第一話

その一

ついてない日というのは、誰にだってあるものだ。
大抵の場合、そういう日は知らぬ間に失せ物や落とし物をする。
それでも余程の不運にでも見舞われない限り、落とすのは財布くらいまでだ。
――僕が落としたのは、自らの身体だった。
端的に言うと、薪を拾っている最中、不意に足元が崩れ、高所から落ちたのだ。
普通ならばここで身体はおろか、命まで落としていたことだろう。
しかし僕は今、こうして我が家の囲炉裏の火に当たり、熱いお茶を飲んでいる。
僕は助かったのだ。……否、助けられたのだ。
囲炉裏の向かいにお行儀よく正座して、同じくお茶を啜っている少女に。
ふりふりとした飾りのついた深紅の衣装に、珍しい括り方をした緑色の長い髪。
彼女は空を飛び、落下中の僕を抱き止め、そのままここまで送ってくれた。
空になった湯呑みを置くと、彼女は伏し目がちな、物憂げな瞳をこちらに向け
「……。厄いわ…」
意味はわからないが、何だかとても不吉な言葉を呟いた。

その二

少女は、鍵山雛と名乗った。
聞き覚えのある名前だ。確か人間の厄を引き受け、お山に運ぶ神様だったか。
「…私のこと、知ってるのね」
蚊の鳴くような声。綺麗な声だが、あまりに儚げすぎて妙な不安さえ覚える。
「それなら話は早いわ。単刀直入に言うけれど……」
少女の顔が、初めてこちらを向く。……美人だ。背筋が凍るほどに。
恐ろしく端正な、人形のような顔立ち。だが、どこか鬱々とした陰がある。
「あなた……このままだと、じきに死ぬわよ」
人形のような女神様は、力のない動作で、ゆっくりと僕を指差した。
「それも、最悪の死に様を迎えるわ。無残で、不様で、不幸な死よ」
……。言葉が出ない。
衝撃的すぎて言葉の凍りついた僕を指差したまま、彼女はもう一度
「あなた……今の幻想郷で、間違いなく一番厄いわ……」
何とも語呂の悪い不吉な言葉を、まるで呪うような声色で口にした。

その三

――彼女の説明はこうだった。
僕の落下現場に鉢合わせたのは単なる偶然で、きわめて反射的に助けたらしい。
ただ、僕を抱き止めた時、彼女は幻想郷中の厄を溜め込み、運んでいた。
その彼女が僕を抱き止めたことで――
「今のあなたには、幻想郷中の厄が滲みついているのよ」
泣きっ面に蜂。弱り目に祟り目。災難とは、得てして何度も続くものだ。
それが幻想郷中の厄を背負ったとなれば、どれだけ酷い目に遭うのだろう。
「……。たぶん、あの時に死んでおけばよかったって思うような目に遭うわ」
流石に厄の専門家なだけあって、表現が的確だ。
とりあえず、そんな目に遭う前に何とか助からないものなのだろうか。
「手立ては……ないこともないけれど」
よかった。流石は厄の神様だ。僕は安堵しながらお茶の残りを一気に飲み干し
「ちょっと恥ずかしいけど……私の責任だものね……」
突然目の前で服を脱がれ、思いっきりむせた。

その四

飾り気たっぷりの衣服を脱ぎ捨て、彼女は全裸になる。
女の身体を見るのは初めてではないが、こんなに綺麗な肢体は初めて見た。
「あ、ありがと…ぅ……」
真っ赤になって俯いてしまった。ただでさえ小声なのに、語尾も消えていく。
たぶん、褒められ慣れていないのだろう。
無理もない。厄神様は人間に有難がられ、それ以上に畏れられている存在だ。
近付けば不幸になる。それが人里の――否、幻想郷に住まう人間の通念だった。
人形のようではあるが、見る限りは普通の少女なのに。
「は、はしたない女だって、思わないでね…。こうするのが、一番早いの……」
僕の上に跨ると、彼女は両手で僕の頬を挟み、そのまま唇を重ねてきた。
「ん、ちゅ……ちゅっ、ちゅるる……」
柔らかい唇が、僕の舌を無心にしゃぶり立てる。唾液を吸う音が艶めかしい。
「あなたも協力して…。そうすれば、きっと早く終わるから……」
乞われるままに細い腰を抱き寄せ、僕は存外に豊かな彼女の胸に手をかけた。

その五

「…おっきくなってる。私で、感じてくれたのね……」
まるで、それがとても嬉しいとでもいうように、彼女は愛おしげに男根を擦る。
僕の両脚の間に陣取り、両手を添えた陰茎の根元から、のろのろと舐め上げる。
唾液で吸いついた彼女の舌は、生き物のように僕の性感帯を探っていく。
「ん、弱点みつけた…」
肉槍の側面を、粘っこい唾液の絡んだ舌が這い回り、思わず顎が跳ねた。
声ならぬ声が喉から漏れる。巧い、などというものではない。凄まじい手練だ。
「我慢しないでね。いっぱい射精していいから……」
言ってから、喉奥まで呑み込まれる。生温い粘膜が、ぬるぬると僕を包み込む。
根元まで呑み込んだかと思えば、頭を振って竿を揺さぶる。
ずるずると引きずり出し、またずるずると咥え込む。それを、幾度も繰り返す。
まるで喉で性交しているような錯覚に、やがて精がぐらぐらと煮え滾り。
「私が…全部受け止めてあげるから…だから、全部射精して……ッ!」
やがて、彼女の喉の一番奥に、白濁する欲望をぶちまけた。

その六

「んん……ふ、ぅん……っ。こく、こくんっ……」
うっすらと紅潮した生白い喉が、控えめな音とともに精液を飲み下していく。
彼女の表情はとても辛そうなのに、どこか嬉しそうでもあった。
「…ふぅ。お疲れさま」
僕自身は何もしていないと思うが、形式的にお疲れさまと返しておく。
「思ってた以上に厄が搾れたわ。私たち、身体の相性がいいのかしら…」
ひょっとして、僕の精液とともに厄を搾り出した……とでも言うのだろうか。
他ならぬ厄神様が言う以上は嘘ではないのだろうが、どうにも荒唐無稽だ。
「まあ…説明はおいおいしていくわ。長い話になりそうだし」
今の言葉が確かなら、彼女との付き合いは当分続く、ということになるだろう。
何しろ相手は女神様だ。僕も男だし、嬉しくないわけはないのだが。
「…そうね。一緒に暮らす間、私のことは雛って呼んで。……いい?」
付き合いが続くどころか、彼女は――雛は、しばらくここに住むつもりらしい。
愛欲と災厄との背中合わせになった僕の生活は、こうして幕を開けた。

第二話

その一

ぱちん、と囲炉裏の熾火が爆ぜる。
冷たい隙間風の吹き込む居間で、僕は雛と正座で差し向かっていた。
寒い。指先がかじかむ。耳たぶがしんしんと痛む。
昼過ぎから雪が降ってきていたのだ。しかも今なお止む気配はない。
「………。外出しないようにって…あれほど釘を刺したわよね……?」
今朝のことだった。しばらく外出はするなと、雛が玄関で立ちはだかったのだ。
一度は折れた僕だったが、薪が切れているので拾う必要があった。
師走も半ばを過ぎた。薪を集めて暖を取らねば、厄とは無関係に凍えてしまう。
そういうことで正午過ぎ、雛の目を盗んでこっそり外出したのだが――
「全治一週間ですって。よかったわね、大傷ひとつで済んで」
雛は表情にこそ安堵の色が窺えるものの、声色の呆れを隠そうともしない。
まあ、薪を拾いに行って、冬支度をしていた熊に襲われたのでは、当然だろう。
「すぐに見つけられたからよかったものの。…ツイてるのやら、ないのやらね」
僕の胸の、たいそう立派な引っかき傷を見て、雛は何度目かの溜め息をついた。

その二

「こうなったら仕方ないわね。……物忌をしましょう」
モノイミとは何だろうか。歴史の授業中に聞いたことがあるような気もする。
「物忌っていうのは、要するに謹慎よ。本当は神を迎えるための潔斎だけど…」
ありていに言うと、危ないから家を出るなということらしい。
分からない話ではないが、買い物も何もできないというのは流石に厳しい。
「……仕方ないのよ。このまま外出したら、次こそ……」
その先を口にしないのは、厄神様一流の優しさか、それとも警告か。
しかし、家に閉じこもったまま生きていけるほど人間は便利には出来ていない。
「安心して。ひと通りのことは、その……私が、してあげるから…」
つまり、死にたくなければ何もするなということだ。
もちろん死ぬのは御免被るが、かといって神様をこき使うのも気が引ける。
「あら…。意外と信心深いのね? ……感心、感心」
この歳になって、まさか頭を撫でられようとは。
隣に座った雛は機嫌が直ったか、表情も声色も普段通りの陰鬱さに戻っていた。

その三

「それじゃあ、……あそこに立ってくれるかしら…?」
雛が指差したのは、居間の隅の窓際だった。特に変わったものは置いていない。
僕は真意を測りかねたまま、言われた通り窓際に立った。
戸板が嵌めてあるため外は見えないが、ごうごうと風の唸る音がする。
「ん……そうね。南西の窓……ここからなら…割と厄が散らしやすいわ……」
言いながら、雛はきゅっと僕の腰に両手を回してきた。
「ちょっと冷たいわね。…結構、血を失ったからかしら?」
胸元に指先を這わされる。愛おしむように、柔らかな指先がかさぶたを撫でた。
痺れにも似た痛痒が、文字通り胸を貫く。傷はまだ塞がっていないのだ。
「痛かった? …お詫びに、いっぱい優しくするわね…」
はだけた袷から、胸に顔を埋められる。さらさらの前髪が、乳首をくすぐった。
「こんなのが気持ちいいの? 男の人も…乳首で感じるのね……」
髪飾りをすべて解いて、おもむろに乳首に吸い付かれる。
ぬるぬると、優しい舌使いのもたらす刺激が、徐々に僕を勃起させていった。

その四

「じっとしてて…。全部、私がしてあげるから……」
僕が何か動きを起こしたら、それだけで厄に殺されかねない。
そうは言っても、この状況でじっとしていろというのは、些か無理がある。
まず、背中が冷たい。隙間風が直撃しているのだ。
その寒さに萎えそうになるたび、雛の華奢な手が萎えた陰茎をしごき立てる。
硬さを失った陰茎とは、存外に敏感になるものらしい。
少しの刺激で、自分でも驚くほど容易く、隆々とした姿を取り戻すのだ。
「肌、冷たいね……。でも、ここは…おちんちんは…」
そのまま目の前でしゃがむと、雛は小さな口をぱっくりと開いてみせる。
「この中で…たくさん温まっていいから、ね……?」
ぺたんと尻餅をついた雛の頭を掴み、吸いこまれるように怒張を喉にねじ込む。
「ん……♪」
根元まで呑み込むなり、どこかに喜悦を孕んだ嗚咽が漏れる。
それがあまりに蠱惑的だからか、僕は自然と雛の頭を掴み、腰を動かしていた。

その五

背中の感覚が変になってきた。冷え過ぎて、逆にじわりと温かくさえ感じる。
だというのに、その場を離れられない。
雛の口の中が気持ちよすぎて、もうこの口に射精することしか考えられない。
「えほっ、けほ……。うん、いいよ…。あなたの精液、いっぱい飲む……」
そうして雛はもう一度咳き込むと、やおら僕の腰にしがみついてきた。
「あむっ…♪ じゅる、ちゅ、ちゅう……くぷ、くぷ、ちゅるる……」
腰が使えない。思うように動けない。動けないままに咥え込まれている。
喉の奥がうねる。搾るように蠢動する。雛の口全部が、僕を強姦している。
「先っちょ、震えてる…。可愛い……♪」
先端にむしゃぶりつかれた挙げ句、思い切り吸い上げられ、限界を迎える。
腰の中で堰が切れたように何かが脈動し、陰茎を伝って、雛の舌を白濁が汚す。
「あはぁ……。ん、まだ残ってる…。ちゅるるる……ぢゅううううううっ!」
怒張が根元から引っこ抜かれそうな吸引に、思わず腰が抜ける。
比喩ではなく本当に腰が抜けて、僕はその場に尻餅をついてしまった。

その六

「ふう…。今日もいっぱい射精したわね。そんなに気持ちよかった…?」
僕は力なく、へろへろとした動きで首肯する。
射精直後に強烈な吸引を味わって、まるで魂まで吸い出されたような感覚だ。
「絶頂の後って敏感だものね。……ん、こくっ…こく、こくん……」
何度も何度も喉を鳴らして嚥下している。そんなにたくさん出たのだろうか。
「ぷはっ…。ここまで悦んでもらえてるのなら、私も頑張った甲斐があるわ…」
すっかり萎んだ愚息の頭をよしよしと撫でながら、雛は柔らかく微笑む。
こうして笑っていると本当に女神のようだ。…いや、本当に女神なのだが。
いつもの翳りのある顔と、先刻までの淫蕩な顔と、そしてこの笑顔。
果たしてどれが、本当の彼女の顔なのだろう――
「…………。知りたいの…?」
ぞくりと、背筋が震えた。冷え切って、感覚など残っていないはずなのに。
「……あなた、やっぱり厄いわ……」
そう言った雛は、どういうわけか真っ赤になって俯いてしまっていた。

第三話

その一

「精液が……一番いいのよ」
食事中にそんなことを言われ、僕は思わず口の中身を噴き出しそうになる。
慌てて呑み込み思い切りむせてしまった僕に、雛はそっとお茶を渡してくれる。
それをひと息に呑み込もうとして、きっちり舌を火傷した。
「もう、あわてんぼなんだから……」
――話の発端は、例の『僕に憑いた幻想郷中の厄』の処遇についてだった。
無論、目の前にいる厄神様にどうにかしてもらうには違いない。
違いないのだが、その手立てが何と『精液ごと厄を吸収する』というのだ。
「贖物って知ってるかしら? 人形なんかに穢れを移んだけど……」
アガモノ……? 何だろう。よくわからないけど、とても嫌な予感がする。
「その昔は、吐息や唾液などを人形にかけて……穢れを移していたものよ」
つまり、人間の身体から出るものには、穢れが宿っているということだろうか。
「そういうこと。…特に精液は穢れがすごいのよ。欲望と直結してるから」
よく分からない理論だが、雛が本気だということだけは、何となくわかった。

その二

――彼女の理論をまとめるとこうだ。
人間の分泌物や老廃物は、すなわち穢れであり、厄に非常に染まりやすい。
それを雛に直接吸引してもらうことで、僕に憑いた厄は回収されていく。
したがって、僕は最も穢れた分泌物である精液を、雛に飲んでもらう――
「……どうしたの? そんなに厄い顔して…」
どんな顔だか知らないが、やはりこの理屈はおかしい。そんな気がする。
「なら、あなたは……本来は厠に処理するべきものを、私に飲ませたいの?」
……汚らわしいと言えば最も汚らわしいが、それは絶対に御免被る。
何というか、それは人として絶対に越えてはならない一線のような気がした。
「賢明ね……。だから言ったでしょう? 精液が一番いいって…」
吐息や唾液では穢れが薄すぎる。他のモノでは汚らわし過ぎる。
ほどよく穢れていて、ほどよく厄が採れる。その最たるものが精液なのだ。
「……わかってくれたようね。じゃあ、今夜も……ね?」
毎度ながら沈んだ瞳が、どこか期待に濡れているような、そんな風に見えた。

その三

壁の向こうから、水音がする。
この向こうには脱衣所と風呂場があり、そこでは今、雛が入浴しているのだ。
脱衣所で僕と入れ替わってから、半刻も経つだろうか。
だいぶ入念に身体を洗っているのだろうが、この待ち時間がいやに緊張を煽る。
大丈夫だ。雛は何もしなくていいと言っていた。
下手な動きをしなければ、今夜も滞りなく厄を回収してもらえるはずだ。
「…お…お待たせ……」
いつの間に上がったのか、寝間着姿の雛が音もなくふすまを開けた。
いつもの洋装もいいのだが、僕の貸した寝間着も似合っている。
もちろん寸法が合っておらず、ぶかぶかなのだが、それが却って色っぽい。
「お、お布団は…? もう温まってる……?」
湯上がりから半刻、僕はずっと布団の中にいた。問題なく温まっている。
「そ、それじゃ……お邪魔します…」
何とも遠慮がちに入ってくる雛。布団を被り、その中で僕らは抱き合った。

その四

「ん……。あなたの唇、あったかい……」
側臥の姿勢で抱き合いながら、互いに唇を求め合う。
風呂上がりの雛の唇はいつもより温かく、ぷりぷりとして、とても心地好い。
できるなら、いつまでもこうして唇を重ねていたいくらいだ。
「……駄目よ。余計な厄まで背負い込むことになるわ」
悪戯っ子をたしなめるように言いながら、雛は僕に跨るよう体勢を入れ替える。
腰の上に跨った雛の目は、この薄闇でもわかるほど淫靡な光を湛えていた。
「あなたのおちんちん……硬くなってるわ」
彼女の秘部が、僕の怒張を押し潰す。柔らかな圧力が、窮屈な快感をもたらす。
おまけに胸板に乳房が密着して、早鐘のような胸の鼓動が筒抜けだ。
「私のこと……抱いてくれる?」
厄神だけど、と言外に彼女は言っている。拒絶に怯えながら、僕を試している。
ならば、僕の取るべき行動はひとつしかない。
こんなにも僕のためを思ってくれている女神様が、この腕の中にいるのだから。

その五

掌を被せた乳房が、指の隙間からはみ出していく。
着痩せするのだろうか、意外なほどたっぷりとした重量が指に吸い付いてくる。
「やぁ…。そ、そういうこと言わないで……」
しどけなくほつれた緑の髪が、羞恥に染まる雛の頬に張りつく。
それほど気持ちがいいのだろうか、乳首はすでに固くしこっている。
「や、ダメ……つ、まんじゃ……ひ、んぅ…ひぁあ……っ!」
両方の乳首をこね回すたびに、雛の腰が踊るように跳ねる。
裏筋を咥えるように挟んだ秘唇が、その度に粘っこい水音を立てた。
「やだぁ……恥ずかしい…こんなの、恥ずかしいよぉ……」
そうして雛が恥じらえば、それだけ僕の怒張は余計に固さを増していくのだ。
僕は我慢の限界を超える前に、彼女を力いっぱい抱き寄せた。
「……。初めてってわけじゃないけど……優しくしてね…?」
出来得る限り優しくすることを約束すると、もう一度だけ唇を重ねて。
布団に寝かせた雛の中に、ゆっくりと、ゆっくりと入っていった。

その六

耳まで真っ赤に染まった含羞の表情と裏腹に、雛の膣は貪欲に喰い付いてくる。
入口は狭く、中は熱く、どろどろの媚肉が舐めるように僕を絡め取る。
「き、気持ちいい……?」
声に出すと気が抜けて射精してしまいそうで、僕は何度も頷くに留める。
それを見て安心したのか、雛は両手両脚で僕にしがみついた。
「身体全部でくっついて……私も、気持ちいい……」
風呂上がりの玉の肌が、正面から僕に抱きついて離れない。
奥を叩く亀頭から、甘やかな電流が剛直を逆流して、僕の脳裏を焼き焦がす。
気持ちいい。彼女の肌も、彼女の中も、声も、香りも、何もかも。
「お願い、出して……。そのまま全部…雛の中にぶちまけてぇ……ッ!!」
腰を打ちつける。肉の、粘膜のぶつかる衝撃に、視界が白く弾け飛ぶ。
「ひあああぁぁ…っ! うぁあ、あ、ああ、あぁぁ、ああああああ……♪」
四肢で僕にしがみついて、最奥に熱い精を受けながら、雛が絶頂していく。
浅ましくも美しい彼女の痴態に酔い知れながら、僕は彼女を抱き締め続けた。

第四話

その一

「……ただいま」
いつの間にかいなくなっていた雛が、ふらりと帰って来た。
両手にいっぱいの野菜、果物。小さいが猪も獲ってきたらしい。
「ついでに、おまじないもしてきたわ…」
何だろう。凄く嫌な予感がしてならない。何せ、まじないは、呪いと書くのだ。
「庭の四隅に、貝殻や蟲の脱け殻を埋めたの。…空蝉っていうのよ」
――聞く限りでは、空っぽのものを敷地に埋めて、住人も空っぽにする呪法だ。
これをやられた家はあらゆる運気に見放され、災いに見舞われる。
その恐るべき呪詛を、何故わざわざこの家に施したのか。
「あらゆる運気に見放されるなら、不運もあなたを見放していくかなって…」
……若干の空回りはあるものの、僕のためであることはわかった。
悪い子ではないのだ。ちょっと変な方向にずれているだけで。
「精のつくもの、作るからね……ふふっ」
性格は相変わらずだが。今の笑顔は、普段より少しだけ明るく華やいで見えた。

その二

猪鍋は少々アクが強いが、寒い冬の夜に暖を取るには最高の献立だ。
山の幸たっぷりの鍋料理は、僕らの身も心も温めてくれた。
「…おそまつさまでした」
すっかり空になった鍋や食器を抱えて台所に引っ込む雛を呼び止める。
たまに忘れそうになるが彼女は神様なのだ。雑用ばかりさせては居心地が悪い。
だから、せめて食器洗いくらいは手伝わせて欲しかった。
「そんなの、気にしなくていいのに…。そんなに偉い神様でもないんだし…」
偉い神様と尊い神様というのは、似ているようで違うと思う。
位が低くとも、人間に嫌われる仕事を請け負っている雛は偉いと思うのだ。
「そ、そんな立派なものじゃないわよ……」
手元を泡まみれにしながら、雛は目を伏せて食器洗いに没頭してしまう。
「もう…。本当に、厄い人……」
雛が洗って置いた皿を取り上げ、手拭いで空拭きする。
手伝い自体に異を唱える気は、もう彼女にはないようだった。

その三

指先がちりちりとかじかむ。冬場の食器洗いも楽ではない。
「……早く、囲炉裏の火に当たりましょう。しもやけになるわ」
僕が座布団に腰を下ろして手を火にかざしていると、不意に雛が踵を返す。
厠にでも行ったのかと思ったが、彼女はすぐに毛布を持って戻ってきた。
「これ、使って…」
素直に受け取ったところで、彼女の分の毛布がないことに気が付く。
「私はいいの。…疫病だって、私のことは避けて通るから……」
そう言われても、一人だけ毛布に包まっているというのも何だか具合が悪い。
思案した結果、僕は横の席の座布団を自分の真横に置き、雛を手招きした。
「……? なぁに……?」
実に素直に隣に座ってくる雛。そんな彼女を、僕ごと毛布に包めてやる。
「………。ふふ、あったかい……」
きゅ、と袖口にしがみつき、そのまま寄り添ってくる。
彼女の肌はひやりとしていたが、すぐにほのかな温もりが毛布の中を満たした。

その四

「…そういえば、あなたに憑いた厄だけど」
後ろから抱きすくめていると、不意に雛がこぼした。
「昨日は、すごくたくさん搾り取れたわ」
――精液を出すことで、余剰な厄を回収する。
嘘のような話だが、事実として、少なくとも今日一日は何事もなかったのだ。
「まだ、お腹の中がたぷたぷしてるもの…」
流石にそれは冗談だろうが、自分でも驚くほど大量に射精したのは本当だった。
何しろ昨夜から今朝早くまで、ずっと雛とまぐわっていたのだ。
「ふふ…。妊娠、しちゃうかもね?」
神様が人間と子を設けられるなんて初耳だった。いや、僕が不勉強なだけか。
でも、雛とずっと一緒というのも……悪くないかもしれない。
「じゃあ……今夜も、愛してくれる?」
肩越しに振り返った雛と唇を合わせると、ほどなく舌を絡め合うに至る。
後ろから両手で胸をそっと揉むと、雛は嬉しそうに鼻を鳴らした。

その五

「や、こんな格好……」
僕が後ろから覆い被さったため、雛は四つん這いになっていた。
高々と自己主張する肉付きのいい尻を鷲掴みにして、濡れた秘芯に口付ける。
「ひゃっ…。や、だめ……舐めちゃ…はぁっ、ん…舌…入れちゃ駄目……」
甘酸っぱいようなほろ苦いような、不思議な味の粘液。雛の、いやらしい体液。
厄神様のそれは、果たして人間のように穢れているのか。…そんなことはない。
たとえようもなく綺麗だ。舐めるたびにそれは溢れて、綺麗に輝いている。
「やだ、やだ…! 言わないでぇ……恥ずかしくて、死にそう……」
羞恥に頭を振る雛の腰を引き寄せ、すっかり充血した剛直をあてがった。
「うああ……。う、後ろから…入って、く……ひあぁっ!」
半ばほど挿入したところで、不意に雛の背中がびくりと硬直する。
「う、動かないで……。今…イッてるから、動かないで…お願い……」
そう言われても、この状態で動くのを我慢しろというのは酷な話だ。
絶頂に蕩けて痙攣する膣の中、僕は襲い来る快感と必死に戦うことになった。

その六

「す、すごい……粘っこいのが、出てる……」
三度目の射精の最中、子宮口に精を受けながら、うわ言のように呟く雛。
陶磁器のように白かった尻は、腰を打ちつけ過ぎて、今や林檎のように赤い。
「問答無用で後ろから三回も…。本当に…厄いんだから……」
そうは言うが、挿入されただけで絶頂する雛にも責任はあると思う。
あんな風に悦ばれたのでは、男としては張り切らざるを得ないではないか。
「……………。だって、気持ちよかったんだもん…」
もしかすると、この神様は犯されるような格好の方が興奮するのだろうか…?
――いかん。やっと三度目の射精が終わったのに、また勃起しつつある。
流石に僕も疲れてきたし、今日はこのくらいにした方がいいだろう。
「あ、まだ抜かないで。…後ろから、ぎゅってしてて」
言われるままに抱き締める。膣内の脈動が、とく、とくんと伝わってくる。
「今日もたくさんの厄が回収できたわ。この調子なら、じきに……」
彼女の肌の温もりの中でまどろみに落ちた僕に、その先は聞こえなかった。

第五話

その一

「…だいぶん、厄を回収できたわね」
食後のお茶を半分ほど啜ってから、雛はいつもの陰鬱な口調で言った。
口調だけではなく目元も陰鬱なのだが、彼女にとってはこれが常態らしい。
「今日ね、お山の神様の所に、厄を引き渡してきたの」
昼間にこっそり出かけていったと思えば、そういう理由だったのか。
心配だったが、雛も神様だ。滅多なことはないだろうと信じて、帰りを待った。
「……ずいぶん信用されたものね」
それはそうだ。行きずりで知り合っただけの僕に、ここまで骨を折ってくれる。
これほど甲斐甲斐しくされては、厄の神であることを差し引いても――
「差し引いても……なぁに?」
――惚れてしまう、とは言えない。
結局は行きずりの関係なのだ。あまり情を移しては、必ず後が辛くなる。
「……まあ、いいわ。…お風呂の用意、できてるわよ」
雛が食器を洗いに行ったので、僕は先に入らせてもらうことになった。

その二

我が家の風呂は、それなりに広い。
これでも二十年ほど前までは、人里でも珍しい四世帯家族だったのだ。
当時はそれは賑やかだったものだが、今や気ままな独り暮らし。
身体を洗おうと桶を取り、ふと見慣れないものがあることに気付く。
洗髪料のようだが、見たことのない容器だ。外界からの漂着物だろうか…?
「そうよ」
何の躊躇もなく、一糸まとわぬ雛が浴室に入ってきた。
さすがに手拭いで前を隠してはいるが、割と豊満な雛の身体には意味がない。
「昨日の中に買って来てたの…。気が付かなかった?」
昨夜、さんざん肌を合わせておいて何だが、全然気が付かなかった。
普通なら匂いで判るのだろうが、あいにくと嗅覚はあまり敏感な方ではない。
「…もう、鈍いんだから。じゃあ、あなたに髪を洗ってもらおうかしら…?」
どうしてそうなるのかは分からないが、雛はさっさと腰掛けに座っている。
退いてもらうには、言う通りにするしかなさそうだった。

その三

湯に濡れた雛の髪は、濃緑を通り越して黒髪のようだ。
烏の濡れ羽色ではないが、何というか黒曜石のような輝き方をしている。
「それじゃ、お願いね……」
かしこまりました、とかしこまった返事をして、洗髪料を手に取り泡立てる。
「……あん…♪」
その手で髪をわしゃわしゃと洗ってやると、ちょっと楽しそうな声を出す雛。
僕も何だか楽しくなって、彼女の頭が泡まみれになるまでこすってやった。
「…こっちも、お願い……」
雛は前髪の辺りを指差している。僕は彼女に断って、正面に回り込んだ。
そして両手で彼女の頭を掴み、その手を前後左右に激しく動かす――
「………何かしら。すぐ近くに厄の気配がするわ……」
それは多分、いけないことを想像して勃起した、うちの愚息の気配だ。
「――――そこっ!!」
電光石火で伸ばされた雛の手は、寸分の狂いなくうちの愚息の頭を捕獲した。

その四

「……昨日あれだけ搾ったのに、もう元気になったの?」
雛は泡が目に入らないよう目を閉じたまま、両手でぺたぺたと怒張を触る。
その位置と距離を確認すると、手つきはより淫猥なものに変わっていく。
「今夜はお風呂だし、いつもより少し厄いことができそうね」
洗面器の湯で頭の泡を流すと、雛は僕の身体を反転させ、背を向けさせると
「お尻の穴、綺麗にしてあげる」
後ろから竿と玉を捕まえた上で、あろうことか菊座に舌を這わせ始める。
その舌使いは丹念に、緩慢に、執拗に、的確に、未知の快感を引きずり出す。
「おちんちんもタマタマも、苦しそうに張ってる…」
菊座の襞を丹念に舐めほぐしながら、片手が竿を、片手が袋を責め立てる。
器用だと感心する暇もない。射精を堪えるので精一杯だ。
「……うん。厄は私の中にくれないと意味がないものね」
いったん僕から離れると、再び体を反転させられ、雛と目が合った。
「それで……どっちのおクチに、飲ませてくれるの…?

その五

浴槽に手をついた雛の尻を、やわやわと撫で回す。
先ほどの奉仕でどれほど興奮したのか、すでに指が二本入るほど蕩けていた。
「やぁ…。ゆ、びじゃ、やだぁ……」
そうは言っても、彼女の秘唇はそう言っていない。
こぼれた蜜に濡れ、ぱくぱくと花弁をヒクつかせ、もっと欲しいと言っている。
「うそっ…うそよ…私、そんな……あ、だめ、もう……っ!?」
膣内の蠢動が始まった瞬間、指を抜いた。乳白色の甘露が、とろりと零れる。
「や、やだ……こんなの…許して……お願いよ、じらさないでぇ……」
ふりふりと暴れる腰を捕まえて、上体を倒し、耳たぶを甘く噛みながら――
「ふゃああ…っ! う、動いて……もっと突いて…いっぱい突いて……」
ゆっくりと、本当にゆっくりとした抽送に、びくり、びくりと腰が波打つ。
「雛のこと…動物みたいに犯して! 一番奥に、濃いのぶちまけてええっ!!」
急激に大きく、速く、強く腰を打ちつける。声ならぬ声が浴室に乱反射する。
嬌声とも咆哮ともつかない雛の声に酔い痴れて、僕は本当に大量の精を放った。

その六

結局、五回目の絶頂で腰を抜かした雛を抱き上げ、繋がったまま湯に入った。
「……お風呂、ぬるくなっちゃったわね」
それでも上がろうとしないのは、神様でも寒さに勝てないからなのか。
僕と繋がったまま離れたくないから――というのは、自惚れが過ぎるだろう。
厄を全て搾られた時、この関係も終わってしまう。期待は捨てるべきなのだ。
「……。あなたは、優しいわね」
その一言は、まるで僕の思考を読み取ったかのように。
「幻想郷で最も縁起の悪い存在を、こんなに優しく抱き締めてくれるなんて」
後ろから抱いているため、彼女の表情は窺えない。声色も普段のままだ。
ただ、僕よりひと回りも小さな体は、小さく震えているようで。
「私なんかを……厄神の、私なんかを、こんなに……優しく……」
抱いている腕に、力を込める。
情が移るとか、期待するなとか――最早そんなことを言っている場合ではない。
目の前で、腕の中で、女の子が泣いているのだから。

第六話

その一

雛が台所に閉じこもって、何刻になるだろうか。
絶対に中を覗くな――そう言われた僕は、こうして居間でじっと待っていた。
しかし、朝一番で買い物をしてきたかと思えば、一心不乱に料理とは。
結果的に朝飯も昼飯も抜きになったため、ものすごくお腹が空いた。
おまけに何を作っているかも判らないため、落ち着かないこと甚だしい。
そわそわと横になったり縦になったりしている内に、とうとう外は暗くなり。
「ふふ、お待ちどさま。……何してるの?」
ようやく出てきた雛は、縦になったり横になったりする僕を、訝しげに見た。
別に気が触れたというわけではないので、そういう目では見ないで欲しい。
「ならいいけど……。それじゃ、お食事にしましょうか」
配膳を手伝うべく一緒に台所に入ると、見たこともない料理がずらり。
「詳しい話は、後でね?」
まずは運べということだろう。なるべく大きな皿を優先的に持っていく。
それにしても、今夜の雛は、どういうわけか実に楽しそうだった。

その二

クリスマス――という、外の世界のお祭りの日らしい。
「山の巫女さんに聞いたのよ。偉い神様の息子さんが生まれた日なんですって」
外つ国のお祭りか。道理で献立が異色で、どれも美味そうなはずだ。
僕たちは両手を合わせると、さっそく異国の珍味にありついた。
いずれも非常に美味だが、何より盛り付けが華やかで、実に心が躍る。
童心に帰るというのは、きっとこういうことなのだろう。
「ごちそうさまでした」
全てを食べ終え、お茶で一服してから一緒に手を合わせる。
随分な贅沢をしてしまったが、神様の子のためのお祭りならば問題ないだろう。
騒ぐ時はとことん騒ぐ。幻想郷はそうやって回っているのだ。
「うふふ、あなたもわかってるじゃない。それじゃ、片付けてくるわね」
沢山の食器を抱え上げると、呆然とする僕を置き去りに、雛は台所に赴く。
――やはり、今日の雛はどこかおかしい。
いつもの陰鬱な翳は、どこへなりを潜めてしまったのだろうか…?

その三

食後、これまたわけのわからないものが食卓に上った。
「これは外つ国のお菓子で、おもに誕生日を祝う時に食べるそうよ」
ケーキ、と呼ぶらしい。よくは分からないが、手間はかかっていそうに見える。
これもお山の巫女さんに聞いて作ったのだろうか?
「ええ。前に厄を引き渡しに行った時に、ちょっと立ち話をしたの」
その時にクリスマスとやらの話になり、雛は根掘り葉掘り聞いてきたらしい。
「とても盛大に祝うそうよ。外の世界の人達って、きっと信心深いのね」
果物の飾られたケーキを切り分けながら、雛はしみじみと感心している。
彼女は信仰はされても、好かれてはいないのだ。その胸中は如何ばかりだろう。
「……もう、そんな顔しないの。せっかくのお祭りなんだから、ね?」
何を考えているか見透かされたらしい。僕は苦笑して、皿を受け取る。
「そうそう、一緒に飲むためのお酒もあるのよ。乾杯しましょう?」
湯呑みに洋酒を注ぐのはどうかと思ったが、時すでに遅し。
まあ、祭りの席だし細かいことはいいだろう。僕たちは、控えめな乾杯をした。

その四

風呂を済ませた僕らは、寝室の窓からなんとなく外を見ていた。
「雪…。また降ってきたのね…」
薄墨色の夜気に紛れて、ほの白い粉雪が降り注ぐ。
はらはらと、くるくると。音も立てずに、静かに、静かに降り注ぐ。
「綺麗……」
雛の方が綺麗だよ――とは、口が裂けても言えそうにない。
嘘だからではない。恥ずかしいからだ。
「……こんな時くらい格好つけても、バチを当てる神様はいないわよ?」
とん。真横に座っていた雛が、僕の肩に頭を預けてくる。
心地好い重みに、洗い髪の香り。それだけで、雛は僕を幸せにしてしまう。
余人が彼女を畏怖しても、僕だけは知っている。彼女は、幸せの女神なのだと。
「うん…、ありがとう。……大好き」
その一言だけで、僕は天にも昇ってしまう。
手を繋いだ。視線を絡め、指を絡めて、それからゆっくりと唇を重ねた。

その五

「異国の神様も、子どもを欲しがったのかしら…」
裸で布団に寝そべりながら、雛はぼんやりと呟いた。
何でもその神様は、人間の娘を処女のまま妊娠させて、息子を産ませたという。
「けど、少し可哀想ね。愛し合って子どもを作る方が、ずっと気持ちいいし…」
両手を広げて、僕を懐に迎え入れる。口付けで、すでに準備はできていた。
「ずっと、ずうっと……幸せなのにね」
ずるりと呑み込まれた剛直が、ざらざらの肉襞を掻くたびに、中がうねる。
いつものような、精を搾る動きではない。ねぶるように、男を味わう動きだ。
「うん…。今夜はね、恋人同士が、ずっと繋がっていてもいい夜なんだって」
言いながら、雛は両手両脚で僕を抱き込む。腰が密着し、根元から締められる。
「今夜はあなたのおちんちん、ひとりじめね。…ふふっ」
ぐにゅ、と中が締め付けてくる。ぬるぬるの肉が、媚びるようにまとわりつく。
「朝まで、離してあげないから…♪」
身も心も完全に雛の虜となった僕は、ゆっくりと、彼女の中を味わい始めた。

その六

「あはぁ…。あなたのせーえきで、おなかいっぱい……」
これで何度目の射精だろう。雛の膣内は、飽きることなく僕の精を呑んでいく。
柔肉の蠢きが、何より雛の蕩けた顔が、何度でも僕を復活させる。
「もっと射精してぇ…。私、今すごく幸せなの……」
求められるままに唇を貪る。ぬるぬるとした舌が、僕の舌を犯していく。
その唾液が、吐息が、僕の理性ををますますくらくらさせていく。
「あん…乱暴に動いちゃダメ…。あふれちゃうの、もったいないよぉ……」
陰茎と女陰の境目から、卑猥な音を立てながら精液が噴き出している。
それを惜しむ雛のいじらしい表情に、僕の腰はまた加速する。
「あ、中で震えてる…。射精して……雛にもっと種付けしてぇ……っ♪」
急激に膣が痙攣し、収縮し、ひとたまりもなく精をぶちまける。
「ふぁぁ……♪ ひぁ…、中出し、嬉しい……嬉しいよぉぉ……♪」
喜悦の涙に咽ぶ雛を、力強く抱き締める。
そうして、僕は初めて、彼女に自分の気持ちを告げたのだった――。

最終話

その一

身体を起こそうとすると、ぎしりと節々が軋みを上げる。
昨夜の疲れだ。クリスマスとか言う祭りに興じて、それから――
「おはよう。ぐっすり寝ていたわね」
未だ一糸まとわぬ姿の雛が、僕の腕を枕に寝そべっている。
そうだ。あの後、僕たちは朝までまぐわったのだ。熱く、激しく。
「可愛かったわよ、寝顔」
……何だろう。よく分からないが、猛烈に恥ずかしくなってきた。
寝顔を見られたのもそうだが、昨夜の痴態を思い出したというのもある。
「私も、いい夢見ちゃった。おかげですごく寝覚めがいいの」
言われてみると、今日の雛は妙に血色がいい。
色白なのは普段通りだが、あの世界中の災厄を背負ったかのような翳りがない。
「もうお昼くらいかしら…。何か作ってくるから、待っててね」
いつもの服に着替えた雛が出て行ってから、ふと気が付いた。
いつものリボンが一本、置き去りになっていることに。

その二

「………。そ、それじゃ……開けるわよ……?」
意を決して頷くと、雛がそっと玄関を開け放つ。
そこは一面の銀世界。冬の妖怪でも暴れていたのか、膝丈ほども積もっていた。
――本当に大丈夫なのか。
視線で問う僕に、雛は力強く頷く。…彼女を信じて、慎重に一歩を踏み出す。
「な……何にも起こらない、わね……」
滑って転ぶ、雪に埋まる、つららが落ちてくる。それくらいの覚悟をしていた。
だが、何も起こらない。普通に、外に出られるようになったのだ。
「おめでとう…!」
胸に飛び込んできた雛を抱き止め、思わず一緒に小躍りする。
僕は元に戻れたのだ。もう、事あるごとに命の危険に晒されなくてもいいのだ。
それもこれも、雛がつきっきりで厄を回収してくれたおかげだ。
「わ、私は当然のことをしただけだもの。そんな、感謝なんて……」
そっぽを向いてぼそぼそと呟く雛を、僕は思い切り後ろから抱きすくめた。

その三

「あん…。そ、そんなにガッつかないで……」
僕の気配を察したのだろう、雛が腕の中で弱々しく暴れている。
抵抗の意思のある言葉が僕を金縛りにし、雛はくるりと向き直る。
「どうしたの? 急に…」
彼女の表情に恐怖はない。あるのは不安と、一抹の寂しさ。
見ているだけで、こっちまで切なくなるような表情だ。
「もう…。ほら、そんな顔しないの」
そっと腕をほどいて、雛は僕の頭を抱き寄せた。
甘い香りと胸の柔らかさに包まれて、幸せなはずなのに、涙が落ちる。
「あなたの予感は、多分あたり。私は、また厄を集め続ける」
それをやめるということは、即ち鍵山雛という存在の否定を意味するのだ。
彼女が彼女であるために、僕がここでわがままを言うわけにはいかない。
「……寝室に行きましょう」
頭の一番大きなリボンをほどきながら、雛は先に行ってしまった。

その四

「………。私だってね、本当はあなたとずっと一緒にいたい」
布団の腕に正座して、彼女は下腹部をそっと撫でる。
「あなたの子どもをたくさん産んで、みんな一緒に暮らしたい」
愛おしそうな目許と、哀切な声の落差が、僕の心を掻き乱す。
「幸せな――夢だったわ」
それが、彼女が昨夜見たという夢なのだ。
さっきまでの元気を彼女に与えたのは、そんな平凡な幸せだったのだ。
「神と人は、交われる。子どもだって作れる。なら、私は――」
人間の娘が普通に暮らせば、簡単に手に入るような望み。
雛は、それっぽっちの幸せに、ずっと、ずっと焦がれていたのだ。
「私は……ずっと流し雛のままでいたかった……!」
彼女を覆う翳は、人間を愛せない彼女が、人間を愛さないためのものだった。
その翳の内に踏み込んだ僕は、今、彼女に何をしてやるべきか。
わからぬままに、僕たちはただ、抱き合った。

その五

「ん…、ちゅる、ちゅうっ……ぷは、んむっ……くちゅ、れる……」
全裸で抱き合って、口付け。幸せなはずの唇が、今はただ切ない。
相手は神様だから、お役目があるのは仕方がない。そんなことは解っている。
解っていても、手放したくない。それが僕の偽らざる気持ちだ。
僕はもう、骨の髄まで、雛に惚れてしまったのだから。
「私なんて…その倍くらい、あなたが好きだもん……」
僕だってその倍くらい、いや、その幾層倍も雛が好きだ。
「あなたの気持ちいいところだって、全部知ってるんだから…」
細い指が亀頭冠の裏側を責め立て、鈴口を撫で回す。
舌を絡め合いながら弱いところを責められて、僕はたまらず射精してしまった。
「でも、あなたも知ってるのよね…? どうすれば私が悦ぶか……」
精液にまみれたままの陰茎を握り締め、先端を無理矢理女陰に押し込める。
みるみる固さを取り戻す怒張を突き込めば、女神は涙混じりに愉悦の声を零す。
指を絡め、唇を重ねて、この胸を刺す鈍痛を、快感で塗り潰していった。

その六

「ふあ…っ、あ、ああ、あ……は、んああ……っ♪」
一番奥で射精する。すっかり膣内射精が癖になってしまったようだ。
腰のくびれを快感に震わせ、細い背を反らして、身も世もなく気をやっている。
「もっと…もっと射精して……。この感じ、忘れたくない……」
彼女は昨夜、この感覚を幸せと呼んだ。なら、僕は彼女を幸せにする。
たとえ、この胸が張り裂けようとも、彼女を抱き続ける。
いっそ孕んでしまえば、ここに残ってくれるのではと――淡い期待をしながら。
「もう…。そんなこと言われたら、決心が鈍るじゃない……」
対面座位になったところで、目元に接吻される。いつの間に、泣いていたのか。
「泣かないで。あなたのこと、忘れないから」
そう言いながら涙ぐんでいる雛を、力いっぱい抱き締めて。
「だから……出来たらでいいの。私のことも、忘れないでね……」
忘れるものか。忘れてなるものか。忘れてたまるものか。
そして、喜びも悲しみも綯い交ぜになった射精が、夢の終わりを告げた――。

その七

――天気のいい日が続き、あの積雪も嘘のように溶けた。
だが、冬にしては温暖な日が続いたせいか、風邪をひいてしまった。
常備薬を飲んで床に就き、起きて食事をしては、また同じことを繰り返す日々。
そんな中、僕は幾度も不思議な夢を見る。
さびしい独り身の僕が、誰かと子を為して、温かい家庭を築く夢だ。
結婚願望はなかったつもりだが、子沢山なその家族の夢に僕はひどく惹かれた。
惹かれて、焦がれて――目が覚めた時は泣いている。
理由はわからない。何故、何のために、大の男が泣かねばならないのか。
ただ、赤子に乳をやるあの少女に、僕はいつも、強く惹かれる。
きっと僕は、あの少女を知っていて、彼女のために泣いているのだろう。
そんな気がするのだ。


夢の彼女とお揃いのリボン。寝室に落ちていた深紅のリボン。
いつか彼女がここを見つけられるよう、僕は今もそれを窓辺に飾っている――。


(終)

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