マクロスFのキャラクター、早乙女アルトとランカ・リーのカップルに萌えた人たちのための二次創作投稿所です。

「うん、じゃあ絶対その日あけとくから!」
『おう。…楽しみにしてる』
「わ、わたしも!」
『じゃあおやすみ』
「おやすみ、アルトくん!」
プツっと電話の切れる音を聞いてから、ランカは自らの携帯”オオサンショウウオさん”の電源を切った。ベッドの上でかしこまって正座していた体は一気に力が抜け、そのまま後ろに倒れこむ。柔らかなスプリングの感触がランカを包み込んだ。
「はぁ…」
右手に握ったままの携帯を再び顔の前に持ってきて、着信履歴をチェックした。”23:35 アルトくん”という文字が画面に表示されている。
「えへへ…」
ランカはそのまま携帯をいとおしげに胸の前で抱きしめた。


アルトとランカは恋人同士である。
だがランカは”超時空シンデレラ”と呼ばれるスーパーアイドル。そしてアルトはSMSの隊員。ランカが忙しいのは言わずもがな、アルトも訓練だの任務だので決まった日に休みがとれることはまずない。アルトが休みの日にはランカがTVの収録の日、ランカが休みの日にはアルトが遠方への任務だったりと、お互いの休みがかち合うことがないすれ違いの日々だった。
それでもお互いを求めてやまない恋人達は空いた時間を見つけては毎日メールを交わし、電話を掛け合った。お互いの行動を知ることによって、たとえ遠くにいても相手の側にいると思えたから。
そして今日。いつものとおり電話で今日一日の報告をし合った後、お互いの休みの予定を聞いた。前述の通りアルトとランカの休みが一緒になることはまず無い。だからいつも2人は溜息をついて「また今度」と言うのだ。
だが今日は違った。丁度1週間後。2人の休みが奇跡的に重なったのである。はじめ聞いたときは信じられなかった。「え、本当?」まず口から出たのはそんな言葉で、次に「もう一回確かめてみる!」。無理も無い。今まで2人の予定が合うことはなかったのだから。とにかく2人でお互いの休みの予定を確認しあい、そしてそれが間違いがないと知ると改めて喜びがこみ上げてきた。あとは興奮に任せてその日の予定を話し合った。
やっぱり映画?それとも遊園地?いやいやでもどっちかの家でのんびりするのもいいかも。この間美味しいお店教えてもらったからそこ行きたいな。俺もミシェルに教えてもらった店行って見たい。じゃあ朝からいろんな所行こうよ!OK。おまえんち何時に迎えにいけばいい?待って待って!せっかくだから待ち合わせにしたいな。だってその方がデートみたいだし!…分かった分かった。…こんな会話をした後―そして冒頭へ。

「どうしよう!アルトくんと久しぶりにデートっ!」
久しぶりに会うのだから一番可愛いわたしで会いたい。一番きれいなわたしでいたい。
ランカはベッドから起き上がり、机の上にあった最新のファッション雑誌を手に取った。デートの日まで1週間もあるのだから、準備する時間はたっぷりある。仕事柄ファッション関係のお店はよく知っているし、懇意にしている。雑誌のページをパラパラとめくり、今シーズンの流行物をチェックし、そして自分の好みと照らし合わせた。
「でもわたしの好みだけじゃいけないよね。アルトくんの好みにあわせたいな」
アルトの好みはどんなのだろう。カワイイ系?それともちょっぴりセクシー系?
「…どうしよう、アルトくんの好みあんまり知らないかも…」
前に2人きりでデートしたときはお互い学校の制服で、服の好みをチェックする機会がなかった。
「うわぁぁん!どうしよう…アルトくんの好みがわかんないよぅっ…!」
まさか本人に直接聞くわけにもいかない。大体聞いたところで「どっちでもいい」とかそういう気の無い返事が返ってくるのがオチである。それに出来ることなら会った瞬間に驚かせたい。…虜にさせたい。
「あああああ!どうしようどうしよう…!」
ランカの悩みは明け方近くまで続いた。



次の日ランカはスタイリストさんや色んな人に助言を仰ぎまくった。
「そうねぇ…ランカちゃんの場合あんまりセクシー系にしても…合わないと思うわ」
「でも…」
「どうしてもセクシー系を取り入れたいのなら足元なんかどうかしら?」
「足元?」
「ほら、このミュールとか。ヒールが高めのとか女度高くていいんじゃないかしら」
「…!」
「でも履きなれてないと靴擦れとかしちゃうのよね…」
「ありがとうございます!さっそく探しに行って来ます!」
「ちょっと!…聞いてないわね。大丈夫かしら。
 ま、久しぶりのデートですもの、舞い上がるのは当然よね。
 それにハプニングがあってもそれはそれで美味しいしね」
あっと言う間に遠ざかる後姿。緑色の髪の毛が元気よく跳ねる。
上手くいくといいわね。そう呟いて彼女は自らの仕事に専念した。



そしてデート当日。
休みの日にこんなに早起きしたことなどかつてない。
いつもより早めの時間に目覚ましをかけておいたが、そんなものは必要ないくらい自然に目が覚めた。目覚ましをセットした時間よりも早く。
顔を洗い歯を磨き、朝ごはんを食べて。
夜寝る前に選んでおいた服を着て(服を着る前にやっぱり別のがいいかなと小一時間迷ったのは内緒だ)そしていつもより念入りにメイクをした。
「ちょっと早いけど…でもじっとしてられないし!」
時計を見ると8時をちょっと過ぎたところ。待ち合わせは9時。家から待ち合わせ場所までは15分くらいで着くから、しばらく待つことになる。だがこのまま家にいる気にはなれなくてランカは出かけることにした。
玄関には散々お店の人を付き合せて選んだ一足のミュール。
足を通す前にまじまじと見つめる。
「大人っぽくてでもちょっぴり可愛い…ヒールは結構高いけどやっぱりこれに決めてよかった!」
ランカは全身に喜びの気を漂わせて家を出た。


待ち合わせ場所に着くと、すでに人影があった。
会いたくて会いたくてたまらなかった愛しい存在。
(アルトくん…まだ時間まで結構あるのに…)
携帯の時計を見ると8時15分丁度。待ち合わせ時間まで45分もある。
もしかして、アルトも今日この日を待ちきれなかったのだろうか。ランカと同じように朝から気が急いて、そして家から出てきたのだろうか。
…わたしと同じ気持ちでいてくれたのかな。
そう考えるとランカはとても嬉しくなった。溢れる喜びを止められそうにない。喜びが勝手に体を動かし、そして口を動かす。
「アルトくーんっ!!!」
ランカの足は勝手に走り出す。だって早く会いたい。早く近くでアルトの顔を見たい。アルトの声を聞きたい。そして出来るなら、アルトに触れたい。
「…ランカ!」
アルトがランカに気付いた。―大好きなあの人が振り向いてわたしだけを見ている。
「アルトくん…っ」
―どうしよう、ドキドキする。だってすっごくすっごく好きなんだもん!メールも電話もしてたけど、でもやっぱり直接会いたかった…!
アルトもランカのところまで小走りでやってくる。あと少し。あと少しで…!
「きゃっ…!」
履きなれないヒールの高い靴、そのせいでランカはバランスを崩してしまった。
視界はアルトの姿からコンクリートで覆われた地面を映す。地面に激突する衝撃を恐れてランカは瞳を思い切り瞑った。
「…あぶない!」
「……?」
固い衝撃に備えていたランカは、予想に反して自分の体に触れる暖かいものに戸惑った。
恐る恐る目を開けるとそこには。
「アルトくん…!」
「ったく!驚かせるなよ!俺が受け止められたから良かったものの…」
ほんの数センチ先にあるアルトの驚いた顔。そして両肩に触れる大きな手。
「あ…ご、ごめんなさい…!」
「そんなかかとの高い靴で走り出すからだ!…気をつけろ」
「う、うん…その、アルトくん…」
「…なんだ?」
「あ、あの。手!もう大丈夫だから!」
突然、なんの心の準備もなく訪れた両肩を包む暖かさと、そしてすぐ目の前にあるアルトの顔。その両方にランカは耐えられなかった。顔を真っ赤にしながら言うランカにアルトも今の状況を飲み込んだらしい。
「あ、わ、わりぃ!」
急に離れる手と顔に少しだけほっとし、そして残念に思う矛盾した感情を抱きながらランカはアルトに礼を言った。
「ううん…。ありがとう、アルトくん」
「……」
「……」
沈黙が2人を包む。お互い、突然に訪れた接触というハプニングに戸惑っていた。

「それにしても!」
先に沈黙を破ったのはアルトだった。
「なんだってそんなかかとの高い靴履いてきたんだよ」
乱暴に、そして少しだけ呆れたように言われた言葉にランカはしょんぼりした。アルトに似合うと言ってもらいたくて、アルトの為に選んで履いてきたミュールなのに。
「……似合わないかな」
―やっぱり大人っぽいのなんてわたしに似合わなかったんだ。やめておけばよかった。
持ち主の感情に影響されるふわふわの髪の毛がみるみるうちにしぼんでいくのを見て、アルトは慌てた。
「そ、そんなこと言ってないだろ!ただ俺は危ないから…だから、その。
 似合う似合わないで言ったら………似合うと思うし」
「本当?!」
「うわっ!」
アルトの消え入りそうな”似合う”といった言葉を聞いたとたん、ランカは顔を輝かせて声を上げた。
「えへへっ!これ今日の日の為に一生懸命選んだんだよ!」
「…そっか」
アルトと会う、この日の為に。久しぶりに会うランカは今までの記憶の中より、そしてTVで見るより可愛くて、それはランカがアルトの為に努力したのだろうということがアルトには分かった。決して自惚れではなく。そう思うと、かかとの高い靴もそれを履いてきたランカもたまらなくいとおしく思えた。
「じゃあ、行くか」
「…!あ、あのアルトくん…!」
「どうした」
「そ、その。…手…」
ランカの手をそっと握るアルトの手。
「…だってしょうがねぇだろ。
 そんな靴履いて、また目の前で転ばれたら心臓が持たないし。
 それならまだ手を握ってた方が安心だから、うん!それだけだからな!」
ランカがアルトの顔を見上げると、耳まで真っ赤になっていた。
「う、うん…。そうだよねっ。
 ありがとう、アルトくん…!」
さっきは履いてこなきゃよかったと思ったミュール。でも今はこのミュールに感謝する。
「…大好きっ」
「何か言ったか?」
「ううん、なんでも。じゃあ行こっ!」
右手に伝わる熱。そしてなれない靴を履いたランカを気遣ってのことだろう、いつもよりゆっくり、狭く歩くアルトの歩幅。その全てが嬉しくて愛しくてランカは呟いた。







しばらく歩いたところで、アルトがランカに声を掛けた。
「おい、ランカ」
「え、な、何かな?」
「足、見せてみろ」
「…!…だ、大丈夫だよ?」
「嘘付け。靴擦れしたんだろ。
 …歩きにくそうにしてる」
「うぅ…」
ランカは大丈夫だと言ったが、明らかにランカの歩き方は足を庇っていた。
アルトはかがんでランカの足を見る。案の定ひどい靴擦れを起こしている。
「やっぱり。
 お前なぁ、こんなんなる前に早く言えっての」
「…ごめんなさい」
「とりあえず、乗れ」
アルトはかがんだままランカに背を向けて、おぶさるように促した。
「え…?」
「そんな足じゃ歩けないだろうし、近くに公園あっただろ?
 そこで傷口洗って、応急処置してやるから」
「大丈夫だよ、アルトくん。私歩けるから…」
「いいから、乗れって!」
「う、うん……」
強い口調で言うアルトに、ランカは恐る恐るといった風にアルトの背中に乗った。
しっかり肩に捕まったのを確認してからアルトは動き出した。
「…アルトくん…」
「ん?」
「………ごめんね」
「いいって」
「…だって今日、久しぶりにせっかく会えたのに、
 わたし朝から迷惑かけてばっかりで…」
「…だからいいって」
「わたし、わたしアルトくんに会えるから、すごく頑張っておしゃれしたのに。
 逆に迷惑、かけちゃって…本当にごめんね」
「…わかってるから。
 その、お前が…お、俺のためにおしゃれしてくれたこと」
おそらく泣いているのだろう、少し鼻声になりながら謝るランカに、
”俺のために”という言葉は濁しながらアルトは言った。
「そんだけしてくれて男冥利につきるってもんさ。
 大体俺がそれくらいで怒るような胆の小さい男に見えるか?
 ランカにとって、俺はそんなに甲斐性無しか?あぁ?」
「…ううんっ」
芝居がかった口調で、おどけていうアルトにランカはつい噴出した。
「…ありがと、アルトくん」
「…あ、ああ!」
抱きつく腕に力を込めて、耳元で囁かれる言葉に、(そして背中に感じる柔らかな温もりに)アルトは今更ながらドキドキした。



「…んっ」
「しみるか…?もうちょっとだから我慢しろ」
「うん…」
公園の蛇口で傷口を洗い、財布に入っていた絆創膏をランカの足に貼る。
「これで終わりっと」
「ありがとう、アルトくん」
「でももうその靴じゃ歩けないよなぁ…。
 新しい靴、買いに行くか。
 俺がお前に似合うやつ見立ててやる」
「え。い、いいの…?」
「おう。今度は靴擦れしないやつがいいよな。
 …ビーサンとか!」
「えっ…。
 …アルトくん、さすがにそれはちょっと…」
本気で呆れた風な眼差しを向け、そして口ごもるランカにアルトは慌てた。
「ば、馬鹿!冗談に決まってるだろ!
 そんな顔するな!」
「えぇ〜本当?だってアルトくん結構本気っぽかったよ…?」
「冗談!冗談だって!!
 ちゃんと俺がお前に似合う可愛いやつ見立ててやるから!」
「本当に…?信用していいのかな〜?」
「お前…買ってやらねぇぞ…」
「あ、嘘、嘘だよアルトくん!アルトくんのセンス、信用してるから。ね!」
「…ったく。
 ほら!」
「え?」
「応急処置したとはいえ、やっぱり歩けないだろ。
 またおぶってやるから」
「…うん、ありがとうね、アルトくん!」
背中に大事な物の重みを感じてからアルトは歩き出す。
「この近くに靴屋さんあったかな」
「俺が知ってるから、安心して乗っとけ」
「アルトくんここら辺詳しいの?」
「まぁな。前にミシェル達とここに来た時、
 お前に似合いそうな靴がショウウィンドウに飾ってあった」
「え、アルトくんそれって…」
「ち、違う!べ、別にお前に似合いそうだとか
 そんなこといつも考えてるわけじゃないからな!
 たまたま!たまたまだ!この間見つけたのは!!」
「くすくすっ!」
「あー…」
耳まで真っ赤にしながら言い訳をするアルトに、ランカは今度ははっきりと言った。
「アルトくん、だーいすきっ!」




萌えスレの方でとても素敵な流れだったので、
それに触発されて勢いで書きました。
なのでおかしなところがあったらすみません;
素敵な流れのログはこちらです。→「背伸びランカと高いヒール

625さんのビーサンの会話が可愛かったので使わせてもらいました。
素敵な流れを作ってくださった皆様、ありがとうございました。
そしてここまで見てくださった方もありがとうございます!

もしご意見やご感想等いただけるのであれば、スレの方ではなく
このページのコメント欄にいただけると幸いです。


まる

このページへのコメント

ランカちゃんとアルトが、ビーサンで手を繋いで歩いていたりするとお揃いっぽさが出て良いかなとか思っちゃいました。
でもアルトの為にお洒落するランカちゃんが可愛いです。

0
Posted by 七海 2013年12月18日(水) 18:10:31 返信

アルランすれから来ました☆
可愛い!アルランはこうでなくちゃってなお話ですね!
アルトがイイヤツでカッコイイですね
まだ付き合って間もない二人な感じが萌えますw
ランカがランカらしくて可愛かったです

0
Posted by ゆーな 2009年07月10日(金) 02:36:04 返信

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます