前書き
仙道の行の中に房中術という分野がある。セックスを利用して仙道の行を進めていく技法だ。これは相当に古い歴史があり、そのテクニックを記したさまざまな書が伝わっている。
たとえば、『素女経』『素女方』『玉房秘訣』『玉房指要』『洞玄子』『天地陰陽交歓大楽賦』、さらには金丹仙道の書である『三峯丹訣』『玄微心印』など、名前を挙げればキリがないほどである。
さらに近年、湖南省長沙の馬王堆からは『十問』『合陰陽』『天下至道談』などという名の竹簡本(竹を削って作った本)の房中術の書まで出土している。
古代においては、もっとたくさんのこの種の書があったらしい。たとえば、漢代の歴史を記した『漢書・芸文誌』の「方技略」には「房中八家」という名で『容成陰道』26巻、『務成子陰道』36巻、『堯舜陰道』23巻、『湯盤庚陰道』20巻、『天老雑子陰道』20巻、『天一陰道』24巻、『黄帝三王養陽方』20巻、『三家内房有子方』17巻などが挙げられている。
さて、房中術だが、セックスを利用するという言葉が災いして(幸いして?)か、仙道の行ということが置き去りにされ、ひたすらセックステクニックそのもののようにとられてきた傾向がある。本家本元の中国にしてからがそうなのだから、仙道などさっぱり理解できない日本においては、それ以上なのである。
かくいう私も仙道を始めた当初は、房中術=セックステクニックと考えていた。真面目な仙道の行、つまり内功などから見れば、魅力的だがエロチックで不真面目な行としか思えなかったからである。
しかし、仙道というものが本格的に解り出してからは、これはとんでもない誤解であることに気づいた。房中術は決してセックステクニックではないのだ。とくに奥深いそれは、仙道の起源、仙道の存在理由、隠された真のテクニックといった、仙道の根幹に関わることを含み、さらには、タントラヨーガ、西洋の錬金術といった、ほかの神秘行の分野とも密接にからみ合うものである。
その世界は素晴らしく奥深い。この世界に足を踏み入れることができた人は、おそらく神秘行の秘密を掴むことができるはずである。
とはいっても、われわれ現代人、いや本当に仙道をマスターした中国の古代人を除いては、当の中国人でもこれを理解している人は、大海の水の一滴ほどだ。もちろん、そんなことをてっとり早くマスターできるように書いた本などは、古今東西を通じて一冊もない。
私でさえ、仙道を20年も追求してきたのに、ほんの数年前までは、その秘密がさっぱり解らなかったぐらいである。
むろん、仙道をずっと研究、実践してきたから、断片的には何となくこれを掴んでいた。しかし、その本当のところは、どうしても理解できなかったのである。ましてや、それが仙道をはるかに超えて、すべての神秘行の根幹に位置するものとは、とうてい解らなかった。
その正体不明のものが、どうしたわけか、ある時期からつながりが見え出し、ある日突然に、その驚くべき体系がひとつのものとして思考の中に躍り出てきた。それはまさに突然といった状態で、イメージの中に飛び出してきたのである。同時に、本当の房中術はセックスとはまったく無関係、という恐るべき事実とも、まともに向かい合うことになった。これについては本書でおいおい語っていく。
これから書いていくのは、そうした私のつかみ得た房中術の本質と、トレーニングに関する秘伝的なテクニックの数々である。どうかあなたも、その神髄を会得していただきたい。