴史上の偉人と同じ名前だったのだ。もしもその当人となると、人類史が根底から覆されることになる。
「三国志……? 機賀、轟、翔の三国が林立したことと関係があるのか?」
 無論、そんなことは無く、劉備は三国志とは異なる国々の名を口にした。
「あれ? そんな名前の国だったっけ? それに、そもそも見た目からして全然違うし……」
「それはお互いさまさ。ところで、君の名は?」
「おっと、名乗りが遅れちゃったね。アタシは南条光! ヒーローが大好きで、夢はヒーロー番組の主題歌を歌うこと! そんな正義のアイドルなんだ!」
「正義、か。俺も同じく、正義を志す者だ。君のような主と巡り会えてよかったよ」
 少女――光の名乗りを聞いて、劉備は笑顔を浮かべた(変わったのは目の瞳部分だけだが)。
 しかし、光はたった今、自分で口にした“正義”という言葉に疑問と躊躇いを感じていた。
「……けど、口先ばっかだよ。あんな悪い奴がいるのに、アタシは……立ち向かおうとすることさえできなくて……! アタシは……アタシの正義は、無力なんだ……」
 テレビに映し出された、悪と戦うヒーローたちの姿に、幼い頃から憧れていた。
 それがドラマのような作られた番組だったと分かっても、それによって伝えられ育まれた自分の正義は本物だと、信じて疑わなかった。
 けれど、本物の大悪党が目の前に現れて、その脅威に晒されて、自分は動くことも、声を上げることもできなかった。
 現実は、正義を容易く蹂躙し、呑み込んでしまった。
 光が憧れたヒーローたちも、所詮は虚構の存在であり、作り物だったからこそ成立していた御伽噺のようなものでしかない。
 そう思うと、今度は恐怖とは違う無力感と虚無感が、光を襲った。
 その襲撃は、今度は早々に祓われた。少女の手を握る、固くとも温かい手から伝わるものが、それを成した。
「ならば、俺が力となろう。君の、正義の力に」
「アタシの、正義の……?」
「正義を志せども、力及ばず巨悪に嘆く者達の為に、俺はこの力を揮う。それこそが、我が正義の力」
 気付かぬ内に涙を浮かべていた光の目を、劉備の真っ直ぐで力強い目が射貫く。
 射貫かれたのは心、奮い立つのは正義。
 湧き上がる心は勇気、それをくれたのは劉備!
「ありがとう、劉備。お蔭で、アタシの正義は百人力さ!」
 光は漸く、名前に見合う持ち前の明るさを取り戻し、ちょっと乱暴だが劉備の手を振りほどいてから、がっちりと自分から握手をした。
「今後とも宜しく、光」
「うん! よろしくな、劉備!」
 正義のアイドルと、正義の龍帝。
 光り輝くまことの心の持ち主が出会い、歪な形ながらも、手を取り合った瞬間であった。

【?????/1日目/朝】
【南条光@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:COMP(ファイズフォン似の折り畳み式携帯電話)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:正義を信じて、悪を倒す
[備考]
[COMP]
1:劉備ガンダム@BB戦士三国伝
[種族]:人間(ガンダム族)
[状態]:健康

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