1

「私はね、やるからには何事も徹底したいんだ」
珍しく珈琲など淹れてきたかと思うと、ナズーリンはそんなことを言い出した。
あまりにも唐突な切り出し方に首をひねっていると、彼女はちらりとこちらを見やる。
「だから、まあ、何だ。その……。他意はないんだよ」
ずずいっと、食卓に大きな箱を載せられた。
きらびやかな包み紙で飾られた、一辺が一尺ほどもある――ハート型の箱。
「懲りすぎたあまり、ちょっとばかり大きくなりすぎてしまったけどね」
開けるまでもなく、箱からは甘い香りが漂ってくる。
手に取ると、想像以上にずっしりとした手応えがあった。
「ほら、去年のは実に粗末なものだったから、少しサービスしてやろうかなって……」
箱を手に取ってしげしげと眺めていると、徐々にナズーリンが赤面していく。
「な、なんだよ! 似合わないって笑いたかったら、笑えばいいじゃないか!」
卓上をばんばん叩く彼女にお礼を言うと、さらに赤面してそっぽを向いてしまった。

2

チョコレートの濃厚な甘みと珈琲の苦味走った風味は、最高の相性だった。
久方ぶりの美味に酔いしれていると、ナズーリンはふんと薄い胸を反らしてみせる。
「まあ、当然の結果だね。珈琲だって、チョコレートに負けず劣らず頑張ったんだ」
彼女のことだ。淹れ方は勿論、素材の選定だって随分こだわったのだろう。
僕ひとりのために――そう思うと、無性に彼女が愛しくなってくる。
「ところで、まだチョコが残っているようだけど?」
別に口に合わなかったわけではない。一気に食べ尽くすのが勿体なかったのだ。
「ほう、そんなに上手く出来てたのかい? 実は味見をしてなくてね」
それを聞いた僕は、何の気なしにチョコをつまみ上げると、彼女の鼻先に差し出す
「…………。何の真似だい、これは」
睨まれた。慌てて手を引っ込めようとすると、素早く手首を掴まれる。
「別に……嫌とは言ってないだろう。少し驚いただけだから……そのまま」
手を離すと、ナズーリンはおそるおそるといった様子で、小さなチョコに食いついた。

3

「それにしてもだ」
チョコレートの甘露に頬を緩めたのも束の間、ナズーリンは厳しい目を僕に向ける。
「君ね、その歳で、お菓子を口の周りにくっつけてるのはいただけないよ」
言われて口元を指で拭うと、うっすらとチョコが付着していた。
嬉しさのあまり、夢中で貪り食ってしまったのだろう。僕は手拭いを求めて席を立つ。
「ああ、立たなくていいよ。それくらいの世話、私がするさ」
そう言ってナズーリンは席を立つも、一向に手拭いを取りに行く様子はない。
彼女は実に何気ない所作で僕の傍らまで来ると、身をかがめて――視線が重なる。
「動かないように」
ふ、と目の前が翳った時には、口元に舌を這わされていた。
生ぬるい、柔らかな舌が、丹念に、丁寧に、緩慢に、執拗に、僕の口元を舐っていく。
「ふふ……。唇にも付いてるね。今こっちも綺麗にしてあげるよ」
両手で頬を挟み込まれた僕の唇は、見る間に舌の根元までの侵入を許していた。

4

ゆっくりと、じっくりと、たっぷりと、ねっとりと。
もう一刻ほども、生き物のような舌先に口腔内を掻き回されている。
「ぷぁ、はむ……。くちゅる、ちゅるる……ぴちゃ、ぬちゃ、ちゅる……」
短く息継ぎしては、また口づけの繰り返し。
チョコの甘ったるい芳香と、ナズーリンの甘露な唾液が、水飴のように練られていく。
まるで飴玉のように、僕の理性が少しずつ、着実に舐め取られて、小さくなる。
「おっと、こっちの出番はもう少し先だよ」
ひゅる、と翻った彼女の尻尾が、怒張しきった剛直を根元から縛り付けた。
僕の苦悶の喘ぎを遮るように、再び唇が重ねられる。
長い長い時間をかけて唇の中を陵辱された僕は、すでに意識を手放しかけて。
「ふふ、堪え性がないね君は。でもまあ、気絶されては元も子もない」
そう言って、彼女はスカートをたくし上げた。下には――何も着けていなかった。
「このパンパンに張り詰めたペニスの中身、全部この中に出してもらうよ……?」

5

「ん、ふぅぅ……はあああああぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁ……♪」
座ったままの僕の腰に跨って、ナズーリンは長い溜息にも似た嬌声に喉を震わせる。
熱くとろけた肉壷が、甘露を滴らせながら赤銅色の剛直を呑み込んでいく。
だが、この小さな体躯だ。見る間に一番奥に届き、その衝撃でさらに小さく締まる。
「ひゃぁあ……♪ なか、ごりごりって……すごいよぉ……」
その度にナズーリンは、鼓膜を溶かすような声で鳴き、それがさらに怒張を滾らせる。
蜜で吸い付く肉襞は、あらゆる方向から満遍なく僕を包み込んで、搾り上げて。
「お願い、早くイッてぇ……。このまま続けたら私、ダメになっひゃうぅ……!」
すでにもつれつつある舌を、唇で捕まえて、チョコの残り香を楽しむように舐り回す。
「ぁ、なにこれ……! ひっ、ひうっ! あはぇ、あへぇええええぇぇ……っ♪」
舌をしゃぶられながら一番奥を小突き回され、小さな背中が海老反りに跳ねる。
それをがっしりと抱きとめると、彼女は両脚でこちらの腰を抱き返してきて。
最大限の密着感をたっぷりと味わいながら、彼女の中に滾る白濁をぶちまけた。

6

「あ、へぁ、ふああぁぁぁ……♪」
絶頂と膣内射精の余韻に、ナズーリンは声にならない嗚咽を漏らす。
耳元に感じる吐息と、呼吸とともに収縮を繰り返す媚肉に、愚息が再度、昂っていく。
「君という奴は……そんなに私を孕ませたいのか……?」
少しづつ腰を使い始めた僕を、呆れと期待の入り混じった目で見るナズーリン。
返答の代わりに、僕は残ったチョコを口に放り込んで、そのまま彼女と唇を重ねた。
「ちゅ、ちゅっ……ちゅるっ……。すごく、甘い口づけだね……」
繋がったまま、絡み合ったまま、密着したままの口づけは、とてつもなく甘露だ。
少しずつチョコの味が薄れ、すべてが溶ける頃。僕たちは一対の雌雄に戻っていた。
「ああっ、溶けちゃう! 今また中で出されたら、君の子種で溶けちゃうよおっ!」
喜悦の涙で可愛い顔を蕩かせながら、再度の絶頂の予感に彼女は僕にしがみつく。
「あ――あ、あ、あっ、――あああああ、あああああああああああああああっ!!!」
二度目の膣内射精。逆巻く快楽の渦に、僕たちは為す術もなく呑まれていった――。

7

「――まったく、無茶をしてくれたな君は」
大の字に倒れた僕と繋がったまま、ナズーリンは膨れっ面をしてみせる。
しかし、すぐに甘える子猫のように、胸に頬を擦り寄せてきた。
「……でも、最後の口づけは最高だったよ」
そう言いながら、彼女は僕の唇を奪う。
先ほどの甚振るようなものではなく、小鳥がついばむような口づけ。
「ふふ、隙ありだ。本当に無防備だね、君の唇は」
二度、三度。ちゅっちゅと連続で口づけの雨が降る。
「無防備すぎて――愛おしいくらいだ」


柔らかな唇が、次第に長く触れるようになっていく。
そんな中、僕は確信めいた予感をしていた。
来年の今頃は、彼女とさらに甘い口づけを交わしているのだろうと――。

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