民法総論　近江先生

１．出題年度 2006　春学期
２．科目名　民法Ⅰ（総論Ⅰ）Ｂ
３．担当教員名　近江幸治先生
４．問題文

下記の２問中、１問を選択して論じなさい。

〔Ａ〕
Ａは、Ｂ女からギャンブルの負け金の支払いと覚せい剤・麻薬等の取引のためにお金を用立てて欲しいと言われたので、３００万円を高利で貸し付けた。しかし、期日までに返してくれなかったので、Ａは、賃金の代わりとしてＢ所有の甲土地を譲り受けた。
その後、この間の事情をよく知っていたギャンブル仲間のＣは、甲土地をＡから３５０万円で買い受けた。甲土地は１０００万円くらいの価値があったので、Ｂは、Ｃに対して返還を請求したいと考えた。Ｂ・Ｃ間の法律関係はどのようになるか。

〔Ｂ〕
「相対的無効」論について、なぜこの概念が必要なのか、その結果として、この概念はどのような内容を持っているのか、を論じなさい。

民法総論　近江幸治先生

2005年　二問中一問選択

【A】Aは、内戦の激しいアフリカに取材旅行に行ったまま音信不通となり、8年が過ぎた。妻Bは、Aが内戦に巻き込まれて死んだものと思い、また財産の管理をしなければならないことから、Aの失踪宣告を受け、A所有の甲土地を相続した。そして生活費に充てるため、その甲土地（1500万円）を知り合いのCに1000万円で買い取ってもらった。Cは、別に甲土地を欲しかったわけではないので不動産屋に1200万円で売却を頼んでいたところ、Bの隣人Dが、甲土地の買い入れを申し込んできたので1200万円でDに売却した。Dはもともと価値の高い甲土地に目をつけており、しかも旅行会社を経営している職業柄、Aがアフリカ滞在中にフランス軍外人部隊に入隊して紛争地域を転々としていることを知っていたので、Bに対してその買い入れを言い出せなかったという事情があった。ところがその数ヵ月後に、外人部隊を除隊したAが、突如として帰国し、自分が失踪宣告を受けていることを知ったのでこれを取り消し、Dに対して甲土地の返還を求めた。
　この場合、①AとC・Dとの関係はどうなるか②また、AがDから甲土地の返還請求が認められる場合には、その後の処理はどうなるべきか。（以上について、対立する考えがある場合には、その考え方を踏まえて論じなさい）

【B】Aの長男Bは、Aの実印を持ち出し、委任状を偽造して、A所有の甲土地（2000万円）を、Aに無断でCに1000万円で売却した。Cは、Bが実印・委任状などを持っていたことから、Aの代理人であると信じていた。その後、Aが死亡して、Bと次男DとがAを相続したが、Dは甲土地がすでにCに売却されていることを知り、Bに問いただしたところ、Aに無断で売却したことを白状した。そこでDは、Cに対して、甲土地の売却はBが無断で行なったものであり、相続人Dとしてはこの売買を追認しない旨を通知した。また、Bも、甲土地が2000万円以上の価値があることなどをDから説得されたため、自分もAの相続人として、売却を追認しない旨をCに通知した。
　この場合、B・C間の法律関係はどうなるか（判例、対立する考え方がある場合にはそれを踏まえて論じなさい）

１．2004年度（春期）
２．民法Ⅰ（総論）
３．近江幸治先生
４．【参考文献などの使用不可】

次の２問中、１問を選択して論じなさい。
〔Ａ〕　Ａは、約１０００万円くらいで別荘を建てる土地を探していたが、その買い付け方を、知り合いで土地勘のあるＢ（未成年）に頼んだ。Ｂは、いろいろと物件を探していたところ、Ｃが山林を売りたがっていたことを聞きつけ、その山林を現地も見ないで１０００万円で買う契約を締結した、ところが、その土地は荒廃した土地で別荘などを建てるところではなく、価格的にも約５００万円くらいのものであった。そのことを知ったＢの父親は、Ａから損害賠償を請求されることをおそれ、Ａ・Ｂ間での委任契約締結に際してＢが親の同意を得ていないことを理由に、Ａに対し、その委任契約を取り消す旨を通知した。この場合に問題となる法律的な論点を挙げて論じなさい。

〔Ｂ〕　Ａは、自分が経営する会社の財務状況が悪化したことにより債権者からの執行を免れるために、自己所有の土地を、知人Ｂ名義に移した。この土地にかねてから目を付けていた不動産ブローカーＤは、ＡとＢとが通謀してＢ名義に登記を移したことを知り、事情を知らない不動産屋Ｃに、Ｂからの土地購入話しを持ちかけ、Ｃは、Ｂを説得して１０００万円で当該土地を取得した。その後、Ｄは、Ｃからこの土地を１３００万円で購入し、その登記を経由した。この場合、Ａは、Ｄに対して土地返還・登記抹消を請求できるか。

＜参考条文＞
【第四条】　未成年者カ法律行為ヲ為スニハ其法廷代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但単ニ権利ヲ得又ハ義務ヲ免ルヘキ行為ハ此限ニ在ラス
　②前項ノ規定ニ反スル行為ハ之ヲ取消スコトヲ得
【第九十四条】　相手方ト通シテ為シタル虚偽ノ意思表示ハ無効トス
　②前項ノ意思表示ノ無効ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
【第百二条】　代理人ハ能力者タルコトヲ要セス
【第百二十一条】　取消シタル行為ハ初ヨリ無効ナリシモノト看做ス但制限能力者ハ其行為ニ因リテ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テ償還ノ義務ヲ負フ

2002年　二問中一問選択

①Aの妻Bは、Aの海外赴任中に、Aに承諾を得ることなく、A名義で高級外車を割賦払いで購入したが、Aはその事実を知らなかった。そしてBは、その代金を半分ほど支払ったところでAと離婚をした。そこで、自動車販売会社Cは、Aに対して残代金の支払いを請求してきた。Aはその請求を拒否できるか。

②Aは、自分が経営する会社の財務状況が悪化したことにより債権者からの執行を免れようとして、自己所有の土地を、知人B名義に移した。この土地にかねてから目を付けていた不動産ブローカーDは、AとBとが共謀してB名義に登記を移したことを知り、土地を探していた事情を知らないCに、Bからの土地購入話を持ちかけ、Bを説得して1000万円で売却させた。その後、Dは、数ヶ月たった時点で、2000万円でこの土地をCから購入し、その登記を経由した。この場合、Aは、Dに対して土地返還、登記抹消を請求できるか。

１９９８年度
次の２問中、１問を選択して論じなさい。
〔Ａ〕Ｂの運転する車にはねられたＡは、医療費等１００万円の損害を受けたが、事故から３年半が経過したときにＢに早く１００万円を支払うよう請求した。Ｂはさしあたり手持ちの金がないので、親類から借金しようと考え、「２週間以内に必ず支払いますからそれまで待って下さい」旨の念書を差し入れた。その後、Ｂは、事故から３年以上経過していることに気づき、Ａの損害賠償請求権は時効によって消滅しているから、支払わないとＡに伝えた。この場合の法律関係を論じなさい。
〔Ｂ〕Ａは別荘を建てる土地を探していたが、その買い付け方を、土地勘のある知り合いＢ(未成年者)に頼んだ。そこで、Ｂは、Ｃからその所有山林を買う契約を締結した。ところが、その土地は荒廃した土地で別荘などを建てるところではなかった。そのことを知ったＢの父親は、Ａ・Ｂ間での委任契約締結に際し、Ｂが親の同意を得ていないことを理由に、Ａに対し、その委任契約を取り消す旨を通知した。この場合に問題となる法律的な論点を挙げて論じなさい。

1995年　二問中一問選択

【A】Aの息子Bは、Aに無断でA所有の土地をCに売却する契約を結び、その代金を受け取った。その後、Aが死亡して、BがAを相続したが、Bは、土地の価格が急騰したのでその土地を手放すのが惜しくなった。そこでこの土地売却がそもそもAから頼まれたものではなかったことを理由として、追認しないと主張し、土地の譲渡を拒絶した。この主張は認められるか。

【B】飲み屋の店主Bは常連の客Aにツケの飲み代を早く払うように勧告したところ、Aは、必ず払うから一週間待って欲しい旨の念書を入れた。ところがその飲み代は一年以上前のものであり、そのことを知ったAは、飲み代は消滅時効にかかっているから払わないと主張した。この主張は認められるか。

【95年の<B>の模範解答】

<テーマ>
時効完成後の債務の承認と時効利益の損失

<答案の流れ>
①問題提起……時効完成後、完成を知らずに債務の存在を承認した場合、あらためて時効を援用できるか。
②時効の完成を知っていたと推定する考え方を紹介←批判する
③自説を主張←理由付けをしておく
④結論・あてはめ

<模範解答>
１．本件では、時効完成後、完成を知らずに債務の存在を承認した場合、飲み代支払いの債務者Aはあらためて時効を援用できるかが問題となる。
２.確かに時効の援用を封じるために時効の完成を知っていたものと推定する考え方もある。
　しかし、完成後に債務を承認する場合は時効完成の事実を知らないのが通常であるためこのような推定は合理性を欠く。
３.よって、この承認は146条の「放棄」にはあたらないものと解する。同条の放棄とは、時効完成後に行なう、時効利益を享受しないという積極的な意思表示と解され、時効の完成を知って行なうことを前提とするからである。
　加えて、この場合に改めて時効の援用を認めることは、債権者の期待を裏切ることになる。時効完成後に債務者が念書を書いて債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であるし、相手方においても、債権者はもはや時効の援用をしない趣旨であると期待するだろうから、援用を認めることは信義則（1条2項）に反する。
　思うに、「放棄」と「喪失」とは、利益不享受の論理が違うわけであって、前者はその積極的な意思表示であるのに対し、後者は、信義則によってその権利行使が否定されるものである。したがって、放棄に準じて扱うのではなく、援用権行使が否定されるとする解釈が正しいものであるといわざるを得ない。
４．したがって、時効完成後に債務を承認した以上、債務者がその事実を知らなかったとしても時効利益を喪失し、援用は許されないと解する（判例同旨）。
　よって本件事例において、債務者Aの主張は認められない。

1991年　三問中二問選択

A.相対的無効論とは何か。
B.表見代理規定と無権代理規定の適用関係について。
C.時効利益の喪失について