その一

ようやく霧が晴れたと思ったら、今度は雪がちらついてきた。
霧の湖のほとりを迂回し、雑木林を抜ける頃には、指の先がかじかんでいた。
耳も鼻もちりちりと痛み、吐く息もやたらと白くなってくる。
そんな中にあって、僕が諦めもせず歩を進めるのには、もちろん理由がある。
「――……。お待ちしておりました」
陽が落ちて、うっすらと雪が積もり始めた、赤い洋館の門前。
鉄扉の前にちらつく雪に、紅色の髪が、ふわりと踊る。
「待ち侘びましたよ、この時を」
僕もずっと待っていた。ずっと、ずっと待っていたのだ。
だからこそ、遭難しそうなこの銀世界を、ためらうことなく歩き通せた。
「会いたかったです……寂しかったです……!」
音もなく雪を蹴り、門の番人――紅美鈴が、僕の胸に飛び込んでくる。
力強く抱き返し、僕たちは雪の中、無言で再会の喜びを噛み締めていた。

その二

庭園の隅の門番詰所に僕を通すと、美鈴はさっそくお茶を淹れてくれた。
「それでは、お仕事の最中ですが。再会を祝しまして……乾杯♪」
龍の絵が入った茶器を軽く打ち合わせて、淹れたての熱いお茶を煽る。
……美味い。器は小さく量も少ないが、あまり熱くなく、一度に飲み込める。
とにかく体を温めたいこの状況下で、それは何より嬉しい気遣いだった。
「ふふ、いい飲みっぷりでしたよ。はい、もう一杯どうぞ」
今度のお茶は熱かった。わずかな澱に、何らかの香辛料の残滓が窺えた。
やがて、体が熱くなってくる。雪の降る夜なのに、僕は玉の汗をかいている。
「ちょっぴりだけ五味子を入れておきました。はい、三杯目」
ほどよく温かく、これまでになく香り高い風味が、じんわりと体に沁みる。
「とっておきのジャスミン茶です。ふふ、堪能してもらえました?」
雪の中を歩き通してきたはずの僕は、気づけば身も心も温まっていた。
それはお茶よりも暖炉よりも、彼女の心遣いのためであったに違いない。

その三

「すみません。仕事中なので、簡単なものしか出せないのですが……」
仕事をサボった合間に作ったにしては、ずいぶん本格的な点心が出てきた。
まあ、クリスマスのご馳走とは、若干違うかもしれないが。
それでも美鈴の手料理ならば、食べない理由など何もない。
「……ふふ。それでは、いただきましょう」
肉まん、餃子、小龍包……いずれ劣らぬ美味ばかりだ。
半刻ほどかけてゆっくりと味わい、最後に――
「あ、あの……。初めて作ったので、自信はないんですけど……」
美鈴特製の、どことなく丸太状のクリスマスケーキが登場した。
さっそく幹の部分が手際よく伐採され、作り物のモミの葉が載せられる。
「ええっと、確かクリスマスは歌を歌うそうですが……何か知ってます?」
正直に首を振る。視線を返すと、美鈴もぷるぷると首を振る。
僕たちは互いの仕草にひとしきり苦笑して、それからケーキを頂くのだった。

その四

食後――。食器も片付けず、僕たちはもつれるように寝台へ飛び込んでいた。
半月ぶりに褥を共にするというのに、睦言ひとつ交わしもしない。
「そんなの、後でいいんです……もう、待ちきれないんですよぉ……」
たくし上げられた下衣の奥、美鈴の秘所は、すでに蕩けきっていた。
ずぶ濡れになった白い下着は、もはや下着の用をなしていない。
「ちゅーも、おっぱいも、後回しでいいんです。だから、今は……」
下から僕にしがみつくなり、長く綺麗な脚が僕の腰をがっちりと捕らえる。
「はやくっ……早く入れて……! 半月分のえっち、早くしてぇ……っ!」
ぐちゅぐちゅと音を立てる秘唇が、不意に亀頭の先端を咥え込む。
「あ……あああ……はあぁぁぁぁぁああああああああっ!」
熱くぬかるんだ媚肉の中に、根元までひと息に呑み込まれていく。
「お、おくっ! 奥に当たっ、当たって――ひああぁああああああっ!!」
その先端が幾度か奥を叩くうち、僕たちは同時に最初の絶頂を迎えていた。

その五

「はあ、はっ……は……。ちゅ、ちゅ、むちゅ、くちゅ……」
小さくて少し厚い美鈴の唇が、僕の唇に遮二無二むしゃぶりついてくる。
僕もまた、それに同じように応える。技巧もなく、情緒もなく。
ただただ相手を求めるだけの乱暴な口づけが、今はただ、気持ちいい。
「はふぅ……。ああ、こちらにご挨拶するのを忘れていましたね」
力の抜けたペニスを軽く握ると、先ほどの唇と同じように口付け始める美鈴。
「んっ、ちゅっ、ちゅっ。ちゅるるっ、ちゅぱっ、ちゅぷっ、ちゅっ」
竿の部分を器用に扱き立てながら、小気味よく小さな口付けを繰り返す。
まとわりついていた精液と愛液を吸い取られ、剛直は不死鳥のように蘇った。
「ふふ、元気になりましたね。それじゃ、続けましょうか」
今度は僕が押し倒される。狭い寝台の上、あっさりと美鈴に組み敷かれる。
「向こう十年は忘れられないように、激しくしちゃいますからね……♪」
再び淫らなぬかるみに呑み込まれながら、僕はほぼ無意識に腰を振り始めた。

その六

「ふああ……っ。これで、何回目の射精でしたっけ……」
十回から先は数えていないが、おおよそ二十回というところだろう。
いずれも例外なく膣内射精。もはや腰が砕けすぎて液状化した気さえする。
「それじゃ、ここからはまったりいきましょうか」
胸に倒れ込んできた美鈴を、あまり力の入らない腕で抱きしめる。
腹部に当たる弾力が、何というか、とてつもない幸福感をもたらしてくれる。
「ふふふ……。愛する人にギュってされて、私もすごく幸せです」
そう言ってもらえるなら、男冥利に尽きるというものだろう。
「今夜はこのまま、朝までつながっていたいですね。……いいですか?」
いいも何も、そんなことは僕の方からお願いしたいくらいだ。
「それじゃあ、今から半年分、いっぱいお話しましょうね」
楽しかったことも、辛かったことも、僕たちはすべてさらけ出して。
気がつけば、朝が来るまで僕たちは語り明かしていた。

その七

――翌朝。雪は止んだが、紅魔館の庭先は見事な銀世界となっていた。
「わあっ! 見て下さい! 真っ白ですよ、真っ白!」
昨夜あれだけ体を使ったのに、美鈴は実に元気にはしゃぎ回っている。
「…………。でも、もうお仕事に戻らないと、いけないんですよね」
そう。夢のような夜が明けたら、僕たちはまた現実に戻らねばならないのだ。
別れは辛いし、心苦しいが、またこうして折を見て会うことはできる。
「次はバレンタインですかね? 立派なチョコを作れるようになりますよ!」
男としては狂喜せざるを得ない宣言をしてから、美鈴は
「えいっ、スキあり!」
狂喜するのを必死でこらえる僕の頬に、小さく口付けをした。

小さく手を振る美鈴に、大きく大きく手を振って別れる。
今度はいつ会えるのだろうか。彼女は休みを取れるだろうか。
僕は久しぶりに胸を高鳴らせながら、新雪を踏みしだいて家路に就いた――。

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