物権法　鎌田先生

鎌田物権

【１９９３年】
　Ａが、遺言を遺さずに死亡し､その子Ｂ･Ｃが甲土地および甲土地上の乙建物を相続した。ＢおよびＣは、協議により遺産を分割し、甲土地についてはＢが四分の一、Ｃが四分の三の持分割合による共有とし、乙建物についてはＢの単独所有とした。
　ところが､Ｂは、偽造文書を用いて甲七地・乙建物とも自己が単独所有権を取得したものとして相続登記を行なった後に、乙建物についてＤのための抵当権を設定して、その旨の登記をし、さらに、甲十地をＥに売却して所有権移転登記をなし、BE間で乙建物の所有のために甲土地を５年間Ｂが賃借する旨の契約を締結した。
（１）Ｃは、Ｅに対して、甲土地上の自己の持分を対抗することができるか。
（２）その後、乙建物の抵当権が実行されてＤが自らこれを競落したとして、Ｃは、Ｄに
対して乙建物を収去して甲土地を自分に明け渡すように請求することができるか。

【１９９４年】
　Ａは、自己所有の建物を同建物内に備え付けられている機械とともに、Ｂに売り渡し、所有権移転登記をするとともに、現実の引渡しをした。Ｂは、この建物にＣのための抵当権を設定し、その旨の登記をした直後に、右建物および機械を、存続期間を定めずに、Ｄに賃貸した。これを前提にして、以下の問い（１）（２）（３）のすべてに、簡潔かつ論理的に答えなさい（各問は独立の問題であって、相互に関係していない）。
（１）Ｂによる抵当権の設定よりも前に､AB問の売買契約がＢの詐欺を理由に取り消されていた場合、Ａは、Ｃに対して、抵当権登記の抹消を請求することができるか。
（２）抵当権設定から２年後に、Ｃが、右抵当権を実行し、自ら競落した場合、ＣはＤに対して、建物の明渡および機械の引渡を請求することができるか。
（３）Ｄが、Ｅに対する債務を担保するために、Ｂから賃借中の機械を自己所有のものと偽って譲渡担保に提供し、占有改定をなした場合の、右機械をめぐる権利関係を説明しなさい。

【１９９６年】
　次の二問中一問を選んで、答えなさい。
一　Ａは、自己所有の甲土地をＹに売却して、代金を受領するのと引き替えにＹに引き渡したが、所有権移転登記はしなかった。Ｙは、直ちに甲土地上に乙物件を新築し、現在も乙物件に居住している。Ａはその八年後に、Ｘから期間三年の契約で金員を借り入れて、その担保のために甲土地に抵当権を設定し、その旨の登記をした。約定の期日に右債務が弁済されなかったので、Ｘは、右抵当権を実行して、自らこれを競落し、所有権移転登記を経由した。Ｙが依然として乙建物に居住し続けているので、Ｘは、Ｙに対し、乙物件を収去して甲土地を明け渡せと請求している。この請求は認容されるか。

二　Ａは､Ｘに対する債務の担保として自己所有の甲建物に抵当権を設定し、その旨の登記を経由した後に、甲建物を期間に定めずにＹに賃貸した。
１　賃借人Ｙは、抵当権者Ｘに対し、自己の賃借権を対抗することができるか。
２　抵当権者Ｘは、賃借人Ｙに対して、甲建物からの退去を求めることができるのか。
３　抵当権者Ｘは、ＡのＹに対する賃料債権に対して物上代位することができるか。

【１９９７年】
　Ａは、自己所有の甲土地および甲土地上の乙建物をＢに売り渡して、それぞれ所有権移転登記をしたが､引渡をする前にこの売買契約がＢの詐欺によるものであることが発覚し、ＡはＢに対して右売買契約の取消の意思表示をした。しかし、Ｂはこれを無視して、乙建物にＣのための抵当権を設定し、その旨の登記を経由した。その後、Ａは、乙建物をＤに賃貸した。これを前提にして、次の小間（１）ないし（４）に、簡潔に理由を付して、答えなさい。
（１）Ａは、Ｃに対して抵当権設定登記の抹消を請求することができるか（Cが、取消の事実を知っていた場合と知らなかった場合とで違いがあるか）。
（２）Ａは、Ｂに対して所有権移転登記の抹消を請求することができるか。
（３）Ｃの抵当権はＡに対抗できるとの解釈を前提にして、Ｃが乙建物の抵当権を実行して自ら競落した場合、Ａは、Ｃに乙建物の収去を請求することができるか。
（４）同じくＣの抵当権をＡに対抗できるものとして、Ｃが乙建物の抵当権を実行して自ら競落した場合、Ｃは、Ｄに対して建物からの退去を請求することができるか。

【２０００年】
一　次の小問１ないし４のうち一問を選んで、簡潔に答えなさい（四〇点）。
　１　占有改定と即時取得（善意取得）
　２　占有権の相続と「新権原」
　３　物上代位と差押え
　４　抵当権侵害と明渡請求

二　次の小間エおよび２に簡潔かつ論理的に答えなさい（六〇点）。
　１　Ａが違言を遺さずに死亡し、その子Ｂ・Ｃが甲土地を相続した。Ｂ・Ｃ間で遺産分割がなされない間に､Ｂが､Ｃに無断で、甲土地上に乙建物を建てて居住している｡Ｃは、Ｂに対し、乙建物の収去と甲土地の明渡を請求できるか。
　２　右の事例で､Ｃが､Ｂが乙建物を所有して居住を継続することを了承したものとする。ところが、その後に、Ｂが、Ｃに無断で、乙建物にＤのための抵当権を設定してしまった。右抵当権が実行されてＤが自ら乙建物を競落した場合の、甲土地をめぐる権利関係を説明しなさい。

【２００５年】
　次の【問題１】から【問題１０】までについて、正しい答えを一つ選び、その番号を解
答用紙の該当箇所にマークしなさい。なお、争いのある場合には判例の見解に従うものと
する。
【問題１】次の説明のうち、誤っているものはどれか。
（１）　物権は排他的な権利であるから、同一の物の上に互いに相容れない内容の物権が二つ以上成立することはないのに対し、両立しえない内容の複数の債権はいずれも有効に成立しうる。
（２）　不動産に関する物権の公示手段は登記であるが、不動産の占有権、入会権および留置権は、登記をしなくても第三者に対抗することができる。
（３）　物権も債権も、権利である以上は不可侵性が認められるから、第三者によって違法に侵害された場合には、等しく不法行為が成立しうる。しかし、妨害排除請求権（差止請求権）は、原則として債権のためには成立しない。
（４）　民法その他の法律によって定められたものとは異なる種類の物権を、当事者間の合意によってつくりだすことは禁じられているが、債権の内容は原則として当事者が自由に決めることができる。
（５）　物権は自由に譲渡することができるが、債権は、特定の人（債権者と債務者）の間に生じる法律関係であるから、債務者の承諾なしにこれを譲渡することはできない。

【問題２】　次の説明のうち、誤っているものはどれか。
（１）Ａが自己所有の甲建物を売却する契約を締結し、代金を受領して引き渡した。その後、Ｃが甲建物を毀損した場合、Ｂは、まだ登記を備えていなくても、Ｃに対して、甲建物の所有権侵害を理由に損害賠償を請求することができる。
（２）土地については、一筆の土地が一個の所有権の客体となるものとされているが、一筆の土地の一部についても、売買や取得時効等によって所有権を取得することができる。ただし、一筆の土地の一部についての所有権取得を第三者に対抗することができる。ただし、一筆の土地の一部についての所有権取得を第三者に対抗するには、その部分を分筆の上、所有権移転登記をする必要がある。
（３）建物について、一棟の建物を一個の所有権の客体となるものとされているから、Ａの所有する甲建物の賃借人Ｂが自分の費用で増築した場合、その増築部分についてＢの所有権が成立することがないのが原則であるが、増築部分に構造上および利用上の独立性があるときは、例外的にその増築部分についてＢのためも独立の所有権（建物の区分所有権）が成立することもありうる。
（４）土地の上に建物が建っている場合、原則として土地と建物とは別々の所有権の客体となるものとされている。しかし、土地の利用権原を有しない者が建物を建てた場合には、不法占拠者が建物所有者になるのは不合理なので、建物は土地に付合して、土地と建物の両者を合わせたものが一個の不動産として土地所有者に帰属することになる。

【問題３】次の説明のうち、正しいものはどれか。
（１）Ａの所有する甲土地にＢ所有の工作機械が放置されている。この機械はＣがＢの工場から盗み出して甲土地に捨てていったものであった。Ｂに過失がなかったとしても、Ａは、Ｂにたいして、その機械をＢの費用で撤去するよう請求することができる。
（２）物権的請求権は物権の通有性である絶対性ないし排他性に基礎をおく権利であるから、全ての物権について当然に物権的返還請求権・物権的妨害排除請求権・物権的妨害予防請求権の３種類の請求権が認められる。
（３）Ａ所有の土地に、Ｂが無権原で建物を建てて、勝手にＣ名義の所有権保存登記をした場合、Ａが建物所有者を知る方法としては登記簿を調べるしかないのだから、建物収去土地明渡請求の相手方は、Ｂではなく登記名義人のＣとされる。
（４）ＡＢ共有の土地上にＡが勝手に建物を建てて独占的に利用している。Ｂは、Ａに対して、持分権の侵害を理由として建物収去明渡請求をすることができる。
（５）ＡＢ共有の土地上に第三者Ｃが勝手に建物をたてて独占的に利用している。共有者と第三者との法律関係は全共有者共通に決められるべきであるから、Ｃに対する建物収去土地明渡請求は、ＡとＢが共同して行わなければならない。

【問題４】次の説明のうち、正しいものはどれか。
（１）Ａは、Ｂから甲建物を賃借して居住しているが、実は、甲建物はＣの所有物であった。Ａが永年居住し続けた場合に甲建物の所有権を時効取得するのは、甲建物に現実に居住していた借家人Ａであって、賃貸人Ｂではない
（２）Ａは、Ｃ所有の甲土地上に無権原で乙建物を建てて店舗を営んでおり、乙娘物の２階には店員Ｂを住み込ませている。Ｂは、Ａの占有補助者にすぎず、独立の占有を有しないから、Ｃからの明渡請求や損害賠償請求の相手方にならない。
（３）Ａは、Ｂ所有の甲建物を時効取得してやろうと思い、その意図を隠してＢからこれを賃借して、平穏に居住を続けている。Ａは悪意だが所有の意思をもった占有者だから、この関係が20年間続いたときは、甲建物を時効取得することができる。
（４）ＡはＢ所有の甲土地を悪意で１３年間自主占有した後、善意無過失のＢにこれを譲渡して引渡し、Ｂが８年間占有を継続した。この場合、Ａが譲渡をせずに占有し続けいれば時効取得はできたけれども、Ｂ自身は、８年間しか占有していないので、甲土地を時効取得することができない。

【問題５】次の記述のうち、物権変動の時期に関して判例の述べる一般原則に適合するものはどれか。
（１）売買契約において当事者が目的物の所有権移転時期を定めていた場合でも、当事者間の対価関係を維持するために、売買代金が全額支払われる時まで、目的物の所有権は買主に移転しない。
（２）将来の物の売買契約は無効だから、その物が現存するに至った後に改めて売買契約を締結しない限り、目的物の所有権は買主に移転しない。
（３）不特定物の売買契約の場合には、目的物が特定した時に、たとえそのことを買主が知らなかったとしても。当然に目的物の所有権が買主に移転する。
（４）他人の物の売買契約は有効だが、売主が目的物の所有権を取得した後に改めて売買契約を追認しない限り、目的物の所有権は買主に移転しない。
（５）売主が買主に対して所有権移転登記をした後に買主の詐欺を理由に売買契約を取り消した場合、所有権移転登記を抹消した時に、目的物の所有権が売主に復帰する。

【問題６】Ａは、自己所有の甲土地をｂに売り渡し、代金支払・引渡しを済ませたが記名義はＡのままになっていた。これを知ったＣは、Ｂを害する目.的で、Ａから同土地を廉価で買い受けて直ちに登記を備え、これを善意無過失のＤに転売して所有権移転登記をした｡次の説明のうち現在の判例･通説を説明するものとして正しいのはどれか。
（１）不動産登記は形式両―的に権利関係を確定することで取引の安全を保つ制度だから、当事者の善意・悪意といった主観的な事情を考慮すべきでない。したがって、Ｃは、善意・悪意を向わず有効に所有権を取得でき、それをＤに有効に譲渡できる。
（２）AC問の売買契約は公序良俗に反する無効なものだから、Ｃは所有権を取得しえない。そして、わが国の登記に公信力はないから、Ｄも所有権を取得できない。無権利者は登記の欠訣を主張できないから、Ｂは、登記なしに所有権取得をＤに対抗できる。
（３）AC間の売買契約は公序良俗に反する無効なものだから、Ｃは所有権を取得できない。わが国の登記に公信力はないが、９４条２項の類推適用により、Ｄは、善意無過失であり、かつ、登記を備えていることを条件として、所有権を取得する。
（４）Ｃは、背信的悪意者であるために所有権取得を否定される。その結果、Ｃも転得者Ｄも、無権利者ということになり、たとえ所有権移転登記をしていても、第１譲受人Ｂに所有権取得を対抗することができない。
（５）Ｃは、Ｂに対して登記の欠訣を主張することが信義則により禁じられてはいるが、無権利者というわけではないから、ＣからＤに有効に所有権が移転する。Ｄ自身に信義則に反するような事情がなければ、Ｄが所有権取得をＢに対抗することは認められる。

【問題７】Ｂが、Ａの所有する土地を長期間占有に、時効取得した場合に関する以下の説明のうち、判例の原則を矛盾するものはどれか。
（１）時効取得は原始取得であるし、日本民法は登記を備えていることを時効取得の要件にしていないから、Ｂは、登記なしに、時効取得を誰にでも対抗することができる。
（２）Ｂの時効完成前にこの土地がＡからＣに譲渡されていた場合、Ｂは、時効完成によって所有権を失うＣに対して、登記なしに、時効取得を対抗することができる。Ｃが所有権移転登記をしたのが時効完成の後であっても、この結論は変わらない。
（３）Ａの所有する土地をＢが時効取得した後に、Ｃがこの土地をＡから譲り受けた場合、Ｂは、登記を備えていない限り、Ｃに時効取得を対抗することができない。
（４）Ｂのための時効期間の起算点は、実際に自主占有を開始した時点に固定され、これを任意の時点に動かすことはできない。
（５）Ｂの時効完成後にＡが目的物をＣに譲渡して所有権移転登記がなされた場合、Ｂは、その時からもう一度時効取得に必要な機関占有を継続すれば、登記なしに時効取得をＣに対抗することができる。

【問題８】Ａが遺言を残さずに死亡し、その子ＢＣＤが相続した。遺産中の甲不動産をめぐる法律関係に関する判例理論の説明として、正しいものはどれか。
（１）Ａは、生前に甲不動産をＸに譲渡していた。相続人は相続開始の時に披相続人に　属していた財産しか相続できないのだから、ＢＣＤは、たとえ相続登記をしていたとしても、甲不動産の所有権を取得することができない。
（２）Ｂは、遺産分割前に、甲不動産につき単独不動産の登記をした上で、直ちにこれをＸに譲渡し、所有権移転登記を済ませた。Ｘは、ＢＣＤに対して、甲不動産の単独所有権の取得を対抗することができる。
（３）遺産分割により甲不動産はＢの単独所有とされたが、その登記をしないうちに、Ｃが、甲不動産の単独所有者と偽って、これをＸに譲渡して所有権移転登記をした。Ｂは、無権利者からの譲受人であるＸに対し、登記なしに、自分が甲不動産の単独所有者であることを対抗することができる。
（４）Ｂが相続を放棄したが、その旨の登記がされていない間に、Ｂの債権者Ｘが、甲不動産にＢの持分（３分の１）があるとして代位による相続登記をして、これを差し押さえた。Ｃ及びＤは、Ｘに対し、相続放棄によりＢの持分はゼロになっていることを対抗することができる。

【問題９】Ａは自己所有の甲土地をＢに譲渡し、ＢはこれをＣに転売したが、登記名義はＡのままになっていた。この場合の説明として誤っているものはどれか。
（１）Ｂは、既に目的不動産の所有権を失っているが、依然としてＡに対してＡからＢへの所有権移転登記をせよと請求する登記請求権を有しており、この登記請求権は、物権的請求権ということはできないが、消滅時効にはかからない。
（２）Ｃは、Ｂが無資力であるか否かを問わず、ＣのＢの対する登記請求権を保全するために、ＢのＡに対する登記請求権を代位行使することができる。
（３）民法１７６条によって所有権は既にＣに移転していると認められるから、ＣはＡに対して、物権的請求権としての登記請求権により、直接ＡからＣへの所有権移転登記をせよと請求することができる。
（４）ＡＢＣ三者間で中間者Ｂを省略して直接ＡからＣへの所有権移転登記をする旨の合意をしていたとしても、これによってＢのＡに対する登記請求権が消滅したとはいえないから、Ｂの債権者Ｄが、これを差押える目的で、Ｂに代位してＡからＢへの所有権移転登記をするように請求することは可能である。
（５）ＡＢＣ三者の合意に基づいて中間者Ｂを省略して直接ＡからＣへの所有権移転登記がなされた場合、この登記は実際の物権変動の過程を正確に反映していないが、現在の権利状態は正確に表示しているから、有効であるものと認められる。

【問題１０】善意取得（即時取得）に関する次の説明のうち、誤っているのはどれか。
（１）善意取得は、占有が権利表象機能を有することを前提としているので、既登録の自働車や２０トン以上の船舶、航空機のように登記・登録を対抗要件とする動産については、これを適用することができない。
（２）善意取得は、前主の権利者らしい外観に対する信頼を保護するもので、それ以上のものではないから、前生が処分権を有しないために権利を取得できない場合には適応されるが、前主の制限行為能力や代理権の不存在など取引行為自体の瑕疵を知らなかった場合については、これを適用することができない。
（３）占有者は１８６条１項によってその占有の平穏・公然・善意が推定される。また、前主の占有は１８８条によって適法なものと推定されるのだから、前主を適法な権利者と信じて取引をすることには過失がないと推定される。したがって、善意収得者は、平穏・公然・善意・無過失のいずれの要件も自ら立証する必要はない。
（４）占有改定の場合には、真正所有者の占有吉に対する信頼は外形上も裏切られているとはいえないし、これによる善意取得を肯定すると二重譲渡担保の場合などに不当な結果を導くことにもなるから、占有改定による善意取得は認められない。
（５）指図による占有移転の場合にも、目的動産の所在等に変更がない点では占有改定と
同じだから、これによる善意取得を認めることはできない。

【論文問題】
　Ａは、Ｂに対して、自己所有の甲土地を売却し、引渡しおよび所有権移転登記をすませた。その後、Ａは、Ｂにだまされたことに気づき、詐欺を理由にしてこの売買契約を取り消して、甲土地を返還するようにＢに請求した。しかし、Ｂは、この請求を無視して、甲土地をＣに売却してしまった。甲土地をめぐる所有関係について、記述用解答用紙に記しなさい。

以上（択一問題、論文問題とも全問必答）