1

「―――という訳なのでみんな用心するんだぞ、以上」
静かだった教室が、一気にがやがやと騒がしくなる。
外から差す橙色の光が眩しい。今日の授業が終わった。
「怖いよなぁ、襲われたらひとたまりも無いんだろ?」
「だよねぇ…おっかないなぁ…暗いうちまで遊びたいけど、そうもいかないよね…」
友人が口々に恐ろしいと言う。そんなこと無いよ。口には出さずに僕は寺子屋を後にした。
ここ数日、竹林のあたりで村人が無残な姿で発見され続けているらしい。狼が人を襲っているのだという。
僕には、思い当たる節があるのだった。ひと月ほど前の話だ。
―――――
永遠亭のお医者様の元へおつかいを頼まれた僕は、竹林の案内を頼みに妹紅さんの家を尋ねた。しかし留守のようで、そのまま引き返すのもしゃくだったので1人で迷いの竹林へ入ってしまったのだ。
しかし、すぐにたどり着けるだろうという甘い考えは通用せず、気付いた時には夕日が沈みきっていた。
暗がりの中無数に伸びる竹がなんだか恐ろしかった。足は疲れで動かない。心細さに泣きそうになった。
そんな時、彼女が現れた。
「…あら、こんな所に人間なんて珍しい…どうしたの?」

2

初めは妹紅さんかと思ったけど、どうやら違う。
ぴんと立った耳にするどい爪、闇に光る赤い目。
恐怖で後ずさる僕。それでも、彼女は手を差し伸べてくれた。
「これ以上暗くなると人間には危ないわ…人がいるとこまで送ってってあげるから、怖がらないで?」
言われるがまま手を掴む。鬱蒼とした森より、言葉の通じる妖怪のほうがましだった。
彼女に背負われ竹林を進む。どうやら怖い妖怪ではないらしい。たまにこうして迷った人間を送り届けているのだとか。
人狼。狼に変身出来る妖怪。彼女の髪の甘い香りからは、そんな恐ろしいものだとはどうしても思えなかった。
「もう1人で来るなよー、帰るときも気を付けてねー?」
永遠亭の明かりの下で、頭をぺこぺこ下げる。彼女は照れたように頬をかき、暗闇に消えていった。
―――――
竹林にいる狼、村人を襲ったのは彼女に違いない。
でもきっと、この前のお礼に好物を持って行ってあげれば、大人しくなってくれるはず。
暴れてるとはいえ、狙われているのは大人の男だけ。彼女のあの時の対応を考えると、子供を手に掛けるような事はしないんじゃないかな、と期待していた。

3

そうして、布袋に大きな鮭を1尾入れ、再び竹林にやってきた。
お天道様も顔を潜め、当たりはすでに暗くなっていた。
彼女が来てくれるはずだから、もう闇は怖くなかった。
大きな深呼吸を一つ。覚悟を決め、走り出す。
彼女の名前を叫びながら竹林を全力で駆け抜ける。方角も暗さも関係ない。ただ視界に道がある限り走り続けた。竹が僕を避けているような錯覚すら覚えた。
徐々に息が上がってくる。小走りになりながらも、声だけは初めのまま大きく。
竹に反響して、だぁれ、と声が帰ってきた。慌てて足を止める。その声は確かに彼女のもの。
少しすると、がさりとあの人狼が現れた。
ぴんと立った耳にするどい爪、闇に光る赤い目。だけど、どこか雰囲気が変わった気がした。
違和感も気にせず、僕は持ってきた魚を差し出す。
「あなた…それ…あぁ…美味しそう♪」
この前のお礼です、と口を開としたその瞬間。
どふっ、と彼女が前へ崩れ落ちる。子供の僕では支えきれず、そのまま一緒に後ろへ倒れてしまった。

4

具合でも悪いのだろうか、心配の声を掛ける。
「…大丈夫…それよりあんまりにも美味しそうでさぁ…♪」
狼は魚を好むという。良かった、調べておいて。
そう安心しきっていた心中を、びりっ、という音が貫く。目線を音の方へ向けると、僕の服が引き裂かれていた。
「…君のおちんちんはどうかなぁ…♪」
びりっ。びりっ。見るも無残に布切れと化していく服。気づけば僕は、一糸まとわぬ姿にひん剥かれていた。
下半身が、彼女の眼前に現れる。
悲鳴を上げる前に、彼女がそれを口に含んだ。
にゅるにゅるとした舌の感触。下品に音を立てて男性器を舐め回す彼女は、以前出会った親切なあの人狼であるのか、疑問に思えてしまうほど淫らだった。
あの感覚が下半身を包む。肉棒がむくむくと膨らんでいく感覚。ぬるっとしたものが出てきて、なんだかむず痒い感覚。二次性徴は寺子屋で学んだけど、何だか気恥ずかしいような気がして人には言えなかった。
ゆっくりと含んでいたものを出していく狼。蜂に刺されたようにぱんぱんに腫れた一物が現れる。
「可愛い顔してすごいの持ってるねぇ…これなら満足できそう♪」

5

満足、という言葉に引っかかっている間に、彼女に手首を掴まれる。
彼女が僕の中指を、強引に股の間に押し付けて来た。
中指がぐにゅりと沈んでいく。そこは女性の膣と呼ばれる場所。
不規則にうねり粘液を滴らせるそれは、指から伝わる感触だけで興奮を与えてくれた。
「今からねぇ…ここの奥の、これ…いっぱい突いて欲しいんだぁ…♪」
手を無理やり動かされ、奥のほうに誘導される。最奥部で、何やら硬い感触に触れた。
「ここ…子宮って言ってね…こんこんされるとすっごく気持ちいいんだぁ♪…それ教えられてからぁ…ここ弄るの止まんなくてぇ・・・♪」
手首を上下させられる度に、そのこりっとした感触に当たる。
息を荒げ、顔を赤らめた女性にこんな懇願をされるという異常な状況。
状況がようやく理解できた頃には、顔が真っ赤に染まり、心臓が高鳴るのが感じられた。耳元にあの柔らかそうな唇が近づく。
「…君のでいっぱいずんずんさせて欲しいなぁ♪」
無意識か本能か、僕は首を小さく縦に振っていた。

6

仰向けの状態で彼女にのしかかられる。蛙のようにしゃがむ彼女が妙にいやらしい。
びんっと勃ちあがるそれに、さっきまで僕が指を入れていた器官が迫ってくる。
「それじゃ…いただきます♪」
一気に腰を沈めてくる。温かい肉壁の感触。女の人の中ってこんなに熱いんだ、とぼんやりとした脳に浮かぶ。
そのまま中にずるずる引き込まれていき、とうとう彼女が子宮と呼んだ部分に触れた。
先端がこりっと当たり、思わず喘ぎ声が零れてしまう。
「子供の癖におっきいおちんちん♪…いっぱいヨガらせてあげるねぇ♪」
そう言うと、彼女は僕の上で激しく腰を上下させ始めた。
にゅるにゅるとひだが絡み、粘膜同士が触れる感触が敏感な肉棒に伝わる。
そして奥まで挿入されると、不思議な弾力を持つ子宮が先端へ食らいつく。
初めての体験に、ただふーっと息を殺し下半身の熱に集中する事しか出来ない。
これが、女性と交わるということ――――。
「ふふっ…君の年なら自慰くらい経験あるだろうけど…そんなのよりずっと気持ち良いでしょ?」
僕は、何も言えなかった。寺子屋で学んで知識では知っていたけど、それは何かいけないような事だと感じていたから。

7

「…もしかして精通もしてないの?…贅沢な子…交尾で精通しちゃうなんて…♪」
そう言う合間にも、何かが尿道を押し上げてくる。おしっこを我慢している時のあの感覚が一気に上ってくる。
苦しい感覚が、彼女の中で弾けてしまいそうだ。
「いいのよぉ…そのまま出しちゃって…♪大人の階段、登っちゃいましょ…♪」
振られていた腰が止まったかと思うと、どすん、と力強く奥まで挿入される。
子宮に亀頭を包み込まれるような感覚。その瞬間、尿意のようなものが一気に開放された。
排尿の時とは違う感覚。肛門がひくっと動き、睾丸が上がる。そして、ぞくぞくとした快感が全身を伝う。
びくんと腰を突き上げ、尿ではない何かを彼女の中へ吐き出す。その快感は、まるで天国のようなものだった。
「はぁっ…私、もぉっ…イッくっ……くぅぅぅううっ!!」
快感を後押しするように、彼女の中がぎゅっと締まる。搾り取るように絡みつく膣が敏感なそれを追撃する。
彼女の中へすべてを吐き出し終えると、快感の余りか唐突な眠気が襲う。
僕の眼に最後に写ったのは、初めて会ったときのそれとは似た別物の、ぎらぎらとした真っ赤な瞳だった。

8

太陽の光で目が覚める。
僕は、布切れ一枚掛けられた状態で竹林の外にいた。鮭は袋から無くなっていた。
ふらふらの体で村に戻ると、みんながみんな狼に襲われたもんだと心配していた。
お見舞いに来てくれる友人が僕の体の一部が欠けたりしてないかじろじろ見てきたけど、彼女の「襲う」がそういう意味だったと知った僕には、何も言えなかった。
やっぱりあの人狼のお姉さんが人を襲っていたんだ。
でも僕は彼女を恨めない。あの時の眼は少し怖かったけど…この快感を知ってしまったから。
次会った時も、交尾してくれるかなぁ…それまでに、魚をいっぱい買えるようにしておこう。
また、会いたいな。そう小さく心の中で願ったのだった。

編集にはIDが必要です