11/07/28(木)21:01:28

1

やっと寺の門が見えてきて、改めて水筒の水を飲んだ。石畳が反射する熱が苦しい。

最近のかんかん照りで嬲られて、その後は大雨大風で趣味兼生命線の畑を台無しにされて。気が立ってしょうがないというか、その立つはずの気も熱で萎えるような今日この頃。
里で聞いた話だが、少し前からできた寺で座禅体験とやらをやっているらしい。なんでもその寺、住職を初め尼僧は美人が勢揃いともっぱらの噂。そんな寺に一週間前後泊り込み、心と身体を鍛え清める。素晴らしい。
動機は不純、胸の中には下心しかないのは事実だが、案外真面目に心身をさっぱりさせたいと思っている。うだつのあがらない暑さのなか、これくらいしないと気が変になってしまいそうだし。
……そんなこんなで、話題の寺にやってきた。
「座禅体験の志望者かい?」
すると門の前で修行などとは程遠いイメージの妖怪の少女が、名簿のある机に座って受付をしていた。蓄えた濃い灰色の髪から生えた、同じ色をした丸い鼠の耳がこっちを見ている。
「……確かに。じゃあ、ついて来てくれ」
少女は俺が名前を告げるとすぐに、鼠の尻尾をふりふり、境内の奥に行ってしまった。小柄なのになかなか歩が早い。

2

通された控えの部屋は広かった。だが何故だろう、座禅体験についてかなり里では話題になっていたのに、今見る限りでは俺しかいなかった。
「お疲れでしょう。ですが申し訳ないことにあと少しで座禅の時間です。それまでどうか、お寛ぎ下さい」
根元から先へ流れるにつれ紫から金色へ。なかなかお目にかかれない髪の色をした、豊満な肢体の女性が冷えた麦茶を持ってきてくれた。俺を案内してくれた鼠の少女と二言三言言葉を交わして奥に消えてしまった。もっと見たかった。
「ん? あれが聖、聖白蓮だよ。ここ命蓮寺の住職」
鼠の少女が教えてくれたのに思わず本当かよ、と粗雑な返答をしてしまった。だってそうだろう。
もう一度住職の姿を頭の中に思い描く。どちらかといえば洋風な黒い法衣の胸元だけ特に鮮明に思い出せた。交錯した帯がぎちぎちに胸を圧迫して閉じ込めていて窮屈そうで……
……なるほど。禁欲にはうってつけだ。自覚してやってるんだろうか。
「何を考えているか知らないが、本当に住職だよ。気にしない方が楽だと思うけどね」
そうだな。どうせ持ち込んだ下心も清められてしまうだろうし。
時間のようだ。鼠の少女の後について本堂に向かった。

3

体験初日ということで座禅は半刻で終わった。
鼠の少女に案内された部屋は質素だったが手入れが行き届いていた。寺なんだから、当たり前か。
「僧坊の一角だから、どうしても香の匂いが染み付いた部屋しか用意できない。我慢してほしい」
なんてことを言いながらお茶まで淹れてくれる。どうやら俺の担当はこの鼠の少女らしい。
「中々こたえただろう。こんな調子で一週間過ごす訳だが、どうだい、耐えられそうかい?」
尖った言葉の割に、鼠の少女は優しかった。座禅を組んでいるときも座り方について色々教えてくれた。
『基本は正座なんだが、毎日やっていると膝小僧がでっぱるよ。不恰好になってしまうのは困るだろう』
『……おいおい、だからと言って無理に安座しようとしなくてもいいよ。それと足の組みが間違ってる』
まさに手取り足取り、濃厚な時間だった。……おっと、煩悩は滅さねば。
「ふふ、脚がしなしなになってる。しっかり揉み解さないと、明日が辛いよ」
するりするりと床をつたって、鼠の少女が近寄ってくる。いや、脚くらい自分で揉める。
「そうカタいコトを言うなよ。“さあびす”さ、“さあびす”。ふふ」
眼の赤が深い。ここ、寺だよな。

4

いや、いいって、大丈夫だって。やるから自分で。大きい灰色の耳に、俺の言葉は届かない。
「君は何のためにうちに来たんだい? こういうコトを全く妄想していなかった訳ではあるまいに」
服の上から脚を触ってくる手は小さかったが、手つきは大人のそれだった。そう言われれば確かにそうだが、常識ある男はそれでこそ夢物語で留めておくもんだろう。
「一般論とか常識とか、そういうのは大概つまらないものばかりだよ。それに今の君が言っても、ねえ?」
冷静でいられたのは会話の上だけで、身体は必要以上に正直だった。当たり前だ、脚を揉むとかなんとか言っておいて実際股間ばっかり触ってくるのだ。んな、妖怪とは言っても、一応女の子が、俺の、俺のを……
「ふふ、反応がいちいち面白いね。心はともかく、君のカラダは純真無垢。なあ、そうだろう──」
──どーてーくん。
股間を弄びながら顔を近づけた鼠の少女は、吐息だけの声でそう言った。おまけに俺の鼻先二寸ほどで、舌なめずりをひとつ。
一種の魔法だった。自称するならそれは自虐だから別になんてことはない。だがそれを自分以外の他者が、特に異性が口にすればそれは男の体を縛る呪術になりうる。

5

「嫌なら嫌と言えばいい。妖怪に組み敷かれるのはあまりいい気分ではないという男もいる」
色白の少女の指が俺のを捉えて好きなように苛めている。それは肌にまとわりつく絹の衣みたいに、執拗にカリと亀頭だけに執着して離さない。
「君のコレ、涙流し始めてる。大して激しくしてる訳でもないのにね」
少女の指にぬるみが帯びている。俺の理性が必死に堪えねばと努力すればするほど、尿道口からその皺寄せが染み出ていく。
亀頭責め。聞いたことがあるだけで、その刺激は知らなかった。自分で実践する気になったこともない。
ひりひりと表現するには心地よすぎる痺れが粘膜から伝わって身体の奥に浸透していく。亀頭冠をなぞられると尻の穴が窄まるほどの痺れが響く。
加えて服に手を突っ込まれて弄られていて、次に何がされるのか予想できない。それも快感を増している要素のひとつだった。
「嫌なのかどうなのか、はっきり言って欲しいんだけど。言ってくれないと消化不良で終わらせるよ?」
不意に幹を鷲掴みにされて、皮ごとぐにゅぐにゅと扱き立てられる。服が、服が汚れてしまう、許してくれ。泣きそうな声でそう嘆願した。
「ふふ、素直じゃないんだな……」

6

嘆願は聞き入れられた。窮屈だった下着の代わりに、今度はより狭い少女の口腔に閉じ込められた。
「んん、ぢゅ、じゅ、ふ、んむ」
壁に背中を預けて未体験の刺激に耐えていた。歯を噛み締め顎をめいっぱい引く。そうするとどうしても鼠の少女と目が合ってしまう。
「チーズの具合から予想するに……三日かな。体験期間中もこうして禁欲するつもりだったのかい?」
自慰を行わなかった日数を看破されて、心底焦った。裏筋の包皮と亀頭の境目を何度も何度も味わうようにして舐められる。こびり付いた恥垢を丁寧に、丹念に掃除するように。結局これも亀頭責めの一種、激しさともどかしさが同居した快感に脂汗がにじむ。
「そんな訳はないよね。潜り込んだ美人揃いの寺で隙あらばすっきりさせるつもりだった、って所かな」
射精の欲求と共に羞恥心も膨れていく。ばればれだ。
「美人美人ってまあ、私は勘定に入ってないだろうけど。厄介なのに目をつけられて可哀想だね君は」
言うなり、喉の奥まで股座の棒を咥え込まれた。目つきが不機嫌だ。自分で言った言葉に自分でむくれている。
頭の前後が激しかった。ぴくぴく震える口内と喉奥の感触にたまらず射精してしまった。

7

「ん、んぐ、じゅ、じゅう」
喉の奥に迎え入れたままの状態で尿道から精液を啜られる。腰が持ち上がってしまう。
「こく、ん、ごく、ぷはっ。……濃いね。粘ついてるし、喉にずっしりくる重さがなんとも、ね」
──美味しかった。他にも様々な褒め言葉を並べて、少女はその言葉で締めくくった。
「今日はこれくらいで。ただ、君の担当は私だからね。毎日一度は部屋にお邪魔させてもらうよ」
自らの口の中を掃除するように、舌を動かしながらの言葉。実に器用だ。
「実は私にとって精液はデザートみたいなものでさ、本命はソレにこびり付いたカスなんだ。
それとこの体験、寺でやっている修練にも付き合わされるからね。終わる頃には汗だくだよ」
なんとも変わった趣味をしている。俺も人の趣味にとやかく言えるほどの大人物でもないので、口には出さなかった。
「いっぱい汗をかいて、いっぱい溜めていて欲しい。そうすれば私がこうして掃除しに来てあげるから」
俺の衣服の乱れをささっと直す。そしてこれまた機敏に戸に手を掛けて、
「私の名前はナズーリン。一週間、宜しくね」
という簡潔な自己紹介と共に鼠の少女は去っていった。嵐のようなひとときだった。

11/07/31(日)05:35:05

1

「おい……おい、朝だよ。起床時間だ」
やっと明るくなり始めた時分に叩き起こされる。命蓮寺の朝は早かった。
寝ぼけ眼を二度三度こすって、十分に濃い眠気の霞を取り除く。開け放たれた襖からの薄明るい空を背景に、灰色の少女が仁王立ち。
「寺では皆を集めて朝一番に体操をする。毎朝ね」
自宅から持ち込んだ鞄を漁る。座禅体験期間中、俺を担当する鼠の妖・ナズーリンはすでに普段着に着替えていた。担当がきちんと身なりを揃えているのに、まさか俺が寝巻きで体操に出て行く訳にもいくまい。
「何をそんなに──」
──!?
「焦って、るんだ、あはっ」
鼠の少女が言葉の途切れ目で力を入れて、俺の腰に手を回す。笑い声交じりに俺を鞄から引っぺがし、布団に仰向けに倒す。俺の下を剥いだその手際は、まるで手品のよう。
何をする、と紡いだ唇は呂律を十分に回せない。体はまだ寝ぼけている。
「何をするって、そりゃあ君、“する”んだよ。朝の一番絞りを頂くのさ。
ふふ、体は寝た呆けてるのに、ココだけはそら……もう、元気じゃないか」
言い返せない。ぴん、ぴんとまだ朝だってのに──いや、朝だからこそ威張りに威張っているソレを指先で弾かれた。

2

何を目当てに、こんな朝から。例によって例のごとく、亀頭だけをなじる鼠に聞いてみる。
「私の経験からしてもね、チーズが一日で溜まる男なんてのは珍しい。そして、それは君じゃあない」
どこから持って来たのか、透明な糸を引く潤滑液を手に馴染ませ、また少女は遊び出す。今度の接触は亀頭だけに留まらず、茎や睾丸にまで及んだ。
「君の、うん、精液がね。思ったより……美味しくて。つい、飲みたくなって」
美食家ぶりを発揮されても困る──などと、きっぱり批判できない俺も俺だ。快楽に理性を絡め取られ、なるようになれと考えてしまう。
「効率よく絞る方法を見せてあげよう」
濃い灰色の髪を揺らして、少女は不意に立ち上がった。次いで裾口に規則的な点線状の穴が空いたスカートを捲り上げて、その中身をまじまじを俺に見せつけ始めた。
「ほら、これを、こうやって塗りこんで……ん、ふ」
裾を唇で咥えて、潤滑液で塗れた手を自らの下着に突っ込む。股間と腰周りを覆う薄布の表面積は広く、外見の歳相応のものを履いていたと言っていい。
下着が潤滑液を吸って少女の肌に吸い付く。幼い丘と割れ目の輪郭も、今や下着の上から読み取れるくらいに濡れた。

3

いま鼠の少女は俺に寝ている。胸板に手と顔を沿えて、腰だけを上下に動かす。
「どうかな、ちゃんと擦れているかな」
人口の粘液で存分に湿りぬめった、太股と股座の三角地帯。その隙間に俺のモノを挟み、ゆっくり慣らすように摩擦する。
潤滑液を蓄えた下着の布地は荒くも意外と優しい。カリ首を女児下着の繊維で引っ掻かれ、性器の側面と裏筋は瑞々しさに満ちた脚の肉で圧迫されて擦られる。
本番より淫靡なこれは、確か素股と呼ぶんだった。もどかしい息が出てしまう。
「ん、いい感じみたいだね。じゃあ、こんなのはどうかな。はむ」
体格差からちょうど彼女の顔の前に来ていた乳首を吸われる。きっちり五回、舌でなぞってから、俺にも聞こえてくるくらいに音を立てて吸う。右の相手が終わったら左の相手を同様に。自分の乳首がこんなに赤くなるなんて、知らなかった。
「ん、ちゅ。ふふ、覚えておくといい。男でもここは十分に感じるんだ。絶頂だって、できるようになる」
それを素股と兼ねて行われるのだからたまったものではない。乳首吸いがひと段落したのち、少女がぷっくり膨れた乳首を指先でこね回し始めたころ、俺は彼女に何も告げずに射精してしまった。

4

「……これじゃあ全然意味がないじゃないか。最後は口に含んで存分に飲むつもりだったのに」
なんで正座をさせられているんだろう。不当だ。
俺と同じく正座をして、自分の下着を広げる鼠の妖怪。潤滑液と俺の精液が混じり合ったものがそこかしこにひっついて、事後の証拠品と認められるくらいに汚れていた。
「これでは飲めるものも飲めない……というか、こんなねとねと混じりのものなど飲める気がしない」
ちらちらと俺の方を見てくる視線は明らかに怒っていた。俺のせいではない。
「君を騙して精液を頂くつもりだったんだから、まあ、バチが当たったのかなあ」
騙した? 何について? 説明されたい事柄が多すぎた。
「いや、別にたいしたことじゃないんだよ。ただ、本来の起床の時間まであと約半刻あるってだけで」
ぎりぎり二度寝できる時間は残ってるだろう、それで許してくれよ。鼠の言い訳は苦しすぎた。
「じゃあ、また起床時間になったら起こしに来る。悪かったね」
二度寝の二文字を聞いてまた眠気が蘇ってきた。だが部屋を出て行く際、少女は耳元でこう囁いた──
『明日の朝も、来てあげようか?』
こんなことを言われては、眠れる男も眠れない。

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