第一話

その一

どうしても読みたい本があって、稗田さまのお屋敷を訪ねようと思った。

本の中身は、声に出しては到底言えない。つまりは「そういう本」だと納得してほしい。
今代の博麗の巫女が、性欲旺盛な男に舐められ嬲られ孕まされる春画の綴り。
いわゆる地下本。包み隠さず言えばエロ本。読みたい。どうしても読みたい。
世に出回っているのは小数部。かの本について俺が知っているのはそれくらいで、絵柄はどんなだとか、どういう嬲り方を描いているだとかは全く知らない。
だが、読みたい。そんなものの噂を聞いて、読みたくならないわけがない。
想像してほしい。いつも飄々としているあの巫女が、ただの男などに押し倒されふん縛られ、手籠めにされてあまつさえ……孕まされるだと。
そんなものがあるなら、物の存在が広まる前に動かなくては。
普通の手段では手に入らない。購入できる機会を得たとしても、きっと俺の貯えでは手が届かない。
そこで、まず俺は稗田さまのお宅に赴くことにした。本集めの趣味もある稗田乙女なら、という考えだ。
外見可憐な稗田乙女が、エロ本集めなんかしていたら。そんな余計な妄想をするくらいの余裕はあった。

そのニ

稗田さま、稗田さま。所在を問う声を玄関口に響かせた。
この夕暮れ時なら召使は買い物に出ている。淫心で動く時の男の脳は、この上ないほど活性化するのだ。
薄命の運命に生きる稗田乙女を玄関まで歩かせるのは、いささか忍びないが。
「はい、どなたでしょうか?」
九代目稗田乙女・稗田阿求さまは、玄関の戸を開けるにも少し時間が要るお体だった。
寺子屋通いの年頃の、小さくそして非力な身体。羽織った羽織に負けそうで、父性本能がちくちく痛い。
善意を抑えて作戦を始める。『ごぶさたしております、阿求さま』『折り入ってお頼みがございまして』。
阿求さまの返事を受けて、一拍おいて息を正す。それから少し真面目な目をして続ける
『私、本を探しておりまして』。こうやってにじり寄るように様子を探りながら──
「ええ、そういうお話でしたら、私は全く構いません。ただ、今はお世話の方々が出ておりまして」
それについての対策はこうだ。阿求さまのお体に障りますゆえ、許しを頂ければ自分で探す、と。
俺のその提案によって、少しの時間の緊張が生まれた。
「……」
心配は杞憂だった。阿求さまは優しく微笑んで、これまた優しい手招きをした。

その三

夕焼けのよく見える縁側と、庭には蕾の多い梅の木と。
逃れられぬ短命、というのは想像がつかない。阿求さまにとってこの邸宅は、少しの慰めにはなるのだろうか。
「だれかが私に本を借りに来る、なんて。少し驚きです」
ふと物思いをした心の隙に、阿求さまの言葉がりんと響いた。
「あ、いや……私の毎日と言えば、求聞持のちからで幻想郷を記録するだけで」
い、いかん。そんな話をされると、心が揺らいでしまう。
「それこそひとと会うのも招くのも、自分の使命のためばかり」
阿求さまは振り返った。俺は顔に出さないように努力した。
「だから私、今ちょっと楽しいんですよ? 彩りがほしいって、ずっと思ってたから」
阿求さまが一歩踏み出してきた。背伸びしても俺の胸に届くか届かないかの小柄。
稗田乙女は転生する、と聞いている。記憶だけを受け継いで、次の短い命へと生き継いでいく。
「例えば、誰かと好きな本の話をしたり……」
小さい身体は子供のそれだ。だが、深い瞳は大人のそれだ。錯覚なら、それでいい。
「……ふふ、ただの独りごとです」
いつの間にか書斎とやらに着いていた。心臓の早鐘がうるさかった。

その四

本棚ばかりのこの書斎にも、俺の目当てのものはなかった。あったのは殆どが歴史書の類で、そもそもここには絵のある本は置いていないと見た。
「いかがですか、お探しの本は……」
残念ながら、と首を振ると、阿求さまも残念そうな顔をした。
「他に私の手元にある物と言ったら、あとは絵ばかり載っているものしか……」
ん、んん?
少しの間静止していた俺の顔に阿求さまが覗くように視線を移した。
「あ、そういう本が欲しかったとか、ですか」
心を読まれた様だった。くすくす笑って、阿求さまは手で黙ってついてくるように合図してくれた。
「実は私、大好きなんです。すぐ読めるように全部机の周りに置くくらいで」
言ってくれればお見せするのに、と笑う阿求さまに、俺は赤面するしかなかった。
ちょうど稗田邸の一番奥に、阿求さまのお部屋はあった。
「私はお湯を沸かしてきますから、先に探してもらっていて大丈夫ですよ」
襖が開けっ放しだった。なるほど、積みあがった本の山がここからでも見える。
お言葉に甘えて、物色させてもらおうと部屋に踏み込んだ瞬間である。重くて固い何かが、俺の脳天を直撃した。目の裏が痺れて、直後、真っ暗になった。

その五

目が醒めたころには、もうあたりは暗かった。
気が付いたら、布団に寝ていた。阿求さまが手当てしてくれたのか、しかし頭の痺れはまだ重い。
手足にも痺れを感じたが、寝ぼけているのではない。なぜだか足首は束ねて縛られ、手も後ろ手に手首を縛られている。結び目は固い。もがいても、抜けられなかった。
「ふふ、貴方って意外とお寝ぼうさんなんですね」
頭上から、もがく俺を嘲笑うような声が落ちてきた。記憶の中の一番最近に聞いた声と同じ声だった。
「頭、まだ痛みますか? こんなのが当たったんですから、痛いですよね」
芋虫みたいにして、声の方に寝返りを打った。阿求さまがうす暗闇の中、煉瓦みたいに分厚い辞典をつついて、微笑んでいた。
「わ、まだそれくらいは動けるんですか。次はもう少し高価いお薬を買うべきですね」
言葉の意味がよくわからない。質問のしようもない。絶句して困惑して、黙ったままでいる俺から視線を外さぬまま、阿求さまがゆらりと立ち上がって、俺の腰の傍に座る。
「……でもデッサン人形なんだから、少しは動いてもらわないと、困るかも──」
背筋が、ぞくりと震えた。そのひとつの呟きに、俺は何かを悟ってしまった。

その六

丈夫ですよ。今日は動かなくても大丈夫なようにします」
俺の服の紐を解きながら、阿求さまが笑いかける。デッサン人形? それは、もしや。
服を脱がして、何をする? 何の為のデッサン人形? 『人形』を見て、何を描く?
「くす。貴方って、勘がいいのかどうか判りません……ねっ!」
最後の一音に力を入れて、俺の服をがばっと開いた。胸板も、腹も、股間も、全部が透け晒しにされた。
「どうしたんですか、はじめての女の子みたいに黙りこんで……」
俺は騒がなかった。これから俺は、そういう用途に弄ばれる。覚悟を決めた。幻想郷の女は床の上では滅法強く、悉く淫魔の才能を秘めている。それを知っていたから。
「……大丈夫、すぐに黙ってなんかいられなくしてあげますから……」
いやに艶っぽい小声の後、阿求さまは羽織を脱いでゆっくり俺に覆い被さってきた。
俺の胸に矮躯を預けて、顔を接近させてくる。それから帯を緩めて、細い太腿を露出させた。
「駄目です」
顔を取り押さえられた。濡れた唇を、いやでも見せつけられる。
同時に内股を使って、まだ小さい俺のモノをぐりぐり押す。集中を乱されていると、阿求さまの顔が急接近してきた。

その七

「ん、んふぅ、んっんっんっ……じゅぅ、ちゅうっ、じゅうじゅうじゅう」
接吻なんて、どれくらいぶりだろう。そんな感慨を抱かせないほどに、淫らな口吻だった。
遠慮なしに舌を入れては、荒く早い鼻息を漏らし、下半身はもじもじ太腿を動かして勃起を誘う。
唾液を啜っては零し、水音を鳴らす。脚の動きが活発になり、とうとう勃起しきってしまう。
本当の口付けというのを、今生まれて初めて知った。曖昧な電気按摩の刺激と相まって、ずっとこのまま過ごしていたくなる。
「ちゅっ、ちゅっ。ふふ、やっと、大きくしてくれましたね……」
一瞬だけ唇を話して、阿求さまが嬉しそうな顔をする。見惚れていると、不意打ちにちんぽを掴まれた。
「んっ、ちゅっ、じゅううっ」
阿求さまの口遊びは終わらなかった。意識の隙をついて、今度は俺の乳首に吸い付いた。
「ん、んる、ちゅるちゅるちゅる、ぢゅぅうう、んん、んんんんん」
左の乳首だけを執拗に舐める。感じる快感を云々ではなく、行為自体に興奮してしまう。
この手扱きも、自慰とは比べ物にならない。喘ぐことを強要される。喘がされているうち、恥も外聞も忘れて、俺はこの小さい手に精を放ってしまった。

第二話

その一

「さあ、それでは言ったとおりにしてくださいね」
要求──と言うよりは命令に近いその言葉に、俺は従う。
下を膝上にまでずりおろし、膝立ちになって、無理に勃起させられている性器を扱く。
左手には女児の下着に見立てた柔らかい布を持ち、豚みたいな鼻息を立てて、それを顔に押し付ける。
出来る限り下品な顔と目をして、ひたすらくんくん嗅ぎ散らかす──
「うん、うん、そう、良い感じですよ……顔真っ赤にして、本物の変態みたい」
妖力の籠もった怪しい香の煙が立ち上る阿求さまの部屋は、三月にあるまじき寒さを誇る屋外とは無縁の熱気が充満している。全裸になっても寒さなんか感じないだろう。
変態的な自慰に耽る俺を観察しながら、阿求さまは机に向かっている。机に大きな紙を広げて、軽い筆取りで何かの絵を描いている。
「いい、いいですよ、もっと夢中になっていいんですよ? ほらもっと必死になって?
がんばって女の子下着くんくんして? もっと激しくおちんちん扱いていいんですよ?」
鼓膜になみなみと注がれる幼い淫語の洪水が、俺の右手をさらに加速させていく。
口と鼻に擦りつける布切れを唾でべとべとにしながら、俺は虚空に射精した。

そのニ

こんな激しさと興奮を伴った自慰は、初めてだ。脱力して、うずくまると、布団の外の畳に俺の精液がべっとり付着しているのが目に入った。
「あ、あぁっ……とても、とてもいい画でした、春の事しか考えてないケダモノみたいで──」
茹で上がったように紅潮した顔を、ぞくぞくわなわな震わせている童女がそこにいた。
「もう、嗜虐心で、胸が苦しくて……。写真も撮りましたから、好きな時に見返せますし……」
幼い唇で、そんなことを。あの阿求さまが、こんなことを。
稗田乙女は転生する、と聞いている。前世の記憶を受け継ぐということは、つまりは『そういう知識』が染みついた心と身体をもって、次の人生に産まれてくるということなのか。
「それでは今日はこれくらいにしましょう。これからは、私の個人的な愉しみの時間……」
阿求さまは昨日と同じ馴れた手つきで着物の帯を解き始めた。
現れた細い首筋、小さい肩も、頬に負けないほどの真っ赤な欲情の色が浮いて出ている。
「はあ、はあ、はあ」
倒れている俺を仰向けに転がして、阿求さまは俺の下半身を抱えて捕まえた。
俺は捕まった。見た目だけは年端もいかない少女に、『本』の資料にされるため。

その三

本能のまま人間に吸い付く蛭のように、阿求さまのつやめいた幼肢がまとわりついてくる。
「ふ、あは、ふふ。あんなに激しく扱いていたのに、もうこんなに固くして」
刀の柄を握るように、小さい両手をそっと添えられる。何にかは、言うべくもない。
顎を目一杯引いて、阿求さまの仕草に釘付けになっているのに気付く。仰向けというのは受け身の姿勢、喰われるもののする恰好であることを、身体に刻み込まれていくようだ。
悪戯欲に満ちた表情をして、ゆっくり両手の上下を始める。包皮の皮を上下させる扱き方。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと。
一度射精して防御力のなくなった男の象徴に、この微妙な刺激は、毒にしかならなかった。
「ふ、うふふ、ふふふっ」
そんなことは知っている、という笑い声を漏らす阿求さまの紫の髪が異様に色っぽく揺れる。
やがて漏れすぎた我慢汁が手筒に絡んできて、手扱きの形態が変わってきた。
「……ええ? なんですかこのぬるぬるはっ、気持ちいいんですか? 気持ちいいんですかっ!?」
阿求さまが途端に声を乱暴にした。手扱きも乱暴になった。
さっきの俺のより、数段激しい手扱きは、到底、我慢のできるものでなく──

その四

「う、ぇ、ぷ。全く、こんな程度で悦んで、軟弱なおちんちんですね」
ひどい快感だった。背中が弓なりになって、大量の精液が出口から飛び出て行った。
その半分は俺のへその周りに、もう半分は阿求さまの髪と顔を白濁色に汚した。
「ただ、量だけは満足……そうですね、あと味と匂いも」
もう、言っていることの訳がわからなかった。幻想郷の女は、これが標準なのか?
「そ・れ・で・も。鍛えなければならない程度のモノ、というのは事実です」
嫌な予感がした。阿求さまは、まだ顔にひっついた俺の精液の味を見ている。
「四つん這いになってください」
それは確実に命令だった。絶対に、声は要求なんかじゃない。正真正銘の命令。
「早く。なってください」
もたついていた。そんなのはわかっている。だけど、ここでこの命令に従ったら、俺は。
「嫌がるのなら──」
背筋が冷たくなっていく。だめ、駄目だ。どっちも駄目だ。誰か、誰か、俺はどうすれば、
──もう、してあげませんよ?
俺の躰は、堕ちるのが早過ぎた。俺は、俺の心は、少し弱すぎた様だった。

その五

俺に何か残っているとしたら、後は羞恥心くらいなのだろう。
その証拠に、俺は命令通り阿求さまに尻を突き出してはいるが、顔は伏せって腕で隠している。
「うん、いい子ですね」
また背筋が反応した。さっきの冷たい電流ではなくて、今度は何故か、暖かい電流だった。
人間としての価値も矜持も溶かされる、隷属する快楽。
味わってはいけないものの味を、俺は知り、覚え、一晩で中毒にされてしまった。
「さて、ここで、ひとつ為になる話をしましょう」
突然の流れに、一瞬だけ正気を取り戻した気がした。
「男と女というものの話です。……女という字は、穴がありますよね」
伏せたままの頭で、咄嗟に文字を思い浮かべる。三本の線が絡まって、確かに中心に空白が生まれている。
「でも、男という字には、穴はありますが……格子の様に、閉まっていますよね」
穴。……穴? これは穴というよりは田んぼの田という文字で、これは穴に数えないのでは。
阿求さまは、それきり何も言わずに俺の尻を撫でている。話の続きはどこへ──
──!!!!!!
「本当に、締まっていますよねっ……!」

その六

息が、脈が、心臓が、本当に止まったかと思った。
尻、尻の、尻の穴に、何かを突っ込まれた。何がある? 指? 指なのか、これは?
「──は、あははははっ、そっ、そんな可愛い悲鳴を上げて、ま、全く、駄目じゃないですか、あはっ」
みちみちみちみち。本当に尻の穴がそんな悲鳴を上げている気がする。
「ぷっ、あは、あはは。痛い? 痛いんですか? 本当に?」
指を低速で抜き差しされている。愛撫でもなんでもない。何の潤滑もない。痛い。ひたすら痛い。
「……なら、これは一体何なんですかっ!」
もう一回、悲鳴を上げることになった。完璧に意識の外にあった男根を鷲掴みにされたのだ。
自分でも心から驚いた。痛みしか感じていないはずの俺の神経は、どういう事やら、男根を立派な欲情器官として働かせていた。
「何の下準備もなしのお尻を穿られて、おちんちんこんなに勃起させて!
この変態、変態、変態、変態! ほら、望み通りたくさん精液搾ってあげます、ほら、ほら……!」
嗜虐文句の乱打と、皮膚が擦り切れそうな手扱きと、感じるのは痛覚だけの肛門愛撫。
痛いはずなのに、苦しいはずなのに、伏せたままの俺の顔は、なぜか笑顔に近かった。

第三話

その一

この阿求さまの屋敷を訪ねてから、俺は自分の家に帰っていない。
俺は阿求さまの諸々の著作を手伝う住み込みの助手ということになっている。一応、小さい座敷を充てられ、そこが当分の自室になるはずなのだが、実際はほぼ二十四時間阿求さまの傍に置かれている。
身体は童女でありながら、落ち着いた心と瞳を持つ阿求さまに邪心を抱く者も少なくないらしい。この問題はそのまま俺に跳ね返ってくる。屋敷の使用人に、疑いの眼で見られはしないかと。
だが阿求さまは、巧妙だった。
「あら、ふふふ……それは大変な事ですね」
掃除係が襖一枚を隔てた廊下を通りかかる時などは、極めて無害な少女の声をする。
足音が通り過ぎ、確実な安全が確認できると、阿求さまは表情と声色をがらりと変えるのだ。
「──自分の自由に射精ができない、なんて。ふふふふ」
今の俺は『男は射精をどれくらい我慢できるのか』『射精を我慢する男の表情はどんなものか』についての資料にされている。唯一の慈悲は、阿求さまが直々にそのやわらかい手のひらで嗜虐してくれる事くらい。
そんな事を慈悲に感じるくらい、俺の心は奴隷に似てきつつある。

そのニ

「乳首もこんなにぷっくりさせて。最初の舐め舐めが気持ち良かったんですかぁ〜?」
嬉しげに、悩ましげに眉を歪めて、快感を俯いて耐えている俺の顔を覗いてくる。
日中は『いつもの阿求さま』を演じ、陽が落ちると昼間の鬱憤を晴らすかの様に阿求さまは激しくなる。
「あは、あはははっ、言葉責めも気持ちいい? 射精したいって震えてますよぉ?」
実際、俺は昼間は真面目に阿求さまの手伝いをしている。それはもはや、ただ夜を待つだけの時間だった。これを終えれば、夜はご褒美が待っているぞ、という風に。
「でも、駄ぁ目っ……ふふふっ」
射精欲が臨界突破する直前に、根を両手でぎゅうっと絞められる。
自分で数えただけでも九度目の射精留めに、俺の全身は悲鳴を上げてのたうった。
「良い具合に感度が上がって来た所で、ふふ、小道具を使ってみましょうか」
射精したい、射精したい。そんな調子で息も絶え絶えの俺から視線を外さぬまま、阿求さまは自分の衣服を乱し始めた。
これから何をされるかの予想は、するだけ無駄だ。
大きい溜め息を吐いて再度俯くと、目の前にひらりと真っ白な布が飛び込んできた。
「今回は、本物を嗅がせてあげますよ……」

その三

「ほらぁ……顔にぐしゃぐしゃに擦り付けて、もっともっと下品な鼻息鳴らしてください?
もっと存分に味わっていいんですよ? 湿っているところも、そうでないところも、ぜえんぶ。
あっ、被ってみるのもいいですねぇ。おまた当たるとこを丁度口と鼻に当たるようにして……」
言われた通りに顔に擦り付け、言われた通りに匂いを嗅いだ。
言われた通りに湿り気がある所を見つけて、言われた通りに下着を被った。
味わったことのない酸味が舌の外周に走り、甘く甘く蒸れた匂いが、勝手に男棒を扱かせた。
んー、んー……などと豚の鳴き声を真似てわめくと、阿求さまの釣り上がった瞳の笑顔が返ってきた。女物の下着は、こうして被ると視界を邪魔されないのを発見した。
「いい、すごくいいっ、あぁっ、ほんとうに、ぞくぞくしちゃう……」
阿求さまは声を震わせながら、目の前の変態を写生している。
そのうち、いつの間にか阿求さまの息が上がって、気が付けば、お互いに自慰を披露していた。
「き、気持ちいいんですか、こ、これでもっと気持ちよくなりましょうよっ」
いつ取り出したのか、阿求さまはどこかで見たことのある二組の電動器具を差し出してきた。

その四

つまみを回すと電気が通り、紐で繋がった小さな卵が振動する。興味深い道具ではあるが、今はそんな暢気にしている場合じゃない。
「ふ、ふふ、男の人の身体にはぁ、どぉこに入れれば良いんですかねぇ」
欲にとろけた表情をして阿求さまが迫ってくる。駄目だ。焦らし漬けにされた下半身は動いてくれない。
「ふふ、ふふふふ」
肩を押されて、簡単に倒れてしまった。膝を立てたままだったので、男を迎える女の姿勢のようだった。
阿求さまが追い打ちをかけるように指先で俺の穴を調べる。まだ、調べるだけ。
「ここ? ここ? ここですか? ここに入れて欲しいんですね?」
さする。さする。さすって、今度は例の卵を当てる。まだ、入れはしない。
「あはは、触るたびに体ごとひくひく震えて。でも、今夜は」
透明な瓶が現れた。その瓶の中身を手に塗りたくって、例の卵にも十分に絡めた。
「このローターくらいは、食べてもらいますからね」
にたりと笑って宣言して、間髪入れずに指で突かれた。
驚くほどすんなり挿入って、すんなり抜き差しを許してしまった。再度再度の射精留めで、腰から下が麻痺していたから? そうであってほしかった。

その五

「わかります? 今、私の指二本も挿入っちゃってるんですよ? どういう気持ちですか?」
両手で顔を隠すように覆って、他の事を考えようとした。でも、無駄だった。
尻は、今は痛くない。発見したのは、物をひり出すように力を入れると抽挿を上手く受け流せるということ。挿入る時も出ていく時も痛みを感じないで済むのだ。
「うふ、うふふ、随分上手くお尻の穴使えるじゃないですか。それなら」
……みいぃぃぃぃぃぃぃいん……
今度は背後で何かが低く唸り始めた。例の責め具、ローターだ。
自分でも信じたくないほどに解けた尻穴に、ローターが当てられる。
みぃぃぃん。肛門に微動が密着させられて、体感する音が変わる。痒い。
駄目だ。気持ちいいなんて思ったら、いけない。ローターが半分ほど、尻穴に嵌まる。
「くふふふふ──」
満足げな笑い声。駄目だ。でも、入ってくる。つるつるした表面のせいで、入りやすい。
「ほおぉら、はいっちゃいますよぉ……」
あ、あと少しで入ってしまう。踏ん張れば、多分反抗できる。でも、そんなことをするより、言いなりになったほうが、実は、きもちい
「……それ、もういっこっ」
お、押され

その六

腹の中の振動に合わせて膝がかくかく震えている。無様だ。一周回って、自棄になった。
「これで『下着泥棒が被害者少女に性技と快楽の限りを尽くされ奴隷に堕とされる漫画』が描けますね」
阿求さまは、また筆を持って机に向かっている。俺を参考にして絵を描いている。
話では、幻想郷縁起の仕上がりが遅れているらしい。こんなことを、しているからだ。
「……それじゃあ、またおちんちん扱いて貰えますか?」
『は?』と声が出そうになったが、出なかった。
「泥棒がばれて、盗むほど好きな下着を被せられ、お尻には震えるローターふたつも入れられ。
その状態でしろと言われて、オナニーしようと思いますか? 普通ならどう考えても無理ですよね」
何をこの状況で正論を、と反抗する力も無かった。視線を贈るのが精一杯だった。
だが、阿求さまはわざわざ俺に寄ってきて、俺を見下ろしてこう言った。
「それでもするのが、奴隷です。どんな命令にも従うのが、奴隷なんですよ」
後ろ手に腕を組んで、少女の笑みでこう言った。
萎えていた牡の茎が何故か勃り立ち始めた。金玉の付け根の奥の二つの機械微動を感じながら、俺は言われるがままにチンポを扱いた。

第四話

その一

髪を右手で押さえながら上体を屈める。ゆっくり口を開き、舌で何度か俺の欲棒をつついたりして遊んでから、息を吸うように一口に咥えこまれた。
「……っちゅぶ、んんぶぅっ、んちゅっ、じゅるじゅるぢゅぢゅっぢぅううぅ」
それからは卑猥に聞こえる水分の振動音と、阿求さまが息継ぎをする音しか聞こえなかった。
俺の理性を削ってくるのは音だけではない。物を食べたり、ものを言ったりする器官。今はそれが、男を殺す凶器のひとつと化している。
「んっくんっくんっく……んぅぶふぅ、ふぅっ、んふっんぅちゅるちゅるちゅる」
頬の肉が窪むほどに息を詰められ、密着した口肉で男根の隅々までに快感をもたらす。
小食であるはずのちいさい口は、時たま俺の猛りを根元まで呑み込んで、達してはいけない奥の奥の粘膜で男を扱く。当の阿求さまに苦しそうなそぶりは見えず、悦びと愉しさで瞳の焦点がほころんでいた。
「ん、ぅふふふ、あらはのおひんほ、ふぅえてまふよお……?」
膝立ちの俺は、阿求さまが俺の男根の味を覚えてくれるまでこのままなのだ。
それ以外の決まりはひとつ。射精はしてはいけない。それを最後まで守れば、天国に連れて行って貰えるらしい。

そのニ

「ん、ぷぁ。……よく我慢出来ましたね。結構頑張ったつもりなんですが」
でも、まだ本気は出してませんけど。戦慄するような一言を聞き逃しはしなかった。
阿求さまの唾液でてかる俺のモノは、まだ戦えるとばかりに上を向いている。いっそ、いっそ萎えてしぼんじまえ。射精留めなんてもうこりごりだった。
「今日は、あなたにも働いて貰いますよ」
お互い、既に何も身に着けてはいなかった。今度は阿求さまがぴんと背を伸ばして膝立ちになる。
幼くて瑞々しすぎる肌が汗できらめく。そこに、小さい指がすすすと内腿へ行った。
「ふふ……ほら、こ・こ。見えますか? どうなっているか、わかりますか?」
両手の人差し指と中指を揃えて、その二本の指を未発達な縦すじに添える。
なにやらいじくっている。あの指先が動くたび、阿求さまが微かに喘ぐのだ。
「──見えなかったら、見える姿勢になってくださいね」
見える姿勢。座る? 違う。かがむ? 駄目だ、まだよく見えない。……そうか。
「ふ、ふふっ……そう。合格です」
布団に這いつくばり、阿求さまの秘所に顔を近付ける。尻尾を振る犬より、さらにさらに低い姿勢。
割れ目の薄桃色が、よく見えた。

その三

俺の肉眼に焼き付いていく初めての『女』は、なんと少女のものだった。
拒むように閉じた大陰唇、それを開くと見える繊細な肉の花びら。真皮の色。
「ん……」
くち、くち、くちり。先程より耳が近くて、粘液の踊る音すら聞こえてくる。
くちゅ。今度は指を鋏の形にして、それで裂け目をゆっくり開いていった。
「んぅ、ふふ、食い入って、ますね……っ」
顔を近付けて更に知る。阿求さまのそこは、大泣きした後のように濡れ、そして中身は腫れていた。
少女の身体というものは、神秘以外の何物でもない。よく話に聞く女性器の悪評のひとつの要素も、目の前のこの肉の器には存在しない。
「ここ、を、舐めて欲しいんです。丁寧に、ゆっくりと」
信じられなかった。思わず命令を聞き返した。それでも、同じ要求が帰ってきた。
「なにを……してるんですか。ほら、はやく……」
息遣いが、荒い。あの阿求さまも奉仕を待ちきれずに、肉の割れ目から白い液を垂らしている。
直接的な奉仕をするのは初めてだ。やり方はわからない。ただ丁寧に、ゆっくりと。今はそれを守るだけ。
「は、んんッ」
息を止めて、水音も立たないような緩やかな舌の動きを心掛けた。

その四

真ん中に舌先を少しだけ侵入させてみたり、上部の小さな珠に口付けてみたり。
「あ、ンっ、ぅ、ああんっ、あ……や、少し、優し過ぎですよ」
しくじっては何をされるか。だが、褒めて貰えているようで、少し心が弾んだ。
「ふふ……小さい躰だと、どうにも敏感で困ります」
阿求さまの顔が余裕を取り戻した。俺の拙い奉仕についてはそれ以外触れない。
「でも、お陰でこんなに湿ってくれました。ほら、こんなに……ね?」
阿求さまの指先には、俺の口を使う前より確かに多くの愛液が絡んでいる。自分の愛液で糸を引かせたりして遊ぶ阿求さまの姿が、妙に今日は優しげに見えた。
「私のを舐めている間も、ずっと固くなったままでしたね。あなたのコレ」
口調の柔らかさを保ったまま、愛液を俺の男根になすりつける。ずっと勃起したままだったのは、自分でも知らなかった。
「準備は、万端ですね」
くす、と笑って、阿求さまは俺の胸に幼躯を預けてきた。軽い。身体と身体の距離がゼロになる。
阿求さまは俺の心臓の上に手を置いて、ぼそりと言った。
「しましょう。──セックスを」

その五

そのたった一言は俺の心臓を打ち抜いた。一発で、抜けがらにされたらしかった。
「仕方が、分からない? ふふ、大丈夫、私がきちんと、教えてあげます」
俺を押し倒そうとする腕は、優しかった。俺は本当に抜けがらだった。少女の腕力に身を委ねた。
背中が布団に落ちた。目と目は合わせたまま。阿求さまが俺の胸に手を突いた。
小さい尻に、俺の垂直が触れる。腰を浮かせ、先端と入口で淡い接触をさせて、止めた。
「私を見て」
見た。再度視線が交わる。阿求さまの瞳は、揺れている。
「優しく、ゆっくり、します、からっ。だから私を、ね、見て……ッ」
ぬるり。思ったより順調に亀頭が嵌まった。だが、そこからは、なかなか上手くは行かない。
長い息を繰り返し、阿求さまがゆっくりと腰の位置を下ろしてゆく。
「く、あっ、ふうっ、も、もう少しで、もう少しで全部──くうぅうあああっ!」
棹の中程まで刺さった瞬間、突然狭い場所に行き当たり、直後、阿求さまが悲鳴を上げた。
「はあ、はあ、はあっ……ふ、ふふ、気に、しないで。慣れたこと、ですから──」
あの阿求さまの眼に涙が浮かんでいる。何故?
ふと、俺たちが繋がっている部分を見ると──

その六

まだ、俺の視界のある一点に、あの赤が染みついている。目を瞑っても、どうしても離れない。
「そんなにめそめそしなくても、大丈夫……」
大丈夫。この言葉を、阿求さまは何度も俺に与えてくれた。
俺は、俺は立場こそすれ被害者だ。だが、あろうことか、俺は、俺は阿求さまの処女を──
「大丈夫、だいじょうぶ、私は、あなたを捨てたりなんかしませんよ……」
俺が恐慌状態に陥りかけると、阿求さまは俺の上で優しく微笑んでくれる。
「おちんぽ、限界まで膨らんで。ほら、謝るくらいなら、今は私を愛して……?」
そうして目を瞑ったまま交わるうち、どこかで俺は意識を手放してしまった。
知らないわけじゃない。虐げに虐げた所を、優しさでほだして仕上げるんだ。調教の常套手段だ。
だが、俺は、これが策略だとは思いたくなかった。奴隷と主人が一時だけその関係を超えて、素顔だけで愛し合った。それでいいだろう。俺は、俺は甘いのか?
「ふふ、明日から、もっともっと愛し合いましょうね。今度は私が、沢山注いであげますから──」
薄れゆく意識の中、誰かの声が聞こえていたのだけを覚えている。だがその内容と意味は、俺の脳には届かなかった。

第五話

その一

阿求さまと、目を合わせられない。
阿求さまも阿求さまで、あの破瓜の夜から何か様子が変わったような気がする。
「……はい、今日はこれくらいにしましょう。資料は片さないでも結構です」
言葉の調子がやわらかく、また、昨夜なんかは部屋に呼ばれもせず、『本』の資料して使われもせず。おかげで久々の安眠を満喫することができたのだが。
──なんだか、落ち着かない。
「まだ、気にしているんですか?」
はっとして、阿求さまの方を向くと、やわらかい控え目な笑顔が目の前すぐそばにあった。
「あの痛みを経験するのは、もう九度目です。だから、気にしないで」
しっとりした声で、繊細なつくりの指で、俺の心に触れてくる。
だが、無理がある。俺も人並みの責任感は持っている。
「……じゃあ、どうしても気になるなら、私のお願いを聞いてください」
それで、おあいこにしましょう。少女の顔が、さらに接近してくる。
「嫌なら、嫌と言って。もし、あなたが良いなら──」
阿求さまはそれきり言葉を切った。唇が、もの凄く近い。その唇が俺を誘うように動いている。
責任は、取らなければ。その一環として、俺は、小さい唇に自分の唇を重ねた。

そのニ

「……返事がこれということは、もう、私、遠慮はしませんよ……?」
仮面が剥がれた。結局こうなる。もう覚悟を決める。調教でも、実験でも、なんでも来い。
「ふふ。いい返事」
阿求さまの着物が脱力していく。もう、何度も見ている。襟元が緩んで、首筋が覗いて、幼いふくらみの間の肌が見えて、着物は肢体から抜け落ちていく。下着なんて、身に着けていない。
もともと俺に幼女趣味はない。だが、何故か興奮してしまう。色気を覚えるのは、その仕草だ。
舌をぺろりと見せる仕草。落ちた着物を足でどけ、裸の素肌を撫でる仕草。
瞳だってそうだ。妙な色に濡れている。流し目気味にこちらを一瞥するのなど、たまらない。
「あなたも脱いで。今夜は、少し汗をかきますよ」
言葉の響きがいっそう欲情を沸き立たせる。今の俺は『喰われる側』なのに。
「そう、脱いだら……」
左胸がどきどきしている。男らしくもない。でも、それがなんだか心地良くもある。
「お腹を見せて寝転がってください。犬みたいに」
ああ、ああ。こんな、俺の腕でもひとひねりにできそうな少女に、使役される。
体が勝手に布団に近付いていく。勝手に腰を下ろし、勝手に仰向けになった。

その三

犬みたいに。つまりは脚を曲げ、手首も軽く曲げて胸の前に。情けない。
「うふふ、可愛い」
俺を追って、布団の上へ。舐めるような視線で俺を見下ろす。ぞくりぞくりと、背筋が強張る。
「次は、自分で脚を持って、高く腰を浮かせてください。……私に穴が、見えるように」
……穴。俺についている穴は、この状況でいう『穴』は、ひとつしかない。
それぞれの膝の裏に手をかけて引っぱる。おのずと尻が布団から少しずつ浮いていき、体全体が丸く曲がっていく。身体は固いほうだが、穴が見えるのに不自由ないくらいになった。
「よい、しょ」
そこに阿求さまが俺の浮いた下半身と布団の間に両膝を挟み、固定した。
そのまま曲がった俺にもたれかかるように体を預ける。躰と躰の距離が縮まった。
「く、ふふっ、もう、目と鼻の先ですね……」
まだやる気半分ほどの俺の棒と玉の向こうに、阿求さまの顔が見える。でも、見ていられない。
「見えてますよ、全部。からだはとっくに大人なのに、可愛く窄んでいるこの穴が……れる」
背筋が跳ねた。視線を逸らしていたのがいけなかった。
温かく、小さく、そして細く尖らせた舌が、俺の穴を濡らし始めた。

その四

れる、れるるる、ぶちゅ。くちゅるるる、ちゅるちゅるちゅる、ちゅう、ちゅう。
呼気が割れ、水分が動き、大きい吸啜。それらの音の全てを、また触覚でも感じていた。
肛門。男の身体の中で、一番敏感な場所かもしれない。そこを今、舌が這い、唇が吸い付いている。
体温の暖かさをした軟体が絶え間なく動く。不快感は、十分に唾液が塗られて、一転、くすぐったさに変わった。
それからは早い。唾液もやがて温かくなり、今度は舌が穴を穿る動きを始めた。
窄みを突っつくように。舌の先端でくすぐるように。そして、今度は。
「ひょっほ、りひんれ、ふらはいれ……」
聞き取れない、と考えた瞬間、唇が肛門を覆うように密着し、穴に何かが押し付けられてきた。
舌、なのか。入れる気なのか。……嫌だ。気持ち悪い。
だが、抵抗の仕方がわからなかった。どんどん押し込まれていく。
「あ、はぁ……」
恍惚とした笑みが聞こえても、何も嬉しくはない。休む間もなく、挿入された舌が踊り始める。
もう男根は完全に勃起していて、しかも既に阿求さまの手筒が嵌まっている。
にゅる、にゅる。しこ、しこ。舌の踊りに同調させて、握りを上下。我慢は、十秒で溶けた。

その五

「何故こんなに感じるのか、不思議ですよね」
自分のへそから上に派手に精液をひっつかせた俺を笑う。
異常なまでの快感に俺は戸惑うしかなかった。前に指を刺された時は、痛みしか感じなかった。
「……可愛かったですよ、眠っているあなたは」
そう言って尻を撫でる女魔。言葉の謎は、すぐに解けてしまった。
「言いませんでしたが、私、夜更かしが好きなんですよ。あなたとは違って……ふふ。
昨日も随分張り切っちゃいました。寝ている人の身体って、結構融通が利くんですよ」
唾液にまみれた唇を歪ませながら、俺の表情を愉しんでいる。
「もうかなり食いしん坊なお尻になってますよ。それこそ今からでも使える様に、ね」
聞きたくない。睡眠中も、もはや安心できないなんて。
精一杯の恨み眼を贈るが、効果はない。それどころかこの状況で薬入れの薬を服んでいる。
「あなた、まだ自分の立場が解ってないんですね」
膝を抜いて、代わりに枕を俺の腰の下に挟む。なぜ腰を浮いたままにする?
「教えてあげます。みっちりと」
尻穴に、何か熱いのが触れている。何だ? 大きい……太い? これは? 押されてないか? な、なんだこれは、や、やめ──あがっ

その六

──ああ、あああっ、いやだっ、やめてくれ、お、おかしくな、あ、あああ──
「こ、これこれ、これですよっ……この奥底から湧き上がる劣情と刺激っ……んんぅう!」
圧倒的なとげとげした痒みが、腹の中どころか、全身を痺れさせる。
肉と肉がぶつかって、ぱん、ぱんという音がする。少女の足腰なのに、それほど激しい。
逃げようとした。結果うつ伏せになった。一度、太くて熱い棒が抜けた。
「あは、っはははは、にっ、逃がしたりなんてっ、すると、思いますかっ!?」
追い打ちを喰らった。うつ伏せになった俺の尻穴に、再び凶器が侵入ってきた。
俺の身体にしがみつき、ただただ腰を叩きつける。布団に圧迫された俺の棹は、情けないことに、限界まで充血したままだった。
「いいですよぉ、それならそれで。可愛い可愛い愛玩動物として繋いであげますから。あははっ」
阿求さまの狂喜の声が、屋敷の静寂を燃やしていく。
『くひい』だの『いひぃ』だの、男失格の息の抜けた悲鳴をあげながら、俺は気を失った。
「ひ、ひぃっ、あっあッああっ、でっ、でるっ、はじめてのせーぇき、で、ぃ、い、いくっ──!」
熱い熱い摩擦の末の、熱い熱い欲望を受け止めて。

第六話

その一

部屋の外から他の使用人の声が聞こえている。今日は昼過ぎから稗田邸に来客があるらしい。
「んっ、んっ、う、んんっ……」
阿求さまも、今日は黙って俺の頭を撫でるのに専念している。
何でも幻想郷縁起を完成させるのに重要な人物と打ち合わせをするとかで、今から声を荒げて喉を枯らしでもしたら、という心配らしい。
「くぅ……ふふ。そう、そう。あと、その亀頭の裏の溝とかも……」
俺はというと、朝食の後から休みなしで『男根への奉仕』の練習をしている。
わざと襖を背にして仁王立ちした阿求さまにかしずいて、ちょうど目の前にやってくる血管漲る怒張をしゃぶる。舐める。絡めとる。
「くぁッはっ、ああ、ぃい、いい、その亀頭むちゅむちゅ、とてもきもちぃ……っ」
朝からやっているのだ、少しのコツはわかってくる。
焦らず、急がず、丁寧な舌遣いを心がける。阿求さまのするような、激しい吸引はいらない。口の肉を閉めて絞めて、自分の口内肉を相手の勃起の形にする。唾液は絶やさず、豊かな潤滑と肉圧迫でチンポを洗う。
「は、はぁああ、で、でちゃ──あ、あひっ」
フェラチオ。今までやったどの奉仕よりも、奉仕精神が満たされてゆく。

そのニ

半ば暴発気味に放たれた精は、吐き出させては貰えなかった。
「相手の目の前でごくごく喉を動かして飲むのが礼儀なんですよ」
そんな事を言うが、精液は粘り過ぎる。水があればと思ったが、自分の唾液で代用しろということか。
「……にしても、ふふ、本当に良い子になってくれましたよね」
俺を見下ろしながら変わらぬ調子で頭を撫でる。射精後のふわふわした脱力感で顔が緩んでいて、阿求さまの顔に外見相応の幼さが戻った錯覚がした。
「お尻を穿ってあげたからかしら。ほら、こんな……瞳なんて、子猫みたいに潤んじゃって」
ただ、そんな錯覚も妖しい言葉でかき消される。
すっと腰を下ろし、俺と目線を揃えたところで──襖の裏から阿求さまを呼ぶ声がした。
「──はい、はい、ありがとうございます。今、着物を整えますので」
来客の時間が迫る、という使用人の報せだった。ぱっと切り替わる表情にもう違和感は感じない。
「そうだ」
打ち合わせの席には俺もお茶汲みで席を同じくすることになっている。もちろん裸では出られない。
「話のあいだ退屈しないように、ひとつおもちゃを貸してあげますよ」
背中越しに聞こえる声に、俺は不安になった。

その三

「今日来られるとは思いもしませんでした。まだ寒が抜けきらないのに」
「こちらこそ突然で悪い事をしたわ。式を寄越したのも目が醒めてすぐで、ね」
来客は、なんというか、そう、非常に理解に悩む所が多かった。
俺たちは応接間にいるだけでよかった。座って待っていると、突然、何もなかった空間に切れ目が入った。切れ目は裂け目になって、その裂け目から、なんと見目麗しき美女が現れた。
「……そこの殿方は?」
長く繊細な金の睫毛に囲まれた瞳が、俺を捉えた。
「お手伝いの方です。幻想郷縁起編纂に必要な資料を、里の内外問わず集めて頂いています」
「へえ……」
名を名乗って、傍に控えたまま、俺はじっとしていた。少しの間、女性は俺を見つめていた。
女性は、あまり目にしないふんわりとした布地の洋服を纏っていた。
捉えどころない衣服の輪郭。それに目につくのは、紫という色。服の紫と瞳の紫が、溶かした金の小川のような金髪を惹き立たせていた。
特に瞳が気になった。観察するような、ともすればものを見透かしそうな紫の眼。
あの眼で見られたとき、知らず、冷や汗が流れた。

その四

打ち合わせとやらが始まった。俺の知らない、訳のわからない単語が飛び交う。
「──それで、後、どのくらいで? 随分期日に遅れている様だけど」
女性は茶を飲みはしない。真面目に議論に徹している。阿求さまも同じだ。
だが、蚊帳の外の俺が、一番集中しているのではないかと思う。
『おもちゃ』。阿求さまは、俺の尻穴に太い鏃のような器具を挿して栓をしたのだ。
「ええ。他に並行して済ませなければならない用事がありましたが、それももう終わります」
鏃には穴から抜けないように返しがくっついていて、力んでも抜けそうにない。
ただ、そんな事はどうでもいい。それより、この栓には、仕掛けがあって──!!
「……? どうか、なさった?」
どもりながら、女性に曖昧な返事をして、とりあえずは誤魔化した。
ぶぶぶぶぶ……。尻の穴で、栓がローターより強い振動で震えている。阿求さまの手によって、俺の肛門──尻穴の入口は尻の中でもっとも敏感な弱点に開発されてしまったのを、今話しておかなければならない。
「体調が勝れないのであれば、席を外してもいいんですよ?」
だが、阿求さまは言っていた。視線で『逃げてはならない』と言っていた。

その五

「ふむ……」
一度興味を示されてしまっては、あぶない。警戒しなくては。
仕込まれている物を知られたら、俺は、一体どうなってしまうんだろう。社交辞令ではあれど気遣ってくれたこの女性も、幻想郷の女だ。今度こそ、終わりだ。
肉体感覚を支配しようとしてくるこのいけない痺れに、歯を食いしばって耐えて約百秒。
「あっ」
気の抜けた阿求さまの声。女性がふい、と壁の掛け軸に目をやった。
「……面白い物を持っているのね」
全く関係のない話題で、俺も気が抜けそうになった。
「ふふ、あの八雲紫と趣味が同じだというのは、話の種にはなるでしょうか」
阿求さまが返事を言い終わると同時に、不意を突いて、尻の栓の振動が突然激しくなった。
正座を保っていられるのが自分でも信じられない。だが、肩がぶるぶる震えるのは、もう堪えようがない。
「全く……面白いのね」
女性は顔を掛け軸のほうに向けたままだ。幸運な事に、見られていない。だが加えて幸運が舞い降りてきた。
「そうね、これに免じて、各々の締切をもう少し伸ばす事に決めたわ」
では、私はこれで。女性は俺に異変が起きてから、結局俺を一度も見ずに空間の裂け目に帰っていった。

その六

俺はその場に前のめりに倒れた。尻が、穴が疼いて、かゆくて、もう、しょうがない。
「今日は一本取られてしまいましたね」
使用人が周りにいないのを確認してから、阿求さまは『主人』の声音で近付いてきた。
「お尻のぶるぶる、止めて欲しいですか? でも、もう引っこ抜かない限り止まりませんよ」
えっ、えっ。俺は何度も聞き返した。脱力した身体で下を脱いで、栓を抜こうと努力しながら。
「気付かれちゃったんですよ。途中からは、それを操作する機械は私の手元にはもう──」
よく、わからない。もうわからない。かゆい。
俺が抜こうと頑張る程、逆に俺の尻穴は意思と関係なく勝手にきゅうきゅう締まる。
理性が負けている。尻栓を咥えて、決して離そうとしない。
「どうですか、気分は。こんなのは練習ですよ。本番はもっと、非道いことになりますから」
栓を抜こうと栓を弄る。栓は揺れる。抜けない。繰り返す。
無意識の内に自慰の体を成してきた俺を見て、どうやら阿求さまは笑っていた。
「ふふ、折角ですから、その異物大好きのお尻を、味わわせて貰いますよ……っと」
ずぶん。乱暴に栓が抜かれた。その衝撃だけで、まず俺は一度目の絶頂をした。

第七話

その一

「本が、完成しました」
阿求さまの寝所で待っていた俺は、開口一番にこの言葉を受けた。
「以前に私が描いた霊夢さんの……巫女ものの本より、出来が良い自信があります」
もう、今更そんな事は忘れかけていたが、俺がこの屋敷を訪れた動機だった『本』の作者は阿求さまだった。
なんという事だろう。俺は最初から、このひとの奴隷になる運命だったのかもしれない。
「次の真夜中、日付が変わる頃の時間に『本』のお祭りがあります。場所は、八雲邸」
布団に正座の俺の傍に、阿求さまが寄り添うように腰を下ろした。
「……興奮しませんか? あなたをモデルにした本を、幻想郷の好事家の方々に手に取って頂くんです」
言葉を紡ぎながら、阿求さまは顔を紅潮させていく。とろんとした顔色。
ひたり、ひたりと寝巻きを着た俺の腕や腰に触れてくる。粘ついた接触。
「みんな、みいんなに見て貰うんです。本を読んでから、皆さん、何をするんでしょうね……?」
じりじりと、ゆるゆると、憑りついてくるかのように、阿求さまがしがみついてくる。
少ない体重がかかってくる。もう俺は、この体重に勝てない。
布団に押し倒される。俺が下、阿求さまが、上だった。

そのニ

今夜の阿求さまは、印象が柔らかすぎて、逆に怪しい。
「お祭りの後は、実はお楽しみ会があるんですよ」
阿求さまの小さい手が、俺の寝巻きを半剥きにしていく。
胸と腹が丸見えて、その体の前面を、妙に熱い手のひらで触られていく。触るだけ、撫でるだけ。
「本を買ってくれた方や、私のお得意様や、そうでない方と一緒になって、夜を過ごすんです」
ちろちろ、ちろちろ。今度は、巧みな動きをする舌がやってきた。
「……ええ、頭が壊れちゃうくらい楽しい夜を、ね」
にたり。細まった瞳は、紅潮した頬と相まって、欲情を抑え切れない心の中を表しているようだ。
阿求さまは俺に跨る位置を太ももに変えて、俺の愚息を露出させた。
「ふふ、このおちんぽも、明日は誰にどう使われるかわかりませんね」
完全勃起まであと少しだったそれも、阿求さまに握られただけで完成してしまう。
今夜は、何をして貰えるのか。手扱き? 口淫? それとも、延々の焦らし責め……?
「だから、その前に、あなたが私の所有物だという事を……しっかり教え込む事にします」
宣言するような言葉の後、股の付け根で牡茎にのしかかられた。ぬるみを帯びた重さがした。

その三

阿求さまはのしかかっただけだった。巷で言う素股にはならなかった。
「あなたもあの時、初めてだったんですよね」
濡れた瞳で見つめて言う。“初めて”の語に左胸がひくついた。
「あの日、あなたは射精できなかった。私の『しるし』に、重い重い責任を勝手に感じて」
男根が、萎えそうになった。責任という言葉は、あまりにしっくりきすぎた。
「だから、やり直しましょう──」
──初めての、セックスを。
俯いていた顔が、勝手に阿求さまの方を向いた。聞いて、心が解きほぐされた気持ちになった。
「純情とか愛情とか、そういうのは抜きにして。ただひたすらに貪りましょう」
言葉と正反対の、朗らかな笑顔。左胸の緊張がなくなっていく。
俺の愚息が、じわじわと元気を取り戻し始めた。阿求さまの表情と声が、俺の血を滾らせる。
「……そうそう。愉しむ気持ちを持たないと、明日は本当に耐えられませんよ?」
優しく言って、腰を浮かせた。漏らした様に蜜が垂れている、無毛の淫唇が目に入り、そして。
「ねっとり、じっくり、食べてあげますから……ぁ、は、かは……ぁあっ!」
生まれてから二度目とは思えない程、そこは心地が良かった。

その四

「ん、んんぁああっ、くっ……いっ、ひぃいぃっ、あっ、くっ、はっ、はぁああンッ」
恋人みたいに手を繋ぎ、獣みたいに腰を振り、娼婦のような嬌声を上げ。
この短時間で、既に二度、射精してしまった。もう、あの時の様な遠慮はない。
いけない、だめです、でてしまう。俺の弱気声の返事は、こうだった。
「そうなんですかあ、それじゃあ思いきり出しちゃって構わないんですよ……ほぉらぁっ」
それからもう俺も只のけだものになった。上に跨る童女を突き上げたりもした。
小さく狭く、男のモノなんて咥えられそうにない秘壺に、もう三度目をぶちまけてから。
「んふふふ、ふふ、今度は、私の番ですね……っ」
俺の男根から腰を引き抜き、常備薬入れから取り出した飴玉を一飲みにする。
「ふッ、あああ、くぅあああああ」
腰をわなわな震わせて、阿求さまが憑かれたように叫びだす。秘唇の上部の宝石のような肉の玉が動き、膨れ、育っていくにつれ、叫び声が大きくなる。
「……うふ、いつも、こうやって生えてたんですよ」
そして、もはや見慣れた剛棒が姿を現した。あれが出てきたという事は、もう、後は決まっている。

その五

少し前の俺の肛門なら今頃大出血だ。ぐぽぐぽ腹の中で空気が動く音がする程の抽挿だった。
「次は妖精の本にしましょうか。惨めに囚われ、犯される……そんな本を、ねぇ……っ!」
腰の叩き付け方を深く、大きいものにしてくる。射精が近い。
「妖精は……ぅくっ、ぁ、し、死なないじゃないですか。それならもう、快楽漬けしか、ないですよね」
憎み口を大盛りにして、はあはあ息を切らしながら、尚もアナルセックスを続ける。
それだったら、今度は、人間の男ではなくて妖精を捕まえなければいけない。
「う、ひ、ふ、ふふ、いいですねぇ、捕まえて、犯して、わざと逃がしてみましょうか」
ふと良い考えだと思ってしまった。ここ数日で俺も人が変わってきている。
「でっ、でも、どれだけどれだけ犯してもぉ……っ、こ、懲りずに、何度もやってくるんですっ」
阿求さまは妖精が嫌いだ。苛立ちが、腰遣いにも表れてきている。
「何もなかったかの様にやってきて、私の家を好き放題掻き回して、それで、それでそれでっ──」
非力で病弱なはずの体は、肉槍の抜き挿しを更に加速させていく。
い、痛い。だが、な、なんだこれは、チンポの奥が疼い、て、でっ、射精る

その六

「……沢山、射精しましたね」
精の奔流が飛び出ていくたび、穴が阿求さまの太い雄根を締め上げる。背筋の震えが、初めて体験する尻穴絶頂を物語っていた。
「──このっ!!」
だが、余韻に浸る暇はなかった。後ろから乱暴な突きを食らって、思いっきり息が漏れた。
「このっ、このっ、あ、あの時の妖精みたいに、なに勝手に気持ち良くなってるんですかっ!」
それからは、ひどく乱暴で、ひどく理不尽で、ただ一方的な蹂躙だった。
「あなたもいいですよねえ。あきゅうさま、あきゅうさまって媚びた声ですり寄って。
当のあきゅうさまは犯してやろう犯してやろうなんて考えてるっていうのに、ねえ……」
さっきまで、あんなにやさしく俺を迎えてくれたのに。
突如人間性を破壊され、突かれるがまま、罵倒されるがまま──
「の、罵られてるのにこんなにおまんこひくひくさせて……!」
それなのに俺の肛門は、腸内は、黄色い悲鳴を上げていた。
「わ、わかりましたかっ、この世は、おちんぽを使う方が、強いんですよっ!」
“チンポを使う方が、強い。”
再度大量の腸内射精を受けて、俺は、この言葉こそが明日の『お祭り』そのものなのだと気付いたのだった。

最終話

その一

夕飯を食べ終わって、阿求さまと二人、夜中に屋敷を抜け出す準備を整えていた。
「謝らなければと思っていました。昨夜の事──突然、取り乱してしまって」
しゅんとした阿求さまの言葉に、随分面食らった。まさか柄でもなく、阿求さまが昨夜の乱暴を詫びるなんて思わなかった。
俺は気にしていなかった。むしろ阿求さまのおかげで、俺は随分覚悟する事ができたつもりだったからだ。
「……でも、それくらいの考えを持っていても、今日は耐えられるかどうか……。
数倍に発情した私みたいな人たちと、それこそ何十人と顔を合わせるんですから」
……ごくり。
思わず唾を飲んでしまった。なまじ自分自身の事でないだけに、阿求さまが俺を心配する気持ちもわかる。
「出来る事は、これくらい。顔を覚えられたら、日常生活が危うくなりますからね」
取り出されたのは、仮面だった。蝶を象ったそれは、口元以外なら十分に隠してくれるだろう。
仮面をして裏口から屋敷を出た。目の前の虚空に、俺たちを待っていたかのように裂け目があった。
「これです。この先が、会場です」
何を恐れるでもなく、阿求さまがそこに飛び込んだ。俺も続いて、裂け目に飛び込んだ。

そのニ

『お祭り』が開始して、すぐに俺たちのいる机にずらりと列ができた。
「新刊一部くださーい」「一冊おねがいします」「三部、お願いね」。
『本』は薄く、小冊子みたいだから、折れない様に気を配る。代金を受け取り、自ら手渡す。
時々釣り銭を渡す必要があった。『本』は端数の出ない値段だから、暗算は楽だった。
列の一番最後の客が印象に残っている。赤いチェックの入った服で、仮面をしていた。
「あら貴方、売り子さん? 随分可愛げのある身体をしてるじゃない」
かなり柔らかい言葉だったが、少しの違和感があった。俺の体はどうみても可愛らしい少年のそれとは思えない。肩幅だってあるし、そう細身な方でもない。
「通じなかったかしら? つまりね──」
瞳と声が冷たくなった。机に身を乗り出して、その緑髪の人は囁く様に言った。
「──メスに堕とし甲斐のあるカラダだって、そう言ってるのよ」
これには、全身の血の気が引いた。驚くほど冷たい言い方だったが、裏にとんでもない情欲を感じた。
ずらした仮面の下から覗いていた赤い唇の残した言葉が、俺の頭に残り続けた。
「ええと、『本の虫の巣穴』さん? 是非後で、寄らせて貰うわ──」

その三

俺と阿求さまの『本』は、喜ぶべきか悲しむべきか、結局一冊残らず売れてしまった。
「……ですが、すこし厄介な方に目を付けられちゃいましたね」
机を片付け終わった頃、阿求さまが言った。すぐに思い当たった。あの緑髪の女性だ。
「あの方は、『本』にはそう興味は持たないんです。彼女のお目当ては、これからなんです」
これから? これからというのは、お楽しみ会の事かと尋ねようとした瞬間。
俺の鼓膜の端に、かすかに黄色い声が聞こえた。
……ぁん、あん、あん。聞こえる。確かに聞こえる。遠い。屋敷の中だ。
「もう、ですか……今回は随分せっかちな人がいたみたいですね」
阿求さまにも聞こえたようだ。小さい溜め息をついてから、俺の方を見やった。
「ええ、お楽しみ会は勝手に始まるんです。『本』で欲情した躰を、満たすために」
周りを見回す。『本』を売っていた時より人はかなり減ったが、残っていた人たちはふらふらと屋敷に吸い寄せられていく。
「行きましょう。私たちも、参加する義務があります」
言い聞かせるような口ぶりだった。阿求さまは行きたいんだ。その証拠に、着物の下腹部あたりが内側からもっこりと盛り上がっていた。

その四

屋敷の中は、もはや空想の世界だった。
男根を生やした女性、少女……とにかく女性が、肌を舐めあい脚を絡め、互いの鳴き声を交歓している。
男も、いる事にはいる。だがごく少数で、しかも殆どが女性に群がられ、その顔も確認できない。
そんな肉の宴の中、あの緑髪の人が、酒を呷って待っていた。
「来てくれたのね。……ねえ、この売り子さん、借りてもいいかしら?」
「……ええ。私の自慢の『売り子』です。きっと愉しめますよ」
にたり。阿求さまも緑髪さんも、ひとつの笑みで通じ合ったようだ。
「それでは、私は遠目で見物していますね。どういう風に、彼を愛して頂けるのか」
「聞いていた通り、良い趣味ね……ほら、売り子さん」
手招きされるまま、俺は緑髪さんに抱きすくめられた。漂う芳しい体臭を味わう前に、
「ん、んぶ、ちゅう、ふ、ん」
酒の匂いと味が混じる、温かい粘膜との接触を余儀なくされた。
なんとも言えない情欲の味と薫りが、口から入って、鼻から抜ける。
抱きしめる腕を強くする。膝を立てて、下半身を密着させるように抱きつかれる。
ここで、やはりな、と思った。俺の腹に、芯のある固い筒が当たっていた。

その五

「どう、感想は……」
何度か経験したことのある姿勢だった。緑髪さんの足元に跪き、隆々と勃起した一物を拝む。
たくしあげられたロングスカート。緑髪さんのブツは、逞しかった。
ぎりぎり口に納まる太さ、走った青筋。その反りが、鼓動に合わせてびくびく揺れる。
「いいのよ、触って」
優しい声音が降ってくる。視界の端に、股棒を弄る阿求さまが見えた。
いつも通り、手を添え、握り、扱き始めた。緑髪さんが息を詰まらせる。
先から透明な露が染み出てくる。感じているのか。
「次は……濡らして、その口で。貴方とセックスできるくらいに、十分に」
低い艶やかな声も震えが来ている。こんな大きい男根が、意外に敏感だなんて。
咥えたい。片手で自分のを触ると、大きさの差にうっとりしてしまう。
これが、こんなモノが……俺の中に挿入ってくるのか。尻で咥える感覚で、俺は大口を開けた。
「あ、くぅ、ぅううんっ、ん……」
持てる技をすべて披露した。射精をする直前になって、緑髪さんが無言になったのだ。
ぶっきらぼうに俺を脱がし、俺の腰を捕まえる。良すぎる手際に嫌な予感がした時には、もう遅い。俺の尻が、緑髪さんの下腹部に触れていた。

その六

一気にねじ込まれた楔に押し出されるように、俺の喉から声がほとばしる。裂けるかと思っていた俺の尻は、無事だった。
しかしその安心もつかの間、頭をぐわしと手で掴まれ、していた仮面をむしり取られた。
ま、まずい。顔が見える。まずい。逃げるか? いや駄目だ。どうする──などと、必死に頭を回転させた。とにかく今の体位なら、顔が見える事はない……のだが、
緑髪さんは、俺を四つん這いにさせた。
「顔をこっちに見せなさい」
そしていま一番されたくない命令を、背後からよこした。
すがるようにして、端で座っている阿求さまに視線を送る。俺は、一体どうすれば。
部屋は嬌声でごった返している。声が通らない。だから、阿求さまは口だけでこう言った。
“いうとおりに、してください。”
そ、んな、無理を、だが、阿求さまの命令には、俺は、俺は──
「──ふ、くふふっ、覚えたわ、貴方の顔」
緑髪さんも、仮面を外していた。赤い瞳がぎらついていた。
「貴方、今度うちに来なさい。太陽の畑の小屋よ。隣の遅咲きの桜が目印だか、らぁ……ッ!」
息苦しく悶える俺の耳にお呼ばれの言葉を残し、緑髪さんは、ついでに特濃の精液を注いでいった──

その七

首輪から生えている縄を引かれる。それは馬の手綱のように働いて、俺の背中を無理矢理反らせた。
「……ふむ、申し訳ないんですけれども、もう少しそのままで……」
黒い長手袋、黒い腿上の革靴。女主人の恰好に身を包んだ緑髪さんが、俺の尻穴を犯していた。
「あ、あの、もうそろそろ良いかしら? も、もう私射精ちゃいそうで」
「あっ、それじゃあ動いて貰えますか? ……ああそうそう良いですよ、二人とも良い顔でっ」
射精しながらごりごりと蹂躙される。阿求さまより重い腰遣いが響く。
液体とともに身体の内側に染み込んでいく、温かい痺れ。もう、何度目だろう。
あの後俺たちは三つ巴の性交に及び、それからは阿求さまの写生会になった。
色々な人に阿求さまの持ってきた衣装を来て貰い、順番に俺を犯して貰う。
阿求さまの本は人気らしく、そして特に緑髪さんが積極的にモデルを引き受けてくれているのだ。
「……にしても、貴女も良い男捕まえてくるのね……んんっ」
「稗田のお眼鏡は伊達じゃない……という事ですよ。あ、そろそろ私も」
背後で床板がきしむ音がして影が落ちる。
眼だけでふわりと笑う、俺のご主人様兼仕事仲間が、そこにいた。


(終)

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