第一話

その一

幻想郷に暮らすようになって、ひとつ気付いたことがある。
それは、信心深い人が多いということだ。特に人里はその傾向が強い。
恐らくは、明日をも知れぬ生に、安寧を得るためなのだ。
妖怪変化の跋扈する危険な世界だ。それも無理からぬことだろう。
僕も、何か信心すべきかもしれない。
神仏がのんびり出歩く世界に流れ着いて半年、そう考えるに至った。
――しかし、話はそう簡単ではなかった。
信心しようにも、その対象の住まう聖域が、とにかく人里から遠過ぎるのだ。
聖地巡礼と言えば聞こえはいいが、空でも飛ばねば一日で往復はできまい。
やはり不信心な者とは、神様と無縁になるものなのだろうか。
そんなことを漠然と思いながら、湖の小舟で日課の釣りをしていると。

びちゃり――
水面からぬるりと這い出た生白い手が、舳先の縁をつかんでいた。

そのニ

この湖で釣りをしていると、たまに妖精にからかわれることがある。
知らぬ間に釣り糸を切られたり、舳先の向きを変えられたりするのだ。
いずれも子どもじみた、微笑ましい内容の悪戯だと言っていい。
だが、這いずるように舟に乗り込んできたのは、どう見ても妖精ではなかった。
濡れた黒髪の貼りついた蒼白い美貌は、明らかに妖精より幽霊のそれだ。
「あ、あああ………さ、さ……」
生白い喉が震え、歯の根の合わぬ声が絞り出される。
聞く者の魂さえ凍えさせそうな声音で、幽霊と思しき少女は、
「さ……寒い………」
僕の携帯していた水筒に手を伸ばすと
「す、すみません……。一杯で…一杯でいいので……」
蓋を外し、そこに熱いお茶を注いで
「こく、こく………。ふぅ…生き返りました……」
およそ幽霊とはもっとも縁遠そうなことを、わりかし平然と口にした。

その三

少女はこちらが恐縮したくなるほど丁寧な礼を述べた後、自己紹介を始めた。
「私の名は村紗水蜜。見ての通りの船幽霊です」
セーラー服を着た船幽霊、というのも何だか妙な塩梅だ。
それにしても、そのセーラー服がずぶ濡れで――こう、目のやり場に困る。
「す、すみません! あ、尼寺の暮らしが長いものでして……」
両腕で胸元を覆いながら屈み込む村紗。服の上からでも、意外と豊満と知れた。
……。まずい。僕も反射的に膝を抱えて、盛り上がってきた股間を隠す。
「……すみません。私のせいで、寒い思いをさせてしまって」
一杯だけ、もう一杯だけといいつつ、結局全部お茶を飲まれてしまった。
それで僕が寒さに身を縮めたと勘違いしたのだろう。
「血肉を失くして久しい身ですが……私が温めて差し上げます」
村紗は四つん這いでにじり寄ってくると、僕の肩に縋りついてくる。
「あ……」
耳元で漏れた溜め息は、いかなる原理か、確かに熱く濡れていた。

その四

本格的にまずい。いくら平静を装っても、鼓動は否応なしに高まっていく。
無理矢理に息を整えても、すぐに熱い吐息が漏れ出してしまうのだ。
「熱いです、あなたの身体。溶けてしまいそうなほど……」
膝立ちになった村紗に頭を抱きすくめられる。
濡れた布地は甘く香り、ほの温かな弾力が、またぞろ興奮を高めていく。
「もっと……くっついて下さらないと、温まりませんよ……?」
言われるままに細い腰を抱き寄せる。自然、彼女は僕の腰に跨る形になった。
「あ、ん……。すごい…すごく熱いのが、当たってます」
ぐりぐりと腰を押し付けられる。その刺激に、思わず上ずった声が漏れる。
「んっ…。ちゅ、ちゅる……」
唇を奪われる。あまりに自然過ぎて、舌が入るまでキスに気付かなかった。
ねっとりと、ゆるやかに、生温い舌が、唾液が、僕の中を掻き回す。
「ね……もっと、くっつきましょう……?」
乞われるままに下を脱がせると、村紗も僕の下を脱がせ、再びそこに跨った。

その五

「んぁ……はい…っちゃったぁ……」
初めての女性の中は、思っていたより狭く、温かくて、蠢いていた。
入口は狭く、こりこりとして、彼女の腰つきに合わせ根元からしごき上げる。
中は熱い蜜によって肉襞が亀頭に吸い付き、やわやわと締め付けてくる。
「あなたの、熱いです……このまま離したくないくらいに……」
息も絶え絶えに首にしがみつく村紗を、思いきり抱き締める。
柔らかな太ももと下腹が密着して、同時にきゅんと締めつけが強まった。
「お、く…あたって……だ、だめぇ……もう、私、私ぃ……」
甘やかに、切なげに村紗が喘ぐと、鈴口に小刻みな痙攣が伝わる。
喜悦に震える子宮から、快楽が膣を波打たせ、断続的に締め付けてくる。
「あ、あああっ、ふぁぁ……っ!」
腰の奥から昇った熱が、一番奥で弾けた。射精に合わせて、入口がわななく。
「はぁ、はぁ……っ。か…身体、あったまりました……?」
僕は笑って頷くと、すっかり乾いた彼女の黒髪を指で梳くようにして撫でた。

その六

それにしてもだ。
彼女は一体、何ゆえあって、湖の中から出てきたのだろう。
「じ、実は……魚を獲っていたんです」
船幽霊だと思ったら、やっていることは海女と同じようだった。
「船を沈めるのはもう卒業したんです。今の私は仏法僧を篤く尊ぶ船幽霊です」
どういう経緯かは知らないが、彼女は仏門にあるようだ。
嘘を言っているようには見えないが、今したことは背信行為ではなかろうか。
「わ、私は凍えている人を温めただけですから。救命行為ですよ、救命行為」
必死に狼狽を隠そうとする様がおかしくて、僕は思わず吹き出してしまう。
「あ! それより、お魚獲って帰らないと!」
再び水底に挑もうとする村紗の肩を掴み、予備の釣竿を渡してやる。
「あ……ご、ご親切にどうも……」
小舟からぎこちなく糸を垂れる船幽霊の横顔をぼんやりと眺めながら。
僕は、今日から仏を信じることに決めたのだった。

第二話

その一

住職と住人の数名に挨拶をし、入門の手続きは滞りなく終わった。
もっと時間のかかる形式ばったものだと思っていたが、こんなものでいいのか。
「いいんですよ。生臭はもちろん、蓄髪も妻帯もありなお寺ですから」
坊主頭になる気まんまんでいただけに、村紗の言葉に僕は拍子抜けしてしまう。
というか、お寺というのはもっと格式ばったものだと思っていたのだが。
「……これも時代の流れですよ。人は格式を信仰するわけではないんです」
言われてみればその通りだ。やはり仏を信仰してこその仏門だろう。
ここの本尊は代理とはいえ、かの毘沙門天。信仰する甲斐もあるというものだ。
「おお、やる気ですね。ふふふ、期待してますよ?」
背筋を伸ばし、高らかに返事をしてみせる。
サイズの合う作務衣がなかったので少々しまらないが、まあ仕方ないだろう。
ここは尼寺なのだ。成人男性に寸法の合う衣類など、あるわけがない。
「じゃあ、今日からよろしくね、おっきなお稚児さん。ようこそ命蓮寺へ!」
応対がフランクになった村紗の手を、僕は笑って握り返した。

そのニ

寺の中の作務には、基本的に休憩時間がない。
僧にとっては掃除などは無論のこと、行住坐臥の全てが修行なのだそうだ。
「まあ、最初から無理を言ったりしないわ。まずは間取りを覚えてね」
僕が付き人を務める相手、村紗水蜜は、先に立って寺を案内してくれた。
母屋、本堂、厨、厠、風呂場、墓場、そして僕が住むことになる離れ。
いずれも手入れがよく行き届いているのが見て取れた。
規則こそ緩いようだが、皆が真面目に作務に励んでいる証拠だろう。
「あはは…。そこはまあ、聖の人徳のなせる業ね」
ここの住職は、それだけ慕われているのだ。人にも、人でないものにも。
両方を愛し、受け入れる懐の広さ、情の深さが、慕われる所以だと村紗は語る。
そして、彼女がいたからこそ、村紗も仏門に帰依したのだとも。
「はい、着いたわよ。ここが貴方の寝泊まりする部屋ね」
縁石に草履を脱ぎ、中に入って床が延べてあるのを見た瞬間。
後ろで、戸の閉まる音がした。

その三

「うふふ……つっかまーえた♪」
背中に目がついていなくても、抱きつかれているのは感触でわかる。
もぞもぞと、探るように動く指。すりすりと、甘えるように押し当てられる頬。
「実はすっごく驚いてたのよ? まさか本当に入門しに来るなんてね」
どうやら村紗は、仲間たちの目を気にして平静を装っていたらしい。
僕にしても、まさか村紗の付き人にしてもらえるとは思っていなかった。
「ひょっとしたら、聖あたりはお見通しだったのかもね……ふふ」
ぴりっとした、甘い電流が胸元に走る。乳首の位置を探り当てられたのだ。
思わず上体をよじるが、村紗は何なく動きについてくる。
「ああ、素敵だわ…。男の人特有の、厚みのあるこの身体……」
密着度が上がる。女の子特有の瑞々しい弾力が、背中で自己主張している。
…だめだ、堪らない。耐え忍ぼうと思っても、股間の充血は止まらない。
「それは大変ね……すぐ楽にしてあげる」
片手で乳首を転がしながら、空いた片手が後ろから怒張を擦り始めた。

その四

しゅっ、しゅっ――音にならない音が、耳の奥底で乱反射する。
充血しきったペニスを、白い手が優しく包み、なめらかに擦り上げている。
触れるか触れないかの絶妙なタッチは、それだけで精を煮え滾らせた。
「後ろからこうしていると、まるで襲っているような気分ね」
こちらとしても痴漢に遭っているような気分になって来るから困る。
相手が見えない。手だけが見える。それだけで、こんなに震えが走るとは。
「うふ、おちんちん暴れてきたわね。そろそろかしら?」
ぐつぐつと腹の下でとぐろを巻く精気に、ペニスが今にも張り裂けそうだ。
それを察知したのか、村紗はおもむろに手を離すと
「ほら、こっち向いて」
ぺたりと座り込んで、大きく口を開けて、妖しく眼を細めていた。
この体勢は――ひょっとしなくても、そういうことなのか。
「そういうことよ。ねえ、早くぅ……」
おずおずと近付けた鈴口を、彼女は文字通りひと呑みに咥え込んだ。

その五

亀頭冠が扁桃腺に締められる。膣口とはまたひと味違う締め付けだ。
あくまでも柔らかく、それでいて狭隘で、何よりも吸引力が加わっている。
すでに絶頂を迎えつつあったペニスは、喉奥であっけなく暴発した。
「んっ…! …ん、んんっ……」
射精の瞬間に一度はしかめられた村紗の顔が、次第に紅く蕩けていく。
うっとりと瞳を潤ませ、亀頭を口に含んだまま、喉を鳴らして精を嚥下する。
淫らな愉悦に浸る美貌に、怒張はたちまち息を吹き返すのだ。
「わ、私で興奮してくれたの? えへへ、嬉しいな……」
何とも淫蕩な顔で照れ笑いをしながら、村紗はスカーフをほどいていく。
ほどきながら、まるで甘えるように、裏筋に舌を這わせていく。
「じゃあ……しよう?」
ころんと布団に横たわった彼女の脚を、ゆっくりと開かせて。
「あ……はああぁぁぁぁぁぁ………♪」
柔肉を押し広げられる感触に喘ぐ彼女の唇を、そっと唇で塞いだ。

その六

「ふぅ…。久々に乱れちゃった。身体の相性がいいのかしらね?」
隣に寝そべり、人の胸板にのの字を書いてくる。もしや照れているのだろうか。
「そ、それは照れるわよ。自分でもびっくりするほど感じちゃった後だし……」
たぶん五回ほど射精したと思うが、彼女の絶頂の回数まで把握はしていない。
ただ、気に入ってはもらえたようだ。僕はそれが素直に嬉しかった。
「それじゃ、案内に戻りましょうか?」
すっかり忘れていたが、そういえば寺の中を案内されている途中だった。
小坊主の作務に休憩時間はない。早く着替えてしまわねば――
「あ、待って」
袖を引かれて、何の気なしに振り返った時。
「えいっ♪」
小鳥がついばむような口付けを、不意打ちで頂戴した。
「さあ、行きましょ!」
いつの間にか着替えを終えた村紗は、足取りも軽く僕を先導するのだった。

第三話

その一

先日より、僕は命蓮寺に入門。そして村紗水蜜付きの小坊主となった。
命蓮寺は尼寺で、住職をはじめ、主立った面々はいずれも女性だ。
中には稚児を連れている者もある。身の回りの世話をさせるのだそうだ。
年齢こそずいぶん上だが、立場的には僕もその稚児と大差ない。
そして僕は、今日も作務に励むのだ。
やけに声の大きな少女と協力して、半日かけて境内を掃き清め。
箒を片付けひと息ついているところで、村紗がやってきた。
「あ、ここにいたんだ。ねえ、ちょっと手伝ってくれない?」
彼女は厨から出てきたようだ。つまり、料理の手伝いということだろうか。
「いっぱい煮込まなきゃいけないからさ。頼める?」
口ぶりから察するに、どうも大がかりなものを作っているようだ。
精進料理以外のものが出ると期待を抱き、僕は一も二もなく引き受けた。
「ふふっ、ありがと! じゃあ、入ってきて」
花の綻ぶようなその微笑みに、僕は承諾して本当によかったと思うのだった。

そのニ

目を疑わんばかりの巨大な寸胴鍋の中で、よく見知ったものが煮えている。
刻まれた人参、じゃが芋、玉ねぎ。そして茶褐色のどろりとした煮汁。
疑う余地もなく、カレーに違いなかった。
それにしても、この量は一体どうしたことなのか。
十人そこそこの分にしては、いささか多過ぎるように見える。
「うちのご本尊は健啖だからね。お供え物がいっぱいいるのよ」
本堂で時々妙な音がすると思ったら、あれは腹の虫だったのか。
「……それ、本人の前では言わないであげてね。気にしてるから」
そんなことより、僕が手伝うこととは何だろうか。
見る限り、あとは煮込むだけという段階に達しているようだが――
「ちょっと肩揉んでくれない? これ混ぜてると凝るのよ」
……。ここは突っ込むところだろうか。それとも流して作務に戻るべきか。
冗談を言っているようには見えないので、仕方なく引き受ける。
肩揉みは、夕食の時間になるまで延々と続いた。

その三

食後の入浴も済み、心地好い疲労感に包まれながら離れに戻る。
自室には、敷いた覚えのない布団。その中央は、不自然に盛り上がっていた。
そう、ちょうど人が一人、中でうずくまっているような――
「……。どうして普通に入って来ないのよ」
布団をめくると、実に憮然とした顔の村紗がうずくまっていた。
言いたいことは山ほどあったが、先に彼女の言い分を聞くことにする。
「だって……今日は無理させちゃったから、労ってあげようと思って……」
気遣いの方向性は少しおかしいが、悪気がないことはわかった。
「……嫌だった?」
返答の代わりに、布団の中で彼女をそっと抱き締める。
「ん……ありがと。あったかいね」
村紗の肌はほんのりと冷たく、それでいて優しい温もりがあった。
「なら、足して二で割れば、ちょうどいいかな……」
唇を重ねると、彼女もゆっくりと、それでいて貪欲に唇を求めてきた。

その四

「ぷぁ…。あなたの口付け、気持ちいい……」
ほんの数日前まで童貞だったのに、キスで喜ばれるとは思わなかった。
気をよくした僕は、さらに積極的に舌を絡めていく。
「ん、ちゅる……ちゅく、んちゅ……はぁ……ちゅ、ん、んふ……」
身をよじる村紗の隙を突いて、セーラー服の隙間に手を滑り込ませる。
すべすべの肌。男の僕とは、根本的に手触りが違う。
しっとりとして、指に吸い付く感触。触れているだけで指が性感を覚えそうだ。
「ふうん? 指先が敏感なのね……それじゃ……はむっ」
さほど長くない髪を掻き上げて、村紗は僕の人差し指にしゃぶりつく。
その直後、想像もつかない快感が、指先から背中を電撃的に走り抜けた。
「おちんちんもいいけど、こんな趣向もいいわね。…いぢめてるみたいで」
知らない感覚に戸惑う僕を、村紗は意地悪く微笑みながら唇で玩弄する。
「もっと感じて…。私の温度も手触りも、この指でいっぱい感じて……」
やがて快楽は下半身まで達し、愚息がむくむくと鎌首をもたげていった。

その五

「この格好……ちょっと恥ずかしいんだけど……」
顔の上に跨ってもらい、互いの股間に顔を埋め合う。俗に言うシックスナイン。
村紗はここまでの積極性が嘘のように、真っ赤になってしまっている。
ひょっとして、見られるのが恥ずかしいのだろうか?
「ちゅ……れる…。そ、それはそうよ。女の子は、自分じゃ見えないし……」
羞恥心を振り払うように、慌ただしく怒張に舌を這わせる村紗。
その秘芯がしとどに濡れる。てらてらと、ぬらぬらとして、とても綺麗だ。
「やぁ…言わないでぇ……!」
いやいやと首を振る彼女を尻目に、ぷくりと尖った陰核を舌先でくすぐる。
声もなく背をのけぞらせたのと同時に、唾液でふやけた指を滑り込ませた。
「ひぁ……! ゆ、指……あな、たの、ゆび、たまんないよぉ……」
しゃぶりつくされ鋭敏になった指先から、肉襞の形が伝わってくる。
貪るように絡みつく。ざらつく粘膜が、まるで僕を包み込むように。
やがて彼女の鼓動に合わせ、入口が強烈に締まり――そして弛緩した。

その六

じわじわと、敷布団に滲みが広がっていく。
村紗は法悦を極めるあまり失禁してしまったのだ。もちろん、僕の布団で。
「ご、ごめんなさい………。す、すぐ替えの布団を持って――きゃっ!?」
足首を捕まえる。そのまま勢い余って、村紗は前のめりにずっこけた。
「あたた……いっ、いきなり何を……って、ちょ」
こちらから見て四つん這いになった彼女のお尻を、両手でしっかりと固定。
「ま、待って待って! い、今はだめ! まだ敏感で……」
そう言われても、目の前にこんな卑猥な穴があったのでは。
ぱくぱくと、物欲しそうにひくついている肉壷を見せつけられたのでは。
「あ、ああ……ああああぁぁぁぁぁぁ……。ふ、深いよぉ……」
我慢など、出来るわけがないのだ。
「だめ、動かないで……。またイッちゃう……連続で、イッちゃ……ッ!!」
容赦なく、お尻に腰を叩きつける。何度も、何度も。何度となく。
気の済むまで。一番奥に射精するまで。僕は腰を止めなかった。

第四話

その一

「今日は、お買い物に行きましょう」
朝食を終えると、村紗は唐突にそんな提案をしてきた。
しかしひと口に買い物と言っても色々ある。一体何を買うつもりなのか。
「おもに衣類かしらね。あなたの格好も、何かと見苦しいし」
四肢の丈がちっとも合わない作務衣。それが現状での僕の一張羅だ。
面と向かって見苦しいと言われるのは胸が痛いが、それも何ほどのことはない。
女の子と一緒に買い物など、人生初の体験なのだから。
「まあ、他のみんなの分の買い物のついでになるけど……別にいいわよね?」
いいですいいです問題ないですと、狂ったように首を縦に振る。
この作務衣からの卒業よりも、村紗と並んで歩ける方が嬉しいのだ。
我ながら単純だとは思う。彼女とは一度ならず、肌を合わせた仲だというのに。
「ん。それじゃ、行きましょ。はぐれないでね」
差し出された手を握り返す。
初めて握る女の子の手の感触に、僕は早くも昇天しそうになっていた。

そのニ

流石にみっともなさ過ぎるので、超法規的措置として洋服の着用が許された。
着古してボロボロだったが、すっかり綺麗に洗濯されている。
おかげで気分はすっかり晴れやかで、ようするに僕は異常に舞い上がっていた。
「………。ねえ、もうちょっと落ち着いて歩けない? 人目が……」
人里の大通り。洋装の男が鼻唄混じりに闊歩していたら、それは目立つ。
不審者を見る眼差しを独占しつつ、僕らは服屋と思しき店に到着した。
「あら? お店の人が出て来ない……。お留守かしらね?」
人の気配はある。おおかた厠か、さもなくば休憩中と言ったところだろう。
店の中は、和服も洋服もごちゃごちゃだ。客の気配が届かなくても無理はない。
「まあいっか。勝手に見させてもらいましょう」
何の躊躇もなく、村紗は人っ子一人いない店内に、滑り込むように入っていく。
手を繋いだままなので、僕も引きずられるように入店させられた挙げ句
「じゃあ、まずはみんなの分の下着から見繕いましょうか」
耳を疑わざるを得ない言葉が、嫌でも耳に入ってきた。

その三

それから小一時間。村紗が見て回っているのは、洋風の下着売り場だ。
居心地の悪さを噛み締めながら、僕は誰も来ないことを必死に祈っていた。
「ほら、これなんてどう?」
妖艶なレースのあしらわれた漆黒のブラジャーを、服の上からあてがう村紗。
どう、と訊かれても困る。それ以前に、なぜ僕に意見を求めるのか。
「せっかくだし、あなたが好きそうなのを選ぼうかなって」
黙秘してもいいが、それではここに留まり続けることになるだけだろう。
さっさと移動したかったので、とりあえず僕は、白いやつとだけ要求した。
「うーん、白かあ。まあ、そうよね。この服、すぐ下着が透けちゃうし」
少し面白くなさそうだったが、下着が透けるよりはいいかと納得したようだ。
本当は個人的な趣味で白と提案したのだが――まあ、言わぬが花だろう。
「じゃあ買ってくるわね。荷物持ち、期待してるわよ?」
どっさりと白の下着を抱えて会計に向かう村紗。
今後しばらく寺の面々の下着が白くなると思うと、自然と胸が熱くなった。

その四

そして夜。村紗は例によって、僕の部屋に入り浸っていた。
具体的には、僕の背中に跨って、背中を指圧しているという状況だ。
「今日は荷物持ちに酷使しちゃったからね。ねぎらってあげないと」
下着を買い込んだ後は、食材や諸々の雑貨を買うべく、里中を歩き回った。
荷物はそれほど重くなかったが、かなりの距離を歩いたので脚が棒のようだ。
「あなたが空を飛べれば、話は早いんだけどね……っと」
足首を小脇に抱え、そのままエビ反りに固められる。まるでプロレス技だ。
苦しいが、脛あたりに柔らかいものが当たり、思わず鼻の舌が伸びてしまう。
「あらら……ずいぶんパンパンに張ってるじゃない。すぐほぐしてあげるわね」
真新しい作務衣の裾から、村紗の手がするすると侵入してくる。
尻が、内腿が、玉の裏側が、好き放題に撫でさすられていく。逃げられない。
「ほら、暴れないの。このまま搾ってあげるから……」
竿の部分が捕獲される。畳の圧迫感と、村紗の柔らかな掌に挟まれて。
やがて圧迫感は激烈な快感に変わり、僕は新品の作務衣の中で果てていた。

その五

「あらら、もったいない……。ま、とりあえず着替えましょうか」
虚脱感に浸る僕を四つん這いにさせ、そのまま下を脱がせる村紗。
「お尻までべとべとね。すぐきれいにしなくっちゃ」
そんな言葉が聞こえたと思った瞬間、未知の感覚が股間を這い回った。
「ちゅる、ちゅ、ぺちゃ、ぴちゃ……。ん、ちゅるるるる……」
股間を舐められている。玉の裏から菊座にかけて、精液で汚れた股間を。
自分でも触れたことのない所だ。その快感は微弱だが、確実に僕を蝕んでいく。
「あは、また固くなってきた。いいわよ、いくらでもほぐしてあげる……」
蟻の門渡りから滴り落ちた唾液に濡れた手が、水音を立てて剛直をしごく。
そして、彼女の舌は、ゆっくりと菊座の皺を伸ばし、少しずつ、僕の中まで
「お尻の中、気持ちいい? でも……」
喘ぐことしか出来なくなった僕を、ごろりと仰向けに転がすと
「どうせなら、この中でどぴゅーって、して欲しいな……」
村紗は僕を呑み込みながら、少し背を反らせ、後ろ手に菊座を弄び始めた。

その六

溶ける。下半身が融けてしまう。
ただでさえ彼女の膣内は熱いというのに、この上、尻まで弄られたのでは。
「やぁん……いつもより、固くて…ビクビクって……」
ぴくぴくと膣が締まるたび、快感の反動で菊座が収縮する。
そのたび括約筋は指を深く呑み込んで、指に強く喰い込んで、反動は、快感へ。
「ひぁっ! ああ……熱いの、いっぱい出てるぅぅ……」
たまらず精が噴き出した。止まらない。いつも以上なんてものではない。
まるで、掻き回される腸壁からの刺激が、そのまま射精に繋がっているようだ。
眼が霞む。強烈過ぎる快感に、脳神経が焼き切れていくようだ。
「あ、あああ…。だめ、こんなたくさん……イく、射精でイッ…ちゃ――」
敏感な粘膜を勢いよく精液に叩かれ続け、村紗の表情が明白にとろけていく。
生白い素肌が電撃的に痙攣し、同時にさらなる精を搾りにかかる。
「は、んあぁ…ひぃん……。もう射精さないで……溢れちゃうからぁ……」
言いながら唇を合わせてくる村紗を受け止めて、僕はそのまま眠りに落ちた。

第五話

その一

それにしても、昨夜はひどい目にあった。
ひどいと言うか、すごいと言うか。とにかくそういった体験だ。
もっと具体的に言うのであれば、アナル開発をされたのだ。
「ん……いや、あそこに…でもなあ……んむむむむ……」
今、碁盤を挟んで僕と差し向かい、腕を組んで唸っている、船幽霊の少女に。
「白だの……黒だの……白だの……黒だの……」
言っていることはよくわからないが、長考に入ったのは確かなようだ。
――村紗水蜜。湖の底から釣り舟に這い上がってきた、船幽霊。
この寺の住職に大恩があり、彼女を慕って仏門に帰依したのだと言う。
船幽霊という船を沈めてなんぼの存在が、自らに殺生を禁じた。
これによって村紗は、晴れて『船長』として宝船の操舵を任されたそうだ。
ただ、その宝船は現在、この命蓮寺そのものとなってしまったということで。
「投了……? いや、それは悔しいし……でもなあ、うーん……」
ようするに、彼女はこの寺にあって、ものすごく暇を持て余しているのだ。

そのニ

……しかし、こうして見ると、村紗はやはり可愛い。
率直に言ってしまえば、僕などどうあがいても釣り合わない次元の美少女だ。
胡坐を掻いているせいで裾から下着が見えそうな、そんな無防備さも愛らしい。
端的に言ってしまえば、僕は村紗が好き――なのだろう。
なし崩し的に童貞を奪われ、後ろの処女も奪われて、なお惚れたのだと思う。
つい数日前まで童貞だった僕に、これを恋や愛と呼んでいいかのはわからない。
ただ、気がつけば、僕は村紗を目で追っている。
彼女がそばにいない時、彼女のことばかり考えている。
そして、彼女に迫られれば、たやすく理性は陥落してしまうのだ。
「むう……ここでああ打って、次にそこに打てば……いける、かな……?」
知恵熱で真っ赤になっている彼女を見て、僕は知らずににやけている。
そして、キュロットスカートと太ももの隙間から、目が離せずにいる。
勝手に充血して来る愚息を、内心で必死になだめながら。
あの隙間の向こうにどんな色が秘されているのか。それだけを考えていた。

その三

「……ん?」
とっさに目を逸らした僕の動きに、目敏くも気がついた村紗が顔を上げた。
「今、どこを見てたのかしら?」
底意地の悪い笑みを浮かべて、体育座りでこちらににじり寄ってくる。
キュロットスカートが畳に擦れ、めくれた裾から次第に下着が露出していく。
「あらあら、身体は正直ねえ……」
すらりと形のいい脚が、ゆっくりとこちらに伸びてくる。
座布団の上で胡坐をかく僕の股間に、素足の爪先が、焦らすように触れた。
「あは♪ 可愛い鳴き声ね。こういうの好きなんだ?」
反対の脚も伸びてくる。左右の土踏まずが、作務衣の上から怒張を挟む。
そして左右が交互に動く。別の生き物のように、硬化した竿を弄ぶ。
「ふふ、はち切れそう……。今出してあげるからね……っと」
器用にも足の指で作務衣の下衣を挟み、ずり下げて、直接的に踏みつける。
その何とも言えない圧迫感に、僕は身も世もなく喘ぐことしかできなかった。

その四

「あらあら、すごい先走り。こんなの見せられたら、もう……」
さらに距離が縮む。にじり寄ってきた村紗は、僕の腰を両脚で固定した。
「んちゅ……ちゅ、ちゅるる……はっ…んむ、くちゅ、ちゅっ……」
そのまま両手で顔を捕らえられる。囚われの唇は、なす術もなく貪られ。
一方ペニスはキュロットの裾を潜り、純白の下着越しに恥丘に押し当てられた。
ぷにぷにと、すべすべと。極楽とも思える感触に、次第に精が昇ってくる。
「ふふ、口付けで射精しちゃうの……?」
引き倒される。彼女を押し倒した体勢。その状況下で、村紗は妖しく微笑む。
「そんな勿体ないことしないで。まして、下着に射精だなんて……」
くいっと、細い指が下着をずらす。その下には、すでに融け切った蜜壷がある。
「あなたも男なら、この中で……ね?」
誘われるように、ひくつく肉襞の中へと押し入っていく。
「ん、奥まで来た……。それじゃ、もう一回……ちゅーってしましょ?」
頭を抱き込むようにしてのキス。とろける舌使いは、やがて僕を射精に導いた。

その五

「うふふ、今日も元気ね。嬉しくなっちゃう」
未だ射精感の抜けないペニスを、村紗は躊躇なく喉奥まで咥え込む。
水や汁物を飲む時の、咽喉の蠕動。それが今、精液を求めて繰り返される。
「ん……。まだイッてる、おちんちん……」
そう言って、今度は浅く口に含む。ついばむように、鈴口と口付けを交わす。
「なめて……」
舌が裏筋を這う。亀頭冠をひと回りして、竿の側面を下り、また裏筋を上る。
「続けてイッてもらうの……だいすき……」
再びぱくりと咥え込まれ、同時に玉袋に指を這わされる。
ぞわぞわと、さざ波のような快感が、瞬時に鈍痛を帯びた射精感に変わり
「んっ! ……んふ……。顔にかけるのも、好きなの…?」
たとえようもなく淫蕩に紅潮した村紗の頬へ、射精していた。
「ああ……すごい…。嬉しくて、気持ちよくて、おかしくなりそう……」
顔の半分を汚した精液を全て舐め終えると、村紗は三度ペニスを咥え込んだ。

その六

「どう? 喜んでもらえたかしら?」
ほとんど意識を失いかけている僕に、村紗は一片の邪気もなく微笑みかける。
確かに気持ちよかった。何度となく射精した。十回から先は覚えていない。
「十九回よ。ふふ、本当に身体の相性がいいのかもね」
それはまた――よくぞ搾りも搾ったりだ。
いいように搾られておいて何だが、途中で飽きなかったのだろうか。
「そんなことないわよ。温もりを求めるのは、私の本能のようなものだし――」
きゅ、と布団の中で抱きつかれる。彼女の肌は、やはり冷たい。
「あなたが射精する時の顔、可愛いんだもの」
……そういうことを言われても、何と言うか、返答に困る。
「もー、照れちゃって♪ 可愛いんだからー」
さらに強く抱きつかれる。まるで抱き枕扱いだが
「……お願い。今夜はこのまま寝かせて」
――村紗は、震えていた。初めて会った時のように。

第六話

その一

「そろそろね、あなたに任せられるお仕事が増えそうなのよ」
当然のように僕の部屋で茶を飲んでいた村紗は、静かにそう切り出した。
――何でも寺というところでは、周囲の信頼なくして要職には就けないという。
否、普通に考えれば、それはどこでも同じことだろう。
「お料理なんかね、特に信頼されてないと、やらせてもらえないのよ」
それは何というか、非常にもっともな理屈だ。
ただ、みんな仲良しのこの寺に限って、毒を盛られる心配もないだろうが。
「まあね。それじゃ、ついて来て。新しいお仕事を紹介するわ」
湯呑みを置いて立ち上がると、村紗は先に立って歩き始めた。
春先とはいえ、夜中となるとまだ寒い。僕は半纏を羽織って彼女の後につく。
薄闇に真っ白なセーラー服の背が浮かぶ。こうして見ると本当に幽霊のようだ。
だが、彼女の吐息は白くない。やはり、人間とは別の存在――船幽霊なのだ。
「はーい、到着っと」
くるりと全身で振り返った村紗の背後には、いつもの大浴場があった。

そのニ

とりあえず脱衣所まで来たが、状況が全く飲み込めない。
風呂掃除は基本的に僕のような小坊主の役目だし、それも今日はもう済ませた。
今さら浴場でする仕事などないとしか思えないのだが
「一緒に入るのよ」
えっ。
「一緒に入って、私の背中を流したりするの」
一瞬混乱しかけたが、冷静に考えれば、僕は彼女の側小姓も同然なのだ。
先ほどの論法に従うなら、背中を流させられる程度には信頼されたという訳か。
「そういうこと。理解が早くて助かるわ」
村紗はうんうんと頷いてから、頭の上に載せていた帽子を脱衣籠に投げ入れる。
「さあて、それじゃ早速――」
そして、ゆらりと一歩踏み込んで、僕の懐に入ると。
「脱がせっこ、しましょうか」
何かを期待する目で、作務衣の袷に手を掛けた。

その三

実に手際よく僕を全裸にすると、村紗はしゅるりとスカーフをほどき
「ほら、もたもたしないの」
何を思ったか、おもむろに両手を高々とバンザイさせた。
その意図がまったく理解できず首をかしげていると、今度は僕の両手を取って。
「こうやってね、ほら。ここ持って」
上着の裾に手を導かれる。どうやら、このままめくり上げろということか。
仰せのままにめくり上げようとする手が震える。心臓が口から飛び出しそうだ。
思えば村紗はいつも自分から脱いでいた。脱がすのはこれが初めてなのだ。
そろそろとめくり上げる。徐々に露わになる生白い腹が、恐ろしく艶めかしい。
「あんっ……」
華奢な割にそこそこ豊満な胸が引っかかり、ぷるんと跳ねて。
ようやく上を脱がせられた。それだけなのに、どっと疲れが押し寄せる。
「それじゃ、今度は……下も脱がせて?」
ボタンを外すとキュロットはいとも容易く脱げて、純白の下着が曝け出された。

その四

「もう…下着姿だけでこんなにしちゃって……」
真っ向から、それも立ったままでしごかれる。
僕の急所を知り尽くした村紗の手は、もはや性器と比肩するほど気持ちいい。
「あなたの選んだ白い下着、そんなに興奮するのかしら?」
乳首に吸い付かれる。不慣れな快感で、一瞬背筋がぞくりと粟立った。
確かに白い下着姿の彼女には、妙な色気がある。
汚れなき純白で、肝心な部分を隠しているという姿が、卑猥さを醸すのだろう。
「……うーん。ごめん、よくわかんないわ」
見えているより見えていない方がいやらしいことは、結構よくあると思うが。
この辺りの機微は、女の子の村紗には伝わらないようだった。
「それより、こんな状態のままじゃ、お勤めに差し障るわ」
血走ったペニスから手を離すと、村紗はすぐ背後の洗面台に腰かけて。
「ほら、私で抜いて♪」
片膝を抱え、空いた手で下着ごと、ずぶ濡れの秘唇を広げて見せた。

その五

「あああ……はいってくる……っ」
どろどろに熔けた柔肉は、彼女の欲望そのままに、僕に絡みついてくる。
狭い。そして深い。肌はあんなに冷たいのに、膣内はこんなにも熱い。
その落差が、僕を昂らせる。昂ったペニスが、彼女を悦ばせる。
それが、嬉しい。彼女を満たす喜びが、さらに僕を高めてくれる。
「私も……嬉しい」
首にしがみつきながら、村紗は喘ぐように呟く。
「あなたと触れ合えるのが、肌を合わせられるのが……たまらなく嬉しいの」
――抱き締めた。他に僕の心境を表現する術はない。
ただ強く抱いて、ただ腰を打ちつける。まるで、何かに縋るように。
「もっと私で感じて。もっと私でよくなって」
指を絡め、舌を絡めて、感じるままに、心のままに。
「あなたの温もりで、もっと私の中を満たして――」
欲望のままに、僕は彼女の最奥で果てた。

その六

ようやく風呂が沸いた時、僕の身体は冷え切っていた。
無理もない。空調もない脱衣所で、ずっと裸でいたのだから。
「……そっか。人間はずっと裸だと、風邪ひいちゃうのよね」
並んで湯に浸かる村紗が、申し訳なさそうにしょげてしまう。
彼女は人間ではない。人間の感覚や尺度には、考えの及ばぬところもある。
あるいは、悠久の時の中で、忘却したのかも知れない。
しかし、僕にはそれを責める気はない。そんな気になれる訳がない。
人間ではない点も含めて、僕は村紗が好きなのだから。
「もう…。後悔しても知らないからね」
ぽんと、肩の上に頭を載せられる。何とも心地よい重量感だ。
「ねえ……ひとつ、お願いしてもいい?」
村紗は頭を肩に載せたまま、僕の顔を見上げてくる。
「これからは、私のこと……名前で呼んでくれる?」
水蜜――試しにそう呼ばわると、彼女はどこか悲しげに微笑んだ。

最終話

その一

「体が重い、ですって……!?」
夕食後、何の気なしに不調を訴えると、水蜜は明白に顔色を失った。
「それって、やっぱり昨夜のアレが原因よね……」
昨夜のアレ――と一瞬考えたが、心当たりなどひとつしかない。
時あたかも如月。「きさらぎ」とは「着更着」、つまり重ね着の季節なのだ。
そんな季節に脱衣所で長々と全裸でいたら、どんな馬鹿でも風邪をひくだろう。
「……うん、やっぱり熱があるわね」
呼吸するような自然さで、おでこを密着させられる。
思わず胸が高鳴った。水蜜に聞こえてしまいやしないかと、今更な心配をする。
「ひとまず横になってて。すぐ戻ってくるから」
言いながら、実にてきぱきと布団を敷いて、水蜜は離れを出ていった。
――ひとりになると、途端に静寂で潰れそうになる。
何だかんだで、ここしばらくは部屋で一人になることがほとんどなかった。
水蜜が側にいない。その事実は、熱があるはずの僕に、妙な寒気をもたらした。

そのニ

「……お待たせ」
十分ほどで戻ってきた水蜜は、どういうわけか手ぶらだった。
白湯とか、解熱剤とか、氷枕とか。そういったものを一切持っていない。
「ねえ、まだ起きてる……?」
のみならず。彼女は何も持っていないどころか、何も着ていない。
一糸まとわぬ水蜜の肢体が、青白い月光に照らされて、薄闇に浮かび上がる。
輪郭さえ朧なその姿は、まるで――本当の幽霊のようだ。
「ええ、私は幽霊よ。……悪さが過ぎて、妖怪になっちゃったけどね」
蒼白な爪先から、音もなく布団に這い入ってくる。
「ほら、冷たくて気持ちいいでしょう?」
きゅ、と抱きつかれた。言いようのない弾力と、甘い香りが僕を包む。
そして、彼女の肌は……冷たい、なんてものじゃない。
「ちゃあんと、冷やしてあげるから……」
まるで触れられたところから、体の熱ごと生命力まで奪われていくような――

その三

「私ね、あなたの温もりに溺れて、大事なことを忘れてた」
布団の中で、声は震えていた。
「私は船幽霊なんだって。漁り火の灯る船を、沈めずにはいられないんだって」
この寺には、久しく人間がいなかった。だから、彼女は忘れてしまっていた。
船を沈め、人を溺れさせる――妖怪・船幽霊としての本能を。
「それでも私は欲しかった。漁り火よりもあたたかな、あなたの温もりが」
温もりを求めるのが自分の本能だと、彼女は昨夜、確かにそう言った。
――救われない。自ら求めた温もりを、自ら殺めてしまうなど。
「ごめんね……名前を呼ばせれば、もっと近づいてしまうってわかってたのに」
この寺で、彼女を名前で呼ぶ者はない。同僚はおろか、住職さえも。
ずっと不思議に思っていたが、やっとわかった。
名前を呼べば、存在が近くなれば、彼女はきっと本能的にその相手を――
「それでも、あなたにだけは……名前で呼んで欲しかった……!!」
哀切な慟哭は、抱き締めた両腕の中でくぐもって、やがて静かに消え失せた。

その四

抱き締めた腕の中で、水蜜の体温がじんわりと広がってくる。
これは低温火傷の兆候か。それとも彼女にわずか残った、温もりの残滓なのか。
「……はな、してよ」
いやだ。絶対に離さない。
「離したら、殺されるから?」
水蜜が、愛しいから。
「でもあなた、泣いてるじゃない。本当は怖いんでしょう?」
違う、悲しいのだ。悲しくなるほど、水蜜が愛しいのだ。
水蜜の本性が悲しいから、なおのこと愛しいのだ。
「……だめ、やっぱり出来ない。あなたを、好きな人を、取り殺すなんて」
嗚呼、やっと彼女の気持ちが聞けた。
このまま死ぬまで抱き締めていられるなら――取り殺されても本望だ。
「そんなこと言わないで! 私だって、もっとあなたを愛したい……!」
布団から飛び出した水蜜は、もう幽霊には見えない、いつもの水蜜だった。

その五

「んぅ……」
抱き止めて、唇で目尻を拭ってやると、水蜜は甘えるような声を出す。
いつもの積極的な彼女とは少し趣が違って、心くすぐられるものがあった。
「あなたは私が思ってた以上に優しいから……甘えちゃおうかなって」
悪戯な微笑みを浮かべて唇を指差したので、何も言わず唇を重ねる。
音もなく押し倒し、指を絡め合って、舌を、唾液を、粘膜を融け合わせる。
「んふっ……、んっ、んん…ふ、ぅんん……♪」
いつもの貪るキスとは違う。静かな、それは静かな、ゆっくりとした口の性交。
小さくも絶え間ない快感のさざ波に、僕も水蜜も、時とともに高まっていく。
徐々に徐々に柔肌が張り、背筋は強張って、乳首は固くしこっていく。
「んんっ! ひんっ、んふ、あ、ふぁ…! ら、め……ちくびらめぇぇ……♪」
腫れ物に触るような丁寧さで乳首を転がし、指に挟んで交互につまみ上げ。
「や、やら……くる…おっきいの、きちゃ…――ッ!?」
快楽の津波に身構える水蜜の秘所に、僕は灼熱した己の分身を突き込んでいた。

その六

今まさに絶頂を迎えんとする水蜜の媚肉は、苦もなく怒張を呑み込んでいく。
突然の挿入に、濡れそぼった肉襞は荒れ狂ったように締め付けてきた。
「あああああああっ! イク……イクイクイクううううううううッ!!!」
がくがくと腰を痙攣させられて、その衝撃に思わず精を吐き出す。
「ひああ…!! あ、熱いよ……死んじゃうよぉ……ああああああっ!!」
敏感になった粘膜に精液の熱が滲みるのか、首を振って泣きじゃくる水蜜。
頭を抱きすくめるようにして腰を振ると、すぐさま両脚を僕の腰に絡めてきた。
「もっと動いて……これで壊れちゃってもいいから……」
息も絶え絶えに、まるで哀願するかのように。
「船幽霊の本能を、二度と思い出せなくなるまで……あなたに溺れさせて……」
強く、強く抱き締める。愛しいという想いのままに、奥まで腰を叩きつける。
ごつん、ごつんという手応えが返る。子宮が降りてきているのだ。
「ちょうだい……あなたの温もり、全部……。ぅあ、あああぁぁぁぁ……♪」
しがみつくように抱き合って。僕らは朝まで、心ゆくまで融け合った。

その七

――翌朝。あの熱は嘘のように下がり、僕はすっかり快癒していた。
そして、僕は今、どういうわけか水蜜と一緒に大浴場にいる。
「眠気を覚ますには、これが一番だからね」
桶に汲んだ湯を頭から浴びて、濡れた髪を掻き上げる水蜜。
肢体を伝う水滴が朝日を弾いて、何とも言えない健康美を醸し出す。
「それじゃ、さっそく背中を流して……あら?」
僕は目を逸らした。タオルで前も隠したが、もちろんそれは手遅れだった。
「もう…。手のかかるお稚児さんねえ」
緩慢な動作で裏筋を撫でながら、水蜜は小さな唇を指差す。
「ここにちゅーってしてくれたら、今すぐしずめてあげる……♪」


それ以上の言葉もなく、僕たちは口付けを交わす。
身も心も蕩ける中で、僕は嫌でも自覚する。
嗚呼、僕はもうどうしようもなく、彼女に溺れているのだと――。


(終)

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