「しかし、どういう意図なんだ?」
ひらひらと片手で二匹の悪魔を見送る貘に、ジオットは静かに語りかける。
二匹の悪魔に貘が依頼したのは、世田谷区に踏み入れた人間には極力攻撃しないようにして欲しい、という事。
更に、攻撃してこない人間には自分の位置を押してやってほしい、という事だ。
その依頼は、ジオットにとっては不可解極まりなかった。
控えめに言っても戦力とは言い切れない自分、そして弾がないハリボテの機銃。
そんな現状での戦力は、従えた悪魔のみだというのに。
彼はそれを自ら手放した上で、人を招き入れると言っているのだ。
流石に意図を図りかねる、という表情のジオットに、貘はにやりと微笑む。
「ジオットさん、ここでは力のある奴が勝つ。刀でも銃でも、なんでもいい。
けれど、今の俺には"北斗神拳"ぐらいしか無い。まともに殴りあってりゃ、秒でお陀仏さ」
ここは人が人を殺す舞台、人を殺せる人間が生き残る。
そして、斑目貘という一人の人間には、人を殺せるだけの力も技術もない。
そういう場面に立たされれば、彼が生き残れる可能性はほぼゼロに等しいだろう。
「けど、これからを生き抜くのに一番大切なものは、そうじゃないんだ。
俺はそれを知ってる。だから賭けられるのさ」
しかし、貘はそうではないと踏んでいる。
それ以上のものがあると確信しているから、大事な"それ"を賭けることが出来る。
ニヤリ、と貘はもう一度怪しく笑顔を作りなおして、くるくると椅子を回しながらジオットへと語りかける。
「まだ舞台は始まったばかり、賽は転がり始めた途中だよ。
焦っちゃいけない、今はまだその時じゃないからね」
貘にとって必要なのは、全てを貫く矛でもなく、全てを防ぐ盾でもない。
はっきりと分かっているのは、それを持っているのは貘ではないということ。
だから、貘はそれを手に入れるために全てを"賭け"ることにしたのだ。
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……」
くるくると椅子を回しながら、貘はにやりと笑い、訪れるであろう誰かを待った。
世田谷区をふらつく二人の男に対し、一匹の悪魔が我先にと襲いかかったのが全て始まりだ。
溜息をつく男と、ニヤリと口元を歪める男。
司令など必要なく、一発の銃声が全ての幕開けとして訪れた。
銃声、悲鳴、銃声、悲鳴、銃声、悲鳴。
繰り広げられたのは光景を言い表すならば、阿鼻叫喚という四文字がぴったりだ。
「どうした……始めの威勢は、もう終わりか……?」
逃げ惑う悪魔たちに対して、男、アーカードは銃を突きつけながら問いかける。
銃をつきつけられた悪魔は、半ばヤケクソでアーカードへと襲いかかるが、その時既に頭が吹き飛んでいた。
悪魔というのは、言ってしまえば総じて化物だ。
それだけだ、それだけでいい、アーカードという男は、たったそれだけの理由で、ここまでも残酷になれる。
闘争に飢えていたというのを差し引いても、今のアーカードには"狂気"の色が滲んでいた。
「……待て」
そんな暴走機関車たる彼を釘刺すように、ヴァニラの声が低く響き渡る。
ちらり、とヴァニラの方を見てから、アーカードは悪魔たちへの攻撃の手を止める。
ほっ、と安堵した空気が立ち込める中、ヴァニラはじろじろと舐め回すように辺りの悪魔を見つめる。
「おい、貴様」
その中の一匹に手を伸ばし、近くへと引き寄せる。
肩を掴まれた悪魔は、伝えようとしていた何かを飲み込んで、ヴァニラを見る。
かけられた力もさながら、ぎろりとした目は一匹の悪魔を恐怖に包み込むには十分すぎた。
そして、すっかり震え上がった悪魔に対し、ヴァニラは口を開く。
「今、何を語っていた」
「……どうしたんだい?」
中野区を抜け、渋谷区を経由して世田谷区に足を踏み入れた時、ふとザ・ヒーローは口を開く。
というのも、世田谷区に足を踏み入れてから、勇者ロトの様子が少しおかしかったのだ。
普通の人間なら気がつくことはないであろう変化を察せたのは、彼が悪魔を使役し続けた存在、ザ・ヒーローであるからか。
「おかしいの。トヘロスはもう切れたはずなのに、悪魔が襲いかかってこない」
そう、世田谷に差し掛かった辺りで、トヘロスの効能は切れていた。
再度唱えれば済む話だったが、その時に彼女は異変に気がついた。
辺りに無数の悪魔の気配を感じ取っているが、そのどれもが襲い掛かってくる気配がないのだ。
いや、襲いかかってこないというよりは、何かに押さえつけられているというべきか。
「僕を……恐れている? いや、それだけじゃない……?」
ロトの言葉で、ザ・ヒーローも違和感を察した。
悪魔の気配、その奥に隠されている別の"何か"。
それを感じ取りながら、彼らは足を進めていた。
結局、考え続けた所で何もわからなかった。
正しいこと、やるべきこと、自分の気持ち。
全てをかなえられるほど、強欲であればどれだけ良かっただろうか。
けれど、それは叶わない、叶えられない夢物語。
だから、その中の夢を一つだけ選ばなければいけないけれど。
ちっぽけな彼女には、選べるわけもなくて。
気がつけば、逃げ出していた。
ホールから、人間から、現実から、全てから。
どこに向かうでもなく、走って、走って、走り続けて。
そして、彼女はそこにたどり着いた。
上がる息、ずっしりと襲いかかる疲労感、霞みそうになる意識。
それを手放すまいと、必死に抗っていた時、彼女はふと気がついた。
「誰もいない……?」
そう、誰もいない。
人間は愚か、悪魔の一匹も見当たらないのだ。
渋谷に居た時には、そこそこ居たはずなのに、なぜここには居ないのか。
そんな事を、ふと考えた時だった。
「そこのお嬢さん」
「ひっ!?」
突然の声にびくりと跳ね上がりながら、琴岡は声の方へと向く。
そこに立っていたのは、古風な鎧に身を包んだ、人間に近い姿の悪魔だった。
ごくりと息を飲み込みながらその姿を見つめていると、悪魔はぽとりと武器を落とし、彼女に手を差し伸べた。
「怯えさせてすまない、この一帯を取り仕切っている者だ」
今にも崩壊しそうな廃ビルに響く、靴音。
来訪者を告げるのに、インターホンなど必要ない。
徐々に近づいてくるその音さえあれば、誰かがやってくることは察することが出来るのだから。
しばらく音が響き続けた後、靴音が途切れる。
それと同時にニヤリと笑いながら、ガチャリと音を立てて開かれるドアを見つめて。
「ようこそ、俺は斑目貘。アンタは?」
貘は、先手を打つように名乗り出た。
現れたのは、二人組の男。
首輪から判断するに、奇抜な格好をしている男のほうが召喚士であろう。
なれば、側にいる赤い服の男が悪魔か。
まあ、貘にとってはそれはどちらでもいい。
どちらが本気を出しても、死んでしまうことには変わりないのだから。
むしろ、その二人が放つ"圧"だけで死んでしまいそうだとも言える。
実際、ジオットはその"圧"に圧倒され、ただ男たちを見つめることしか出来ずにいた。
しかし貘は、その"圧"を受けながら、怪しい笑顔で男たちを見つめていた。
「……何を企んでいる?」
しばらく睨み合い、机に乗せられたままの軽機関銃を一瞥してから、ヴァニラがゆっくりと口を開く。
余計な話は要らない、と言ったところだろうか。
おっ、と声を漏らしてから、貘はふふんと笑い直す。
「いきなり踏み込んでくるねえ、いいよ、嫌いじゃない」
足を組み直して不敵に笑う貘に対し、ヴァニラは視線を動かさない。
少しでも不穏な動きを見せれば、貘の命は失われてしまうだろう。
そんな空気を背負いながらも、貘はさも自分に主導権があるかのように語る。
「でも、何も考えてないって言ったらアンタはどうする?」
あからさまな挑発、しかしそれは貘の本心だ。
人を呼ぶのは目的だが、別にそれでどうこうしようと言うわけではない。
ただ話がしたい、それだけが理由だ。
ヴァニラはそれに対し、ふん、と鼻を鳴らして貘を睨み続ける。
答えるまでもない、という事だろうか。
その反応に満足できなかったのか、貘は更に質問を投げかける。
「ところでさ、ここの事はどうやって知ったの?」
「たまたま、だ。人の流れを感じる場所があった、それだけのことだ」
即答。
問答に時間をかける暇はないと判断したのか、ヴァニラは少し苛立ちながら貘へと答えていく。
「へぇ」
その答えに、貘はより一層邪悪な笑みを浮かべる。
「バレバレの嘘をわざとつくって事は、そういう事なのかな?」
ぞくり、と何かが走り、一瞬にして場の空気が変わる。
数々の修羅場をくぐり抜けてきたものですら、違和感を抱かざる得ない得体のしれなさ。
それを纏ったまま、貘は怪しく笑いながらヴァニラを見つめ続ける。
「ま、それはいいや」
そこに何かを感じ取ったのか、貘は一人で満足して普通の"笑顔"に戻していく。
初めて出会う類の得体のしれなさに舌を巻きながら、ヴァニラは貘への警戒を怠らない。
「ところでアンタ、実は滅茶苦茶強いだろ? "北斗神拳"の使い手の俺でも分かっちゃうくらいには、ね」
警戒されていることを理解した上で、貘はわざわざ"わかりきった事"を口に出す。
そう、貘は自分が咎めた相手の行動と同じことを繰り返したのだ。
一見すれば、これ以上ない挑発はない。
しかし、それを挑発だと見抜いているのか、ヴァニラは平静を保ったまま、貘を見つめ続けている。
「探し人かい?」
だが、その平静は続いた貘の一言で、いとも簡単に崩されてしまう。
何故、といった表情で貘を見つめるヴァニラに、貘は大きなため息をこぼす。
「分かり易すぎるよ、吹っかけ甲斐がありゃしない」
心底がっかりした声を出す貘は、侮蔑を交えた落胆の表情でヴァニラを見つめる。
流石に観念したのか、それとも付き合いきれないと踏んだのか、ヴァニラはゆっくりと口を開く。
「ポルナレフ、という男を知っているか」
そう、ヴァニラ・アイスの目的は、それ一つ。
何としてでもポルナレフの居場所を突き止めておかなくてはならないのだ。
変な問答をすることもなく、ただ問いかければよかった、それだけだったのだが。
「一万マッカ」
「は?」
貘の口から飛び出した言葉は、ヴァニラの予想を遥かに上回る言葉だった。
思わず驚愕の表情を浮かべてしまうヴァニラに、貘はもう一度大きなため息をつく。
「まさか、ただで教えてもらえるとでも思った? 情報を聞くなら"対価"は必要さ」
確かに、正論だ。
小さなことでも情報には価値が有る。
それを手にするには、相応の対価が必要なのだ。
無論、力に言わせればそれを聞き出すことも出来るだろう。
しかし、悪魔を従えるだけの力を持つ男に喧嘩を売れば、自分の悪評は瞬く間に広まるだろう。
それでは、先ほどの少女に言伝を頼んだ意味がなくなってしまう。
召喚程度にしか使わない、謎の通貨。
それを渋ることによるリスクを考えれば、安全なのは大人しく従うことだ。
そう判断したヴァニラは、そそくさと通貨をとりだし、貘の手に握らせていく。
「毎度あり、じゃあサクっと言っちゃうと、この世田谷区には俺ぐらいしか居ないよ」
「なッ……貴様ッ!!」
それを受け取ると同時に飛び出したのは、予想外の言葉だった。
思わず激昂してしまったヴァニラは、貘の襟元に掴みかかっていく。
しかし、貘の顔は涼しい。それどころか、勝ち誇った笑みを浮かべている。
「いや、ポルナレフって男の人をを知ってるかって言われて、知らないって答えるのは普通だと思うけど?
しかもさ、東京23区の中でも広い方の世田谷区、そこに居ないっていう情報だけでも、十分だとは思うんだけどなぁ〜〜」
続いた言葉も、これまた正論。
男は一言もポルナレフを知っているとは言っていないし、それを勝手に勘違いしたのはヴァニラの方だ。
ついカッとなって手が出たが、冷静になれば非は全てこちらにある。
ゆっくりと貘の体を離し、一歩引き下がる。
それに対し、貘はさっさとスーツの埃を払ってから、話を続ける。
「さっき入ってきた情報を出血大サービスしちゃうと、世田谷区にはあと三人いる。
品川に向かった一人はそんな名前じゃなかったね。
あとは二人くらいここに向かっているようだけど、一人は女の子。
もう一人は……日本人らしき男、って話だね。
ソースはこの世田谷区をうろついているすべての悪魔。
ここにたどり着いたアンタなら、今の言葉がどういう意味か、分かってくれると思うけど」
語られたのは、貘の知っている全てだった。
貘自身も、通貨の価値は分かっている。
一万マッカを差し出されたのだから、それに相応しい情報は、きちんと提供する。
貘なりの筋の通し方なのだろうが、それがどことなくヴァニラには不気味に思えたのだ。
用は終わった、これ以上話すこともない。
故に、ヴァニラは身を翻し、その部屋を去ろうとする。
「あ、どこか行くならさ、この階の下にあるターミナル使ったほうがいいよ〜。
ここから他の区に行くのは、骨が折れるだろうしさ。
あと、誰かに会ったら、俺のことをどんどん教えてくれないかな〜、お願いばっかりで悪いけど、さ」
そんなヴァニラに、貘は背中越しにアドバイスを送りつつ、一つの依頼を投げる。
しかし返事はなく、ヴァニラは黙って部屋を後にしていった。
その時、彼が連れていた赤い男……もとい悪魔が、怪しい笑みを浮かべて貘を見つめていたのを、貘はしっかりと見ていた。
だから、満面の笑みを返しつつ、その後姿を見送った。
「短気は損気、無愛想も損をする……ってね」
にこりと笑ったまま、貘は再び椅子をくるくると回す。
重圧から開放されたジオットは、安堵の溜息を一つ漏らし、貘の傍に腰掛けた。
これから、こんな感じに続くのだろうか。
そんな少しの不安を抱えながら、ジオットは僅かな休息を一時を過ごしていた。
大きな口を開け、くぁ、と声を漏らしながら貘があくびをする。
目的のためとはいえ、一箇所でじっとしているのは退屈なものだ。
こんな時はプーヤンで時間をつぶすに限るのだが、あいにくと手元にはプーヤンがない。
全く、参ったものだと苦笑いをした、その時だ。
こんこん、とドアをノックする音が響き渡った。
「どうぞ、空いてますよ」
銃は設置したまま、余裕たっぷりに貘は来客を迎え入れる。
がちゃり、とドアノブが音をたて、ぎいいと音を立てながらゆっくりと開く。
現れたのは一人の青年と、いかにもな格好の少女の二人組。
「おっ、待ってたよ」
貘は、そんな二人組を見て笑いながら。
「"ザ・ヒーロー"さん」
先ほどとは打って変わって、初手で名前を口にした。
どうしてその名前を知っている、と、ザ・ヒーローは困惑している。
その顔を見て、主導権を完全に握りしめた事を確信した貘が、一人で話を進めていく。
「ま、勿体ぶってもしょうがないし、さっさと話しちゃうとさ。会ったんだ、"カオスヒーロー"君にね。
彼なら品川の方に向かったみたいだよ、何が目的かは知らないけどね」
淡々と喋ることだけ喋って、さっさと追い払おうとする。
聞くことなど何もないという事か、ここで足を止めていて欲しくないという事か。
ザ・ヒーローも喋ることが特別あったわけではないが、カオスヒーローという嘗ての仲間の名を聞いてしまった。
しかも、品川に向かっているという情報を聞いた以上、立ち止まってもいられなかった。
特に言葉を交わすこともなく、ザ・ヒーローはその部屋を後にしようとする。
「あ、そーだ。もしさ、ポルナレフって人を見かけたら、ここに来るように言ってくれない?
そうじゃなくても人に会ったら、余力があったら世田谷に来て欲しいって言ってほしいな」
その背を見送りながら、貘はヴァニラと同様に"お願い"をしていく。
先ほどのヴァニラとは違い、ザ・ヒーローはくるりと振り向いてこくりと頷く。
反応があったことに少し嬉しさを感じながら、貘はひらひらと手を降って見送った。
再び、あくび。
人が居なければ退屈だ、と言わんばかりに大きく口を広げていく。
そろそろ一休みをするか、と思ったその時。
ぎいい、と音を立てながら、ドアがゆっくりと開いた。
「おや、いらっしゃい」
そういえば後一人居たな、と思いながら貘は最後の来客に対応していく。
ゆっくりと開いた扉から現れたのは、一人の少女だった。
首輪で召喚士だと判断すると同時に、側にいるおぞましい悪魔を見て、少し驚きながら、貘は笑顔を浮かべる。
「俺、斑目貘。お嬢さんは?」
貘は少女を怯えさせないように、出来る限り柔和な笑顔を浮かべて、対応しようとする。
そんな貘の努力の甲斐あってか、少女は少しの困惑の後、ゆっくりと口を開いた。
「みかげ……琴岡、みかげ」
そうか、と笑顔で答えながら、貘は腰を落とし、琴岡と名乗る少女に目線を合わせていく。
どきり、としたのか、琴岡は自分をじっと見つめている貘から、目線を外すことが出来なかった。
「何か悩みあり、って顔をしてるね」
その言葉に、琴岡はどうして、という反応をする。
それが予想通りだったのか、貘は笑い直してから話を続ける。
「教えてくれよ、俺も力になれるかもしれない」
先の二人とは違う声のトーン、優しい目つきで、貘は琴岡に語りかける。
初めは困惑していた琴岡も、貘の目を見て意を決したのか、ゆっくりと口を開き始めた。
それから、琴岡は全てを包み隠さず喋った。
この場所にきてから起こったこと、折原臨也という男に言われたこと。
自分が悩んだこと、取るべき選択肢。
そして、自分の夢と、他人の夢と、少女の夢。
他人に喋ったことのない秘密まで一欠片も残さず、全て喋り尽くした。
どうせ知らない人だし、構わないだろうと思っていたところもあった。
けれど、それだけではない。
そう、彼女はずっと喋りたかったのだ。
客観的な立場に立てる人間に対して、一人の少女の心を丸裸にして。
琴岡みかげという人間を、見て欲しかったのだ。
だから、彼女は喋った。
喋って喋って、喋り尽くした。
そして、ゆっくりと口を閉ざした時。
「は、はは、ははは」
貘は、静かに笑い出して。
「みかげちゃん」
にやり、と笑って彼女の名前を言って。
「あんた、嘘つきだね」
彼女を見下ろすように立ち上がって、そう言い放った。
ずぎゅん、と何かが撃ちぬかれたかのような感覚が、琴岡を襲う。
その一言は、琴岡の心を少しだけ救っていた。
待っていたのは、その言葉だったのかもしれない。
すっかり放心している琴岡の姿を見つつ、貘は少し気まずそうに笑う。
「しかし参ったな……俺に喰えない嘘があるなんてね」
そう、琴岡の言葉には嘘が含まれていた。
彼女の気持ち、彼女の願い、彼女の考え、その全てに嘘が含まれていることを、貘は見抜いていた。
だからこそ、彼は困惑していたのだ。
暴いた所で真実に繋げられない嘘。それは、彼の人生ではほとんど出くわさなかった嘘で。
「でも面白い、面白いよ。だから、俺は君の嘘を必ず喰ってみせる」
だからこそ、彼は面白いと思った。
だからこそ、彼はその嘘を暴きたいと思った。
だからこそ、その瞬間が楽しみで仕方がなかった。
「答えを出すのは、その時でいいだろ?」
しかし、今の貘では彼女の嘘を暴けない。
必要な物が、まだ足りないと思っているから。
だから、貘は時を待つ。
「しばらくここに居なよ、好きに悩み続ければいい」
そう判断した所で、貘は琴岡に提案する。
どうせ貘は暫くここにいるのだ、下手に出歩くよりはここにいるほうが安全であるのは間違いない。
何より、貘の傍から琴岡を離してしまい、その間に琴岡の命が失われてしまうことだけは、なんとしても避けたかった。
そうすれば、琴岡の嘘を食うことなど、未来永劫できなくなってしまうのだから。
そんな意図を察してか、琴岡もゆっくりと頷いた後、ドア一枚を挟んだ別室へと足を進めていった。
全ての来客に対応して流石に疲れたのか、貘は少し深めに椅子へと腰掛ける。
そんな彼の横にすっと立ち、ジオットはゆっくりと話しかける。
「……全く、どういう意図だい?」
そう、貘の行動はジオットからすれば不可解な点が多すぎた。
ヴァニラに対しては煽りに煽った上に金まで巻き上げたというのに、友好そうに見えたザ・ヒーローは早々に追い払い、何を思ったのか戦力にならなさそうな琴岡を傍に置いたのだ。
謎の人選、謎の行動、ジオットからしてみれば、一欠片も理解できない行動であった。
そんな疑問を抱えるジオットに、貘は天井を見上げながら、ジオットへと答える。
「今は、焦る時じゃない」
そして、ジオットは唾を飲み込む。
「場を、転がす必要があるのさ」
その邪悪な声に、飲み込まれそうになったから。
一体何を考えているのか、そこに何を見据えているのか。
そんなジオットの恐怖など気にも留めず、貘は一人笑う。
彼だけが把握している、彼だけの未来を見据えながら。
不敵に、不敵に。
【世田谷区→????/廃ビルの一室→????/1日目/午前】
【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、確認済み支給品、棺桶型COMP
[所持マッカ]:二万
[思考・状況]
基本:魔神皇を含め皆殺し
1:ポルナレフはこの場で確実に殺す
2:ポルナレフの悪評を流し、潰し合わせて疲弊させる
3:邪魔な存在、自分にとって不都合な存在は優先的に殺す
4:多田李衣菜の知り合いに出会ったら彼女の行き先を教える
[備考]
※参戦時期は「お受け取りください!」と言って自ら首を刎ねようとする直前
[COMP]
1:アーカード@HELLSING
[種族]:吸血鬼
[状態]:健康
※参加者の中にインテグラがいることを確認しました
※ヴァニラがターミナルを使ったかどうかは後続にお任せします
【世田谷区→品川区に向けて移動/1日目/午前】
【ザ・ヒーロー@真・女神転生】
[状態]:ダメージ(小)、トヘロス
[装備]:COMP(アームターミナル型)、アタックナイフ
[道具]:基本支給品
[所持マッカ]:三万
[思考・状況]
基本:"勇者"と共に、どうする……?
1:嘗ての仲間、カオスヒーローを追って品川に向かう
[備考]
※真・女神転生if...における魔人 ザ・ヒーローが、何らかの手段によって人間として参戦しています。
[COMP]
1:"ロト"(女勇者)@ドラゴンクエスト3
[種族]:勇者
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(小)、トヘロス
【世田谷区/廃ビルの一室/1日目/午前】
【斑目貘@嘘喰い】
[状態]:健康
[装備]:COMP(眼帯型)
[道具]:かり梅、基本支給品、M249ミニミ(銃弾なし)
[所持マッカ]:三万
[思考・状況]
基本:謀略にて魔神皇を倒す。
1:悪魔の手駒を増やす。(暫くは世田谷の悪魔たちにお任せ、状況を見て勢力拡大?)
2:琴岡みかげの"嘘"に興味、いつかは"喰う"
[備考]
※M249ミニミは万屋の武器くじ(松・一万マッカ)で入手。弾は別売りです。
※世田谷に住む悪魔に対し、ある程度の影響力を得ました。
※世田谷のLaw・Chaos属性を仕切る女神・クシナダヒメと妖鬼・モムノフと協力関係にあります。
[COMP]
1:ジオット・セヴェルス@パワプロクンポケット14
[状態]:健康
【琴岡みかげ@ななしのアステリズム】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、未確認支給品、キーホルダー型COMP
[所持マッカ]:三万
[思考・状況]
基本:生き残って帰りたい
1:悩む
[COMP]
1:Oktavia von Seckendorff@魔法少女まどか☆マギカ
[状態]:健康
[備考]:キーホルダー型COMPのデザインは『ななしのアステリズム』本編7話で登場したものです。
Back← | 068 | →Next |
067:Bの海馬/殺戮遊戯への思考 | 時系列順 | 069:待機:提案 |
投下順 |
045:願望:教唆 | 琴岡みかげ | 000:[[]] |
051:暴と智のクロスポイント | 斑目貘 |
060:《光の中に/闇の中に》完結した筈なのに | ザ・ヒーロー | 000:[[]] |
066:隣人たちは静かに笑う | ヴァニラ・アイス | 000:[[]] |