マクロスFのキャラクター、早乙女アルトとランカ・リーのカップルに萌えた人たちのための二次創作投稿所です。



「新未来3」BYアヤ



アルトはウンザリしていた。
心底ウンザリしていた。
目の前には書類の束。束。束。
「何でこんなに溜め込むんだよっ。」
アルトは書類の束に顔を埋めた。


アルトは病院を退院してSMSに復帰を果たしていた。
入院中、政府からの審問に感染症などの検査で正直休養どころでは・・・。
幸いV型感染症などの病気は発見されず、ほんの2週間程度の入院生活だった。
それでも8年のブランクは大きかった。
8年の間の技術の進歩には戸惑うばかりだ。
それに加えて落ちてしまっていた筋力。
日常生活には何等支障はないものの飛行機乗りとしてはアウトだった。
その為、俺の仕事といえば筋力を取り戻すためのトレーニングにロードワーク。
撃墜されまくりのシミュレーションでの戦闘訓練。
やっとカンを取り戻したと思ったら直ぐに難易度を上げられる。
「よしっ。撃破。って何!・・ちょっ・・・うわぁぁああ」
「はーい、アルト、本日12回目の死亡〜。懐かしい悲鳴だ。」
ミシェルにEXギアで走らされないのは優しさだと思いたい。
そして、オズマ隊長の溜め込んだ書類を片付けるデスクワークが俺のもっぱらの仕事である。
「隊長。いい加減にしてくれ。何でこんなに溜め込むんですか。」
「お前の為に仕事残してやってるんだろうが。それに、俺は忙しいんだよ。」
「中佐に昇進したんだから、ちっとはデスクワーク中心に仕事すれば良いじゃないですか。大卒の頭脳が泣きますよ。」
「馬鹿野郎。俺は死ぬまで飛行機乗りなんだよ。」
自分も飛行機乗りだからバルキリーに触れたくて、空を飛びたくて体が疼いて仕様が無い。
オズマの言いたい事も分かるが、この書類だけは何とかして欲しかった。
「お兄ちゃんがごめんね〜。頑張ってね。」
この惨状を知ってか知らずか、ランカからは温いメールが送られてくる。
ランカとは連絡を取り合って、時々会ったりしてあの頃の様な友人関係を続けている。
8年の間の出来事、新しく出来たお気に入りのスポット。
空白の時を埋める様にランカ目線でだが色々な情報を一生懸命話して聞かせてくれる。
少なからず追いつかない知識に焦りを感じているから本当にありがたい。
ランカの気持ちがあの頃からどのように変化しているのかは分からないが俺にとってこの距離が今は心地良い。
軽くふざけあって、ランカの頭を撫でる。
「もうっ。これでも大人なのに。」
笑いながら前と変わらずに接してくれるランカが俺にとっての日常の象徴ってヤツだったのだと実感していた。



賑わっている街のメインストリートを颯爽と歩けば、妖精とシンデレラの広告が笑顔を振りまき二人の歌声が風と共に通り抜けていく。
交差点近くのオープンカフェをチラリと見れば奥まったテーブルに見知ったメンバーの姿。
口元を緩めて彼らに近づいていく。
「ハァイ、アルト。ミシェルにルカも元気そうね。」
サングラスを少しずらしてひらひらと手を振れば、驚いた顔のいつもの面々。
「シェリル。」
「シェリルさん!」
「おっ、久しぶりの妖精のおでましだ。」
気を利かせたミシェルが通りから見えない位置を空けてくれて、空いたその椅子に腰を降ろした。
近くに居たウェイターにコ−ヒーとベーグルサンドを注文して一息つく。
「シェリル、お前仕事は?」
「今日は新しくリリースするディスクのジャケット撮影。それまで時間が空いたのよ。」
「1人ですか?護衛をつけないのも心配ですよ。」
「護衛も四六時中一緒じゃうざったいのよ。」
たまには堅苦しい護衛無しでゆっくりとランチタイムを過ごしたい。
「女王様は健在だねぇ。時に旦那は?」
「仕事に決まっているでしょ!医者なんだから。って、まだ結婚してないから!」
ウェイターが持ってきたコーヒーを口に含みながらそっとアルトを盗み見てみた。
少し複雑そうな笑みを浮かべているアルトは相変わらず美しい男だった。



一年間の眠りから覚めて、重い瞼を抉じ開けて見た世界。
ココに確かに私が存在していたけれど、ココにアルトは居なかった。
帰ってこないアルトを想って不安に押し潰されそうになって、思い通りにならず歌う事も出来ない身体に苛立って随分と迷惑をかけていたと思う。
ランカちゃん、あなたは優しすぎるわ。
「アルトくんが好きになった人だから。何より私がシェリルさんを大好きだと思うからココで同じ時を生きていきたいんです。」
恋敵で仕事の上でもライバルの私なんか放っておけば良い。
なのに、そんな私をランカちゃんと担当医師の彼が助けてくれていた。
死はいつも身近にあって、死ぬのなら舞台の上でと覚悟は出来ていたわ。
私が死んでも歌は死なない。
でも、その先は?・・・やっぱり怖いのよ。
独りぼっちじゃないと実感する度に安堵したの。
「みんな抱きしめて、銀河の果てまで!」
「私たちの歌を、聞けぇ!」
あの舞台を一生忘れる事は無いと思う。
ランカちゃんがいて私がいて、ココにいる皆が私達の歌で熱狂する。
アルトが残してくれたこの世界で私がシェリル・ノームでいられる事に心の底から感謝した日だった。
アルトがいない時間が私に強さをくれた。
自分の中の孤独と向き合って、グレイスがいてアルトとランカちゃんと出会った事を思い出して、孤独だなんて何で思えたんだろう。
このフロンティアで沢山の出会いと苦い経験を経て、今の私が出来上がった。
ランカちゃんと同じ様にアルトのことを変わらぬ気持ちで待っていようと思ったけれど私はへこたれちゃった。
私の小指から繋がっている赤い糸の先がアルトではなくて残念。
だけどランカちゃんに背中を押してもらって、繋げたアルトとは違う愛に後悔は無いし、正解だったと思うの。
アルトが、もしも早々に帰還していたら、今頃私はアルトの優しさに溺れていたわ。
優しすぎるから、きっと私が望む彼を演じてくれる。
だからきっと、それに頼りきって歌に没頭し、アルトを置いてきぼりにしてしまう。
婚約者の彼は医師としてのプライドをしっかり持っている人だから、無闇に私を甘やかしたりなんてしないし、厳しい事も平気で口にする。
でも、必要な時にはちゃんと傍に居て甘えさせてもくれし、甘えさせてあげたいと思える暖かい人。
このシェリル・ノームが彼の掌の上でコロコロと転がされていると思うと悔しいけれど、守られていると実感できるから私はいつものシェリルでいられるの。
今でもアルトの事は好きよ。
でも、もう恋では無いこの想い。
だから曇りの無い瞳でアルトの、そしてランカちゃんの幸せを祈ってる。
何だかんだ言って、いつもお互いを気にかけている彼等。
二人の未来が交わり合う時がいつか来るのかしら。
まさか私が、そんな心配をする様になるなんて、人生って何て不思議。



目の前にいる、かつて愛した男をまじまじと見ていたら急にその眉間に深いシワがよった。
「アルト?」
「ランカ・・・?」
アルトの視線を辿れば確かに彼女の姿。
「ん?あら本当。ランカちゃんね。」
「アルト、お前よく気づいたな。」
「はぁ?普通分かるだろ。」
「先輩。あれだけ変装してたら普通はわかりませんよ。」
帽子にトレードマークとも言える翡翠色の髪を全て仕舞い込み、眼鏡をかけていれば遠目に見てランカだとは気付かないはず。
なのにアルトには直ぐに判ったらしい。
「一緒にいる男性。確かこの前、ランカちゃんと噂になってた俳優さんよ。」
一緒にいた男性に手を引かれて走っていく彼女。
「ああ。確かスクープされてたよな。」
ルカが差し出したノートパソコンに、そのスクープ映像が映し出さされると、更にアルトから漂う空気が悪くなった。
「おい、アルト。携帯、鳴ってるんじゃないか?」
アルトのポケットの中から微かにコール音が聞こえてきていた。
ミシェルに言われてようやく気付いたアルト。
「ちょっと、スマン。・・・はい、アルトです。何ですか隊長?・・はぁ?ファイル?それなら隊長の机の右端に・・・・それじゃなくて・・・って俺はあんたの女房か!!」
オズマからだった様でアルトは話しながら席を外した。


「嫉妬・・・よね。あれ。」
「まぁそうなんじゃない?まーだ姫が抜け切らない鈍感さんだからねぇ。」
「お二人ともアルト先輩とランカさんをくっつけたいんですか?」
「ふふっ。さあねぇ。」
内心ちょっとだけ複雑な気持ち。
だけど、新しい一歩を踏み出す時だわ。
さあ乙女心、勇気出して。



続く



一応、話の流れに必要だろうとシェリルさん登場。
だけど難しいよシェリルさん。
今回ランカちゃんは・・・・あれ?
次回はアルランでばっちり書きたいです。

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