憲法Ⅰ　中島先生

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【２００６年　春期】
以下の2問のうち、いずれか1問を選択し、選択した問題の番号（１か２）を解答の冒頭に明記した上で（これが記載されていない場合、自動的に不可とします）、各設問の要件を満たすように論述しなさい。

＜問題1＞Y県立美術館では、専ら性的な内容を主題とする作品を発表してきたことで知られる現代美術の異端画家Aの回顧展を開催する企画を立て、開催予定も公表していた。Y美術館は、地方公共団体の設立した施設であるが、国からの運営補助金を年間数億円の単位で受けている。国は、A展覧会の開催予定を知って、「わいせつ」な作品を展示する美術館には今後、国庫からの補助金を支出しない旨をY美術館に通知した。これを受けてY美術館では、急遽回顧展の開催を中止し、すでに印刷を終えていた回顧展のカタログも全て焼却処分した。こうした一連の騒動の背後には、Aの作品の中に、天皇をモチーフとする性的作品が含まれていたことから、右翼による過激な抗議行動が予想されていたという事情もあり、美術館側は混乱を回避するためにやむをえない措置であったと説明した。この説明に納得できない県民Xは、Y美術館の展覧会中止措置とカタログ焼却処分、ならびに国の補助金の打ち切り通告について、憲法違反を理由に訴訟を起こそうと考えている。Xがいかなる主張を行うべきかについて、関連する判例の結論を踏まえ、予想される反論を想定しつつ、Xの立場から立論しなさい。

＜問題2＞近代立憲主義とは何か。具体的な例を挙げてその内容を説明した上で、以下の問いの事例が近代立憲主義の観点からどのように評価されるべきかについて論じなさい（以下の１から４まで全て解答すること）。その際、関連する判例があれば、必ず言及すること。
１）犯罪の検挙率をアップさせるために、犯人逮捕につながる証拠の収集方法の厳格さを緩和すること（例えば違法収集証拠の排除法則の要件を緩和すること）
２）テロリストの入国を阻止するために、日本国民全員の顔写真と指紋、そのほか必要な個人情報を国が管理し、また入国する外国人についても同様の措置をとること。
３）子供の安全を保護することを目的として、性犯罪者ならびにそれに類する性癖の保持者の個人情報をインターネットで公開し、市民が自由に検索できるようにすること。
４）個人の信念を理由に、総理大臣が特定の宗教団体への帰依を繰り返し表明すること。

１．出題年度　　2006年度　秋学期
２．科目名　　　憲法ⅡＢ
３．担当教員名　中島徹先生
４．問題文

設問1　裁判所法52条は、裁判官に対し、「積極的に政治運動をすること」を禁じている。この規定について憲法上問題となる点を指摘した上で以下の設問に答えなさい。①裁判官が全国紙に刑法に共謀罪の規定を新設することに反対である旨の投書をすることは裁判所法52条に該当するか。②裁判官が共謀罪新設に反対する市民集会に出席したが、その会合では「発言を控える」とだけ述べた場合はどうか。③裁判官が①の投書の後に、②の行動を行った場合はどうか。これと類似の事例で、最高裁はどのような判断を示したか。以上の点を踏まえて、前記問題点に関する自己の見解を述べなさい。ただし、憲法論の観点からのものに限る。

設問2　大規模小売店舗立地調整法5条は、政令で定める基準面積以上の店舗の新設を届出制としている。この届出は、近隣の小規模小売店に営業上の影響を与える可能性がある場合に出店調整を促すためのものである。政令は基準面積を1000平方メートル以上の店舗と定めており、999平方メートルの店舗が出店する場合は届出をする必要がない。Ａは住宅街に隣接する場所に999平方メートルの深夜営業のスーパーマーケットを建設しようと考えている。Ａの所有するチェーン店は、けばけばしい外装と派手なネオン、大規模な駐車場を備え、しばしば近隣住民との間で居住環境保護をめぐり紛争をおこしていることで知られ、今回も出店予定地付近の住民は建設反対運動を展開している。そうした事態を踏まえて、Ｂ市は近隣住民の居住環境保護の観点から、500平方メートル以上の小売店について出店を許可制とする条例を制定した。この条例は、憲法22条に反するか。かつて最高裁が展開した判例条理とその問題点を指摘しつつ、憲法論を展開しなさい。なお、大規模小売店舗立地調整法は架空の法律である。

設問3　立法裁量とはどのような考え方か。財産権と生存権では、立法裁量の範囲は異なるか。それぞれについて、立法裁量の範囲を限定するために裁判所が「あるべき立法」を想定して、憲法判断を行うことは憲法上許されるか。以上の点を前提として論じたうえで、森林法判決と堀木訴訟で最高裁が示した立法裁量の範囲を比較して、権利の実現の仕方に関し財産権と生存権で違いがあるかどうかについて論じなさい。

【２００５年　春期】
以下のAないしBのいずれかを選択し、それぞれの文章に関連して講義で検討した問題点を踏まえて憲法学の観点から論評しなさい（二問とも解答した場合、当該答案は無効とします）。
なお、いずれの設問も関連する諸判例に言及することが不可欠です。

A　住基ネットに関する新聞記事
B　週刊文春差し止め(田中真紀子議員の長女の記事に関連して)に関する新聞記事

【２００５年　秋期】
　以下のＡ・Ｂの設問のうち１問を選択し、選択した設問の記号を答案の冒頭に明記した上で解答しなさい（なお、いずれの設問についても関連する判例や学説に言及し、検討を加えることは必須の条件です。また、２問以上解答した場合は、当該答案を無効とします。解答は横書きで、六法･参考文献等は一切使用できません）。

A）Xは、生活保護を受けている者である。生活保護法は、自助努力では最低限度の生活を営むことができないと認定された者について、国が公費で生活の扶助をすることを定めている。国が同法を廃止した場合、Ｘは憲法上いかなる権利主張を行うことができるか。また、そもそも生活保護法が存在しなかった場合は、いかなる権利主張を行うことができるか。関連する判例、学説を紹介した上で、その権利主張について、自分自身の法的評価を述べなさい。

B）旭川学テ判決（1976年５月21目）で、最高裁は「学習権」に対応して「その充足をはかりうる立場にある者」は子どもを教育する「責務」を有すると述べている。最高裁判決において、この責務を果たす者と想定されているのは、具体的に誰か。また、その者の負う責務とは、いかなる内容のものか。その責務を果たすために、どのような権能が認められるか。当該権能に法的限界はあるか。関連する判例、学説を紹介し、上記諸点について法的視点から自己の見解を述べなさい。

Ｃ)　税理士の資格を持つＸは、衆議院議員選挙（小選挙区）において、税金の専門家であることを揚げて立候補し、選挙期間中、消費税率の引き上げを主張する他候補を手厳しく批判するなど、唯一の選挙公約として消費税率引き上げ絶対反対の立場を掲げたところ、当選した。ところが、選挙が終了してまもなく、消費税率の引き上げ賛成の立場に変わり、以後は税率の引き上げに最も積極的な論客として著名な存在となった。選挙運動中のＸの立湯に共鳴した者たちは、公約違反を理由にＸを罷免したいと考えたが、日本国憲法はそれを認めていない。なぜか。憲法上の諸制度･諸条項（地方議会議員の場合を含む）を例に挙げつつ、判例や学説の考え方を示して、憲法原理的な観点からその点を説明した上で、こうした憲法の採用する立場について、自分の見解を法的観点から述べなさい。

【２００４年　春期】
　以下の設問のうち一問を選び、解答欄にいずれを選択したかを明示して解答しなさい（二問とも解答した場合、当該答案は無効とします）。

１）某法学部助教授甲（既婚）は、まだ若く業績も少ないことから世間的な知名度はほとんどないが、美形であることから学内では有名な存在で、女子学生を中心に絶大な人気を誇っている。ある朝、甲が女子学生とともに大学近くの某一流ホテルの玄関からでてくるところを写真に撮られ、数日後その写真が「人気助教授、女子大生と不倫!?」と題する記事とともに乙週刊誌に掲載されることが判明した。そこで、甲は「朝食をとりながら女子学生の相談にのっていただけだ」と述べて、乙に対し記事の内容が事実無根であると主張し、乙週刊誌の出版差止めの仮処分を裁判所に求めた。裁判所は、乙の主張を認めて、出版差止めの仮処分を行うべきかどうかについて、憲法上の人権保障の観点から検討しなさい。その際、判例法理にも必ず検討を加えること。

２）中泉鈍二郎総理大臣は、自分にも憲法上「信教の自由」が保障されていると主張して、毎年、靖国神社に参拝をしている。当人は、「中泉鈍二郎が心をこめて参拝しているだけだ」と述べて、信念に基づく参拝であることを強調しているが、参拝には常に公用車を利用し、記帳の際には内閣総理大臣の肩書きをつけ、献花料を私費で支払っている。なお、参拝の形式は略式だが、一応神道の形式にのっとって行われている。彼の参拝は、アジア諸国からその行動が注目されていることもあって、新聞やニュース等で大々的に報道されており、参拝時には、報道関係者や一般人が多数つめかけるなど、毎回大きな話題となってきた。この「総理大臣　中泉鈍二郎」の行動を、日本国憲法に則して評価しなさい。その際、判例法理にも必ず検討を加えること。

【２００４年　秋期】
以下の三問のうち、いずれか一問を選択し、その番号を答案の冒頭に明記した上で、解答
しなさい。選択した問題の番号を明記せず、あるいは二問以上解答した場合は、当該答案
を全て無効とします。

（１）自分の子どもが通う学校で使用されている歴史教科書の記述が、子ども自身や親の有する歴史認識と異なる場合、子どもや親は、判決でその内容の是正を求めることができるか。教師の場合はどうか。また、文部科学省が検定に際して是正を求めるのはどうか。万一、それぞれの結論が異なる場合には、そのことを正当化する説明もあわせて行いなさい。

（２）零細な個人営業の商店の営業利益を保護するために、一定規模を超える週や営業のスーパーマーケットを開業する許可条件のひとつに距離制限を設けることは、憲法上許されるか。営業時間を制限する場合はどうか。それらの規制が、スーバー周辺の住民の生活環境を保護するための規制であったらどうか。商店と住民の両方の保護を目的としている場合はどうか。各場面について検討しなさい。

（３）国民の代表者からなる国会が多数決により制定した法律を、選挙で選ばれたわけではない職業裁判官が連雀無効とすることができる連雀法令審査権（憲法八十一条）の制度は非民主的であるという見解は、正当か。最高裁が実際にある法令を違憲と判断した裁判例をあげつつ、憲法原理に即して検討しなさい。