「ごめんね、せっかくの休みなのに」
「良いのよ、それで何の用?」

言いにくそうに視線をさ迷わせていた梅子は、覚悟を決めるように深く息を吸った。
「あのね、弥生さんには先に知らせておこうと思って」
「うん」
「私ね、結婚するの」
「え?」
「だから…結婚するの」
任務完了とばかりに梅子がほっと息を吐いた瞬間、弥生の絶叫がこじんまりとした店内に響き渡った。

「や、弥生さん、声が大きいわよ」
「わ、私だって人生でここまで大声出したことなんて無いわよ!」
何事かという周りの視線を堪えながら、なるべく声を絞る。
「…で、誰なのよ」
「誰って…ほらぁ、坂田先生の誕生会の時に連れてきた…」
「あの人!?」
「だから声!」
二人でちらりと店の奥を見ると、店主らしき男が腕組みをしているのが目に入り、肩を縮めた。



「だって貴女、ただの幼馴染みって言ってたじゃない」
「あの時は本当にそうだったのよぉ…」
「それがこの短期間に何がどうなって結婚なんて話になるのよ…」
「私もそう思うけど…」
「けど?」
「多分、一生隣に居るならこの人しかいないんじゃないかなぁ、って…そう思ったのよ」
そうはにかんだ彼女の顔は、同性である自分でさえ一瞬見惚れてしまう程に綺麗だった。

「…好きになったのね?」
「うん、大好き」
あまりにも幸せそうな笑顔に、やや脱力した弥生は椅子の背もたれに身体を預けた。
「そう、おめでとう」
「ありがとう」
「まさか梅子に先越されるなんてねぇ」
「弥生さんはもう少し周りに目を向ければ良いのよ」
「どういう意味?」
「案外近くに良い人がいるってことよ」
「近くにって言っても…私にだって理想ってものが有るのよ」
「先はまだまだ長そうねぇ…」
山倉さん、気長に待てると良いけれど。
心の片隅でそう願った、梅子なのでした。


ー終わりー

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