「……魔神皇」
呟いたのは、一人の名前。
この殺し合いを開き、自分をここに招いた張本人。
彼は手から炎を放って一人を焼き、一人の首輪を爆発させ、命を奪った。
圧倒的強者。彼の立場を、嫌でも理解させられる。
今までのどんな敵よりも、強大で、恐ろしく、邪悪。
心底、反吐が出る。こんな不快感を味わうのは、初めてだ。
「ともかく、人殺しなんて真っ平御免よ」
頭を切り替え、状況を確認し始める。
首輪で命を握られているとはいえ、悪党に心を渡すほど性根は腐っていない。
絶望が襲ってきたとしても、挫けてはいけないことは、たくさん学んできた。
だから、この場所でも諦めず、立ち向かっていくことが重要なのだ。
「光と風は、ここにいなければ良いのだけど」
ぼそり、と友がこれに巻き込まれていないことを懸念しながら、少女は道具を一つ取り出す。
それは、腕輪のような代物。
訝しみながら腕にはめると、表面に無数の文字が浮かび上がったあとに「Welcome」と大きく表示される。
どうやら、これが魔神皇の言っていたCOMP、つまりコンピュータらしい。
近代科学も凄い進化を遂げているのだなと思いながら、淡々と操作を進める。
これに封じられているのは、"悪魔"。
言葉から想像できるのは、人々に害をなす存在。
到底自分に協力してくれるとは思えないが、手元に武器がない以上、戦力としてそれに頼るしかないのだ。
魔神皇の差金を使うことも気が引けるが、背に腹は変えられない。
ええい、ままよと心の中で叫びながら、少女は最後のボタンを押す。
「……お前が、オレのサマナーか」
腕輪から放たれた光が、何かの影を作った後、彼女の耳に聞こえたのは男の声であった。
血のように赤いマント、整った顔立ち、整えられた黒髪、そして、赤の鎧と一本の剣。
そう、現れたのはそんな"人間"であった。
けれど、少女はそれを"恐ろしい"と思った。
下手な怪物には到底出せない、強者の風格。
手にする物の為に手段は選ばない、そんな残忍さが垣間見える。
そして、彼女は困惑していた。
そんな恐ろしい男から感じていたのは、すべてを包み込む優しさと暖かさ。
例えるならば、"王"と呼ぶのが相応しいだろう。
掴みどころも隙もない、そんな存在を前に、少女はゆっくりと唾を飲み込んだ。
「お前がこの赤の王、朱理を呼び出したのかと聞いている」
少し、苛立った声で男は名乗りつつ、少女へと問いかける。
どくん、と心臓が跳ね上がる音を聞きながら、少女は男へ頷いて答える。
すると男は一歩前へと踏み込み、すっかり固まってしまっている少女の顎を、ゆっくりと撫でる。
「ふっ、いい目をしているな」
頭がどうにかなりそうだった。
悪魔と呼ばれる存在が秀麗な人間で、けれどその人間は恐ろしいほどの威圧感を持っていて、それから自分の顎を今掴んで持ち上げている。
一瞬に起こった出来事が多すぎて、頭がパンクしてしまう。
「この赤の王を呼ぶものよ、その名をオレに聞かせろ」
「……う、海。龍咲海よ」
すっかり混乱している頭を落ち着かせ、少女、海は男の問いかけにゆっくりと答える。
「ほう、海か。良い名だな。俺も海は好きだ」
男は海の顎から手を離し、にやりと微笑む。
それから一歩後ろへ下がり、両腕を大きく広げつつマントを靡かせて、彼女へと問いかける。
「さて問おう、お前は何を願う? 戦いの末に、その手に何を掴む?」
それがただの質問でないことは、すぐに分かった。
何かを探ろうとしている、ギラついた鋭い目。
すぐにでも抜刀し、首を刎ねることができる位置。
答えを間違えれば、どうなるかを考えるのは容易だ。
しかし、黙っていても、迎えるのは同じ結末。
心音が早くなるのを確かめながら、海は冷静に至高をまとめ、言葉として練り上げていく。
「……魔神皇を止める、殺し合いだなんてふざけたこと、私が止める」
まっすぐ前を向いて、詰まることなくはっきりと口に出す。
恐れてはいけない、弱みを見せてはいけない。
決めた心を前面に出しながら、海は綺麗にそう言い切った。
しばらく間を置いて、朱理はふっと笑う。
そして広げた手をたたみ、片手だけを海に突き付けて、笑いながら言い放つ。
「いいだろう。その話、オレも乗った」
そして、差し出された手を、海はゆっくりと握り返した。
青の騎士と赤の王。
二人の出会いは、ほんの一瞬で、とても長い時間だった。
【?????/1日目/朝】
【龍咲海@魔法騎士レイアース】
[状態]:健康
[装備]:COMP(型)
[道具]:基本支給品、不明支給品(武器ではない)
[思考・状況]
基本:魔神皇を止める
[COMP]
1:朱理@BASARA
[種族]:人間
[状態]:健康
コメントをかく