1

あれは、いつぐらいの事だったでしょうか。
 股に毛が生えはじめた頃ですから十を少し越えたくらいの頃のはずです。

 その日、わたしがお風呂に入っていると父が風呂場に入ってきました。薪が勿体ないからと母に言われたらしいのですが、わたしはとても不愉快でした。何故、父の裸を見なくてはならないのか。乙女になりはじめるその年齢の娘としては当然の反応です。
 なるべく、父を視界に入れないようにしながら体を洗い、髪を洗い、そうして湯船に使っていると。
「小鈴と風呂に入れるのもこれで最後だろうから、背中を洗ってくれないか?」
 父にそう言われては娘として断れません。
 手拭いを泡立たせて背中を擦っていると、不意に胸が高なりました。自分の心の予期せぬ動きに混乱し、目をあちらこちらに動かしてその原因を探ってみれば、なんてことはなく、目の前の背中でした。その広さ、色、形。見たくはなかったはずの物に急に心が引き寄せられたのです。
 背中にはじまり、尻、腕、首、後頭部。目は勝手に動いてそれらを観察しはじめます。欲求は止まらなくなり考える前に口が動きました。
「せっかくだから、背中以外も洗ってあげるよ」

2

親孝行な娘を装って父の正面へと回り、わたしは欲望の赴くままそれを凝視しました。なんとも醜く、グロテスクな色形をしているのに、胸の高鳴りが収まりません。
「いや、背中だけでいいよ。ありがとうな」
 父はわたしの視線には気付いた様子もなく、手桶を取って泡を流し湯船に浸かりました。
 風呂から上がり、温もりが冷めないうちに布団に入って目を瞑ると、目蓋の裏に風呂で見た父の体が蘇りました。腹の奥がもにょもにょとうずき、わたしの右手は自然と股を触っていました。
 それが生まれてはじめての自慰でした。

 父を思い浮かべて自分を慰めるなど、倒錯に違いないのに、その日からは毎晩、あれを思い出しては指を動かし、あれが大きくなったところを想像しては指を増やして動かしました。
 ある日の事でした。わたしは本で得た知識を総動員して、父に犯される妄想をしていました。父の口がわたしの乳首を啄むことを想像しては、乳首を抓り、甘い言葉をかけられることを想像してはその言葉を声音を真似て口に出しました。いつもよりあそこがぬるぬるして、体は燃えるように熱く、ついにその時は来ました。

3

醜くグロデスクながらもうっとりする程たくましいあれから、精液が噴き出すところを想像していると、突如、体が強張り汗が吹き出して次の瞬間には、股から背骨を伝って雷のような快感が走りました。強張りが解けて体が何回も痙攣し、汗の匂いも変わって、わたしのあそこの肉は指を折れんばかりに締め付けました。
 はじめての絶頂。父の幻影が目の中で濃くなったり薄くなったりして、夢心地のまま、わたしは眠ってしまいました。

 幼いながら、わたしはあの時たしかに女として父を愛していました。それは女に生まれたなら誰にでもある父への愛情の錯誤なのか、それともわたしが倒錯しているのか。誰にも相談できないままでした。
 明日、わたしは婿を取ります。見合いで出会った方と結婚するのです。見合い婚とはいえ、相手の事をわたしは愛しています。
 それでも、あの日々の事を忘れないようにと、こうして日記に認めているのですから、やはり、わたしは倒錯していたのでしょう。
 ああもうこんな時間です。もう寝なくては。
 最後の夜なのですから、もう一度だけ父を想って慰めてもいいですよね。
 きっと神様も許してくれるでしょう。

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