1

「敬老の日?」
だから僕は言わんこっちゃないって言った。そんなことを訊いて、永琳先生が難色を示さないわけないんだ。

今日は九月十九日。つまりは敬老の日だから、いつも仕事仕事で忙しい師匠を敬ってやろう!と提案されて、最初は僕も乗り気でいた。輝夜さまは袖で口元を隠して笑った。鈴仙さんは見てみぬふりをしていた。
『大丈夫、ししょーもあんたがそう言って怒ったりしないよ』
企画者のてゐさんはそう言って僕の背中を押したが、今考えれば面白い見世物にしか思ってないだろう。
休息というものを忘れてしまっているんじゃないかと思うくらいに毎日仕事に打ち込む先生を見ると、確かに僕も敬ったり労ったりしてあげたい気持ちにはなる。
でもそれは、なにも敬老の日じゃなくてもいい。女性に対して、これは失礼だ──
「……ありがとう。それで、貴方はどんな方法で私を労ってくれるのかしら?」
ほら言ったのに。いつも優しい先生が気分を悪くするところなんて、僕は見たくない。
「ああ、それは私が希望することじゃなくちゃ意味ないわね。それじゃあ──」
……って、あれ?

2

「次はこの薬。身体がなんだか熱くなってきたなって思ったら、左手を上げて頂戴」
というわけで、僕の敬老の日は永琳先生のお仕事を一日手伝うということで決まった。
「私から提案しておいて、ごめんなさいね。なんだか月並みなお願いで」
と言って先生は笑ったが、そんなことはない。毎日大変な先生のことを思えば、一日でも力になれるのをむしろ感謝しなければ。
「ああ、動くと薬の廻りが早くなって、薬効確認までの正確な時間が判らないの。だから、ここに」
手伝うと言って、お役に立てなければなんの意味もない。言われるとおりに診察用の寝台に寝転んだ。
「じゃあ、質問するわね。腰から下、太股の周りがじんわり熱を持ってきた?」
言われるとおりに、左手を上げた。凛とした声が続く。
「そう、じゃあ次。ここ──この辺り、触られて、どんな気持ち?」
上げようとした左腕は萎えた。服の上から太ももの内側が触れ合う場所をさすられて、身体の内小さな火花が散った。
なんだかおかしいなと思って先生を見た。先生は記録を採ってなんかいなかった。
「どんな気持ちかって、訊いてるの」
普段見られない悪戯げな表情で、僕の反応を伺っていた。

3

「──そう、なんだか変な気分なの。じゃあ、ここは? もっと変な気持ちになるかしら?」
灯りが寂しい部屋の中、薄く紅の乗った唇がゆらゆらと揺れる。
先生の手つきはなんだかいやらしくて、触れる場所も太ももからいつしか股間に移っていた。布地越しに僕のおちんちんを掴み、揉み、強弱をつけて。
「言ってくれないと、仕事にならないんだけれど……?」
先生のお顔がすこし悲しそうに歪む。なんだか演技じみている……と思うのは失礼な気がしたけれど。
「……敬老の日、ねえ」
僕のを揉みしだく手が突然ぴたりと止まった。微笑の形を崩さないで、先生は顔に顔を近づけてきた。
「てゐ辺りの差し金かしら」
全部見破られていた。さっきまで僕を揉んでいたほうの手の指先を、僕の唇に添えて続けた。
「……とは言っても、貴方自身少し罪悪感を感じなかった訳ではないわよね」
むにむにと僕の下唇を指の腹でつつく。なんだかその所作が、僕の言い訳を封じているようで。
「だから、お仕置きも兼ねて──ね?」
指の代わりに、赤い赤い唇が近づいて、接近して、くっついt

4

「──んむ、ぬ、る」
先生の唇は、潤っていた。瑞々しかった。その感触を考える隙に、先生の舌が入ってきた。
先生の舌が僕の歯を舐めた。歯茎も舐めた。歯の間にまで入ってきた。舌に舌が触れた。
「ふむ、んん……んふ」
先生は鼻から嬉しそうな声を洩らした。先生の鼻息が、顔の表面に広がった。あったかかった。
先生の唇と舌に籠絡されてしまって、すっかり僕の顎は力をなくしてしまった。
さえぎるものがないのと同然だった。なされるがまま、先生の熱くて粘る、唾液が入ってきた。
「ぷ、は」
それからやっと、先生が唇を離した。口のまわりが涼しくなったのが、なんだか名残惜しかった。
「ごめんなさい、は?」
先生の頬は赤かった。僕の頬も、赤いんだろう。先生は指をしならせて、服の胸元の紐を外し始めた。
「“ごめんなさい”って。一言、謝って欲しいわ」
先生の唾液が絡んだ喉で。先生の唇の感触に魅了された唇で。
震える声で、僕は先生にごめんなさいを言った。
「んふ、よく出来ました。ちゃんとごめんなさいができるいい子には──」

5

「触ってみたい?」
先生の服の、赤と青の境にある封。そこを締める紐はもう取り去られていた。
その奥には黒い花びらで編んだようなレースの下着が先生の乳房をぎちぎちに締めていた。
「したいことはきちんと口に出して言って貰えないとわからないわ」
ぅん、と息を呑みながら、先生は服を肌蹴させた。先生の肩や鎖骨は、つやつやだった。
「もう。甘えんぼなんだから」
先生は、下着の肩紐も外した。檻に閉じ込められていた猛獣が開放されるがごとく、先生の肉の実が転び出た。
「“したい”んじゃなくて、“されたい”のね?」
先生も寝台に身を上げた。僕の履いているものをちょちょいと脱がして、僕の脚に身体を重ねた。
下半身が丸出しになる。薬のせいか、先生の肢体の魔力か、僕のおちんちんははっきりと硬くなっていて。
「こぉんなにはりきって……ん、と」
おっぱい二つを下から持ち上げて、僕の脚の付け根に乗せた。そこから両胸の側面に手を添えて、双乳の間、つまり僕のおちんちんに唾液を垂らしながら、ぬちりと音を立てて挟み込んだ。

6

ぬち、ぬち、ぬち。先生の粘液じみた唾液のせいで、音がいやらしい。
「ふふ、気持ちいいのね。もっとされたいのね。……お顔とコレが、教えてくれるわ」
大人が膨らませたシャボン玉みたいなおっぱいで挟んで、締めて、包んで、揉んで。
柔らかすぎるそれが命を吹き込まれたみたいに先生の手によって踊るのを、視覚と触覚で味わった。
「ぁ、ふ、あは。顔をそんなにひしゃげて……ん、ぁっ」
先生が腕だけじゃなくて肘を曲げて力を込めた。
それだけで、上擦った声が喉を吐いて出てくる。
押しつぶされる感触、柔肌中の柔肌に摩擦される感触。縦、横、斜め。ひねるように。絞るように。
腰が川から揚げられた魚みたいにびくびく跳ねて、まるで痙攣してるみたいで。
「もう、もう駄目? 駄目なのね。ほら、聞かせて。貴方の可愛い声を、ほら──!」
僕の腰の痙攣に合わせて、先生も声を昂ぶらせた。
びくびく。がくがく。ぬるぬる。にちゃにちゃ。
夜の診察室は真っ白になった。僕らの声と、いやらしい物音や水音で、真っ白になった──

7

「敬老の日、ねえ……」
“柔らかい”だけでできている先生の胸元に縋るように、先生は僕を包むように、ふたり抱き合っていた。
先生の提案で、僕は今夜を診察室の寝台で過ごすことになった。
幾度となく夢想したこの情景を、もしや夢ではないかと思ったけれど。
「別に良かったのよ。無理、しなくても」
僕の髪を愛でるような手櫛で梳いた先生の声は、いつもの永琳先生のものに戻っていた。
「それとも何、今まで私を敬っていなかった訳?」
僕の頬をつついて怒るそぶりは魅力的だった。夜の月光が先生の顔に照った。
「ふふ、冗談よ。それに、人から敬って貰う権利は、私には──」
先生は窓からの月を見ていたけど、僕は先生を見ていた。
その表情からも言葉からも、少しの寂寥感を感じてしまって。
「でも折角だから、今夜は貴方の好意に甘えることにしましょう」
でも、それは杞憂だった。僕を見直した先生のお顔は、さっきまでの優しい先生の顔だった。
「今日という日が終わるまでには、まだ少し時間があることだし……ね?」
また、先生の唇が近づいてきた。惹かれあう蝶同士のような淡い口づけ。今日という日を愉しむ、おまじないだった。

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