第一話

その一

しとしとと、幻想郷に雨が降る。
温かいような、冷たいような、優しい音の秋の雨。
ほの暗い空と裏手の畑を交互に眺め上がら、僕はお茶を飲んでいた。
時刻は昼過ぎ。日没までには今少し遠い。
そんな、とある秋の日の昼下がりに、戸板を叩く音がした。
雨の日に出歩く者が珍しいわけではないが、わざわざうちに来る意味は薄い。
何の変哲もない農夫が独りわびしく暮らすだけの、こんなボロ家に――
「こんにちわ。いい雨ね」
玄関先に佇んでいたのは、裸足の少女。
ふっくらとした印象の赤い服に、稲穂にも似た金色の髪。
「裏の畑、見たわよ。小さいけど、綺麗に手入れしてるじゃない」
少女は僕の脇をすり抜けると、当然のように家に上がり込む。
「うん、気に入ったわ。今年はここに決めたっと」
僕は、彼女の顔も名前も知っている。否、知らぬ農夫はないだろう。
あの少女こそ、幻想郷の豊穣神、秋穣子その人なのだから。

その二

幻想郷の農家には、客人神の風習が今なお残っている。
伝説の上では聞いていたものの、この目で見るのはもちろん初めてだ。
「へえ…。すると君は、独りであの畑をやってるの?」
もう家庭菜園と言ってもいいほど縮小した畑を見て、穣子様はのんびりと言う。
父祖伝来の畑を縮小するのは忍びなかったが、僕一人では限度があった。
「それで、余った畑は? 土地ごと売りに出すの?」
そのつもりでいたが、手続きをするだけの時間も惜しかった。
――農家の間では、一人で耕せる広さは七町歩までと言われている。
その三倍近くある畑を切り売り売りするというのは、もちろん抵抗もあった。
売る抵抗感と、売らぬ焦燥感。これに苛まれるのが僕の日常というわけだ。
「なるほどねえ…。ところでさ、神棚ある?」
厨の方を差すと、穣子様はおおっと嘆息し、向き直るなりにやりと笑って。
「綺麗に使ってくれてるじゃない。若いのに感心感心…っと!」
そう言い終わる頃、僕は煎餅布団の上に勢いよく押し倒されていた。

その三

「君、私を信仰してくれてるんだよね? うふふ、嬉しい…」
僕は彼女を知っているが、彼女は僕のことを知らない。
それもそのはず、僕はごく最近になって急に家業を継いだからだ。
彼女の顔は収穫祭で遠巻きに見たことしかない。
それでも彼女を知っているのは、家業に未練があったからに他ならない。
どんな職も手に着かず、逃げるように家業を継いだ僕の、最後の心の拠り所。
それが穣子様への信仰であり、もうひとつの感情だった。
幼い頃、収穫祭で遠目に見た時から、僕はずっと彼女のことを――
「はい、そこまで」
人差し指で唇を遮られる。見上げれば、慈母の如き優しい微笑みがあった。
「ふふ、何せ私は地母神だもの。すごくドキドキしてるわね…可愛い♪」
当たり前だった。何しろ相手は女神であり、僕の初恋の相手なのだ。
「なら、こういうことをするのも……初めてかしら?」
ふわりと重なる唇は柔らかく、焼き芋のように甘い香りがした。

その四

「ちゅる…。ぴちゅ、くちゅ…。んちゅ、むちゅぅ……」
舌で舌を蹂躙されること四半刻ほどで、穣子様は唇を重ねたまま服を脱ぎ出す。
前掛け、上着、下衣、帽子。おざなりな脱ぎ方だが、それが逆に痴情を煽る。
「接吻の間、伝わってきたよ。君の深い信心がね…」
片手を取られ、はだけた胸に導かれる。…大きい。着痩せしていたのだろうか。
「きゃ…、うん、いいよ…。そのまま好きに揉んでみて…?」
大きく開いた襟首からまろび出た果実が、のっしりと僕の両手に載せられる。
吸いつくほど滑らかな肌、綿菓子のような弾力。口に含んだ乳首は、甘い。
「やぁん…。ふふ、赤ちゃんみたい…。でも、この手は…ちゃんと大人なのね」
短期間とはいえ農業に従事した、節くれ立った僕の手を、穣子様はそっと握る。
…何だかおっぱいを揉まされているようで、余計に興奮してきた。
「もう、やらしい顔しちゃってぇ…。今度は私の番だからね?」
あっという間に全裸に向かれ、痛々しいほど勃起した剛直に舌を這わされる。
ぺちゃぺちゃと水音が耳朶を撲つたび、股間に欲望が滾っていくのがわかった。

その五

「じゅぶっ、じゅぶっ…。ぴちゅ、ちゅっ、くぷ…じゅぶ、じゅぶ…っ」
一度喉の奥まで呑み込んで、それを解放し舌先で弄んでから、また呑み込む。
穣子様の咽喉と舌に弄ばれ続けた僕の怒張は、すでに爆発寸前だった。
「でも、まだ駄目よ」
途端、付け根を握り締められる。快感と表裏の激痛で、精が遠のく。
「ねえ…。おちんちんって、何のためにあるか知ってる?」
出し抜けに穣子様が訊いてくるが、さすがに知識としては知っている。
これを勃起させておなごとまぐわい、子作りをするためだ。
「そうよ。女の子のここを耕して、種を蒔くために、おちんちんはあるの」
農具のようなものだと言いたいのだろうか。穣子様は布団に寝そべると
「ほら、この中よ…。勿体ないから一滴残らずに…」
耕すべき畑のぬかるみを、両手でそっと開いて見せる。
「君の信仰、いっぱい射精してね…?」
ひくひくと小刻みに震える穴は、まるで貪るように、僕の分身を咥え込んだ。

その六

穣子様の中は、狭くて、柔らかくて、生温い。
入り口はこりこりと硬く、裏筋の付け根を搾るように締めつけてくる。
中の肉襞が蠢き、散々しゃぶり立てられた過敏な亀頭冠を締め上げてくる。
「ひゃん! い、意外と積極的ね…」
僕はすぐに絶頂しては勿体ないと、穣子様の両脚を抱え上げて気を逸らす。
踵を肩に引っ掛けて、そのまま前傾。腰を振りながら頭を抱き抱える。
「うふふ…優しい抱き心地ね。いいなあ、愛されてるって感じ…」
事実、愛している――のだが、恥ずかしくて到底言えたものではない。
「私も待ち切れなくなっちゃったよ…。ねえ、ちょうだい?」
首の後ろで踵が交差する。両脇から抱き締められる。上体が、離れない。
「あんっ! ふぁあ、中で跳ねてるよぉ…。熱い…君の信仰心…」
やがて溢れ出す白濁。それを脈動する肉壺で、一滴残らず飲み干しながら
「ふぅぅ…。よかったよ…。私、君のこと気に入っちゃった…♪」
焼き芋よりもはるかに甘い口付けに、僕は次第に眠りに落ちていった――。

第二話

その一

「ふえ? 客人神を知らないの?」
コタツでみかんを剥きながら、穣子様はさも意外とばかりに目を丸くする。
そうは言っても祖父はすでに亡く、父も現役を退き隠居して久しい。
教わってもいない伝承は、どうしたって知りようがないのだ。
「んーとね、簡単に言えば神様が見回りに来ることよ」
――穣子様の説明はこうだ。
幻想郷に秋が来る。それは即ち、お山から豊穣の女神が降りてくるということ。
彼女は人里の農家が、きちんと農業に従事しているかを確認しに来るのだ。
勤勉な農家には豊穣を、怠惰な農家には神罰を与えるために。
監視先は完全に神様の気紛れで決められるため、農家はどこも手が抜けない。
だが、そういう経緯もあるからこそ、どこの農夫も信仰してやまないのだ。
今、僕の目の前でのんびりとみかんを食べでいる、この女神様を。
「一目見てわかったよ。ここの畑、何か訳ありなんだなって」
七つ目のみかんを食べ終えると、穣子様はおもむろに畑へと出て行った。

その二

うちの裏手には、幾許かのみかんが植えられている。
規模収縮をきっかけに、隅の方で芋などの主食になるものも育て始めた。
だが、いかんせんうまくいかない。
種は蒔いたし、水もやっている。土は肥沃で、日当たりも悪くないのに。
「環境はバッチリね。君のウチは代々、みんな真面目にやってたもの」
父祖伝来の土地。休まず耕され続けた畑の土は、今なお息吹を繰り返している。
その土が僕に、一向に応えないということは――
「あとは、君が愛してあげなくちゃね。農夫の仕事も、この畑も」
さすがは豊穣の女神。胸をえぐるほど的確な助言だった。
だが、一度は農業が厭で家を飛び出した僕に、それができるのだろうか。
「大丈夫よ。あたら有望な農夫を挫折させるのは、私の本意じゃないもの」
微笑んでそう言うと、穣子様は鼻唄まじりに縁側へ戻ってくる。
「とりあえず中に戻りましょ。大地の愛し方、教えてあげる」
肩越しにこちらを見る穣子様の眼は、譬えようもないほどの艶を含んでいた。

その三

「ふうん…。農業は初心者っていう割に、逞しい身体してるのね」
全裸になった僕を、やはり全裸の穣子様がまじまじと舐めるように見つめる。
お互い布団の上で正座して、何だかお見合いでもしているようだ。
かく言う穣子様は、小柄な割にメリハリのはっきりした、女らしい身体つき。
肉付き豊かで丸みを帯びた、男好きする身体とでも言おうか。
「んもう、やらしい目…。たくさん愛してくれるって、期待しちゃうわよ?」
穣子様は両手を僕の膝に載せると、目を閉じて唇を突き出してくる。
僕も目を閉ざし、顎を突き出して――不意に、唇を指先で押し止められた。
「女から合図があったのよ? 口付ける前に肩くらいは抱かないと…ね?」
言いながら穣子様は僕の両手を自らの両肩に導く。その肌は柔らかく、温かい。
「無理に力は入れないこと。女の子はか弱いんだから、優しく触るのよ?」
そう言われ、初めて握力を込めていたことに気付く。我ながら酷い緊張ぶりだ。
「じゃあ、そっと抱き締めて接吻ね。まずはそこから始めましょ」
みっともなく震える僕を、穣子様は優しい微笑みを浮かべながら抱き寄せた。

その四

穣子様の唾液は、まるで蜂蜜のように甘い。
抱き合って、舌を絡め合って、蜜を交換し合う内に、あまりの甘さで目が眩む。
「んちゅ…ぷぁっ……」
離れ離れになった互いの舌から、銀色の糸がてろりと下がり、やがて切れる。
落ちた雫を眺めていると、不意に下から穣子様がずいっと顔を出した。
「よそ見しちゃダメ。女の子なんて目を離すと、すぐスネちゃうのよ?」
若干膨らんだ頬が不満を露わにしている。僕は素直に非礼を詫びると
「あん…♪」
今度は、自分から彼女の肩を抱き寄せた。
「じゃあ、今度はおっぱいね。掌に載せて、円を描くようにさすってみて」
片手で肩を抱いたまま、逆の手で言われるままに触ってみる。
「ん…、んぅ……あふん…。いいわよ、ちゃんと力が抜けてて…気持ちいい…」
掌に収まった乳首が、次第に固くしこってくるのが判る。
逆の掌に収まった彼女の肩は、感じるたびにぴくり、ぴくりと震えていた。

その五

ふにふにと、穣子様はどこを触っても柔らかい。
胸から離れた手はお腹を、脇腹を、腰回りを撫で回しながら、下へ下へと。
「んふ、その調子よ…。じゃあ、次は…こっちね」
腕の中を脱け出すと、穣子様は僕にお尻を向ける形で四つん這いになる。
「今と同じ指使いで……好きなところ、触ってみて…?」
こうして突き出されると、穣子様のお尻はとても大きく見える。
そのふくよかな尻たぶにそっと手を載せると、小さな喘ぎ声がこぼれた。
こね回すようにして割り開くと、小さな蕾と濡れた花びらが、ひくひくとして。
「ひゃあっ!?」
両手の中指で両方を撫で回すと、ひと際大きな嬌声が、密と共に溢れ出した。
「い、いきなり両方なんて…! ダメ…おまた全部気持ちよくしちゃダメぇ…」
二つの穴の縁を指の腹で撫ぜるたびに、赤い花は哀願するように蜜をこぼす。
「もうダメ…。お願い、このまま挿れて…ケダモノみたいに犯してぇ…!」
両手で自ら肉壺を曝け出され、僕の理性は瞬時にどこかへ吹き飛んだ。

その六

桃にも似たお尻をがっちり掴み、本能のまま幾度も腰を叩きつける。
先端が奥に当たるたび、ざらついた肉襞がわなないて、精を求めて締めつける。
かろうじて覚えているのは、三度目の射精まで。次で何度目になるだろう――
「ひああ…っ! あ、んふ……七回目ぇ……♪」
声を弾ませる穣子様の背中に、どさりとくず折れる。もう指一本動かせない。
「うふふ…はい、お疲れ様。思ったより、すっとたくさん愛してくれたわね」
穣子様はせいぜい二回までと踏んでいたという。まあ妥当な予想だろう。
「よいしょっ…。うん、後ろから抱き締められるのも悪くないかな」
不意に世界が傾き、布団に滑り落ちる。穣子様が横向きに寝そべったのだ。
結果的に、僕は彼女を後ろから抱きすくめ、かつ腕枕をする格好になっていた。
「でも、畑には正面から向き合ってあげてね。こんな風に」
ごろりと反転した穣子様は、やはり慈母のような微笑みを浮かべていた。
「君が畑を愛してくれたら…私も嬉しいもんね」
子どもを諭すような優しい声音。僕はそれを聞きながらまどろみに落ち込んだ。

第三話

その一

ゆるゆると、まどろみが失せていく。
ぼんやりとした頭の中で、さっきまでの自分が何をしていたのかを考える。
そうだ。日暮れ前まで土を耕して、疲れてうたた寝してしまったのだ。
「おはよ。今日もよく働いたわね」
膝枕に載せた僕の頭を、柔らかな指が髪を梳きながら撫ぜていく。
――穣子様は、一瞬で作物が実るというような都合のいい存在ではない。
あくまで勤勉な農夫に豊穣をもって報いる――そういう存在なのだ。
だから、彼女は幻想郷中の農夫を見て回る。
何年かに一度、適当な農家を一軒だけ訪ねて、しばらく滞在するのだ。
その働きぶり如何では豊穣が約束されたり、されなかったりするという。
「農夫は幻想郷の生命線よ。真面目に働いてくれて、私も鼻が高いわ」
頭を撫でる手が、頬まで降りてくる。いつの間にか両手で頬を挟まれている。
「働き者には、ごほうびをあげないと…ね?」
ふ、と視界が翳ったと。そう気付いた時、僕はもう唇を奪われていた。

その二

「…うふふ。元気でよろしい」
ようやく唇を離すと、穣子様はつぶらな目をにたりと細める。
その視線が捉えているのは、間違いなく、必要以上に元気な僕の分身だろう。
「そのままでいいわよ。楽にしててね」
穣子様は僕の頭の下からゆっくりと膝を抜き、そのまま僕の側面に回り込む。
ちょこんと行儀よく正座したと思ったら、おもむろに服の袷に手を差した。
「おっ、勃起乳首はっけーん♪ お口だけで気持ちよくなっちゃったかな〜?」
すべすべの指の腹が乳首を、乳輪を、じれったい動きでこね回す。
思わず子犬のような声が出た。擦られ、転がされ、爪弾かれて、また声が。
「あはっ、女の子みたいね。でも…いい声ね。もっと聞かせて…?」
穣子様は身を乗り出し、そのまま乳首に吸いつく。ぬめる舌先が、生温い。
声を我慢する余裕などない。指とはまるで違う感触に、僕は激しく身をよじる。
「ふふ…本当に元気よね。さて、そろそろこっちも構ってあげなくちゃ」
ひと息に下を脱がされると、飛び起きた怒張の我慢汁が、穣子様の頬を汚した。

その三

「んふ、おいし…」
頬に付いた我慢汁を拭った指先を、穣子様は見せつけるように舐ってみせる。
ぐちゅぐちゅ、ちゅぱちゅぱと、聞くからに卑猥な音が僕の劣情を掻き立てる。
「君にもおすそわけね。はい」
唾液にまみれた指が二本、勢いよく口にねじ込まれた。
「んっ…。君の舌、生あったかくて、ざらざらで、気持ちいいね…」
指の腹で舌をなぶられる。その指はやわらかく、どことなく甘い。
「でも、何か物足りないな…。そうだ、おかわりもらっちゃうわね」
未だ頬に残る生乾きの我慢汁を指に取り、先程より激しく舐る。
否、舐るなどという手ぬるいものではない。残らずしゃぶり尽くす勢いだ。
「ふー…。いやあ、両手がべとべとね。すぐにも洗いたいけど…」
そのべとべとの手が、唐突に僕の乳首を、逆の手が暴発寸前の剛直を捕らえる。
「せっかくだから、えっちなことに使っちゃいましょ…ね?」
ふたつの性感帯を乱暴に刺激されながら、僕は獣のような声を上げて絶頂した。

その四

どくん、どくんと、血の巡る音が頭に響く。
過剰な快感に麻痺した下半身には、もはや膝を曲げるほどの力も入らない。
「うわぁ…。すごい射精だったわよ。ほら、精液が梁まで届いてる」
ぽかんと口を開けた穣子様の視線を追う。確かに梁に白濁液が付着している。
粘度の高い白濁液はぷらぷらとぶら下がったまま、なかなか落ちる気配がない。
「すごい…。あんな勢いで中に出されたらって思うと、お腹が疼いちゃう…」
止める間もなく、穣子様は次から次へと衣服を脱ぎ捨てていく。
仁王立ちした彼女の下半身は、すでに膝まで滴る大洪水となっていた。
「ほら、見て…。君の射精のせいで、私すっかり欲しくなっちゃった…」
そう言って、穣子様は萎えたちんぽに跨り、ぬめる秘芯に全体重をかけてくる。
ぶじゅ、と愛蜜が弾け飛ぶのも構わず、淫蕩な顔で腰をくねらせる。
「ねえ…お願い…。早く勃起してよぅ…。ねぇ…ねえってばぁ…」
腰が前後に滑るたびに、卑猥な形に潰れた陰唇がちらちらと顔を出す。
そのあまりにふしだらな光景に、僕の陰茎は再び血流を取り戻していった。

その五

「んは、ぁあ、はっ…ぁぁ、ぁぁぁああああああぁぁあぁぁぁ…♪」
ゆるゆると秘芯に剛直を呑み込みながら、穣子様は甘い甘い溜め息を吐く。
熟れた蜜壷に丸呑みにされた怒張は、性懲りもなく射精の要求を始めている。
しかし、すぐに射精しては、これだけ求めてくれる穣子様にも失礼だ。
「ひゃっ!?」
僕は尻を引き締めて気合を入れると、勢いよく上体を起こす。
たっぷりとしたお尻を掴み、引き寄せて、彼女に腰を使えなくする。
そのまま腰のくびれに両手を回し、がっちりと抱き寄せた。
「あ…これいい…。力強くて…きゅんってきちゃう……」
穣子様も僕の首に縋りつく。唇を貪り合う。押し当てられる胸が心地いい。
「君に強く抱かれると…胸の中もおまんこも、きゅんきゅんって…〜〜〜っ!」
絶頂の波に震える穣子様が、両脚で僕の腰を自らの腰に押し付ける。
「ひぅ…っ。お腹の中、精子に叩かれるの…すごい……すごいよぉ……♪」
両手両足で力いっぱい抱き締められながら、僕はもう、夢中になって射精した

その六

「すごいわ…。君の子種、熱さがお腹にじんわり滲みてくる…」
お腹を両手で何度も擦りながら、穣子様は嬉しげに笑う。
…そういえば、神様は人間と子どもが作れたりするのだろうか?
「……。結論から言えば、出来るわ」
ぴたりと、お腹を撫でる手が止まる。もしや、まずいことを訊いただろうか。
いつもの帽子を載せた頭を、穣子様はゆっくりと左右に振った。
「ううん、そんなことないわよ。神と人の交わった歴史は、とても旧いもの」
ぱたりと僕の横に寝そべると、きゅっと、力なくしがみついてくる。
僕は何となく言葉の先を察して、包み込むように彼女を抱き締めた。
「……もうしばらく。…って言っても、あと何日も居られないけどさ……」
どことなく湿ったような、くぐもった彼女の声。その声色は、とても悲愴。
穣子様には解っているのだ。客人神なるこの風習に、制限時間があることを。
「もうしばらくだけ、よろしくね……?」
今の彼女の顔を見るのが忍びなく、僕はただ、抱き締める腕に力を込めていた。

第四話

その一

裏の畑のみかんが、いい具合に色付き始めた。
大きさも甘味も申し分ない。これならば市場に出すに何の不足もないだろう。
「ほんとだ、美味しい…! もぎたてっていうのもあるだろうけど…」
よじ登った枝に腰かけて、穣子様は早速つまみ食いを始めている。
剥いたみかんを夢中で頬張るその様子は愛嬌たっぷりで、僕は思わず苦笑した。
この実りは彼女のお陰だ。苦笑こそすれ、文句を言う気にはならない。
「んむっ、それは違うわよ」
枝の上で素足をぱたぱたと動かしながら、穣子様は眉根を寄せる。
「剪定、摘果、肥料、草刈り、それに害虫駆除。どれも君が頑張ったのよ」
うちでは農薬を使わない。使い方が伝わっていないからだ。
生き残るには必然、無農薬でやっていくしかない。それは、大変な手間だ。
「人より頑張ってるんだもの。神様としては、報いてあげなきゃ嘘よ」
そう言って、穣子様はいつもの笑顔を見せてくれる。
幾度となく僕を励ましてくれた、慈母の如き優しい笑顔だった。

その二

冬の備えが始まりつつある昨今、みかんの売り上げは非常にいい。
何故というに、炬燵にみかんは日本の心だからだ。
「いやー、ずいぶん買い込んだわね。今夜はごちそうかしら?」
今年のみかんは飛ぶように売れた。売り歩いてきた僕自身、まだ信じられない。
しかし実際にたんまり儲かり、食料を買い込んでも随分と釣りが来た。
「おおっ、よさそうな牡丹肉があるじゃないの。今夜はお鍋かしら?」
穣子様の瞳が無遠慮にキラキラと輝く。まるで夢見る乙女のようだ。
「あ…いや、そのね。昔は猪とかよくお供えされてたのよ。それでつい…ね?」
台所に食材を運びながら、穣子様は語る。
今、幻想郷の神々の間では、熾烈な信仰争奪戦が繰り広げられているのだと。
「私なんかは安定してる方だけど、お山の守矢様んとことかは本当に必死だわ」
信仰心の有無は、即ち神通力の有無。神々にとって、それは死活問題なのだ。
「能力で出来るだけのことをして、後は欲張らない――それだけなのにね」
外から来たというお山の神様は、どうにも俗っぽい性質だと彼女は苦笑した。

その三

猪の肉は臭味が強いため、しっかり煮込みつつ灰汁を取る必要に迫られる。
買った段階で血抜きがされていなかったら、食べるのは明日の朝だっただろう。
業者の人に感謝しつつ、僕は湯の表面におたまを滑らせていた。
「ねえ、交代しようか?」
お腹を空かせた穣子様がやってきた。僕は丁寧に断り、再び灰汁に集中する。
「お腹が空いたし、退屈なのよー。新聞も全部読んじゃったしさー」
不定期に烏天狗が投げ込んでくる記事を手に、彼女は口を尖らせる。
確か記事の内容は、しばらくぶりに鬼が子どもを攫ったというものだった。
「ねえ、ちょっとー。構いなさいよー。こらー、少しは構えー」
捻りも何もない要求とともに、背中をぽこぽこと叩かれる。
しかし神様相手に家事はさせられないし、この状況下では手が離すに離せない。
「……むぅ。いいもん。そっちがその気なら、こっちもあの気になるからね」
一体全体、どの気になるつもりだと言うのだろうか。
そんなことを考えていると、不意にすぐ後ろから衣擦れの音がしてきた。

その四

下半身裸で台所に立つというのは、なかなか斬新な感覚だ。
いきなり下履きをずり下ろされ、後ろ勢いよく股間にむしゃぶりつかれている。
尻の穴と玉袋の狭間。まさに股間としか言いようのないそこを、穣子様は。
「むちゅ、じゅる……じゅぱっ…はふ……ぺちゃ、ぺちゃ…ずず……」
唇を密着させ、唾液にまみれさせ、首を振りながら、舌で弄ぶ。
人生で初めての感覚に、僕は何度もおたまを取り落としそうになった。
「ほらほら、しっかりやんなさい。下手な出来だったら祟っちゃうわよ?」
それだけ言うと、今度は玉を両手で揉み始める。
両手にひとつずつ。痛みを感じる寸前の力で揉まれ、つままれ、握られて。
おかしなことに、その刺激で僕は射精寸前まで勃起している。昇り詰めている。
「でもね、そのまま上手に続けられる自信があるなら……」
気配が背後から側面に移る。床にひざまずいたまま、穣子様は大きく口を開く。
「ほら♪ おくちの中で、射精していいよ……?」
否も応もない。僕はほとんど脊髄反射で、穣子様の喉の奥まで捻じ込んでいた。

その五

もぎゅ、もぎゅと、喉の奥がうねりながら締め付けてくる。
咽喉はがっちりと亀頭冠を締め上げ、剛直を引き抜くことを許さない。
それより奥を、食道を亀頭に犯されながら、穣子様はなおも玉袋を揉みほぐす。
いずれの快楽によるものかもわからないほど昇り詰め、やがて熱が弾け飛ぶ。
「っ…、……っ♪」
少しだけ驚いて、それから穣子様の表情は、牝のそれに豹変する。
潤んだ瞳。上気した頬。蕩けた声。精液を飲み下す度に、音を立てて動く喉も。
それらすべてが、僕の理性を喰い破る。僕の中の牡を暴き出す。
「すごく美味しい…。何だかんだで、私に感謝してくれてるんだね…」
そういえばこの神様は、子種から信仰心を量るという離れ業を持っていた。
「でも、お腹いっぱいには程遠いからさ。……ね?」
立ち上がり際、穣子様はいつもの前掛けだけを全裸の上から着用する。
それに加え、お尻を突き出すように誘われてしまったら――。
僕は、竈の上から鍋を下ろすと、穣子様の腰に手を掛けた。

その六

「いやー、お腹いっぱい! いい牡丹鍋だったよぅ、うんうん」
変な口調で喜びを表す穣子様に苦笑しつつ、ちゃぶ台を拭き清める。
脚を投げ出してお腹をさする様は、どう見ても子どものようだ。
「いいじゃない。最近は多少フランクな方が人間受けするのよ?」
……フランクとは何だったのか。学のない僕には今ひとつ返答しかねる。
それにしても――
「ん? なあに? …また、したくなっちゃった?」
にんまりと目を細める穣子様から、僕はさっと目を逸らす。
何しろ彼女は、先程の全裸に前掛けを着けただけの姿そのままなのだから。
「いやー、この『裸エプロン』って効き目抜群ね。さすが、洩矢様は博識だわ」
どうやら山の神様たちに入れ知恵をされたらしい。今度、お参りに行かねば。
だが、それはそれとして。
「お腹いっぱいになったら子作り。それはね、とっても自然なことなのよ?」
ぺろりと捲られたエプロンの裾。今の僕には、もうその奥しか見えなかった。

第五話

その一

「おかえりなさい。今日もお疲れさま」
裏手の畑から戻っただけなのに、穣子様は大袈裟にも三つ指をついていた。
頭を上げるよう懇願する。おおかた芝居なのだろうが、仮にも相手は神様だ。
「ところで、お風呂にする? 湯浴にする? それとも……沐浴?」
選択肢がどこにも見当たらないのだが、穣子様はしたり顔を崩さない。
今朝がた風呂の焚き方を教えたので、早速やってみたかった…というところか。
実際、脱衣所まで来てみると、曇り硝子の向こうが真っ白な湯気で一杯だ。
本当に焚いてくれたのだ。僕はありがたさと申し訳なさで胸が締め付けられた。
「それじゃ、ご飯の前に済ませちゃいましょうね」
…念のために台所に視線を飛ばすが、特に食事が用意された形跡はない。
もっとも、普段から炊事は僕の役目だ。期待するだけ無駄だったのだろう。
「それにしても、今更ながら狭い浴槽ね。あれで疲れが取れるの?」
大きなお世話だと言いたいのを堪えて、泥だらけの服に手をかける。
隣に立つ穣子様には、脱衣所を出ていく気配が全くなかった。

その二

念のために断っておくと、うちの風呂は断じて狭くはない。
成人男性の僕が脚を伸ばしてくつろげる程度の広さはあるのだ。
「いやー、極楽極楽♪ 我ながらいい湯加減だわー。ちょっと狭いけど」
…ただ、二人一緒に入れば、どうしたって狭く感じる。
穣子様は僕の身体を背もたれにしながら、もう一度不満をこぼした。
「でも……こうしてくっついていられるのは、いいよね」
密着度が上がる。小柄な割に安産型なお尻が、股間に押し付けられる。
湯の中の彼女の肌はひんやりとしているが、いつも以上に柔らかく感じられた。
しっとりとした金色の髪がうなじに貼り付き、妙な色気が醸されて見える。
「ほらほら、もっとちゃんと神様をおもてなしして?」
彼女は浴槽の縁に掛けていた僕の手を取り、肩に回す。後ろから抱く格好だ。
「うん…この体勢、凄く安心するわ。でも、もうひと声欲しいかなぁ…」
肩越しに、僕の顔を見上げてくる穣子様。
まるで何かを訴えるように艶っぽく潤んだ瞳に、僕は早くものぼせつつあった。

その三

「ちゅぷ…くちゅ、ちゅる……ぷぁ…っ。ね、もっかい……んちゅ…」
もう一回、もう一回だけ。そう言いながらの九回目。
息継ぎのためにほんの少し離す以外は、延々と唇を重ね続ける。
唾液も舌も粘膜もすっかり融け合い、もはやどこまでが自分の口かわからない。
穣子様はとうに姿勢を反転させ、真っ向から僕の首に縋りついていた。
「もっと……もっとぉ……」
切なげに鼻を鳴らしながら、ひたすらに唇を求めてくる。
そんな穣子様が無性に愛おしくて、僕は彼女の腰と背に腕を回して抱き締める。
押し付けられた胸が、僕の体表に沿って潰れる。それが、とても卑猥に見える。
「ぅん……。おっきくなってきたね…」
隆起してきた怒張に下腹部を擦りつけながら、穣子様は淫蕩に嗤う。
そこには普段の慈母の如き面影は、どこにも見当たらず。
「浴槽のふちに座って…。いいこと、してあげる……」
言われた通り座ると、穣子様は湯船から身を乗り出し、むしゃぶりついてきた。

その四

「ほら…。おっぱいが大きいとね、こんな真似も出来るのよ…」
たわわに実った一対の乳房が、その谷間に僕の怒張を丸ごと挟みこんでいく。
掌で感じるのとは全く質感が違う。
滑らかでたっぷりと実った果実に挟まれた剛直が、過剰な快楽に悲鳴を上げる。
「あんっ! んもぅ、まだ何にもしてないのに…」
挟まれただけでも異常な快楽だと言うのに、この上何をするつもりなのか。
「もちろん動くのよ。君の子種でぬるぬるになったし、ちょうどいいわ――」
乳房を左右から押された瞬間、尿道に残った精が新たな精に押し出された。
連続的な射精に思わず腰が跳ねる。浴槽に爪を立て、かろうじて滑落に耐えた。
「私も実際にやるのは初めてだけど…悦んでもらえてるみたいね。…嬉しい」
じゅぷじゅぷと精液を泡立てながら、穣子様の動きが激しくなっていく。
「んふ、美味しそうなキノコ、見ぃつけた……はむっ♪」
胸の谷間から顔を出した亀頭に目を輝かせ、彼女はそれを勢いよく頬張る。
舌先が尿道をくじる。乳肉の圧迫との波状攻撃に、僕は為す術もなく射精した。

その五

「ちゅぷ、ちゅ、くぷぷ……。ん、キレイになったかな…?」
精液にまみれた陰茎をひと通り舐め終えると、穣子様は向かいの縁に腰かける。
「ふふ、スッキリした顔しちゃって…」
穣子様の肩も、僕ほどではないが冷えている。僕は湯冷めが心配になってきた。
「でも、君の子種、もっと欲しいな…」
湯船に両手をつくと、穣子様は上体を屈めて、お尻を僕の目の前に突き出す。
小さな窄まりと、大きく開いた赤い花。…なんとなく、悪戯心に火がついた。
「んきゃあっ!?」
唾液をまぶした指で、穴まわりのヒダヒダを伸ばし、ほぐして、撫で回す。
「ひぁ…。だ、ダメぇ…。あ、あ、あぁぁ……」
驚いた。出すためだけにあるはずの穴が、僕の中指を容易に呑み込んでいく。
そして指を出し入れするたびに浴室に響く声が、あからさまに蕩けていく。
「あ、ダメ……おちんちん挿れちゃ…らめぇぇ……あ、やぁ、ひあぁぁ……♪」
一瞬だけ、躊躇った。――もちろん、我慢なんて出来るわけがなかった。

その六

「ううう…っ。まだお尻がジンジンするよ〜…」
風呂から上がって床を延べてからも、穣子様は呻きっぱなしだ。
……非常に今さらではあるが、あまり女子の口からお尻とか言うのはどうかと。
「だ、誰よせいだと思って――ぁううう…」
大声を出そうとしたらお尻に響いたようだ。何だか申し訳なくなってくる。
ここまでで何度謝ったかすでに知れたものではないが、僕はもう一度謝罪した。
「ん……。もういいよ。本気で怒ってるわけじゃないからさ」
平身低頭する僕の後頭部を、穣子様は優しく撫でてくれる。
「むしろ嬉しかったのよ? こんなところまで愛してくれるんだ…ってね」
僕は胸をなでおろした。そう言ってもらえるなら本当に救われる。
「あ、でもね」
顔を上げた僕の耳元で、四つん這いの穣子様が、甘ったるい声音で囁く。
「次からは……お尻の前に、ちゃんとおまんこも愛してね?」
頬に口付け。それはすぐ唇にも。僕らは朝まで、満足するまで抱き合った。

第六話

その一

「あ、おかえりなさーい。どうだった?」
市場から戻った僕を、星屑の詰まった瞳で穣子様が迎える。
今日はさつまいもを買い込んだ。質のいいものが安く売られていたのだ。
「ひゃっほーう! おさつ大好き!」
そこまで喜んでもらえれば、僕も買ってきた甲斐があるというものだ。
さっそく畑の隅に落ち場を集めて、焼き芋にしよう。
「焼き芋か〜。いいわよねえ、秋真っ盛りって感じで」
確かに。ちょうど今頃は、一番美味しい季節だろう。
芋自体どれも大きく肥えていて、非常に食べでがありそうだった。
「旬のものを旬に食べるとね、美味しい上に身体にもいいの。長寿の秘訣よ」
言いながら穣子様はぐいぐいと背中を押してくる。そんなに早く食べたいのか。
「まあ、否定はしないけどさ…。人を食いしん坊みたいに言わないでくれる?」
穣子様は頬を膨らませつつも、背中を押す手は緩めない。
そんな穣子様も可愛らしい――とは、思うだけに留めておいた。

その二

ぱちぱちと、枯れ葉の小さく爆ぜる音が耳に心地好い。
赤い火、青い火。めらめら揺れる火。眺めていると、妙に気持ちが安らいだ。
「それ…分かるかも。普段は火をじっと眺める機会なんてないもんね…」
両手を火にかざして暖を取りながら、穣子様は落とすように呟く。
まるで、赤い火の中に哀しい何かを見ているような――
「……。うーん、まだ生焼けってとこかな…? もう少し待とうっと」
…どうやら気のせいだったようだ。
哀愁というか郷愁というか、そういうものを彼女の目に見た気がしたのだが。
考えてみれば、先刻から穣子様は大好物の焼き芋しか見えていないのだ。
昼というには少し遅い刻限だが、僕は一瞬の白昼夢でも見たのだろう。
「あれ、ちょっと火が弱ってきたかな? そーれ、燃料投下ーっと」
天狗の新聞は、燃料としてとても重宝する。どういうわけかよく燃えるのだ。
「あっ、これはもうよさそうね。ほら、半分こしよ?」
ふっくら焼けた芋をふたつに割ると、穣子様は笑って大きい方を渡してくれた。

その三

焼き芋を食べ過ぎた僕らは、夕飯を抜くことになった。
いくら美味しいとは言っても、みっつも食べればさすがに満腹だ。
「えっ、もういいの? 午前中ずっと働いてたんだし、もっと食べていいのに」
僕の三倍は食べておきながら、穣子様はけろっとしている。
それは彼女が神様だからか、それとも単に芋が好きだからか。それは謎だ。
「ほら、あといっこ残ってるよ? 食べないと私が食べちゃうよ?」
畳に寝そべって、どうぞどうぞと手振りで促す。どうせもう食べられはしない。
食べられても、せいぜいあとひと口で限界だろう。もう未練はない。
「…ふうん? あとひと口はいけるんだ?」
その声に反応するより早く、出し抜けに唇を奪われる。
焼き芋の甘い香りに満ちた穣子様の吐息が、唾液が、舌と一緒に侵入してくる。
「ぷは…。君の口の中、おさつの味がする…♪」
言って、もう一度の接吻。歯の裏、顎の裏、頬の裏、舌の裏まで。
口の中を全て味わいつくそうとする貪欲な舌使いに、僕はすっかり蕩けていた。

その四

「うふ…。こっちのおさつも、いい色になってるわね…」
いつの間に脱がされたのか。穣子様は赤銅色の剛直に白い指を這わせていた。
触れるか触れないかの微妙な感触で、親指と人差し指と中指が蠢いている。
「こんなに熱いんだし、もう皮を剥いちゃってもいいよね…?」
限界まで皮を向くと、亀頭冠の直下、普段皺が寄っている部位を舐められる。
右を、左を、表を、裏を。やがて舐めるに飽き足らず、唇に包まれる。
「ちゅる…ちゅ、じゅる……じゅぶっ、じゅぶっ…」
限界まで皮を剥かれ、付け根を両手で押さえられ、敏感な部分は剥き晒しだ。
そこをこうまで熱心にしゃぶられては、堪えられようはずもない。
「んんっ! ん……ふ、んぅ……」
ざらざらの舌とぷりぷりの頬の感触に負け、渦巻く欲望が噴き出した。
強烈な快楽が閃光となって弾け、頭の中が一瞬、真っ白になる。
「ぷぁ…。ん、美味し…。いつもより甘いわ……」
口の中でくちゅくちゅと精液を味わいながら、穣子様は迷わず僕の腰に跨った。

その五

「ふふ……食べちゃった……。美味しいよ、君のおちんちん……」
しゃぶっていた段階で濡れていたのだろう。秘芯は苦もなく怒張を呑み込んだ。
生温い肉襞がぴったりと吸いついてくる。柔らかな圧力が精を搾りにかかる。
「よいしょっと…。えへへ、全部くっついちゃった…」
穣子様は繋がったまま身体を倒した。胸が、腹が、唇が、ぴったりと重なる。
「んちゅ、ちゅる…はむ、ちゅぱ、くちゅ……」
舌を吸われ、陰茎を締められ、甘ったるい唾液を飲みながら腰を突き上げる。
片腕で腰を抱き、空いた手で尻を撫でる。その中指は自然と、菊座を撫で回す。
「んぅぅ…、もしかして気に入っちゃったの…? しょうがなっ…ぁ、ぁぁ…」
尻まで濡らす愛液を掬い取り、指先を挿入。膣内が、一気に狭くなった。
「う…あぁぁぁ……。もう、ダメ……飛ぶ…飛んじゃう……ふぁあああっ!!」
ふたつの穴を締めながら、穣子様は限界いっぱいまで背をのけぞらせる。
「あ………なか、でてる……いっぱい……。んふ、あったかぁい……」
今にも意識を失いそうな快楽の中、射精はなかなか止まなかった。

その六

「……。ねえ、まだ起きてる?」
腕枕から重みが消え、布団が少しだけ捲れ上がる感覚。
外からは虫が鳴く声さえしない。草木も眠る丑三つ刻なのに違いなかった。
「ん…。寝ちゃってるよね、やっぱり」
僕は返答することもせず、ひたすらに狸寝入りを決め込んでいた。
今、彼女と話をしてはならない――そんな、確信にも似た予感があったからだ。
何故、そんなことを感じたのかといえば、明確な理由はない。
「…まあ、いいか。お話なんて、朝になればできるんだもんね…」
ただ、穣子様の声音はいつになく、とてつもなく寂しげで。
それを聞きたくないがために、僕は寂しげな穣子様を突き放したのだ。
「おやすみ…」
再び腕に、心地好い重み。布団の中で、ぎゅっと、上着の裾が握られる。
「朝になれば、またいつも通り…だよね…」
穣子様の声がじわじわと潤んでいくのは。…気のせいだと、思いたかった。

最終話

その一

さらさらと、秋雨が軒を叩く音がする。
陽の高い時間でありながら外は暗い。いずれ本降りになるのだろう。
「……。雨、やまないね…」
今日でもう何度目になるか分からない台詞を口にして、穣子様は茶をすする。
もっとも、僕とて同じような生返事ばかりなので、人のことは言えないが。
……。沈黙が、痛い。
僕も口数が多い方ではないので、穣子様が黙ってしまうと本当に静かになる。
静かなのは嫌いではない――のだが、こんなに胃の痛い静寂は願い下げだった。
「ん…。お茶請け、終わっちゃったね…」
先日の芋の余りで作った芋の天麩羅を食べ終えて、穣子様は肩を落とす。
ないよりはマシと拵えたが、茶請けにするにはいささか重いような気もする。
「……ねえ。隣、いいかな…」
僕の返事を待たず、ぴたりと肩を寄せてくる。だが、言葉は続かない。
天麩羅油を使いすぎたか。何だか本当に胃が痛くなるほど、静かな日だった。

その二

「あの、ね…」
ようやく穣子様が口を開いた時は、すでに日の傾く刻限となっていた。
「私ね…ずっと迷ってることがあるの…」
ぽつり、ぽつりと、重い声音がこぼれて落ちる。うつむいた顔は、伺えない。
下手に口をきかない方がいいような気がして、僕は黙って続きを待つ。
「ほら、前にも言ったけどさ。私、いずれここを出ていくでしょ…?」
――そもそも、穣子様がここにいるのは、客人神なる風習ゆえのこと。
急に畑の規模の縮まった我が家を、わざわざ案じて来てくれたのだ。
だが、それもほんの数日のこと。いずれは出て行かねばならない。
この広い幻想郷を巡り、勤勉な農家に豊穣を、怠惰な農家に罰を与えるために。
それが、秋穣子という女神の存在意義なのだから。
「ごめんね…。神様は、絶対に一人の人間をひいきしちゃいけないの…」
なまじ人間と子を為せるからこそ、余計に人間を愛せない。
ここに来て、僕はようやく、昨夜の彼女の涙の意味を理解した。

その三

抱き寄せた穣子様の肩は、とても小さくて、震えていた。
頬に手を当て、こちらを向かせる。まなじりで留まっていた涙が、こぼれた。
「もう…。せっかく我慢してたのに……」
後から後から、涙は溢れてくる。指先で拭っていたのでは追いつかないほどに。
僕は、強引に穣子様を抱きすくめた。懐が、温かな涙に濡れていく――。
「やだよ…。離れたくない…」
胸の中で嗚咽を漏らす穣子様は、まるで普通の女の子。
だが、彼女は神様なのだ。人と子を為すことは出来ても、同じ時は歩めない。
「ずっと一緒にいたいのに……それだけでいいのに……」
それでも一緒になりたいなどと、まるでそこらの乙女ではないか。
乙女心なんてわからない。一介の平凡な農夫にわかろうはずもない。
だが、今ここで何をすべきかは決まっている。
「こんなに、君が好きなのに……!」
僕だって、ずっとずっと昔から、穣子様が好きだったのだから。

その四

「…ありがと。もう、落ち着いたから……」
一刻ほども泣き通しただろうか。穣子様は、ようやく平静を取り戻した。
抱き締める腕の力を抜くと、そこには真っ赤に泣き腫らした笑顔。
いつもの穣子様の、慈しむような微笑みが戻っていた。
「かっこ悪いところ見せちゃったわね。神様なのに」
そして、小鳥がついばむような接吻。目を閉じる隙もない、完全な不意打ちだ。
穣子様は悪戯っぽく笑い、ぺろりと舌を出す。さっきまでとは別物の笑顔。
どちらが本当の穣子様なのか。――そんなことはどうでもいい。
「ひゃっ! こ、こらぁ! もう落ち着いたってば!」
今、この腕の中に穣子様を抱いている。その事実だけで、僕は充分幸せなのだ。
「……んもぅ、しょうがないなぁ。図体ばっかりで、甘えんぼなんだから…」
一度は暴れようとした彼女の身体から、抵抗の意思が失せていく。
「でも、強く抱きすぎよ…。こんなに近いと…口付けが出来ないじゃない」
腕を緩めると、穣子様は半歩下がって、それから僕の首に縋りついてきた。

その五

ころん、と煎餅布団に横たわる裸身に、そっと覆い被さる。
もう何度重ねたか分からない唇は果実のように瑞々しく、蜂蜜のように甘い。
「んちゅ、ちゅるる……。はぁ…、いいよ、もっとして…いっぱい触って…」
手に余るほど豊かな乳房が、寂しそうに揺れている。
すくうように撫で回すと、小さな乳首が嬉しそうにぷくりと膨れた。
「ふぁ…、すっかり上手になっちゃって…。んふ…今度は私がしてあげるね」
促されるまま、彼女の上体に跨る。たわわに実った乳房に、怒張を挟まれる。
「ふふ、先走りであっという間にぬるぬるね…。気持ちいい?」
僕は腰を前後させつつ頭だけを上下に振る。気持ちよすぎて口がきけないのだ。
口を開けば喘ぎ声が漏れ、一度漏れた喘ぎ声はとめどなく溢れ出す。
「ふふ、可愛い…♪ そんなに悦ばれたら、いぢめたくなちゃうなぁ…♪」
締め付けが強くなる。みっちりとした圧力に埋まり、無理矢理絶頂へ導かれる。
「ほら、いいわよ。穣子様愛してますって、泣きながら射精しちゃいなさい♪」
愛を叫んで精を噴き出す。舌で、口で、顔面で、穣子様は残らず受け止めた。

その六

「いいよ、来て…。精液でぬるぬるのおちんちん、私のここに挿れて……」
いつもより熱く湿った肉のぬかるみに、剛直が呑み込まれていく。
根元が締められ、先端が押し当てられて、他はみっしりと包まれて。
動いても動かなくても、抱き合って、繋がっているだけで気持ちいい。
唇が重なる。指先が絡み合う。触れ合っている場所が、例外なく気持ちいい。
「あぁ…もっといっぱい動いて…。我慢なんてしなくていいからぁ…」
白い肌を仄かに染めて穣子様が喘ぐ。淫蕩に、はしたなく。それ以上に美しく。
穣子は泣いていた。それは喜悦の涙か、それとも哀惜の涙か。
考えるまい。万一にも僕がそれを理解すれば、穣子様を苦しめるだけだ。
だから僕は腰を振る。余計なことは考えず、ただ穣子様の虜となって。
「イくのね…。来て…忘れられなくさせて……っああ、ふああぁぁあぁっ!!」
締め付けが強くなる中、最後のひと突きを全力で叩き込みつつ、精を放つ。
言葉もなく唇を重ね、穣子様の中を熱い子種で満たしていく。
そうして最後に残ったのは、夢の終わりを惜しむような、長い長い抱擁だった。

その七

――しとしとと、幻想郷に雨が降る。
冷たいような、温かいような、優しく響く秋の雨。
この分ならばじきに止むだろう。農具を携え軒先に出ると、雨が止んだ。
流れてゆく雨雲から、抜けるような秋の空が覗き――
不意に、胸が酷く締め付けられる。
まるで、大事な何かを忘れているような。大切な誰かを、忘れている、ような。
……わからない。考えても、頭が痛むばかりだった。
まるで何かを振り払うように、僕はひたすら畑仕事に従事する。
仕方がないのだ。苦痛だが、思い出せないものは忘れるより他にない。
ただ、ひとつ救いだったのは――不思議と畑仕事が楽しいことだ。
まるで誰かが、笑って励ましてくれている。そんな心強い気持ちになるのだ。


結局、何ひとつ思い出せなかったが、多分これでいいのだろう。
こんなことで仕事を怠けたのでは、豊穣神様に叱られるから。

(終)

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