その一

「知ってたか? 今日はな、バレンタインデーって言うらしいぜ」
夕飯の最中、えっへんどうだと言わんばかりに薄い胸を張る魔理沙。
そんな魔理沙とは好対照に、僕は自分でもわかるほど憔悴した顔になった。
「ど、どうしたんだ急に。もしかして親の命日か何かだったか?」
そういうわけではないのだが、と僕は両手で顔を覆ったまま首を振る。
魔理沙は気を使っていいのか悪いのかも判然とせず、ただ狼狽していた。


――僕が幻想入りして、およそ一年。
あの時も今日と同じように、この近隣には雪が降り積もっていた。
幻想郷の文明はひどく遅れていて、不便もあったが、何ほどのことはない。
何故なら、この閉じた楽園には、クリスマスも、バレンタインもないからだ。
そう――思っていたのに。
急に夢から醒めてしまったような感覚に、僕は落胆を禁じ得ないのだった。

そのニ

聞けば、魔理沙はクリスマスもバレンタインも知っていた。
「クリスマス? ああ、神様の出産祝いに、みんなで子作りする日か」
だいぶ変則的ではあるが、認識としてはそう間違っていない。
聖なる夜は、外界においては、もはや性なる夜なのだ。
「で、バレンタインは、みんなで媚薬を飲ませ合う、サバトの日だったな」
――いや、その認識はおかしい。
大体どうしてチョコレートが媚薬なんてことになってしまうのだ。
「お前は何を言ってるんだ? チョコレートは元々、媚薬の一種だぜ?」
…………。なん…………だと…………?
「その様子だと本当に知らないな。ちょっと待ってな、えーっと……」
一度研究室に引っ込んで、魔理沙はすぐに一冊の本を手に戻ってきた。
「ほら、見てみ。だいぶ前に借りてきた本だけど、そう書いてあるだろ」
ちゃんと日本語で書いてある書物なので、僕にも読めた。
チョコレートの起源が、元来は媚薬にあったと、確かにそう書かれていた。

その三

「つまり、ほら、アレだよ。いわば、どっちも恋人達のための日だろ?」
僕はそのフレーズにすっかり憔悴しながら、無言で力なく頷く。
ここまで来ると憔悴というより、もはや鬱病の域だろう。
「……。向こうで、彼女、いなかったんだ?」
いなかった。彼女はもちろん、異性の友達すらいなかった。
それどころか我が家は男兄弟ばかりで、おまけに学校は男子校という有様だ。
「そ、そっか……。あんたも苦労してきてるんだな……」
と、魔理沙がいつもの帽子に手を突っ込んで、中をごそごそと探り始める。
引き抜かれた手には、そこそこに大きな、ハート型の包みがあった。
「ほ、ほら、これ。初めて作ったから、美味しいかはわかんないけどさ」
あさっての方向を向きながら差し出したそれは、疑いようもなく――
「び、媚薬って、ホントに凄いんだぞ。もし食べるなら、その……」
その包みを解いて、夢見心地で頬張る僕に、彼女は呟いた。
「万が一の時は……責任取れよな……」

その四

流石は魔女のチョコレート、とでも言うべきか。
食べ終わってからものの数分だが、すでに下履きに怒張が収まっていない。
「おお〜……男が服用すると、こんなになるのか」
先端に指先で触れられた瞬間――言語を絶する快感が股間から脳天を貫いた。
「きゃっ! も、もう出たのか? しかも全然萎えてないし……」
目がちかちかする。視界がぐらぐらする。頭の中が桃色に霞む。
普段の幾層倍も強烈な射精感に、声も出せずにひたすら喘ぐ。
「すごい……こんな逞しいの、見てるだけで吸い込まれそう……」
その射精感が未だに収まらない亀頭を、魔理沙はゆっくりと口に含んでいく。
「んー……れろ、ちゅ、ぺちゃ……ちゅ。ちゅる。れるる……」
未だ拙い舌使いが、言語を絶する快楽を生み出していく。
すでに垂れ流しとなったカウパーを綺麗に舐めとり、次第に喉の奥の方まで
「――もごッ!!?」
刹那、僕はふわふわの金髪を鷲掴みにして、獣のように腰を突き出した。

その五

「ぷは……ぁ……。えほ、えほっ……、うぇぇ……けほっ」
三十秒ほどの射精を喉で受け続けて、魔理沙はすでに虫の息だ。
「い……今のは酷いぞ。流石の私も傷ついた」
――そして、ふと我に返って、青ざめる。
いくら媚薬が聞いたからとはいえ、こんな華奢な女の子に、何てことを。
「……まあ、でも、いいや。今のは実際、媚薬のせいだし……それに」
再び帽子の中に手を突っ込む。抜かれた手には、チョコの欠片。
「正直、ちょっとだけ……感じちゃったしさ」
かりこりかりこり、……ごくん。
「次に同じことされたら、ホントにイカされちゃうかもな……」
期待と恥じらいに潤んだ目が、じっと僕を見つめている。
恐らくは性感帯と同じくらい敏感になったであろう唇を、ぺろりと舐めて。
「それと……こっちなら、もっと乱暴にしても、いいよ……?」
捲り上げたスカートの下の、びしょ濡れのドロワーズを見せつけた。

その六

「くあぁぁ……っ! す、凄……ちょ、これ、凄すぎ……っぁああ……」
まだ挿入しただけだというのに、魔理沙の反応は凄まじい。
かく言う僕も、さっきのイラマがなかったら、今ので射精していただろう。
「やぁ……動いちゃダメぇ……。か、感じすぎてっ、変になるぅ……!」
医者が不養生をするように、魔女だって媚薬に呑まれてしまうのだ。
現に魔理沙の膣内はかつてなく貪欲に、精液を求めて蠢動を繰り返している。
「わ、私のおまんこ、食いしんぼになっちゃった……どうしよ……」
食いしん坊なら仕方がない。食いしん坊は、治そうとしても治らないのだ。
ならば、熱くとろけた白い媚薬を、たっぷりとご馳走してやらなければ。
「ちょうだい! いっぱい! いっぱい膣に出して! 全部、ぜんぶっ!」
せっつくように腰を使い始める。それがきっかけになって、僕も昇り詰める。
さっきの快感を天文学的に膨れ上がらせた甘い電流が、全身を貫いて――
「あああああああっ! あ、熱い……お腹の中、熱さで、イってる……」
あまりの快感に何かが焼き切れたか、ようやく僕は気絶することができた。

その七

――ようやく意識を取り戻したのは、それから数時間のことだった。
「やっと目が覚めたか。どうだ、私のベッドの寝心地は」
居間からここまで、魔理沙が運んでくれたらしい。
どうせなら僕の部屋まで運んでもらいたかったが……まあ、贅沢は言うまい。
「しょうがないだろ、私の部屋の方が近いんだから。……それよりもだ」
手の上で何かをぽんぽんと弄び始める。さっき貰ったチョコの食べ差しだ。
「こいつは私が真心込めて作ったんだぜ。まさか残すなんて言わないよな?」
だが、それを残さず食べたら、今度こそ正気を保てる自信がない。
「だからさ、一緒に食べればいいんだよ。ほら、こうやって……んー♪」


そのまま唇を奪われて、思わずひとつ思い至る。
そういえば僕たちは、ほとんどキスをしたことがない、と。
だが、これからは、その機会も増えていくことだろう。
恋人とのキスは、チョコより甘い媚薬だと、知ってしまったのだから――。

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