――それは、一匹の蜘蛛の物語。
彼は毎日、待ち続けていた。
ただ空腹を満たすために、巣に獲物が掛かるのを。
罠に掛かった全てを食べていた頃の彼はきっと。
後の悩みなど知らず、苦しむことなく生きていたのだろう。
腹が減ったから、獲物を喰う。
そこに何の不思議があるというのだろうか。
彼は腹を空かせた一匹の蜘蛛で。
蜘蛛とは獲物を狩るために巣をかけるものなのだから。
それが、一匹の蝶に一目で恋に落ちて、全てが変わった。
彼は毎日、待ち続けるようになった。
彼女がまた、露で光る自分の巣を綺麗だと笑ってくれるのを。
あの子に喜んでもらうために、彼は巣をかけるようになった。
昔のように罠に掛かった全てを食べていられれば、彼はきっと。
こんな悩みなど知らず、腹を満たすことが出来るのだろう。
だが彼は、あの美しい蝶が自分の巣に掛かってしまうことを恐れていた。
この恋を捨てて、あの子のための巣に獲物が掛かるのを願うことは出来ない。
ゆえに彼は、腹を空かせた一匹の蜘蛛だった。
――それは、巣に掛かる愛だけを食べていこうと誓った、一匹の蜘蛛の物語だ。
だから、自分がCOMPを介して“悪魔”として召喚されたのを知っても、蜘蛛は何も感じなかった。
ビルの谷間に八つの縦糸を掛け、その巣の真ん中にいつものように陣取って。
この街に“あの子”がいないことだけが幸いだと、ただそれだけに喜びを感じ。
同時に、彼女が美しいと褒めてくれた自分の巣で獲物を狩るのを、ひどく淋しく思っていた。
それでも、召喚された悪魔にとってそれは当然のことだと、理解してもいた。
言ってしまえば、結局のところ蜘蛛は、全てを諦めていたのだった。
【ぼくは“妖虫 ハングリースパイダー”……今後ともよろしく】
そう名乗るのが仲魔としての礼儀だと知っていたから、ただそれだけを理由に蜘蛛は口にした。
それから今更のように、自分を召喚した召喚者(サマナー)をその複眼で観察した。
その人間はまだ若かった。
片手に鏡の形をしたCOMPを持ち、反対の手には支給品なのだろうか、鉄パイプを下げていた。
その若者が困ったような顔で自分を見ているから、蜘蛛は自分の挨拶に不備があったかと考えた。
だが、若者が最初に発した言葉は、蜘蛛の予想の完全に外だった。
「何でそんなに悲しそうなんだ? せっかくの立派な巣に、涙の露がびっしりだ」
悲しそう? 悲しそうとは何だろう。
蜘蛛は今まで一度も、自分が“悲しそう”だなんて考えたことがなかった。
自分の恋のことで頭が一杯で、自分が他人からどう見えるかなんて想像したこともなかった。
虚を突かれて少しの間ぼんやりしていたが、我に返って蜘蛛は「それは変だ」と絞り出した。
蜘蛛は涙を流さないし、この巣にだって一滴も、露なんか付いてはいないじゃないか。
「いや泣いてるさ」と若者は言う。「そんな泣き顔を見たら悲しくなる」
まったく妙な人間だ。
仮に悪魔が悲しそうにしているとして、それが何故自分まで悲しいのだろう。
人間も悪魔も関係ない、俺はみんなに笑ってほしいんだ。
それだけが生き甲斐なんだと、若者はそう言った。
そんなことを言われたのは、生まれてこの方はじめてだ。
蜘蛛は生まれて初めて、あの美しい蝶以外の誰かに対して関心を持った。
だけどこういう時に交わす言葉など知らなかったから、ただ蜘蛛は召喚者に名を尋ねた。
すると若者は目に見えて顔を輝かせ、それから照れたように後ろ頭を掻いてから――。
「名乗るほど大した名じゃないが……誰かがこう呼ぶ“ラフ・メイカー”」
――悪魔(あんた)に笑顔を持ってきた。
召喚者の若者はそう言い蜘蛛に手を差し伸べて、泣きそうな顔で笑った。
【?????/1日目/朝】
【ラフ・メイカー@ラフ・メイカー(BUMP OF CHICKEN)】
[状態]:健康
[装備]:鉄パイプ
[道具]:基本支給品、手鏡型COMP
[所持マッカ]:三万
[思考・状況]
基本:「それだけが生き甲斐なんだ、笑わせないと帰れない」
[COMP]
1:ハングリースパイダー@Hungry Spider(槇原敬之)
[種族]:妖虫
[状態]:健康
※ハングリースパイダーの外見はPV内の紙芝居に登場する人型の蜘蛛の姿です。
彼は毎日、待ち続けていた。
ただ空腹を満たすために、巣に獲物が掛かるのを。
罠に掛かった全てを食べていた頃の彼はきっと。
後の悩みなど知らず、苦しむことなく生きていたのだろう。
腹が減ったから、獲物を喰う。
そこに何の不思議があるというのだろうか。
彼は腹を空かせた一匹の蜘蛛で。
蜘蛛とは獲物を狩るために巣をかけるものなのだから。
それが、一匹の蝶に一目で恋に落ちて、全てが変わった。
彼は毎日、待ち続けるようになった。
彼女がまた、露で光る自分の巣を綺麗だと笑ってくれるのを。
あの子に喜んでもらうために、彼は巣をかけるようになった。
昔のように罠に掛かった全てを食べていられれば、彼はきっと。
こんな悩みなど知らず、腹を満たすことが出来るのだろう。
だが彼は、あの美しい蝶が自分の巣に掛かってしまうことを恐れていた。
この恋を捨てて、あの子のための巣に獲物が掛かるのを願うことは出来ない。
ゆえに彼は、腹を空かせた一匹の蜘蛛だった。
――それは、巣に掛かる愛だけを食べていこうと誓った、一匹の蜘蛛の物語だ。
だから、自分がCOMPを介して“悪魔”として召喚されたのを知っても、蜘蛛は何も感じなかった。
ビルの谷間に八つの縦糸を掛け、その巣の真ん中にいつものように陣取って。
この街に“あの子”がいないことだけが幸いだと、ただそれだけに喜びを感じ。
同時に、彼女が美しいと褒めてくれた自分の巣で獲物を狩るのを、ひどく淋しく思っていた。
それでも、召喚された悪魔にとってそれは当然のことだと、理解してもいた。
言ってしまえば、結局のところ蜘蛛は、全てを諦めていたのだった。
【ぼくは“妖虫 ハングリースパイダー”……今後ともよろしく】
そう名乗るのが仲魔としての礼儀だと知っていたから、ただそれだけを理由に蜘蛛は口にした。
それから今更のように、自分を召喚した召喚者(サマナー)をその複眼で観察した。
その人間はまだ若かった。
片手に鏡の形をしたCOMPを持ち、反対の手には支給品なのだろうか、鉄パイプを下げていた。
その若者が困ったような顔で自分を見ているから、蜘蛛は自分の挨拶に不備があったかと考えた。
だが、若者が最初に発した言葉は、蜘蛛の予想の完全に外だった。
「何でそんなに悲しそうなんだ? せっかくの立派な巣に、涙の露がびっしりだ」
悲しそう? 悲しそうとは何だろう。
蜘蛛は今まで一度も、自分が“悲しそう”だなんて考えたことがなかった。
自分の恋のことで頭が一杯で、自分が他人からどう見えるかなんて想像したこともなかった。
虚を突かれて少しの間ぼんやりしていたが、我に返って蜘蛛は「それは変だ」と絞り出した。
蜘蛛は涙を流さないし、この巣にだって一滴も、露なんか付いてはいないじゃないか。
「いや泣いてるさ」と若者は言う。「そんな泣き顔を見たら悲しくなる」
まったく妙な人間だ。
仮に悪魔が悲しそうにしているとして、それが何故自分まで悲しいのだろう。
人間も悪魔も関係ない、俺はみんなに笑ってほしいんだ。
それだけが生き甲斐なんだと、若者はそう言った。
そんなことを言われたのは、生まれてこの方はじめてだ。
蜘蛛は生まれて初めて、あの美しい蝶以外の誰かに対して関心を持った。
だけどこういう時に交わす言葉など知らなかったから、ただ蜘蛛は召喚者に名を尋ねた。
すると若者は目に見えて顔を輝かせ、それから照れたように後ろ頭を掻いてから――。
「名乗るほど大した名じゃないが……誰かがこう呼ぶ“ラフ・メイカー”」
――悪魔(あんた)に笑顔を持ってきた。
召喚者の若者はそう言い蜘蛛に手を差し伸べて、泣きそうな顔で笑った。
【?????/1日目/朝】
【ラフ・メイカー@ラフ・メイカー(BUMP OF CHICKEN)】
[状態]:健康
[装備]:鉄パイプ
[道具]:基本支給品、手鏡型COMP
[所持マッカ]:三万
[思考・状況]
基本:「それだけが生き甲斐なんだ、笑わせないと帰れない」
[COMP]
1:ハングリースパイダー@Hungry Spider(槇原敬之)
[種族]:妖虫
[状態]:健康
※ハングリースパイダーの外見はPV内の紙芝居に登場する人型の蜘蛛の姿です。
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