俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。 サマナーズ・バトルロワイアルのまとめWikiです

“──この世は舞台、人はみな役者”




クソ最低な出来事に遭ったな──心の中の悪態を表に出さないことには慣れていた。
衝動のままに動くのなら壁でもシャッターでも思い切り殴りたい心境だ。
けれどあんなこと──殺し合いだなんて提案された今の状況で、変に取り乱すのは馬鹿のやることだろう。
ヘマをしてただ死ぬのだけは心底嫌だ。死ぬわけにいくものか。
彼は銀色の頭を抱えて今までのことを思い出す。

……僕は数時間前に、警報の鳴り響く美術館から脱け出した。
ガラスケースに囚われた呪われし女王、【30ctの赤色金剛石】を見事攫い出して
──まぁセンサーに少し触れて防犯装置が作動してしまったが、上手く警備を撒けたから良しとする──
相棒のローランサンと祝いの葡萄酒を飲み交わしていたところ、突然あの空間に立っていた。

あまりにも不可解で苛立ちが募る。
シャッターを殴りつける代わりに彼は身を隠すよう路地裏に入り、背中を壁に預けると苛立ちをため息に変えて吐き出した。
まずは冷静にならなくてはならない。
とりあえずは自身の状態の把握だ、と彼は手荷物の確認を始める。すると彼は、ベストの左胸ポケットの中に何かが入っていることに気付いた。
「────っは、これがCOMPとかいうやつか」
馬鹿にされている気がしてならない。
入っていたのは数時間前に盗み出した宝石“ディアマン・ルージュ”……おそらくレプリカであろうが、彼女自身と見まごうほど美しく精巧な作りのもの。
首飾りの一パーツであったそれが、金細工に嵌め込まれブローチの形で彼の手の上にある。まるで彼に着けろと言うように。

「このディアマン・ルージュは通称【30ctの殺戮の女王】──レーヌ・ミシェルと呼ばれる『呪われし宝石』だ。
 その名は、彼女が彩った首を一つ残らず刈り取ったことから……今まで彼女を手に入れた12人の誰もが非業の死を遂げたことから名付けられた。
 これを語る意味がわかるか、ムシュウ。主催者はどうやら僕を13人目の所有者に仕立て上げたいらしい」

銀髪の彼が色違いの双眸で見上げると、そこには〈灰色の服の男〉が立っていた。
しかしはたして、立っていたと表現して良いのだろうか。
仔細を話せば──その男は見えない手足を古びたコートに通し、乗馬用のブーツを組んで空中に浮いていた。
血の流れていない蒼い顔。黒く落ち窪んだ眼窩には赤い瞳が浮かんでいる。
どこからどう見ても、誰もがそう認めるであろう“幽霊”。
赤い瞳と目が合うとぞわりと怖気がしたが、銀髪の男はこれも表情に出さず凛と〈灰色の服の男〉を見据えた。
〈灰色の服の男〉は、灰色の髪の中でにぃと唇を釣り上げた嫌な笑みをする。
「つれないねぇ、ミスター」
袖の先に浮く手袋でタバコをふかす。
ドルーリー・レーン劇場に住まう〈灰色の服の男〉。
なぜ貴族の格好をしているのか。劇場内に隠された白骨遺体の亡霊だという噂もあるが、彼について明らかなことはまだ見つかっていない。
ひとつ言えることが、“灰色の服の男が現れた演目は成功する”というジンクス。
恐れられるはずの幽霊が、劇場主催側から出現を願われるというなんとも滑稽な話である。
「不吉のミカエルから吉兆のゴーストを呼び出すなんて、天はどちらを御望みかわからないぜ?」
「天はどちらを御望みか……お前がもたらす吉兆は舞台の盛況だろう?それが喜劇か悲劇かは問われないだろう」
ゴーストの嫌な笑みに、男は皮肉の笑いを返す。
僕は操られるだけの役者だなんてまっぴらだ──とこぼして。
「おや、演劇は嫌いかい?オレと趣味が合わないな」
「いいや物語を読むのは好きだよ。それに──高尚なお嬢さんを口説くのに使える」
「ミスター、顔に違わず色男かい」
「別に女好きなわけじゃない。女はお喋りだから……
 ……ムシュウ、僕の異名を教えてやろう。【白馬に乗らざる王子】だ。
 侍女をすり抜け愛しの宝石に接吻する……それが僕の生きがいだ」


ゴーストは冷やかしの口笛を吹いた。犬が寄る、と銀髪の男は顔をしかめる。
口笛を吹いた口元は、今度は笑みをやめて冷ややかに喋る。
「……ひどい裏切り者だな」
「なに、夢を見せているだけさ。それに女はいささか乱暴な方がお好きらしい」
「そうして手に入れた女王もすぐに売るのだろう?愛してると口付けて、まさに虚飾の婚礼だな」
「生憎、生涯を捧げる女性はもう心に決めているんだ」
問答の隙間で耳に飛び込んだ言葉は意外なものであった。
己を閉ざしている冬のような青年からの熱烈な告白。面白いかもしれない、とゴーストは少しだけ調子を取り戻す。
「ふうん?ずいぶん骨抜きにされているんだな」
軽い調子に、銀髪の青年は幾分か顔に影を落とす。期待しているようなことじゃない、と否定した。
「……妹だよ……可愛いノエル。僕の大切な、たった一人の家族だ。彼女を結婚させるために、僕は金が必要で……
 ……葡萄酒の酔いが残ってるかな。無駄なことを言った」
彼は乱暴に言葉を切ったが、〈灰色の服の男〉は真剣な表情を見せる。
無駄なことか、とゴーストは言った。
「無駄なことか……いいや知りたい情報だ。ミスター、オマエの本質に少し共感するよ。家族は大切にするものさ」
唇を釣り上げたあの笑みではなく──ゴーストは先程までと違う寂しい笑みを見せる。
お前にも家族が居たのか、と男が問う。
いいや、手に入れたかったんだ。とゴーストは返した。

「望みが叶うなら、生きて帰って彼女に逢いたい、それだけだ」
男は赤色金剛石を手の中に包む。それなら、とゴーストは口を開く。
「ならばオマエが進む道は?」
「僕は盗賊だよ。ヘマせずこの檻から抜け出してみせればいいんだろう?」
男は不敵に笑み、手の中の赤色金剛石をリボンタイの真ん中へ納めた。ゴーストは生者の両眼をしっかりと捉え、ならば戦おうと宣言した。

──そして彼女が【殺戮の女王】かい?──と〈灰色の服の男〉は心中で問うた。
ゴーストにはそれが見えた──銀髪の男には女が憑いている。
まるで女優のように美しい女だ。
美人に好かれるだなんて羨ましい色男だな──オレは彼女はお断りしたいがな。
≪女優≫は背筋が凍るほど美しいが、関わってはいけないと本能が怯える「何か」があった。
男の肩に──いや首に、腕を巻き付けて宝石のような赤い笑みを浮かべる美しき≪女優≫。
オマエが彼を操ってみせるというのか?≪女優≫好みのシナリオに彼を配置して──

操られるだけの役者だなんてまっぴらだ?ずいぶんな皮肉だな。
≪女優≫の影が憑いているというのに、お前自身の魂は見えていない……お前に魂なんて無いのかもしれない。
役者にぴったりだよ。影に操られるだけの人形のような──あんたは一体どんな劇をオレに見せてくれるのかね?
〈灰色の服の男〉はD列の端の席でそうするように、真っ直ぐに役者を見つめた。
さあ、開演の時間だ。

「オレの名はグレイ……いままでそう呼ばれてるから、これからもそう呼んでくれ」
「わかったよ、ムシュウ・グレイ。僕の名はイヴェール。しばらくの間よろしく頼む」



【?????/1日目/朝】
【イヴェール@Roman】
[状態]:健康
[装備]:赤色金剛石型COMP
[道具]:基本支給品、不明支給品(本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いから脱け出す。
※Roman内には複数のイヴェールがいますが「盗賊」のイヴェールです。


[COMP]
1:グレイ@ゴーストアンドレディ
[種族]:幽霊
[状態]:健康

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