一話

1

最近同僚の視線を痛いほど感じるようになった。
原因など分かりきっている。足元どころか数歩先の床まで見下ろせなくなって何日目だろう。
元々天女は胸が大きいものだが、自分より大きな者はもはや同僚に一人もいない。
太ったのならまだ自分で納得も行くだろうが、腰回りの増量分など胸に比べれば微々たるもので
ウエストに至ってはそのくびれが消えたことなど一度としてない。
それなのにこの乳房は片方だけで赤子が入っているのかと疑いたくなるような大きさと重さを誇り、
常に張りつめながら成長しているのだから邪魔で仕方ない。
半月前に買ったブラジャーなどすでに悲鳴をあげ始めている状態だ(スカートなどまだ余裕なのに)。
これ以上大きなものを購入するなら間違いなく独り暮らしの家計を圧迫するのは明白である。
かと言って薬の服用をやめるわけにもいかない。私は竜宮の使いであって牝牛ではない。
母乳を垂れ流すような女になってたまるものか。

2

とはいえ贅沢は言ってはいられまい。そろそろ本格的に購入を検討すべきだ。
―――そう私は今、搾乳機を買うべきかどうか本気で悩んでいる。
ようは公務中に母乳を溢れさせなければいいのだ。
この肥大化した胸が作るミルクを漏らすことなく搾りだせば済むことだ。
ここ最近私はそう思い立ち、できる限り搾乳機を調べている。
とはいえ小型のものでは心もとなく、本格的なものでは値段の問題がある。
このままでは非常にまずい。私の胸は絶対に待ってなどくれないだろう。
現に一昨日あたりから抑制剤を飲んでいるのにも関わらず漏れ出す母乳の量が増えている。
“空飛ぶホルスタイン”などという有り難くない称号を得てしまうのも時間の問題だ。
そう思っていた矢先、助け舟がやって来た。

3

なんてことはない。今の状態を思い切って薬師に相談したのだ。
そうしたら彼女は搾乳機の貸付を提案してくれたのだ。
その交換条件に私の母乳を仕入れさせてほしいという。なんでも精力剤の原料にするのだとか。
確かに天女の母乳は昔から“愛の妙薬”などと重宝されると聞いているがまさか自分の母乳が……
しかし提示された価格は悪くないものだ。副収入としては十分すぎる。
私は彼女の提案を飲み、母乳の出荷を始めることにした。
纏まった収入が手に入り次第、この胸を本格的にどうにかする方法を考えよう。

二話

1

休日の朝だ。いま我が自宅には搾乳機が一台ある。永遠亭の貸し付けてくれたなかなか本格的な部類だ。
ご丁寧に搾り取ったミルクを蓄える大型容器まで付いている至れり尽くせり仕様。
――とはいえこうまで大きいと狭い自室がなおさら窮屈に感じるが致し方ない。
寝起きの今は抑制剤の効果が切れる頃合いだ。早速乳搾りに取り掛かろう。
私はベットに腰かけたまま服も下着も取り払い乳房を外気に晒した。
布に引っかかった胸が重量感たっぷりに揺れる。改めて閉口したくなる重さだ。
以前戯れに計量したことがあるが、片方が3kg越えという見たくない事実を知るだけだった。
けれど、今まで蓄積された分を搾りだすのだから今日で少しは減量できるはずだ。
大型容器にホースが繋がれている事を確認する。搾乳機の吸引カップを胸に押し当て固定する。
出力を最大にして機械のスイッチを入れ、私は自身の搾乳を開始した。

2

よく気持ちよくなった状態を「快感が突き抜ける」と形容すると思う。
私のそれはそんなものじゃなかった。「快感が私を貫通した」のだ。
カップの中を、ホースの中を母乳が白く染めるたび、私の脳が焼き切れるようだった。
快感で叫びそうになっても声が出ない。それ以上に息ができない。
完全に体が仰け反り胸が天井の方を向く。目を開いているはずなのに何も見えない。
胸の奥からマグマのような高熱がどんどんと湧き出て、それが吸引カップの中で白いミルクになるたびに
筋肉に、横隔膜に、心臓に伝えられる信号が全て快感に塗りつぶされる。脳の中身が快感に置き換わっていく。
全身が痙攣しているのが分かる。股間から液体が流れてきていることも感じる。
それでも私にはこの快感の洪水に流されまいと必死に耐えるので限界だった。
もう耐えきれない。意識が遠のいていく。まさか、このまま、死――――――

3

不意に目が覚めた。腰かけた状態でベットに倒れこんでいたらしい。
見下ろすと胸に取り付けたカップはまだ吸引を続けているが、ほぼ吸い尽くしたらしい。
時計を見やると昼過ぎだ。気絶してから大分時間がたっていた。
私は機械のスイッチを切り、カップを胸から取り外した。
外した衝撃で乳房はどたぷんと揺れたが、その感覚は以前のものとは大きく違った。
なんて、軽い―――
母乳を出し始める前に比べればまだ重いが、あの張りつめた感覚がすっかり抜けおちている。
大型容器を見ると、中には白い液体がなみなみと入っている。
確かこれは50Lは入るはずだが、それがほぼ満杯になっているとは。通りで胸が重くなるわけだ。
それにしてもお腹がすいた。朝食を食べていない上あの重労働の後だから当然だろう。
何かお腹に入れよう。そう思って私はキッチンに向かった。

三話

1

ゴオンゴオンと機械の駆動音が鳴り響く。ホースの中が白く染まり容器には液体が溜まっていく。
今私は出勤前に行われる新しい習慣―――搾乳を行っている。
もちろん吸引カップを着けているのは自分自身の乳房だ。胸の先からカップの中へ母乳があふれ出ている。
休日に初めて搾って以来、私は何度か試行錯誤するうちに気絶せずに搾乳できるぎりぎりの加減を会得した。
もちろん気を抜けばすぐにでも気絶しかねないが、なるべく多く搾るために仕方がない。
意識を保てても、漏れ出てしまう艶声と体を襲う痙攣が曲者だ。朝からこんな声を近所に聞かせるわけにはいかない。
タオルを噛みしめて必死に声を殺し、痙攣する体を抱きかかえて搾乳の終わりを待つしかない。
次第に胸からあふれ出る母乳が少なくなっていき、やがて湧き出なくなる。私は機械のスイッチを止めた。
初搾りの際には20Lも出た母乳が、今では10L行くか行かないかぐらいだ。あの時は相当溜まっていたということだろう。
しかしここまで搾っても昼頃には胸の先から滴らせ始めるのだから油断はできない。
勤務中は流石に搾乳はできないので、母乳抑制剤を服用してから出勤するのである。

2

搾乳を始めてから胸の大きさもかつてのものに戻りつつあることもあり、以前感じていた同僚の視線はなくなったようだ。
肩にかかる重しもなくなり公務時の移動も苦でなくなったこともあり、自分でも笑顔が増えつつあると思う。
そんな様子を見た同僚に最近何かいいことがあったのかと聴かれることもあるが、正直に言えないのは困りものである。
その日の帰りがけ、日用品を買いに行った折のことだ。道行く婦人がとある下着のうわさをしているのを耳にした。
「スキマブラ」という名で、八雲商事が発売し始めたブラジャーらしい。
なんでも、ブラの中にスキマを仕込むことで胸を小さく見せる効果があると。そしてスキマの先で搾乳サービスを受けられると。
あのヒマワリ畑の妖怪や寺子屋の教師が使い始めたとも話していた。
私は相も変わらず足元を完全に隠す胸を見下ろしながら考える。
出勤前や帰宅後は搾乳も出来ようが、昼間はそうもいかず未だに抑制剤で対処しているのが現状だが
もしブラのうわさが本当ならば薬を用いずともよくなるかもしれない。
搾り取った後の母乳は永遠亭に卸さなければならないが、一考の価値はあると思えた。

3

ドアを開けたとて独り暮らしではお帰りの言葉は帰っては来ない。それでもリラックスは出来るものだ。
夕食もそこそこに私は胸を晒しだす。薬で抑えているとはいえ溜まっているようで朝出掛ける時よりも胸は重たげに揺れる。
そして朝と同じく吸引カップを胸に取り付けて、夜の搾乳を開始するのだ。
声を殺すのは一緒だが、夜は痙攣のままに体を快楽にゆだねる。心地よさと快感で思わずうっとりとしてしまう。
垂れ流しではないがこれでは乳牛も同じではないか―――そんな理性の警告など一切無視して私は今夜も搾乳するのだ。

四話

1

ここは何処……私は確かに自宅で床に就いたはずだ。それが目の前に広がるのは見たこともない暗闇ばかり。
腕は後ろで結ばれているようで動かせず、さっきまで寄りかかっていたクッションに固定されたらしく立ち上がれない。
監禁されたと見ていいだろう。何の目的なのかは検討もつかない。独り身を拉致しても金銭は要求できないだろうに。
それにしてもこのクッションは奇妙だ。固定されていると思っていたがどうやら私の体についているらしい。
胸についているそれに触ると、なぜか自分の体に触れたような感覚がある……胸?
闇に慣れてきた目に飛び込んできた光景は、脳の処理を遅らせるのに十分衝撃的だった。
乳房だ―――それも体を預けられるほど肥大化した。喉から声さえ出せないほど驚いた。

2

遅延した脳が活動を始めると、更なる感覚を覚える。
胸がキツイ。母乳が溜まった感覚は今までも経験済みだが、これはその比ではない。
胸の奥からこみ上げる感覚があるのに、いつもなら漏れ出てしまうミルクが一向にあふれ出てこない。
パンパンに張った胸がほんの少しずつではあるが大きくなっているのを感じる。
それに先ほどから胸が疼いて仕方がない。生殺しになる程度の快感が存在し続けている。
手の使えない今、搾乳するならば誰かの助けが必要だ。暗闇に誰かいないかと呼びかけた……つもりだった。
「ンモ〜ンモ〜……!?」
なんだ今の言葉は!? 私は確かに「誰かいませんか」と言ったはずだ。それがこんな鳴き声しか出てこない。これではまるで……
周りから声が聞こえる。私の声につられたのだろうか。
だがそれは先ほどの私と同じ鳴き声だけだった。それも相当切羽詰まった感覚を覚えるもの。
姿は見えなくとも、どうやら私と同じ状態の人たちが何人もいるらしかった。
と、鳴き声とは別の音が聞こえてきた。靴音だ。こちらに近づいてきている。

3

だが靴音は遠くの方で止まる。その地点でなにやらガサゴソ音を立てているが鳴き声の方が大きくよくわからない。
また別の音だ。何かの機械が駆動音を発している。機械音が鳴り響くと同時に鳴き声の一つが変わった。
先ほどまでの懇願の意ではない、なぜか艶っぽい恍惚とした声になっていた。
また靴音が近づいてきて止まる。機械が駆動し始める。鳴き声の一つが蕩けたものに変化する。
私は理解してしまった。あの靴音の主はここにいる者たちに搾乳をしているのだ。
私は鳴いた。ただひたすらに靴音に気付いてほしくて。
私とて胸が疼いて仕方ないのだ。乳房の中で母乳は埋もれ火となって燻り続け、
より敏感にさせながら自身の体をひたすらに焦らし、終わりのない苦しみを与え続ける。限界なのだ。
イきたい。今すぐにもこの胸からはしたなく母乳をまき散らし解放の快感を味わいたい。
この胸を膨らませ続けるミルクを搾りだし絶頂をしたい。
喉が枯れるほど鳴き続けた私の前に、ついに靴音の主がやってきた。
性別さえわからないその人物は私の肥大化しすぎた胸の先に吸引カップを取り付ける。
そして機械のスイッチを入れて……

4

「んモおおおぉぉぉぉ♥」
射乳と同時に絶頂した。快感が頭に杭のように貫かれるのを感じた。
全身の筋肉は激しい痙攣をおこす。思わず頭が仰け反っていく。
「んモぉぉ♥んモぉぉ♥んモぉぉ♥んモぉぉ♥」
カップの中にミルクが溢れるのと同時に何度も絶頂する。
母乳と同時に理性や知性など心あるものとして大事な何かが抜けて落ちていくような錯覚。
口からは涎が、目からは涙があふれ顔もずぶ濡れになっていく。股からも激しく液体が溢れ出す。
気絶さえ許されない快感が大波となって私の儚い精神を悉くへし折っていく。
気持ちよすぎる。今までの人生で感じたすべての喜びも楽しさも塵となるほど暴力的で
もはや搾乳さえできれば他を捨ててしまいそうなほどの快感地獄。
私の姿はもはや竜宮の使いではなくどう見ても……

5

目が覚めた。どうやら夢を見ていたらしい。
あまりにも寝汗が酷い。寝間着がバケツの水を被ったようにびしょびしょに濡れている。
――どうやら汗だけではないらしい。胸の先がべちょべちょになっている。
それに対し濡れた衣類を着る不快感でも、締まりのない自身の体への恥ずかしさでもなく、
「気持ち良かった」と最初に思ってしまったのは気のせいだと思いたかった。
……私はどうやら、本格的に乳牛になり始めているらしい。

五話

1

今日は朝から清々しい。自身の胸に煩わされない生活など久しぶりだ。
私が今着用しているのは噂になっていた「スキマブラ」だ。
ブラの中に取り付けられたスキマに胸を入れることで胸の重さと大きさを誤魔化せ
更には何処でも搾乳をしてくれるサービスまで付いているという一品である。
ミルクを永遠亭に卸している現状をどうすべきかということを購入前に気にしていたが、
どうやら搾り取ったミルクは指定した場所へ運んでくれるらしい。ますます至れり尽くせりである。
ただ時折メンテナンスが必要だとのことで、搾乳機は相も変わらず必要となるらしい。
それにしてもここまで体が軽いのはいつぶりだろうか。
搾乳からも、抑制剤による胸の圧迫感もない。肩にかかる重量感もない。
今現在も自分は搾乳されているはずだが、暴力的な快感もない。
感覚を遮断してくれているのだろうか。ますます手放せない代物である。
そうこうしている間に勤務時間も終わりだ。今日は特に必要なものもないので早々に帰路につく。
夕食もそこそこに済ませて、シャワーで汗でも流そうと服を脱ぐ。
スカートに下着、上着を脱ぎ、そしてブラジャーを外し……

2

「○×△☆♯♭●□▲★※♥」
快感が爆発した。声にならない艶声が口からあふれ出る。
脚の力がなくなりガクガク震え、胸の重みに耐えかねてその場にへたり込む。
その振動が胸へ伝わりブルンッと揺れ、更なる快感が襲う。
快感に押し出されるように胸の中に残っていた母乳が吹き出し、それが更に追い打ちをかける。
「○×△☆♯♭●□▲★※♥○×△☆♯♭●□▲★※♥」
開いているはずの眼が見えない。耳に入っているはずの音が聞こえない。
ただ脳が感じるのは胸を基点に襲い掛かるエクスタシーの暴力だけだ。
あの初搾りのときと同じだ。全身が、脳が、快感の信号に支配され破壊されるあの感覚。
ただ、あの時に比べて体が慣れたらしく、気絶だけは何とか踏みとどまった。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」
処理を終えた脳が欲するままに、肩で呼吸し酸素を取り入れようとする。
幾分かしたのち体も落ち着いてきたのか、次第に息が整えられてきた。

3

後日知ったことだが、実はスキマブラにも欠点があるらしい。
着けている間こそ何も感じなくなるが、それはただ感覚が遮断されているわけではない。
なんと着用時の感覚は全て「蓄積」されてしまっているらしい。
下手に抹消すると不都合があるらしいが、胸に爆弾を抱える結果となってしまうという。
ただ蓄積させるだけであり増幅されるわけではないから、こまめに外せば防げる事故ではあるという。
快感の台風は過ぎ去った。床は母乳と股から溢れた液体で濡れてしまっている。
先にブラ以外を脱いでおいたのは幸運としか言いようがなかった。
そんな私の口から出てきた最初の言葉は、認めたくなかったが嘘偽りなく私の本心なのだろう。

「最、高……」

私はもう、心の一部が乳牛と化しているらしい。

六話

1

ああ、またこの夢か……。最近になってとある夢をよく見るようになっている。
私は今人里にいる。無論夢の中のだが。胸丸出しで棒立ちである現状が夢でなければ穴に入りたいぐらいだ。
それにしても、先ほどから乳が張って苦しい。現実ではスキマブラのおかげでそんなことはなくなったのに、
夢の中の胸はいつもこうなのだ。自然と漏れ出ることもなく、かといって母乳の生成が止まることもない。
パンパンに張りつめた胸が少しずつ膨らんでいるのが分かる。自身の体のはずなのにどこまで私を苦しめ続けるつもりなのだろう。
そんな私の方へ、雑踏の中から近づいてくる人影が見えた。
母と子の親子連れというごく普通の組み合わせだ……手に持っているのは小さいが明らかにミルク缶だが。
こうなると流れはほぼ同じだ。私は前かがみの体勢になる。ふたりは私の胸の下に来るようにミルク缶を置く。
そう、これから私がされるのは、搾乳だ。

2

「んモおおおぉぉぉぉ♥」
自分でも信じられないほどの声量で、快感の艶声が口から飛び出した。
夢の中で私が発せられるのは鳴き声のみ。それでも私は本能のままに歓喜を体をもって表し続ける。
母親の手で搾られるたびに母乳が缶へ吹き出し、そのたびに快感の信号が脳を貫く。
「んモぉぉ♥んモぉぉ♥んモぉぉ♥」
恍惚とした声が私の喉から迸る。けれど……本当はまだ足りないのだ。
相も変わらず気持ちいいのだが、絶頂まであと少しというところで届いていない。
乳を搾られるたびに沸き起こる感覚に、体の芯に悶々としたものが蓄積していくのが分かる。
気づくと、搾乳している母の傍らにいたはずの子供が、母親と反対側にいる。
その視線の先にあるのは、まだ搾られていない私の乳房。
少しずつ私に近づいて、私の乳房を小さな手に取り、乳首をその口に近づける。
私は確信した。これで本当にイける。もう少しで絶頂出来ると、そして……

3

「んモおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ♥♥♥」
脳が、中枢神経がスパークする。奥底に溜まっていたものがその火花で大爆発を起こしたような錯覚。
ただの快感では治まらない。至福とも言うべき感覚に恍惚とした声がこだまする。
子供の口が私の乳首に吸い付くたび、その口の中に母乳が溢れるたびに、私の心が熱く心地よいもので満ちていくのがわかる。
「んモおおおぉぉぉぉ♥♥んモおおおぉぉぉぉ♥♥んモおおおぉぉぉぉ♥♥」
自然と搾られている側の乳房も、母乳が吹き出す量が増えている。
両胸から出る母乳が増えるたびに快感が増大し、快感によってミルクの量が増える、快楽のらせん階段。
もはや他人から見ても、ここにいるのは龍神様の言伝を知らしめる竜宮の使いではないのだろう。
ここにいるのは、乳を搾られ、吸われる度に快楽によがり狂う一頭の牝牛なのだ。
それでもいい。今の私はとても幸せだ。こんなにも幸福ならば、もう私は牝牛となって……

4

目が覚めた。いつもうるさいと思う目覚ましの音には毎度救われているのかもしれない。
ここ最近の夢は酷い。どんどんと精神的に堕ちるとこまで行っているのだ。
胸の先をさする。スキマブラをしながら寝ているため、このような夢を見ても胸の先を濡らすということはない。
無論乳が張るということもない。けれど……
「……はぁ」
分かっている。私の中でとある欲求が夏の入道雲のようにどんどん膨れ上がっているのが。
私はあの夢の中のように「誰かに母乳を飲んでほしい」のだ。
それも搾られた既製品ではなく、乳首から直接吸ってほしいのだ。赤子のように飲んでほしいのだ。

5

「そんな事、出来るわけないのになぁ……」
そうだ。私がそんな願望を叶えることはできない。社会的地位の問題ではない。
天女の母乳は媚薬や精力剤の原料になれるほどの劇物。おいそれと他人に飲ませていいものではない。
これが普通のミルクだったら何かしら方法があったものなのに……
悩んでいても仕方のないことだ。今日も仕事を休むわけにはいかない。
私は立ち上がる。朝の準備を始めるために。

七話

1

“誰かに母乳を飲んでほしい”などという悩みが他人に相談できるわけもなく、欲求不満ばかりのある日の事だった。
人里で買い物をしていたときに、偶然にも八雲の式に出会った。
無論彼女もよく人里に買い物に来るので、出会うことそのものは珍しいことではない。
しかし、彼女に言われた一言は今までに言われたことはない。
「……飲んでほしい、って顔に出てますよ?」
声には出さなかったが仰天するしかなかった。出会ってすぐに言われるとは。そこまで心のうちに溜まっていたのか。
傾国の大妖に相応しい妖美な笑みを浮かべながら、彼女は一枚の紙を差し出した。
「弊社の商品をお買い上げの方だけのサービス、受けたくありません?」
渡された紙には簡単な地図が描かれている。ここに行けということらしい。
「お暇な時にいつでもお越しください」
そう言い残し彼女はどこかへ歩いて行った。

2

休日に私は件の場所へ向かった。そこは人里離れた一軒のボロ小屋だった。
あまり近づきたくはない部類の建築物に躊躇したが、意を決して扉を開ける。
不思議なことに中は狭くはあるが綺麗な部屋だった。あの八雲が用意したのだ。別の場所への入り口だったのかもしれない。
部屋の中には大きな背もたれの一人用ソファとテーブルが一組。テーブルの上にはメモが一枚と、ブラジャーが一つ。
ひとまずメモの方を読んでみた。どうやらこのブラジャーと部屋が例の“サービス”らしい。
また、なかなか“刺激的”らしく汚れないよう注意とも書かれていた。
ブラは八雲商事の“スキマブラ”のようだが、白黒斑模様のものは見たことはなかったはずだ。
ともかく“サービス”を受けてみよう。まずは服を脱いだ方がいいかもしれない。
ここには誰もいないし、扉も鍵がかけられるようなので下着まで脱いでおく。
そして用意されたブラを取り付ける。するといつもとは違う感覚を覚えた。スキマブラなのに胸が重い。
感覚遮断がないということなのか。ひとまずはそのままソファに座り込んだ。
一体どんなサービスを受けられるのか。そう思っていた矢先だった。

3

“ムニュリ”「ひゃうっ!?」突然の刺激に思わず間抜けな声が漏れ出た。
今のは間違いなく、胸を誰かに揉まれたのだ。だが刺激はそれだけで終わらない。
ブラの向こうで誰かが胸を揉みしだいている。おっぱいを渇望しているのが伝わるような
荒々しくも的確に刺激する手つきに次第に声が潤んでいく。
「あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥……」
揉まれるたびに体が熱くなっていく。熱が体から胸へ伝わるのが分かる。
熱がマグマのように胸の先へと沸き起こり、母乳となって吹き出した。そして……
「ひゃうぅぅぅぅぅぅ♥」
間違いない。これは“乳首を吸われている”。文字通り夢にまで見た感覚が今現実のものとなっている。
「うっ嘘っ!? わたしの♥おっぱい♥吸われてる♥♥」
そう認識した瞬間、母乳の量が急に増えたのが感じ取れた。
牝牛だ。今私は名実ともに牝牛となったのだ。思えばこのブラの柄も、とある牛の模様にそっくりだ。
―――そう思ったとき、私のなかで何かが外れた音がした。知性の枷が外れる音だった。

4

「ンモオォォォォォォォォ♥♥」
私は鳴き声をあげた、あの夢の中のように。けれどここは現実。夢のように強制されたわけではない。
なのに鳴き声をあげた。私の心がそうとしか望まなかったから。
「ンモオォォォォォォォォ♥♥ンモオォォォォォォォォ♥♥」」
両の乳首が吸われ、ミルクが吹き出すたびに牛のようなおたけびをあげる。
胸がより多くの母乳を作り出す。吹き出すたびに知性が溶けてなくなっていく。
見えなくても自身の顔から締まりがとうに消え失せたことが分かる。
浅ましく雌の悦びに悶え、涎と涙を止めどなく垂れ流す。この姿をみて竜宮の使いと分かるものなどいやしないだろう。
どこまでも、いつまでも乳を吹き出す私は、もしかしたら最初から牝牛だったのかもしれない。
ただ竜宮の使いの衣を纏い、言葉を話していただけで、本当は乳牛だったのではないか。
今はそれさえどうでもいい。ただ、この吸われ飲まれる幸福に身を捧げ続けたい。
「ンモオォォォォォォォォォォォォォォォォ♥♥♥」

5

はっと目が覚めた。どうやらあのまま気絶していたらしい。
ソファの傍らを見ると、八雲の式が立っていた。
「いかがでしたか。私共八雲商事のサービスは」
式の話では、このサービスとはどうやらとある者たちに授乳するものだったらしい。
彼らは外から連れてこられた“食料”だという。なんでも生への渇望を高めより美味とするため
時たまこのように彼らにひと時の悦楽を与える一面もあるのだとか。
私は人肉を食さないタイプの妖怪なのでいまいちピンとこないが、これによって品質向上に成功したそうな。
「次回もご利用なさいますか?」
八雲の式が問いかける。今の私にはもう拒否することはできない。
「ぜひ、利用させてください……」
私は、紅い衣を纏った牝牛なのだから……

八話

1

休日の朝。いつもならば何処か出かけたくなるものだが今日に限ってはそうはいかない。
いつもお世話になっているスキマブラの数少ない欠点、定期メンテナンスの日なのだ。
常時空間を繋げる代物だけあって不調があれば大事故になりかねないため重要なのだが、
私の胸はスキマブラなしでは外出もままならない牝牛おっぱいである。
このような事態のために搾乳機は未だに家に置かれているし、万一のために「乳止めの呪符」も手に入れた。
この呪符は胸に貼り付けることで母乳が噴き出るのを防ぐ効果がある。
もっとも、止められるのは出てくる分だけで、胸の中で生成される分は止めることさえできないためあまり使いたくはないが。
そういうわけで本日は搾乳機から離れずに過ごすことになる。早速吸引カップを胸に取り付け―――ようとした矢先だった。

2

「衣〜玖〜、いるんでしょ〜。中入れなさいよ〜」
玄関をドンドン叩く音とともに聞こえるあの声。間違いない、総領娘様だ。しかしなぜこんな朝早くにここに……
「今日は一緒にお出かけする約束でしょ〜。アンタ忘れてないでしょうね〜?」
……何ということだ。私としたことが完全に頭から抜けていた。
スキマブラを買うよりさらに前に、確かに今日という日に“出掛けることを約束していた”事を!
「すっすみません! 準備がまだですのでもう少々お待ちを!」
もう搾乳する時間なんてない。よりにもよって呪符の方を使うことになるとは。
乳房に呪符を貼り付け普通のブラをその上に着ける。外出に差し支えのない恰好に急いで着替えた。
「もう遅いじゃない! 早速行きましょうよ。時間が無くなっちゃうわよ」
「申し訳ございません。ちょっと寝坊してしまったので……」

3

総領娘様と人里の中を歩く。私の隣で彼女はなかなかご機嫌なようだ。
それにしてもやはりと言うべきか、胸が張って苦しくて仕方ない。
母乳が中で湧き出ているのが実感できるが、最近スキマブラに慣れたせいで余計に苦しく感じる。
「衣玖、アンタなんか顔色悪いわよ?」
「そっそうですか? 気のせいだと思いますよ」
悟られぬよう必死に誤魔化す。「おっぱいがパンパンで今すぐ搾りだしたいんです」など口が裂けても言えるわけがない。
「仕事で疲れてるんじゃないの? 無理しないでどっかで休みましょうか?」
「いえ、お気遣いなさらずとも私は大丈夫ですよ」
「そんなこと言って〜。あそこの甘味処でお茶にしましょうよ。私が奢るからさぁ」
断る私の手を引っ張って、総領娘様によって強引に甘味処へ連れていかれてしまった。

4

話は変わるが、乳の出が悪い場合はよく餅の類を食べると良いとされる。
ただ効果が強いらしく、乳の出が良い場合は逆に張ってしまい苦しい思いをするとか。
なぜこんな話をしたか。目の前に置かれた物を見ればどういう状況か分かるだろう。
―――大量の“大福”。総領娘様に悪意がないのがまた酷く感じる光景である。
「どうしたの衣玖? あんた大福嫌いだったかしら?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
「ならほら食べて食べて。甘いもの食べてリラックスしなさいよ」
むしろリラックスできない状況ですなどと言うわけにもいかず、私は総領娘様の言うままに大福を食べ始めた。
「どう? おいしい?」
ああその笑顔は素晴らしいですよ総領娘様。胸さえこんな状況でなかったらどんなに良い時間か。

5

先ほどの大福が余程効いたらしい。甘味処に入る前よりさらに張りが強くなっている。
痛覚が発生し始めるほど母乳が作られているらしく、ブラの中がぎちぎちになっていた。
「衣玖、アンタホントに平気? なんか気分悪そうだけど」
「ダッ大丈夫ですよ!? 本当になんでもありませんから」
そうは言っても顔色に出ていることは私自身自覚している。一刻も早く搾乳しなければパンクしかねない。
どこかでお手洗いでも借りるべきか。そう思っていた時だった。
……おぎゃぁぁぁぁっ!! おぎゃぁぁぁぁっ!! おぎゃぁぁぁぁっ!!
何処からか聞こえてくる赤子の泣き声。それは腹が空いたことを母親に知らせるものだろう。
泣き声が聞こえた瞬間、私の中で何かのスイッチが入ってしまったらしい。
途端、胸に電流が走ったような感覚を覚えた。まずい、これはすごくまずい。
思わず人手のない路地裏に駆け込む。そのまま稚児の泣き声が聞こえぬ距離まで進んだ。
後ろの方で静止するよう呼び止める総領娘様を置き去りにして。

6

人も妖怪もいない、動物もなにもいない路地裏で荒い息をし続ける。
朝から母乳を作り続けた乳房が赤子の声を捉えた瞬間、その量を何倍にも増やしたのだ。
限界だった。もう猶予などない。すぐにでも搾らねばこの胸は爆発してしまう。
恥も外聞もかなぐり捨て、逸る気持ちのままに上着の前を開けた。
そしてブラに手をかけたとき、総領娘様が追い付いてきた。
「なっ衣玖アンタなにやってんの!? こんなところで服脱いでどうしたのよ!?」
顔を真っ赤にして私の痴態を指摘し始めた。けれどこの事態は誰のせいだと思っているのだろう。
甘味処で大福を食べさせたのも、乳搾りを邪魔して出掛けることになったのも、第一この胸が母乳を出すようになったのも
思えは全て、この娘のせいではなかったか。
そう思った瞬間、私の中でささやく声が聞こえた。あれはきっと私の中の……“牝牛”の声だ。

7

「総領娘様が悪いんですよ……」
ブラを外しながら近づいていく。外気に触れた乳房が重量感豊かに揺れ動く。
「貴女が私の胸を、こんなにしたんですよ……」
貼られていた呪符を引っぺがす。溜まっていた母乳が漏れ出るが、中にある量に比べればうんと少ない。
「だから、総領娘様……」
「衣玖……? 何する気なの!? やだ、怖いよ……」
涙目になりながら逃げようとする彼女の頭をがっしりと掴み、その愛らしい口にミルクが溢れる乳首を近づけていく。
「私のおちち、全部飲んでくださいね……♥」
総領娘様の口に両乳首を入れた。瞬間、胸が弾けるように母乳が吹き出した。

8

「オゴォッ! ウグッ! フグッ!」
「あはっ♥総領娘様に私の母乳飲まれちゃってる♥」
息をしようと必死に逃れる総領娘様を逃すことなく、その口に母乳を溢れさせる。
苦しくなった彼女は飲まざるを得なくなったミルクを喉へと押し流す。
その目がどんどん熱っぽく潤んでいくのが分かる。天女の母乳の効果だ。天人でも効果があるらしい。

9

「たんとお飲みください♥あなたが淫乱牝牛にしちゃった衣玖のミルク♥存分に飲んでください♥♥」
「フグゥッ♥ムグゥッ♥ングゥッ♥」
飲み込むたびに媚薬と精力剤の成分が体に染み渡っているらしい。快感で彼女の体が熱くなっている。
息苦しさと沸き起こる性欲と快感が入り混じり、涙目になりながら必死で母乳を吸い続ける彼女の姿が、私には途方もなく愛おしく思えた。
服の上からでも彼女の腹部が膨らみ始めているのが分かった。それでも私の母乳は止まらない。
「ングゥッ♥ングゥッ♥ングゥッ♥ングゥッ♥」
「総領娘様♥赤ん坊みたいに母乳飲む姿♥とっても可愛いです♥もっと♥もっと飲んでください♥」
飲まれるたびに、飲むたびに私たちは悦楽におぼれていく。ここにいるのは牝牛と赤子。そこには誇りも知性もない。快楽の渦だけがここにはあった。

10

「はぁ……やっちゃった……」
自宅に帰ってからため息しか出てこない。冷静さを取り戻してからは後悔するしかなかった。
部屋には私一人ではない。隣にいる新しい“恋人”に目をやる。
家柄よし、容姿良し、教養良しの文句なしな新たな恋人。しいて問題をあげれば、
「衣玖ぅ♥大好きぃ♥」
それが総領娘であるということだ。
惚れ薬の成分も入っている天女の母乳。それを大量に飲めばどうなるか分かっていたはずだった。
彼女の心はミルクで溶かされ形を変えられ、私にべた惚れにされてしまったのだ。
「……これからどうしよう」
幸せそうに頬を擦りつけてくる彼女とは対照的に、私には未来のビジョンが全く見えなかった。

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