第一話

その一

不思議なことに、朽ち果てたその洋館には、人の住んでいる形跡があった。
床も壁も天井も屋根も、窓も燭台も扉も家具も、何もかもが朽ちている――
そんな中にあって、全く無事な個室がみっつもあったのだ。
僕は自分が道に迷って困窮していることも忘れ、冒険心を弾ませていた。
特に廃屋が好き、というわけではない。
ないのだが、まるで肝試しでもしているかのような、妙な高揚感があった。
…ただ、他のどの部屋を探しても、人っ子ひとり居やしない。
広い洋館を歩き疲れた僕は、みっつの部屋のひとつを拠点に休もうと考えた。

殺風景な、明かりのほとんど入らない部屋。
日当たりのいい、華やかな装飾に満たされた部屋。
綺麗に手入れの行き届いた、程よく明かりの入る部屋。

いずれの部屋にも、妙に古びた楽器が置いてあるのが印象的だった。

その二

僕が選んだのは、三番目の部屋だった。
明るすぎず、暗すぎず、隅々まで手入れが行き届いていて、抜群の居心地だ。
家具や装飾品の様子から少女の部屋であったことは明白だが、贅沢は言うまい。
寝台がとても大きいため、僕の体格でも支障なく眠れそうだった。
……。それにしても、この楽器は気になる。
寺子屋にあったオルガンよりもずっと小振りだが、妙にハイカラな感じがする。
というより、ほとんど鍵盤の部分しかない。これで音が出るのだろうか?
試しに何度か弾いてみたが、楽器らしい音色はしない。
どういうわけだか『ぴょん』という間の抜けた音がしただけで――
「今のはね、ウサギの跳ねた音よ」
出し抜けに聞こえた幼い声に、思わずその場で跳び上がる。
「えへへ、びっくりした? そこまで驚かれたら騒霊冥利に尽きるね」
芸人じみた、不思議な衣装の赤い服を着たその少女。
自らを霊と称するその少女は、僕の驚きっぷりに腹を抱えての大笑いだった。

その三

並んで寝台に腰かける。ひとまずは素性を明かし、屋根を借りなければ。
「あー、やっぱり迷子だったのね。結構よくあるのよ、ここ」
この近くにある湖は年中霧が出ているため、妖精がよく人間を惑わせるとか。
迷子になった人間は大抵この廃屋か、対岸の大きな洋館に着くという。
「お向かいさんは危険地帯だよ? 何しろ悪魔が住んでるんだからね〜」
幽霊は安全だと言わんばかりだが、見た感じ危険そうにも見えない。
何しろ彼女には、翳がない。命ある者を恨み、嫉み、祟ろうという翳がない。
「そりゃあそうよ。私は騒霊であって、幽霊とはあんま関係ないの」
どう違うのだろうか。一応訊ねてはみたが、彼女は語らなかった。
「まあいいや。もう日も落ちるし、今夜は泊まってくといいよ」
どうやら屋根を借りる許しは出たようだ。早速だが休ませてもらおう。
「ふふーん、なかなか胆が据わってるじゃん♪ じゃ、このベッド使ってね」
大きな寝台にどさりと横になる。あっという間に眠気が押し寄せてくる――
だが、それも少女が唐突に服を脱ぎ始めるまでのことだった。

その四

「よいしょっと…。へえ、身長ある割に結構華奢なのね」
一糸まとわぬ少女が僕に跨り、全身で擦り寄ってくる。
逃げようにも逃げられない。金縛りにかかったように、四肢が動かないのだ。
「欲を言えば、もうちょい筋肉ある方が好みだけど…。ま、いっか」
あまり幽霊らしからぬことを言いながら、彼女は動けぬ僕の衣服に手を掛ける。
「はーい、ぬぎぬぎちまちょうね〜♪」
人形遊びをするかのように、実に無邪気に、楽しそうに笑いながら。
――妹がいたら、こんな感じだろうか。
この非常時にも拘わらず、一人っ子の僕はそんなことを夢想した。
「おおっ、結構おっきい…! でも、ちょっぴり被り気味だね」
……ぐさっと来た。
「あ、ごめん…。そ、そんな顔しないでよ。今、ちゃんと剥いてあげるから…」
そっと手が添えられた途端、そこに血が集まっていく。
この屈辱的かつ恐ろしい状況にあって、僕の身体は確かに興奮していた。

その五

「勃起したら余計おっきくなったね。全部お口に入るかな……ちゅっ」
鈴口に接吻された瞬間、途轍もない衝撃が腰の奥から脳天へ迸った。
「わっ、凄い反応。……もしかして、初めて?」
ぽかんとした表情を見せた少女の顔が、またも悪戯っぽい笑顔に変わる。
もっとも、童貞である件については否定できないのだが。
「しょーがないなあ。それじゃ、ちょっと優しくしたげるね」
ぺろりと唇を舐めてから、亀頭と皮の隙間に舌を挿し込んでくる。
にゅるにゅるとした感触が、丹念に、執拗に、確実に包皮を剥いていく。
亀頭が外気に触れるたび、腰が吹き飛びそうなほどの衝撃が陰茎を疼かせる。
「ほら、剥けたよ。途中でイッちゃうかと思ってたけど、結構頑張ったね…」
実際のところ、射精しないよう歯を食い縛って必死に我慢していた。
「じゃあ、こっちのお口でイかせてあげる。たくさん射精していいからね?」
少女は僕の腰に跨ると、片手でそこに亀頭を導いて――
いともたやすく、僕の童貞を奪った。

その六

「んっ、ふぁっ…。は、入ったぁ…。だ、大丈夫…? 無理してない…?」
根元まで丸ごと呑み込んだところで、彼女の勢いは目に見えて鈍っていく。
もちろん無理はしているのだが、それも一時凌ぎに過ぎない。
何しろ僕は、今の今まで、女の肌すら知らなかったのだ。
――少女の肌は生白く、きめ細かくて、柔らかくて、ひやりと、指に吸いつく。
僕は思い切って上体を起こすと、彼女の華奢な腰を思い切り抱き寄せた。
「んあっ! ふ、深い……ダメ…この姿勢ダメ……やっ、動かないでぇ……」
生温い肉襞が、ざわざわと絡みついてくる。腰が抜けそうなほどの快楽だ。
身体が小さいせいなのだろう。これだけ濡れていながら、凄まじい締め付けだ。
入り口も中も、一斉に蠢動する。過度の快感に、とうとう我慢も限界を超えた。
「…ぅ…あぁ……。す、凄いのね、貴方……。気に入っちゃったよ…」
身体を支える力を失った少女が、音もなくしなだれかかってくる。
「私、リリカ…。改めて、明日からよろしくね…?」
薄れゆく意識の中、リリカは実に緩慢な動きで、僕の初めての唇を奪った。

第二話

その一

大きな窓から、緩やかな秋の日差しが降り注ぐ。
どうやら霧こそ晴れていないものの、天気そのものは良好のようだ。
目を開けると、全く見覚えのない、舶来の不思議な紋様があしらわれた天井。
そして、同じく舶来の寝台に横たわる、僕のすぐ隣には――
「えへへ…。おはよ」
昨夜、顔を合わせたばかりの、恐らくは異人の少女が、全裸で。
身を起こすと、僕もまた全裸だった。これはつまり
「…その…昨夜は激しかったね。あんなにたくさん、するなんて…」
――まずい。少しだが記憶にある。
確か僕は彼女に押し倒され、色々と初めてを奪われてしまったのだ。
だが、その後が何も覚えていない。そのまま寝入ったはずだが、まさか…?
「まあ、嘘なんだけどね♪」
そのあっけらかんとした笑顔に、思わず毒気を抜かれてしまう。
朝一番に悪戯とは、何とも言えず、心臓に悪い朝だった。

その二

「そう言えば説明がまだだっけ。私は騒霊、早い話が騒ぐ霊よ」
どこから持ってきたのか、焼いた食パンを紅茶で流し込み、リリカは説明する。
身も蓋もなさ過ぎて説明になっていない気もするが、解らないこともない。
幽霊とは――無言の内に恨みつらみを訴えるから恐ろしいのだ。
明るく楽しくどんちゃん騒ぎをする幽霊では、恐れようにも恐れにくい。
「まあ、そういうことよ。…って言うかさ、私のこと知らないの?」
リリカは口角泡を飛ばして、自分が有名な楽団の一員なのだと力説する。
騒霊三姉妹、プリズムリバー三姉妹の末娘。リリカ・プリズムリバーなのだと。
だが、哀しいかなその力説は僕に届かない。何故なら、僕は流行に疎いからだ。
「ちょ…冗談でしょ? こう言っちゃ何だけど、ファンも結構多いのよ?」
まあ、楽団の名前だけなら聞き知っている。里で演奏もしていたようにも思う。
立ち止まって見たことも一度はあったが、リリカの姿を見た覚えは――
「って、ちょっと!! 今、遠回しに背が低いって馬鹿にしたでしょ!!」
まだパンを齧っている僕の襟首を引っ掴むと、リリカは僕を部屋に叩き返した。

その三

どうにも、リリカは小柄なことを気にしているらしい。
霊体であれば成長はしないのだろうが、末娘ならば小さくて当然だろう。
「うっさい! あんたに機材に隠れて目立てないあたしの何がわかるのよ!」
そういう意味でも気にしていたのか。悪いことを言ったかもしれない。
それにしても口調が荒れている。本気で気に障ったのだろうか。
「……あ。し、しまった…思わず地が…!」
両手で口を隠す。後の祭りというところだろうか。
「と、とにかく証明してやるわ! あたしが子どもじゃないってね!」
リリカは例の芸人じみた意匠の赤い服を、ぽいぽいと乱暴に脱ぎ散らかす。
霧に遮られ翳った日差しに、メリハリのない幼げな肢体が浮かび上がる。
「…ん……? ちょ、何よ…。何でそんな、まじまじと見てるのよ……」
まさか――自分から脱いでおいて、恥じらっているのだろうか。
脱ぎ捨てた服を拾って必死に前を隠しているが、もう遅い。
この至近距離で誘惑されたのでは、抗う術などあるわけがないのだ。

その四

両手を捕まえ、そのまま寝台に組み敷いた。小さな体が、ぎしりと沈む。
じたばたと暴れているが、所詮は少女。成人男性相手に歯が立つはずもない。
「も、もしかして昨夜のこと怒ってる? あああ謝るからさ、ねっ? ねっ?」
――これくらいでいいか。
両手を離し、彼女の上から退いた。もう充分懲らしめただろう。
「あ、あれ…? どうしたの? 許してくれるの?」
そもそも、こういうことは愛し合った男女がすべきことなのだ。
行きずりの恋も、あり得なくはないだろう。だが、やはり健全とは言えまい。
「い、今時ずいぶん潔白なんだね…。みんなやってることなのにさ」
やりたいからやるだけでは獣と同じだ。人間なら恋愛の末に、契り合うべきだ。
「……言いたくないけどさ。そんなこと言ってるから童貞だったんじゃない?」
……やっぱり強姦くらいしないと懲りないだろうか。
「でも……キライじゃないよ、あんたのそういうとこ」
気がつけば、悪戯な笑顔が、目と鼻の先にあり――唇が、触れた。

その五

両手で僕の頬を固定し、貪るように口付けるリリカ。
ぬめっていながら、ざらついた舌の表面が、愛おしそうに絡んでくる。
「んちゅ……ちゅ、ちゅ…むちゅ、れる……」
ああ、求められている。
首に縋りつかれ、腰を抱き返す。密着した身体が、唇が、ただ、心地好い。
「ね……さわりっこ、しよ…?」
リリカの片手が、僕の手を秘所に導く。とろりとした感触が指先に触れた。
濡れている。抱き合って、口付けあって、彼女は悦んでいるのだ。
「ん…そう、そんな感じで続けて…。ふぁ……け、結構上手いね……んっ…」
つるつるの割れ目に指をなぞらせるたび、白い肌が小刻みに反応する。
応戦するように、リリカは僕の怒張を、焦らすように撫でてきた。
「あは、こっちもすっかりその気みたいね。えっと、その…………する?」
ここまで来たなら問答をする必要もないだろう。
ゆっくりとリリカを押し倒す。今度は何の抵抗もなかった。

その六

「んんっ……。ちょ、ちょっとキツい……かも…」
身体の小ささ故だろう。リリカの膣は入口も、内部も恐ろしく狭隘だ。
僕は動きたいのを必死で堪えて、彼女を力強く抱き寄せた。
「…もしかしてさ。慣れるの、待っててくれてるの?」
抱き締めたまま無言で頷く。ややあって、彼女は小さく息を吐く。
「もう…。そんなに優しくされたら…感じちゃうじゃない……」
リリカが抱き返してくる。途端、膣内がじわりと蕩けて、肉襞が吸いついた。
「いいよ、動いて。あたしならもう平気だから……」
苦痛と快感で複雑に顔を歪めながら、それでもリリカは、笑ってみせた。
僕は腰を振った。充分に濡れた蜜壷を、何度も何度も、強引なまでに掻き回す。
「ひぅ…っ! い、いきなり激しすぎ…や、ダメ……あ、ああああぁ…っ!!」
華奢な両脚を抱えて、腰を叩きつける。彼女の一番奥で、灼熱が爆ぜた。
「あ……ぁぁぁ……。熱い…せーえき……あついよぉ……」
絶頂しながらうわ言のように呟くリリカを抱き締め、僕はもう一度口付けた。

第三話

その一

驚いたことに、廃洋館の地下には、それは豪奢な大浴場があった。
立派な彫刻や湯を吐き出す獅子の彫像。いずれも本でしか見たことがない。
全面的に大理石で出来ていることくらいしか、学のない僕にはわからなかった。
石造りだからか地下だからか、風雨の影響はほとんど見られない。
ただ、掃除が行き届いているにしても、ここは清潔すぎる――ような気がする。
デッキブラシなる箒を片手に、僕は早くも手持ち無沙汰になった。
浴槽の湯を抜き、申し訳程度の湯垢を綺麗にしたら、他にやることがないのだ。
仕方がないので湯を張り替える。この湯の匂いは温泉だろうか?
そう言えば、ここの水道は死んでいない。蛇口を捻ると、きちんとお湯が出る。
水道管が錆びている様子もない。日常的に使われているのだろうか。
「まあね。騒霊も元々人間なんだし、生前の習慣はなかなか抜けないものよ」
湯気に煙る浴場に、リリカの声がこだまする。
おおかた僕一人に押し付けた掃除が、終わる頃合いを見計らっていたのだろう。
振り返ると、リリカはすでに全裸となってそこにいた。

その二

「いやー、ご苦労さんだったわね。うちの姉妹、面倒臭がりが多くてさ」
僕の背中を泡立てた手拭いで擦りながら、リリカは他人事のように言う。
三姉妹で『多い』ということは、掃除をしていたのは恐らく一人。
察するにそれはリリカではないのだろう。否、リリカではないに決まっている。
長女か次女かは知らないが、末娘がこれでは苦労が絶えないだろう。
「って、ちょっと。何を見てきたかのように決めつけてるわけ?」
ああ、声が狼狽している。図星なのだろう。図星なのだ。
「う…うっさいわね。だからこうして労をねぎらってあげてるじゃない」
まあ、確かに背中を流してもらえるのは素直に嬉しい。
これまでの僕なら、人生でこんな経験ができる可能性など皆無だっただろう。
「そうでしょそうでしょ。心優しいリリカさんに感謝しなさいよー?」
背中から手が離れる。きっと今頃、薄い胸をふんぞり返らせているに違いない。
「はい、背中おしまいっ! それじゃあ交代ね!」
ゆすいだ手拭いを投げてよこすと、リリカは隣のバスチェアに腰かけた。

その三

少年のように活発なリリカだが、こうして背中を見ると少女だとはっきり判る。
なだらかな肩、しなやかな背中、控えめにくびれた腰、ほんのりと丸い尻。
メリハリにこそ乏しいものの、こうして見るとやはり女の身体なのだ。
「あいたっ、あたたたっ! ちょっと、力入れ過ぎ! もっと加減して!」
見惚れていたせいか、力加減を誤ったらしい。僕は素直に謝罪した。
「……。あのさ、背中ヒリヒリするんだけど」
改めてそっと擦ろうとしたところで、呟くような声が僕の手を制する。
少し早いが、もう流してしまおうか――そう思った時、手拭いを奪い取られた。
「ヒリヒリするから……手でやってよ」
素手で洗え、ということか。汚れが落ちそうもないが、まあ仕方ないだろう。
投げ渡された石鹸で両手を泡立て、そっと背中を這い回らせる。
「ひゃん……っ! は、ぁ……んっ、んふ…んくっ…」
恐ろしく扇情的な声が漏れ出す。鼻にかかった、耳ごと脳髄をくすぐる声。
浴場に響き渡る押し殺した喘ぎ声は、次第に僕の理性を融かしていった。

その四

しばらくは両手で口を塞ぎ身をよじっていたが、やがてこちらに倒れてきた。
彼女の背中が、胸板に密着する。僕を仰ぎ見るその目は、艶っぽく潤んでいた。
「も、もうダメ…。背中に触るの、禁止ぃ…」
ぐったりとした彼女を支えて、――石鹸まみれの手が、小さな胸を鷲掴む。
こりこりに尖った乳首が、今の彼女の体がどういう状態かを端的に示していた。
「や……つ、つまんじゃダメ…」
腋の下から差し込んだ両手が、もはや僕の意思と関係なく愛撫を始める。
くりくりと、ころころと、固くしこった小さな乳首をつまみ、転がし、弄ぶ。
「やっ、やぁ…イッちゃ……も、らめ…乳首らめえええぇぇ……っ!」
最後に先端を軽く引っ掻いた瞬間、リリカの小さな体がびくりと跳ねた。
ぴく、ぴくと小刻みに震えながら――下の方で、何かが漏れるような音がする。
「し…信じらんない……。このバカ…バカぁ………んむっ」
肩越しにこちらを仰ぎ、真っ赤になりながら悪態を吐く彼女の唇を、唇で塞ぐ。
悪態とは裏腹に、リリカの舌は歓喜にのたうちながら僕の舌を捕らえていた。

その五

「ん…。やっぱり、こっち向きの方がいいかな。ほら、あんたも座るの」
リリカは座る向きを反対にすると、隣のバスチェアを渡してきた。
そろそろ膝立ちも辛かったので、ありがたく座らせてもらうことにする。
「よし、これであいこだね。ほら、もうちょっと脚開いて」
流石に向かい合わせだと気恥ずかしいのだが、リリカの爪先に膝を割られる。
「そうそう。せっかくの機会だしさ。見せっこしようよ…ね? ほら…」
僕の両膝をこじ開けたリリカは、真正面で大きく脚を開いている状態だ。
その上で、彼女はつるりとした割れ目を、両手で押し広げて見せる。
「女の子はね、自分じゃ見えないの。ねえ…教えてよ。今、どうなってる…?」
広げられたびしょ濡れの秘芯が、ひくひくと物欲しそうに震えている。
はしたなくよだれを垂らしながら、目の前のごちそうを求めわなないている。
「そ、そんなになってるんだ…。私のおまんこ、そんなにやらしかったんだ…」
見られる羞恥と興奮に耳まで真っ赤にしながら、リリカは両手を差し出す。
その手を握り返して挿入する。彼女の中はやはり狭く、貪欲に締め付けてきた。

その六

「んん…っ! お、おっきいよぉ……」
対面座位、というのだろうか。苦悶と快楽に揺れる彼女の顔が、とても近い。
「んむっ…ちゅ、ちゅる……はむ、ちゅ、ぴちゅ……」
舌を絡めていると、少しずつ緊張が和らいでいく。膣内が、とろけていく。
やがて根元まで呑み込むと、奥に当たるたびに肉襞がぴくぴくと締め付けた。
「ひぁ……す、ごい…。入ってるだけなのに、すごく感じちゃう…」
締め付ける感覚が、襞の絡む反動が、彼女に快楽を与えているのに違いない。
まして、愛液も充分に溢れてきた今なら、尚更だろう。
「あぁ…おちんちんの形、わかる…。あんたの形、おまんこが覚えちゃう…!」
僕の腰の動きに反応して淫らな言葉を紡ぐたび、精を求めて襞がざわめく。
最後に思い切り腰を抱き寄せて、奥を突いて、搾られるままに精を噴き出す。
「んぁ……く、くる…おっきいの来る……ふ、うぁ…ああああああああっ!!」
両の手脚でしがみつかれ、背中に爪が喰い込んで。
痙攣にも似た膣の蠕動を感じながら、僕達は何もかも忘れて唇を奪い合った。


第四話

その一

この廃屋に迷い込んで四日。今日も霧は晴れない。
もっとも、霧の湖は年中通して霧がかっている。晴れる方がむしろ稀なのだ。
むろん、早く里に帰った方がいいのだが――
「……ん? 何よ、あたしの顔に何かついてる?」
鍵盤とにらめっこしているリリカの顔から、慌てて目を逸らす。
何でもないとは言ったものの、不信の視線がちくちくと痛かった。
――早く帰らねばと思いながら、未だにここを出られない僕がいる。
朝起きて、窓の外に霧が出ているのを見るたびに、安堵している僕がいるのだ。
何故だろう。僕は彼女のそばを離れたくないと思っている。
三日三晩をともにして情が移ったか。初めて体を重ねた相手とは別れ難いか。
どちらでもあり、どちらでもない。判別できない。できっこない。
当然だった。こんな気持ち、生まれて初めてなのだから。
「……ん。こんなもんかな」
反射的に顔を上げると、リリカは鍵盤へと指を踊らせるところだった。

その二

――流れ落ちる水のように、絶え間なく響く、清らかな音色。
陶器を叩くようでもあり、鈴を鳴らすようでもある。まるで未知の音だった。
低い音と高い音が交差して響き合う。それは耳から入り、僕を内から浄化する。
知らなかった。音楽が耳ではなく、胸に響くものだったなんて。
「……っと。まあ、こんなもんね」
全てを弾き終えたリリカは、こちらを向いておどけたように一礼して見せる。
僕はその曲を評する言葉を持たず、ただ手を叩く。何度も、何度も叩いた。
「あ、あはは…。ちょっと、照れるなぁ……」
寝台に座った僕の、さらに膝の上に、ちょこんと腰を下ろす。
「ねえ、どうだった…?」
音楽の良し悪しはわからない。ただ、甘く切なく胸に響いたのは確かだ。
「ま、まあ当然よね! このリリカさんが作った曲だもんね! …即興だけど」
後頭部を胸に預けられる。すりすりと、淡い茶色の髪が擦りつけられる。
まるで人懐こい猫のようだ。そんな風に思いながら、リリカの髪に指を通した。

その三

「ちゅ、ちゅっ……はむ、ちゅ、あむ…ちゅく、ちゅ……」
舌を絡めない、唇を重ねるだけの口付け。
二人で寝台に倒れ込み、リリカは次第に唇を下へ下へと移動させていく。
頬、耳、首筋、喉元、胸板、乳首、脇腹、下腹。
頬を染め、瞳を潤ませて。僕の服をはだけさせて、やがて股間に顔を埋める。
「うわぁ……ガッチガチじゃない。もう、やらしーんだ…」
言いながら裏筋に這わせる。絶妙な力加減が、瞬時に僕の背筋を強張らせた。
押すような、叩くような、撫でるような。まるで、演奏する指使いだ。
「そうね…。あんたのおちんちん、あたし専用の楽器にしちゃおっかなぁ…」
リリカの手つきは、もはや恐怖にさえ値する。奏者とはかくも器用なものか。
「んー、管楽器は専門じゃないからなぁ…。上手く吹けたらお慰み……ってね」
両手で亀の首を絞めると、その頭を小さな口でいじましく頬張っていく。
初めてのあの夜の、包皮を剥くだけの舌使いとは明らかに違う。
亀頭を口に含んで両手でしごく。その刺激は、僕に射精を促すには充分すぎた。

その四

「ぷはぁ……。うぇ…苦ぁ…。ん、でも………」
一度は掌に吐き出した精液を、リリカは再び口の中に流し込む。
さすがに止めようとしたが、まるで駄々っ子のように首を振って固辞された。
「だって、これ…あんたが本気で感じてくれた証拠だもん。勿体ないよ…」
ぐちゅぐちゅと、口の中の咀嚼音がこっちまで聞こえてくる。
「だから、意地でも飲みたいのよ…。邪魔すんじゃ……ん、こく、こく…っ」
ごくり、ごくりと喉が鳴る。悪寒に震える肌が、だんだんと紅潮していく。
「……えへ、飲んじゃった…あんたのせーえき……。ふふ、うふふ…」
――気のせいだろうか。リリカの僕を見る目がおかしい。
ゆるゆるとした動作で僕の顔に跨ると、彼女は再び赤銅色の剛直を口に含む。
「もう…あたしが精液飲むとこ見て興奮してたのね、この変態ちんぽ…♪」
いつの間に脱いだのか、彼女の秘所からは乳白色の蜜が溢れ出している。
「やっぱ、あたし専用のちんぽにしちゃお…。ね…いいよね? あむ、ちゅ…」
情熱的な舌使いに応えるように、僕は彼女の肉壷に指を挿し込んで掻き混ぜた。

その五

「もっとだよ…。もっともっと、いっぱい射精して……」
言いながらペニスをしごくリリカの表情は、明らかに酔っ払いのそれだった。
しかし、精液に酔う――そんなことがあるのだろうか?
「うっさいなぁ…。精液なら何でもいいってわけじゃないのよ」
触れてもいないのに固くなった乳首を、鈴口にこすりつけてくる。
唾液と先走りが小さなしこりに絡みつき、絶妙な感触だ。
「あんたのだからだもん…。あんたのだから、あたしは…ひぅっ…!」
挿入したままの指先が奥に当たる。小刻みに動かすと、合わせて彼女が鳴く。
何と言うか、リリカの方こそ楽器になってしまったかのようだ。
「ふあぁ…っ。も、ガマンできな……。お願い、こっちに……ね…?」
腰を引いて指から逃れると、そのまま怒張に跨る。
充分にほぐれた媚肉は、いつもより滑らかに、ずぶずぶと僕を呑み込んで。
「うぁっ! ちょ、まだ動いちゃ……あっ、ひゃっ、あぁぁ……っ♪」
僕は上体を起こすと、快楽にのけぞる白い背中を抱き締め、二人して絶頂した。

その六

「……ヘンなの。何でこうなっちゃったのかな」
行為が終わり、僕の胸に倒れ込んだリリカは、溜め息まじりにそう漏らす。
「最初はね、ちょっとイタズラして、脅かすだけのつもりだったのに…」
やはり以前にあの鍵盤楽器から出た妙な音は、リリカの仕業だったようだ。
「あれは幻想の音。人に忘れられた音を、私は自由に奏でられるの」
その能力は、姉妹で合奏する際に、様々な音で曲を彩るのだという。
「そんな地味な能力だし、体も小さいしで……ステージじゃ目立たないけどさ」
姉二人への劣等感。…身長もだが、どうやら相当、気にしているようだ。
だが、それでも。先ほど単独で演奏していたリリカは、十二分に輝いていた。
ただ一人の聴衆のために演奏できるなら、それは楽士として誇っていいはずだ。
「――ふふっ。ヘンなのはあたしじゃなくて、あんたの方だったわけね」
言って、リリカは不意に胸板に顔を埋める。
「…ごめん。ちょっと泣くかも」
じわりと、熱い雫が胸に滲む。それは多分初めての、彼女の本心の温度だった。

第五話

その一

やはり今日も霧は晴れない。
むしろ日を追うごとに濃密にさえなっているように見えるほどだ。
この近くの『霧の湖』は、本当にごく稀にしか霧が晴れないという。
視界の悪さに乗じて妖精が悪戯をするため、迂闊に近付いてはならないのだ。
「じゃあ、何であんたはここに迷い込んだの?」
小さな文机で何かを走り書きしていたリリカが顔を上げた。
――僕が霧の中をさまよった理由だが、何のことはない。ただの薬草採取だ。
もともと湖に用はなかった。ちょっとこの近くで薬草を探していただけなのだ。
「薬草? 確か人里には薬売りが来るんでしょ?」
永遠亭の置き薬のことだろう。だが、うちでは頼んでいない。
もともと天涯孤独の身だ。薬草で治らぬなら、そこで死ぬのが天命なのだろう。
「そっか。……何か、その…ごめん」
寂しいと思ったことはない。代わりに、楽しかった思い出もない。
風のない湖面のように凪いだ人生。それが、五日前までの僕だった。

その二

「それじゃ、五日前からは楽しんでるんだ?」
羽根で出来た筆を置くと、リリカは頬杖をついて顎を載せた。
妙ににやにやしているように見えるが、それほど楽しい話だろうか。
「いいのいいの。ほら、続けて。あ、何ならこっち来て座る?」
せっかくなのでお邪魔することにした。
小さな円卓に円椅子。家具の価値など判らないが、統一感はあると思う。
「それで、五日前っていうと、うちに来てからよね? もしかして廃屋好き?」
特に好きではないが、廃屋に独特の趣があるのは確かだと思う。
「それじゃ、もしかして幽霊が好きとか?」
…別に嫌いではないが、では好きなのかというと違うような気もする。
「じゃあ……あたしといるの、楽しい?」
それは――楽しい。
誰とも目を合わせずに生きてきた僕が、初めて楽しいことに出会えた。
それが悪戯好きな騒霊だったのも、あるいは天命なのだろう。そう思うのだ。

その三

「ふうん。天命ねぇ…」
リリカは席を立つと、大きな窓の縁に飛び乗り、そのまま腰かけた。
雲のようにふわふわとした動き。やはり彼女は摂理の外の存在なのだ。
「何て言うか、生身の人間のクセに、ずいぶん物分かりがいいじゃない?」
こうした考えは、リリカにはお気に召さないようだった。
まあ、ものの考え方は人それぞれだ。それも仕方ないと僕は思う。
「もっとこう…楽してズルして、他人を出し抜いたりする方が、人間らしいよ」
そういうことには向き不向きがある。僕などは明らかに不向きだ。
出来たとしても、人を出し抜けば恨まれる。そういう厄介事は御免こうむる。
愛も憎も必要ない。孤独に生まれたのだから孤独に死ぬ。それでよかった。
「……ったく、しょーがないヤツね…」
窓辺からふわりと飛び立つと、リリカはそのまま僕の膝に座る形で着地する。
「あんたがそんなんじゃ、からかい甲斐がないじゃない。バカ……」
きゅ、と抱きつかれる。帽子を取って髪を撫ぜると、猫のような声を出された。

その四

悪戯やからかうのが好きという割に、リリカの言動は結構素直だ。
それは、幼さ故なのだろう。彼女は成長をしない。摂理の外の存在なのだ。
「そ、そんなことないわよ? あたしは常に三枚先まで計算して……んぶっ」
唇を重ねると、真っ赤になりながら目を丸くした。
三枚先を見つめるあまり、目の前が完全におろそかになっていたのだ。
「ん、はぁ……ちゅ、ちゅる…もっと、もっとぉ……」
顔を離すと、続きをねだりながら縋りついてくる。
その潤んだ瞳は、幼さの中に媚びを含んで、僕の中の何かを強く掻き立てた。
上着に手を掛ける。洋服の釦を外すのにもだいぶ慣れた。
「あん……おっぱい触って…。ちっちゃいから、たくさん揉んで……」
指の腹を滑らせるように撫で回す。ひやりとした胸に、温かな乳首が勃った。
「やだ、ちくび…前より敏感になってる……くぅん…きゃふ、んんん……♪」
舌と舌を絡めながら、両の手で両の乳首を転がす。細い体が快楽によじれる。
少しだけ膝から浮いた腰は、下を脱がせろという合図だった。

その五

ぎちりと、小さな陰所が陰茎の半ばほどを締め上げる。
濡れ方が少し足りなかったか。それでも数日前に比べれば、ずいぶん馴染んだ。
「んぅ…っ! あっ……お、お腹の中…ひろがってる……」
それでも入れられる方はまだ辛そうだ。指で慣らすくらいはするべきだったか。
このあたりの女性の機微は、未だによくわからない。
「い、いいよ…。遠慮しないで、奥まで挿れて……ふあぁっ!」
ずずっと、潤滑の足りない肉襞を、亀頭が押し広げていく。
僕が突いたのではない。リリカが体重をかけてきたのだ。
だが、奥まで届いた刺激によってか、次第に蜜が溢れてくる。
怪我の功名とはこのことだ。僕は椅子から腰を浮かせ、突きながら立ち上がる。
「ひゃっ!? あ、あぶな……っ」
文机に倒れ込み、そのまま上体を預けるリリカ。その姿勢で、後ろから挿れる。
「ふああ! こ、このカッコ…、キモチいいトコに、ゴツゴツ当たるのぉ…!」
細い腰を抱え、力任せに突くたびに、リリカは喜悦にむせび泣いた。

その六

「うぁぁ…。さ、先っぽ…押しつけちゃダメ……」
奥までがっちりと繋がったまま、僕は再び円椅子に腰かける。
リリカは背中から抱かれつつ、両脚を閉じて僕の腰に座っている格好だ。
脚が閉じているせいか、ただでさえ狭隘な膣が更に締め付けてくる。
「あ、ダメ…今おっぱい触られたら………にゃあっ!!?」
腰を揺すりながら、片手を乳首に、空いた手を秘裂に滑り込ませる。
ぷくりと膨れた粘膜の突起が、包皮からはみ出ているのを、軽く指で挟み込む。
「だ、ダメダメダメ! 挿れながら…そことおっぱい、同時になんて……」
同じように乳首も指で挟み込む。右も左も、力いっぱい捻り上げる。
「うぁ、あ、ぁ、――ああああああああああああああああああああッ!!!!」
何とも凄絶な、湖の向こうの洋館まで届かんばかりの嬌声。
それほど強烈な快感だったのだろう。絶頂を通り越し、失禁までしている。
「こ、この…バカぁ……。おぼ、えとき…なさいよ………あんっ…はぁ…♪」
すっかり弛緩した膣内での射精に、リリカは悪態さえ忘れて愉悦に震えた。

第六話

その一

それにつけても不思議なのは、この廃屋で食事が出ることだった。
周辺は静かな湖畔の森だからして、まあ獲物に事欠くことはないだろう。
しかし、リリカは騒霊なる存在ではあるが、特に狩りが得意そうには見えない。
どうやって食材を調達し、どこで料理をしているのだろうか――
「ほえ? ほんなほほはひひはいほ?」
夕食を口いっぱいに頬張りながら、リリカは目を丸くする。
とりあえず飲み下してから喋って欲しいと、僕は手振りで促した。
「…まず、ここのキッチンはちゃんと生きてるのよ。半分くらいだけどね」
最初に探検した時は、完全な廃墟に見えた。建物は見かけによらないようだ。
「で、獲り方だけど……たとえば、コレ」
リリカが箸の先で、ほっこりと焼けた鮎の白身からさくさくと取り除く。
「魚は割と簡単に獲れるわよ。水の中におっきい音を流すだけだからね」
爆弾ならぬ爆音を用いた漁法だった。獣も轟音で気絶させて捕獲するそうだ。
食後、僕はいつも以上に、散っていった食材の命に感謝し、合掌した。

その二

半信半疑でついて来たが、本当に厨房の水道は生きていた。
考えてみれば風呂の水道も無事なのだ。ここが無事でもおかしくはない。
「ほーら見なさい。じゃ、疑ったバツとして食器洗いよろしくー」
そんな条件は聞いていなかったが、疑った負い目もあって、僕は素直に従った。
……水が冷たい。考えてみればもう冬も間近なのだ。
垢切れにならないよう何度も手を擦りながらの洗い物は、たいそう骨が折れた。
「んー、甲斐甲斐しいねえ。何て言うかこう、いびられてる入り婿みたい」
そう思うなら半分くらい手伝ってもバチは当たらないと思うが。
「ま、あたしなんかは平気だけどね。生身のあんたにはちょっと堪えたかな?」
拭き終わってもなおじんじんとする手を、リリカがそっと握ってくる。
いつ触ってもひんやりとしていたはずだが、今は妙に温かかった。
「雪に触ってから水に触れても冷たくないでしょ。それとおんなじよ」
温度差の妙と言うべきか。それとも、自分にも少しは体温があるぞという話か。
考えている間に、僕の手には少しずつ温もりが戻って来ていた。

その三

「……騒霊はね。魔法から生まれる特殊な霊なのよ」
僕の両の掌を自らの頬に当てながら、リリカは暗く呟く。
「実は、あたしの下にはもう一人、妹がいたのよね」
過去形だった。つまり、すでに鬼籍に入っているということだろう。
生きているのは屋敷の一部のみ。今ここにあるのは全て、過去の物語なのだ。
「妹は…レイラはホントに寂しがりだった。なのに、突然独りぼっちになった」
両手に、ほのかな熱が差す。挟み込んだリリカの頬と、涙の温もり。
「孤独に耐えかねたあの子は、伯爵の持ってた魔法の道具に手を出した」
伯爵――恐らくはこの屋敷の主だった人物なのだろう。
魔法の詳細はリリカも知らないと言う。だが、魔法は確かに成功した。
そして騒霊楽団が誕生する。恐らくは、寂しがり屋の妹を慰め続けるために。
「あー…、何喋ってんだろ、あたし。ごめん、今のナシ。忘れ――」
頬を両手で固定したまま、彼女の目尻に口付ける。
騒霊のこぼした涙は、人間と同じように塩辛く、温かかった。

その四

「……勘違い、してないでしょうね」
部屋の寝台に座らせてやると、リリカはあからさまに不服な顔をした。
「あたしは別に、レイラを恨んでも、憐れんでもいないんだから」
隣に腰かけた僕に背を向ける。顔は見えないが、声は小さく震えている。
「ただ、今でも忘れられないのよ。幻想の彼方に消えた、あの子のことが……」
忘れられた音を奏でる――その能力の由来を、僕は垣間見たような気がした。
そっと肩に手を掛ける。抵抗感はない。
強引にこちらを向かせる。同時に胸に飛び込まれ、反射的に抱き返す。
「………。ちゃんと抱いてよ。手ぇ抜いたりしたら、取り憑いてやるから」
返答はせず、ただ抱きすくめる。
「騒霊が憑くと怖いわよ。毎晩あんたの枕元で葬送曲とか弾くから」
縁起が悪いにもほどがある。やはり根本的には幽霊なのかもしれない。
「だから…ちゃんと抱いてよ……。お願いだから……」
僕はリリカを抱きすくめたまま、出来る限り優しく押し倒した。

その五

「そう、そんな感じで…。うん、落ち着く……」
片腕で頭を抱き寄せる。胸に額を付けさせると、リリカはようやく落ち着いた。
「聞こえるよ、あんたの命の音。落ち着き払ってるのが、少しシャクだけど…」
空いた手で頭を、次いで背中を撫でる。泣く子をあやすなら、この手に限る。
「……普段ならぶっとばすとこだけど…。いいよ、今だけは子ども扱いで」
心底驚く発言だったが、あの意地っ張りなリリカがそこまで言うのだ。
本気で慰撫してやらなければ、この腕がある意味がない。
「あっ……。ん…きもちいいよ。背中もお尻も、全部さわって……」
華奢なふとももが、僕の脚に擦り寄せられる。気のせいか、ほのかに熱い。
尻から太ももに手を這わすと、やはり内股がしっとりと濡れていた。
「指だけじゃ、やだよ……」
秘芯に触れようとした途端、胸の中でリリカが囁く。
「指じゃダメなの…。そこはもう、あんたに大人にされちゃったんだから…」
もぞもぞと、下履きが脱がされていく。僕は頷いて、小さな体に覆い被さった。

その六

恐ろしく濡れた小さな秘裂は、限界まで勃起したモノを、少しずつ
「んん、んあ……ふっ、あああぁぁ……っ♪」
少しずつではあるが、着実に、最深部へと呑み込んでいく。
亀頭冠が肉襞を引っ掻くたびに、小さな体がぴくぴくと跳ね回る。
陰茎が脈動するたびに、幼い膣は媚びるように柔らかく、ねっとりと絡みつく。
僕達は今、お互いの粘膜が生む快楽に、脳の髄までどっぷりと浸かる。
汗にまみれ、涙を流し、迫り来る絶頂の余波に喘ぎながら。
「い、いいよ…そのままイッて…。あたし、あんたの射精でイキたい……」
粘ついた肉襞が蠢動を始める。射精寸前の過敏な亀頭が、過剰に刺激される。
手を繋ぐ。唇を奪う。滾る精を、残らず子宮に叩きつける――!
「うあぁ…ッ! ああ、ああぁっ! あ、熱っ! ふあ、ああぁああぁぁッ!!」
四肢が僕を捕らえる。背中に爪が立てられ、おまけに肩口に噛みつかれる。
意識が飛んで行かないよう、必死に僕にしがみつくリリカが、とても愛おしい。
だから僕は、射精が終わっても、ずっとリリカを離さなかった。

最終話

その一

日が沈む頃になって、何となく気付いたことがある。
窓の外の夕日が、いつもより明瞭に見えるのだ。
霧に滲むような茜色の光は、今日に限ってひどく明るかった。
「あーあ。こりゃ明日は霧が晴れるわね」
夕飯の準備をしているはずのリリカが、いつの間にか部屋に戻っていた。
「何よ、その不審の目は。下ごしらえが終わったから小休止よ、小休止」
リリカは円卓に着くと、羽根の筆で羊皮紙に何やら走り書きを始める。
向かいの席に着いて覗きこむと、何やら川の中で蛙の子どもが踊っている絵が
「違ーう。これは楽譜よ。あたしは今、音楽を図面にしてるの」
そうは言っても門外漢の僕にはおたまじゃくしの群れにしか見えない。
ところどころに文字も散見されるが、横文字なのでやはり読めなかった。
「……ん、完成っと。名前は何にしよっかな〜。あんたも一緒に考えない?」
面白そうな提案ではあるが、謹んで遠慮する。
僕のような野暮天に、彼女の満足いく名前など出せるとは思えなかったからだ。

その二

「そお? もったいないわねえ、作曲の中で一番楽しいとこなのに」
リリカは羊皮紙を両手で掲げると、大きな瞳をキラキラさせている。
純粋に楽しいのだろう。そんな彼女を見ていると、僕まで心が躍ってくる。
「んー…『モナムール』とか? いや、『ヴァレンチノ』…ピンと来ないなあ」
外つ国の言葉だろうか。寺子屋でも耳にしたことがない未知の響きだ。
――しかし、何故だろう。どことなくだが、気持ちが安らぐ響きを感じる。
とても優しい言葉なのだろう。それだけは何となく確信できた。
「やっぱ、日本語で行こうかな。ここは幻想郷だし」
……と、そこまで言ったところで、リリカの顔がどんどん赤くなっていく。
不審に思う隙もなく、彼女は楽譜を後ろ手に隠してしまった。
「……。あんたさ、読み書きはできるよね」
これでも寺子屋での成績はそこそこ優秀だった。…友達はいなかったが。
「じゃ、じゃあ見ちゃダメ! て言うか、今度一人で考える! じゃーねっ!」
そのまま飛び去っていく。あんなに狼狽したリリカを見るのは初めてだった。

その三

夕飯が済み、入浴が済んで、気がつけば夜が更けている。
夜霧は明らかにいつもより薄い。朝に発てば、昼前には里に着くだろう。
「…やっぱりさ、朝になったら帰っちゃうんだよね?」
腕枕を曲げ、体を横向きに。寝台の中で震えるリリカを、そっと抱きすくめた。
「帰ったらどうするの? お仕事とかあるの?」
僕は定職を待たず、内職の依頼をこなして糊口をしのいでいた。
傘張りや、人形の部品作りなど、人と顔を合わせずに済めば大抵のことはする。
「そ、そんなに人付き合いが厭ならさ……いっそ、ここに住んじゃいなよ」
そうは言っても、リリカの一存で決めることはできないだろう。
今どこにいるのか知らないが、彼女の二人の姉が黙ってはいないはずだ。
「お姉ちゃん達もわかってくれるよ。あたしも一緒にお願いするからさ……」
正直に言えば――とても嬉しい。今にも泣きそうなほどだ。
だが、人と人でないものが恋に落ちれば、必ず悲恋に終わる。
どんなに似ていても、違うものは決して交われない。それもまた、天命なのだ。

その四

「…大丈夫よ。ようするに、諦めなきゃいいんだから」
腕の中から顔を出したリリカの表情は、いつも以上に溌剌としていた。
わからない。悲恋になると知っていながら、何故彼女は笑えるのか。
「だって、あたしはあんたが好きだもん」
――不意に、温かくなる。
それは、腕の中で微笑む彼女の温もりか。
「あんたと一緒なら、たぶん死ぬまで幸せよ。…ま、あたしは死なないけどね」
それとも、胸の中に灯った何かの温もりか。
「だから訂正。あんたは死んでも幸せよ。何しろ、あたしが側にいるんだから」
孤独に擦り切れ、倦み疲れ、全てを諦め、痛みさえ感じなくなっていたのに。
彼女のたったひと言で、胸の中の冷たい何かが、みるみる内に溶けていく。
「ほらもー、大の男が泣くんじゃないのっ!」
目尻に口付けされる。右も、左も。大粒の涙が吸い取られていく。
そうして、次は唇。顔にかかる彼女の重みが、今はとても心地好かった。

その五

「ほら、見てよ……」
布団を剥ぎ、馬乗りの状態で、リリカは器用に寝間着を脱ぎ捨てていく。
「あんたとキスしてると、それだけでこんなになっちゃうのよ…」
窓から差す月明かりが、華奢な裸身を闇夜に浮き彫りにする。
生白い肌には薄く紅が差し、桃色の乳首は触れてもいないのに屹立していて
「あんたのせいで、こんなやらしい体になっちゃったんだから…」
片手で押し広げられた女陰は、すでに限界まで蕩け、淫らに口を開けている。
「あんたが…この大人ちんぽで、毎晩あたしの子どもまんこを犯したせいよ…」
握り締められた男根は、やはり限界まで血が巡り、まるで灼熱した鉄棒だ。
「責任……取ってよ。あんたがいない夜なんて、もう考えられないよ…」
――胆を、括らねばなるまい。おなごに、ここまで言わせたのだ。
僕は今、生まれて初めて天命から目を背け、自分の意思で誓いを立てる。
「えへへ、何か照れるね。…ん、約束。ずっと、ずうっと一緒だからね…♪」
即ち、死ぬまで――否、死んで霊になっても、決してリリカの側を離れないと。

その六

「あふ…っ。んもう…挿れただけでイっちゃったの…?」
余裕ある台詞とは裏腹に、押し付けられた腰は、びくびくと痙攣している。
両腕が首、両脚が腰に絡みつく。凄まじい密着感が、同じだけ幸福感をくれる。
僕は彼女に離れないようにと囁いて、射精しながら腰を揺すり始めた。
「ひあぁっ! う、うそ……すごい…やだ、何これ…何これ何これぇっ!!」
固く張った亀頭冠が精液を掻き出して、突くと同時に再び膣を白濁で満たす。
肉襞の隙間まで余すことなく精液を塗り込めながら、飽きることなく射精する。
「好き、好きぃ…。もっと射精して…、あんたが好き…だいしゅきぃ…♪」
僕だってリリカが好きだ。いつの間にか、こんなに好きになっていたのだ。
たとえ里に戻って身を固めたとしても、もはや他の女では一生満足できまい。
もうリリカだけでいい。リリカさえ側にいてくれれば、僕はそれで幸せだ。
「あ、もうダメ…。好き過ぎて、幸せ過ぎて……、イッ…ちゃうぅ……っ!!」
至福の中で二人、絶頂する。胎内に精気を流し込む。最後まで、注ぎ込む。
ぱくぱくと喘ぐ口を、唇で塞ぐ。愛おしむような口付けは、夜明けまで続いた。

その七

――翌日。正午まで寝過ごした僕らは、霧のない湖へやってきた。
七日ぶりに眺める自然。特にお山を染め抜く紅葉は、見事の一語に尽きた。
「んじゃ、ここらでいっちょ、新曲のお披露目といきますか!」
言いながら、リリカは鮮やかな手つきで例の鍵盤を弾き始めた。
湖畔で戯れていた妖精たちが、曲につられて一人、また一人と陽気に踊り出す。
幻想的なひととき。…それが終わる時、太陽はすでにお山の彼方だった。
「……不思議ね。あんたのために書いたってだけで、この曲がすごく愛しいの」
リリカの手には例の羊皮紙。曲名は、未だ書き込まれていない。
「まるで、本当にあたし達の赤ちゃんみたい……」
僕に宛てた、読めない恋文を抱き締めて、リリカは本当に幸せそうに笑った。


屋敷に戻ったら、一緒に初子の名前を考えることとなった。
急いで決めねばならないだろう。
何しろリリカはこの先ずっと、毎日でも子作りする気でいるのだから。

(終)

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