マクロスFのキャラクター、早乙女アルトとランカ・リーのカップルに萌えた人たちのための二次創作投稿所です。



「続・新未来4」 BYアヤ




私の為に流すお兄ちゃんの涙を始めて見た。
どんなに辛くても、仲間を宇宙で亡くした時でも。
私の前で泣くことの無かったお兄ちゃん。
そのお兄ちゃんが私の目の前で泣いた。




「ただいま〜。」
アルトくんと暮らすそことは違う部屋。
それでも、勝手知ったる私の実家。
「お帰りなさい。」
お義姉さんのキャサリンさんがキッチンから顔を出した。
この部屋で過ごすのは稀で、ただいまなんてちょっとこそばゆい。
だけど、この部屋が私の実家だとオズマお兄ちゃんもお義姉さんも言ってくれる。
「お兄ちゃんは?」
「定時上がりだって言っていたから、もうすぐ帰ってくるはずよ。」
ソファにくつろいで、お義姉さんが入れてくれたコーヒーを一口。
しかっり、お兄ちゃん好みのコーヒーの味だ。
「明日の準備はもう大丈夫?」
「うん。大丈夫。」
「やっとね、結婚式。」
向かいのソファでキャサリンさんが、自分達の結婚式の写真を眺めながら微笑んでいた。
そう、明日はアルトくんと私の結婚式。
プロポーズされてから約半年で結婚式まで漕ぎ着けた。
仕事のスケジュールやら会場の手配、衣装に招待状。
大変だったけれど楽しくて仕方なかった。
「今日は、アルトさんは?」
「アルトくんも実家に泊まるって。」
明日、私は早乙女ランカになる。
縁があって家族になって、そうやって命が続いていく。
小さい頃は、何か不思議だなと思ってた。
だけど今は、こういう事なのだとしっくりきてる。
それだけ大人になったんだね。
「すぐに晩御飯できるからちょっと待って「ランカちゃんだ〜。」」
奥から小さな足音が二つして、ソファによじ登った小さな二人。
「ランカちゃん、遊ぼう!」
「えほん、よんで〜。」
小さな四つの瞳がきらきらと私を見上げる。
「こら!お姉ちゃん疲れてるんだから大人しくしてなさい!」
「「え〜。」」
「もうすぐゴハンだって!それまでちょっとだけね。」
「チビ達が御免ね。」と言いながらキャサリンさんはキッチンに戻って行った。
ちゃんと大人しく私の両側に座ったおちびちゃん達。
お兄ちゃんやお義姉さんが良いパパとママなんだと分かる。
遠くない未来でこんな家庭が築くことが出来たら良いな。




「おかしいわね。もう帰ってきても良いのに。」
「私ちょっとそこまで見に行ってくるね。」
予定時間になっても帰ってこないオズマお兄ちゃん。
「きっと、娘を送り出す父親の心境なのよ。」とお義姉さんは苦笑い。
部屋を後にして、見上げた星が瞬き始めた空。
あの星の海を航海していたのはまだ数年前の事なんだね。
住宅街の坂道を登った先に見知った車とタバコの煙を吐き出す広い背中。
「お兄ちゃん。」
「・・・ランカ。」
振り向きもしないオズマの隣に並んだ。
「もう!おちびちゃん達がお腹空かせてるよ。」
「ああ。」
星空を見上げて動こうとしないお兄ちゃん。
「ランカ・・・明日だな。」
「・・・うん。」
「あれからもう20年近く経つんだな。」
家族も、取り巻く世界の全てを失った。
そんな私をまだ若い身で引き取ってくれた。
お兄ちゃんにはどうしても言っておきたい事があって今日は帰ってきたの。
「お兄ちゃん。ありがとうね。」
「・・・。」
「私の歌のせいでお母さんもマクロスグローバルの皆も犠牲にしてしまった。記憶を失って心も閉ざしてしまった私をこの世界に招き入れてくれたのはお兄ちゃんだよ。」
何も知らずにぬるま湯の様な日常に浸かっていた私。
暖かい世界でいつだってお兄ちゃんが守ってくれていた。
「フロンティアで戦争が起こって、今日まで楽しい事も辛い事も悲しい事もいっぱいあった。だけど、いつも私の事お兄ちゃんが支えていてくれた。」
過去を思い出し、ブレラお兄ちゃんとアルトくんが居なくなって、シェリルさんも倒れた。
弱いままの自分だったら、また心を閉ざしてしまっていたかもしれない。
それでも強くいられたのは、お兄ちゃんが支えてくれたから。
いつだって無償の愛を注いでくれたから。
「今日の私があるのもお兄ちゃんのおかげなんだよ。・・・明日、早乙女アルトの妻になります。今日まで・・・こんな甘えん坊の妹を・・・育ててくれて・・ありがとう。」
涙が滲んで言葉に詰まった私を、お兄ちゃんがぎゅっと抱き寄せてくれた。
「明日からはアルトに守ってもらえ。・・・幸せになれ。」
「うん。だけど、これからだってお兄ちゃんの妹なんだからね。」
「当たり前だ。ばかもん。」
涙で滲んだ瞳でお兄ちゃんを見上げた。
空を見上げながら零れ落ちるお兄ちゃんの涙。
これほどまでに暖かい涙は無いと思う。
この兄の妹になれて良かったと心底思った。





「さあ、可愛い花嫁さんの出来上がりよ。」
シフォンを花弁の様に重ね合わせた純白のドレス。
ナナちゃんがデザインして作り上げてくれた。
仕事の合間をぬって作ってくれた力作だ
化粧用のケープを外されて、シェリルさんの手でベールを被せてくれた。
「ありがとう。シェリルさん。」
「ふふ。アルトも見惚れるわね。」
私の後ろで鏡に映ったシェリルさんが、満足そうに笑った。
今日、私はアルトくんと結婚の誓いを立てる。
この日をどんなに夢見ただろう。
ウェディングドレスを着ただけで、背筋がピンッと伸びる感じ。
「やっとね。・・・私ね、ちょっと。ううん、凄く罪悪感があったの。」
「えっ?」
シェリルさんが急に真顔になったから、驚いて振り向いた。
「ランカちゃんに命を助けて貰って、また歌う事が出来て今の幸せを手に入れたわ。だけど、アルトが帰ってきたのはあの日から8年後よ。アルトを諦めて、私だけ幸せになって良いのかって。」
「そんな事!」
「後悔するのは嫌いよ。「たら、れば」の話も嫌い。だけどもし、アルトを好きにならなければ。フロンティアに来なければ。悲しみも苦しみも、もっと少なくて済んだかもしれないって思ったのよ。」
「シェリルさん・・・私はこれで良かったんだと思います。」
「ランカちゃん・・・。」
シェリルさんがフロンティアに来なくても、きっといつかバジュラに出会っていた。
その時きっとアルトくんは同じ行動をとったと思う。
シェリルさんとは合えず終いで、二人を永遠に失っていたかもしれない。
「多くの人の悲しい犠牲の上に私達の幸せがあります。でもシェリルさんと出会って、私もアルトくんも飛べたんです。あの過去が無かったら、シェリルさんと友達にだってなれなかったでしょ?」
「そうね。・・そうなのよね。」
「ハイ。」
二人で笑いながらも涙を滲ませると、シェリルさんがそっと拭き取ってくれた。
「さあ、アルトが待っているわ。」




オズマお兄ちゃんの腕に手を添えて、バージンロードを歩いていく。
海の見える緑の丘に、純白シフォンの天幕を張っただけの会場。
小さな十字架と神父様の前で、アルト君が腕を伸ばす。
アルトくんの手にそっと手を重ねて、微笑み合う。
きっと世界一幸せな二人だと信じて。
「神様に誓う前にアルトくんに誓うね。」
「ランカ?」
段取りに無かったから、少し驚いてアルトくんが目を瞠っていた。
「今まで色んなことが起こって、今この瞬間を迎えてる。これからだって何があるか分からない。だけど、幸せな気持ちをアルトくんがいっぱいくれたんだよ。」
悲しいことも、苦しいことだってあったけど。
離れていた時でさえ、アルトくんの存在が私を守ってくれていた。
「これからは、私がアルトくんを幸せにする。だから傍に居て下さい。」
「ランカ・・・。じゃあ、俺もお前に誓う。バジュラとフロンティアを離れて、俺の狂い出しそうな心を支えていてくれたのはランカだったよ。これからだって危険な事もあるだろう。それでも、俺は飛ぶ。俺の翼はお前だから。そしてお前が帰る場所だから。幸せにするから傍に居て欲しい。」
「はい。」
凄く嬉しくて涙が溢れる。
そんな私の涙をアルトくんが拭ってくれる。
重ねた手を掲げて、神父様に向く。
さあ、今度は神様に誓おう。
「汝らは、病めるときも健やかなる時も互いを慈しみ愛し続けると誓いますか?」
「「誓います。」」



続く

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