最終更新:ID:srTjewsaKA 2016年05月21日(土) 23:32:22履歴
「ど…どどど、どうすんだよ!?」
白鳥司は、パニックに陥っていた。
それも、当然と言えば当然だ。生命の危機などとはまるで無縁だった女子中学生にとっては、唐突に殺し合いと言われてもまず理解が追いつかない。
して当然の動揺を暫く続けるも、激しく呼吸を繰り返して息が切れるにつれ、徐々に冷静さを取り戻していく。
冷静になった彼女が次に思い当たったのは、魔神皇の残した言葉。
友となってくれる、悪魔─────そんな存在を封じた、COMPなるものが支給されたという。
「これ…かな?」
取り出したのは、何の変哲も無さそうなスマートフォン。
何やらソーシャルゲームのようなアイコンをタップし、画面の指示に従って操作をしていく。
同時に、出てきたのはアンケート。
名前や嗜好、それに交友関係などといった、どちらかというと彼女自身についての質問が続くことに疑問を覚えつつも、全ての項目を埋めて一番下にあった「召喚」ボタンを押す。
─────と同時に、画面が強く輝き始めた。
「うおっ!?」
思わぬ光景にCOMPを放り投げ、腰を抜かしながらもただ光るその画面を覗く。
数秒光を発し続けた後、画面から「何か」が飛び出した。
「ぽんっ!」
飛び出してきたのは、白と黒のツートンカラーで彩られたぬいぐるみのような生物。
鱗粉のようなものを撒き散らしながら、ソレは一頭身にも関わらず頭を下げたとよく分かるような仕草を見せる。
「どうもぽん!電脳妖精のファヴぽん、よろしく頼むぽん!」
「え…あ、おう!よろしく!」
どうやらこの「ぽん」というのが口癖なんだなあ、とかどうでもいい事を考えながらも、一応ちゃんと挨拶をする。
何がお気に召したのか、満足そうに頷くような動作を繰り返すファヴの姿を
「ええっと…悪魔っての、お前なのか?」
「そうぽん、白鳥司。この度晴れて君の相方になったんだぽん」
何処か自慢気に、或いは傲慢に語るファヴに少し気圧されつつも、「お、おう」と頷き返すという形で反応した。
「って、何で私の名前!?」
「そりゃ、さっきアンケート書いてもらったからに決まってるぽん」
ファヴの答えに、なるほど、と答える。
アンケートはその為だったのか─────しかしそれにしてはちょっと関係無い情報も入っていたような気もするけど─────なんて事を思いつつ、しかし、とファヴに視線を向ける。
気になったのは─────悪魔、もとい電脳妖精ファヴの、見るからに弱そうな姿。
実力行使ならば司でも勝てそうな存在。友にならまあなれなくもないだろうが、悪魔という響きから力になってくれるのではないかという期待は裏切られてしまったのだろうか。
しかし、その視線を察したファヴは、自信ありげに目(だと思しき部分)を瞑り
「その目、ファヴを信用していないみたいだけど…それは間違いぽん。
何故なら、ファヴはなんと………君を魔法少女にしてあげられるからだぽん!」
「へ?」
魔法少女。
突如飛び込んできたそんな言葉に、またも面食らう司。
対するファヴはノリノリであり、その身体を右に左にと動かしている。
「では、いくぽん!」
「え、ちょ、ちょっと待っ─────!」
司の叫びも虚しく、あまりに唐突にファヴの身体から光が発せられる。
それを浴びた司もまた、光に包まれ─────
─────何も変わらなかった。
「…ま、そんなバランスブレイカーみたいな事は流石に今は出来ないぽん」
「期待させといてそれかよ!?」
はあ、と肩を落とす司。
それを励ますように「まあまあ」ととりなしながら、改めてファヴは司と正面から向き合う。
「まあ、それはさておき…司はこれから、一体どうするんだぽん?」
─────話題逸らし、というだけでなく、必要な言葉でもあった。、
その言葉に、う、と言葉が詰まる。
そう、必要なのはこの殺し合いでどう動くかを考えること。
こんな言い方ということは、ファヴはそれに協力する、とそう言っているのだろうか。
「私、は…」
考える。
先程目にした、命が失われるその瞬間。
たった今置かれた、この状況。
たったそれだけの判断材料の中で、しかしただの女子中学生に過ぎない白鳥司は考えざるを得ず。
「とりあえず、人を殺したくはない…かな」
そうして、司が思い当たったのは、現代人としては当たり前の倫理観。
彼女が思い当たったその思考から、ゆっくりとさらなる目標が紐解かれる。
そうして、結局彼女が出したのは。
「頑張って元の…みんなのところに帰りたい、な」
それが、司の結論だった。
両親、弟の昴、そして─────親友二人の下へ。
思い浮かんだそれらの人々のところへと帰る─────ごく単純、そして純粋な考えだった。
「分かったぽん!そうと決まれば、ファヴが協力してやるぽん」
「そうだな、頑張ろう!……って言われても、お前何か出来るのか?」
共に声を掛け合ったところで、しかし司はファヴに対し頼りなさげな視線を送る。
先程のアレしかまだ能力を見せてもらっていないが、しかしこの小さな身体だと直接戦うなど以ての外。
一体全体何かの役に立つのか…という司の疑問に対し、ファヴはやはり何処か偉そうに言い放つ。
「舐めてもらっちゃ困るぽん。ファヴのレーダーなら、周りにいる人間を察知するくらい簡単だぽん。
ちょっと制限こそあるけど、数十メートルくらいならどんな動きをしてるやつがいるか分かるぽん」
「お、おお!」
想像以上に心強い機能を挙げられて、司の不安はすぐに払拭された。
危険人物らしき挙動をしている人間がいれば、ファヴのおかげで認識できる、という事か。
「よ、よし!よろしく頼むぞ、ファヴ!」
「了解だぽん、マスター!」
かくして。
少女と妖精は、ゆっくりと歩き始めた。
☆☆
─────チョロいものぽん。
電脳妖精・ファヴの、心の底からの言葉はそれだった。
何十人、何百人と少女を騙してきたファヴのノウハウを以てすれば、ただの少女、それも特別頭が回るような方でもない司を騙す事などいとも簡単。
この殺し合いの中で唯一頼れる存在として認識されたおかげか、或いは本来の召喚の行程においては存在しない急拵えのアンケートで得た情報のおかげか、いつもより一層取り入りやすくなっていた気すらしてくる。
─────そう、殺し合い。
これは、殺し合いだ。
血で血を洗い、命が命を奪う、醜くて低俗な催しだ。
人間が我が身恋しさに他人の命を奪い、蹴落とす。
(─────にしても、あのマスター以外に殺し合いなんて面白い事をやってのける輩がいるなんて、驚きぽん)
そして、生憎な事に。
重大なバグが紛れ込んだ上で形成されたファヴの精神は、そんな低俗で野蛮でクソみたいな事が大好きだった。
かつて森の音楽家クラムベリーと手を結び、『魔法の国』の試験という体裁だけを上手く繕って良く似た催しを何度も催した。
いや、良く似たどころかそっくりと言っても差し支えはないだろう。
『悪魔/魔法』という力を与え公平さを高めた上で、『殺し合い』という場に放り込む。
そっくりぽん、と心の中で思い、そこで思い当たる事が一つあった。
─────或いは、自らが与えた魔法によってクラムベリーと同じように、あの男も慢心しているかもしれない。
となれば、魔神皇とやらも、或いはオーバースペックな悪魔によって想定外の事が起きるかもしれない。
(─────まあ、そうなるようなら何とかコンタクトを取って、ちょーっとアドバイスくらいはしてもいいかもしれないぽん)
電脳妖精は伊達ではない。
COMPと言えどコンピュータの一種。そして電脳空間ならば、電脳妖精のホームグラウンドだ。
召喚プログラムに介入し、サマナーに呼び出される前に彼女の個人情報を抜き取るよう設定出来た事から、制限もそこまでキツくはない。
無論現状では、魔神皇はおろか他のCOMPとすら接触・干渉は出来なかったが、ゲームが進めばそれらもいずれ機会が来る。
(ま、それまではひとまず─────こいつで遊ぶ事にするぽん)
レーダーで敵を探すことが出来る、と言ったのは嘘ではない。
電脳妖精であり、かつバグの発生によりズバ抜けた自我を持つファヴにかかれば、如何に制限があれど数十メートル程なら生体反応をサーチする事はお茶の子さいさいだ。
しかし、ご親切にそれを教えてくれる義理は無い。
移動速度、進行方向などを考えた上でぶつかってもおかしくない相手には、適度に会わせてやるとしよう。
それだけではない。
偽の情報交換、精神への揺さぶり、電子情報の改竄、エトセトラエトセトラ─────実際の肉体が無くても、いや無いからこそ出来る事は決して少なくない。
全ては、欲望の赴くままに─────奔放に、貪欲に、快楽を求めて悪逆非道を幾らでも働いてやろう。
(いやはや、こりゃ楽しみぽん)
何処までも捻れたドス黒い妄想を膨らませて、白鳥の目を掻い潜った電脳妖精は小さく嗤った。
【?????/1日目/朝】
【白鳥司@ななしのアステリズム】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、確認済み支給品(1)
[思考・状況]
基本:とりあえず、頑張ってみる。
[COMP]
1:ファヴ@魔法少女育成計画
[状態]:健康
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